表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
324/1237

第百六十四話 準備運動はしっかりと、丁寧に その二

お疲れ様です。


本日の投稿になります。


それではごゆるりと御覧下さい。




 ユウちゃん達がわっくわくした顔で強そうなお姉さん達へ向かって行くとほぼ同時。


 私を中心として五体のラミアさんに取り囲まれてしまった。


 ギラギラと刃面が光る剣、鋭く肉を切り裂くであろう恐ろしい槍。


 そのどれもが人の命を容易く奪える威力を持っていた。



 う――……。


 ちょっと多いよねぇ?? 私はリューやマイちゃん程戦いが好きじゃないってのに。


 お姉さん達は戦特有の高揚感に当てられたのか。皆一様に息を荒げ、今にも襲い掛かって来そうな雰囲気だね。



「小娘!! 私達の里で暴れ回るとは良い度胸だな!!」


「そうよ!! 細切れにしてやるわ!!」



 もう――。


 そんな鼻息荒くこっちに向かって来ないでよ。


 私は出来るだけ穏便に済ませたいんだからさ。



「お姉さん達、私こう見えても結構強いんだよ??」



 ムンっと胸を張って言ってやった。


 イスハさんの所で厳しい訓練を積んできたのだ。


 多少なりにも成長している……筈。



 カエデちゃんも言っていたけど、比較対象がアレだからどこまで成長しているか分からないもん。


 自分の力を知る丁度良い機会かも知れないなぁ。



「アハハ!! 強い?? そんな薄い胸を張っても無駄よ??」


「そうそう!! お嬢ちゃんはお家に帰って御人形と遊んでなさい!!」



 私を虚仮にする笑い声が村の通りに響く。



「むぅ!! こう見えても子供作れる体だもん!!」



 失礼しちゃうな!!



「子供ねぇ。そう言えば……。さっき此処を通って行った男、良い体していたわよねぇ??」



 正面のラミアさんが思い出す様に視線を宙へ動かし、そして此方に視線を戻して尋ねて来た。



「どうだった?? 彼の体。此処へ来る前に試したんでしょ??」


「へ??」



 どうだった?? と、言われても困るよ。


 あぁ――。でも、体なら触った事あるし……。



「カチカチに硬くて、強いよ!!」



 うん、手の感触はそんな感じだったかな??


 レイドは男の子だし、女の子と違った体付きだもん。



「まぁ!! そうなのですか!?」



 周囲のお姉さん達がキャアキャアと騒ぎながら嬉しそうに頬を朱に染め、可愛く恥じらう。



「それに、シャキッと立ってて。男の人って感じかな!!」



 レイドは猫背じゃ無いしなぁ。


 あ、でも。書類を片付ける仕事が上手くいかない時は机に噛り付いて猫背になっているね!!



「あらあらぁ……。彼、予想通り凄いのねぇ……」


「久々だから疼いちゃうわ」


「私が先よ??」


「え――。あんた長そうだから後回しよ」


「回数こなせばいいじゃん」




「「「な、成程ぉっ!!!!」」」




 なぁんか楽しそうにキャイキャイしているけど。


 レイドの体の話だよね??


 まぁ……。いっか!!



「そのレイドが危ないから通して貰うよ!!」


「それは了承しかねますわね。彼は私達を孕ませる為に必要ですから」



「ズルい!! 私も赤ちゃん欲しいのに!!」



 リューよりも先に元気な赤ちゃんを授かる予定なのだ!!


 あ――……。


 でも、リューは恥ずかしがり屋さんだから一生出来なさそうだし。その時が来たら優しい私がリューを混ぜてあげよう!!



「お子様には時期尚早ですよ!!」


「わっ!!」



 正面のラミアが予告も無しに槍の鋭い先端を私のお腹に向かって突き出して来たので。



「危ないよ!! 当たったら怪我するじゃん!!」



 優しい私は半身の姿勢で躱して注意してあげた。



「危ない?? 貴女達は此処で亡き者になってもらうのよ?? 彼を独り占めしなきゃいけないからねぇ」



 大変厭らしい笑みを浮かべ、クスリと笑う。



「駄目!! レイドは私達と行動するの!!」


「では、一戦交えるしかありませんわねぇ……」



「「「……」」」



 ラミアさん達が自分の武器を構え、私に対して明確な敵意を剥き出しにした。


 周囲からの敵意を受けると一瞬で緊張感が高まり、私の柔らかい心も固く引き締まった。



 よぉし!! やるぞぉ!!



