第百六十六話 大魔と呼ばれる者の力 その三
お疲れ様です。
週末の夜にそっと投稿を添えさせて頂きますね。
それでは御覧下さい。
戦闘による負傷と枯渇してしまった体力を回復させる為に荒々しい呼吸を続けていると、喉が渇きを覚えてひり付く痛みが襲う。
意図せずとも両の足が微かに震え続け、これが今現在の私の力なのだと確知すると。忸怩たる想いを静かに抱く。
全ての体力、魔力そして……。両親から与えられた素晴らしき力を以てしてもあの壁を突破する事は叶わないのか??
「どっせぇい!!」
ユウが大戦斧を上空高くから蛇の女王へと向かって振り下ろす。
大戦斧が結界に直撃した刹那、大地を震わせる力の波動が駆け抜けて行くが。
「うふふ。中々良い攻撃じゃない」
それでも彼女の呆れた防御は突破出来なかった。
「そりゃどうも!! お代わりはどうだ!?」
振り下ろした大戦斧を地面と平行に構えて穿つ。
「結構よ。そう何度も直撃を受けていたら結界が突破されてしまうからね」
蛇の女王が左手をユウへ翳すと、掌に黒き魔法陣が浮かぶ。
「へ、へへ。出来れば優しく吹き飛ばして……」
「残念。それは……。無理な注文よ!!」
漆黒の波動が迸り、黒き球体がユウの腹部を直撃。
「うげぇっ!!」
彼女の体は鋭き矢の飛翔の如く後方へと吹き飛ばされてしまった。
「――――。ゴホッ!! いってぇ……」
「ユウちゃん大丈夫??」
腹を抑えて立ち上がるユウへ我が半身が問う。
「あぁ、何んとかね。しっかし、あの化け物相手に時間稼ぎは辛いねぇ……」
「そんな事言わないの!! カエデちゃんや、アオイちゃんだって頑張っているんだから!!」
「カエデ!! 行きますわよ!?」
「アオイに合わせます。好きな時にどうぞ……」
「二人同時、二属性同時詠唱か。見た目より大分優秀なのね??」
「五月蠅い口は閉じて頂きましょうか!! 食らいなさい!! 落城!!」
「遍く炎の欠片、生命の源の水よ……。私の下へ集え。蒼炎破穿!!」
いつか見た相手の装甲を弱体化させるアオイの魔法が結界を襲い、それとほぼ同時。
カエデが詠唱した青炎の巨大な塊が不敵な笑みを浮かべる彼女へと飛翔し。
「へぇ……。弱体化と青き炎……。その年でもう会得しているとは。これはちょっと驚いたわ」
呑気に観察を続ける彼女へと着弾した。
「あっつぅ!! お、おいおい。何だよ、今の青い炎は……」
「恐らく。赤き炎よりも温度が高いのだろう」
爆炎に目を細めているユウへと言ってやった。
焦げ臭い香りが周囲に漂い、爆炎が柔らかき風に乗って晴れていくと。
「――――。ふぅっ、最高硬度の結界には歯が立たなかったみたいね??」
然程表情が変わっていない蛇の女王が現れた。
あの二人の魔力を以てしても傷一つ付ける事は叶わないのか??
それ程に、大魔と我々との差は離れているのか……。
悔しさと同時に情けなさが心に湧き起こる。
「食らえぇぇええ!!」
我々と反対方向で弓を構えた主が矢を射る。
「貴方のそれだけは受けられないわね!!」
しかし、彼女の尾が直撃を防いでしまった。
「ちっ!! まだまだ!! 直撃するまで何度も撃ちますよ!!」
あの一射には大量の体力を消耗すると主から聞いた。
それを雨の様に降らすとは……。
くそう!! 何をやっているのだ!!
私は!!
通用しない、敵わない、無意味だ。
そんな負の感情に押し潰されて!!!!
情けなくて自分の喉笛を噛み千切りたくなるぞ!!
「リュー!! 一緒に行くよ!!」
我が半身が私の想いを掬ったのか。
弱き心を捨て去り熱き想いが籠った金色の瞳で私を見つめる。
「了承だ。私に合わせろ!!」
父から伝承された技……。
今此処に見せるっ!!!!
