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第二十七話 酔っ払いの末路

お疲れ様です。


本日は二話連続投稿になります。


それでは御覧下さい。




 祈りの舞い、そして宴を終えた者達は家路に着き静寂に包まれて心地良い眠りへと誘われる。


 腹も満たされ酒の美味さに酔いしれた体は、それはもう格別な眠りへと昇華する事だろう。


 我々も心地良い睡眠を享受する為の身体的条件は満たしている。私の部屋は六名の女性の安らかな寝息のみが響くかと思い来や。それとは真逆で、睡眠を多大に阻害する音が深夜だというのに鳴り響いていた。



「ま――だ飲んでいるのかよ」



 端整な顔を顰め、宙を睨みつけるユウが厳しい声を放つ。



「広場の連中の音はまだマシ。隣の部屋、何で酒を飲むだけであぁも盛り上がれるのよ……」



 マイが龍の姿のまま耳を塞ぐ。


 それもその筈。



『レイド!! 飲め飲め!!』

『あはは!! 頂きま――すっ!!』

『よぉ!! 兄ちゃん、良い飲みっぷりだな!!』



 主を含んだ数名の里の男性が家の中で父上と酒を酌み交わし、楽し気な雰囲気が声に乗って耳を塞ごうが否応なしに鼓膜へと伝わって来るのだから。


 楽しむのは構わないと思う。


 主は与えられた任務を達成し、父上達は我々の舞いと結果はどうあれ我々の成人の儀式の達成を喜んでいるのだから。


 しかし……。


 酒の席に主を同伴させ、しかも浴びる程の量を呑ませるのは如何なものか。


 数日後には王都へと向かい此処を発つのだ。


 出来るだけ疲労は拭い去っておきたいというのに……。



「もう……。五月蠅いなぁ……。私ちょっと行って来るね!!」



 辛抱の限界を迎えたルーが狼の姿でむっとした表情を浮かべて立ち上がる。



「酔っ払いの席よ。気を付けなさい」


「大丈夫だって――」



 マイの言葉を受けて背中越しに憤りを放ち。いつもより大股で部屋を後にした。


 一人で大丈夫だろうか。


 奴は人に対して強く言えない軟弱な性格だからな……。


 夢の世界からの招待状を受け取る為、私は我が半身を見送ると静かに横たわった。









 ――――。



「レイド!! この肉もいけるぞ!!」


「はむっ!! …………。うん!! 美味しいです!!」



 今食べたのは本当に肉なのかな??


 しょっぱいから多分お肉でしょう。


 お酒の効果が体全体に巡ると視界がぐるぐると回り、里の皆さんそしてネイトさんの姿が歪む。



 街中で酒を提供するお店から零れて来るあの五月蠅い声。




 酒を嗜まない俺にとって何がそこまで彼等を高揚させるのかと常々疑問に思っていたが。


 成程、お酒は確かに楽しいものだ。


 沸々と湧く高揚感と正体不明の陽性な感情が心を占めて口角が強制的に上向きにされてしまう。


 口からは何故か笑い声が放たれ、日頃の疲れも酒の効果が消し去ってくれる様だ。



 うふふ……。それと。



「ぶはぁっ!! うっめぇ!!」


「だろう!? 普段はカミさんに監視されて馬鹿みてぇに飲めないけど。今日は別だからな!!」



 この筋肉と雄の祭典がより酒の効果を高めているのでしょう。


 彼等の重厚な筋肉から放たれるもっわぁぁっと、そしてムワァっと漂う雄の香。正に此処は雄の為の場所だといっても過言では無いでしょう!!