「食らいなさい!!」


「はぁ!!」



 左右の二体が剣と槍を構え突撃して来た。



「遅いよ!!」



 降りかかる斬撃を躱し、槍の突きを左手で払ってやる。



「見た目より随分速いのねぇ」



「ふふん。まだまだ序の口だよ!!」



 ビリビリを纏ったらもっと速く動けるけど、手加減しないとカエデちゃんに怒られちゃうし……。



「では、こちらは数の利を生かしますか。皆、行くわよ!!」



「「「「おぉ!!!!」」」」


「わわわっ!!」



 ウネウネの蛇の体をうねらせ私の逃げ場を塞ぎながらにじり寄って来る。



 逃げ場は……。


 ある!!



 本当に狭い空間に一縷の拙い光を見出した。



「でやぁっ!!」


「はぁっ!!」


「貰いましたわ!!」



 五本の武器が私の頭上から鷹が美味しそうな獲物を襲う様に、一直線に鋭く襲い掛かって来た!!



 以前の私ならワタワタ慌てながら武器を召喚して受け止めて反撃していた。


 けど!!


 皆で鍛えて強くなった私は手加減出来るようになったんだよ!?



「…………。残念でした!!」



 私の顔をこわぁい表情で見下ろすお姉さん達へ舌をべぇっと覗かせ。


 狼の姿に変わって狭い空間から広大な空間へと飛び出してやった。



 はぁ、狭かった。



「嘘!?」



「お姉さん達ぃ、そんなに焦ったら駄目だよ?? それにぃ……。固まって行動したら……」



 刹那に人の姿へと変わると腰を落とし、左手に魔力を集中させる。



「恰好の的だよ!! 瞬く瞬光の雷鳴……。走れ!! どこまでも!! 白雷閃光ヴァイスブリッツ!!」



 左手に溜めた魔力を彼女達に向けて解放。



「ちょ、ちょっと!! あんたの尻尾邪魔!!」


「貴女の尻尾でしょ!? それは!!」



 光輝く魔法陣から白き雷が迸り、空気を引き裂きながら直進して。雷を避けようと慌てふためくお姉さん達に着弾すると。



「「「ギャアアァァァッ!!!!!!!」」」



 直撃と同時に雷鳴が轟きお姉さん達はビリビリと痺れながらその場に倒れてしまった。



 う――ん……。


 お姉さん達の綺麗な髪が縮れてカエデちゃんの朝の寝癖みたいに有り得ない角度でピンっと伸び、各々が持つ武器もちょっと焦げちゃっているけども。


 命に別状は無さそうだね!!



「やったね!!」



 ふふん。私もかなり上達したなぁ。


 こうして魔法で敵を倒せるようになったのだから!!


 後でレイドに褒めて貰おう。


 あわよくば、頭も撫でて欲しいなぁ……。



 さて!! 此処にいたらまた怖いお姉さん達に絡まれそうだからリュー達の所へ行こ――っと。


 人の姿から狼の姿へ変わり。テックテックと、森の中のお散歩と同じ速度でまだ戦っているリュー達の所へ向かって行った。














 ――――。




 レイドの力の鼓動が徐々に弱まっていますのでこれ以上の足止めは不味いですね。


 一気に片を付けても良いのですが……。何分その加減が非常に難しいのですよ。


 いち早く彼の救助へと向かいたい気持ちと、彼女達を不必要に傷つけたくない気持ち。似て非なる感情を心に浮かべながら戦闘を継続させていた。



「さっきからちょこまかと避けて!!」


「避けるのは大分得意になってきましので」



 私に向かって襲い掛かる矛と手斧を躱しながら相手の感情を逆撫でない口調で話す。



 此れには実に驚いているのが本音ですね。


 イスハさん並びにマイ達との組手が私の回避能力を格段に向上させたのですから。


 この程度の攻撃なら余裕で見切れてしまいます。



「攻撃しなきゃ私達を倒せないわよ!?」


「えぇ、十二分に理解しています。今は反撃の機会を伺っている所ですから」



 ルーへ向かって行ったのは五体。


 それ対し、私には八体ですか。


 ちょっと多いとは思いませんか??


