第百六十一話 蛇女達の巣窟
お疲れ様です。
週末の深夜にそっと投稿を添えさせて頂きます。
それでは御覧下さい。
緊張感と高揚感、更に形容し難い感情が心の中で入り乱れ何とも言えない感情の中。
「さぁ、歩け!! 貴様は我々の奴隷なのだぁっ!!」
無防備な背中を不必要に蹴られたら誰だって怒りを覚えませんかね??
『おい。蹴るなとは言わないが、もう少し優しく蹴れよ。縄が解けちまうだろ??』
若干悦に浸った表情でずぅっと俺の背を蹴り続けるわんぱく小僧へ念話を送ってやった。
「奴隷は口を開くな!! 黙って私達の言いなりになればいいのよ!!」
『いてぇな!! 後頭部を叩くんじゃない!!』
人の話を聞きなさいよね!! 大体!! 念話だから口を開いていないだろう!!
乾いた音が響くと同時に激しい痛みが頭の後ろから目の奥へと突き抜けて行った。
進んで……、はいませんけども。
余り気乗りしないまま海老役を買って出た事に今更激しく後悔。
柔らかい土の上を、傍から見ても積載量の限界を越えに越えた荷物を背負っている草臥れ果てたロバの様な。大変弱々しい歩みで進んでいた。
「ねぇ、カエデちゃん。そろそろ変わってよ――」
「御主人様は私なのです。ですから、私には飼い犬を管理する義務がありまして」
ふんすっっ、といつもより三割増しの荒い鼻息で話す。
何で機嫌が良いんだろう??
もう直ぐ目的地に到着するからかしら。
「それさっきも聞いたもん!! レイドは私に引っ張られたいんだよね――??」
狼に牽引される犬、ね。
本当にそうならば見ようによっては微笑ましく映るのですが、生憎自分は人間の姿をしていまして。こうやって縄で引っ張られる事自体数奇な事だと気付かないのですか??
まぁ、何を言おうが口を開くなと殴られてしまいますので。黙秘を続けますけども……。
「えへへ。途中から縄を奪っちゃおうかなぁ」
カエデと俺の間に存在する縄をルーが横取りしようと画策するが。
「ほら、早く歩きなさいっ」
「ちょっとぉ!!」
御主人様と楽しい散歩に出かけるが余程気になる匂いがあるのか。その場から中々立ち去ろうとしない犬を無理矢理引っ張って移動させるかの如く。
おっそろしい力に引き寄せられ、強制的に前方へと移動させられてしまった。
今なら恐ろしい飼い主を持った飼い犬の気持ちが理解出来るぞ……。
外で、若しくは家の中でも気が休まらないのだから大変だよな。
飼い主様の御機嫌伺いと、奴隷の行動に対し。監視の目を周囲で光らせている恐ろしい方々の視線に耐えつつ進んでいると、漸く目的地へと到着する事が出来た。
たかが数百メートル歩くだけでこんなに疲れるとは思いませんでしたよ。
「んっ!?」
流石に此処まで接近すれば気付くか。
里の入り口まで凡そ五十メートル。
門番に立つ二人が俺達を見つけると警戒を強め、武器を構えた。
おぉ……。
師匠が仰っていた通り、本当に下半身が蛇なんだな……。
近付くにつれ、彼女達の大きさと麗しい姿が鮮明になる。
「止まれ!! 貴様ら、何者だ……」
目の前に見える里の中央の通り、その入り口右側に立つラミアが下半身の蛇の体を高く掲げ、俺達に向けて槍の穂先を突き下ろした。
でっかいなぁ……。
上半身の人間部分は人のそれと変わらないが、やはり下半身の部分が突出して目立つ。
槍を構える女性は蛇の部分は黒く爬虫類の鱗を連想させる湿気を帯びた艶を放っていた。
「正直に名乗らないと……。その首を刎ねるわよ??」
左側で剣を構える門兵も警戒を強めている。
こちらのラミアの蛇の体は黒を強く含んだ緑。
蛇の鱗には個体差でもあるのかな??
