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第百五十九話 突入作戦会議と恐怖の宴 その二

お疲れ様です。


本日の投稿になります。


分けて投稿すると流れが悪くなってしまいますので、長文となってしまいました。御了承下さいませ。


それではごゆるりと御覧下さい。



「オホン。それでは食事を始める前に一言申そうかのぉ」



 師匠が一つ咳払いをして皆を見渡すと、少しだけ緊張感を滲ませた表情へと変化した。


 出来れば早く挨拶を済ませて下さい。



「ガッフォッ!! アォォォォオオンッ!!!!」


「こ、この馬鹿犬め!! 大人しくしてろっ!!」



 あの大馬鹿野郎が今にもユウの制止を振り解いて突撃を開始してしまいますからね。



「今日まで良く厳しい訓練に耐えた。じゃが、本当にキツイのはこれからじゃぞ?? 今日までの訓練を思い返し、日々の糧として成長。そして弛まぬ前進と努力で力を伸ばし……」



 師匠の有難い御話を傾聴している間、モアさんとメアさんが徳利から御猪口へ透明な液体を移しているのを視界が捉えた。


 あれって、お酒だよな??



「思えば、お主らは文句ばかり言っておったのぉ。やれ休みたいだ、疲れた……。じゃが、文句を言いつつも訓練に励む姿に目を細めておったものじゃ……」



『失礼しますねぇ』



 モアさんが小声で俺の前へ小さな御猪口を置き、順を追って皆の前へと運ぶ。


 乾杯の為……、かな??


 全員に行き渡った所で師匠の感情が頂点に達し、声も一段と大きなものとなった。



「じゃが!! 儂はお主達の事をまだ認めておらぬ!! 体と精神を鍛え進化せい!! さすれば立ちはだかる難敵も容易に撃破……」



「はぁ――い。皆に行き渡った所だし、食事の乾杯といきましょうかぁ」



 エルザードが師匠の言葉を容赦なく切断。


 小さな白磁の御猪口を掲げた。



「大賛成よ!!!! 早く飯を胃袋にい、入れないと。私が何をしでかすか、自分でも理解出来ないもの……」



 目が真っ赤に血走り、今にも御馳走へ向けて炸裂しそうな足の筋肉を必死に御していた。



「これ、お酒だよね?? 初めて飲むけど大丈夫かなぁ??」


「少ない量ですし、一口だけでも宜しいですよ?? 形が大切なのです」



 お酒に対して若干億劫なルーにモアさんが優しく語り掛ける。


 な、成程。あぁやって優しい口調で語り掛けて少しずつ警戒心を解くのか……。


 悪魔の囁きは誰だって甘美に聞こえますからねぇ。




「それじゃあ、皆持って――」


「ま、待て!! まだ終わっておらぬぞ!!」


「かんぱ――いっ!!」



「「「乾杯!!!!」」」



 各々が御猪口を合わせ小気味良い乾いた音を奏でる一方。



「がんばいっっ!!!! ぶはぁっ!! 突撃ぃぃいい!!」



 暴徒に成り果てる一歩手間の朱の髪の女性は酒を一気に飲み干して円の中央へと突貫を開始した。



 呆れ果てた瞳でその姿を見届けると御猪口をそのまま口へ運び、久方ぶりの酒を口にする。



「…………。ふぅ、久々に飲んだな」



 舌に感じるピリっとした酒独特の辛み。鼻腔を微かに抜けて行く香りに酔いしれた。



「うっま!! お酒って結構美味いんだな!!」



 ユウは瞳を輝かせて空っぽの御猪口を見つめ。



「う――ん。美味しいけど沢山は……。でも、軽い感じだし……。ちょっとだけなら飲んでもいいかも??」


「酒類は苦手ですが……。これなら私もいけそうです」



 ルーとカエデは難しい顔を浮かべていたが、呑んで行く内に表情が柔らかくなり。



「ふぅ……。美味しいですわ」


「うむ……。体に染み入るようだ」



 リューヴとアオイの評判も上々。


 皆が最初の一杯を飲み切ると、いよいよ食事の開始だ。



「お酒のお代わりは徳利から各自注いで下さいね――」



 お代わり……。あぁ、前に置かれている奴ですか。


 酒なんかより、優先事項があるのでお酒は放置します!!



 早速、蕎麦とうどんが盛られている皿から大量に両者を取り皿へと乗せ。更に!! 丼一杯に汁を満たして瞬き一つの間に己の座布団へ着席。


 おっとぉ。


 おかず一式も忘れちゃあいけませんよね!!



