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第三十二話 歌って、踊って、飲んで、食べて。さぁさぁ!! 楽しい時間の始まりです!!

お待たせしました!! 本日の分の投稿になります!!

お楽しみ下さいませ!!




 里の中央には既に大勢の者達が集まり、輪の中央に組まれた薪を取り囲む形で座っている。


 皆、宴が始まるのを心待ちにしているのか。


 夕日に照らされたその顔は何処か朗らかだ。





「えっと。俺達は何処で腰を下ろせば宜しいですか??」


「此方へどうぞ!!」



 ピナさんに促され、屋敷へと続く北の通りの輪に加わった。




「遅い!! 何チンタラ歩いてやって来てんのよ!!」


「どうしてお前さんが此処に座っているのかは問わないよ」



 促される前に勝手に座ったら不味いでしょう……。



「では、宴の準備に取り掛かりますのでもう暫くお待ち下さい」



 此方が宜しくお願いしますと伝えると、配給の係の者達へと指示を伝えにこの場を去って行った。



「ピナさん、忙しそうだな」



 その彼女の動きを視線で追いつつ話す。



「里を纏める役を買っていますからね。忙しいのは当然でしょう」



 左隣に腰かけたカエデが此方に倣い、彼女の姿を追いながら口を開いた。



「嬉しい忙しさって奴か」



「そうだろうな。里を解放しなきゃこうして明るい雰囲気に囲まれる事もなかっただろうし……」



 右隣りのユウの言葉に、ポツリと言葉を返す。



 輪の方々では皆一様に笑みを漏らし会話に華を咲かせている。



 下らない日常会話に誂えた笑い声が飛び交えば、真面目な話を交わしているのか。中には真剣な面持ちで互いの考えを交わしていた。




 勝利を掴み取った幸せな光景。




 この雰囲気を言い表すのならその言葉に尽きますね。



「はい、お待たせしましたぁ!!!!」



「「「おおぉぉ……」」」



 配給の役を買ったピナさん達が運んで来た料理に感嘆の声が漏れてしまう。



 小麦色に程よく焼けた大人の拳大のパン、そして一人一つの御盆に添えられた透明の瓶の中に詰められた幸せの液体についつい視線が注がれてしまう。



 ここで採れた蜂蜜は絶品なんだよねぇ……。



 栄養価も高いのか。


 舌と体が感じ取るのは此方の想像した効用を遥かに超えるものであった。



 お土産……。


 じゃあないな。


 無理を頼んで、幾つか頂いてから出発しようかしら……。


 任務地へと向かう道中、栄養補給に最適な食物ですので。



「は、はう。蜂蜜さんに、パンさん……。それとぉ!! この鯵の揚げ物ぉ!! 最強の組み合わせじゃない!!」


「レイドさんに料理方法を習いました。皆様の御口に合えばと考えていますよ」


「ピナが作ったのか??」


 ユウが問う。


「数尾だけですね。殆どは里の者が御作りしました。それでは、アレクシア様の到着まで暫くお待ち下さい!!」



「えぇええ――!! まだ食べないのぉ!?」



「当たり前だろ。里の長が到着しないで勝手に食う奴が何処にいるんだよ」


「此処に居るけど……」



 ユウの呆れた言葉に惚けた顔で返す。



 取り返しのつかない事が起こる前にアイツは一度、礼節ってものを習わせた方が良いな。


 カエデに相談してみよう。



 俺一人じゃあ御せぬし、例え教えたとしても鳥頭宜しく。三歩歩けば忘れそうだから……。



 あれこれと日常会話を続けていると。




「――――――――。皆さん、お待たせしました」




 オオルリも悔し涙を浮かべて嘆く声色を放ち、アレクシアさんが静かに姿を現した。




 白を基調としたふわふわのシャツに薄い肌色の上着。


 そして、青のズボンが大変良く似合いますね。



 先日とは違い、普通のお出掛けの格好である事に何処かホッと胸を撫で下ろしてしまった。




 狭い室内、そして二人きりという特殊な状況がそうさせたのかも知れないが……。


 兎に角。


 あの時の破壊力は嬉しい事になりを顰めていた。




「よう!! 元気そうじゃん!!」



 ユウがいつもの快活な笑みを浮かべ、アレクシアさんに第一声を掛ける。



「こら、ユウ。もう少し遜った言葉を使いなさい」



 全く。


 里を代表する者を何だと思っているんだ。



「ねぇ――。私、早く御飯食べたいんだけど??



