第七話 英気を養う素敵な夕食会 その一
お疲れ様です。
週末の深夜にそっと投稿を添えさせて頂きます。
それでは御覧下さい。
日が暮れて夕食時にもなると南大通りは盛況の真っ盛り。
飲食店からは男女の騒ぐ声や店員の生きの良い声が通りに溢れ出て俺達の心に陽性な感情をもたらしてくれる。
歩道沿いに立っている照明用の松明が風に揺れて温かさと炭の香りが届けば気分を高揚させ、美しい夜空が人の営みを装飾していた。
文明の香りが届かない場所ではもう既に眠る準備を始めるのだが、この街は夜が訪れてもまだまだ元気一杯だ。
それに店先から否応なしに食欲を誘う馨しい香りが放たれれば、足が急くのは自然な行為。
『おら!! 遅いぞ!! チンタラ歩くんじゃねぇっ!!!!』
当然、この香りに急かされた食欲の塊が先頭を歩く訳なのです。
「店の場所分からないんだろ?? そんなに急ぐなよ」
肩で風を切ってグングンと進んで行く背中に言ってやった。
『うぐぐ……。それならあんたが先頭を歩きなさいよ!! もう腹ペコなんだから』
「さっき、何か食っていただろ??」
懐から取り出した小麦色……。恐らくクッキーなのだろうが。
それをポリポリと摘まみながら歩道を歩いていたし。
いつもなら御飯前に食べてはいけませんと諸注意を放つのですが、内心ほくそ笑んでいたのは秘密。
例え少量でもアイツの胃袋を満たしてくれる訳だ。小さな努力の積み重ねがいつか実を結ぶように、その結果が如実に表れる事を期待して……。
『あれは、繋ぎみたいなもんよ。あ、駄目っ。お腹ちゃんを刺激したら余計にお腹が減っちゃった……』
残念無念。
俺の思惑は普通の人に対しての効果であり、深紅の龍には逆効果でした……。
「まぁ、焦らなくてもいいよ。今日の食事は……。此処で頂くんだ!!」
ペイトリオッツの店先で歩みを止めて少々大袈裟に言ってやる。
『おぉ!! 中々いいお店だね!!』
『あぁ。良い匂いが店から漂って来るぞ』
鼻の利く狼二頭が綺麗に整った鼻をスンスンと動かして扉から漏れて来る香りを満足気な顔で捉えた。
「ふふん。そうだろう?? ちゃんと個室を予約してあるから、肩の力を抜いて楽しんでくれ」
明るい表情の狼二頭へそう話して店内へと続く扉を開いた。
「いらっしゃいませ!! ペイトリオッツへようこそ!!」
予約を頼んだ店員さんでは無いな。
俺達を見付けた店員さんが元気な声を上げると、此方へ向かって小走りでやって来る。
「えっと。今日七時から個室の予約をしてあるレイドと申します」
「御予約のお客様ですね!! 確認してきますので少々お待ちください!!」
お願いします。
その意味を込めて小さく頷いた。
『あのお肉、絶対美味しいだろうなぁ』
涎を拭く仕草をして焼きたてのお肉を見つめる陽気な狼。
『店内の雰囲気は良いですね。これなら味も期待出来そうです』
海竜が大きく頷けば。
『あの長机の上に置かれている料理、全部食べれちゃいそう……』
今も舌鼓を打つお客さん達の品々を龍がトロンと垂れ下がった目で眺めた。
一部不穏な台詞を放った人もいますが、皆さんの反応は上々。
頑張ってお店を探した甲斐もあるものだと満足気に一つ頷くと、先程の店員さんが忙しなく足を動かして戻って来てくれた。
「お待たせしました!! 案内致します!!」
「どうも」
店員さんに連れられて店内の右奥にある二つの扉へと向かう。
その途中、長机の間を通る訳だが……。
マイ程では無いがこの香りは空腹に堪えてしまいますね。
大きな一枚肉が馨しい香りを放つソースの布団を掛けられて皿の上に寝かされ、水々しい緑の息吹を感じさせる野菜が白き皿の上に盛られ、トマトの赤みを携えたパスタが不規則に宙を舞って人の口へと収まる。