 座布団の前に素敵な品々を揃え。鼻息荒く一つ頷くと箸で蕎麦を掴み魅惑の液体に漬け、豪快に啜った。



「……。美味過ぎるっ!!!!」



 口内に香る蕎麦粉の香り、しっかりとコシのある歯応えに歯も御満悦ですよっ。


 これだけ美味く感じるのはきっと、厳しい訓練を終えたからでしょうね!!



「おいし――!! マイちゃん!! 蕎麦美味しいよ!!」


「ごの!! ヴドンも美味いわよ!?」


「ちょっと!! こっち向いて口を開かないでよ!!



 咀嚼途中のうどんが飛来したらそりゃ辟易するだろうさ。


 良かったぁ。


 アイツが一番遠い席に居て。




「はぁ……。美味しい……」


 エルザードの小さな口から甘い声が漏れる。


 蕎麦を啜りながら何気なく視線を移すと、御猪口に潤んだ唇を付け香りを楽しんでいる美しい女性の姿が映った。


 酒が体に回ったのか、ほんのりと体が赤い。


 それに……。頬も薄っすらと桜色に。


 髪と同じで綺麗な色だな。



「ん?? なぁに??」



 酒の効果で呂律が回らないのか、舌っ足らずと若干の色気を帯びた声に変わる。



「いや、美味そうに飲むなぁって」


「レイドも飲む??」



 徳利を此方へ傾ける。



「いや、基本的に酒類は口にしないようにしているんだ。酒が体に回ると正常な判断が出来なくなる。それだけじゃないぞ?? 平衡感覚のずれ、正体不明の何かによる気持ちの高揚。それに今はこの蕎麦を腹一杯食べたいんだ」



 ほろ酔い加減の女性から視線を蕎麦と天ぷらへと戻し、愛しむように見下ろした。


 見てみろよ、この輝かしい姿を……。


 天ぷらを口に含むとあら不思議、幸せな気分に包まれるじゃあありませんか。


 さくっとした食感を潜り抜けるとシャキリとした山菜のお出ましだ。素材の質感を損なわない揚げ方により、噛めば噛むほど腹が減って来る。



 あぁ、食べる事はこんなにも幸せな出来事なのですねぇ……。



「ふぅん。真面目なのねぇ」


「酒よりもこっちを最優先だよ」



 甘い声を適当に流して天ぷらと蕎麦の饗宴を楽しむ。


 頑張った甲斐があるなぁ……。



「ねぇ?? ここ暑くなぁい??」



 エルザードが白のシャツの胸元を指で摘まんでパタパタと動かし、万人が見惚れてしまう双丘へ新鮮な空気を送り込む。


 いくら女性ばかりだとしても、此処に一人の男性が居るのだし。もうちょっと……。人目を気にした方がいいと思うぞ。


 蕎麦を頬張りながら横目チラリとその様子を窺っていた。

























「――――。お酒には興味ないけど、こっちには興味あるんだ??」


「ブフッ!!」



 食べかけていた蕎麦を吹き出しそうになり、慌てて右手で抑えた。


 き、気付いていたの!?



「いいよ?? 見たいんでしょ??」


「いや、だから蕎麦を食べたいんだって」



 さり気なく此方の肩に乗せて来た頭を柔らかく押し返してやる。


 きゅ、急にびっくりさせる事を言わないで下さいよ……。お願いしますから。



「何じゃ!! レイド!! ブヨブヨの乳ばかり見おって!!!!」



 正面に酔っ払った師匠が現れた!!



 右手に御猪口と徳利、左手にお稲荷さんを乗せた皿を器用に持ち。


 胸元は若干開け、今にも成長過程にある果実の末端が見えてしまいそうな着方に心がざわついてしまった。



「い、いえ。そう言う訳ではありません」


「むぅっ!? 聞、こ、え、ぬ、ぞ!!」


「見ていません!!」



 師匠が畳の上で地団駄を踏んではいけませんよ??


 穴が空いて使用出来なくなってしまいますからね。



「良し!! 良く言った!! いいか?? 女は乳ではぬわぁい!! 男を支え、時には意見を申す。そんなしおらしい姿を兼ね備え、良妻賢母を体現した……」



 もう少し静かに叫んで頂けませんか??


