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第百六十六話 大魔と呼ばれる者の力 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。


それでは御覧下さい。




 細き腕から繰り出された咄嗟の出来事が此方の集中力を否応なしに高め。静かに状況を見守っていると、ミルフレアさんが不敵な笑みを浮かべて俺達を見渡した。



「力を解放したら手加減出来ないわ。死んでも文句を言わないでね?? あ、死んだら文句言えないか」


「能書きはいいわよ。さっさと底を見せなさい」



 彼女から距離を取り、戦闘態勢を継続させながらマイが言う。



「うふふ……本当に久々……。血が、騒ぐわ」



 両手をだらりと垂らし、大きく項垂れると……。空気が重くなった。


 比喩では無く正真正銘、質量を持った空気によって体全体が押し潰されそうに重くなったのだ。



 お、おいおい……。


 嘘だろ??


 魔力を高めるだけで体が竦んで……、動けなくなるなんて。



「う……。何だ、そりゃ!?」



 ユウが目を見開く。


 彼女の視線を追うと、ミルフレアさんの体の表面には解読不明の紋様が浮かび上がり。それが赤く怪しく蛍の光の様に瞬いていた。



「あぐ……。ぐあぁっ……」



 ミルフレアさんの体が小刻みに震え、体の中から溢れ出る魔力が天蓋状に広がっていく。


 この感じ……。


 我を忘れた時のアレクシアさんと、初めて対峙したリューヴの時と似ているな。



「カエデ、あれは不味くないか??」



 右隣りで警戒態勢を取る彼女へ問うた。



「非常に不味いです。私達相手にどうやら、本気を見せてくれるようですね」



 本気。


 体の奥深くで眠っている大魔の力がいよいよお出ましって訳か。



「マイさんやい」


「何だい?? ユウさんやい」



 あの二人、こんな時だってのにどうしてふざけていられるんだ??


 いや、こういう時だからこそ平常心を忘れてはいけないのか。



 俺も見習おう。


 心に一切の凪の無い澄んだ水面を映せ……。


 されど、体には燃え盛る烈火の闘志を宿せ。


 正面から襲い掛かる昂る魔力の波動を受け流し、集中力を高めて行くと。自分でも不思議と思える程に酷く気分が落ち着いて来た。



 恐れるな。気負うな!! 極光無双流の神髄を見せてやるんだ!!


 師匠!! 必ずや生きて帰ってみせますからね!!



「あれ、ものすっげぇヤバイ奴ですわよ??」


「ト、トホホ。その通りで御座いますわね……。こんな事になるのなら、おっぱじめる前におにぎり食べておけば良かった」



 や、やっぱり一言注意しておこう!!