 か弱い女性に武器を振り上げるなんて、凡そ理解に欠けます。


 まぁ、戦闘ですから仕方のない事ですが……。



「でぇい!!」


「おっと……。此方です」



 空気を切り裂く斬撃を躱す際、薄い緑色の髪のラミアさんの横腹に人差し指をくっ付けてやった。



「…………ふぅっ。これで七つ」


「ちょっと、何余裕かましてんのよ」



 私の指先がそっと体に触れるのが気に食わないようですね。



「気に障ったのなら謝ります」



 大変怖い顔のラミアさんへ言ってあげた。



「その澄ました面が気に食わないのよ……」


「そう申されましても。これが私の素顔ですので」



 素顔を気に食わないと言われれば誰だってこう答えるでしょう。



「貰ったぁ!!」



 背後から槍の重撃が振り下ろされる。


 これも予想通りです。



「おっと……。今のは危なかったですよ?? これで……。最後です」


「くそうっ!! 逃げ惑う鼠の様にちょこまかと!! 戦う気を見せなさい!!」



 十分戦っているのですが……。


 気が付かない方が悪い、そうしておきましょう。



 この戦いに決着を付けようと魔力を開放しようとしたのですが。



「カエデ――!! こっちは終わったぞ――!!」



 ユウが私に向かって手を振るのでそちらへ向かって視線を向けた。



 あの穴は……。


 恐らくユウの力を受けきれずに吹き飛ばされた痕跡でしょう。


 手加減して下さいとあれ程注意したのに……。



「分かりました。今し方、此方も勝利した所です」



 腰に手を当てる様が異様に似合うユウの方へ歩み始めて話す。



「はぁ!? どこ行くのよ!!」


「ふざけんじゃないわよ!!!!」



 憤怒と憤りが籠った怒号が私の背後から鳴り響く。



「お、おい。いいのか?? 奴さん達、向かって来てるぞ??」



 ユウが私の背後を見て目を丸くしていた。



「あ、はい。これくらいの距離だと丁度良い感じです」


「は?? 良い感じ??」


「水よ、火よ。弾けなさい……。点火イグニッション



 右手に浮かべた魔法陣の前で、開いた手の平をぎゅっと握り魔力を籠める。


 刹那。



「「「「ギャアアアアァァアアッ!!!!」」」」



 後方から轟音と同時に炸裂音が鳴り響き、爆炎が青空へと上昇して行った。



「お、おいおい。今の何??」



「彼女達の体に火と水の魔法を掛け合わせた、そうですね。例えるのならばシャボン玉みたいな球体を付着させておきました。それだけでは容易に看破されますので光の魔法で屈折させて見えない様に隠します。そして、魔力を注入すれば……」



 背後へくるりと振り返ると。



「「「…………」」」



 優しい風が煙を押し流して行き、彼女達が程よい火傷を負って地面に倒れている姿が確認出来た。



 全員生きていますね。


 我ながら丁度良い塩梅で調理出来ましたねっ。



「おっかない魔法だなぁ」


「ハーピーの里で使用した魔法の劣化版です。安心して下さい。ユウ達に使用しても大して効果がありませんから」



 使用したとしても威力云々を無視しながら突貫して来そうですから。


 頑丈過ぎるのも考え物ですよ。



「あたし達に使用する前提で話すのやめてくれない??」



 ぎこちない笑みを浮かべ、ヤレヤレといった感じの呆れ顔で話した。



「此方は成敗完了ですわ」


「こっちもだよ――!!」


「取るに足らない相手だった……」


「よっしゃ!! じゃあ、本陣に向けて出発しますか!!」


「そうですね。これで後顧の憂いも無くなりました。残すは……」



 里の奥へと視線を移す。


 この魔力は……。レイドとミルフレアさんか。


 今も激しく戦っているようです。



「急ぎましょう。レイドの身が心配です」


「レイド様の貞操は私が守って見せますわ!! レイド様ぁ!! 今から私が向かいますからねぇ――!!」



 ちょっと気の抜けている蜘蛛の御姫様が誰よりも先に意外と速い速度で通りを駆け出し。



「そういう事では無いだろう……。では、我々も向かおうか」



 リューヴの溜息を合図に私達は小走りで目的の位置へと向かった。


















 ――――。





 カエデ達と別れ猪突猛進する猪さんがお手本にしたくなる速さと堂々たる歩幅で大通りを爆進。


 速度が上昇するにつれて風が質量を持ち、尖った風が頬を撫でて後方へ流れて行くとピリっとした痛みを感じ続けていた。



 ボケナスの力が徐々に萎んでいるわね。


 片や、ミルフレアと呼ばれる蛇の女王はまだまだ元気一杯の御様子だ。


 私達と行動を共に続け且厳しい訓練を過ごしたってのに一方的に虐められているのか??


 私が到着するまでにせめて一太刀浴びせなさいよね!!


 特訓の成果を見せてやるんだよ!!




