表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
349/1237

第百八十話 間も無く到着予定されど女神達は知る由も無く その一

お疲れ様です。


本日の投稿なります。


それでは御覧下さい。




 己が内に籠る熱を逃す為、少々荒い呼吸を繰り返していると額から大粒の汗が浮かび。それが重力に引かれて頬へ到達。そして、顎先へ流れ落ちて行くと木の床に矮小な染みを形成する。


 気持ちの良い汗、体調不良による脂汗、形容し難い化け物と会敵した時の嫌な汗等々。


 人体には様々な理由によって多岐に及ぶ汗の掻き方があるのですが、今回の場合。



 俺は大変心地良い汗を掻いていた。



 一階部分の柱を建て終え、桁と梁を欠込みでキチンと組み合わせ。更に!! 筋かいで枠組みをより強度な物へとさせる。


 ふぅむ……。古くから伝わる軸組工法を見様見真似でやってみたが……。


 全くの素人でも意外と様になるものだな。



 額から零れ落ちる汗を拭い去り、新築家屋の一階部分の枠組みが完成した事に対し。満足気に一つ頷いた。



「レイドさ――ん!! お茶が入りましたよ――!!」


「あ、は――い」



 建設途中の家と湖畔の間。


 緑と茶の配色が美しい地面の上に椅子と丸形の机を配置。そこからセラの陽気な声が届いたので、作業の手を一旦中止してそちらへと向かった。



「お疲れ様ですっ。今回の御茶菓子は御煎餅と温かい緑茶ですよ――」


「態々すいません。では、頂きますね」



 金色の髪をふるっと揺らして温かい笑みを浮かべる彼女に促されて椅子に座り、大変美味そうな焦げ茶色の御煎餅を一つ手に取って口に運ぶ。



「――。んっ、美味しいです!!」



 丁度良い歯応えが歯を喜々とさせ、絶妙な塩加減が汗を失った体に心地良い。



「えへへ。私の愛情が入っているから美味しいんですよ?? はい、お茶です」


「あ、どうも」



 運動によって乾いた喉をお茶で潤すと……。



「ふぅ――」



 何故自然と長い吐息が出てしまうのでしょうかね??


 永遠の謎ですよ。



「大分作業も進みましたよね」



 セラが俺に倣って美味しそうにお茶を啜りながら話す。



「二階部分の枠組みと屋根の設置がまだですけどね」


「うふふ。私達の愛の巣の完成まで頑張りましょう!!」



 あ、いや。


 自分は物凄く暇だったので建設作業を手伝っているだけなのですが……。



「あ――。そうやって言い訳しちゃうんだ」



 言い訳もなにも事実なのですけど……。



 いつもならこの陳腐な夢は直ぐに終わりを告げるのだが。



「陳腐な夢じゃなくて、天界の出来事ですよ――」



 一々人の頭の中の言葉を拾わないで下さい。



「はぁ――い。大人しく御煎餅でも食べてま――すっ」



 小さくて張りのある唇に御煎餅を運び、軽快な音を奏でて咀嚼を開始してしまった。



 今回の場合この陳腐な夢は中々覚める事は無く。それならいっそ暇潰しに、と。


 建築途中の作業を手伝いましょうかとなりまして。


 こうして汗を流している次第であります。


 建築の材料はセラが指をパチンッと奏でると、眩い光の中から現れ。


 道具も、食料もそれと同じ所作で現れる。魔法の便利さを余裕で越える驚くべき事象は夢の中でこそ成し得る業なのだろう。



 将来の家屋建設の修行じゃないけど。


 重たい支柱を運び、梁と桁を合わせていると時間も潰せて尚且つ技術も身に付き。正に一石二鳥なのですが……。



 労働の嬉しい汗を喜々として流している途中でふと妙な事に気付いてしまった。



 人は運動をすれば体力を消耗して、生命活動の維持の為に腹が減る。


 自然の摂理に従った生理現象が全く起きなかったのだ。


 その事について驚きを隠せないでいると。



『天界では地上のそれと比べて数十倍以下の労力で労働が可能になりますよ――』



 天使擬き兼、夢の中の案内人がこの不思議な現象を説明してくれた。


 では、夜と昼の概念は?? 此処へ来てから夜が訪れた事は無いのですけど??




