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第十九話 黒き怨嗟の力

お疲れ様です。


本日の投稿になります。


それでは御覧下さい。




 小細工無しに最短距離を此方に向かって突き進んでくる黒の巨躯に対し、荒ぶる呼吸を鎮め。心に美しい水面を浮かべて迎撃態勢を整えた。



 落ち着け……。


 凪の無い澄み渡った水面を心に映すんだ。


 師匠から授かった極光無双流の神髄。今此処に!!




『オォッ!!!!』



 来たぞ!!


 俺の間合いに一切の躊躇なく侵入した黒の戦士が漆黒の剣を上段から振り下ろす。


 右手に構えていたミルフレアさんから頂いた……。のでいいのかな。


 兎に角!!


 物理攻撃に対して優れている短剣で防御態勢を取った。



『フッ!!!!』

「ぐぅ!!!!」



 上段から振り下ろされた剣が短剣と衝突すると目の前で激しく火花が飛び散り、心地良い衝撃が両肩を抜け。腰を通り、そして足の裏へと到達。


 たった一撃を受けただけで全身の筋肉さん達が驚愕の表情を浮かべてしまった。



 そりゃあそうだろう。


 槍を振り下ろした時、大地が微かに揺れたんだぞ?? その一撃を受け止めたのだから体が驚くのも自明の理さ。



「馬鹿野郎!! 受け止めるんじゃねぇ!!」



 マイが恐ろしい顔を浮かべて俺に叫ぶのも理解出来る。


 コイツの攻撃はそう何度も真面に受けてはいけない代物だ。しかし、俺が真面に受けたのは理由があるんですよ!!



「ふぅ――……」



 右半身の力を微かに虚脱させ、俺の頭蓋を叩き割ろうとする剣の力の方向を右へと流す。


 当然、コイツの体は力の方向に従って流れ右方向へと傾く訳だ。



『ッ!?』



 よし!! 先ずは一本先取っ!!



「アオイ!! 打つぞ!!!!」


「畏まりましたわ!!」



 俺が指示を出す前に黒の戦士の背後へと回っていたアオイが小太刀で漆黒の鎧を鋭く切り裂く。



『ゥ゛ッ!?』



 小太刀の連撃を受けた黒の戦士が有効打であると思わせる呻く声を上げ、物理攻撃が有効である証拠に俺の闘志が更に燃え上がった。



「はああぁぁっ!!」


 敵の真正面から漆黒の鎧を切り上げ、突き。


「くらぇぇええ!!」



 連撃の合間を埋める為に空いた左手の拳で確実に攻撃を蓄積させて頑丈な装甲を傷付けて行く。


 硬い鉄を切り裂く感覚が右手に広がり、まるで岩を打ち抜いた感覚に左の拳が悲鳴を上げる。


 しかし!!


 此処で攻撃の手を止める訳にはいかん!!!!



「アオイ!! 合わせろ!!」

「えぇ!! いきますわ!!」



 黒の戦士の前後から絶え間なく斬撃と拳の連撃を与え続け。



「「はぁぁああ――――っ!!!!」」



 俺は丹田の位置、そしてアオイは背の中央へと互いが持てる最大火力を同時に打ち込んだ。



『グガァァアアッ!!!!』



 手応えあり!!!!


 炸裂音が響くと同時に黒の戦士が悲壮な声を叫び、大地へ片膝を着いた。



「ぜぇっ……。ぜぇっ……」



 咄嗟の反撃を予想して数歩距離を取った位置から奴の状態を確認。


 黒の戦士は体を屈めており、物理攻撃の効果を如実に此方へと知らせている。



 そして、俺達が攻撃を与え続けた箇所の影が……。


 上手く形容し難いけど、受けた攻撃により黒の一部がボロボロと剥がれ落ちて。それが空気に触れると白い靄へと変わり霧散している。


 攻撃を与え続ければ装甲が剥がれるのか??



『皆、聞いてくれ。多分こいつは攻撃を与え続けると弱体化するかもしれない』



 戦闘態勢を継続させ、皆へ念話を送る。



『影が剥がれ落ちていますからね。私も恐らくそうかと考えていました』



 ふむ、カエデも俺と同じ考えか。


 それなら……。此処で片を付けてやる!!!!