「マイ!! ふざけていないで構えろ!!」


「うっせぇ!! んな事分かってんだよ!! すぅ――。ふぅっ!! 灼熱火輪ブレイジングサン!!」



 黄金の槍に灼熱の炎を纏わせ。



「ルー!! 私達も纏うぞ!!」


「分かってるよ!! 来て!! 白輝憑依グランツターグン!!」


漆黒シュバルツフェアトラーク!!」



 雷狼も白き雷と漆黒の稲妻を纏った。


 実戦で使用するのは初めてだが、果たして本気を見せてくれる彼女に通用するのだろうか……。



 各自迎撃態勢を整え、固唾を飲んでその時を待っていると。



「はああああぁぁあ!!!! アアアアアァッ――――!!!!」



 項垂れていた体を大きく逸らして体内から放った光を全て吸収。


 意図せずとも体から力が溢れ出ているのか。ミルフレアさんの体からドス黒い魔力が漏れ出していた。



「……。はぁあぁあっ」


「うぇっ!!」



 ユウが襲い掛かる魔力の波に一歩下がった。


 下がってしまったと言うべきか。


 白目の部分は鮮血の如く真っ赤に染まり、口からは怒気を含めた白い息が漏れ。そこにはあの麗しい顔の欠片さえ残っていない。



 な、何て圧だ……。


 対峙しているだけでも全身の肌に細かい針が突き刺さる感覚を覚え、背筋に冷たい汗が浮かびそれが重力に引かれて静かに落ちて行く。


 これが……。師匠達と肩を並べる者の本気、なのか。



「最初に、死にたいのは誰かしら??」



 常軌を逸した憎悪の炎が浮かぶ瞳で俺達を順に見渡す。



「私だぁ!!」



 リューヴが漆黒の雷を身に纏って大地を這う様にして直進。



 視界が彼女の姿を追えたのは最初の一歩まで。それからは速過ぎて俺の視界から消えてしまった。


 遠くから見ても姿を見失う速さ……。


 一体どれ程の速さで動いているんだ。



「呆れた速さ。でもね?? 私は貴女よりも速く動ける奴と戦った事があるのよ」


「何!? ぐぅっ!!」



 消えたリューヴの姿が現れたと思いきや、それを間髪入れずに尻尾の重撃で撃ち落とした。



「かはっ!!」



 余程の重撃だったのか。


 地面に叩きつけられると、真っ赤に染まった鮮血を含んだ唾液を吐き出す。



「リュー!! てやあぁっ!!」


「ルー!! 合わせるわよ!!」


「行きますわ!!」



 三人が同時に、異なる方向から一気呵成に攻め立てる。


 炎の槍、白雷を宿した鉤爪、そして鋭利な小太刀二刀。


 分隊内の速さと威力と技術の粋を集めた雷撃にミルフレアさんは慄く処か。




「掛かって来なさい!! 小さな女王共!! 力の差を……。存分に見せつけてやるわ!!」




 その場から一歩たりとも動かず、不動の姿勢を以て対抗した。



「うるせぇぞ!! くたばれやぁあ!! 卑猥な蛇野郎!!」


「遅いわよ!!」


「うぐべっ!?」



 マイの槍を左手で跳ね除けて蛇の尾で弾き飛ばすと。



「お姉さん!! 後ろが……」


「見えているわよ!!」


「わぁぁああっ!!」



 背後からのルーの雷撃を返しの尻尾で叩きつける。



「こ、この!! あばずれの女王め!!」



 アオイの小太刀二刀はミルフレアさんが翳した掌の前で何故か停止。それ以上動かないでいた。



「ぐ…………。くぅ!!」



 歯を食いしばり、鋭い刃で何かを切りつけようとしている。



「不思議……、かしら?? それ以上進めなくて??」


「こ、こんな……。薄い結界、切り裂いて見せますわ!!」


「貴女の母親の方が百倍強いわよ?? 何て情けない子なのかしらねぇ」


「な、何ですって!?」



 此処からは確認出来ないが……。魔力の壁が防いでいるのか。


 それなら、俺達の出番だな!!




「カエデ!! 俺達も続くぞ!!」


「分かりました!!」



 アオイ、ルー、そして。



「いっでぇなぁ!! 顎がぶち折れて飯が食えなくなったらどうしてくれんのよ!!」



 吹き飛ばされても速攻で戦場へ戻って来たマイを射線上から外し、確実に穿てる位置へと移動を果たした。


 ここなら確実に射貫ける!!



「ふぅっ……。ふんっ!!」



 指が千切れても構わない勢いで弦を引き、朱の矢を召喚。


 そして彼女を薄く守る結界へ向けて穿つが。



「残念!! その位置からしか撃てない様に仕向けているのよ!!」



 威力を増した蛇の尾に矢を塞がれてしまった。



 一度駄目なら二度撃つまで!!


 何度でも隙を見つけて撃ってやるよ!!



「はぁぁああっ!!」



 カエデも水の槍、光の槍を絶え間なく降らせているが。


 しかし、それでも結界を打ち破れないでいた。



「良いわよ……。良いわよ!! 貴女達!! 惜し気も無く力を出せる相手は本当に久し振りっ!!」



 昂り荒ぶる魔力を右手に集中させると、漆黒の魔法陣が手元に浮かぶ。


 そしてそれを空へ掲げると俺達の頭上に無数の黒き矢が出現。


 人体等刹那に穿てる鋭さを持つやじり、矢本体には鮮血にも似た赤色の雷が迸り乾いた音を奏でている。



 う、嘘だろ??


 あ、あれが今から降って来るのか!?



「さぁ……。絶望に塗れた叫び声を奏でなさい。悪夢赤血矢ナイトメアアロー……」



 ミルフレアさんが掲げている右手を一気に振り下ろすと同時。


 赤き雷を纏った漆黒の矢が俺達に向かって空気を切り裂きながら飛来した!!



「くそっ!!」



 直撃は不味いぞ!!


 腰から短剣を抜剣、襲い掛かる矢を確実に切り落としていたその時。


 視界の淵に……。


 力無く地面へ片膝を着いているリューヴを捉えた。



 先程直撃した攻撃が影響して立てないのか!?



「くっ!!!!」



 動けぬリューヴを鏃が捉えると、残酷な現実を見せつけるかの様に。彼女の体へ一直線へと降り注いだ。



「くっそ――――!!!!」



 間に合えぇぇええ!!


 両の足が千切れても構わない勢いで彼女の目の前へと移動を果たし。



「でやぁぁああああ!!」



 無我夢中で襲い掛かる矢を切り落としてやった。




「あ、主!! 何を!?」


「偶にはす、少し位格好良い所を見せないと……。うぐぁっ!!」



 しまった!!