 あ、あいつめぇ……!!!!



 注意を促した途端にその言葉使いですか!?



「マイ。仮にもアレクシアさんはこの里を取り仕切る立場にある者です。礼節を心掛けた言葉を使用して下さい」



「そうだぞ。里を代表する……。ん?? 仮にも……??」



 少々気になった単語に言葉を詰まらせ、左隣りの彼女を窺う。



「どうかされました??」



 ちょっとだけ首を傾げる様が大変お似合いです。



「あ、いや。仮にもって言葉が引っ掛かって……」



「ふふ、構いませんよ。私も皆さんと会話をする時は立場を忘れた言い方を好みますので」



 柔和な笑みを浮かべ、輪の中央へと進んで行く。



「お――い。どうせならあたしの隣に座りなよ――」


「有難う御座います。ですが、それは挨拶を済ませてからにさせて頂きましょう」



 アレクシアさんが輪の中央へと到達し、里の皆へと視線を送り。



「ふぅ……」



 緊張の吐息を吐き、そして新鮮な空気をたっぷり取り込んで口を開いた。






「皆さん。本日はお忙しい中、御集り頂き有難う御座います」



 彼女の一言を受け外輪で交わされていた日常会話がピタリと止み。


 隣に座る者の呼吸音を聞き取れる静寂が訪れた。




 たった一言で皆が注視する声色、か。


 上に立つ者に相応しい才能をお持ちですね。




「周知の通りこの里、そして南のルミナの街に大変な危機が訪れました。それは……。互いの関係が破壊し尽くされてしまう程の危機でした。私達は傷付き、街の人々も傷付き。心にも深い傷を負いました」




 細い手を合わせ、胸の前で苦しそうに当てて話す。



 その表情は哀しみで溢れ深く傷付いた心を表現する様にも見えてしまった。




「私が至らない事もあり……。里の皆さん、そして街の人々にも耐えがたい苦痛を与えてしまった事。この場を御借りして謝罪を伝えさせて下さい。皆さん……。本当に申し訳ありませんでした」




