第十二話 信じ難い伝承 その二
お疲れ様です。
後半部分の投稿になります。
それでは、どうぞ。
机の上に積み重ねられた皿の多さに改めて呆れを抱きつつも、それと同時に彼女達の強さの源を徐に理解していた。
食わねば体は大きくならないし、強くもなれない。
訓練生時代の教官から、そして師匠から口を酸っぱくして言われ続けている事実だ。
それを物の見事に体現している彼女達は強くて当然って事かな。
『うむっ。満足した!!』
肉全種制覇して空腹が満たされたのだろう。
マイが満面の笑みを浮かべてポンっと一つお腹を叩く。
「それだけ食えば十分だろ」
『これでも抑えた方よ?? 有難く思いなさいよ』
そんな事で有難がれと言われてもなぁ……。
大体、ここの食事代は俺の給料から支払われるのですよ?? 有難うと伝えるのは君の方では??
でもまぁ……。任務を手伝って貰っている手前、中々強く言えないよね。
「会計済ませて来るよ。済ませたら宿に戻ろうか」
食後の重い腹に苦戦しながら席を立つ。
「すいませ――ん!! お会計お願いします」
「は――い!!」
もう数えるのも億劫になる程扉から出て来た店主さんが此方へと軽快な足取りで向って来た。
額に浮かぶ嬉しい汗、そして朗らかな笑み。
それらから察するにきっと満足のいく商売が出来たのでしょうね。
「良く食べましたねぇ。如何でした??」
「素敵な味でしたよ。御蔭様でお腹一杯です」
正直な感想を述べた。
肉本来の味を楽しめる様な味付けに舌鼓を打ちましたもの。
これで不味いなんて言った日には天罰が下るって。
「そうですか?? そんな事言われたら自信付けちゃうなぁ」
あははと頭を掻いて笑う。
「あ、お会計はちょっとおまけして一万ゴールドになります」
「……。はい、どうぞ」
鞄から現金を取り出して渡す。
七人で腹一杯食ってこの値段か。中々良心的な値段だな。
「はい、確かに。ありがとうござました!!」
「御馳走様でした。あ、そうだ。この街の食料店は何時頃開きますか??」
「食料店?? 九時には開くよ」
少し考える素振を見せ、答えてくれた。
九時か。
そこまで大きくない街だし、宿を九時前に出れば十分間に合うな。
「ありがとうございます」
一つ頭を下げて踵を返し、席へと戻った。
『幾らだった??』
マイが水を飲みながら話す。
「割引して貰ってちょうど一万。良心的な値段で助かったよ」
『あら、意外と安いのね。もうちょっと頼むべきだったかしら??』
「それは勘弁してくれ。よしっ、宿に帰るぞ」
ポンっと膝を叩き立ち上がる。
腹も膨れたし、今日はぐっすり眠れそうだな!!
『沢山食べたなぁ』
『はぁ――……』
『どした?? ルー』
扉へと向かう道中。
ユウが何やら満足とも若干の不満とも受け取れる表情のルーへ尋ねた。
『あ、うん。小鹿の腸食べたかったなぁ――って』
まだ尾を引いていたのか。
『ルーの里へ向かう途中に探しなよ』
『そうする――』
店の扉を開けると、美しい夜空が本日もお疲れ様でしたと癒しの笑みを浮かべて俺達を見下ろし。北から吹いて来るひんやりとした夜風がそっと吹いて行く。
「お。ちょっと冷えるな」
上着の上から腕を擦る。
日が暮れてから随分経つし、こりゃしっかり布団を被って寝ないと風邪を引きそうだな。
『レイド様、宜しかったら……。私の柔肌で温めましょうか??』
「あ、うん。大丈夫です」
さりげなぁく絡みつこうとして来た横着なお肉を回避して話す。
『んぅっ。辛辣ですわねぇ』
『ふあぁ。お腹一杯だと眠くなるよねぇ……』
「その気持ち、大いに分かるよ」
重い瞼をグシグシと擦るルーに言ってやった。
体が睡眠を欲しているのか、妙に重たく感じる。
知らない内に疲れが溜まっているんだな。今日はゆっくり寝よう。
久々のベッドだ、心と体が早くベッドで横たわれと叫び逸る気持ちが湧き続けるのも頷けるが……。
問題は同室に存在する人達なんだよなぁ。
余程の事が無い限り大丈夫だと思うけど……。
「う、うふふ……。蜘蛛の糸で絡み取り、無理矢理服を引き剥がしてぇ」
全然大丈夫じゃなさそうだ。
念話では無くて小声で本日の予定を無意識の内に口ずさんでいるし。
蜘蛛の御姫様?? 心の声、漏れていますよ??