 腰へ短剣を収めて右の拳を強く握り込み。敗者である姿を晒し続ける黒の戦士へと一歩近づくと。



『…………っ!!!!』



 俺の気配を察知したのか。


 奴を中心として黒い影が刹那に展開。


 それは此処の開いた地面を覆い尽くす程広大であり、咄嗟の出来事に思わず身構えてしまった。



 は、反撃か!?



「ぬぉ!? カエデ!! これ何!?」



 俺と同じく最大限に警戒を強めているマイが叫ぶ。



「恐らくこれが黒の戦士さんの魔法陣みたいなものでしょう」



 地面に魔法陣を展開させた??


 一体何故……。



「考えるのも面倒だ!! レイド!! あたしに合わせろ!!」


「お、おう!! 行くぞ!!」



 大戦斧を抱えて突貫するユウに合わせ、今も静かに片膝を着く黒の戦士へと突撃を開始した。



 勝機を見誤るな!! 恐れず前を向いて進め!!


 今も静かに佇む黒の戦士へ攻撃を加えようとした刹那。




『グゥゥ……。アァッ!!!!』


「「ぃっ!?!?」」



 地面を覆い尽くす影から無数の武器を模った影が宙へ出現。


 槍、大戦斧、小太刀、鉤爪、そして短剣。


 見覚えのある数々の武器の形に慄くと同時、複数の武器が襲い掛かって来た!!



「皆さん!! 避けて下さいっ!!」



 カエデが声の限りに叫ぶと、槍の穂先が俺の心臓を穿とうと空気を切り裂く鋭い音を奏でて向かい来る。



「くっ!!」



 咄嗟に短剣を抜剣して影を叩き落とすと、槍の影は形容し難い音を立てて形状崩壊した。


 よし!! こっちにも物理攻撃が通じるぞ!!



「武器の強度は低いみたいだな!!」



 ユウが分厚い刃の大戦斧で襲い掛かる複数の武器を俺と同じく叩き落として叫ぶ。



「問題は数だよ――!! 叩き落としても、躱しても……。ひゃあぁ!! どんどん湧いてくるもん!!」



 確かにルーの言う通りだ。


 切っても、霧散させても次々に各自の得物を模倣した武器が現れ各自へと向かって行く。



 俺達の体力は無限では無いのだ。攻め続けられればいずれは綻びが生じ、そこから隊が崩れかねない。


 何んとか次なる一手を打たないと!!



 自分なりに考え得る最善の対策を考えつつ襲い掛かる鉤爪と小太刀を破壊すると、強烈な殺気が体を襲った。



『……』



 武器の対処に追われ黒の戦士から視線を切ったのが不味かった。



 うげっ!! こ、こいつ。


 何時の間に!?!?



 黒の戦士が恐ろしい圧を纏うも。まるで最初からそこに存在しないのではないかと思わせる気配で物音を一切立てずに俺の間合いへと静かに侵入。



『フゥッ!!!!』



 俺に狂気の一撃を加えようと、左足を軸にクルリと回転した。



 回転蹴りか!? いや、それとも回転する勢いを活かした裏拳か!?



 体を回転させて仕掛けて来る攻撃は恐らくこの二択。


 蹴りなら体が正面を向いても右足は地面に着かない。拳を放とうとするのなら右足を地面に着ける。


 今までの攻撃。それと腕の長さと足の長さを加味した間合いは掌握済みだ。



 確実に回避して反撃に転じる!!!!



 黒の戦士の一挙手一投足を鋭い鷹の目で観察。


 すると、体の正面が此方に向く前に右足を地面へ着地させた。



 裏拳か!!


 それなら回避するのは容易い!!



『ガァァアア!!』

「ふっ!!!!」



 空気の塊を吹き飛ばす威力を持った剛拳に対し、黒の戦士から半歩下がった場所から上半身を逸らして回避行動を取る。


 右の視界から徐々に迫る黒い塊を確実に捉え、幾つもの反撃の手立てを頭の中に思い描く。



 よし、この攻撃を通過させてがら空きの胴体へ右の拳を捻じ込んでやる!!