そしてそれらを食した客の上機嫌な笑顔が味を物語っていた。
看板娘さんが勧めてくれたこの店は大正解のようだな。見ているだけでお腹が減っちゃいますもの。
「では、こちらへ」
店員さんが二つある扉の内右側を開けると、そこは多少狭いながらも肩の力を抜いて寛げる空間が待ち構えていた。
部屋の中央に大きな丸型の机が置かれてそれを囲む様に八つの椅子が置かれている。
木製の壁と天井は少々汚れているけどもまぁ許容範囲だ。
『まぁっ。うふふ、レイド様。椅子が八つですわよ??』
アオイは八の数字が好きだからねぇ。
右腕に絡みつこうとさり気なく距離を縮める彼女から逃れる様に着席。
『もぅっ。辛辣ですわねぇ』
「ご注文がお決まりになりましたら、申し訳ありませんが扉を出て近くの店員に注文を仰って下さい。今からお水を御持ち致しますので、少々お待ち下さいね」
「どうも」
軽い会釈をして店員さんを見送ると、席の前にキチンと角度を揃えて置かれている品書きを手に取った。
「おぉぉ!! こんなに沢山あるの!?」
此方の机の真正面に座るマイが品書きを開くと同時に陽性な声を上げる。
まぁあの程度の声量なら扉から漏れる事も無いし、大丈夫でしょう。
「本当だな。こりゃ、選ぶのに時間かかるかも……」
マイの左隣りに座るユウも嬉しい悩みに顔の表情が緩んでいた。
肉料理、様々な種類のパスタ、野菜の盛り合わせ、一品料理の数々。
縦から順に流して読むが、品の多さに心が惑わされてしまう。
参ったな……。
種類が多過ぎてどれを軸にして頼めばいいのか判断に迷ってしまうぞ。
焦るなよぉ、俺。此処で失敗したら取り返しがつかないからな!!
鋭い鷹の目を浮かべてじっくりと品定めを開始した。
「ねぇ、レイド」
「ん――?? どうした??」
ルーの声を受け、品書きから視線を上げずに答える。
「どれ頼んでもいいの??」
少しばかり遠慮した声だ。
値段が気になるのかな??
料理の値段は文字の右端に書かれているのですが、そのどれも良心的な値段。
何より祝い、若しくはお礼の席でお金を出し渋るのはあまり好ましい事では無い。
「値段は気にしなくていいよ、今日は皆が俺の命を助けてくれたお礼を兼ねているんだ。それにお金も下ろして来たから安心して」
「本当!? やったぁ!!」
ふふ。
食べる前からそんな陽気な声を出されたら、こっちまで嬉しくなってしまうではないか。
これは皆へ贈らせて頂く感謝の印なのだから。
気にせず存分に食べてくれ。
「レイド様は何を所望されるので??」
右隣りのアオイが品書きからふと視線を外して問う。
「まだ決まらないよ。これだけ多いとなぁ……。アオイは??」
「私もですわ。どれも興味をそそる物ですから……」
元の位置へ視線を戻すと再び難しそうな表情を浮かべた。
普段の凛とした姿はそのままだが、品書きを少しばかり睨みつける姿が此方に陽性な感情を持たせた。
アオイでも悩ましい表情を浮かべるんだな。
「迷うなら店員さんにお薦めを聞いてみる?? ほら、水を持って来てくれるみたいだし??」
「そうですわね。参考にしてみましょうか」
「失礼致します。お水をお持ち致しました」
機会を窺った様に先程の店員さんが部屋に入って来ると慣れた手付きで各々の前に水の入ったコップを置き。
「それでは失礼致します」
静かな所作で部屋を退出しようと歩み出す。
「あ、すいません」
扉の前へ到達する前に彼を呼び止めた。
「はい?? 何でしょう??」
「お薦めは何かありますか??」
