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プロローグ

お疲れ様です。


本日から第三章が開始されます。


温かく見守って頂ければ幸いです。それでは御覧下さい。




 澄み渡った夜空に浮かぶ月から怪しい光が広大な大地に広がる深い森を淡く照らす。


 森の木々の合間から射す光量は夜目が利かない人間にとって貴重な存在。


 その明かりを頼りに三名の人間が深夜の森の中を慎重な歩みで移動し続けていた。



「ムートさん。まだっスか――」



 冒険者そのものの出で立ちで鼻息荒く先行する二人の後方。


 彼等に渋々とついて歩く若い男性が口を開く。



「ふふ、もう間も無く到着予定だ」



 蓬髪気味の黒髪に少し白髪が混ざった男性が彼へ端的に言葉を返す。



「それ、五分前にも聞きましたよ??」


「文句を言わない!! もう直ぐ歴史的大発見に出会えるのかも知れないから我慢するのっ!!」



 黒みがかった茶の髪の若い女性が再び彼へと言葉を返した。



「はいはいっと。羽振りがいい仕事があるから飛びついてみれば……。こぉんな僻地で齷齪歩いて。俺は傭兵なんスからね?? 森の中を楽しく散歩するのはお門違い……」



 彼が朽ち果てた倒木を踏み越えようとした刹那。



『ウォォォォン…………』



 月下の狩人の美しい遠吠えが彼等の耳へ届いた。



「げぇっ。な、なんか。狼の声が近付いていません??」



 狼の遠吠えに対して慄く彼。



「ふ、ふふっ!! いいぞぉ、伝承は間違っていないかったのだ!!」

「やったねお父さん!! これで私達の仮説が正しいって証明出来るんだよ!!」



 しかし二人は慄く処か、鼻息を荒げて一段階歩みの速度を上げて進み始めてしまった。



「仮説?? ムートさん、あんたが考古学の権威だったってのは旅すがら聞いたけどよ。学会を脱退したあんたが誰に何を証明するんだよ」


「誰に証明する訳でもないさ。そうだな……。強いて言えば、歴史に対して証明すると言えばいいのかな??」



「歴史に対して?? ちょっと格好つけて話す姿が鼻に付くんスけど」



 長々と溜息を吐く彼に対し。



「いいかい?? 歴史には必ずと言っていい程人、若しくは魔物が生きた証が刻まれているんだ」



 ムートと呼ばれた男性が歩みを止めて若干得意気に口を開いた。



「今回の依頼者が所持していた私が知る限り最古の文献にも人が生きていた証は刻まれていた。しかし、君は気にならないのかね?? 人が何故、歴史にその足跡を刻める事が出来たのかと」



「――――。いいえ?? 俺はその日生きて、その日美味い飯と酒を呑めればそれで万々歳ですから」



「「はぁ――……」」



 あっけらかんと話す彼に対して二人が大きな溜息を吐いた。



「私の仮説が正しければ……。人間は元々魔物に従って生きて来たんだ」


「魔物ぉ?? ポツポツと目撃情報は出ていますけど。今からぁ――……」



 思い返す様に顎へ指を当てて話し。



「約三百年前だね!! その時を境に人は魔物と言葉を交わせる事が出来なくなり、魔物が記した文字も読めなくなったのです!!」



 女性がそれを補足した。



「その通りっ。魔物が編纂したであろう文献、壁画は『読めない』 が。『見る』 事は出来る」


「はっ?? 何でそこ強調してんスか??」


「おっと……。もっと深く言わなければ理解出来ないか」



 フフフ、と。


 見方によっては得意気な含み笑いに乗せて声を出す。



「オークの出現によってこの大陸に住む人々はそこばかりに注視してしまっているから質が悪い。もっと根幹に目を向けると……。魔女がどうして人と魔物の意思疎通を阻害してしまったのか。そこへ注目を置くべきなのだ」