そして、上半身の人間部分は服を着用しているのですが……。
初秋にしては暑い日ですけども、ちょいと露出が強過ぎませんかね??
「突然の訪問、誠に申し訳ありません」
カエデが俺達の一歩前へ出て、警戒を続ける二人へ深々と頭を下げた。
こういう時、カエデの態度は正直助かる。
マイやリューヴではこうはいくまい。
大方、相手と言い合いになってしまいそうだから……。
「私達はこの大陸に住む矮小な魔物です。此方から強力な魔力を幾つも感じ、大変失礼かと思いますが興味を覚えて立ち寄った次第です」
「ふん。私達の強さが気になった訳ね??」
満更でも無い表情で左側のラミアさんが口を開く。
海竜さんの交渉術の始まり始まりっと。
「はい。街のずぅっと奥。そこで一際強い魔力を持つ御方にも興味を覚えています。我々は旅すがら鍛えていますが……。何分、矮小な力のままで」
「まぁ……。貴様等の力だと強くなりようが無いな」
右側のラミアさんが敢えて魔力を抑えているマイ達の魔力を感知したのか。槍の穂先を地面へと向け、警戒心を弱める。
残念ですが、貴女の前に居る女性六名は小康状態の活火山なのです。
下手に突くと大噴火してこの里を焼き尽くす恐れがありますので、出来るだけ扱いには注意して下さいね。
「そこで、是非とも大変お強い方へ謁見。若しくは強さの源を知りたいが為にこうして立ち寄らせて頂きました。只、手土産も何も持たないまま伺うのも失礼かと思い……。旅の途中で極上の男を捕らえましたので、献上させて頂きたいと考えています」
カエデが俺の体を無造作に前へと突き出す。
その勢いで俺は地面へと膝を着いてしまった。
もうちょっと優しくして欲しいなぁ……。
「へぇ!! 私達の強さを知りたいのね??」
「それに……。この男。貴様が言う様に、良い匂いがするぞ」
槍を構えていた門兵が俺ににじり寄る。
蛇特有の蛇行する動きで移動するんだ。
地面を移動した際。何かを引きずった様な、特徴的な跡が地面に残った。
「ふぅむ……。匂い、そして鍛えた体。この男となら優秀な子が生まれそうだ」
門兵さんが首筋に顔を埋めてスンスンとこそばゆい感覚を与えると同時。
「――――。その者共は誰だ??」
「ラ、ライネ様!!」
門兵の背後から透き通る声が響き、彼女はライネと呼ばれた者に対し深々と頭を垂れた。
この騒ぎを聞きつけたのだろうか??
ライネさんの後方から更に三体のラミアが下半身を蛇行させて此方へとやって来る。
「ん――?? あ――!! 男だ!!」
俺を見つけた金髪のラミアが猛烈な勢いで下半身を蛇行させて、目の前に到達するとニィっと口角を上げて此方を見下ろした。
「えへへぇ。しかも、物凄く美味しそう……」
はい、まだ入り口だってのに物凄く嫌な予感しかしません!!
「こら。事情を聞いてから接しなさい」
ライネと呼ばれた女性が金髪を制す。
「は――い」
「ライネ様。実はこの者達は……」
カエデが話した内容、そのままをライネさんへ伝える。
矛盾していないから大丈夫だと思うけど……。
いつ師匠達の間者だとばれやしないか、気が気じゃ無かった。
「…………。うむ、事情は分かった。お前達、今ミルフレア様は機嫌が悪い。会わす訳にはいかん」
「そう……ですか。では日を改めてまた伺えと??」
若干残念そうに俯き、落ち込む演技をするカエデが口を開く。
意外と演技上手なのですね。
「そうではない。先ずは男を先に面会させ、ミルフレア様の機嫌が良くなってからであれば謁見は可能だ」
え、待って。
ちょっと雲行きが怪しいんだけど……。
「機嫌が良くなる??」
カエデが愛苦しさを覚えてしまう小鳥の様に小首を傾げた。
「その男は情夫だろう?? そうなれば当然、女性を相手にする心得は得ている筈だ」
絶対違います!! 今は私服を着ているからそう見えるかも知れませんが、自分の職業は情夫とは真逆の四角四面の軍人であります!!!!
