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第百八十五話 紆余曲折ありましたが、素敵な夕食会の開始 その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。


それでは御覧下さい。




 遥か彼方で揺れる木々の葉音を聞き取れてしまう静寂の中、ベッドの上で転がり暇を持て余す様に木製の天井を見つめていた。


 体は釣りの余韻、将又長時間太陽に当てられた所為か少しばかり火照っている。


 此方へ戻って来ると夕食の時刻まで別命あるまで待機。との事で、俺は寝かされていた部屋へと戻り一人寂しく天井を見つめていた。



 目覚めて一日も経っていないのにこうも体を動かしていいのだろうか??


 俺が医者なら確実に止めるだろう。


 しかし、あれだけ動いたってのに体もそして心にも幸い異常は見られない。



 今回の事件を端的に表せば幸運に救われたの一言に尽きるであろう。


 普通の人間なら何度も死んでしまうような出血。それでも俺の心臓は元気良く動いている。


 呆れた生命力に感謝だ。いや、龍の力に感謝だな。




「ちょっと――。いる――??」



 その力を与えてくれた方の陽性な声が扉から漏れて来る。



「開いているよ」



 だらしないとは思うがベッドの上で横たわりながら返事を返した。



「入るわよ――。どうしたの?? ベッドに寝転んで。まさか……。どこか体調が悪いの!?」



 此方の様子を見ると、少しばかり慌てて駆け寄って来るので。



「いやいや。少し疲れたから横になっていただけだよ」



 ベッドに飛び込んで来そうな勢いの猪さんの動きを慌てて制してやった。



「な、何だ。驚かさないでよね!!」


「そっちが勝手に驚いたんだろ。で、どうかした??」



 上体を起こして朱の瞳を見つめて話す。



「もう直ぐ御飯だから皆を呼んで来てって。大体、何で私が動かなきゃいけないのよ」


「そりゃあ、ここの家の人だからだろ。客人をもてなすのは家主の務めってね」


「折角の実家よ?? ゴロゴロ、ダラダラして休みたいわ」



 そう言いながらベッドに腰かける。


 大変静かな空気の中、キシ……っと。静かに軋む音が響いた。



「まぁ……。そっちの方がお前らしいけどさ」



 ちょっとだけ近いのでさり気なく距離を置いて話す。


 マイって……。こんな良い匂いしたっけ??



