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第百八十五話 紆余曲折ありましたが、素敵な夕食会の開始 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿なります。


それでは、どうぞ。




 夕日が降り注ぐ温かい空気の中、素敵な夕食の光景を眺めていると。



「レイド!! こっちへ来い!!」



 休日の居間で寛ぐお父さんの姿勢でだらけていた肝が天へと背骨を伸ばしてしまう怒号が響き渡った。



「は、はい!! 只今!!」



 与えられた号令に従い、グシフォスさんが待つ席へと瞬き一つの間に駆け出して。



「お、お待たせしました!!」



 獲物目掛けて急降下する鷹さんも思わずお手本にしたくなる速さで到着した。



「うむ。よく来た」



 突然呼び出して……。何か、悪い事したかな??


 太い腕を男らしく組み、目を瞑って不動の姿勢を貫く彼から次の指令を待つ。



「お前が釣り上げた魚だ。先に食う事を許可しよう」


「へ??」



 グシフォスさん達が囲む席の中央。


 そこには美しい白身の魚の身が豊潤な香りを放ち、他の食材が霞んでしまう程の存在を放つ。


 しっかりと焼かれた身からは今も蒸気が宙に漂い、微風に乗って鼻腔へ馨しい香りを届けてくれた。


 あれが人面魚の身??


 言葉は悪いが、不細工な顔からはとても想像出来ない身の美しさに吐息が漏れてしまった。



「ごめんねぇ、レイドさん。この人変な所で細かいから。言葉足らずだとは思うけど、一口頂いて下さいな」


「い、いえ。献上させて頂いた魚を先に口にするなんて出来ませんよ」



 慌てて断りの言葉を述べた。



 そりゃそうだろう。


 差し上げた物を、客人が先に口にするなんて……。



「いいじゃない。先に食べちゃえば」



 フィロさんの隣に座るエルザードが口を開く。



「あのなぁ。そんな失礼な事出来る訳ないだろ」


「ほぅ?? 貴様、俺が勧めているのに……。それを断る。と言うのか??」



 鋭い視線と言葉が胸に突き刺さるとほぼ条件反射で行動を開始。



「わ、分かりました!! 頂きます!!」



 行儀が悪いかと思いますが立ったまま箸で身を解して口に運んだ。



「…………。美味しい!!」



 すっげぇ……。何、この美味さ。


 ほっくりとした柔らかい身を少し噛んだだけでトロっと舌の上で溶けてしまう。


 唾液と身が混ざり甘味を感じれば、丁度良い塩梅の塩加減が口内を喜ばせる。


 不細工であるが人面魚の身は鯛もキィっとハンカチを噛んで羨む程の絶品であった。



「味付けは塩のみで調理致しました。身の味を一番簡単に感じ取れると思いましたので」


「ベッシムさんの料理の腕もあってこの味になったんですね。いやぁ……。驚いた……」



 咀嚼を終えて飲み終えた今も味の余韻が口内に残っている。


 それ程強烈で、舌が何度でも味を思い返してしまう味だ。



「じゃあ、私も一口……。んぅ!! 美味しいじゃない!!」


「でしょう?? この味……。んふっ。久々だわぁ」



 エルザード、フィロさん共に目尻を下げて魅惑の味を体で感じていた。



「よ、よし……。では、俺も……」



 意を決して、グシフォスさんが箸を伸ばす。


 是非とも俺が釣り上げた魚の味を御賞味して欲しいと考えていたのですが……。




 一人の女性の登場によってそれは阻止されてしまった。




「何々!? そっちに美味しい物があるの!?」



 出たな、食欲の権化。



「待ちなさい!! 先ず俺が食べてからだな……」



 途端にグシフォスさんが慌てふためき出す。



 そりゃそうだ。


 夜空に浮かぶ星達よりもキラッキラに目を輝かせて、猪突猛進を心掛ける猪さんよりも鼻息荒く。大巨人の歩幅を越える歩幅でやって来れば慌てるのも当然だよ。



 一つの食材を求める彼女の食欲は例え世界最強の魔物であっても止められないのだ。



「あ――!! この魚でしょ!?」


「や、止めなさい!!」



 グシフォスさんの箸を強引に押し退け、皿ごと手元に引き寄せた。


 父親の飯まで奪うとは……。何て奴。



 自前の箸で身を綺麗に解し。


 さぁ準備は整ったと頭では無く食欲が判断したのか。



「んひっ。いっただきま――すっ!!!!」



 巨大な蛙を丸飲み出来る蛇でさえも思わず二度見してしまう角度で口を開いて、白き身を迎えた。



「こ、こら!! 全部は駄目だぞ!!」


「うっそ!! 滅茶苦茶美味いじゃんこれ!!」



 あぁ。次々と白き身が口の中へと消えて行く。



「やっべ、こりゃ止まらんわ。ふぁっふ……。ンッフッ!! ガフォッ!!!!」


「こ、こら!! 返せ!!!!」



 次々と皿の上から消えて行く白き身。


 グシフォスさんが大人らしからぬ所作で大馬鹿野郎から堪らず皿を奪い返すが、僅か一口分の身が皿の上に肩を窄めて佇んでいた。



「御馳走様でした!! レイド!! よくやった!! 褒めてあげるわ!!!!」


「あ、あぁ。うん……」



 俺の肩にポンっと手を乗せて颯爽と鉄板へと戻って行ってしまった。



 普通は目上の人を優先するんだけどなぁ……。


 しかも実の父親だぞ??


