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第十話 強くなるコツは食べて、鍛えて、そして細やかな変化 その一

お疲れ様です。


本日の投稿なります。


それでは御覧下さい。




 一日の終わり、夕焼け空の茜色が空を覆い尽くし本日の行程は此処までとなった。


 王都を発ち本日で六日目。


 好天にも恵まれ第一の目的地であるスノウまで残り半分。当初予定していた行程よりも大幅に進んだ事に安堵の息を漏らすがこれはあくまでも予定なのだ。


 任務を達成して王都に帰るまでは安易に気を抜かない様に気を付けましょうかね。



「レイド――!! 天幕、この辺りでいいかぁ!?」


「あぁ!! 頼む!!」



 ユウ達が街道から大分離れた平原の上で天幕の設置に取り掛かっている。


 此処に来るまでの間、何本か木を切り倒して天幕に似合った高さに裁断した。


 それ相応の重量を持つ為、荷台に載せるのは憚られたが……。



『さっさと載せろ』



 体力自慢の相棒に許可を頂き、おずおずと積載させて貰った。


 過積載による体力の消耗が心配されたが彼女の様子を見ると大した労力を費やさなかったようだ。



『ほぅ……。この草も中々……』



 今も畦道の傍らに生える草を美味しそうに食んでいる。


 同種の馬も呆れる筋力と体力は流石の一言に尽きますね。



「よいしょっと……。後は支柱を埋めて――っと」



 ユウが地面に敷いた布を取り囲むように支柱を一本一本確実に立てていく。



「ほぇ――。ユウちゃん手慣れたものだねぇ」


「ユウ。早くしなさいよ」



 貴女達は額に汗を浮かべて作業を続ける彼女を手伝おうとは思わないのですか??



「見てばかりじゃなくて手伝えよ。ユウ、手伝うぞ」


「お――。てか、大丈夫?? その支柱結構重いよ??」


「何を言う。これくらい……」



 うん。


 彼女の言う通りかなりの重量だ。大人一人分の重量を優に超えているんじゃないのか??



「どっこいしょ!! はぁ。確かに重たいな」



 支柱の一本を突き立てて静かに吐息を漏らす。



「良い運動になるじゃないか。レイドは昼、組手しなかったんだし??」


「まぁ、ね」



 実は今回の任務から空き時間に開催される組手に変わった趣向を取り入れたのです。



 長い行程の空き時間。


 昼食後、そして夕食後に組手を行っているのだが相手はほぼ毎回固定だ。



 マイとユウ。


 アオイとカエデ。


 ルーとリューヴ。



 俺は抗魔の弓の練習、時折手の空いた人が組手に付き合ってくれるのだがその時間はごく僅か。


 どうせならじっくりと相手をしてみたいと考えているけど、実力差を考慮すればそれは分不相応と言えよう。


 毎日同じ物を食べていると飽きてしまう様に戦い方にも偏りが生じてしまう恐れがある。



 そこで!!


 新たなる風を呼び込み倦怠を吹き飛ばそうと考えて斬新な考えを取り入れたのです!!