「ふんっ。――――、ねぇ」


「ん――??」


「どこか、痛む所は無い??」


「痛む所??」



 ぐるりと肩を回し、肘を曲げ、足を伸ばすが関節や筋肉の痛みは感じられなかった。



「特に無いよ」


「はぁ……。頑丈にも程があるわよ。さ、御飯が待っているわ。行きましょう!!」



 ポンっと弾んでベッドから降りる。



「はいはい。飯の事になるとこれだもんな」


 軽く文句を言いつつベッドから立ち上がり。


「夕食は中庭で、だったよな??」



 マイの小さな背中に続いて部屋から退出した。



 窓の外には赤い日が降り注ぎ、外に映る草々は一日の終わりを寂しそうに見上げて穏やかな風に揺られている。


 平和な光景にどこか心が安らぎますよ。



「そうよ。人数も多いし、何より……。美味しい魚が私を待っているのよ!!」


「私、じゃなくて。私達、だろ?? 皆の分まで食うんじゃないぞ」



 早くも釣れたての魚の味を想像して向こうの世界へ旅立とうとしている龍を引き留めてやる。



「いちいち小言が多いわねぇ」


 もう何度も見て若干飽きて来た鋭い眉の角度で話す。


「そうでもしないと全部食っちまうだろ」


「残念ながら……。そうなるわね」



 残念なんだ。



「よぉ!! レイド呼んできた――??」


「ばっちりよ!!」



 向かいの通路からユウ達が肩を並べて歩いて来る。


 皆食事の前だからか。ソワソワと心待ちにしている様子だ。


 美しい花達がキャアキャアと騒ぎ、通路を囲む壁達が若干眉をキュっと寄せてしまう声量を放つ。


 聞き慣れた音量と声色に何処か安堵してしまう温かい気持ちを抱いて進み続け、マイが中庭へと続く大きな扉を勢い良く開くと……。



「「おぉ――っ!!」」



 美味そうな匂いと景色に俺達は思わず感嘆の声が漏れてしまった。



「皆――。始めるわよ――!!」



 中庭の中央にグシフォスさん、フィロさん、ベッシムさん。


 そしてエルザードの四名が揃い、煉瓦を積み立ててその上に乗っている鉄板を囲っている。


 少し離れた所に四つの丸型の机が置かれてそれを囲うように椅子が置かれていた。



 鉄板から取った食材はあそこで食べればいいんだな??



 見れば否応なしに腹が減ってしまう白き蒸気を放つ鉄板の上には先程釣った新鮮な魚、肉汁滴る赤き肉、新緑の息吹を感じさせる野菜が焼かれて俺達を誘っていた。


 食欲を誘う焼ける音、鼻腔から頭の天辺に抜ける馨しい香り、そして炭がパチッと弾ける軽快な音。



 これで腹が減らない奴はいない。いるとしたらそいつは死人だ。



「皆さん、今日は御苦労様でした。御飯をしっかり食べて疲れた体を癒して下さいね」



 フィロさんの声を受け、ベッシムさんが静かな所作で木の皿とお箸を渡してくれる。



「ぐ……。早く、早く……」



 マイは我慢の限界をとっくに超えているようだ。


 口の端から溢れ出んばかりの涎を必死にゴクゴクと飲み干し、飛び掛かろうとするのを必死に堪えて足がピクピクと動いていた。


 今飛び掛かったらきっとフィロさんに首をへし折られてしまいますからね。


 何も言わなくてもコイツを御せるその力。


 羨ましい限りであります。



「じゃあ、あなたからも」



「うむ。オホン!! 皆の者、今日は御苦労であった。久方ぶりの娘の帰郷に俺も嬉しく思っている。娘が此処を発って早数か月。親馬鹿と言われるかも知れないが、向こうの大陸での生活が気になっていたのは事実。だが、不安は杞憂に終わった。何故なら……友を連れて帰って来たからだ。友は良い。共に切磋琢磨し、共に高みへと昇り、時には激しく衝突して互いの胸の内を曝け出すのも友という存在があるから出来る事なのだ。マイ、お前はこれからも友を大切にしろ」



「分かってるわよ……」


 恥ずかしそうにグシフォスさんからの視線を外す。


 そりゃ皆の前で言われたら恥ずかしいよなぁ。



「皆の者。マイの事を頼む」


 静かに、しかし体の芯に残る声で話す。


「勿論ですよ。狂暴で人の話を全然聞かない事はありますが。あたしはマイの事、好きですからね」


 ユウが隣のマイの後頭部を軽く叩いた。


「いたっ。ちょっと、一言余計なのよ」


「そうか??」



「ははは!! 流石はボーの娘だ!! その調子でもっとしごいてやってくれ!!」


「ったく……。ねぇ。父さん、まだ御飯食べちゃ駄目なの??」

「駄目だ!!」



 即答ですか。



「まだ話す事は山程ある!! 特に……。レイド!!」


「は、はい!!」



 び、びっくりしたぁ……。


 グシフォスさんって人の名前を急に呼ぶ癖でもあるのだろうか??