『私の采配次第ですね。如何わしい、又は目を覆いたくなる淫靡な活動を私と共にしたければ夜にしますけど……。どうします??』




 背筋がゾワっとする笑みを浮かべる彼女には勿論、ずぅっと昼でお願いしますと伝えました。



 腹の減りも軽減されれば、眠さも余り起こらない。


 正に長時間労働に適した環境と言えよう。



「現実世界で完全に肉体が朽ちればお腹も空きませんし、眠くもなりませんよ??」



 ニッコニコの笑みでさらっと恐ろしい事を言いますね。



「それだと時間を持て余しませんか??」


「ん――。それはそうなのですが……。慣れてしまえば意外と快適ですよ」



 慣れ、ねぇ。


 俺は朝起きて、夜に寝る。そんな普遍的な時間の流れに身を置きたいですよ。



「残ね――ん。レイドさんは此方で預かっている以上、私達の取り決めに従う必要があるので我慢して下さいね」


「了解です」



 逆らったらとんでもない悪夢に変換されてしまうおそれがありますのでね。


 大人しくしていますよっと。



「そう言えばさ、一つ質問良いかな??」


「何ですか?? お答え出来る内容でしか答えられませんけども」


「何か……。最初の頃に比べて食べ物の味とか。周囲の香りが徐々に明瞭になっているんだけど。これは一体何故です??」



 例えば……。森から漂って来る清涼な香りでしたり。湖から届く湿気を含んだ水の香りでしたり。


 そして、無駄に超接近を画策する別嬪さんの優しい香り。



「えへっ。嬉しいな」



 …………。



 良い匂いとも悪いとも言えない普通の女性の、普通の香り。



「あぁ!! そんな事言うとお仕置きしますよ!?」


「ですから!! 人の頭の中の言葉を拾わないで!!」



 机越しにぐぐぅっと顔を超接近させてきた横着者の額をやんわりと押し返しながら話す。



 夢の中で得られる感覚は不明瞭な筈なのに、刻一刻と明瞭な物へと変化している事に驚きを隠せないのですよ。



「あぁ、そんな事ですか」



 椅子へポスンと腰掛けて話す。



「それは物凄く簡単な答えなのでお答えしますね」



 宜しくお願いします。



「人間でいう五感が明瞭になっているのは、此方側へレイドさんの魂が近付きつつあるからです」


「え、っと。御免なさい。もっと分かり易く説明してくれるかな??」


「もっと簡単に?? ん――……。これ以上簡単に説明かぁ」



 細い顎に指をちょこんと当てて考える仕草を取り、その数秒後。



「簡単に言いますと。レイドさんは間も無く死ぬという事です」



 とんでもない答えが返って来てしまった!!!!



「ちょ、ちょっと待ってよ!! 俺、こんなに元気一杯なんだよ!?」


「それはあくまでも魂の話です。レイドさんの肉体はぁ。えへへ。聞く??」



 嫌な予感が止まらないけども!!



「お願いします!!」


「今現在、出血多量による失血死が懸念される状態でもあり。常軌を逸した痛みに体が耐えられず崩壊寸前、そして暴れ回る龍の力によって体がバァン!! と破裂寸前なのですっ」



 いやぁ!!


 やっぱり聞くんじゃなかった!!!!



 例え夢の中だとしても、自分の惨状は聞きたくないよ!!



「だ、だから感覚が明瞭になっているのか……」


「そうですよぉ。もう間も無く……。私と長きに亘る時間を此処で過ごせる事が出来るのですから良い事じゃないですか」


「全然良くない!! 任務はどうするの!?」


「仕事と私、どっちを取るの!! って、恋人同士の痴話喧嘩みたいですねっ」


「あぁ――……。畜生。まだまだ一杯やりたい事があったってのに……」



 軍人生活を引退してから、自然溢れる場所で動物との楽しい隠居生活。



「おじいちゃんっぽい考えですよね」



 基、引退してからは人の役に立つ仕事に就き。皆から頼られる立派な男性の大人へと……。



「苦労し過ぎて直ぐに死んじゃいますよ??」



「一々考えに突っ込まないで!!」


「別に良いじゃ無いですか。レイドさんがやりたい事は此処で全て出来るので」


「まぁ、そうだけど……」



 余生云々よりも、残して来た友人達の事が大変気掛かりなのですよ。


 マイ達は師匠やエルザードにずぅっと迷惑を掛けそうだし。


 カエデにも大変な気苦労を与えてしまう。


 どうしよう……。此処から戻る手立ては何か無いかな??



