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第百六十五話 到着!! 問題児集団!! その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。


それでは御覧下さい。




 血液独特の糞ったれな味と、土塊の苦みが混ぜ合わさった何とも言い難い味が口内一杯に広がる。



「ゴフッ!! ぜぇっ……。ぜぇっ……」



 唾液と共に憎い塊を地面へと吐き捨てるが嫌な後味は決して消え去る事は無く、口内に存在し続けていた。


 だが、これは僥倖と捉えるべきではないか??


 味を感じる事は生きている証なのだから。



「はぁっ……。はぁっ……」



 これで……。


 倒された回数は一体何度目であろう。殴られて、倒れ過ぎて数えるのも面倒になって来た。



 地面と熱い抱擁を交わしたまま、傷一つ付いていないミルフレアさんを見上げると。



「あはは!! 良いわよ、その目。徐々に目の輝きが失われ、私に従順になっていく様。ゾクゾクするわぁ……」



 満足気に恍惚の表情を浮かべて無残に倒れる俺を見下ろしていた。



 そちらは良い様に俺の事を痛めつけて楽しいかも知れませんけどね?? こちとら全然楽しくない。


 戦闘云々を楽しむ処か、生命の危機さえ感じている。


 呼吸の都度あばら骨に鋭い針に刺された様な痛みが生じて呼吸を阻害。その結果、満足のいく回復は見込めず


 しかも、殴られ続けている所為か右の瞼が腫れ上がり相手との距離感が曖昧になっていた。



 捻挫、打撲、脳震盪。



 全身隈なく痛めつけられた俺の体は傍から見れば超重傷患者にも見えるだろう。


 これだけの痛みと怪我を受けても気を失わず戦えている事に対し、自分でも良く耐えているなと思う。



『マイ達が待っている』



 この事実が今にも消えそうになる闘志を再燃させ、立ち上がれと体に命じるのだ。



 彼女達の下へどうしても逃げなきゃいけないのだが……。駄犬の調教に余念がない彼女がそれを許す筈は無かった……。



「ふぅっ!! あぁぁぁああっ!!!!」



 もういい、お前はよく頑張った。


 そのまま眠っても良いんだぞ。



 頭の中に響く甘美な言葉を振り払い、渾身の力を振り絞って立ち上がると両の足を大地へ突き立ててやった。



「うっそ――。ミルフレア様の攻撃をあれだけ食らって立つなんて……」


「でもぉ……。指先一つでも触れたら倒れそうじゃない??」



 俺の周囲を取り囲むラミアさん達から驚嘆の声が届く。


 お姉さん達、その考えは大正解ですよ。


 少しでも気を抜いたら地面に膝を着いてしまいそうなので。



「ミルフレア様――。後は私達にお任せくださいっ」


「そうですよ。ミルフレア様の御手を煩わせる訳にはいきませんからね!!」



「私は別に構わないけど……」



 ミルフレアさんのお許しを受け、二体のラミアさんが俺を挟んで対峙した。



 正面、一。後方一、か。



「ふふっ、美味しそうねぇ」


「一緒に仕掛けるよ!!」



 か、勘弁して下さいよ……。


 こ、こっちはもう立っているのも辛いってのに!!



「やぁっ!!!!」


「はぁっ!!」



 正面、並びに後方から蛇の尾が俺に迫り来る。


 まだ何んとか第二段階は発動出来ているが、彼女達にこの力を使用する訳にはいかない。


 傷付けない様に出来るだけ優しく無力化させて頂きます!!



「ふっ!!」



 正面のラミアさんへ向かって一歩で懐へと到達。



「えっ!?」


「ちょっと痛いですよ!?」


「きゃぁっ!!」



 蛇の胴体へ掌打を放ち、取り囲んでいるラミアさん達の方角へと吹き飛ばし。



「こ、このぉっ!!」



 相変わらず迫り来る後方からの尾には左足を軸に、半回転して回避。


 右足を地面へ着けると同時に脚力を開放。



「へっ!?」



 俺の踏み込みの速さに目を白黒させている彼女へ右の拳を……。


 じゃあ無い!!!!


 打ち込もうとした右の拳を咄嗟に開き、両手で蛇の胴体をがっしりと掴み。



「失礼しますね!!」


「きゃっ!!」



 先程吹き飛ばした彼女と同じく、他のラミアさんが待ち構えている場所へと優しく放り投げてあげた。



「ちょっとぉ!! お尻ぶつかったわよ!?」


「もっと優しく受け止めてくれてもいいじゃない!!」



 ほっ、良かった。


 怪我は無いみたいですね。




「へぇ、まだまだ元気一杯ねぇ」


「師匠に鍛えられていますから」



 この程度で根を上げる様じゃ一番弟子は務まりません。



「あの狐は相変わらず甘いわねぇ」



 蛇の部分をうねらせて接近、俺の体を彼女の攻撃範囲内に収めて話す。



「と、言いますと??」



 咄嗟の攻撃に対応出来る様、普段通りの構えを取った。



「敵に対して甘過ぎるのよ。相手が明確な殺意を向ける様ならそれ相応の態度を以て対応しろと皆から口酸っぱく言われていたのに……」



 あはは。若い頃の師匠も今と変わらず、大変優しい御方だったのですね??