 グビっとお酒を口の中に放り込み、胃の中から酒の香を解き放つと。



「お父さん!!!! 私達寝てるんだから、もうちょっと静かにして!!!!」



 なんだかこの場に相応しくない女々しい声が届いた。



 ん――?? この声は……。



「お――。すまんな!! 我が娘よ!!」


「ルーちゃん元気そうだね!!」



 あ、ルーか。


 雄の楽園に入って来た灰色の狼さんの姿をぐにゃぐにゃの視界が辛うじて捉えた。



「うっ!! お酒くさっ!!」



 俺達の肉体から放たれる雄の匂い、そしてコップから放たれる酒の香りを受け。大変顰めた声で口を開く。



「すまんな!! レイドと交わす酒が美味くて……。ぷはぁ!! 止められぬのだ!!」


「も――。お母さんに怒られるよ??」


「ははは!! ファールはもう床に着いた。怒られる心配はらい!!」


「レイド――。あんまり飲んだら明日動けなくなっちゃうよ??」



 たふたふと、ふわふわの毛が俺の足を叩く。



「動けない?? らんで??」


「何でって。ほら、頭痛とか気持ち悪さ、とか??」


「そんなもろ!! この体には効きません!!」



 勢い良く立ち上がり、両腕で力瘤を作ってやった。



 ふふ!!


 どうですか!? 里の皆さん!! 頑張って鍛えた体を是非とも御覧下さいっ!!



「ほぉ……。これは中々……」


「だが、長には程遠いなぁ……」



 くっ……!!


 やはりネイトさんの足元にはまだまだ遠く及ばずか。



「そうですよね。どうせ、自分は軟弱で、貧弱で、虚弱ですよ……」


「そんな事ないって――。レイドは頑張っているよ??」



 今度は柔らかい毛が肩を叩いてくれる。


 モコフワな毛が俺の傷ついた心をそっと癒してくれた。



「ル、ルー……!! おまえって奴は……」


「ん?? なに??」


「何て優しい奴なんだぁぁああああ――――っ!!」


「やぁぁああ!! お酒臭い――――!!!!



 嫌がる狼さんの首へ腕を回して体をがっちり固定。そしてふもふもの横顔にこれでもかと頬ずりをしてやり、惜しげも無く愛情を振り撒いてやった。


 あぁ、柔らかくてフワモコだぁ。


 ルーの横顔ってこんな柔らかくて気持ち良かったっけ??



「はは!!!! いいぞ!! そのまま組み伏せてやれ!!」


「了解しました!! 行くぞ!! ルー!!」


「お酒臭いし!! あっつい!! どいてぇ!!」



 ちぃっ。逃げられたか……。逃げ足の速いワンパクな狼め。


 もっとモフモフしたかったのに……。



 ピスピスと女々しい鼻息を放ち去って行く狼を見送り、再びお酒をグビリと口の中に迎えてあげた。










 ――――。




「………………。はぁ――、酷い目にあった」



 自分の部屋に着くとほぼ同時に溜息を放ち、先程まで私が丸まっていた場所でコロンと寝転がる。


 うぇっ。


 私の毛にお酒の匂いが染み付いちゃったよ……。



「ちょっと、ルー。何がありましたの??」



 アオイちゃんが蜘蛛の姿で天井から糸を伝って器用に降りて来た。



「上にいたんだ。あのね…………。酔っ払ったレイドに頬ずりされて、無理矢理押し倒されそうになった」



「「「ブハッ!!!!」」」



 私を除く四人。いや、カエデちゃんもかな??


 私の声を聞くと部屋にいる人達全員が盛大に吹いた。



「な、な、な、何ですって!?!? 私のレイド様にほ、頬ずりを!?」


「うん。お酒臭かったから止めて?? って言ったのに無理やり……」


「む、無理矢理!? こうしてはいられませんわ!! 私も、是非レイド様と素敵な一時を……!!」



 アオイちゃんが人の姿に変わり颯爽と部屋から出て行ってしまう。


 う――ん。大丈夫かなぁ??


 男臭かったし、それにお酒の香も強烈だった。あの部屋に居るだけでお酒に弱い人は気分が悪くなっちゃうよ。



「アイツ……。相当酔っ払ってるわね」


「仕方ないだろう。宴会の席だし。あたしはそろそろ寝るよ。おやすみ――」



 ユウちゃんがそっと目を閉じて大きく呼吸を始めた。


 こんな五月蠅いのに良く眠ろうと出来るなぁ。感心しちゃうよ。


 でも、そろそろ寝ないと明日に響きそうだし……。


 私も頑張って寝ようかな。



「ねぇ――。ユウちゃん。どうやったら眠れるかなぁ??」



 仰向けの姿勢でキチンと毛布を被っているユウちゃんのお腹をポンポンと叩く。



「ん――……。今日あった楽しい事を思い返せばその内眠くなるさ」


「おぉ!! それは良い考えだね!!」



 早速やってみよう!!


