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第二十話 雷狼の戦士達 その二

お待たせ致しました。


後半部分の投稿になります。


それでは、どうぞ。




 体内から迸る烈火の闘志によって体温が上昇して、熱を冷まそうと呼吸する回数が自然に増加する。


 傷だらけの体、左肩の出血痕、更に荒い呼吸。


 傍から見れば立って居るのも辛そうな重傷患者に見えてしまうだろうが。


 漲る闘志が左肩の激痛を忘れさせ、四肢の疲労をも感じさせないでいる。


 この闘志は目の前に立ち塞がる敵を倒す為に燃え上がっているのだ。



 そう……。


 黒の戦士を倒してこの森を……。リューヴ達が愛する家族を守る為に闘志を燃やすのだ!!!!



「レイド様!! 来ますわよ!!」



 アオイの大きな声が響くと同時。



『ウグゥゥガアアアア!!!!』



 怨嗟、憎悪、憤怒。


 黒の戦士が負の感情をこれでもかと籠めた雄叫びを上げて己の鼓舞すると、結界を解除して俺に目掛けて襲い掛かって来る。



「よし!! 来い!!」


『ガァァアッ!!』



 黒の戦士が漆黒の長剣を袈裟切りの要領で振り下ろす。


 コイツの間合いは此処から更に伸びる恐れもある!! 迂闊に下がるのは愚策!!


 つまり……。


 前だ!! 活路は前にあるんだ!!



「くっ!!」



 全脚力を解放してたった一歩で黒の戦士の懐へと到達。


 今まで痩せ我慢していた所為か。


 右足の筋力が突如として悲鳴を上げた。



 だが!! 此処で泣き言を言っている場合では無い!!


 絶好の勝機じゃないか!!



「食らぇぇええ――!!!!



 第二段階ニューフェイズを発動させ、渾身の力を込めた右の拳で黒の戦士の胴体を穿つ。



『カハッ!?!?』



 これまでの攻撃が蓄積された装甲を貫き、右の烈拳が心地良い感触を捉えた。


 そして、くの字に折れ曲がった姿勢により。人体の弱点である顎が絶好の位置へと下がって来る。



 刹那。


 師匠との組手が脳裏に浮かんだ。



『いいか?? 自分より大きな相手をする時のコツじゃが』


『あの、申し訳ありませんが。自分のお腹の上から退いて頂けますか??』


『嫌じゃ!! ここは儂の特等席なのじゃ!!』



 間違えましたね。これよりもう少し後でした。




『自分よりデカい相手の顔を殴っても大して効果は得られん』


『どうしてです??』


『伸び上がった体では、相手の顔に対して強く拳を打てぬであろう??』



 下腿三頭筋をピンと伸ばして、背伸びの姿勢で拳を打つ姿勢を見せる。



『あぁ。成程……』


『そこで、じゃ。拳より効果的な攻撃方法はずばり……』


『ずばり??』


『これじゃよ……』



 そして、今度は左足を軸に惚れ惚れしてしまう上段蹴りを放って頂けた。


 良く考えれば腕の筋力よりも足の方がその積載量が桁違いなのだ。つまり!! 殴るよりも蹴る方が威力は強い!!


 馬鹿みたいな単純な計算なのですが、師匠の蹴りを食らったこの身はそれを証明しているのですよ。



 師匠。


 ご指導ご鞭撻のほど有難う御座います!!


 受け賜わった数々の指導を披露させて頂きますね!!



 さぁ……。


 極光無双流の一撃、その身を以て受け止めてみやがれ!!



桜嵐脚おうらんきゃく!!!!!!!!」



 疲労の残る右足で大地を蹴って宙に舞い、決してぶれない体の軸を回転させて遠心力を発生。


 目まぐるしく風景が回り続け、体が流れそうになるが歯を食いしばりそれに耐えた。



 もっと……。もっとだ!!


 龍の力を更に解放、右肘までに熱さが駆け昇って来るが……。此処で出し惜しみは駄目だ!!


 全力を出し尽くす!! 一撃で決める!!


 歯を食いしばり回転に耐え、右脚に全神経を集中させた。



「だぁぁああああ――――!! ずぁぁああああっ!!!!!!」


『ゴブッ!!!!』

 


 手応えあり!!


 右足の甲に堅牢な感触を確かに感じて華麗に地面へ……。



「あいだっ!!」



 いかんな、着地が今一だ。


 回り続けるのには慣れて来たけど、その勢いを受け止める姿勢が良くない。


 もっと鍛錬に励みましょう。



「ふぅっ!!」



 奴からの反撃を予想して素早く立ち上がり構えるが。



 …………。あり??