「「はぁぁぁぁああああ……」」
我が半身と肩を並べ、共に魔力を高めて行くと。
私の双肩からは漆黒の雷。
そして、ルーの双肩からは白き雷が迸る。
「いって!! お、おいおい!! 何をする気なんだよ!?」
我々の雷の余波を受けたユウが顔を顰めて問う。
「お父さんから教わった技を使うんだよ!!」
「ルー!! 無駄な口を開くな!! 極限まで魔力を高めろ!!」
「分かっているよ!!」
父は我々に言った。
単なる雷は木の幹を切り裂き大地に微かな痕跡を残すだけだ。
しかし。
轟雷は大地を切り裂きこの星さえも穿つ、と。
私は単なる雷。
だが、極限まで力を高めた我々の雷鳴は万雷をも越え。星を揺るがす轟雷へと至るのだ!!!!
「「はぁぁああああ!!!! だぁぁああああああっ!!!!」」
黒き雷と白き雷が混ざり合い灰色の雷へと変化。
周囲の塵芥が我々から迸る雷によって灰へと還って行く。
「あはは!! 何よ、それは!! 楽しませてくれるじゃない!!」
我々の変化を掴み取った蛇の女王が主を傷付けた漆黒の矢を此方へ向かって穿つ。
この矢が……。主を……!!
「ルー!! 解放しろ!!」
「うん!!」
「「はぁっ!!!!」」
我々二人が極限まで高めた魔力と雷を解放すると襲い掛かる矢は、我々の前で霧散。灰色の光の中へ消失した。
「私の矢を魔力で相殺するのか!!」
「それだけでは無い!!」
「そうだよ!! 私達が力を合わせれば、無敵なんだからぁ!!」
灰色の雷を身に纏い。
「さぁ、向って来るが良い!! 雷狼の子孫!!」
「行くよ!? リュー!!」
「了承したっ!!」
二人同時に音を、そして光さえもその場に置き去りにして雷撃を開始した。
「なっ!? き、消え……」
そうだ!!
我々誇り高き雷狼の最高速は貴様に捉える事等、不可能!!
「ふんっ!!」
私の姿を見失った蛇の女王の右側面に出現し、灰色の雷を纏った我が得物を叩き込み。
「たぁっ!!」
我が半身は私の反対方向から出現して左手の甲に装備した得物を鋭く突く。
極限まで高まった灰色の雷を纏い絶え間無く女王の周囲を移動。
姿を消しては出現、そして強烈な雷を纏った雷撃を与え続けた。
「ちぃっ!! 纏わり付いて!!」
蛇の尾の一閃が私の胴を狙うが、その速さは欠伸が出る程であった。
解放前は見えなかったこの一撃だが……。
今は手に取る様に見えるぞ!!
「遅いぞっ!!」
宙へ逃れて蛇の尾を躱し、局所展開された結界へと雷脚を穿つ。
「こ、この……」
ほぅ……。流石は大魔だ。
我々の速さにもう目が慣れたのか。雷を纏って移動する私の動きを目で追っていた。
その程度で私を捉えたつもりか??
目では追えるが、体は反応するのか!?
雷狼の雷は光をも越える速さだぞ!!!!
「はああぁぁっ!!」
「でやぁぁああっ!!」
灰色の雷を帯びた左右の拳の連打、烈脚の痛打が衝撃を与える度に心地良い雷鳴が轟く。
集中力を高めた美しい武の結晶が、舞い、跳ね、回転する。
我々は轟雷となって恐るべき傑物に攻撃を与え続けていた。
さぁ……。
どうする!? このままでは我々が押し通るぞ!!
「この……。クソ共がぁ!!」
上空に浮かべた漆黒の魔法陣から黒き槍を召喚。
絶え間なく攻撃を与え続ける我々に向かって二つの槍を一気苛烈に振り下ろした。
「「見えた!!!!」」
二人同時に槍を躱し、上空に浮かんでいる漆黒の魔法陣の更にその上へと飛翔。
「ルー!! 一撃で決めるぞ!!」
「分かってるよ!!」
体を捻り、我が半身と背中を合わせ。そして灰色の轟雷を纏う。
地面へ落下する加速に己が武力と魔力、そして魂を合一させた。
食らうが良い!!