 ユウちゃんの隣で丸まり、今日あった楽しい事を頭の中で思い浮かべてみた。



 えぇっと……。レイドとお話してぇ、んで皆ともいつも通りワイワイ素敵な会話を続けた。


 どれも素敵で楽しい事だけどやっぱり一番は……。祈りの舞いの時。


 レイドと目が合うと自分でも驚く程に心臓がキュゥってなった事かなぁ。恥ずかしさを誤魔化す為に片目を瞑ったけども……。



 あの時のレイドの顔。


 私に見惚れている感じだった!!



 ウ゛――。不味いよ。


 思い出したら体が熱くなってきちゃった。



「――――。ねぇ、ユウちゃん」


「何」


 声、つめたっ。


「楽しい事想像してたら楽しくなって。逆に眠れなくなっちゃった……」


「じゃあ今度は悲しい事考えろよ」


「悲しい事が無かったらどうすればいいのかな??」



 可愛い御顔をタフタフと叩いて問うと。



「しらねぇし!!!! あたしは猛烈に眠たいんだから放っておいてくれっ!!」



 毛布の中に潜っていってしまった!!



「酷いよ!! 一人だけ気持ち良さそうに眠ろうとして!!」



 その毛布の中に頑張って鼻を捻じ込み、思いの丈を放つ。



「だ――!! 入ってくんな!!」


「うるせぇぞ!! 阿保狼!! 私もねむてぇんだよ!!」


「皆が私を置いて眠るのは卑怯だもん!! 私も眠りたいの!!」


「「喧しいっ!!」」



 ユウちゃんとマイちゃんがお叱りの声を放ったので渋々引き下がろうとしたけども。


 このままでは絶対眠れないと考えた私はユウちゃんの毛布の上に覆いかぶさり。彼女の体から放たれる優しくて素敵な匂いが眠りに誘ってくれる事を願って無理矢理目を閉じた。










 ――――。



「失礼しますわ……」



 雄達の楽し気な声の中に清涼な女性の声が静かに響く。



 む?? この声は……。



「アオイ、か??」



 視界が定まらない目を細めて声の方を見ると……。


 朧げに白く美しい髪と、黒の着物が見えて来た。



「そうですわ!! レイド様っ」



 その白が隣に座ると俺の腕をきゅっと抱き寄せる。


 ん――……。


 もふもふしないなぁ。



「アオイ……。そうか、フォレインの娘か」


 ネイトさんが少しだけ硬い言葉を放つと。



「はい。蜘蛛族のアオイ=シュネージュ=スピネと申します」



 俺の腕をするりと放して嫋やかに頭を垂れた。


 こういう所はフォレインさんやシオンさんの指導の賜物ですね。是非とも御二人に見せてあげたい光景ですっ。



「ささ、レイド様。お酒を……」


「うむっ」



 ネイトさんに挨拶を終えると、此方にお酌を勧めて来るのでコップを差し出してやる。



「……。とと」


「さぁ、御飲みください。私が注いだお酒は格別な味が致しますわよ??」


「ん…………。ふぅ!!」



 言われるがまま、燃える熱さの酒を一気に胃へ流し込んでやった。


 おぉ――。アオイが話す通り、酒の味が増した気がするね!!


 美人が御酌するのはこの為だったのか。勉強になりました!!



「まぁ!! 良い飲みっぷりでございますわね!!」


「お姉ちゃん!! こっちにも注いでよ!!」


「そうそう!! 美人にお酌されたら言う事ないや!!」



 方々で黄色い声が上がる。


 アオイの美しさがそうさせているのだろう。



「それでは失礼しまして…………」



 左腕に感じていた柔らかさが去ると、白い髪が里の雄達へと酌を始めてしまう。


 むぅ!!


 俺にも注いでよ!!



「アオイ!! 戻って来なさい!!」


「は、はいっ!!」


「俺のお酒は!?」



 駄々をこねるように言ってやる。



「こちらに御座いますわよ――??」


「ん!! 早くっ!!」



 皆に御酌して……。アオイは俺にだけ御酌すべきなのだからね!!