「すいやせん。もっと分かり易く」



「これ以上かね!? 仕方があるまい!!」

「あ、いや。近いっス」




 ムートは興奮しきった顔で彼にググっと近寄り、静寂な森に似合わない声色で口を開いた。



「魔女は恐らく……。人が足を踏み入れるべきではない場所へ踏み入れようとしたので、それを阻む為に恐ろしい呪いを我々にかけたのであろう」


「えぇ――っと。つまりぃ……。魔物が書いた本、若しくは壁画?? その他諸々に触れてほしくない情報が含まれている、と??」



「「大正解っ!!!!」」



「仲良く俺に向かって指を差す所、流石親子っスね。じゃあその触れて欲しく無い情報ってのは??」



 興奮冷めやらぬ彼等に対して傭兵の彼が嫌々と口を開くと……。



「う、む……」

「そう、ですね……」



 二人同時に腕を組んで唸り始めてしまった。



「何スか。ここまで話してその情報は分かっていないんスか??」



「そ、それを探す為に此処へ来たのだ!!」

「そ、そうなのです!!」



「あ、はい。じゃあその目的物は一体何??」



 詰め寄る二人から距離を取って傭兵が口を開く。



「それは……。何んと呼べばいいのか。強いて呼ぶのならぁ……。『神器』 だな」


「神器?? また仰々しい名前っスね」




「私が今まで得た壁画、文献の絵の情報では必ずといっていい程。人は魔物に頭を垂れていた。それは……。正しく神へ祈りを捧げて頭を垂れるみたいに。そして、今回提示された絵の中に三つの器らしきものが描かれていたのだ」



「その前後には神々の争いらしき絵も描かれていてね?? その三つの神器を使用して恐ろしい神を退治したと判断出来る絵が描かれていたんだよ。そして、アイリス大陸の屋根と呼ばれるクレイ山脈北西部の麓にその一つがあると仄めかされていたんだ!!」



 女性が若干呆れ顔の傭兵へ向かって鼻息荒く話すが。



「麓ぉ?? 滅茶苦茶広い範囲じゃん」



 傭兵は巨大な溜息を吐いて遠く彼方。


 大地に聳え立つ山脈が腰を据えて待つ方角へ視線を向けた。



「フフッ、御安心を!! 神器の一つが封印されている絵には狼さんの絵も描かれていたのよ!!」


「あ――。だから狼の遠吠えが聞こえ始めた時からずっと興奮してたんだ」


「狼さんから私達を守る為にイ……。おほんっ!! 今回の依頼者が貴方を護衛として雇ったのです!!」



 彼女が再び傭兵の顔を指で差す。



「ほぉん。じゃあその神器ってのを俺達は探しに来て。んで、それが見つかれば。ムートさんがこれまで必死になって得た情報を統合して、人間は魔物に頭を垂れて生きて来たって仮説が立証出来る訳だ」



「その通りっ!! フフフ!!!! この数日間、興奮しきって真面に眠れなかったからな!!」


「お父さん!! もう直ぐだね!!」


「ハハハ!! これで私を追い出した学会の奴らを見返す事が出来るぞ!!」



 ムートが高笑いを上げる。



「学会で異端な発表をした為、追放されたんスね」


「あ、いや。それは違う」



 高笑いをピタリと止めて真剣な面持ちで傭兵を見つめる。



「は?? じゃあ何で??」



「学会を追い出された理由それは……」

「そ、それは……??」



 ムートの鬼気迫る表情を受けて傭兵が固唾を飲む。




















「―――――――。年会費を払い忘れたのだっ」


「はぁっ!? そんな下らねぇ理由で追放されるの!?」



 彼の想定外の答えを受けて盛大に前のめりになってしまった。



「何を言っているの!! 年会費は学会の維持に必要なんだよ!?」

「その通りだ!! 払い忘れた私に全責任があるっ!! すまぬな!! 娘よ!!」


「ううん!! 歴史的大発見を手にして、また入れて貰おうね!!」



「はぁ――。見付かればいいっスねぇ――」



 目に涙を浮かべて仲良く互いの手を取る親子を見つめて大きな溜息を吐くが。



「でも、あれじゃないっスか?? 魔女が触れて欲しくない情報がそこにあるのなら、俺達はたった三人でその危険地帯へ行くんスよ??」



 ふと我に返って最もな台詞を吐いた。



「安心したまえ!! 野生の狼が居るだけで他の危険な生物は確認出来ないだろうから!! さぁ行くぞ!!」



 ムートが意気揚々と森の中を歩み始めたので。



「漠然とした情報で向かうのはどうかと思いますよ」



 彼は嫌々ながら彼等の跡を追い始めた。



「大体、俺を雇った人も不明でさぁ――。偶々予定が空いている俺に白羽の矢が立って。こんなあぶねぇ仕事を紹介した傭兵紹介所もどうかと思うぜ??」



 木々の枝の先に生える葉の擦れ合う音が聞き取れてしまう静寂の中、彼の愚痴が熱を帯びて行く。



「紹介所の所属変えようかなぁ。王都でも一番デカイ紹介所なんスけどね。犬の散歩から果てはオーク討伐の仕事まで。規模が大きい分仕事の幅も広いから困った……。ん?? どうしたんスか?? 急に立ち止まって」