「そうですね……。牛肉でしたらこの一枚肉がお勧めですよ?? しっかりと焼き目を付けて特製のソースをかけて、店の常連さんも必ずと言っていい程注文されていきます。パスタですと、ニンニクと胡椒を使った物が人気ですね。いや、トマトソースも人気だな……」
俺の質問に難しい顔をして考え込む。
此方の質問を真摯に受け止めてくれて……。良い人だな。
「あ!! 申し訳ありません。これだけ沢山勧めては迷ってしまいますよね」
「いえいえ。参考になりました」
「そうですか。ごゆっくりお考え下さい」
そう話して一つ頭を下げると部屋から出て行く。
うむっ!! 店員の態度も良好だ。
これで料理の味も良ければ正に言うこと無しだね。
「皆、お薦め聞いてた??」
「勿論!! 肉は外せないわねぇ……」
「う――ん。あたしは、牛肉は駄目だからそれ以外で攻めるか……」
「ユウ、悪いな」
相変わらず難しい顔で品書きを見下ろす彼女に言ってやった。
「ううん、気にしないで。他にもこれだけあるんだ。十分満足出来るよ」
「そっか」
笑顔でこちらに返してくれる。
その気遣いが嬉しいな。
「うむむ……」
「迷うなぁ……」
皆一様に品書きと睨めっこをしている。
かく言う俺もその内の一人なのだが……。
この鶏肉のピリ辛炒めを軸にして、パスタとパンで……。
うん、大分掴めて来たぞ。
「決めた!! はぁぁああ……。てぇへん難儀な仕事だったわぁ」
マイが手の甲で額を拭う。
大袈裟な奴め。
「決めたのか??」
「勿論よ。私の完璧な作戦に惚れ惚れするといいわ」
「何だよそれ。俺が注文を伝えに行くから皆は念話で決めた物を伝えて」
各々の様子を確かめる様にぐるりと見渡して話す。
「まだ決まらない」
「ゆっくりでいいよ」
左隣のカエデに言ってやる。
「リューヴは決まった??」
「肉と……。うむ、肉だな」
己の答えに満足したのか、一つ頷き品書きを閉じた。
やっぱり狼は肉が好物だよな?? 肉以外にも食べないと栄養が偏りますよ??
「レイド様、私も決まりましたわ」
「決まったよ――!!」
「あたしも決まったぞ」
「…………。ふぅっ、決まりました」
各々が顔を上げて此方を見つめた。
「よし、じゃあ行って来るよ。そうだな、マイから時計回りに伝えてくれ」
「あいよ――」
ユウの言葉を受けて席を立つと大部屋へと繋がる扉を開ける。
えっと。店員さんは……。
お、いたいた。
「すいません。注文をお願いします」
「あ、はい!!」
盆に乗せた料理を忙しなく客席へ運び終えると此方に小走りでやって来てくれる。
『マイ、いいぞ』
「では注文を御伺い致します」
店員さんが小さな紙を取り出し、注文を受ける構えを取った。
『牛肉の一枚肉のソース添え、ニンニクパスタ、塩味のおにぎりを三つ、それと肉をふんだんに挟んだパンを二つ、南瓜のスープと肉野菜炒めで。最初はこれくらいねぇ』
いやいや、初手にしては多過ぎない??
「えっと。牛肉の一枚肉の……」
マイの注文を伝えると、店員さんの手が忙しなく動いてもう既に申し訳無い気持ちが一杯になってしまう。
『ユウ、いいぞ』
『ニンニクパスタ、新鮮野菜の盛り合わせ、塩味のおにぎり一つ、南瓜のスープだな』
「それと……」
ユウの控えめの注文を伝える。
この要領でどんどんいこう。
『アオイ』
『鶏肉のピリ辛炒め、クリームパスタ、鶏ガラ出汁のスープ、でお願いしますわ』
「鶏肉の……」
よし、次は俺だな。
「鶏肉のピリ辛炒め、トマトソースのパスタ、後胡椒たっぷりのスープで」
『カエデ』
『トウモロコシのスープ、新鮮野菜の盛り合わせ、茄子とトマトソースのパスタです』
「トウモロコシの……」
しまった!!