そして雷狼の尾を踏んだ事を後悔しろ!!
これが……。我々の最強の技だ!!!!
「「双雷の戦士――ッ!!!!!!」」
右足と左足。
お互いの利き足の先端に灰色の稲妻と魔力を集約、そして加速させて地上へと落下。
それは正に、天からの一撃。
我々の力が結界に衝突すると、雷鳴轟き激しい閃光と共に轟音が炸裂して空気を吹き飛ばした。
「どうだ!?」
「手応えありだよ!!」
着地と同時にバク転をして、ミルフレアから距離を取り結界の状態を確認した。
「くっ……」
効果は抜群だった。
蛇の女王を包む結界は萎み、重厚な壁は綻び、薄くなっている。
それは正しく我等二人の轟雷が彼女に勝った証拠であった。
――――。
リューヴとルーが一本の雷となって大地へ降り注ぐと、周囲の家屋の壁を悪戯に傷付ける爆音が発生。
見ている者の心を鷲掴みにする美しい灰色の閃光が迸ると……。
「ぐぅ……。くっ……」
轟雷の着弾を真面に食らったミルフレアさんに刹那の隙が生まれていた。
す、すげぇ……。
あの灰色の雷……。結界を貫通する威力なのか!?
そして!!
二人が全てを賭して与えてくれたこの千載一遇の機会を逃す手は無いっ!!!!
「今だ!!」
第二段階全開放っ!!!!
指が千切れても良い、腕が使い物にならなくなっても構わない、そして例え心臓が止まったとしても……。
俺は此処で全てを出し切る!!!!
全てを籠めた指先で弦を掴み、力の限り弦を引くと。白き稲妻を纏った朱の矢が出現。
さぁ、届け!! 俺の熱き想いよ!!
「くらえぇぇええええ!!!!」
願いを籠めて弦を解き放つと、朱の矢が空気を鋭く切り裂きながら飛翔していく。
刹那。
「うぐっ……」
全身の力が消え失せ、地面へと両膝を着いてしまう。
俺の矢は……。
視線の先には朱の矢が、標的へと向かい美しい深紅の尾の残像描いて飛翔していた。
良かった……。
「おっしゃぁああ!! これがあたしの全力だぁぁああ!!」
気合十分のユウが大戦斧を大地へ叩きつけると、普段の倍以上の巨岩が地面を切り裂き地走る。
大地震が起きてもこの現象は起こらないであろう。
それ程の事象が目の前で起きていた。
「レイド様!! 合わせますわ!! 食らいなさい!! 紅蓮牡丹っ!!」
アオイの放った火球が空気を焦がし、膨大な熱量を帯びながら向かう。
地表に太陽が現れたと錯覚させる程の熱量だ。
「星屑煌雨流星願……ッ!! 光の鼓動に抗えますか!?」
火球の更に上空。
桁違いの魔力を放つ魔法陣が出現し、爆発を伴ったカエデの最大火力がミルフレアさんを襲う。
大火球、無数の光の矢、深紅の矢、巨岩の波。
四つの願いが合わさり膨大な力の渦となって結界に襲い掛かった。
「こんなもの……!!」
ミルフレアさんはこれを迎え撃つ覚悟だ。
両手を前に翳し、渾身の力を籠めて歯を食いしばる。
俺達の渾身の一撃は綻びた結界程度では決して止まらないですよ!?
「ぐぁぁああああああっ!!!!」
四つの力、願いが着弾すると同時に爆炎と熱波が広がり周囲の家屋を悪戯に傷付けた。
結界が苛烈に吹き飛び、大気を滅却させる爆炎がミルフレアさんを襲う。
此処だ!! 俺達には此処しか勝機は無いっ!!
絶対、見逃すなよ……!?