「ふぅっ……。ふぅっ……」



 逸る気持ちに身を委ね。両の足を千切れんばかりに前後させて更に加速を増して目的地へと突き進んで行くと。



「――――。そこで止まれ」



 大通りのド真ん中で一体の蛇姉ちゃんが私を通せんぼしてしまった。



 爆速からの急停止。



「ぅおっとっと……。たった一人で私を止めようとするなんて、見上げた根性ね??」



 ちょいと硬めの土の地面に呆れた速度の証明を刻み込んで止まり、ウネウネ姉ちゃんを見上げてやった。



「他の仲間はどうした??」



 オレンジ色の髪が上空から降り注ぐ太陽の光を吸収して輝きを増し。下半身の蛇の尾を手持ち無沙汰の様にくねらせ、私の前に堂々と立つ。



 しっかしまぁ――、デカいわねぇ。


 どちらかと言えば背が低い私を見下ろす生物は多々居るけども、その中でもデカイ部類に入るでしょう。



「あっちで派手に暴れているわよ。私が先行して来たの」



 背後へ向けて親指をクイっと指差してやる。



「お前一人で向って来たのか」


「お前じゃない。マイって名前があんのよ」


「マイ、か。良い名だ」



 私の名と超カッコいい姿に感銘して小さく頷くものの、戦闘態勢は依然として継続。


 直ぐにでもワクワクする戦いが始まりそうな雰囲気に私の闘志が沸々を燃え始めて来た。



「そりゃどうも。ライネ、だっけ?? ちょっとそこ通してくれる??」

『用があるのはあんたじゃなくて、奥に居る奴よ』



 そんな意味を含ませて顎で通りの先をクっと指してやった。



「それは承諾しかねるな。今、ミルフレア様はあの男と楽しんでいる最中だ。それを止める事は出来ん」


「あっそ。じゃあぁ……。力尽くで??」



 拳を握り、開いてウズウズ感を誤魔化す。


 駄目よぉ、私。


 此処へ戦いに来たんじゃないんだからね??


 燃え盛るもう一人の私にそう言い聞かせてやるが果たして我慢出来るかどうか……。



「ほぉ?? 貴様一人で私を倒すというのか」



 背負っていた柄の長い槍を構え、鋭い穂先を私の顔に向ける。



「ん――。余裕かしらね??」



 鼻頭に到達しそうになった穂先を指先でツツツ――っと、ゆるりと払いながら言ってやった。



「ほぅ!! それは楽しみだ。武器は使用しないのか??」


「うん。このままで大丈夫よ」



 ライネから半歩下がり、いつでも喧嘩をおっぱじめられる様に腰を落とす。



「ハハハ。私も随分と嘗められたものだ」


「嘗めていないわよ。体力を温存しておきたくてさ」



 この後に控える化け物戦に向けて少しでも体力の消費を抑えておきたいのが本音だからね。



「貴様……」



 今にも弾け飛びそうなライネの筋肉へ熱い視線を送ってその時に備えた。


 さぁ――、どこから来る??



「それを……。傲慢と言うのだ!!」



 うひょ――っ!! 来たぁ!!


 此れで正当防衛が成立してぇ、好きなだけぶん殴れる訳だ!!



 右肩そして右腕の筋力が隆起、鋭利な槍の先端が私の眉間に迫る。


 的確にそして確実に相手を制する良い攻撃だ。



「ふんっ!!」



 襲い来る槍の穂先を右の烈脚で蹴り飛ばし、眉間に到達予定だった穂先の軌道を逸らしてやる。


 右足の甲に硬い感触を感じると同時にカンッ!! っと。乾いた音が響き渡った。



 いっつつ……。


 こんにゃろう。本気まじで私の命を奪おうとしやがったな??



「大きな動作で攻撃を跳ね除ける。ふんっ、余程速さに自信があるのだな??」


「まぁね――」


「では、此方も本気を出させて貰うぞ!!」



 突きの速さ、そして威力を高める為。槍を持つ手を右手から両手へ。



「はぁぁああっ!!!!」



 今し方跳ね除けた速度の倍の速さと威力で槍の豪雨が襲い掛かって来た!!



 うぅ――むっ。


 これは流石に蹴りで跳ね返せないわね。



「ほっ!! はぁっ!! とりゃっ!!」



 首を傾け、体を斜に構え、地面スレスレに屈む。


 その度に槍が空気を切り裂き甲高い音が鼓膜を刺激した。


 良い攻撃じゃない。



「そらそら!! どうした!? 手も足も出ないのか!!」


「うぉっ!?」



 槍と数舜遅れて襲い掛かる蛇の尾が厄介ね!!