 腕を組み、ウンウンと唸り続けていると。



「――――。えっ??」



 心臓の拍動にも似たドクンっと。強き音が体内から鳴り響いた。



「ちっ。――――。どうやら目覚めの時が近いようですね」


「目覚め?? 後、何で最初に舌打ちしたの」


「あはっ!! 気の所為ですよっ」



 人の顔を指で差さない、行儀が悪いですよ。



「目覚められるのなら早く目覚めないと!!」



 そうは言うけども、帰る術を知らぬ俺にはどうしようも出来ないのが歯痒い!!



「え――。もう帰っちゃうんですかぁ??」



 蛙の頬みたいにぷっくりと頬を膨らませて話す。



「セラだって天界?? の仕事があるだろ?? 俺だってやらなきゃいけない任務が残っているんだよ」


「お互いの仕事が重なって、中々会えない共働きの夫婦みたいですねっ」



 恋人から一段階上がっていますよ――っと。



 さて、どうやって帰ろうかと尋ねようとした時。


 セラが俺よりも早く口を開いた。



「それはそうと。帰るにはちょっとした事をして貰います」


「ちょっとした事??」



 何だろう。毎度毎度余り良い予感はしないが……。



「体は完治しました。しかし、魂は此処に避難させた為、体に起きた痛みを知りません」


「ふむふむ」


 軽く頷き、得意気に話す彼女に対して相槌を打つ。


「痛みを知らない。つまり、向こうに戻ると魂が体に残る経験、思い、記憶を呼び醒まそうとして再び痛みを発生させます」


「それってもう一回死にそうになるって事??」



 折角治った怪我が再発するのなら大いに困りますね。



「ほぼ正解です。魂の記憶と、体の記憶の違いがそれを発生させてしまいますから」


「それじゃあ、此処に避難させた意味ないじゃん」


「話は最後まで聞いて下さいよぉ。せっかちさんにはお仕置きです。えいっ」



 御免なさい。


 謝りますから御煎餅の欠片を俺の顔に投げないで??



「記憶の差異を此処で解消すればいいのです」


「え――っと。掻い摘んで言うと……。此処で痛みを覚えてから帰れって事??」


「大正解ですっ!! ほぼ瀕死の状態までレイドさんの魂を私が傷付けますっ」



 満面の笑みで恐ろしい事を言わないの。



「安心して下さい。廃人になる様な痛みではありませんから」


「そんな恐ろしい事言われて安心出来るか」


「むぅ。人が親切丁寧に教えてあげているのに……。その態度は酷いと思いますっ」



 鼻息をふんっと荒げてそっぽを向いてしまう。



「悪かったよ。じゃあ、その痛みとやらを頼んでもいいかな??」



 それで帰れるのならどんな痛みでも耐えてみせましょう。


 頑丈なのが取り柄ですからね!!



「…………。本当に帰っちゃうんですか??」



 手元で指をコネコネと絡み合わせ、俯きがちに問う。



「さっきも言っただろ?? お互いやる事が残っているって。いつまでも休んでいる訳にはいかないさ」


「――――。そう、ですよね。うん、分かりました」



 何かを躊躇する表情から一転。


 真剣な表情を浮かべて椅子から立ち上がると、此方の手の届く距離に近付き。



「…………」



 そして何かを唱える様に口元を動かすと、何も無い宙から光の玉が現れ。それを彼女は右の掌の上に優しく乗せた。



「それは??」


「痛みを覚えさせるものです。これに触れればレイドさんの中に痛みが発生します。耐えがたい苦痛かもしれませんが……。頑張って耐えて下さい」



「分かった」



 襲い掛かる痛みに備える為、大きく息を吸い込んで光に手を翳す。



「本当に……。いいんですね??」


「勿論だ」


「ここで……。ずっと私と一緒に過ごしてもいいんですよ?? 関係各所に私達の結婚報告は通達してありますので、死にたてホヤホヤは挨拶回りで忙しいですけども」



 そんな不要な情報は聞きたく無かった。



「いつでも夢の中に現れても良いからさ。偶には俺の我儘聞いてよ」


「分かりました。今の御言葉、お忘れにならないで下さいね??」


「男に二言は無いよ。じゃあ……、触るぞ」



 熱い物を触れる様に。おっかなびっくりそっと光へ触れると……。


 右手から体の中心へと光りが吸い込まれて行った。


 これと言って痛みは感じないけど……??