 驚き過ぎてピンっと伸びた背骨が首の裏から飛び出してしまいそうでしたよ。



「貴様……。まだ俺は認めた訳では無いぞ?? 釣りの勝負では負けたが、戦なら負けはせん!!」



 そりゃあそうでしょう。


 大魔、それも覇王の肩書を持つ魔物がちっぽけな男に負ける道理は無い。



「ちょっと……。あなた……」



 フィロさんが止めようと、彼の肩に手を乗せる。



「大体なぁ!! 娘と龍の契約を結んだ事が間違いなんだ!!」



 それでも、グシフォスさんの言葉は止む気配が無かった。



「龍の契約を交わす際、貴様は……。娘と…………。せ、責任は取るつもりなのか!!」



 うん?? 何の話だ??



「あ、あの……。申し訳ありませんが……。マイさんを庇った時に意識を失ってしまったので。契約を交わす際の所は覚えていないのです」


 気が付いたら倒れてて、腹に傷跡が残っていた。


 確か……。


 血が交わる儀式、とか言っていたな。


 その事なのだろうか。



「何だと!? 貴様ぁっ!! む、む、娘のぉ……」

「わぁぁああああああ!!!!」



 突如として顔を真っ赤に染めたマイがグシフォスさんに向かって駆け出し。



「おらぁっ!!!!」

「ゴフッ!!!!



 彼の懐へ素早く踏み込むと強烈な拳を実父の顎目掛けて放ってしまった。


 実の父親をいきなり殴るなって。


 しかし……。真面に食らって大丈夫かしらね??


 顎が猛烈な勢いで跳ね上がり踏鞴を踏むかと思われたが。



「…………。な、何をする!!」



 その場に自然体で立ち、熟れた林檎も思わず心配な声を上げてしまう程に真っ赤な娘の顔を厳しい目で見下ろしていた。


 あれ??


 今の食らっても普通に話せるんだ。



「い、今はそんな話をする必要ないじゃない!!」


「いいや!! 必要な事だ!! どこぞの馬の骨に、娘はくれてやらん!!!!」



 馬の骨って……。


 もっと真面な呼び方で呼んで欲しいのが本音ですよ。



「はぁい。お話はここまで。皆さん、食事を始めてくださぁい」


「やったぁ!! マイちゃん、お先――!!」


「ぬぁ!! 最初の食材は私が取るのよ!!」



 フィロさんの声を皮切りに楽しい宴が開始された。



 さっきの話は一体何を言いたかったのだろう??


 責任とか、何とか……。でも、まぁ。特に切羽詰まった感じでも無いし。


 このまま俺も食事を楽しむとしますかね!!



 鉄板を囲う花達の輪の後ろから静々と、そして粛々と参戦した。



「主、何を食べる??」


 リューヴが早くも美味しそうな焼き目が目立つ沢山の肉を乗せて話す。


 それだけ盛って皿からよく落ちないな。



「もう取ったの??」


「腹が空いていたのでな」


「じゃあ、俺は……。野菜と、魚にしようかな」



 花達の輪の隙間から腕を伸ばして、震える箸でこんがりと焼かれた野菜と魚を皿に乗せる。


 おぉ、美味そうだ。



「駄目よ?? お肉も食べないと」


「そうですよ。レイドさんの体は栄養を欲していますからね!!」


「ちょ、ちょっと……」



 エルザードとアレクシアさんが無理矢理お肉を皿へと乗せてしまう。



「乗せ過ぎじゃない??」



 この皿に乗せられている食料だけで普通の人は腹八分だろうさ。



「男は沢山食べて、体を強くしないと。元気な子供が出来ないわよ??」


「関係あるの??」


「勿論よ。とぉっても元気なぁ……。子種を作って貰わないとねぇ」



 大変良い匂いがする頭を右肩へと乗せてこの場に似合わない言葉を口に出す。



「食事中は御遠慮してくださ――い」


 淫魔の女王様の甘い香りからするりと逃げて安全地帯である丸い机へと向かった。


「んもう。孕んであげるのに……」


「エルザードさん。もう少し慎ましい行動を心掛けたら如何ですか??」


「そんな事一々気にしていたら人生損するわよ?? 自分のやりたいようにヤレばいいのっ!!」


「な、成程ぉ……」



 人前で子種とか、孕むとか。良く平然と話せるな。


 そして、アレクシアさんに余計な指導を与えないで下さい。


 もしもそれを実行したらどうするのですか??