『着いた着いた――。あらよっと』
マイが先頭で宿の扉を開き、それに続いて中へと入る。
食事処と近いのがこれまた助かるな。
『ふんふっふ――ん』
重い足取りで階段を昇っているとユウの軽快な鼻歌が背中側から聞こえて来た。
『ユウちゃん機嫌いいねぇ』
『まぁな。腹一杯だし、後はゆっくり眠るだけだもん』
『そうだよねぇ。寝るだけだよねぇ――』
『嬉しそうな声を出してあたしの尻を撫で回すな』
何やってんだか。
「マイ達はどうする?? このまま部屋に戻って休むか??」
一番部屋の前に到着し、二番部屋を使用する彼女達の方へ振り返る。
『ん――。まだ眠く無いし、ちょっと話していこうかな』
「はいよ――」
鍵を開け、そのまま部屋に足を踏み入れた。
『さっさと眠りに就けば宜しいですのに……』
『あっ?? 何か言ったか??』
『別に……』
喧嘩はよしなさいよ。
疲れているんだから仲裁に入る余力は残っていないのです。
自分のベッドに到着するとほぼ同時。
「はぁ――。着いた」
勢いそのまま豪快に横になってやった。
この中途半端な柔らかさが心地良いよなぁ。使用した事は無いが、貴族や王族が使用するのは焼きたての餅も驚く程柔軟性に優れたベッドなのだろうが。
我々庶民にはこうしたある程度の硬さを持ったベッドが丁度良いのです。
柔らか過ぎると逆に違和感を覚えて良く眠れなくなりそうだし。
「ユウ、ちょっと退いて」
「は?? 此処、あたしのベッドなんだけど??」
「リュー、狭い」
「一々細かい事を気にするな」
流石に四人部屋に七人は狭く感じるな。
いや、七人では無く三人と魔物四体だ。
「……」
カエデは俺のベッドに腰かけて懐から取り出した本を読み。
「ふふふ……。やはり此処は至上の空間で御座いますわっ」
いつの間にか蜘蛛の姿に変わってしまったアオイはいつもの様に体の上に乗りチクチクする体毛を擦りつけている。
ちょっとくすぐったいから右手で優しく退けてっと……。
「あんっ。辛辣ですわねっ」
「ちょっと!! 退いてって!!」
「五月蠅いぞ。此処は私が使用するのだ」
狼二頭がベッドの上で可愛い取っ組み合いを始めれば。
「ふわぁ――。あ゛ぁっ、ねっみぃ」
「邪魔だなぁ……」
赤き龍がユウのベッドで堂々と横になり持ち主を困らせている。
いつもと変わらぬ風景が心に安寧を与えてくれていた。
このまま眠りに就ければいい夢が見られるのですけども。
本日最終の連絡事項を通達してから眠りましょう。
「あ、そうだ。明日食料店が九時に開くらしいから、それに合わせて宿を出るよ。皆には悪いけど荷馬車が使用出来ないから物資を運んでくれ」
「構いませんわ。そんな事よりもぉ……。アオイと熱い夜を迎えませんか??」
胸元から黒き甲殻を身に纏う蜘蛛が這いあがって来る。
「謹んで御断りさせて頂きます」
「あ――んっ。およしになって下さいましぃ」
右指で顎下を突き、何んとか這い上がって来ようとする蜘蛛の前進を退けてやった。
「物資を受け取りそこから南の森へ向かう。その後暫く、森の中を進みレイドと合流。これで宜しいですね??」
カエデが本から視線を上げずに話す。
「そうだな。そうしてくれるか??」
「分かりました」
「皆聞いてたか?? 八時に出発だぞ」
「はいはい。聞いてるわよっと」
「は――いっ!! 聞いてたよ!!」
赤き龍と陽気な狼さん?? 尻尾で返事をするのは止めなさい。