「…………。うぐっ!? がぁぁああああ!!!!」



 言葉を訂正しよう。


 数秒前の俺の行為を咎めたくなる常軌を逸した痛みが胸を襲い始めた!!


 まるで大きな蛇が胸の中で暴れている様にそれは渦巻き、胸の中から飛び出そうと胸骨を押し上げて来る。



「ゴフッ!!!!」


 襲い掛かる痛みに対して咽ると口から鮮血が飛び出し地面を汚した。



「レイドさん!! 耐えて下さい!!」


「あぐっ……。うぐあぁああぁ!!」



 セラが差し出した右手を掴んで痛みから逃れる為、力の限り握るが……。


 気休め程度にしかならず胸の中の蛇は情け容赦なく暴れ回る。



「あっ……。ぐっ……。あがぁああっ!!」


「レイドさん!! それ……、頑張って……」



 いかん。


 馬鹿げた痛みで意識が遠退き始めたぞ。


 目の前で励ましてくれている筈のセラの声が遠くから聞こえて来る。


 もう……。


 目を開けて居られない。


 俺は……。一体どうなっちまうんだ??


 襲い掛かる猛烈な眠気に己の身を預けると、混濁する意識は漆黒の闇へと落ちて行った。




























 ◇




 大切な友達達と素敵な夕食を終えると太陽さんが私達に別れを告げ、今は月が代わりに夜を彩っていた。


 静かな空気が漂う室内。窓からそっと差し込む月の光を見上げると。



「ほぉ――。こっちの大陸で見上げる月も素敵だねぇ――」



 青白くて本当に綺麗で、心休まる柔らかい光にちょっとだけ強張っている体の力が抜けて思わず吐息が漏れてしまった。



「ふぅ。レイド、起きないかなぁ??」



 綺麗なお月さんからレイドへ視線を移すと、彼は御飯前と変わらず素敵な寝息を立てて眠っている。


 レイドは体が丈夫だから大丈夫だと思うけど……。


 中々目が覚めないのはやっぱり心配だよ。



「今は休まれているのですよ。あれだけの大怪我を負ったのですから、当然の事ですわ」


「そっかぁ。休んでいるんだねぇ」



 狼の姿になると後ろ足で床を軽く蹴り。ベッドの上へポンっと弾みながら乗る。



 ん――。


 アオイちゃんの言う通り呼吸も安定しているし、苦痛で顔が歪む事も無い。


 本当に静かに眠っている。



「レ――イドっ」



 たふたふと前足でレイドの頬を突く。


 おぉ。柔らかくて、温かいな。


 これはつまり……。ちゃんと生きているっていう証だ。


 皆が待っているからさ。早く起きてね?? 私も待っているんだよ??


 レイドが起きたら色んな御話をして、私の事をもっと知って貰って。そして、沢山お散歩したいなぁ……。



 温かい感情に包まれながら前足で彼の顔を撫でていると。



「汚らわしい足でレイド様に触らないで下さい」



 アオイちゃんの手が私の足をそっと払ってしまった。



「むっ。汚くないもん」


「綺麗、汚い以前の問題だ。余り主に負担を掛けるな」



 床に敷かれている一対の布団の上。


 そこで伏せている狼が口を開いた。



「分かってるもん……」



 久し振りに眉を尖らせてリューを睨んでやると、そのままベッドに伏せてやった。


 はぁ……。レイドの匂いだ。


 この前までは血の匂いが酷くて、とてもじゃないけど匂いを嗅いでいる余裕は無かったからなぁ。


 でも、今は私の好きな匂いに包まれて良い気分だ。



「本当に大変でしたわねぇ」



 アオイちゃんがベッドに腰掛けて。レイドの頭を綺麗な右手でそっと撫でた。


 その反動で耳に掛けていた長く白い髪がはらりと地面に垂れる。それを左手で再び耳に掛けて彼を愛しむ目で見下ろす。



「「……」」



 む、むぅ――。


 何か良い雰囲気に見えないかな!?