 奴はどこだ??



 先程まで目の前にいた黒の戦士の姿は見当たらなかった。地面に叩き付けたんじゃないのか……。



「レイド様!! 素晴らしいですわ!!」


「あ、うん。ありがとう。黒の戦士は??」


「あちらで御座いますわよ??」


「へ??」



 黒の影は遥か彼方。


 開いた空間の外周沿いの木に打ちつけられ、重力に引かれて巨躯が地面に倒れ込むと。此処まで届く重低音を響かせた。



 我ながら頷けるほどの威力に感心しそうになってしまうが。


 師匠にはまだまだ遠く及ばない威力に気持ちを引き締め、追撃に向かおうと足に力を込めた。



「あぁ……。何て逞しい御体……」



 しかし、追撃は叶わず。


 蜘蛛の御姫様が体の真正面にピタリと寄り添い、細く白い指を体に這わせて通せんぼをしてしまった。




「ちょ、ちょっと!! 戦闘は継続中ですよ!?」


「これで良いのですわ。ほら、地面の影が消失してしまいましたし」



 彼女の声を受けて大地へと視線を送ると……。


 本当だ。


 漆黒の影は消え失せ、代わりに寂しい茶の色が地面一面に広がっていた。


 恐らく蓄積された攻撃が奴の魔力を削ったのだろう。



「だ、だけど。あいつはまだ消失して……」


「あんっ。動かないで下さいましっ。レイド様は今からアオイが癒すのですっ」



 横着で物凄く良い匂いがする柔肉を押し退けようと、四苦八苦していると。



『――――。グゥ、ガッ』



 奴が立ち上がる姿を視界が捉えてしまった。



「ア、アオイ!! アイツ起きたって!!」



 黒の戦士の姿を捉えたまま、無理矢理肩付近を掴んで離そうとするが。



「あんっ!! そこは駄目ですわよ?? 昂ってしまいますの……」



 フニフニと柔らかく、そして生温かい感触が左手に広がってしまった。



「ご、ごめん。じゃなくて!! 退きなさい!!」


『グ……。アアアアァァアア!!!!』



 黒の戦士が雄叫びを上げると、漆黒の眼窩に憎悪の火が灯る。



『フゥ……。フゥゥウウ!!!!』



 右手に剣を宿すと、どういう訳か。俺に目標を定めて大きく振りかぶるではありませんか。


 おいおい。まさかその剣を投げるつもりじゃないだろうな!?



『ガァッ!!』



 悪い予感はズバリ的中。


 漆黒の剣が放たれると空気を壁を鋭く切り裂き恐ろしいまでの速さで襲い来る。



 到達予想地点は俺の正中線。


 つまり、此方に体を預けるアオイの背を貫いてしまうのだ。



 そうはさせるか!!



「アオイ!! 危ない!!」


「キャッ!!」



 左手でアオイの体を強引に引き剥し、龍の力を宿す右腕を前に差し出した。



「ぐぅっ!!」



 漆黒の剣が肉を突き破り、生温かい感触が腕を伝う。


 くそっ。直撃か……。



「レイド様!! 大丈夫ですか!?」


「な、何とか。いてて……」



 漆黒の剣を引き抜くと、傷口から大量の血が溢れ出して地面を穢す。


 こりゃ重傷だな。この腕で弓、引けるかな??



「お、お、おのれぇ!! 私の幸せの時間を奪うばかりか、よくもレイド様を傷付けましたわね!?」


「いやいや、アオイが油断しなきゃ怪我はしなかったよ??」



 自分の事を棚に上げるものだから、直ぐに訂正してやった。



「ゆ、許しませんわ!!!!」



 お嬢さん聞いていますか??