「リューヴ、ルー。これから西へと向かうんだけど、何か注意する事はある??」
ベッドの上で戯れる二頭へ尋ねた。
「そう、だな。野生動物は熊に気を付けろ。この時期は冬眠に向け餌を探し歩き回っている。それに気性も荒い。我々が負ける筈もないのだが、一応、な」
「熊か……。上手く仕留めれば食料にもなるけど、出来る事なら避けて進もうか。余計な事に時間を割いている暇は無いし」
「後はそうだねぇ……。街道は途中で無くなるから平原を進む事になるよ!! ぬかるんだ場所があると足が捕られるかも知れないから私達が先導するね!!」
「有難うね」
金色の瞳の狼さんへ温かい感謝の言葉を送ってあげた。
「えへへ。褒められちゃった」
いや、褒めてはいないよ?? お礼を述べただけですからね。
「リューヴ達の里かぁ。どんな所だろうなぁ……」
ユウが誰とも無しに話してベッドに豪快に倒れた。
「ぐぇっ!! 重いわ!!」
その行為で被害を受けた龍がユウの背中からもぞもぞと這い出て来る。
「おぉ。すまん」
「自然豊かな場所だ。自然を謳歌し、享受し、皆慎ましく生活を送っているぞ」
可愛い取っ組み合いの勝利者であるリューヴがベッドの大半を支配して、大変寛いだ姿勢で話す。
「何にも無いけど、代わりに静かで心休まる場所だよ――」
あ、そっちに逃げたのか。
空いているアオイのベッドで丸まった姿でルーが口を開いた。
「ちょっと!! 私の寝床に汚らわしい毛が付きますわ!!!!」
「やぁっ!! 来ないで!!」
黒い蜘蛛が八つの足をガバッ!! と開いて猛烈な勢いで宙を舞う。
今度はそっちで取っ組み合いか。忙しいなぁ。
「里で気を付ける事はある??」
「派手な行動は控えてくれ。私達と行動すれば特に困る事は無いだろう」
「ほぉん。んで、例の聖域には行っちゃ駄目なのよね??」
ユウのお腹の上で胡坐をかくマイが言った。
「当然だ。もし、足を運ぼうものなら私が全力で止める」
「うぇ。それは御免ね」
だろうね。
リューヴの本気を受けたら俺の体など紙の様に引き裂かれるであろう。
「その聖域に伝わる話とかありませんか??」
カエデが静かに話す。
「あぁ、あるぞ。聞くか??」
「「「是非」」」
何人かが声を揃えた。
「この話は我等雷狼の子孫に伝わる伝承だ。幼い頃、母親から耳が飽きる程幾度と無く聞かされた」
「私達のきょ――いくの為にお母さんはお父さんからその御話を聞いたんだって」
「んな事はどうでも良いから早く聞かせてよ。うちの可愛い飼牛が寝落ちしちゃうじゃん」
マイの声を受けて仰向けの姿勢のユウへ視線を動かすと。
「んんっ……」
襲い掛かる眠気に抗い、重い瞼を開ける事に必死になっていた。
「では、オホンッ」
リューヴが一つ咳払いすると、徐に口を開いて彼女達雷狼に伝承されている話を語ってくれた。
『気の遠くなる遥か昔。
生命の影すらも存在しない太古の星に神々が空から舞い降りると、灼熱と化す星を命溢れる星に変えようと考えました。
神々は手を取り合い炎が湧き上がる大地を鎮め、見渡す限りの広い海を作り、空から雨を降らせ。気の遠くなる程の時間を費やして炎の星を命が芽吹く水の星へと造り変えました。
炎の星はいつしか生命に満ち溢れる緑豊かな姿へと変わり、神々は喜び大層気に入って水の星で暮らし続けました。
それから幾千、幾万年。神々は過行く時間を忘れ命溢れる自然を幸せに謳歌していました。
しかし、そんなある日の事です。
一人の神が、あろうことか自分達が老いている事に気付きました。