 俺は空を飛べる彼女から逃れる術は持ち合わせていませんのでね。容易く誘拐されてしまうのです。



「レイド――!! こっち空いてるよ――!!」


「お――」



 ルーが此方へ手招きをしたので陽気組が陣取る机へと向かった。



「ふぁに?? ふぇんふぇんとっふぇないふぁない」


「飲み込んでから話せ」



 卑しい栗鼠みたいに沢山頬張って。


 今にも咀嚼途中の食べ物が口から出て来そうじゃないか。



「んんっ!! 全然取ってないじゃない」


「そうそう。レイドは怪我から治ったばっかりなんだ。もっと沢山食って栄養摂らないと、治るもんも治らないぞ??」



 机を挟んでユウが話す。



「食い過ぎは逆に駄目だろ」


「でも――。あれだけ血がどばぁって出て、べっちゃぁって滴り落ちていたから。やっぱり食べた方が良いよ」



「ルー。私、御飯食べているんだけど??」


「へ?? あはは、ごめんごめん」



 マイの睨みを受けるとえへへと笑い、ポリポリと頭を掻く。



 生死の境を彷徨った感じはしないんだけどなぁ。


 気が付いたら起きたって感じだし。


 まっ!! 彼女達の助言通り、食べなければならない事は確かだ。


 いつもと比べて若干食欲はありませんが、此処は無理にでも詰め込まないと。



「頂きます!! ――――。んっ!!!! この魚、美味い!!」


「あ、それ。あたしが釣った奴だ」



 しっかりと塩味が効いてはいるが、効き過ぎでもない絶妙の塩梅。


 しつこくない脂が乗った白き身と、ほんの僅かな皮の焦げの苦味が混ざり合い口の中で程よく溶け合う。



「ユウ、美味しいぞ!!」


「そ、そうか?? いやぁ。頑張って釣った甲斐があるなぁ」



 僅かに頬を朱に染めて話す。



「むぅ。私が釣った魚、探して来る!!」


「見分けつくのか??」


「勘で分かるもん!!」



 ユウの言葉を尻目に、大股で鉄板へと向かって行った。



「何を対抗心燃やしてんだか。それより、これからの予定は??」



 ユウが此方を見て話す。



「食事を終えたら、師匠の所へ向かおうと考えている。首を長くして待っていると思うし……」


「そうだなぁ。こんな悠長に飯食ってんのがバレたら大目玉かもよ??」


「怖い事言うなって……」




『目覚めてから何をしておったのじゃ??』 と。



 三本の尻尾をふっさふっさと揺れ動かしながら尋ねて来たら。



 皆と釣りをしていました。


 何て言った日には八本の尻尾が俺の体を拘束して意識を刈り取るだろう。



 美味しい御飯を食べていました。


 等と、端的過ぎる答えを言えば。山を砕く激烈な拳が俺の顎を捉えて三度目の仮死体験をしてしまう。



『怪我の具合が芳しく無く。床に臥せていました』



 言い訳はこれで大丈夫でしょう。


 師匠もそこまでしつこく問い詰めて来る気配は無さそうだし。




「お代わりよ!!」


「うおっ。びっくりした……」



 珍しく黙っていると思っていたが。


 食事に集中していたのか。



「あんたもさっさと平らげなさい。そんなんじゃ、フンッ。いつまで経っても痩せ細った七面鳥から抜け出せないわよ」



 どんな表現だよ。


 俺の皿の上の食材を見て鼻で笑うと、そのまま意気揚々と鉄板へ向かって行ってしまった。



「マイの奴は相変わらずだな」


「でもさ、レイドが倒れている間。マイの奴凄く心配な表情していたんだぞ??」


「嘘だろ??」



 水を一口含んで話す。