そう声を大にして言ってやりたかった。
「言葉は通じぬとも、体は通じ合う。うむ、種族間を超えた営みだな」
このライネと呼ばれる人、どこか抜けている気がするのは俺だけでしょうかね……。
「ねぇ、ライネぇ。ミルフレア様に会わす前にこの男が武器を持っていないか確認しなきゃ」
ライネさんの側近?? 若しくはミルフレアさんの側近なのだろうか。
後から来た黒髪のラミアが甘い声を出して俺を見下ろす。
「そうそう。ちゃぁんと隅々まで見ないと、ね??」
水色の髪のラミアが俺の左足に蛇の部分を巻きつけて来た。
うっ……。
かなりの絞力だ。
野太い蛇の胴体が足の筋肉を締め付け、血行が阻害されて爪先に冷たさを感じてしまう。
「あ、ちょっと!! 私が先だよ!!」
右足に金髪の女性が。
「あらぁ?? 私も混ぜて??」
止めに黒髪の女性が、俺の胴を無慈悲に締め上げてきた。
「ぐっ……」
こ、これは流石にきついな。
蛇の鱗の中には隙間なく鍛え抜かれた筋肉がぎっしりと詰まっており、肉の塊がこちらの抵抗を容易に挫く。
腹部が絞まり、内臓が押し上げられ、胃の中から酸っぱい何かが込み上げ不快な気分になってしまいますよ……。
「わぁ。この人、良い匂い……」
明るい金髪が俺の首に鼻をあてがい、匂いを嗅ぎ取ると。
「あら、本当。ミルフレア様に献上する前にちょっとだけ味見しちゃおっか??」
更に左の水色がとんでもない事を言い出す。
「味見?? いいわねぇ。ちょっと、痛いわよ――??」
「…………っ!!」
背後の黒髪の女性が鋭い爪で、首の根本を縦に裂く。
針を刺す鋭い痛みを感じると同時に生温かい液体が肌を伝って地面へと落ちて行った。
「じゃあ、ちょっとだけ……」
黒髪がすっと静かに端整な顔を首に寄せると、人の感情を不快な気分にさせる淫猥な音を立て、淫らな唾液で湿った長い舌で新鮮な血を舐め取る。
お、俺は海老役。そう!! 大きな獲物が掛かるまで一切の抵抗はしてはいけないのです!!
かなりの危険度だが、此処で龍の力を開放しようものなら……。
「……」
あそこでじぃぃっと俺を睨みつけているカエデさんの御怒りを買う可能性が高いので此処は我慢の一択です!!
そして、可能であればもう少し静かに舐め取って下さい!!
お行儀が悪いですよ!!
「あ――!! ずるい!!」
「そうよ!! 私が唾付けるんだからぁ!!」
三体の蛇が傷口に群がり、それぞれが勝手に人様の血を舐め始める。
このままだと里の入り口で失血死しかねないし……。どうしたものやら。
微動だにせず背筋が凍る舌の感覚を強制的に味わわされていると。
「……………………。ちょっと、そこの灰色。目付き悪いわよ??」
黒髪が卑猥な舌の動きを止めてリューヴを睨みつけた。
うぉう……。
かなりご立腹の様子だ。
右手で拳を作り、体内から湧き起こる怒りからか。小さく小刻みに震えていた。
『リューヴ、抑えて下さい』
『そうだ。俺は何とも無いから、今は耐えてくれ』
カエデと共に今にも彼女の喉笛を噛み千切りそうな怒りを露わにする彼女を説得する。
『了承した。だが……。そこの黒髪は私が直接、狩る。主を傷付けた礼は返すぞ』
『リューヴ、そう怒るなって。あたしも堪えているんだからさ』
ユウの明るい声が何とか場を収めてくれた。
「あ!! 分かったわ。私達にこの男を取られるのが悔しいんだ?? そこの馬鹿巨乳もこの男と随分楽しんだでしょ?? 悪いわねぇ――。私達が頂いちゃってぇ」
水色の髪のラミアがユウの聳える山へ視線を移す。
『あぁっ?? コイツ、誰にモノを言ってんだ??』
その声を受けたユウの眉がピクリと動いてしまう。
「その巨乳で良いように男から搾り取ったんでしょう?? キャハハ!! でかすぎぃ!! ありえな――い!!」
『こいつ、絶対ぶっ飛ばす……』
宥めた本人が逆上しなさんな。
「この体なら、私達の相手出来るよね?? 私好みの体だよ――」
金髪のしなやかな指が服の間から滑り込むと。
『レイド様?? 少しは抵抗しても宜しいのですよ??』
金髪の動きを見て、アオイが眉間に皺を寄せる。
『そうしたいのは山々なんだけど……。全く動けないんだ。予想以上に締め付ける力が強くて』
「おい、遊びはそこまでだ」
ライネさんが横着を働く三人を制すと、やっと強力な圧迫感から開放された。
ぶはぁっ!!