神々が作り出した生命達と同じ様に自分達にも命の期限がある事を知り嘆き、悲しみました。
神々は己の命を次の世代へ紡ぐべく、様々な思考を凝らしますが。今まで造り出した生命体では神々の子孫を残す事が出来ません。
そこで一人の神が血の滲む苦労と労苦の果てに新たな生命体を作りました。
新たな生命体はこれまで創造した数々の生命体達の中でも矮小で脆く、厳しい自然環境の中で生命体単体では生きられませんでした。しかし、脆弱ながらそれはもう本当に美しい命の形を持っていました。
それは、一方は多数の命の元を放ち。一方は新たな命を腹に宿す二対の生命体。
神々はその生命体を使い、彼等の命を継承させる事に成功しました。
時に神々はその生命体を生殖の道具、時には食料、時には玩具として扱い。新しき生命体は神々と造られし生命体の恐ろしい力を受け続け。時間が経つにつれて新しき生命体は弱り果てて自ら生を断つ個体さえ現れました。
この生命体を作り出した神はその姿を見て、悩み、苦悩し、己の身を焦がす痛烈な悲壮を胸に抱きました。
このままではいけない。
そう考えた神は己が造り出した生命体達に感情と、考える力と、知識を授けました。
この事に激怒した神々は、新しき生命体に知識と思考を授けた神と。生み出された生命体達と対立します。
戦いは数千年以上にも及び星の大地が割れ、空が裂け、生命に満ちし星はいつしか死の星へと変わろうとしていました。
このままでは星がもたない。
そう考えた神々は三つの神器を造り、神々に反旗を翻した神を封印しました。
こうして星は戦いの無い平穏で静かな時間を取り戻しましたとさ』
リューヴが話す間、俺達は話の内容に飲まれ只々口を閉じて彼女の放つ言葉を頭の中で整理を続けていた。
「…………。太古の星を作り替えた神々、三つの神器、反旗を翻した神か」
情報量が多過ぎて何処から手を付けていいのか分からないが、自分が最も気になった単語を取り敢えず掬い取って口に出した。
「まだまだ情報は含まれていますよ?? 神々が作りし生命体、反旗を翻した神が作った新しい生命体……。正直、興味が湧きます」
カエデがふんすっ!! と鼻息を漏らして少々興奮気味に話す。
「な――んか、妙に現実味がある話よねぇ」
「あぁ。あたしも聞いていてちょっと怖くなってきたな」
眠気が吹き飛んだユウとそのお腹の上で腕を組む龍が声を出す。
「ふぉうふぉう。ふぁたしも小さい頃はこのふぁなしを聞いて怖くなっふぇ寝れなくふぁったの」
アオイに襲われて糸で口を拘束されちゃったのか。
ルーが粘着質の糸を取ろうと前足を器用に動かしながら話す。
「そりゃ寝れなくなるのも頷けるよ。星を容易く破壊する神々と神との喧嘩でしょ?? 想像するだけで恐ろしいよな」
伝承の素直な感想を述べた。
「それにその新しい生命体ってのは……」
「恐らく、人間ですね」
俺の考えをカエデが代弁してくれた。
やっぱり、そうか。
「一方は多数の命の元を放ち、一方は新たな生命を腹に宿す生命体。この情報から自ずと浮かび上がるでしょう」
「腹に命を宿すのが女性でしょ?? じゃあ、多数の命の元を放つのが男?? 多数の命の元って何よ」
マイが俺の顔を見て話す。
「あ、いや。それはちょっと俺の口からは答え難いかなぁって……」
多分、と言いますか。十中十アレだと思うんですけどねぇ。
こういう時に羞恥を覚えて話し辛くなるのは何故でしょうか??