「いやいや、本当だって。レイドが倒れた日なんか飯も食わなかったし。まぁ、それどころじゃなかったのが本音だけど。あぁ見えて、人一倍責任感が強いんだよ」


「セキニンカン??」



 アイツに似合わない文字が出て来てしまい自分でも怪訝だなと思える声を出してしまう。



「…………。一度だけじゃなくてさ。二回もレイドに命を救って貰って。しかも、今回は生死の境を彷徨っていたんだ。マイの胸中は計り知れないよ」



「そのどちらも体が勝手に動いたからなぁ。アイツにとって迷惑だったのかも」



「まさか。あたしだったら……嬉しいかな。でも、やっぱりマイの立場だったら、凄く苦しいと思う」



 ユウが視線を落とし、空になったコップの淵を指でなぞる。



「苦しい??」


「うん。よく考えてみなよ。一度目は命を救った代わりに龍の契約を交わして、人とはかけ離れた存在にしてしまって。二度目はその命を救った力がレイドを痛めているんだぞ?? 感情を持つ人だったら誰だって責任を感じるだろ」



「そりゃそうだけど……。マイの奴、そんな重責を感じていたんだ」



 人の心配等せず、そして有難い助言も無視して。人生という長き道を一切立ち止まる事なく突っ走ってそうな印象なんだけどねぇ。



「元気を装っているけどさ。今もレイドの事、心配していると思う」



 あ、だからさっき部屋で……。


 俺がベッドで転がっている時、体が痛まないかと聞いて来たアイツの姿が脳裏に浮かぶ。



「良く分かるんだな。マイの事」


「そりゃあ、あれだけ絡まれたら嫌でも分かって来るさ」


 コップから顔を上げていつもの快活な笑みを浮かべた。


 しかし……。マイが、ねぇ。


 ユウから件の奴へと視線を移す。



「あ――っ!! それ私のよ!!」


「いいじゃん!! マイちゃん取り過ぎなんだよ!!」


「カエデ、今日は沢山食べますわね??」


「もっと体を大きくするから」



 どうやら向こうでは食料の奪い合いが発生しているみたいだな。


 鉄板の周りで発生する喧しさが天へと昇って行き、茜色に染まる空に浮かぶ雲が勘弁して下さいよって顔を浮かべていますもの。



 馬鹿騒ぎが似合うアイツが心配そうな表情を??


 とてもじゃないけど全く想像出来ないな。



 俺の事を心配したのか、それとも自分自身を許せなかったのか。


 恐らく後者であると考えられるが、心の中に渦巻く様々な感情が彼女をそうさせたのだろう。



「勿論、あたしも心配したんだぞ??」


「分かっているよ」



 ユウへ視線を戻すと既に皿は空になっており、両手で頬杖をついてこちらを見ていた。



「お代わりしないの??」


「ん――。今、向こうは騒がしいし。空いたら行くよ」


「そっか」


「それに?? 王都へ帰ったら奢ってくれるんだろ?? それまではちょっと我慢しないとさ」



 口角をきゅっと上げて快活な笑顔を見せてくれる。


 ユウらしい、人の気持ちを明るくする笑みだ。



「皆が注文を選べて、落ち着ける店でも探すか」


「ちゃんと考えてくれてるんだな。偉いぞ――」


「どうせなら皆に楽しんで貰いたいし。でもなぁ、出費がかさみそうで今から心配なんだよ……」



 無限の胃袋を持つ、御方の存在が懸念材料だ。


 店へ行く前に幾らか安い飯でも食わせておくか??


 そっちの方が食費代も浮くだろうし……。



『ふぅっ!! いやぁ、丁度良い準備運動だったわ!! これなら無限に食えるっ!!』



 だ、駄目だ!! 却下です!!


 アイツの胃袋は刺激すればするほど元気になる厄介な奴なのを忘れていたぞ!!