 一本外しちまったな……。


 左足の大腿部へ視線を落とすと、黒き矢が肉を美味そうに食んでいた。



「ば、馬鹿者!! 私等放っておけばいいのだ!!」


「そんな事出来る訳……。ないだろ??」



 痛みがある内は大丈夫、痛みがある内は大丈夫。


 己の中で呪文の様に同じ言葉を唱え続け、一気呵成に矢を引き抜く。



「いっっ……」


「主!! 痛むのか!?」



『もう勘弁して下さいってくらいに痛過ぎます』

「大丈夫だ。俺は我慢強さには定評があるの」



 心の中の軟弱な己とは真逆の言葉を心配そうな面持ちを浮かべる彼女へ言ってやった。



「はぁ……。はぁ……」



 く、くそう……。流石に限界か??


 体中の関節、骨、筋肉が燃える様に痛む。


 それに……。今の一撃がかなり響いたな。何だか視界も少しぼやけて来た。



「その体では無理だ」


「そうはいかないさ。あそこで戦っている仲間を……。放ってはおけないからな」




「くらえぇぇええええ!!」


「だぁぁああああ!!」



 ユウとマイの息の合った連携攻撃が左右から襲撃する。



 炎を纏った黄金の槍の鋭い穂先が頭蓋を。


 大戦斧の幅の広い刃面がミルフレアさんの胴を狙うが。



「いっつ――!! この野郎!! 硬過ぎなのよ!!」



 ミルフレアさんを包む結界はそれを容易く弾いてしまった。



「大魔の逆鱗に触れた事を後悔して……。死ねぇっ!!!!」



 左手をマイ、そして右手をユウの体に向けて魔力の塊を衝突させた。



「うげぇっ!!」

「おごすっ!?!?」



 ほぼ零距離からの衝撃波を受けた二人が正反対の方向へと吹き飛ばされ、此方側には。



「あばばば!!」



 真っ赤かな三角形のおにぎりがなだらかな丘をコロコロと下る様に転がって来た。



「おぶちっ!! はぁっ……。やぁっと止まった」


「マイ、大丈夫か??」



 本日二度目の大回転を味わい、ちょいと悔しそうに仰向けで寝転がるマイへ言ってやった。



「大丈夫も何も……。攻撃があたりゃしない!! でやっ!!」



 呆れる程に元気良く立ち上がると小振りな臀部に着いた土埃を払う。



「でも……。ここで諦めたら……私らしくないわよね??」



 ニィっと、意味深な笑みを浮かべて俺を見上げる。



「まぁな。それで?? 作戦は??」



「アレに……。賭けるわよ」



 ふざけた空気を一蹴。


 ある種の決意にも似た熱き想いを手に宿して黄金の槍を地面へと勢い良く突き刺した。



「アレか。溜めるのに時間が掛かるだろ??」



 お披露目会の時は確か……。魔力を溜めるのに五分以上掛かった筈。



「なぁんと!! たった三分で溜まる予定なのよ!!」



 では、問おう。


 どうして君はいつも指の本数を多く示すのかな??


 五指を全てバッ!! と広げ。ニッコニコの笑みで俺とリューヴを見つめた。



「ボケナス、リューヴ。時間稼ぎ、任せたわよ??」


「任せろ。時間を稼ぐ処か、倒して見せる!! はぁっ!!!!」



 そう言葉を残すと再び漆黒の雷を身に纏い、正面のミルフレアさんへ向かって突撃を開始した。


 よぉし……。


 最終局面に突入しますか!!



『皆!! 聞いてくれ!!』



 今も火花を散らして戦闘を継続させる皆へ念話を飛ばす。



『マイが乾坤一擲を投じる。俺達はそれまで、刻を稼ぐぞ!!』

「頼んだぞ!! マイ!! はぁぁっ!!!!」



「おう!! 可愛いお肉ちゃんをモミモミして、塩と辛口の胡椒で下味を付けてぇ……」



 多分唐揚げの下拵え、だと思うけど。


 集中力を高め、首を傾げたくなる詠唱を続けるマイから離れてがむしゃらに矢を射る。



 俺の体力全部くれてやるよ!!


 その代わり、結界は破壊させて頂きますからね!!


 白、藍、灰、深緑そして激昂した紫。


 複雑な色が絡み合う中へ乾坤一擲の序章となる雷撃を打ち込んでやった。




最後まで御覧頂き有難うございました。


本日の朝なのですが、爪先に猛烈な痛みを感じて目を覚ましました。


寝相が悪い所為もあって、爪先だけが何故か掛け布団から出てしまっているのです。季節は冬、しかも日本列島を包む寒波もあってか。霜焼けを罹患してしまいました……。


これがまた痛いのなんの。


ですが、逆説的に捉えると冬の季節にしか見られない珍しい光景。無理矢理自分にそう言い聞かせて今も痛む足の指を撫でながら投稿させて頂きました。


コイツはまた下らない事を書きやがって……。


等と光る箱の先から筆者を嘲笑う読者様の声が聞こえて来そうですね。



そして、ブックマークをして頂き有難うございました!!


第二章完結編、そして。第三章のプロット作成の嬉しい励みとなりました!!!!



それでは皆様、寝相に気を付けて休ませて頂きますね。

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