茄子もあったか。
『リューヴ』
『牛肉の一枚肉のソース添え、鶏肉の香草焼き、肉をふんだんに挟んだパンを一つ』
「牛肉の一枚肉の……」
よし、次で最後だ。
『ルー、お待たせ』
『牛肉の一枚肉のソース添え、肉団子のスープ、塩味のおにぎりかな!!』
「一枚肉の……。注文は以上です」
「……はい。畏まりました。では注文の確認をお願い致します。牛肉の一枚肉のソース添えが三つ……」
店員が話している間、肯定の意味を含ませて頷く。
正直、全部覚えていないけど頷かないよりかはマシでしょ。万が一、店員さんが注文を聞き逃したとしてもまた注文すればいいし。
「……以上で宜しいでしょうか??」
「あ、それと大満足パンを十個とお茶を人数分お願いします」
ふふ、品書きの中に書かれていたこれを俺は見逃さなかったぞ。
どうせアイツは馬鹿みたいに食うからその繋ぎとしてこのパンを注文しておくのさ。
「お客様。そのパンはかなりの大きさでして、女性の方だと残してしまう恐れもありますよ??」
ほぉらっ。俺の予定通りじゃないか。
「構いません。あぁ見えて大食漢なので」
漢では無くて大食女かな??
「畏まりました。では、追加でパンを十個……。はい、受け賜わりました!! 出す順番は如何致しましょう??」
「腹が減って死にそうと言っているので、出来次第じゃんじゃん持って来て下さい」
「畏まりました!! 少々お待ちください!!」
一つ礼をすると、厨房へと駆けて行く。
頼み過ぎちゃったかな?? でも、これでも多分足りなくなるから初手としては悪くない選択だよね。
「ただいま――」
再び扉を開けて元居た席へと戻り。
「ふぅ……」
小さく息を吐いて、水を口に含んで乾いた舌を潤した。
「うむ。御苦労だった」
「何様だよ。出来次第持って来てくれるからもうちょっと待ってね」
机の上にコップを静かに置いて話す。
「はぁ。早く来ないかなぁ……」
ルーが机の上に頭を乗せて心急く思いで体を動かす。
「慌てるなよ。こういうのはじっと待つほど美味しく感じるんだ」
彼女の隣に座るユウが言った。
「え――。そういうものなの??」
「そうよ?? 玄人は何事にも慌てずに、心を落ち着かせ、真摯にこの時間を受け取るものよ」
食事の待ち時間一つでそこまで大袈裟に語るものかい??
まぁでも俺も心が逸っているのは事実。
扉を閉めても馨しい香りが部屋の中へ充満して悪戯に食欲を刺激していますので。
日常会話若しくは料理を心待ちにする声が行き交う陽性な雰囲気の中、その光景を何とも無しに眺めていると。
「…………レイド。ちょっといい??」
カエデが体を寄せて此方に小声で話し掛けて来た。
「どうした??」
「えっと。その……」
何だろう??
何か話し難そうにしているな。
「話し難いのなら、後で聞くよ??」
周囲に存在する陽性な声よりも大分小さな声で答えてあげる。
「うん。それでお願い」
「了解」
皆が居る前だと話し難い事って……。
任務について??
それとも、俺の普段の生活態度の不甲斐なさを指摘したいのかな??
思い当たる節が多過ぎて頭を抱えてしまいそうですね。
「あ、そうだ。明日は八時前に本部へ向けて出発するよ。西門を出てなだらかな丘の麓に……そうだな。十一時位に集合でいいかな??」
今の内に言っておこう。
朝の余韻を引きずって忘れられても困るし。
「了解――。おやつとかは明日買い揃えばいいわよね??」
「何で菓子を買う事を前提で聞いて来るんだよ」
「え?? だって移動中に必要な物じゃない」
マイがさも当然とばかりに話す。
「あんまり派手に買うなよ?? ウマ子の負担が増えるだろう」
「へ――き、へ――き。あの馬はちょっとやそっとじゃへこたれ無いわよ」
まぁ、それは一理あるけど。
明日は久々に会うな……。元気にしているかな、ウマ子の奴。
そして調教師である彼女を困らせていないだろうか。ウマ子の体調云々よりもそちらの方が気になってしまう。
「マイ。ウマ子の負担を増やしちゃ駄目」
カエデが釘を差す様に話す。
「はいはい。適量にしますよっと」