 しなる鞭の如くうねり、空気の壁を吹き飛ばして飛来。



 私が躱した拍子に家屋へ尾が衝突すると、まるで紙を縦に裂いた様に木の壁に穴が出来た。


 あはは、すっげぇ威力ね。



 だけどぉ……。そろそろ合いそうなのよねぇ。


 この攻撃で突きの速さ、間合い、返しの種類も把握出来た。


 よぉし……。マイ様のすんばらしい攻撃を叩き込んでやりましょうか!!



「食らえっ!!!!」



 今迄で、最速の中段突きが私の腹部へ最短距離で向かって来る。


 此処だ!!



「とぅっ!!」


「何!?」



 襲い掛かる槍に対して宙へ逃れて体をクルっと半回転。


 そして、私の鍛え抜かれた右足ちゃんを上空から袈裟切りの要領で細い顎へぶち込んでやった。



「ぐぁっ!!!!」



 肉と骨が弾ける音が私の心を満たす。


 おぉ……。正に完璧に決まったじゃないか……。



「く……。ま、まだまだ」



 槍を地面へ突き刺し巨体を支え、今にも闘志が消えかけそうな瞳でそう話す。



「今の蹴り食らって良く耐えたわね?? うちの馬鹿犬でも真面に食らえば膝を着くわよ」



 頑丈さに定評があるボケナスへ一度叩き込んだらぶっ倒れそうになったもん。


 その後。


 私達以外の普通の奴に絶対使用するなと、こわぁい海竜ちゃんに咎められちったのは良い思い出よ。



「ミルフレア様へ……。貴様の様な下賤で貧相な者を近付けさせる訳にはいかんのだ!!」


「誰が貧相だゴラァァアア!!」



 こっちが黙って淑女を演じているってのにこいつはぁ!!


 一か月硬い御飯が食べられない様にしてやろうかぁ!? あぁん!?



「負けない。私は負けないぞ!! でやぁぁああ!!」



 先程の正確な攻撃は何処へ。精彩を欠き、軌道も滅茶苦茶な槍の穂先が向かって来る。


 その辺の木の棒でも簡単に軌道を逸らせそうな威力だが……。


 気迫は十分。私と差し違える覚悟ね。



 うんっ!! 正々堂々向かって来る奴には好感を持てるわよ!!


 ここで手加減するのは相手に失礼に値するのでぇ……。



「ずああぁあぁあぁ!!」



 両手を高く振り上げ、私の頭蓋へ向けた渾身の一撃の姿勢を取る。


 それ相応の威力を以て対抗しまぁぁっすぅ!!!!



「止めだぁぁああ!!」


「それはこっちの台詞だ!!!! ウネウネ野郎っ!!」



 がら空きになったライネの懐へ瞬き一つの間に到達。



「何!? ぐぶぉっ……!!」



 相手が痛覚を感じる暇も無い激烈な右の拳をツルツルお肌のお腹ちゃんへ打ち込んでやった。



「ぐぉ……。わ、私はまだ……。負けていな……」



 大変弱々しい握力で私の肩を掴む。



「勝負あったわ。ゆっくり寝ていなさい」



 私の右肩を掴む手を強く握り返し、ライネの瞳を真っ直ぐ見つめ言ってやった。



「く、くそ……」



 体の力が抜けたのか。それとも私の目を見て何かを掴み取ったのか。


 ふっと目を瞑ると彼女の意識が空の彼方、夢の世界へとお出掛けして行った。



「中々強かったわよ?? またやりましょう」



 ちょいと重たい体を支え、そっと地面に寝かせてあげた。



 よっしゃぁああ!!


 後はアイツを救出するのみ!!


 待ってなさいよ!! 卑猥な事を画策している虚弱野郎!!



「すぅ――。ふんがっ!!!!」



 私は呼吸を整えると、通りの終着点へ向けて再び風と音を置き去りにする速度で駆け出して行った。




最後まで御覧頂き有難うございました。


さて、次話からはいよいよ蛇の女王様と準備運動を終えた彼女達が対峙します。


そして先日後書きで申した通り実はまだ選択肢に迷っている次第であります……。


これを例えるのならば。


醤油ラーメン腹でラーメン店へ訪れた所。他のお客様が食していた豚骨ラーメンに目移りしてしまった、とでも申しましょうか。


醤油か豚骨か……。


実に悩ましい選択です……。


それでは皆様、お休みなさいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