 右頬の産毛を優しく撫でる風が届き、右手に確固たる覚悟を決めた拳を作り出した刹那。



「おぶっ!?!?」



 どういう訳か。影の拳が俺の右の面を捉えて打ち抜いてしまった。


 馬鹿げた威力の拳はこの体を容易く吹き飛ばし、地面と平行になって森の奥へと飛翔していく。



「レ、レイド様ぁ――――……!!!!」


「うぉぉおおお!!!!」



 アオイの声が遠ざかって行くと後頭部へ両手を回して襲い来るであろう衝撃に備えて受け身の体勢を……。



「あいだ!!」



 予想通りに先ずは一本目の枯れた太い樹木の幹を貫通。



「うげっ!?」



 それでも飛翔は止まらず今度は二本目の木をへし折り。



「ぐぇっ!!!!」



 三本目の幹の中をお邪魔させて頂くと、漸く高度が下がり始めて。地面と仲良く体が抱擁を開始。



「あいだだ……。いっでぇぇええええ!!!!」



 三度、四度面白い角度で跳ね。止めと言わんばかりに木の幹に到達すると同時に鋭い痛みが左肩を襲った。



「いってぇ……」



 左肩をふと見下ろすと。



『えっと……。肩を貫いてごめんなさい』 と。



 鮮血に塗れた枝が俺の眼を申し訳なさそうにじぃっと見上げていた。



「畜生……。あ、あの野郎!! 腕が伸びるなんて聞いてないぞ!!」



 自分自身の不注意による痛みに苛立ちを覚え、勢いそのまま枝を引き抜いてやった。


 くっそ……。一発貰っちまった。



 しかも、その一撃が何たる威力か。視界が朧に揺らぎ、足元に力が入らない。


 だが、此処で蹲っている様じゃ師匠から物凄いお叱りの声が届いてしまいますのでね!!



「ふんがっ!!」



 情けない声を上げる両足に喝を入れて乾いた大地に両足を突き立ててやった。



「吹き飛んで来た方向は……。あっちか!!」



 今も感じるマイ達の魔力、そして俺が飛んで来たであろう方向には今も大変寂しそうにへし折れた木々が地面に横たわっていた。



 待ってろよ!?


 今食らった以上の一撃をお前さんの体に叩き込んでやるからな!!!!


 湧き起こる憤怒を力に変えて、飛翔して来たと速度を越える速さで戦場へ向かって駆けて行った。






















 ◇




 黒の戦士の攻撃を見切った筈の主の体が戦場外へ吹き飛ばされて行く。


 耳を疑う炸裂音、そして飛翔速度から察するに。屈強な主の体を以てしても重傷は避けられない筈。



「主っ!!!!」



 そ、そんな馬鹿な!!


 此方からは死角であり、詳細は見えなかったが。黒の戦士の間合いを確実に測り、その間合いの外へと体を置き。


 更に上半身を仰け反っても攻撃を回避出来なかっただと!?


 有り得ない事象が起こった為に叫ばずにはいられなかった。




「リューヴ!! ボケナスはあんなちゃちな攻撃じゃ倒れん!! 今は目の前の……。あぁ!! うぜぇっ!! 攻撃に集中しなさい!!」



 マイが襲い来る槍の影を叩き落として叫ぶ。



「分かっている!! ユウ!! アオイ!! 何が起こったか見えたか!?」



 私の胴を穿とうとする剣の影を打ち払い黒の戦士の間近で戦い続けている両名へと問う。



「影が伸びたんだよ!!」



 影が……。伸びた??



「どうやらある程度は伸縮可能なのでしょう」



 成程。


 間合いを推し量った主に対し、黒の戦士は己が腕を伸ばして攻撃を加えたのか。


 近接戦闘に重みを置く我々にとって相手の間合いを測るのは己の生死に直結する為、それは戦闘における最優先事項だ。


 特に主は慎重にそれを推し量る。攻撃範囲の外に出て更に回避の姿勢を見せたのが良い証拠だ。



 攻撃を通過させて刹那に出来た隙を襲う。



 恐らく奴は主の考えを見越して今の攻撃を加えたのだろう。


 つまり、コイツは我々が思っている以上に狡猾な術を持っているな。



「リュ、リュー!! どうする!? レイドが飛んで行っちゃったよ!?」



 慌てふためきながらも襲い来る武器を叩き落としているルーが叫ぶ。



「慌てるな!! 空中から襲撃する攻撃を回避しつつ、本体に攻撃を加えるぞ!!」


「えぇ!? む、無理だよ!! 今でさえ……。ひゃあっ!! 避ける事で手一杯なのに!!」



 ちぃっ!! 情けない台詞を吐くな!!