 それは……。そう!! くじ引きです。



 宿のベッドの位置決めの時、部屋決め、人数を分ける時等々。


 不平不満が出ぬ様、クジが入った小箱を利用して決めるのだが。これを組手の組み合わせに応用しては如何だろうか?? 妙案だと考えて皆に提案させて頂いた。




『最初に引いた人の名前と二番目に引いた人の名前が組手の組み合わせ。最終的に一人余ると思うが、その人は食器の片付け、自主練、組手の補助に回って貰おうかな』



『成程……。無作為な相手との訓練は面白そうですね』



 分隊長殿の好反応を頂き。



『良いですわね!! 決め事は如何なさいますか??』



 右肩に乗る黒き甲殻を身に纏った蜘蛛の御姫様の反応も上々であった。



『いつも通り継承召喚、魔法の使用は禁止。己の力のみでいいんじゃない??』


『はんっ。それなら私の全勝じゃない。つまんないわよ』



 ユウの頭の上でゴロンっと寝転ぶ龍が溜息にも似た声を漏らしつつ大胆発言を放つから困ったものだ。




『おいおい。この前あたしにボロ負けしたのに良くそんな事言えるな??』


『マイ、寝言は寝てから言え』


『マイちゃ――ん。少ないけど、何回か私勝ってるよ??』


『全勝宣言を速攻で捻じ伏せてみせましょうか??』


『私が全勝』



 それを受けて負けず嫌いの面々が一気に噛みついた。



『お――お――。一山幾らの有象無象の連中が……。いいでしょう。誇り高き龍族であるこの私が直々に相手してやるわ』




『にゃろう……。埋めるぞ……』


『完膚なきまで叩き潰してやる……』


『私も頑張るもん!!』


『嘆きの壁に、絶望の文字を刻んでみせましょう』


『それでも、私が全勝。皆さんを十把一絡じっぱひとからげにして地の彼方へと送ってあげます』



『『『じ、じっぱ????』』』



 師匠に鍛えて頂いたお陰もあり、少なからず俺の実力も上昇していると考え。血気盛んな御方達に勝利を掴んでやると決心したのだが。


 此処までカエデとルー以外の者には勝ち越せていない。


 ユウには何度か一本を取れたのだが負け越して。蜘蛛の御姫様、強面狼、暴飲暴食の龍にはたった一度しか一本を取れず情けない戦績に……。


 師匠の所で鍛えた効果は俺だけでなく皆に等しく訪れているのだから、そりゃべらぼうに強い筈だよ。



 あ、因みに。十把一絡げとはバラバラの物を一つに纏める、という意味でした。



『『『はぁぁ――――っ??』』』



 その意味の真意を知った時の皆さんの反応が怖いのなんの……。


 紆余曲折あり、本日の夕食後も開催される事になるのだが。果たして俺の相手を務めてくれるのは誰になる事やら……。





「よし。上から垂らすぞ――。ユウ、そっちの端を持って」


「あいよ――」



 均等に埋めた支柱の上に天幕を被せ、風で飛ばない様。地面に刺した杭に天幕の端から垂らした縄で固定する。


 慣れている作業もあって残り数十分で簡易寝所が完成するでしょうね。



「レイド様――!! 火の準備、整いましたわよ――!!」


「今行く!!」



 火と料理の番を続けている蜘蛛の御姫様からの声が届いたのでそちらへ向かう意思を伝え。



「ふぁ――。はぁっ……。早く縄を繋げなさいよ」


「マイ、ちょっといいか」



 暇そうに欠伸を放ち、ユウの作業を急かしているお馬鹿さんへ声を掛けた。



「あん?? あによ」


「本日はお前さんにとある作業を任せたいと考えているんだ」


「はぁっ?? 飼牛の世話で忙しいんだけど」



 そう話してユウの頭をペシペシと叩くと。



「おい。後二回叩いたら地平線の彼方まで吹き飛ばすぞ……」



 杭の前でしゃがむ彼女から普段の快活な声とは真逆の低くドスの効いた声が静かに轟いた。



「な、何よ!! 現場監督である私の指示に従えないっての!?」


「作業の邪魔なんだよ。レイドの指示に大人しく従ってろ」


「ぬ、ぬぐぐ!! 分かったわよ!! おらぁ!! さっさと作業の内容を伝えろ!! 助監督!!」



 全体の作業の進捗具合がまるで見えていない監督の下で作業はしたくないよねぇ。



「了解。お前さんには重大な仕事を与える」



 火にくべられている寸胴の前へと歩みつつ話す。



「重大??」


「あぁ、そうだ。マイにはこの寸胴の中に入っているスープの素の管理を担当して貰う」



 石に囲まれた焚き木の上でクツクツと煮沸している寸胴の中の水を指差してあげた。



「いやいや。私、料理関係は壊滅的なの知っているでしょ??」



 確か粗相を働いて、御実家の台所に出禁を食らっているのですよね。


 勿論、此方の台所事情にも当然出入り禁止です。コイツに任せたら二日と持たずに食料が底を尽きてしまいますから。



「安心しろ、そこまで繊細な作業じゃ無いからさ。ちょっと素材を持って来るから待ってて」



 だだっ広い平原に佇んでいる荷馬車へ小走りで向かい粗方の素材を両手に抱え、颯爽と舞い戻る。



「――――。お待たせ!! よいしょっと!!」



 右手に持つ豚の大腿骨を真っ二つにへし折り、それを寸胴の中へ投入。


 続け様に長ネギと生姜をトポンと入れて準備は完了です。



「そう言えば朝出発した街で豚の骨買っていたわね。これをどうすんのよ」


「豚の足の骨の中から出汁を取るんだ。長ネギと生姜は臭みを取る為に入れて、このまま一時間強煮込むんだけど……」


「なげぇ!!」