 彼の視線の先。


 柔らかき月光を浴びた彼等が足を止めて微動だにしていなかった。


 それはまるで彼等の周りだけ時が止まった様にも見えてしまう。


 その様子を不審に思った彼が恐る恐る彼等の視線の先を追うと……。



「…………。グルゥゥ」



 一頭の黒き毛皮を纏った狼が三名の行く手を阻んでいた。


 通常の狼の体高は大人の腰よりも低い高さ。


 しかし、彼等の前で嘯く声を放つ狼は人の腰の高さをゆうに越える体高さを誇っている。


 両の前足は鍛え抜かれた人間の男の太さと遜色ない太さを持ち、その先には肉を鋭く切り裂く鋭利な爪が装備されていた。


 巨大な口から覗く牙は人から戦意を奪い取り、鼓膜を細かく震わせる獣の声は心に恐怖を抱かせる。



「二人共。狼を刺激しない様に下がれ」



 傭兵が彼等の前に立ち、今にも飛び掛かって来そうな狼と対峙した。



「で、でもっ。この先に我々が探し求める物が……」


「命あっての物種って聞いた事ないか?? 俺もこんな辺鄙な所で死にたくないんスよ」


「う、うむ……」



 威嚇を続ける狼から、此方には微塵も敵意が無い事を証明する所作で後退を開始。


 狼から距離を取ろうとするが……。



「グルルゥ……」



 敵意を剥き出しにする狼は彼等と間隔を維持しながら迫り来る。



「ふ、ふぅっ――。いざとなったらコイツの首を刎ね落とします」



 傭兵が左の腰に下げている剣の柄へ手を置いた刹那。



「「「「ウ゛ゥゥウウ――…………」」」」



 四方八方を囲む深い闇の中から獣達の嘯く声と、怪しく光る多数の目が現れた。



「う、う、嘘でしょ?? お、お父さん!! 囲まれちゃったよ!?」



 慌てふためく女性に対し。



「こ、これは……。私の仮説が証明された証拠では無いか!?」



 彼女の父親は興奮した面持ちで闇の中から現れた狼達へ煌びやかに光る眼差しを向けていた。



「や、やっべぇ……。囲まれちまった……。こ、こんな場所で俺は死にたくねぇ!!」


「あはは!! やっぱりそうだったんだ!! この地に神器は眠っている!! 私は正しかったんだぁぁ――!!!!」



 刻一刻と恐ろしい体躯を持つ狼が迫る中。


 ムートは美しい夜空へと向かって叫ぶと。



「「「ウォォォォオオオオン――ッ!!!!」」」



 彼の声を戦闘の始まりと捉えた月下の狩人達がその声量を遥かに凌駕する咆哮を放ち。その数舜後には彼等の悲鳴が微かに続いた。



 人間の矮小な叫び声は深き森の中へと吸い込まれて行き、月光が照らす大地には再び静寂が訪れ。


 彼等の姿は初めからそこに存在していなかったかの様に森の中には悠久の昔から続く不変的な時間が流れ始めたのだった。




最後まで御覧頂き有難う御座いました。


さて、皆様。冒頭で御話した通り本日から第三章が始まります!!


様々な御使いや冒険が待ち構えていますので、是非楽しんで頂ければと考えております。



そして、ブックマークをして頂き有難う御座いました!!


素敵な応援を頂き本当に嬉しいです!!


更に、此処で皆様へ重大なお知らせがあります……。


な、な、なんと!!


先日神ゲーの一つとして推していた『LIVE A LIVE』 がリメイクして発売されるのです!!!!


それを知った時、私は。あぁ、またあの感動を味わえるのかと胸が一杯になりました。


涙無しでは語れない功夫編。 熱き友情が蘇る近未来編。 百人切りか将又零人切りか、やり込み要素満載の幕末編。


そして、そしてぇ!!


私がイチオシする知力25が帰って来るのです!!


新しい腕時計に靴、読者様からの嬉しい知らせ、更にリメイクの発表。


第三章の門出に嬉しい知らせばかりで若干可笑しなテンションの後書きになってしまった事をお詫びいたします。


後、これは蛇足ですが。本日小説の、いいね機能を知りましたので使用出来るようにしておきました。宜しければポチっとな、と。興味本位で押してあげて下さいね。


それでは皆様、お休みなさいませ。


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