 その事実が疲労困憊の体に大変嬉しい励みとなりますよ。



「甘さを拭い去る事を弟子に伝えていないなんて。師匠失格じゃないの??」


「いえ、自分は今の師匠が大好きですからね。それで構いません」



 己の甘さを認め、反芻し、糧に変える。


 それも素敵な考えだと思いませんか??



「まっ!! 狐に師事するのも今日でお終いだからね。私が手取り足取り……」



 来るか!?



「再教育してあげるわっ!!」



 右斜め上に尾を構え、あの脅威が再び俺に迫り来た。



 何度も食らう内にこの攻撃の弱点が朧に見えて来たんだよね!!


 それは……。



「ふっ!!!!」



 尻尾から距離を取り、麻痺性の炸裂音の範囲外へと逃れた。


 そう、この手に限ります!!


 攻撃範囲内に何度も身を置いて地獄を味わった結果、どうやら炸裂音の範囲は半径一メートル弱。


 この範囲内に身を置かない事が先ず大切なのです!!



「ちぃっ。流石に多用は厳しいか」



 炸裂音を響かせた尻尾を引き戻し、尾の先端をゆぅらゆぅらと俺に見せびらかす様にして揺らす。


 さて、と。ミルフレアさんと俺の間合いは天と地程の差がある。


 遠距離で戦っていれば勝機は零。


 つまり、俺に残された道は超接近戦に活路を見出すしかないのだ。



「早くいらっしゃいよ。貴方にはその手しか残されていないんでしょう??」



 本当に……。滅茶苦茶厄介ですよね!!


 攻撃も強ければ頭もキレる。


 正に常軌を逸した化け物ですよ……。



「行きます!! でやぁっ!!!!」


「いらっしゃいっ」



 上方から打ち下ろされる蛇の尾を躱すと、地面へ到達した蛇の尾が俺の足元を捉えようと狙い撃つ。


 蛇の尾に捕らわれまいとして軽く弾み、そして。漸く拳が届く範囲に到達した。



「はぁぁっ!!!!」


「うんっ!! 良い攻撃よ??」



 ま、また結界かよ!!


 ミルフレアさんの蛇の部分を穿とうとしたのだが、その間に結界が局所展開されてしまう。


 えぇい!!


 出した拳を仕舞えるか!! このまま……。拳に全てを乗せて打つっ!!!!



「だぁぁああああ!!!!」



 四指の第一関節に硬い感触が届く。


 俺が求めているのはもう少し柔らかい感覚なんだよぉ!!!!



「でやぁぁああああ!!」


「嘘!?」



 ミルフレアさんの驚愕した声とほぼ同時。


 拳が渇望していた肉質感溢れる感触を掴み取った。



 や、やった!!


 やっと一撃与えられ……。



「いったいわねぇ。良くもまぁ私の体に攻撃を与えてくれたわね??」



 拳を元の位置へ仕舞いふと彼女を見上げると、そこには優しさの一欠けらも残っていない憤怒に塗れる御顔が在った。



 た、大変美しい御顔が台無しですよ??




「この痛み……。倍にして返してあげるわ!!」



 く、来るぞ!!


 彼女の激情に呼応した尻尾の尾が素早く俺の視界の端から端へ移動。


 空気を切り裂き、そして空間さえも断ち切れる尾が上下乱舞して襲い掛かって来た!!



「くっ!!」



 左頬へ掠っただけなのに顔の肌が鋭く切り裂かれ。



「うぉっ!?」



 薙ぎ払いの一閃を躱したら服が横一文字に裂かれてしまった。



 直撃していないってのにこの威力かよ!!


 こ、此処は不味い!! 一旦下がろう!!



 超絶危険地帯から逃れる為に後ろ足加重にした刹那。



「馬鹿ねぇ。それを待っていたのよ」


「はい?? うぐぇっ!!!!」




 背後から蛇の尾が胴体に絡みつき、出したくも無いうめき声を出してしまった。



「あはっ!! ミルフレア様!! 捕らえましたよ!!」



 くそ!!


 前に気を配り過ぎたか!!