 攻撃力は大したこと無いが、問題はその数だ。


 武器の影を叩き落とせば地面に広がる影の中へと消失、空中で霧散させれば黒き影が朧に揺らいで消える。


 しかし、また直ぐに更に多くの武器が影となって絶え間なく我々を襲い続ける。



 黒の戦士が直ぐそこに居るのに向かって行けないこのジレンマ。


 どうにかならんのか!?



「――――。光り輝く願いを込めて、地下深くへ届け魔力の波動。星屑煌雨スターダストレインっ!!!!」



 カエデが魔力を放出すると空に光り輝く美しい魔法陣が出現。



「さぁ、光の鼓動に抗えますか??」



 光輝く魔法陣から無数の矢が降り注ぎ、空中に漂う影の武器を全て叩き落としてしまった。


 それに……。


 あれだけの量の光の矢を我々に当てずにだ。



 全く……。


 魔法の扱いに秀でているのは理解しているが。それでも驚愕せずにはいられん。



「おっひょ――!! さっすがカエデ!! 助かったわ!!」


「威力を抑えて詠唱しましたが連発は厳しいです。皆さん、適宜対応して下さい」



「おっしゃああ!! マイ!! リューヴ!! あたしに合わせろ!!」



 ふっ、貴様に合わせるのでは無くて。



「「私に合わせろ!!!!」」



 黄金の槍と漆黒の鉤爪。


 二つの武器が一陣の風を纏い黒の戦士へと向かう。



「せぁっ!!」

『っ!!』



 私の一撃が黒き影の胴を捉え。



「ふんんぅ!!!!」

『ゥッ!!』



 微かに薄れた影へと黄金の槍の穂先が襲い掛かる。



「後ろが御留守なんだよぉぉおお!!!!」


『ガァッ!?!?』



 私達に注意を払い、無防備な背中へ大戦斧の一撃が振り下ろされ。黒の戦士は今も大地一面に広がる影へと叩き付けられてしまった。



「どぉ――さぁ。私達の三連続攻撃。流石にテメェも効いたんじゃねぇの??」



 誇らし気に黄金の槍を右肩に担ぐマイが話す。



『ウ……。ウググ……』


「これで……。止めだ!!」



 立ち上がろうと両腕に力を籠めている黒き影へと向かい、漆黒の稲妻を纏わせた爪を一気苛烈に振り下ろしたが。



『ググゥ……。ハァッ!!』


「な、何っ!?!?」



 私の攻撃は空を切り、虚しい感触が手に伝わってしまった。



 そんな!?


 姿を消失させただと!?



「ど、どこに消えやがった!?」



 そこに居た筈の黒き影が消失した事にマイも驚きを隠せず。


 警戒心を強めたまま周囲へ忙しなく視線を送っている。



「恐らく影に潜った筈だ。姿を現した時に攻撃を加えれば良い!!」


「その通りです。皆さん、互いに背を預けて警戒して下さい!!」



「わ、分かったよ!! ユウちゃんこっち来て――!!」

「はいはい!! ちょっと待ってろ!!」


「カエデ、魔力の索敵は??」

「やっていますけど大変難しいです。地面に広がる影自体が魔力を帯びていますので」



「マイ、背を預ける」

「おうよ!! 私の背も任せた!!」



 互いに背を預けて警戒を続けるが。



「「「……」」」



 奴が現れる気配は一向に見受けられなかった。



「も、もう倒しちゃった――。とか??」


「んな訳あるかよ。倒したなら地面の影も消える筈だろ??」


「だ、だよねぇ――……」



 我々の隙を窺っているのか??