 体から立ち昇る魔力の波動で周囲の空間が湾曲する。


 そしてそのまま、マイ達と激戦を繰り広げている黒の戦士へと大股で向って行ってしまった。



「お化け擬きがいなけりゃこっちのもんよ!! どぉぉおおりゃぁぁああ――!!」


「その黒い影……。叩き壊してやるよぉぉおお!!」


『ウググ……』



 マイ、ユウが絶え間なく攻撃を与え続け。



「たぁぁああ!!」

「はっ!!」



『ゴフッ!?!?』



 ルーとリューヴの息の合った拳の雨が奴を後退させた。



「炎よ……。嵐よ……。紅蓮の炎で貴方の魂を滅却させて頂きますわ!! 紅蓮絶風螺旋嵐ぐれんぜっぷうらせんらん!!!!」


「どわっ!!」



 アオイが宙に美しい輝きを放つ魔法陣を浮かべると猛烈な風が渦巻く竜巻が黒の戦士を襲う。



「おわっ!!」



 そしてその風圧を受けたユウの体がふわりと後方へ弾き返されてしまった。



『ガァアアァ!!!!』



 螺旋の旋風の中に風の刃が乱反射して黒の戦士の分厚い装甲を、目まぐるしい速度で傷付け剥し。


 周囲の木々を薙ぎ倒す風圧で巨躯が徐々に浮かび上がって行く。




「さぁ……。その身を焦がして差し上げますわ!!!!」



 彼女が指を鳴らすと渦巻く竜巻の足元から紅蓮の炎が巻き起こり、旋風に吸い込まれ。旋風は紅蓮の炎の嵐と変わり肌を焦がす豪熱を周囲に撒き散らした。



「あっつ!!!! おらぁ!! だからよく見て打てって言ってんだろうがぁぁああ!!」



 二度目の流れ魔法を食らいそうになったマイが堪らず叫ぶ。


 まぁアイツの気持ちは理解出来なくもない。


 あんなべらぼうな魔法を食らった日には命が無いだろうからね……。




『ギャァアア――――!!!!』


「ウフフ……。アハハハハ!!!! お似合いですわよ!? その無様な姿!!」



 身動きが取れない竜巻に捕らわれ、灼熱の炎に焼かれ、鋭い風の刃に身を切られる。


 息を飲んでこの凄惨な現状を見守り。


 そして炎の嵐が収まると、黒の戦士は両膝を地面に着き漆黒の影からは白く濃い蒸気を発していた。



 コ、コイツ。


 これでもまだ倒れないのか!?



『グッ。アァッ!!!!』



 震える足に喝を入れて、両手に剣を携えて再び俺達と対峙するが……。


 見上げんばかりの巨躯は俺と変わらぬ体躯まで縮み、微かに揺れ動く四肢が俺達に間も無く勝利が訪れるだろうと予感させた。




「見上げた耐久力だな。だが……。此処で決める!! 行くぞ!! ルー!!」

「分かったよ!!」



「「はぁぁああ――……!!」」



 雷狼の二人が丹田に力を籠めると魔力が高まり、彼女達が放つ魔力が陽炎の如くゆらりと空気を揺らす。



「立ち塞がる者、全てを無に還せ!! 漆黒の稲光よ、我に宿り従え!! 漆黒シュバルツフェアトラーク!!!!」


「迸る閃光、我に降り注ぎ敵を打ち破れ!! 白輝憑依グランツターグン!!!!」



 漆黒の稲妻と白き稲光が二人に降り注ぎ、美しい双雷を身に纏う。


 肩口から漆黒の稲妻が迸ると乾いた音を奏で、白き稲光が左の鉤爪に宿れば武に身を委ねる者さえも慄く事だろう。



『グッ……』



 迸る二人の魔力の波動を受けて黒の戦士が初めて攻撃を躊躇する姿を見せた。



「行くぞ!! ルー!! 私に合わせろ!!」

「リューが合わせてよ!!」


「喧しい!!」


「「はぁぁああ――っ!!」」



『グオォアォァオォ!!!!』



 二人の豪拳の連打が腹部を捉えると漆黒の体の表面に稲妻が迸り。拳の力のみならず、継承召喚と魔力の合一した力の波動に影が剥がれ落ち。



「「だあああ!! でやぁっ!!」」


『ガッ!!!!』



 無防備となった頭部へ、美しい雷を纏った烈脚が見事に突き刺さった。



『ア……。ァグ……』



 二人の合一した武の結晶を真面に受けた黒の戦士が踏鞴を踏み、力無く片膝を地面に着けた。



 勝機到来!!


 二人共!! 決めるなら此処だぞ!!



「此処だ!!」

「うんっ!!」



 白と黒の稲妻を身に纏う二人が空高く飛翔。


 空中で背を合わせると、足先に雷を集中させ天からの雷撃を体現した。



 おぉ!!


 ミルフレアさんに放ったあの大技だな!!



「「迸れ!!!! 双雷ツヴァイブリッツ戦士クリーガー――!!!!!!!!」」


『ガ……。アァアァアアアア!!』



 最後の抵抗か。それともあの大技を受けて反撃するつもりなのか。


 黒の戦士が両手を前に掲げて結界を展開させた。



「…………。残念ですね。そうはさせませんよ?? 光よ、その波動で綻びを生みなさい。強制解除フォースリリース!!!!」



『!?!?!?』



 カエデの放った光が結界を包む。


 すると、淡い光の結界が消えて黒の戦士は驚きを隠せないでいた。



 そりゃそうだ。


 防御の為に展開した魔法が打ち消された訳だし。



 そして、この絶好機を見逃す程。雷狼の子孫は甘くは無いぞ!?