 蛇の尾に捕らわれながら振り返ると、先程掌打を食らった女性が喜々とした表情で俺の顔を見つめていた。



「良くやったわ。さぁ……。調教の時間よ」



 ミルフレアさんが勝利を確信した笑みを浮かべ、通常個体よりも太い尾を彼女の尾に重ねる様に巻き付けると……。



「ぐ、グァァアアアアアアアア!!!!」



 今までで感じた事無い圧迫感と激しい痛みが体を襲った。



「う、ぐぅぅっ……」



 二本の尾が体全体を締め付けて来ると体中の骨が軋む音を放ち、爬虫類特有の何とも言えない匂いが立ち込めると胃の奥から酸っぱい物が込み上げて来る。


 や、やばい……。


 こ、このままじゃ確実に殺される……。



「ねぇ?? まだ頑張る?? それとも、私達の奴隷になる??」


「うぐっ!!」



 絞殺するつもりだろうか。


 ミルフレアさんの尾がきゅっと腹筋を締め上げると内臓が口から飛び出しそうになる。



「ま、まだ……。ぐぁっ!! が、頑張れそうです……」



 息も絶え絶えに話す。



「あっ……。今の声、最高よ?? もっと……。もっと私を楽しませて!!」


「ぐあぁああぁあぁ!!!!」



 体中の骨が粉砕されてしまう、そんな錯覚を強烈に覚えてしまう。


 腕、あばら、鎖骨。


 肉や骨を締め上げて砕く。


 蛇は獲物を絞殺し、食し易い様体中の骨を砕くらしい。


 正に今、俺はその経験を我が身を以て痛烈に体感している訳だ。



「ぐっ……。うあぁっ……」


「意識が飛んじゃいそう?? 良いわよ?? 私達に全てを委ねなさい……」



 俺の体を引き寄せ、頬に白く美しい手を添える。



「悪いようにはしないわ。此処で皆と平和に暮らすの」



 脳内を甘く溶かす声色が俺を屈服へと誘う。


 これ以上の苦痛は、流石に耐えられそうにない。



 でも……。


 ここで屈服するのは男として、師匠の弟子として認める訳にはいかない。



「よ、余裕ですよ??」



 ニッコニコの笑みを浮かべているミルフレアさんへ精一杯の悪態を付いてやった。



「そう……。じゃあ、もうちょっと痛みを与えてみましょうか??」



 厭らしい笑みを浮かべて小さな御口を開くと。



「っ!?」



 今まで普通の犬歯だった歯が鋭く鋭角に尖り、それはまるで大蛇の毒牙にも映った。


 ま、まさかとは思いますが……。それを何処に穿つおつもりで??



「て、手加減しても宜しいのですよ??」


「勿論。死なない程度に傷付けるわ……」



 ミルフレアさんが言葉を切り。


 そして、蛇の胴体から覗く俺の肩を掴み唾液に塗れた毒牙を肉へ打ち込んだ。



「があぁあああぁああ!!!!」



 熱した針、いや剣を突き刺された様な熱と激痛が同時に肩から全身へと走る。


 手足を無意味にばたつかせるが、蛇の尾がそれを許さない。


 痛みと出血で、気が遠くなって来たぞ……。



「どう……?? 気持ち良い??」



 肩に口を着けたまま話す。



「はぁ……。はぁ……。はぁ……」



 駄目だ。言葉を返す余裕もない。



「ふふ。話す元気も無い、か。もうちょっと強く噛むわよ??」



 嘘だろ!?


 今の一撃で気を失いそうなのに、更に上があるのか!?


 己の耳を疑いたくなった。



「頂きます……」



 彼女の言う事は紛れもなく事実であった。


 肉を裂き、骨まで達しているのでは無いかと思われる痛みが肩を襲う。



「………………っ!!!!!!」



 常軌を逸した激痛に言葉さえ出て来なくなってしまう。


 生温い液体が肩から吹き出して二尾を穢していく。


 くそっ……。


 やっぱり分の悪い賭けに乗るんじゃなかったよ。


 意識が薄れ、手先から力が抜け落ちて行った。



「…………。そう、いいわよ。そうやって体の力を抜くの。私達が全てを受け止めてあげるから」



 ミルフレアさんの声が天使の歌声に聞こえて来たぞ……。


 委ねてもいいのかな。


 もう……。訳が分からない。



「うふふ。落ちたかな……??」



 肩からすっと顔を離し、茫然自失状態の俺を見つめる。



「まぁ!! 良い目よ!! そうやって呆然と宙を眺める目。調教した甲斐があるわぁ」



 目の前の美女が何かを喋っているが、彼女の言葉が耳に届かない。


 あれ??


 俺、ここで何をしていたんだっけ??



「いい?? これからは私にだけ従うのよ??」



 この人に従う?? 師匠じゃなくて??


 俺はその為に此処へ来たのか……。



「うふふ……可愛い。ずっと、ずぅっと可愛がってあげる」



 血に汚れた真っ赤な唇が俺に近付く。


 これに歯向かったら駄目、何だよな??


 受け止めればいいのか??


 もう、分からない。考えるのも面倒だ。委ねてしまおう。


 このまま力を抜いて彼女の言う通りにすれば……。死に至らしめる苦痛から解放されるのだから。




最後まで御覧頂き有難うございました。


後半部分は現在編集作業中ですので、日が変わる深夜帯の投稿予定です。


今暫くお待ち下さいませ。

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