 滅茶苦茶を通り越して、更に驚きを通り越して、道の終着点である呆れに到達して物も言えなかった。




「――――。頂きます」



 可哀想に残った身を寂しそうに見つめて口に恐る恐る入れる。



「うんっ。美味しい…………」



 消え入りそうな声が俺の心に、そして周囲にそっと虚しく響いた。



「最後に一口食べれて良かったじゃない」


「喧しい!!」



 エルザードの同情の声も彼の心には響かなかったようですね。


 腕を組んでそっぽを向いてしまった。



「と、所で……。貴様には礼を言わねばならんな」


「礼……。ですか??」



 何の事だろう。



「エルザードから聞いた。一度だけでは無く、二度。娘を救ってくれた事には感謝するぞ」



 あぁ、その事ですか。



「この人恥ずかしがり屋さんだから。面と向かって言えないのよ」


「フィロ、黙っていろ。貴様と娘の仲は認めた訳では無い。だが……。娘はまだ世界を知らぬ。もう少しばかり世の広さを見せてやってくれ……」



 太い右腕の先にある指でポリポリと頬を掻き、明後日の方へ視線を向けて話す。



「了解しました。今暫く彼女と行動を共にさせて頂きますね」


「ふんっ」



 そんな首を捻って首の筋を痛めないのだろうか??



「レイド――!! お肉無くなっちゃうよ――!!」


「分かった!! すぐ行く!! では、失礼します」



 ルーの声を受けてグシフォスさん達へ丁寧に一つ頭を下げると、鉄板を囲う者達の下へ向かった。














 ――――。




「…………。アイツが、か」


「懐かしいんじゃない??」



 私のレイドを目で追うグシフォスへ言ってやった。



「あぁ。思う所は色々あるな」



 正直じゃない奴め。



「御飯食べたらどうするの??」



 満腹で少しだらけた感じのフィロが尋ねて来る。



「ん――?? クソ狐の所へ帰るわ。これ以上待たせたらアイツ絶対いちゃもんつけるだろうし」


「相変わらずの仲ねぇ。もう少し仲良くしたらどう??」



 コップの水を飲み終えて溜息混じりに話す。



「あの馬鹿狐とは犬猿の仲なのよ。ちょっと聞いてよ、この前さぁ……」



 積もりに積もった愚痴を吐き出してやった。


 私の恋路を邪魔したり、要らぬちょっかいを出してきたり。


 あの馬鹿は昔から事ある毎に歯向かって来るんだから質が悪いっ。



「あはは。変わってないなぁ」


「フィロ、笑い事じゃないわよ。私は真剣なの」


「分かってるわよ。…………。ちゃんと約束守っているんだね」



 優しい瞳で五月蠅い輪を見つめる。



「あの人達との約束ですもの」



 遠い、本当に遠い思い出が心に風を吹かせると。チクンとした痛みと温かい感情が同時に湧く。


 時間という名の治療薬で痛みは微かに収まってはいるが、完治までには程遠そうだ。



 忘れてしまいたい、しかし。決して忘れてはいけないほろ苦くも素敵な思い出。



 長く生き続ける人生の中で忘れる事は大切だけどさ。


 あの人から託された想いだけは死ぬまで忘れないわよ。



「そうね……。それより、そろそろ子供作ったら??」


「勿論そのつもりなんだけどぉ。彼が乗り気じゃないのよねぇ……」



 頬杖をついて、話してやった。



 いっつも孕んであげるって言ってるのに私から逃げちゃって……。


 でもぉ、今度は絶対私から逃れられないのよね!!


 此処で得た権利。


 そうっ!! 私が一日なんでも好きな様にヤレる権利っ!!