はぁ――……。苦しかった……。
「はぁい。ミルフレア様はすっごいわよ?? 廃人にならないでね??」
血液と唾液で口元を汚し、見るに堪えない唇で黒髪が話す。
「そうそう。次は私達の相手だからね――」
「干からびる迄食べてあげるわ」
海老役の間者ですけども、自分は食べ物ではありませんよ……。
「では、私はこ奴をミルフレア様の所まで運ぶ。他の六人は別所で待っていてくれ。おい、案内を頼むぞ」
ライネさんが三人に視線を移した。
「はいはい。ほら、さっさと行くわよ?? 早くしなさいよね……」
溜息混じりで黒髪がマイ達を一睨みをして別所へと移動を開始した。
『黒髪は私の獲物だ。手を出すなよ??』
『あたしは水色だ。地面に埋めてやる……』
『あばずれ金髪は私が相手を務めますわ。レイド様に手を出した罪、その身で受け止めて貰いましょうか』
三人の不吉な念話が頭に響き。
引きずられながら振り返ると、憎しみと憤怒を籠めた瞳でラミアの背後を睨みつけていた。
『ちょっと、皆怖いよ??』
ルーの話す通り後で絶対、手を出しそうな雰囲気に気を揉む。
『マイ、カエデ。三人が暴れそうになったら止めてくれよ??』
『あ?? あ――……。まぁ、相手を殺しそうになったら止めるわ』
それは喧嘩を止めるとは言いません。
俺が言っているのは、止めを刺すのを止めろという意味ではありませんよ??
喧嘩が起きる前に止めろという意味です。
『了解しました。こちらの様子も適宜お伝え致します』
本当に大丈夫かな??
余程の事が無い限り、手を出す事は無いと思うが……。
遠くに消え行く皆を見つめていると言いようの無い不安が心を侵食し始めた。
当初の目的を忘れるなよ?? 頼むから……。
「さぁ、行くぞ。こっちだ」
俺は俺でしっかりとお務めを果たしましょうかね。
ライネさんに縄を少々強引に引っ張られ、ミルフレアさんがいらっしゃる場所へ相変わらずの犬の散歩を続けながら向かって行った。
◇
三人のウネウネ姉ちゃん達に案内されたのは何の変哲も無い木造の家であった。部屋の中央に大きな机と、それを取り囲む椅子が七つ。
私達は何とも言えない気持ちで椅子に座りその時を待っていた。
「くそ……。あんにゃろう共……。どう料理してやろうか」
「ユウ、モウモウと鼻息荒いわよ?? ちょっと落ち着きなさいよ」
右隣りに座り、今も荒ぶる牛を宥めてやる。
「ふんっ。あたしは牛じゃねぇ!!」
お、おぉっ。そうね……。
あんたが激しく机を叩いたから机が壊れそうになっちゃったじゃん。
いや、壊れたか?? ちょっと傾いちゃったし。
「それにしても意外だよねぇ。マイちゃんが手を出そうとしないなんて――」
「はぁ?? それじゃあ私がいつも喧嘩売ってるみたいじゃない」
実の所、乗り遅れたのが最大の理由なのよね。
楽しそうな祭りが始まりそうだってのに……。此処からは決して乗り遅れないわよ!!