 それとも影に潜り我々に有効な策を練って機を窺っているのか……。


 戦いにおいて後手に回るのは了承し難い。此処で何か手を打たないと。



「マイ。地面に向かって強力な一撃を加える事は可能か??」


「出来ない事は無いけど。何でよ」


「貴様の攻撃力ならこの影を霧散させる事は可能かと思ってな」



 我々の中で最も攻撃力が高い魔法を使用出来るのはマイだ。


 カエデが話す通りであるのならば、魔力で出来ているこの影は魔力で相殺出来る筈。



「おぉ!! 成程ね!! よっしゃ!! ちょいと時間掛かるけどやってみるわ!!」


「頼んだぞ」


 マイが黄金の槍を地面に突き立て。



「コトコト煮込んだ土鍋に美味しい野菜さん達をぶち込んでぇ。塩と醤油さんで味を調えて……。さぁさぁ皆で仲良く鍋を囲みましょう……」



 全く……。その詠唱は何んとかならんのか……。


 マイが相も変わらず首を捻りたくなる詠唱を始めた刹那。




『『ォォォォオ゛オ゛オ゛――……』』



 影の中から無数の亡者の影が這い出て我々の足に絡みついて来た。



「「「ウッギャァァアアアアアアアア!!!!!!」」」



 それと同時に泣き叫ぶマイ、ユウ、そして我が半身。



「ひ、ひぃっ!! 止めて!! こっち来ないでぇ!!」


「この野郎!! あたしの足に触んな!!」


「アバババババ!! と、と、取り敢えずもう一回死んどけやごらぁぁああ!!」



 マイが詠唱を中断して黒き影を撃退するものの。



『ウ゛ウ゛ゥ……』

『ア゛ァァ――……』



 人の形を模る黒き影は生を羨む声を上げて、地面を覆い尽くす広大な影からゆるりとした速度で続々と這い上がって来る。


 人の頭と思しき箇所には漆黒の虚無が貼り付き、見ている者の正気度を下げ。心に恐怖を生み出す。


 大きく窪んだ眼窩、苦しみを放つ口腔、そして悲壮な空気を纏う体躯。


 これが……。この世に未練を残して去った者達の負の感情なのか!?



「誰かダズゲテ!! ヴァダシ!! もうガエル!!」


「ば、馬鹿者!! 詠唱を止めるな!!!!」



 ちぃっ!! 詠唱が遮断されてしまった!!


 私の足に絡みつく亡者の腕を切り裂き、目に大粒の涙を浮かべているマイへ叫ぶ。



「こ、こんな状況で。で、で、出来るかぁ!!」


「それでも集中力を途切れさせるな!! 軟弱者め!!」



 這い上がって来ようとする亡者の影を黄金の槍で叩き落とし、今にも踵を返して戦場から去ろうとする愚か者へと叫んでやった。



「い、いやぁ!! 足掴まないでぇ!!」

「こ、このっ!! どこ触ってんだ!! 変態!!」


「アオイ!! 皆に結界を展開させます!!」

「えぇ!! 分かりましたわ!!」



 カエデ達の結界で亡者の拘束を防ぐのか。


 それは妙案だ。



「ウギィィ!!!! ムッキャ――!! も、もう嫌!! 帰りたい――!!」



 あの状態のマイは役に立たぬからな。


 こんな状況下でも冷静を失わず、直ぐに次の一手を打つあたり。流石は大海を統べし海竜といったところか。



「それまで私が時を稼ぐ!!」



 カエデとアオイの体にすがろうとする黒き影を打ち払う為、彼女達の下へと向かおうとしたが。



『……』



 背に凶悪な殺気を掴み取り、思わず足を止めてしまった。


 ち、ちぃっ!! 混乱乗じて私の背を取ったか!!



「ば、馬鹿!! そのまま前へ向かって走れ!!」

「リュー!! そこから逃げて!!!!」



 マイとルーの言葉に従い前に向かって回避行動を取るのが最善の選択なのかも知れない。


 しかし、此処が好機なのだ!!



「ずぁぁああ!!」



 背中に出現した見えぬ相手へ向かい、左足を軸にして回転。


 己の魂を乗せた雷撃を打ち込んでやった。



『……ククッ』


「何!?」



 私の蹴りを躱しただと!?!?


 鈍足かと思えば武の達人でさえも舌を巻く身の熟しも見せ。卓越した近接戦闘も熟せば、影を操り我々を混乱に陥らせる。


 こいつは一体……。何なのだ!?