「はいはい。甘えん坊さんですわね」


「ふんっ!! …………。旨い!!」



 美人にお酌されるとこうも味が変わるものなんだなぁ。


 ずぅっと飲んでいられそうだよ。



「でも、私は嬉しいですわよ?? 甘えて下さって」


「そう?? じゃあアオイもお酒飲んで!!」



 飲みかけのコップを渡してやる。



「お酒は得意ではありませんが……。レイド様に勧められては断れませんわ。一口頂きましょう」


「おう!! ぐいっといけ!! ぐいっと!!」



 着物の袖を摘まみ、悪戯に振りながら言ってやった。



「……っ!!!! ゴホッ!! な、何ですの!? これ!?」


「あはは!! 引っ掛かったぁ!!」


「強過ぎるってものじゃ……。あ、駄目ですわ……」



 ふらふらと体が揺れ出し、そのまま俺の足を枕代わりに眠ってしまった。


 何だよ――。


 もう寝ちゃったのかぁ。つまらないな。



「まだその者には早かったようだな!!」


「そうですね」



 ふわふわしないけど……。


 何か良い匂いがするな。



「レイド、その者を部屋へ運んでやれ」


「わらりました!!」



 重い腕の筋力を総動員してアオイを抱えて立ち上がるが。



「うおっとぉ……」



 平衡感覚が定まらない体では彼女の体を落とさぬ様にするだけで精一杯であった。


 大分頼りない足取りで一人の女性を運ぶのは困難を極めそうだ。



「はは!! 落とすなよ??」


「了解しました!!」



 歪んだ地面の上をふらつき、千鳥足でルー達の部屋へと向かう。



「失礼しま……。あれまぁ、皆ねてら」



 部屋に充満するのは雄の香では無くて、雌の香か……。


 これはこれで物凄く良い匂いだ。



「アオイは、ここでいっか」



 ユウの隣に寝かせ、踵を返そうとすると何かに足を引っ掛けてしまった。



「わっ……。ん――眠い…………」



 絨毯の上に転がると途端に眠気が襲って来る。


 だ、駄目だ。


 目を開けていられない。


 俺の意識を夢の住人が強制的に刈り取り、夢の世界へと誘う。


 このまま委ねちゃおっと。


 何だか……。


 すんごい良い匂いするし。


 目を瞑り、素敵な匂いに囲まれながら襲い掛かる猛烈な眠気に身を委ねて眠りに就いた。











 ――――。



 ん……??


 喧しさも陰りを見せ、漸く眠りに就けたと思ったのに。私の体に酒の香が纏わり付き心地良い睡眠を阻害してしまった。



 一体誰……。



「…………。あ、主!?」



 重い瞼を開けた瞬間、主の顔が目と鼻の先に広がり心臓が飛び上がりそうになった。


 しかも上半身は酔った勢いのまま剥き出しの状態。


 酒の匂い、汗の匂い、そして……。男の匂いが私の体温を一気苛烈に沸騰させてしまった。



 よ、酔っ払ってこの部屋に入って来てしまったのか??


 父上達の部屋からは宴の声は聞こえて来ないので恐らくそうかとは思うが……。


 蟻の足音さえ聞こえてしまいそうに静まり返った部屋。


 己の心音が外にまで飛び出てしまうのではないかと心配してしまう程に五月蠅い。


 その拍動を必死に宥めつつ彼の寝顔を眺めていると。



「んん……」



 何を思ったのか。


 私の体を強烈な汗の匂いが漂う胸元へきゅっと抱き寄せてしまうではないか!!



『ちょ、ちょっと!! 駄目だ!!』



 周りの者を起こさぬ様に腕を突っ張り、精一杯の抵抗をみせる。


 狼の姿ならまだしも、今は人のまま。


 恥ずかしくて頭がどうにかなりそうだ。



「…………。ん――ん」


『だ、駄目……。ひぁっ!!』



 主が私の腰に腕を回して、より強固に互いの体が拘束されてしまう。


 見上げれば主の寝顔、視線を正面にむければ咽返る程の男の香り。


 さて、どうしたものか……。



「んふふ。もふもふ……」


『ち、違う!! そこは!!』



 腰から下へ手が回り、私の心が沸騰してしまう。


 どこを触っているのだ!!



「ん――。こっちの方がいい……」



 そして今度は頭を撫で回す始末。


 金輪際、主には酒を飲ませるべきでは無いな。


 酔い方が悪過ぎるぞ!!