 彼女が静かに頭を深く下げると。




「面を上げて下さい!! アレクシア様!!」


「そうですよ!! 俺達にもその責任はあるのですから!!」



 方々で抗議の声が続々と上がる。



「皆さん……。有難う御座います……」



 アレクシアさんが面を上げると、大きな目の淵に溜まった温かい液体をそっと指で拭う。



「恐らく、あのままでは我々は絶滅の道へと進んでいたのかも知れません。しかし、我々は……。大変心強い方々に救われました」



 彼女がそう話すと、輪の視線が一気苛烈に此方へと突き刺さった。




 う、うぉ……。


 急に注目されると緊張するな。




「彼等が命を賭して我々を救ってくれたのです。それ処か、彼等はその身を削ってまで里の復旧作業にも携わって頂いています。改めて伝えさせて頂きます。すぅ――……」




 静かに目を閉じ、そして深い呼吸の後。


 俺の目を真正面で見つめながら口を開いた。





「レイドさん。私達を救って頂き……。誠に有難う御座いました」




 夕刻の光に照らされた薄いピンクが微風に揺れ動くと、俺の心もそれと比例する様に五月蠅い音を奏で揺れ動いてしまう。




 彼女は此方を見つめ、俺もまた彼女から視線を外せないでいた。




「この御恩は一生忘れる事はありません。もしも、貴方が窮地に陥ったのなら我々は身を捨てでも貴方の下へと。大空を裂き、堅牢な壁を突破してでも駆けつけます」



「あ、有難う御座います」



 これが今言える精一杯の返答です。



 あんな綺麗な目で見つめられたらそりゃあ口ごもっちゃいますよ……。




「よぉ――。レイドだけじゃなくてさ――。あたし達も死ぬ思いで頑張ったんだけどぉ??」


「そぉ――そぉ――。うちのボケナスばかり持て囃すのは感心出来ませんな――」


「心外ですね」




「ち、違うんです!!!! え、えっと!! 皆さんにもお礼を伝えるべきだと考えていたのですが!!」



 此方の三名の舌撃に対し、分かり易い狼狽え方をする一人の女王様。



「「ですがぁ??」」



 それを発見し。


 さぁ!! 追撃を行いますよ!!


 そう言わんばかりにマイとユウが歪に口元を曲げ、ニヤニヤと笑みを浮かべつつ言葉を返す。




「き、緊張してしまいまして……」



 これ以上あの場で攻撃を食らい続けていたら、顔が沸騰して卒倒してしまうだろう。


 爪先から指先。


 そして耳まで真っ赤ですものね。



「と、兎に角!! 我々一同は皆さんに対し、御恩を忘れる事は無い。そして!! これからも共に歩んで行きたいと考えている次第であります!!」



 アレクシアさんがぴょこんと頭を下げると。



「それでは皆さん!!!! 宴の開始ですっ!!!!」



 醜態を見かねたピナさんが……。


 基。


 機会を見計らい、素晴らしい時間の開始を知らせてくれた。



「カエデさん!! 火を灯して下さい!!」


「勿論です」


 ピナさんの指示を受け、カエデが右手に魔法陣を浮かべると。




「「「おおおおぉっ!!!!」」」





 中央で組まれていた背の高い薪が一瞬で燃え上がった。




「さぁさぁ!! 皆さ――ん!! 歌って、踊って、飲んで、食べて!! 素晴らしい時を過ごして下さいね!!」



「もっちろんよぉおお!! 頂きますぅっ!!!!」



 待っていましたと言わんばかりにマイが瓶の蓋を開け、魅惑の液体に匙を突っ込み。




「は、あぁぁ……。すごぉい……。この蜂蜜の御風呂に浸かりたぁぁい……」



 目尻が、口角が解け落ち。


 恍惚の表情を浮かべて空を仰ぎ見た。



「体がネッチョネチョになるけど良いのか??」


 パンを上品に一口大に千切りつつユウが話す。



「構わん!! 体に纏った蜂蜜も全部舐め取るから!!!!」


 お前さんの舌は背中まで伸びるのか。


 その姿を想像した可笑しくなり、ついつい笑みを零してしまった。




 良いもんだな。


 こうして皆で火を囲んで飯を食うってのは。



 明るい雰囲気が直に心に届く様だ。



「ふ、ふぅ!! 暑いですねぇ!!」



 真っ赤に染まった端整な御顔に手でパタパタと空気を送りつつ、アレクシアさんが俺とユウの間に腰かけた。



「お疲れ様でした」



 パンに伸ばし掛けていた手を止め、労いの言葉で迎える。



「や、やっぱり緊張しました。覚えていた台詞が途中で全部消えちゃった時はどうしようかなぁって思いましたからね」



「態々台詞を考えて下さったのですか??」



「粗相が無い様に。そう考えた次第なのですが……」



 はぁっと、大きな溜息を吐く。



 そして、これを見逃す彼女達では無い。





「台詞を覚えたってのに。あたし達に大変な粗相を与え……」


「憤りが募った我々は……」


「御飯のお代わりふぉ、所望ふぃますぅううう!!!!」



 最後のオチがちょっと弱いかな??