俺がまごついて答えを出そうかどうか悩んでいると、大変賢い彼女が何の遠慮も無しにその答えを仰って頂けた。
「――――。精液です」
「「「ブッ!!!!」」」
カエデの言葉を受けて俺を含む何人かが吹いた。
まぁそうだろうとは思ったけど。
唐突に、しかも冷物凄く静な顔で言われると驚きもしよう。
「ふぁおいちゃん。ふぇい液って何??」
狼の頭の上で勝ち誇る黒き甲殻を備えた彼女へと問う。
「男性の象徴から放たれる物ですわ」
「ふぉうふぉう?? ふぇいど――。ふぉっと分からないから出してみて??」
「出来る訳無いだろ!!!!!!」
速攻で断ってやった!!!!
全く……。何を言い出すんだ。
「けふぃ――」
「ケチでも何でもいいよ。兎に角!! 絶対駄目だからな!!」
これはキツク言っておかないと後々とんでもない事になりそうだ。
「それに?? いきなり出る訳ではありませんのよ??」
「ふぉうなの??」
「えぇ……」
人の姿に変わったアオイが、にやりと笑いこちらを見る。
うおっ!!
その笑顔止めてくれないかな??
背筋が泡立ち、要らぬ心配をしてしまう。
部屋、変えて貰おうかな……。
「母さんから聞いた話によると、男性の精液には大量の命の元が含まれているそうです。それが女性の腹に宿る命の元へ向かい、結合。それが赤ん坊になるそうです」
「く、詳しい説明をありがとう。も、もういいわよ」
「あ、あぁ。仕組みは理解しているけど、こう……。何んと言うか、馬鹿正直に話されると恥ずかしいな……」
マイとユウが顔を真っ赤にして話す。
「う、うん。そうだな。カエデ、ありがとう」
俺の顔も真っ赤になっている事だろうよ。
「そうですか。その伝承によると、神が人間を作り生殖の道具に使用していたみたいですね」
「作った当初は感情も、知識も、考える事もしない只の動物だったみたいだな」
「今の人間と変わらぬ知識と思考する能力を与え、神々は激怒した……。何故、激怒したんだ??」
ユウが難しい顔をして首を傾げる。
「そりゃぁ……何でだ??」
ユウの疑問に腕を組んで考えるが……。答えは中々出て来なかった。
「――――。星で生活する中で知識を持っていたのが神々と先に作られた生命体だけ。だったとか??」
恐らくこういう事じゃないかな??