「少し出そうか?? 貰ったお金、全部使わずに溜めているからさ」


「そうなの??」


「うん。ほら、急に欲しい物が出て来るかも知れないし。それに?? レイドと二人っきりでお出かけする機会が来た時、無一文じゃ楽しめないだろ??」


「前半は頷けるけど、後半は少しばかり賛同しかねるな」



 少しばかりお道化て言ってみせた。



「むっ。あたしだって今回の勝負、勝ちたかったんだぞ??」


 食事の脂で潤う唇をむすっと尖らせる。


「大体、人を景品にするのはどうかと思います」



 フィロさん達が座る席へ聞こえないよう、小さく話した。



「いいじゃん。それで皆のやる気が出るなら」


「まぁ、うん。そうだけど……」



 同調というか、調和かな??


 俺一人の犠牲?? で皆が楽しめるのなら多少の犠牲を払うのも致し方が無い。


 そう考えるのもやむを得ないという訳なのですが……。



 いやいや、納得しちゃ駄目でしょ。


 俺にだって自由に行動する権利があるのだから。



「別に取って食う訳じゃあるま……。いや、エルザードは分からないな」


「だろ?? 如何わしい事考えて勝負に臨んでいたからね」



 釣りを始める前に聞いた不穏な言葉が脳裏に浮かぶ。



「多少味見されても大丈夫だろ。安心して、あたしは気にしないよ」


「ユウは気にしなくても、俺は気にするの」


「あはは!! ごめんごめん。他人事だと思って話してた」


「ったく……」



 片手で頬杖をつき、少しばかり睨んでやる。



「そう睨むなって。ひん剥かれそうになったら助けにいくから」


「男が女性に襲われ、しかも女性に助けられるって……。男としての尊厳はどこへ??」


「そんな事いちいち気にしていたらあたし達と付き合えないぞ??」



 男として女性に助けを求めるのはやっぱり気が退けちゃうからなぁ。


 己を守る術、それは危険に近寄らない事が最善なのだが。勝負の結果、エルザードは一日俺を外へ引き出せる権利を得てしまったのでそれだけが不安で仕方がない……。


 明るい時に出て、日が暮れるまでに帰ろうっと。



「なぁ。レイド」


「うん??」


「あの、さ。今、話していた内容の延長線上みたいな話、なんだけどね??」



 随分と歯切れが悪いな。



「そのぉ。あたし達の様な魔物とほら。子を成すのはやっぱり嫌??」



 あぁ、そういう事。



「今は考えていないけど。別に嫌じゃないぞ」



 特に感情を込めない声色で返してやった。



「そ、そうなんだ。へぇ……。そうなんだ……」



 体をまごつかせ、もじもじと動かしている。



「どうした?? 腹でも痛いのか??」


「はぁ……。別に何でもないよ」



 溜息を付き、あからさまに声の口調が下がってしまう。


 何で急に元気が無くなったんだ?? 要領を得ないな。



「ユウ!! ちょっと来て!!」


「あいよ――。腹ペコ大魔王のお呼び出しが来たから行って来るよ」


「ん、気を付けて。噛まれるなよ??」


 食い物関係の時は気を張るべきだ。


「はは。辛辣な言い方だね」



 ユウが軽く手を上げ、席を立って行く。



「どうした――??」


「聞いてよ!! ルーが私の肉を取ったのよ!!」


「取って無いよ!! 私が焼いてたお肉をマイちゃんが取ったんじゃん!!」


「はぁっ!? ここにある陣地は全て私の物よ!!」



 そんな滅茶苦茶な……



「まぁ、二人共落ち着けって」



 ユウも苦労するよ。


 鉄板を取り囲む喧しい女神達の様子を穏やかな目で何とも無しに見つめていた。




お疲れ様でした。


後半部分は現在編集作業中ですので、今暫くお待ち下さいませ。

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