「へ?? いつもそう見えるけど……??」
このお惚け狼めが。
此処から帰った暁には、お尻往復ビンタ百回の刑に処す。
「まぁ今回は作戦もある事だし、落ち着かないと」
ここは一つ、私は出来る女だと教えてやらねば。
「良く言いますわよねぇ。いつもレイド様を困らせているのは、貴女ではありませんか??」
こ……、の!!
「誰かしらねぇ?? やっすい挑発に乗って頭に血を昇らせていた淫猥な御方はぁ??」
すかさず言葉を返してやった。
「はぁ!? それは私の事ですの!?」
「さぁねぇ??」
惚けて見せてやる。
ざまぁみろってんだ。
「マイ、それは私にも当て嵌まるのだが??」
「そうそう。あたしにもだぞ??」
おっと。
この二人は、どうやらまだ尾を引いているようだ。
普段は絡んで来ないのにやたら突っかかって来る。
「気にしないの。言葉の綾よ、綾」
「ふっ。分相応の言葉を御使いになったら如何ですか?? 余り賢い言葉を使おうとするとお馬鹿に見えますわよ??」
「あぁっ!? テメェの喉食いちぎって蟻の餌にすんぞ!?」
「も――。皆ちょっと落ち着いてよ――。レイドが連れ去られたからってカリカリしないの」
ルーが惚けた声で割って入って来るのだが。
「「「関係無い!!!!!!」」」
「びゃっ!!」
一字一句同じ言葉の怒号を受け、お惚け狼が目を白黒させて驚いてしまった。
ちぃっ……。
派手に暴れられないのはモヤモヤするわね。
いっその事、全員ぶっ飛ばせば話は解決するんじゃないの?? それと!!
あのボケナスも我慢しないで殴り掛かれば良かったのに……。海老役に味を占めたのか知らんが。ウネウネ姉ちゃん達の舌の感覚を堪能していたみたいだったし。
いつもならこの苛々を払拭する為に我が親友の大魔王様へ拳を叩き込んでやるのだが。
「あぁ、くそっ。苛々すんなぁ――……」
きょ、今日は止めとこっと。
優しい人が怒っている時に更に揶揄うとやっべぇ事になるし。
「皆さん、戯れはそこまでです。敵の大体の位置を掴みました」
カエデが小さく、しかし良く通る声で私達の注目を集めた。
「こちらを……。御覧下さい」
一枚の大きな紙を机の上に広げ。そして、紙に簡単な地図を描いて行く。
「此処がすぐそこ、中央の通りです。今私達は村の入り口から直ぐ近くの家で待機しています」
主大通りを二本の直線で表し、黒い点を描き私達の現在位置を知らす。
「レイドは……。此処にいます。通りの終着点、大きな家です」
「かなり……、離れているな」
ユウが話す。
「えぇ。約四十体のラミアが里の各地に点在していますので、終着点に到着するまである程度の反撃が予想されます」
雑魚が約四十。
しかし、ボケナスに絡んでいた三体はまぁまぁ強く。
そしてライネと呼ばれた姉ちゃんは結構強い感じだったわね。強さ的にはぁ……。ボケナスと初めて会った時の私よりちょい上ってところか。
「先程の、レイド様を傷付けた者達はどこですか??」
「通りの中腹辺りの家にいます。他のラミア達より魔力が高いので分かり易いですね」
此処と終着点の中間地点へ簡単な絵を描く。
「ほぅ……。そこか……」
リューヴの目が獲物を求める獰猛な野生動物の様に怪しく光る。
「レイドからまだ念話が届いていませんが、戦闘になった時の役割を今の内に決めましょう」
「待ってました!!」
やれ作戦だ――。やれ海老役がどうとか――。
こう……血沸き、肉躍る話がないと盛り上がりに欠けるわよね!!