「「はあああぁぁあ!! だぁぁああああ――――ッ!!」」



 天から降り注ぐ二つの雷が黒を貫通して地面へと華麗に着地。



 数舜遅れ、鼓膜を穿つ轟音が炸裂した。


 天に浮かぶ雲を霧散させる雷音の衝撃で此方の体が、そして大地が揺らぐ……。




 す、すげぇ……。何て威力だ。


 俺達が苦労して剥した影をたった一撃で貫いちゃったよ。




『ルグアァアァ!?!?!!!』



 乾いた炸裂音と共に白と黒の稲妻が奴の体の中を縦横無尽に駆けて行く。



「どうだ!?」

「決まったね!!」



 二人が振り返り、勝利を確信したのか。体に宿る稲妻を払った。



「……………………」



 漆黒の影は徐々に、本当にゆっくりと。


 まるで砂時計の砂が落ちるかの様に姿を消していく。



「――――。やったか??」


「あぁ。我々の勝利だ」



 俺の言葉をリューヴが掬う。


 黒の戦士の影は足元から徐々に形状崩壊を始め、やがて。



『ォォォォ…………』



 森に流れる風に乗ってその姿を消失した。



「…………ふぅ、状況終了。皆さん、お疲れ様です。地脈も正常に戻りました」



 カエデが地面に手を着き、此方へ勝利の報告をすると同時。



「はぁああああ……。た、倒せたぁ……」



 どっと疲労が押し寄せて派手に地面へと座った。



 ネイトさん、ファールさん。


 今の雷の轟き、聞こえましたか??


 夕日に染まる空の雲を見つめて彼等に届けと勝利の報告を心の中で小さく呟いた。




「ふんっ。私の出番が無かったのは寂しい限りね!!」



 マイが黄金の槍を素早く払い、魔法陣の中へと己が得物を仕舞う。



「元々里の戦士が負うべき責任だからな。気にするな」



「ぜ――んぜん!! 暴れ足りないわよ!!」


「よくもまぁぬけぬけと言えたもんだな?? 途中、黒い亡者にビビリまくってたじゃん」


「ち、ちげぇし。あれは、アレだしっ」



 マイ、そしてユウ達の余力を残しての勝利ね。



 ネイトさんは俺達の実力を見極めたからこうして送り込んだのだろうか??


 俺を除く全員には余力がある状態だから多分そういう事だと思うんだけどね。



 右腕に残る傷跡を見つめてそんな事を考えていた。



「レイド様!! 御怪我は如何ですか!?」



 アオイが血相を変えて此方へ駆け寄って来る。



「あぁ、うん。何んとか」



 今は龍の力を発現しているけど、元に戻ったらどうなるんだ??



「ふぅ……」



 目を瞑り、意識を集中させ力を抑え込むと。



「…………。いっでええええぇぇぇ!!!!」



 元の腕に戻した途端に激痛が右腕を襲った!!



 まるで焼いた鉄を当てられているような痛みに思わず腕を抑え、蹲ってしまった。



「お見せください!!」


「あ、あぁ」



 歯を食いしばり、痛みに耐えながら腕を差し出す。



「アオイ、手伝います」


「お願いしますわ。カエデは傷を塞いで下さい、私は傷口を糸で縫いますわ」


「た、助かるよ」



 カエデが淡い水色の魔法陣を浮かべると、痛みが徐々に引いて来る。


 はぁ……。毎度毎度迷惑かけているよな……。


 もっと鍛えなきゃなぁ。



「どれどれ?? うへぇ。貫通してるの??」



 マイが興味津々といった感じで腕を組み、傷口を覗き込んでくる。


 そして、彼女の深紅の瞳には傷口を悪戯に刺激しようとするキラキラした子供の目の輝きが宿っていた。


 人の傷口見てワクワクしないの。



「アオイを庇った時、ね」


「ほぉん??」


「レイド様……。私は嬉しゅう御座いました。私を庇って頂き、有難う御座います」



 傷の治療を続けながら此方を見上げる。


 その表情は喜々した表情と情熱的な表情が混ざり合ったもので、何だかイケナイ感情を刺激されてしまいそうで直視出来なかった。



 仲間の為なら幾らでもこの身を捧げますけども。庇われた事がそんなに嬉しいものかしらね??