「そう考えるのが妥当ですね。それを与えた為、神々は激昂したのでしょう」
「別にそれ位いいじゃない。考えて、知識を高めて、行動する。私達が普段している事がどうしていけないのよ」
マイが当然とばかりに話す。
「マイ、よぉく考えて下さい。養鶏所の鶏がある日突然、倫理感について語り出したらどうしますか??」
『人間よ、ならば問おう。私の存在価値とは一体何か!?』
真っ赤な鶏冠をフサフサと揺らし、嘴を器用に開いてこんな台詞を放ったら驚く処か逃げ出す人も現れるだろうさ。
「に、鶏が!? そ、そりゃあ……。腰が抜ける程おったまげるわね……」
「しかも食用の鶏が、です。元々その為に作った生命体が自分達の思い通りに行動しないのですよ?? 神々の逆鱗に触れるのは至極当然かと」
人間と家畜。
神々と人間。
分かり易い比喩だな。
「そして……。それを与えた神と対立する。俺達人間にとってその神様は正しく救世主って訳だな」
「奴隷同然の環境から解放してくれたし、良い神様なのかもねぇ」
マイが腕を組み直して話す。
「奴隷?? そんな言葉生温いですよ。伝承の中の神々にとって人間は便利な只の道具です。一個の生命体としてすら見られていません」
カエデの話す通りだな。
生殖だけじゃなくて。食料、玩具として扱っていたのだから……。
「その神々ってのは随分と酷い奴らだな」
ユウが顔を顰めて話す。
「仕方がありませんよ。自分達の命は有限であると気付いたんですから。そして人間と生命体達と神は、神々に反旗を翻した……」
「その生命体達ってのは??」
少し疑問に思ったのでカエデに尋ねてみる。
「……分かりません」
「案外、私達みたいな魔物かもよ?? ほら、こうして今も細々と存在しているのが良い証拠よ」
「マイ、この話は只の伝承だ。現実として捉えるな」
リューヴが話す。
「伝承の割には妙に現実味がありますよ?? 良く考えて下さい。何故、古い話なのに人が出来る仕組みの詳細を理解しているのか。何故、星の成り立ちを知っているのか。気になりませんか??」
そう言われると……。確かにその通りだ。
「それに、三つの神器。凡そ聖域に伝わる話ですからそのどれかが封印されているかもしれませんね」
「じゃ、じゃあ!! その神器が確認出来たらその伝承は真実だって言うのか!?」
カエデの言葉に心が騒ぎ出す。
そりゃそうだろう。この星に生きる全ての生命の生い立ちを証明出来る訳だからね。
「それは……。何とも言えません。神器があったとしても、その伝承の一部が証明されるだけですから。確実に証明する為には、神々の存在を暴かなければいけません」
「星を作り返る程の力を持った神々……。どんな奴らだ??」
言い換えるのなら正しく想像上の神と等しき力を持つ者達だよな。
「形容し難い姿なのか。将又、人間が想像しうる形なのか。想像も付きません」
「だけど神器を見付ける為に聖域に入る訳にはいかない。結局、想像の域を出ないって事だな」
「残念ですが……。そうなりますね」
「ふぅん……。ね、リューヴ。お父さんに頼んで聖域に入らせて貰えないかな??」
マイがとんでもない事を言い出す。
「駄目に決まっているだろう。族長ですら滅多に近付けないのだぞ?? 大魔の逆鱗に触れたいのか??」
まぁ、そうなるよね。
「なぁ。この話を証明したいからイル教の奴らがその聖域に人を向かわせたんじゃないのか??」
ユウが言った。
「その線はあるとは思うけど……。誰からこの話を聞いたんだ?? リューヴの里に伝わる話だぞ??」
シエルさんが魔物と通じている訳も無いだろうし。
その情報の出何処は不明だ。
「そりゃあ……。図書館とか??」
「ユウの話した通り、伝承の話は幾つか図書館にあります。しかし、その内容一つで三名もの人間を派遣しようとは思わないでしょう。確実に、何かがあると踏み切り行動に至ったのですよ」
「カエデの言う線が強いな。問題は…………」
「えぇ。誰が彼女等にこの伝承を、伝えたかです」
「古い話だからねぇ。長生きしている人じゃない??」
マイの言葉に俺とカエデは顔を見合わせた。
「お、おい。大魔の誰かが人間に教えたって言うのか??」
ユウが丸い目を更に開いて口を開く。
「マイの話す内容ですと、イスハさんや先生。そしてマイのお父さんも含まれますよ??」
「冗談言わないで。父さんはガイノス大陸にいるのよ?? それに、私達の言葉は人間に伝わらないじゃない」
「それは何とでもなります。此方から伝わらないだけで、身振り手振り、そして伝承の類なら本を渡せばいいだけですから……」
「ちょ、ちょっと待て!! 父上が人に教えたとでも言うのか!?」
リューヴが声を荒げ、伏せていた体を起こす。
「あくまで仮定の話です。それに大魔は私達の両親……。つまり複数います」
「容疑者は、私達の親の誰か??」
マイの放った言葉で部屋の中が静まり返る。
そりゃそうだろう。
人間と結託して、しかも魔物を忌み嫌う奴らの手助けをしているのだ。
気持ちの良い話ではあるまい。
「ま、まぁ。その伝承は証明されない訳だし?? きっとイル教の奴らは違う目的でそこに向かったんだよ」
「では、その違う目的とは?? それと向かわせた動機も不明ですよ??」
鋭い海竜さんの目が俺の体に突き刺さる。
「え、えっとぉ……」
カエデの鋭い指摘に言葉が詰まってしまった。
そんな睨まないで。
「と、兎に角!! 三名を助けてから事情を聞こう!! それであいつらの目的が分かるだろう」
「…………ふっ。そうですね。私とした事が、少々興奮してしまいました」
視線をふいと外し、柔らかい笑みを浮かべてくれた。
はぁ……。怖かった。
「なぁんか……。向かう前から嫌な予感がするな」
「ユウ、変な事言わないでよ……」
ユウの言葉はこの得も言われぬ雰囲気に妙にしっくりきた。
星を作り替えた神々。
正しく神の御業だ。どうして、彼等はこの星に来たのだろう??