お前さんの場合その適量が怖いんだよ。
「カエデはウマ子と仲がいいからなぁ。最近会っていなくて寂しいんじゃない??」
左隣りでコクコクと静かに水を飲むカエデを見て話す。
「うん。久々に会うから美味しそうな野菜、見付けたら買って行く」
「はは。あいつもきっと喜ぶよ。あ、そうそう。人参は嫌いだからあげないように」
「知っている」
「そっか」
「珍しいよね――。馬なのに人参が嫌いだなんて」
ルーがコップの水を一口飲んで話した。
「俺も最初は驚いたよ。他の馬は美味そうに人参をバリバリ食べているのに一切口にしなかったからさ。口に宛がったら思いっ切り手を噛まれたよ」
『貴様っ!! 私を殺す気か!?』
そうそう、モフモフの唇をクワッ!! と開いて噛みつかれたっけ。
右手を痛む振りをして言ってやった。
「あはは!! 噛まれちゃったんだ」
「あいつ、気に入らない事があると直ぐ噛むのよね……」
マイが眉間に皺を寄せる。
「初めてウマ子と会った時、顔からガブリと食いつかれたよな」
馬の口内で赤き龍の悶える声が脳裏に蘇った。
「そうよ。あの涎まみれの口の中……。馬肉にしてやろうかと思ったわ」
「おい、そんな事してみろ。縁を切るからな」
「そう。許さない」
とんでもない事を言い出すのでカエデと共に食いついてやった。
「冗談に決まってるでしょ。見ての通り、今じゃ仲良しよ」
お道化て言い放つ。
「お前さんが言うと冗談に聞こえないんだよ」
腹が減って死にそうになれば、本当に食いそうな気がする。
それだけは絶対阻止するけどな!!!!
ウマ子は動物だが大切な仲間なんだ。マイ達を含めたこの面子は誰一人として欠けさせる訳にはいきません。
「失礼致します」
おっと。どうやら、注文した料理が運ばれてくるようだ。
数名の店員さんが扉を開いて登場すると俺達の目の前に注文した料理を次々と並べていく。
「おおぉぉ……」
食欲を誘う香りについつい感嘆の声が出てしまう。
美しい焼き目が目立つ鶏肉に細かく刻まれた唐辛子が乗せられ、塩と胡椒の色彩と揺らぐ蒸気に乗せた馨しい香りが否応なしに唾液を分泌させてしまう。
酸味のある赤いトマトのソースの布団にくるまった美女が此方に向かって手招きすれば、温かい湯気を放つスープが早く手に取れと叫ぶ。
いや、本当に美味しそうだな……。
「後の料理は出来次第お持ち致しますので、少々お待ちくださいね」
店員さんがそう言うと静かに部屋から出て行く。
そして、欲望に駆られるまま料理へ手を伸ばそうとするのですが。
「オホン!! さて、料理が来た所で。改めて皆に礼を言わせてくれ」
その欲望をグッと堪えて一つ咳払いをして立ち上がった。
「は?? 急に何よ??」
俺が立ち上がって話をしようとするとあからさまに不機嫌な顔を浮かべる。
何故なら、手元へ美味そうな肉を引き寄せて齧り付こうとしている所でしたからね。俺は彼女の食事を邪魔する無粋な輩らしい。
「まぁちょっと聞いてよ」
「早くしなさいよ。お肉が冷めちゃうから」
分かっていますよっと。
「先日の件、皆には本当に世話になった。今、こうして皆と食事を共に出来る事を俺は誰よりも感謝している。不甲斐ない俺が皆の足を引っ張ている事は重々承知だ。普段のお礼、そして共に行動してくれているお礼。様々な感謝を込めて、今日は楽しんで貰いたいと考えている。思う存分食い、明日からの任務に備えてくれ!! 以上だ」
「ふふん。良い心掛けよ?? では……、頂きます!!!!」
「「「頂きますっ!!」」」
マイの号令と共に各々が注文した皿を手元に引き寄せて素敵な夕食会が幕を開けた。
さぁ、明日から始まる任務を滞りなく遂行出来る様に英気を養いますかね!!
湧き起こる食欲に身を委ねて、早く手に取れと直接視覚に訴えて来る焼き目が美しい鶏肉の皿へと手を伸ばした。
最後まで御覧頂き有難うございました。
この夕食会を終えた後御使いへと向かいます。
御使いの説明から出発まで少々長引いた事をお詫び申し上げます。
それでは皆様、良い週末を過ごして下さいね。