「大した事していないけど。まぁ、無事で良かったよ」



 精一杯の弱々しい笑みを浮かべて言ってやった。


 右腕と左肩が痛過ぎてこの口角が限界です。



「レイド様が身を挺して私を守って下さった。その事実だけで胸が一杯ですわ……」



 治療を続ける手を一旦止め、俺の頬に白い手を添える。



「……」



 彼女の白き手から伝わる温かい温もり、真に友の身を案じる優しい瞳。そしてアオイの優しい香り。


 その全てが俺の体に届くと、心臓が一つ大きく高鳴ってしまった。


 きゅ、急にどうしたのかな?? 顔が近いですよっと。



「良かったんじゃないの――?? いつぞや、話していた事が現実になって……さっ!!」


「ぎえぇぇええええ!!!!」



 マイが右腕の傷口に蹴りを入れ、踵を返して行ってしまった。



 俺が何をしたって言うんだよ……。


 余りの痛さに涙が止めど無く溢れ出て来る。



「こ、この!!」


「アオイ。傷口が開いちゃった。また縫って」


「ちっ……。レイド様、もう暫くお待ち下さい」


「よ、宜しくお願いします」



 いつぞや話していた内容って何だろう??



 今度機会があったら聞いてみようかな……。



 いや、やっぱり止めておこう。


 また更なる傷を負いかねない。余計な事には首を突っ込むべきでは無いのだ。


 勝利の余韻に浸る余裕も無く、地面へ滴り落ちる赤き液体を見つめて自分の浅はかな考えを戒めていたのだった。





















 ――おまけ――





 むぅ――……。


 娘達が発ち、早数時間経過。


 自分からけしかけておいてなんだが……。やはり心配だな。



 己の部屋の中を忙しなく右往左往しながら娘達の安否を気遣っていると。



「貴方……。まぁ、どうしたのですか??」



 部屋に入って来た妻が俺の姿を見て然程驚かぬ声を上げた。



「あ、いや。娘達の心配をだな……」



 揶揄われても困るので……。腕を組んで乱雑に絨毯へと座って話す。



「ふふ、安心して下さい。娘達だけでは無くて。グシフォスさん達の愛娘さん達もご一緒なのですから」



 妻がそう話すと俺の隣に腰掛けて静かに吐息を漏らした。



「負けるとは思わん。しかし……。黒の戦士は強敵だ。娘達には時期尚早だったのかも知れぬ……」



 黒の戦士に命を断たれた里の戦士は数多くいる。


 そして、娘達が生気を失った瞳で地面に横たわっている姿を想像すると。無性に!! 居ても居られなくなってしまうぞ!!



「こうしては居られん!! 俺は……。娘達を迎えに行くっ!!」


「貴方。ですから娘達を信じて……」



 勢い良く立ち上がった俺の行動を妻が咎めると同時。





『――――。コォォンッ……』



 遥か遠方の地から大変美しい雷の残響が轟いた。


 それはまるで我等狼の遠吠えの様に空気を微かに揺らし、遠く彼方まで届く澄み渡った清らかな音だ。


 心に深く染み込んで行く素晴らしき雷音に私と妻は思わず聞き入ってしまっていた。




「綺麗な音ね……」


「あぁ、本当に見事だ」



 良くやったな。二人共……。


 勝利の雷鳴、確と受け取った。



「よ、よし!! では俺は狩へ向かうぞ!! 腹が減った娘達を迎えねばならぬからな!!」



 熊、鹿、野兎。


 腹がはち切れるまで肉を食らわせてやる!!



「今日は宴会だぞ!? 酒を用意しろ!! 後、舞いの準備もする様に各部族長へと伝えておけ!!」


「娘達は疲労困憊で帰って来ますから宴は明日です。舞いの準備も明日の夜に開催すると伝えておきますね」


「そ、そうだな!! ワハハ!! さぁ、忙しくなるぞぉ!!」



 狩の準備を整え。家を飛び出ると美しい茜が空を覆い尽くしていた。


 ふふ……。天も雷の轟きを聞いて喜んでいるぞ。


 俺はお前達を誇りに思う。だから、胸を張って帰って来い。



 傷付き、疲労困憊ながらも軽快な笑みを浮かべて里に帰って来る愛娘達の姿を頭に思い浮かべると雷轟を身に纏い。



「「……っ!?」」



 俺の圧に驚きを隠せない里の者達を尻目に森の奥深くへと駆け抜けて行ったのだった。




最後まで御覧頂き有難うございました。


そして、ブックマークをして頂き有難うございます!!


花粉症で辛い編集作業も頑張れそうです!!


それでは皆様、お休みなさいませ。

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