 と、言いますか。



「カエデは横着に乗らなくていいんだよ??」



 左に顔を向け、そう話す。



「この場に合った雰囲気だと考えましたので」



 小さな匙を小さな御口で食みつつ話す。


 うん、大変良く似合います。



「も、もう!! 皆さん酷いです!!」



 自分の羞恥を誤魔化す様に、配膳された食事を猛烈な勢いで平らげて行く。



 意外と食欲旺盛なのかな??


 馬鹿みたい食べそうな体型では無いのに。



「ぬっ!? 貴様……。私と張り合うつもりか??」


「おなふぁが空きましたからね!! ふぁむ……。あむっ……。意外と食べるのですよ!?」




 そいつと張り合うのは止めた方が賢明です。


 放っておけば無尽蔵に飯を食らう龍ですから……。




 蜂蜜を纏わせた至高のパンを頂き、サクサクの鯵の揚げ物を瞬く間に平らげると、火を囲んでいる輪の中からギターの調べが不意に鳴り響いた。




 軽快な音が随分と暗くなった空へ、火の粉を纏い立ち昇って行く。



 それを合図と捉えた者達から手拍子が始まり、里の者達が手を繋ぎ立ち上がると。





「「「はははは!!!!」」」




 陽性な笑い声と共に輪の中央で燃え盛る炎を舞台にした踊りが開始された。




 男性が女性の手を取り綺麗に回転し、ギターの調べに合わせて弾む。


 言い表すのなら、宴会に相応しい軽快な踊りだ。



「楽しそうに踊るもんだな」




 コップに注がれた水を一口口に含んで誰とも無しに話す。




「おぉっ!! 楽しそうじゃん!!!! マイ、行くぞ!!!!」


「まっふぇ!! まだ食べおえふぇ……」


「踊り終えたらいつでも食えるだろ!!」



 あらまぁ……。


 連れて行かれちゃった。



 ユウに強制的に手を引かれ、舞台に到達すると。




「ほら!! あたしの手を取って踊れ!!」



 無理矢理にも見える格好でユウの動きに合わせて踊らされてしまった。



「あんたの胸が弾んで、反対の手が何処にあるのか見えねぇえんだよぉぉぉおおお!!」



「「「「あははははは!!!!!!」」」」



 マイ達の不思議な踊りが里の皆さんの陽性な感情を刺激し、大変恥ずかしい笑い声を頂きました。




 此方が参加しようものならあぁして笑いを得る虞があるが……。


 こういう時は恥ずかしさを矢面に出してはいけませんね。


 楽しい時は皆で楽しむ!!




「カエデ、行こうか!!」


「私は遠慮させて頂きます。こういう雰囲気はまだちょっと……」


「はい!! 後で幾らでも叱られますからね!! 行きますよ――!!」


「ちょ、ちょっと!!」



 カエデの細い手を手に取り、炎の間近まで一気に駆け出し。




「ほらっ!! こうだぞ!!」


「えっ……。わぁっ!?」



 たどたどしい彼女の動きを此方が率先して導き、里の者達の見様見真似で踊りを開始した。




「ははは!! 俺の足、踏んだぞ!?」


「レ、レイドがそうやって動かすからです!!」



 此れでもかと真っ赤に染まった顔でそう叫ぶ。



 普段は表情を崩さない彼女の慌てふためく様を存分に堪能し、マイとユウのしっちゃかめっちゃかな踊りとのすれ違い様。




「マイ!! 交代だ!!」


「あいよう!!」


「きゃあっ!!」




 軽い彼女の体をポンっと横に差し出してやった。




「おっしゃ!! 次はあたしとだな!!」


「え、えぇ。お手柔らかにお願いし……。ま、待って下さいっ!! は、速過ぎるってぇ!!」



 今度はこっちが慌てる番だ。



 ユウの怪力により体が時に宙を舞い、そして空に高く舞い上がった体を格好良く受け止めてくれた。




「どうよ??」



 男らしく、二っと笑みを浮かべる様がまぁお似合いで。



「俺が女だったら今ので堕ちましたね……」


「ふぅん。それじゃあもう一丁!!」


「いやああぁあああ!!!!」



 此方の右手を掴み我武者羅に振り回す。



 お、俺の体は紙で出来ているのか!?