「あたしは水色を仕留めるぞ??」
ユウが体の前でバチンッ!! と拳を合わせる。
「恐らく、彼女達は側近みたいな方でしょう。門兵の様子を見れば何となく分かります。そこで、ユウ、リューヴ、アオイは予定通りに彼女達三人の相手を務めて下さい」
荒ぶる三人に視線を送る。
「任せろ!!」
「あぁ。必ず息の音を止めてやる」
「リューヴ、殺してはいけませんわよ??」
「カエデ、私は!?」
出番無しは流石に寂しい。
「マイは……。ライネさんの相手をお願いします。恐らく、彼女が一番の実力者です」
「ふふん?? 捻じ伏せてやるわよ!!」
友人以外との久々の喧嘩だ、腕が鳴るってもんよ!!
「ルーと私は戦闘に気付いて寄って来る他の個体を相手に、そして適宜マイ達の援護に回ります」
「え――。私も強い人と戦いたかった――」
むっ、と唇を尖らす。
「大人しくしていろ」
「私達の超絶カッコいい活躍をその惚けた目に焼き付けろや」
「うふふ。実力を考えたら当然の結果かと」
「ルー、お座りだ」
「皆言い過ぎだよ!! 後、ユウちゃん!! 私犬じゃない!!」
揶揄い過ぎたかしら??
「ルー。私達が援護する事によってマイ達は集中して敵と対峙出来るのですよ?? 言うなれば私達の援護がなければ満足に戦えないのです」
「おぉ!! そうだよね!! リュー、私達がしっかりと横腹を固めてあげるからちゃんと結果を出してよね!!」
ちょろいわねぇ……。
カエデの言い方も上手いとは思うが。
「ルー、それを言うならば脇です。コホンッ、では復唱します。万が一、戦闘になった場合。マイ、ユウ、リューヴ、アオイはレイドがいる終着点へと向かって中央通りを直進。襲い掛かる敵を倒してください。私とルーが援護をしつつ、退路を確保。レイドを救出した後、撤退します」
「了解よ」
大きく頷き、カエデの作戦を肯定してやる。
悪くない作戦ね。
「釘を差すようで申し訳ありませんが、相手の命を奪う事は決してしない事。私達は殺し屋ではありません。あくまで話し合いに伺ったのです。悪戯に力を振り翳すのは只の愚か者です。そこの分別だけはハッキリとして下さいね??」
荒ぶる三人へ視線を送った。
「分かっていますわよ。死なない程度に痛めつけますから」
「そうだな。私も加減位は出来る……、筈」
「なぁ?? 地面に埋めても死にやしないよな??」
「分かっていればいいのですが……。そこだけが気掛かりなんですよ」
小さな御口ちゃんで大きな溜息を漏らす。
「後は向こうの結果待ち、か」
天を仰ぎ、妙にきったねぇ天井へ向けて言葉を漏らす。
口が寂しいから何か食べようかしら??
あ、でも……。最後のおやつの飴玉は皆にあげちゃったしぃ。
そ、そ、そしてどういう訳か知らんが。アイツと一緒に大当たり引いちゃったのよね。
七聖飴の御利益があるのなら、私とアイツは無事に此処を出られる筈。つまりぃ、私達以外の五名は情けなくピスピスと鼻を鳴らしながら帰る訳だ。
傷だらけで今にも泣きそうな顔を浮かべている連中を想像すると何だか笑えて来るわね。
「吉報、だといいのですが」
「そうだな。所で、カエデ」
ユウが机の上の地図をまじまじと見つめている。
何か気になる事があるのかしら??
「何でしょう??」
「この……猫?? みたいな絵は何だ??」
「猫?? 違いますよ。分かり易い様にラミアを抽象的に描いたのですが??」
「「「…………」」」
え?? これが、ラミア??
猫とも取れるし、子供のド下手糞な落書きとも受け取れる。
賢くて、頭も切れるのに……。こんな弱点があったとは。
「??」
私達は首を傾げ不思議そうに此方を見つめる彼女に対し何も言えず、湧き起こる笑い声を抑え付ける為に必死に口を塞いだ。
室内が妙な空気に包まれ、何だか居たたまれない雰囲気になってしまったのは当然の理であった。
最後まで御覧頂き有難うございました。
週末も大変寒い予報ですので体調管理には十分気を付けて、良い週末をお過ごし下さい。
それでは皆様、お休みなさいませ。