 上手く言えないが、静かで親密な空気が二人の周囲を柔らかく包んでいた。



「アオイちゃん、お母さんみたいだねぇ」



 愛情豊かなお姉さんにそう言ってやると。



「失礼な。まだ子を孕んだ事はありせんわよ??」



 ムスっとした顔で私を睨んでしまう。



「比喩だよ、比喩。妙に今の姿が似合ってるって事」


「あら、そうです?? ふふ……。やはり私がレイド様に相応しい……」



 あ、駄目だ。


 向こうの世界に行っちゃった。


 頬っぺたをぽぉっと赤く染めて目を瞑り、イケナイ妄想を膨らませて悦に浸っているもん。



「ねぇ――。アオイちゃん。変な想像しちゃ駄目なんだよ??」



 このままじゃ妄想の世界に旅立って帰って来られ無くなるから、現実の世界に意識を留める為。


 彼女の肩を前足でポンポンと叩くが。



「レイド様が目を覚ましたのなら……。私の全てを曝け出して……。ウフッ……。フフッ……」



 この状態のアオイちゃんには何を言っても無駄なので取り敢えず様子を見守る事に専念した。



「ルー、リューヴ、いる――??」



 あ、マイちゃんの声だ。



「はぁい。開いているよ――」



 ベッドの上から直ぐに返事を返す。



「よっ。ボケナス起きた??」


「ううん。まだぐっすり寝てる」



 此方へ歩み寄るマイちゃんに話してあげる。


 マイちゃんのお父さんがレイドの症状を治してからというものの……。



「そっか!!」



 彼女は大変機嫌が良いのだ。


 やっぱり自分の所為だと考えていたんだよね?? レイドが倒れちゃったのは。


 気持ちは分からないでも無いけど……。元気が無いマイちゃんを見ていると何だかこっちまで元気が無くなるからね。


 こうやって元気が戻って来てくれた事が本当に嬉しいよ。



「マイ、どうした?? 交代か??」



「あ――、違う違う。今から御風呂入りに行こうと思って。ここから北に歩いて五分程の場所に温泉があるのよ。良かったら入りに行かない??」


「行く――!!」



 私は二つ返事で返した。


 温泉!!


 イスハさんの所で入った湯が脳裏に浮かぶ。


 あそこは気持ち良かったなぁ。


 それに、汗臭いままレイドとの再会はちょっとねぇ……。



「相伴しよう」


 リューも乗る気なのか、布団から立ち上がると人の姿へ変わってしまった。



「私は……。レイド様の御傍を離れませんわ」


「え――。アオイちゃん汗臭いよ??」



 着物に鼻をムチュっと当てて言ってやる。


 ここは多少無理にでも誘おう。


 根を詰め過ぎても良く無いし。



「何ですって!?」


「そのままレイドと会ったら……。臭い――って、顔を顰めちゃうかもよ??」



 ふふ。


 狼流の揶揄いを受けるがいいっ!!



「こうしてはいられませんわ。早速身を清めに行きましょう!!」



 私の揶揄いを受けるとほぼ同時に大股で部屋を出て行ってしまった。


 行動が早いなぁ。



「あ、でもアオイちゃんって御風呂の場所知らないでしょ??」


「阿保は放って置きなさい。後で気が付いてついて来るわよ」



 もう、マイちゃん冷たいなぁ。


 アオイちゃんにだけいつもつんけんしてるし。


 仲良くして貰いたいものだ。



「ほら、行くわよ??」


「はぁ――い」


 レイドのベッドから降りてマイちゃんの後を追う。


「行ってきま――す!!」



 一応、振り返ってレイドに一言かけておいた。


 眠っていても聞いているかも知れないからね!!



 それに私の一言が目覚めのきっかけになればこれ程嬉しい事は無い。



 レイド、待っててね??



『綺麗になって帰って来るからさ』



 これは勿論、心の中の声で小さく呟いた。


 綺麗な人が一杯いるから、声に出すのは憚られるからねぇ……。


 大きな家の出口へと大股で向かって行く綺麗な朱の髪に従い、私は四つの足を器用に動かして追い掛けて行った。




お疲れ様でした。


さて、タイトル。並びに本文を御覧になって気付かれたと思いますが。間も無く彼が帰還します。


それから直ぐに向こうの大陸に帰る予定でしたのだが。それでは少し味気ないと考えて追加エピソードを投稿させて頂きます。


勿論、そこまで長くはなりませんので温かい目で見守って頂ければ幸いで御座います。


そして、ブックマークをして頂き誠に有難う御座いました!!


第二章完結まで後僅か。


その完結に向けて嬉しい励みとなりました!!!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