 周囲の風景が目まぐるしく回転し、そして最後は……。



「今度は……。どうだ??」



 俺の腰をぐっと抱え、まるで王子様と御姫様の舞踏会の最後に相応しい恰好で抱き留めて頂きました。




「えっと。王子様らしくて、カッコいいですわよ??」


「あたしは女だ!!」


「いでぇっ!!!!」



 腰の支えが消失し、盛大に尻餅を付く。



「あはは!! レイドさん!! 格好悪いですよ――!!」


「そうそう!! もっと男らしく踊ってやって下さいよ――!!」



 方々から昇る明るい声と笑い声。


 この雰囲気に酷く誂えた様な声を受け、羞恥を誤魔化す様に後頭部を掻く。



 俺もそうしたいのは山々でしたけどね??


 彼女の力には抗えないのですよっと。




 踊り続ける者達から一歩身を引き腰に手を当て、踊り続ける皆の幸せな光景を心に焼き付けていると。




「レイドさん!! こっち!!」


「おわっ!!」



 ピナさんの声と共に体がグンっと引っ張られてしまった。



「ほら!! アレクシア様!! 立って下さい!!」



 目を湾曲させ、皆が楽しむ姿を堪能していたアレクシアさんの下へと連れられ。



「え?? 私は見ているだけで十分に……」


「はいっ!! 二人共!! 手を繋いで!!!!」



「「え、えぇ……」」



 ピナさんに促される様に手を繋ぐと…………。




「…………」




 今まで軽快であったギターの調べの音調が刹那に変化。




 幾千もの輝く満天の星空の下に相応しい、しっとりとした音へと変わってしまった。




「え、えっと……。と、と、取り敢えずゆっくり踊りましょうか」


「え、えぇ。そう、ですね」



 ぎこちなく手を繋いだ手を揺らし、温かい音に合わせ体を揺らす。



 こ、こんな感じかな??



 突然過ぎて良く分からん!!!!



「アレクシア様!! レイドさんの腰に手を回して下さい!!」


「っ!? こ、こう!?」



 いやいやいや!!


 ピナさんの声に従わないで下さい!!



 何んとか思考が保てる距離にあった体が一気苛烈に距離を消失させ此方の体に接着。



 顎下から放たれる女性の香と燃えた木の香りが混ざり合い、思考が……。そして、倫理感が混乱の境地へと達してしまった。




 周囲で踊っていた者達はいつの間にか消え、俺とアレクシアさん。只二人だけが舞台を独占してしまっている。




「も、申し訳ありません。我儘を聞いて頂いて……」


「あ、いや。此方こそ……」



 極力相手の体に触れぬ様に踊り続けているが……。果たして、此方の紳士的な態度はアレクシアさんに伝わっているのだろうか??



 それだけが心配です。




 彼女の震える手が此方の手に伝わり、それが心に伝わる。



 俺もガチガチに緊張しているのだ。


 きっと向こうにもそれが伝わって……。



 情けないよな。


 男ならこういう時こそ堂々としなきゃいけないのに。



 音の調べが徐々に矮小な物へと変化し、それがピタリと鳴りやむと。



「ふ、ふぅ……。あ、あ、有難う御座いました」


「こ、此方こそ」



 繋いでいた手をパっと離し、互いに頭を垂れて謝意を述べた。



 や、やっと終わった……。



 音楽と踊りの方法を変えるだけでこうも緊張するものなのですね……。




 いや、緊張したのはきっと彼女の美麗さが多大な影響を与えていたのだろう。




 さて、元の位置へと戻ろうと体を捻るが。



「アレクシア様――――!! 此処は口付けを交わす場面ですよ――!!」



 ピナさんから耳を疑う声が放たれた。



「え、えぇえええ!?」


「で、出来る訳無いですよ!!!!」




 本日最高潮に真っ赤に染まった彼女の狼狽えた声に乗せ、此方も声高らかに叫んでやった!!