「へへ……。良い匂い」


『…………っ!!!!』



 私の髪に顔を埋め、荒い鼻息が当たり何とも言えない感触を与えて来る。


 このままでは私の心臓が過労死してしまうので、自分がどれだけの愚かな行為を行っているのか知らせてやるか。


 それにその……。私も本当にイケナイ気分になりかけてしまっているのでな。



『主!! いい加減に…………』



 この愚か者を起こしてやろうと考えて顔を上げたのが不味かった。



「……」



 主の顔が本当にゆっくり、そう。東から朝日が昇る速さで私の顔に迫って来る。



「え?? へっ!?」



 突然の出来事に狼狽え、驚くべき速さで瞬きを繰り返す。


 これは、夢では無いよな??


 主の姿が瞬き一つの間に消えぬかと考えていたが、どうやら現実のようだ。


 刻一刻と私に迫る顔がそれを証明していた。



 どう……しよう。


 このまま、受け入れても……いいの、かな??


 いやいや!! 主の思考は凡そ真面では無い。


 しかも、今は寝惚けている。


 でも……。一度くらいなら……。


 あぁ!! くそう!! 真面に頭が回らん!!



 私の顔に迫る主の顔、それを受け止めようとする私の女の心。そして、このままではいけないと理性が必死に働き混乱の極致へと至った私は……。






「――――。やはり、駄目だ。こういう事は正常な思考の時にしてくれ」



 狭い空間から腕を伸ばし、主の顔をそっと手で押し返してやった。



「ん……」



 すると、腕の拘束を解き。そのまま寝返りを打ち大きく肩で呼吸を始めた。



「はぁ…………」



 今の行動が恐らく正解だろう。主も私と同じ立場ならそうした筈。


 うん、きっとそうだ。


 でも…………。勿体無い事をしたかな。



「――――。リューヴ」


「ギャッ!! …………、カエデ。起きていたのか??」



 私の背後から澄んだ声が届いたのでそちらへ寝返りを打つと。



「何となく目が覚めました」



 微睡む藍色の瞳が私の顔を確と捉えていた。



「そ、そうか」



 良かった……。流れに身を任せないで。



「レイド、酔っ払っていますね??」



 カエデが上体を起こして私越しに主の醜態を見つめる。



「この部屋は不味い。里の出入口に設置してある主の天幕へ運ぶか??」


「そうしましょう。手伝いますよ」


「うむ。主、運ぶからもう少し頑張ってくれ」



 そっと一声かけ、主の両脇から二人の肩で彼の体を支えて歩み出す。



「重たいな……」


「無意識の人を運ぶのは、重労働ですね」


「う――。寝る――」


「はいはい。もう直ぐですよ??」


「主、もう一息だ」



 寝惚ける声に答えてやる。



「えへへ。もうすぐかぁ……」


「…………。そこは駄目ですっ!!」


「ぎにゃぁああっ!!!!」



 カエデのどこを触ったか知らんが、主の体の中に稲妻が疾走していく。


 幸い、私は雷の力に耐性があるので多少ピリッときた位だが。


 人の身で受けようものなら重傷は免れないのでは??



「ふぅ。これで大人しくなりました」


 頬を朱に染める海竜が話す。


「どうかしたのか??」



 焼け焦げた髪の毛から燻す匂いを放つ主の横顔を見つめて尋ねると。



「…………いえ。別に」



 細く頼りない腕で胸元をきゅっと抑えた。



「はぁ……。カエデ、主は酔っ払っている。多少の事は目を瞑ってやれ」


「誰だって胸を鷲掴みにされたらこうもなりますよ」



 むぅっと唇を尖らせ、再び焦げた物体を運び始めた。


 全く……。


 父上と母上には一言言っておかないと。金輪際主には酒を飲ますなと。


 だが、ふふ。


 両親は主の事を大層気に入ってくれた。


 良かった……。主を、そして皆を里に連れて来て。


 焦げ付いた髪と土で汚れて変わり果てた主の体を見ながらそんな事を考えていた。




お疲れ様でした。


引き続き編集作業に取り掛かりますので、次話の投稿は日付が変わる頃の時間帯になるので今暫くお待ち下さい。

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