「マイ!!」
「マイちゃん!!」
「ぶちかませっ!! マイ!!」
「マイ!! 貴様の力を見せてやれ!!」
「まな板!! 決めなさい!!」
「マイ……。信じていますよ」
各々が声の限りに叫び。
そして目を瞑り、今も静かに魔力を高めているマイへと視線を向けた。
「おおぅっ!!!! さぁっ……。これで決めてやるわっ!!!!」
マイが俯きがちであった面を上げると。
「私の闘志よ!! 今こそ烈火の如く燃え上がれ!!」
右手に浮かべた勝利を彩る赤い魔法陣からは燃え盛る炎の槍が。
「我、龍族の誇りにかけ……」
続いて、左手に浮かべる緑の魔法陣からアイツの裏の顔でもあり偶にしか覗かせない優しさを感じさせる深緑の槍を召喚。
「勝利をこの手に!!!!」
勝利、そして一部の優しさ。
召喚した二つの槍を正面の黄金の槍に合わせると、強烈な突風が発生。この戦闘の余波を受けて既に傷付き倒れそうになっている家屋が倒壊してしまった。
「ぐぎぎ……。うぉぉおおおおおおっ!!!!!!!」
地面に突き刺した黄金の槍を引き抜く。
二つの力を合わせた黄金の槍は白く、そして神々しく光り輝き。かなり離れている位置だってのに熱さを感じてしまう。
あの熱さを例えるのならば……。
灼熱の業火で敵を焼き尽くす太陽だ。
右手で太陽を掴み、大きく後ろへ引くと投擲の構えを見せた。
「私の乾坤一擲、受けてみなさい!! 龍飛鳳舞槍!!!!」
マイが咆哮すると槍が彼女の圧に呼応して衝撃を放ちそれと共に此方の体が揺らぐ。
凄い力の波動だ……。
「な、何よ!! その力は!? その段階で有り得ないでしょ!!」
「ぐっ……。私のぉ……。超絶最強のぉ、とぉぉっておきよぉ!! テメェのウネウネした蛇の部分にぶつけてやらぁぁああああああ!!」
大変行儀の悪い言葉を放つと、白く眩い閃光を放つ槍をミルフレアさん目掛け体を大きく傾けて投擲した。
放たれた槍は空気を、音を切り裂き。そして衝撃の余波で空気を巻き上げながら直進。
「こ、こんなもの……。こんなものぉぉおお!!!!」
襲い掛かる太陽に両手を翳して結界を張る動作を構えるが……。しかし、それより数舜速く太陽の輝きを放つ槍がミルフレアさんの足元へと着弾した。
「ぎぃやあああああああああ!!!!!!」
爆炎、迸る閃光がミルフレアさんを包み。耳をつんざく衝撃音と共に巨大な力の塊が爆ぜた。
上空に浮かぶ雲が上昇する衝撃波によって霧散して、周囲の数十軒の家屋が紙の様に倒壊。
そして、当然俺達にもその馬鹿げた衝撃波が襲い掛かる訳だ。
「うぉぉぉっ!?」
爆風で体が吹き飛ばされ熱波、黒煙、轟音が体を無慈悲に包む。
凡そ、一人の魔物が発生させる代物ではない威力に首を傾げたくなりますよね……。
疲労困憊のこの体は大変御堅い地面の上を強風で飛ばされる軽い葉の様に、里の入り口方面へと向かって面白い回転の仕方で転がり続けて行った。
最後まで御覧頂き有難うございました。
次話の後書きなのですが……。作風の雰囲気をぶち壊さない為にもお礼だけを述べさせて頂きます。予めご了承下さい。
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霜焼けに負けない素敵な激励を頂き、執筆活動の励みとなります!!
さて、蛇の里の御話は残す所後一話。編集作業によっては二話となります。
蛇の里の御話が終わるといよいよ第二章の最終章へと突入します。
これ以上はネタバレになるので申す事は出来ませんが、彼等に相応しい冒険が待ち構えている事は確かですので温かい目で見守って頂ければ幸いで御座います。
それでは皆様、体調に気を付けて週末を過ごして下さいね。