 人前でそんなはしたない行為は出来ません!!!!




 いや、人前じゃあなくても駄目ですけども……。




「はい、皆さんもそう思いますよね――――!?」




「勿論ですよ――!! レイドさん!! パパっと奪って下さい!!」


「男らしくないですよ――!!」


「アレクシア様!!!! 今が絶好機ですよ――!!」




 ピナさんに煽られた里の方々が手拍子を送りつつ、此方を囃し立てる。




「で、出来ません!! そうですよね!? アレクシアさん。――――。えっ??」



 左隣をふと見つめると。



「…………」




 震える体を懸命に抑え湧き上がる羞恥で憤死寸前のアレクシアさんが、顎を上にクイっと上げ。







 目を瞑っていた。







 ん――……。


 ん??



 それはどういう意味でしょうかね??



「レイドさん!! 今です!! パクっと食べちゃって下さい!!!!」



 そ、そういう意味でしたかぁ!!



「む、無理です!! 出来ません!!」




「男らしくないぞ――!!」


「男を見せて下さい!!」


「女王様に恥をかかせる気ですか――――!?」



 俺が拒絶の意思を明確にしても周囲から浴びせられるのは罵声にも近い声。


 この音を鳴り止ませる為には……。やはり、そういう行為をしなければならないのか??




 彼女の肩に手を掛けると。




「んっ……」



 アレクシアさんの体がピクっと、今から起こる行動に恐れをなしたのか。僅かに揺れ動いた。



 はい、やっばいです。



 滅茶苦茶可愛かったな、今の声。




 その声に誘われた体が頭の命令を無視し、徐々に彼女の体を手繰り寄せてしまう。




 耳に届くのは乾いた薪が爆ぜる音と、アレクシアさんが放つ少々荒い鼻息のみ。


 まるで俺達以外の者が消失してしまった様な沈黙が訪れ、その素敵な音に背中を後押しされ……。



 彼女の肩を強く手で食んだ。





























「させるかぁあああああああああああ!!!! ボケナスがぁあああああああ!!!!」


「あばがあっ!?!?!?」



 狂暴龍の咆哮が耳に届いた瞬間。



 首が捩じれ飛び、体が地面と平行に飛翔する。



「ア……。ビッ!! グワァアア!!!!」



 地面を一度、二度跳ね。


 真新しい家屋の壁に衝突して、やっと自由飛行が止まってくれた。



 頑丈な壁にして正解でしたね。


 そう何度も破壊する訳にはいきませんから……。




「天に召してやろうかぁああ!? あぁああ!?」



 意識が朧に漂う中、アイツの恐ろしい声が脳に刻まれてしまう。


 今度からあの声を聞く度に体が窄んでしまうのだろう。



「あははは!! レイドさん!! 惜しかったですね――!! 次はペロリと食べちゃって下さいっ!!」


「あんたもその口を閉ざしてやろうかぁあああ!?」



 ピナさんに襲い掛かる深紅。


 そしてそれから逃れる水色。



「「「「わはははははは!!!!!!」」」」




 里の者達が放った笑い声が再び鳴り始めたギターの調べと、火の粉に混ざって天へと昇って行く。


 きっと素晴らしい光景なのだろうが。


 如何せん。


 俺の意識はもう眠れと叫んでいますのでその雰囲気を最後まで堪能出来ないのが残念ですね。


 予想通りに訪れた闇の中、平和な音だけを楽しみ。


 この音が未来永劫この里で鳴り響きますようにと願いつつ。夢の世界へと続く扉に手を掛けたのだった。


お疲れ様でした。


急遽追加した御話しでしたが……。如何でしたでしょうか??


さて!! それではまた明日にお会い致しましょう!!

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