何故、人間という形を作ったのだろう?? この形が作り易かったのだろうか??
考えれば考える程ドツボに嵌りそうだな……。
「ま、伝承は伝承。余り気にする必要は無いって」
再びベッドに寝転がるユウが話す。
「そう……ですね。証明しようが無いですからね。現状では」
「ふぁ――。盛り上がったのは確かだけど、もう遅いし。私達は部屋に戻るわ」
「そうだな。明日も早い、カエデ。行くぞ」
「分かりました」
マイを先頭に部屋から出て行く。
「マイ、寝坊するなよ??」
人の姿に戻り、深紅の髪揺らす彼女に言ってやった。
「うっさい!! 分かっているわよ!!」
女性らしからぬ力で扉を閉めて出て行ってしまった。
扉が壊れたらどうするんだよ……。
「伝承の類だから、鵜呑みにはしないけど……。有り得ない話では無いからなぁ」
少しだけ汚れが目立つ天井をキュっと睨んで話す。
「里に帰ったらお父さんに聞いてみるよ。この伝承は本当の話なのかって」
あ、糸解いてくれたんだ。
「頼むよ。さて、俺達もそろそろ寝ようか??」
「そうですわね。明日からの行程に備え、早めに就寝するのがいいでしょう」
「あたしも寝るよ。おやすみ――」
「ん。おやすみ」
蝋燭の明かりを消すと、仄かな青い月明りが窓から射し込む。
伝承……か。
イル教の奴ら、やっぱりそれを確かめに三名の人を向かわせたんだよな??
でもその神器を見付けて何をするつもりなんだろう。
そんな物が現実に存在するのであれば凡そ、人が手にしてはいけない。手に余る代物なのに。
考えが纏まらずに複雑な思考がグルグルと頭の中で渦巻く。
寝なきゃいけないってのに、これじゃ寝付けないよ……。
早く夢の世界からの使者が訪れないかと何度も不必要に寝返りを打ち、悶々とした気持ちで布団の中に潜り込んで目を閉じては不穏な感情が生まれてしまうので外へと顔を出す。
心地良い睡眠が訪れてくれるまで、いつまでも終わらない不必要な堂々巡りをベッドの上で繰り返していた。
お疲れ様でした。
さて、第三章では御使いや冒険を通じて彼等はこの世の成り立ち、或いは己に課された運命を知って行く事となります。
本文に記載した伝承は本来であればもっと前に記載するつもりでしたが……。まだ彼等には時期尚早と考えて第三章からとなりました。
彼等がどのような運命を辿って行くのか。楽しんで頂ければ幸いです。
いいねをして頂き。
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これからも皆様のご期待に添えられる様、誠心誠意執筆活動に励んでいきますので何卒宜しくお願い致します!!
それでは皆様、おやすみなさいませ。