「ちっ!! 一旦下がって……。うっ!?」



 黒の戦士から間合いを取る為下がろうと足に力を入れたが、私の体はその場から一歩も動くことは叶わなかった。


 何故なら。



『ゥゥウ゛ウ゛……』



 二体の亡者が私の両足を掴んでいたからだ。



『グァァアアッ!!』



 これを勝機と捉えたのか。


 黒の戦士が大剣を上段に構え、私の頭蓋へと向かって一気苛烈に振り下ろす。



「リュー!! 逃げて――!!!!」


「リューヴ!! さっさと力を解放して避けろ!!」



 分かっている!! だが……。力が上手く引き出せないのだ!!


 私の体を両断しようと黒き大剣が刻一刻と迫りくる。



 ま、不味い!! このままでは……!!


 咄嗟に頭上で両腕を交差させ。奥歯を噛み締めて襲い掛かる痛みに耐え抜く覚悟を決めた。
























 だが、痛みは襲い掛かる事無く。


 その代わりに私の心に火を灯してくれる熱き魂の叫び声が届いた。



「―――――――。俺の仲間に……。手を出すなぁぁああああああああ――!! だぁっ!!」


『グゴォア!?!?』



 主の激昂した声が響くと、目の前で轟音が炸裂。


 それと同時に黒の戦士の恐ろしい圧が消失した。



 一体、何が……。



「リューヴ、大丈夫か??」

「――――。主」



 彼の声を受けて恐る恐る面を上げると、そこには歴戦の戦士の姿を彷彿させる主が居た。



「ふぅ。一旦は退けたな……」



 緊張感を持った鋭い瞳、飛翔した時に受けた傷なのか。顔中の所々に擦り傷が目立ち、左肩には酷い出血の跡が確認出来た。


 本来であれば立つ事も叶わない重傷だろう。


 しかし……。


 主は負傷に負ける処か、更なる強き鋼の勇気を身に纏って戦場へと舞い戻って来た。


 傷付き倒れながらも仲間の為に血を流す。



 これこそ私が追い求めている戦士足る姿なのかも知れない。



「動かないでよ??」



 私の足に絡みつく亡者を鋭い龍の爪で打ち消す。



「す、すまぬ。それよりも、傷は大丈夫なのか!?」


「なに、これ位大した事無いって。リューヴに殴られた方がもっと痛いさ」


「だ、だが。その傷では……」



 私が主の傷を確認しようとすると。



『ゥゥウウ!! アァァアアアアア――――!!!!』


「「「っ!?」」」



 主に吹き飛ばされた黒の戦士が立ち上がり、怨嗟の力を込めた雄叫びを上げた。



「俺の一発が余程効いたみたいだな。ほら、あそこ……」



 主が指差したのは黒の戦士の右頬だ。


 あの場所だけ周囲の影と比べると微かに黒が薄まっている。



「つまり、攻撃を与え続ければ俺達の勝ちって事さ」


「あぁ、そうだな。此処からが正念場だ」


「その通り!! カエデ!! 皆に指示を!!」


「任された。前衛の皆さんは愚直に攻撃を与え続けて下さい。地面からの亡者、武器は私とアオイの魔法で迎撃します」


「聞こえたか?? リューヴ」



 戦士の顔から一転。


 真に友の身を案ずる優しき顔で私に問う。



「も、勿論だっ。主!! 共に……。敵を狩るぞ!!」

「了解だ!!」



 ふふ、共に肩を並べて強敵と対峙する。


 此れで心が湧かない訳は無いぞ!!


 さぁ、黒の戦士よ。雷狼の戦士達の一撃、受けてみろ!!!!


 私と主は決して折れぬ勇気を身に纏い。我々の魂を狩り取ろうとする黒き影へと向かって突貫を開始した。



お疲れ様でした。


物凄く花粉症が辛いです。


花粉症を抑える薬を服用していますが、それでも鼻は詰まり。喉がひり付く痛みを覚えてしまいます。


皆さんの中にも同じ症状の方がいらっしゃるかと思いますが、頑張って乗り切りましょうね。


それでは皆様、お休みなさいませ。

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