 これを使わない手は無いっ。


 馬鹿真面目な彼の事だ。この権利を振り翳せば致し方なくも渋々と従うのよ。



 ふ、うふふ……。


 私の体を四六時中追い求めてしまう様に調教してやるんだから。


 目に嬉し涙を浮かべて私の体にむしゃぶりつく彼の姿を思い浮かべると堪らなく滾ってくるわぁ……。



「早くしないと、うちの娘に取られちゃうわよ??」


「私が負ける訳ないじゃない」



 その一点だけが懸念材料ね。



 レイドの精神の世界で見たけどさ。


 私には遠く及ばないジャリ娘共に彼は気を許しちゃっているのよねぇ。


 ま、まぁ……。直ぐにちょっかいを出す私にも気を許してくれているのは素直に嬉しいけども。



「その余裕も今の内よ?? ほら。あなたの障害となる人達は一杯いるんだから」



 意味深なフィロの視線を追うと。



「レイド様ぁ。ちょっと油が跳ねてぇ、火傷しちゃいましたぁ」


「野菜取れないから離れて」


「んふふ。嫌ですわ」


「レイド――。このお肉食べて!!」


「今、野菜食べてるから……」


「こっちの魚も美味いぞ!!」


「いふぁ、肉をふぁな……」



 あ――あ――。


 優柔不断だから相手が調子に乗るのよ。もっとキツク言ってやりなさいよね。



「彼の周りって不思議と人が集まるのね」


「鬱陶しいったらありゃしない」


「いい大人なんだから大目に見なさい」


「はいはい。……ちょっと揶揄ってこよっと」



 ふふふ。


 意地悪する時って、何でこんなドキドキするんだろうね。


 さり気なく、そして流れる所作で私の香りを彼に染み込ませよっと。








「――――。はぁ、全く……。あぁいう所、変わっていないな」



 郷愁の思いを抱き、浮足立って移動する彼女を見送った。



「淫魔の女王足る者が、一人の男に固執するのはどうかと思うぞ」


「彼女あぁ見えて一途なのよ。いいじゃない。一人の想い人を追うのも。あなただって、私を追いかけてくれたでしょ??」



 悪戯な視線を送ってやると。



「そ、それとこれは別だ」



 慌てて私の視線から逃げてしまった。


 そういう天邪鬼な所。あなたも大昔から変わっていませんよ??



「ねぇ……。レイドぉ」


「うおっ!! エルザードか、驚かすなよ」



 あ、始まったな。



「御飯ばかり食べていないでぇ。私も……。食べて??」



 あの無駄にデカイ乳。無性に腹立つわね……。


 昔から大きかったけども、今見ても引き千切って蟻の巣に放り込んでやろうかと思ったわ。



「人を食べたらお腹を壊します」


「ほら……。私の体。甘いんだよ??」



 そして、レイドさん??


 大人の女性からの金言です。無駄にデカイ乳の女の甘い誘惑には頑として断るべきですよ??


 娘の恋路に手を出す訳にはいかないのが歯痒いわ。



「ちょっ……!! 止めなさい!!」


「やんっ!! もぉ……。擦れちゃったゾ??」


「お――お――。夕暮れ時に乳繰り合って楽しそうだなぁ?? えぇ??」



 うちの娘って……。


 あんな声出したっけ??



「ち、違うって!! これはエルザードが勝手に!!」


「あんっ!! 動いちゃ、や」


「変な声出すな!! ご、誤解だ!!」


「もう一回……。死んで来いやぁぁああああ!!」


「どぶぐっ!!」



 まぁ……。何て素敵な角度と威力の昇拳かしら。


 イスハの所で鍛えているのも頷ける一撃だけど後でもう一度、レイドさんに謝らなきゃ。


 娘の粗相が大変な迷惑を掛けていますって。



「ははは。いいぞ、流石我が娘だ。今の拳を受けたらひとたまりもあるまい」



 はぁ。この人にも後で色々説教しなきゃなぁ。


 娘の恋路を素直に応援してあげなさいよ。



 でも、こんなに楽しい時間久々だ。


 旧知の友に、その娘達。否応なしに心が躍るのも頷ける。


 レイドさん、娘の事宜しくお願いしますね??


 いつでもいいですから、貰ってやって下さい。




「おらぁ!! 立てや!!」


「か、勘弁して下さいよ!!」



 レイドさんの胸倉を掴むあの馬鹿娘と。



「そうだ!! 我ら龍族が最強である事を体に刻んでやれ!!」



 大口開けて笑い転げる大馬鹿夫には後でこっそりと体の芯まで恐怖を植え付けて再教育しないとねぇ……。


 ふふ、血が滾るわぁ……。


 静かなる決意を胸に秘め、傍若無人な態度を取り続ける二人をじぃっと監視し続けてやった。




最後まで御覧頂き有難うございました。


何度も話の中で出て来た狐の女王様達を鍛えた人物なのですが、本筋にしっかりと絡んでくる内容なので第三章以降に登場します。


その時までお待ち頂ければ幸いです。


そして、次の御話が第二章の最終話になります。長きに亘ってお送りしました二章もいよいよ大詰めだと思うと何だか感慨深くなりますね……。


しかし、彼等の冒険はまだまだ続きますので温かい目で見守って下さい。



それでは皆様、お休みなさいませ。

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