「豚の足から旨味が出ると同時に灰汁が出て来るんだ。ほら、もう見えるだろ??」



 クワっ!! と口を開いて料理の行程に憤りを表す彼女の言葉を無視して。煮沸するスープの表面に浮かぶ灰色の綿雲を指差す。



「あぁ、この死にかけの芋虫の外皮みたいな奴??」



 もうちょっとマシな表現をしなさい。



「それをお玉で掬って地面に捨ててくれ。くれぐれもお湯を不必要に掬わない事!! その液体には旨味も含まれているからな」


「よ、よぉし……。今晩の飯の笑顔は私の腕に掛かっている訳ね?? やってやろうじゃない!!」



 俺の腕からお玉をふんだくり寸胴の中へ戦闘時と変わらない集中した瞳を向けた。


 その集中力なら安心して任せられるな。


 水が減ったらカエデかアオイに水を足して貰って……。


 頭の中でざっくりと料理の行程を思い描いていると。




「主、夕食は何だ??」


「トロトロに溶けたチーズを掛けたパンと野菜のスープだよ。痛み易いものから順に片付けていかないとね」



 寸胴の前にちょこんと座った狼さんへ本日の献立を説明してあげた。



「チーズパン!! いよっ!! 待っていました!!」


「鍋を見ていなさい」



 もう集中力が切れたのかよ。幸先が不安だな。



「む……。とりゃぁああ!!」



 お玉を器用使って寸胴から掬い上げる。



「どう??」



 そして、お玉の中に浮かぶ微かな液体の表面に浮かぶ灰汁を見せてくれた。



「うんっ。その要領で頼むね」


「わははは!! 私はもう料理を極めたっ!! 大船に乗ったつもりで任せなさい!!」



 たかが灰汁を掬うだけで料理を極められるのなら、世の中腕の立つ料理人だらけになっちまうよ。



「レイド、何か手伝う」


「私もお手伝いさせて頂きますわ」


「お、助かるよ。じゃあカエデはパンの用意と鍋の水量担当、アオイは俺と一緒に野菜を切ってくれ」



 火の側から離れ、簡易調理台として石の上に置かれているまな板の前へと移動する。



「分かった。マイ、お玉貸して」


「嫌よ!! 私が任されているんだから!!」



 だ、大丈夫かな。


 あの二人に鍋の番を任せるのは少々不安だぞ。



「一口大で宜しいですわよね??」


「頼む」



 まな板の上から野菜が刻まれて行く小気味良い音が奏でられ、赤き空へと昇って行く。


 耳を澄ませば聞こえて来る風が風をサァっと撫でて行く音、友人達の軽快な笑い声。


 素敵な夕食前の音にさぞや食欲が掻き立てられる事だろう。



「……っ」



 ほら、お腹が鳴っちゃったし。



「うふふ、レイド様っ。もう少しの我慢ですわよ??」



 作業の手を止めないでアオイが軽い笑みを漏らす。



「申し訳無い……」



 昼からずぅっと行動し続けているからお腹が減るのは当然の生理現象なのですよ……。



「どうですか?? 切れましたけど」



 彼女が一口大に切り分けた人参、玉葱、ジャガイモ等々の野菜を満足気に見せてくれる。



「うん、有難うね。後はこの干し肉をみじん切りにしてっと……」



「細かく刻んでどうするのですか??」


「ん――?? 野菜と一緒にスープの中に入れるんだよ。野菜の柔らかい食感と、水を吸った丁度良い食感の干し肉が相乗効果を生み出すからね」


「良く考えていますわねぇ……」


「これ位誰でも考え付くさ。あっ!! しまった!!」



 これだけじゃ絶対足りないと文句が放たれるから古米を炊かなきゃ!!



「如何なさいました??」


「腹ペコさん達のお腹を満たす為に古米を炊くんだよ」



 可愛い角度で不思議そうに小首を傾げて忙しなく動く俺を見つめる。



「卑しい食いしん坊が居ますからねぇ。レイド様の御手をこれ以上煩わせるのは了承出来ませんわ」


「まぁそう言うなって。切り分けたら野菜と干し肉をスープの前へ持って行ってくれる??」


「畏まりましたわ」



 さてと!! 此処からが忙しくなるぞぉ……。


 古米の米の表面に付着した汚れをささっと落として優しく飯盒の中へと投入。木製のタライに溜めてある水で飯盒の中を満たして火にくべる。


 後はコイツの様子を見つつ、スープの番か。


 忙しいと呟きつつも心の中では陽性な感情が生まれている。


 皆で一緒に作って食べる御飯は美味しいですからねぇ。



「マイ、貸して」


「嫌だって言ってんでしょ!! 後、服引っ張んな!! 下着が見えちまうだろうが!!」



 やっぱりあっちには近寄らない様にしよう。


 見た、見ない等。いちゃもん付けられて硬い拳で横っ面を殴られたく無いし……。


 薪から立ち込める炭の香と耳から入って来る彼女達の明るい声を頂きながら食事の行程は何んとか順調に進んで行った。




お疲れ様でした。


日々春の匂いが近付く中、やはりどうしても奴等の存在が気になって仕方がありません。


間も無く訪れる花粉のシーズン。


この季節だけは鼻をもぎ取って地面に叩き付けてやりたくなるから困ったものですよ。御飯の味が薄く感じますし、大量のティッシュを使用してしまいますし……。


その所為か、やたらと味が濃い物を食べたくなり。時間を見つけてはあの黄色い看板が目印のカレーチェーン店へ赴くのです。


まぁそれは只単に私があの店のカレーが好きなだけなんですけどね。



それでは皆様、お休みなさいませ。

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