 食欲が尻尾を巻いて逃げてしまいますので。



「足を広げろ!!」


「は、はいっ!!」



 人一人分座れる空間を捻出すると、驚くべき早業で俺の左太腿の上にポンっと座る。


 頭の天辺から酒の香りと花の香りが俺の鼻腔を襲い、心臓が嬉しい悲鳴を上げてしまった。



 参ったな……。


 これじゃ蕎麦が食べられないじゃないか。


 くどくどと己の女性論を話す師匠を他所に。蕎麦へと箸を伸ばし、器に入れる。



「その点、儂はいいぞ?? 夫婦になった暁には夫をじゃな……。はむっ……ふぁふぁえて」


「師匠!! それ自分の蕎麦ですよ!!」



 汁に入れ、口に運ぼうとした蕎麦を小さな御口に横取りされてしまう。



「何じゃ?? 儂にくれたのでは無いのか?? 続けるぞ。大体、最近の男はたるんでおる。軟弱な体格、薄っぺらい信念。儂の若い頃はもっと猛々しい連中がゴロゴロおったわ……」



 くそう……。もう一度だ。


 ワッサワッサと揺れる尻尾に視界を遮られ、頼りない視界の中。同じ動作を繰り返した。


 よぉし。


 上手く汁に入れたぞ……。あ、薬味は葱を使おう。



「男はやはり……体じゃな!! 鍛え抜かれた体には健全な精神が宿る。それに、子も親の体を引く継ぐ訳じゃが……」



 今が好機だな。


 話に夢中で揺れ動く蕎麦に気付いていない。


 後、少し……。



「まぁ?? この歳にもなって子を持っていないのには理由があってのぉ。ふぁむっ……。わふぃのおめにかなふ男がいないのもまふぁ事実……」


「勘弁して下さいよ!!」



 思わず声を荒ぶってしまった。


 二度も蕎麦を横取りされたらそうもなろうよ。



「美味じゃ美味。ほれ、あ――んじゃ」


 俺から箸をふんだくり、蕎麦を掴む。


「自分で食べられますよ」


「わ、わ、儂の蕎麦が食べれぬと申すのか!? 嫌じゃ――!!」



 駄々をこねた子供の様に足をジタバタと動かす。


 人前という事もありますが、揺れ動く足は凶悪な攻撃力を備えていますので。万が一あれが顎に直撃したら心地良い眠りに就いてしまう恐れがある。



 仕方が無い。


 頂きましょうかね。



「分かりました。頂きましょう……」


「ぬふふ……。持つべきものは良い弟子じゃな」


「これふぇ、満足されました??」



 蕎麦を頬張りながら話してやる。



「次は儂のお稲荷さんじゃっ」


 じゃっ、じゃあなくて……。


 そんな笑顔で言われても困りますよ……。


 差し出されたお稲荷さんを食べ終え、モックモクと顎を動かしていると。



「ふふふ――。良い気分じゃなぁ――っと」



 師匠の鼻頭に蕎麦の汁、そして右の口角にお稲荷さんの欠片を発見してしまった。


 周囲に漂う酒の香と先程摂取した酒の所為でイケナイ考えがぬるりと湧いて来る。



 あぁ……。くそう!! ハンカチで拭きとってあげたい!!



 先日は叶わなかった願いだが今、師匠はほぼ酩酊状態。恐らく通常の思考は持ち合わせていないだろう。


 通常時にそんな事をしたら顎の骨が砕かれ、頭蓋を叩き割られてしまうので出来ませんが。今なら、いいや!!


 今しか出来ないんだ!!


 さり気なく訓練着のポケットから恐る恐るハンカチを取り出し。



「男は強く、女は支え。これはもう古い考えかもしれぬ。しかし!! それでも!!」


「師匠。御顔にご飯粒が付いていますよ。失礼しますね」



 頼りない背中を左手で支え、右手に持つハンカチで師匠の御顔をグシグシと拭くと……。



「んっ……。むぅっ……?? 取れたか??」


「はい、お可愛い顔に元通りですよ」


「そ、そうかっ!! なはは!! そうかそうかぁ――!!」



 にっっぱぁぁ!! っと。


 史上最強の無邪気な笑顔がハンカチの下から現れ、俺は心の中で強く拳を握り締めた!!


 ふ、ふぅ!!


 お父さん、良い仕事したな……。



「ねぇ。レイドぉ??」


「何……。お、おいおい!! 近いって!!」



 頬を桜色に染めたエルザードが小さな口に天ぷらを咥えている。


 親鳥が雛鳥へ餌付けをする様に。


 阿保な親鳥が真面目な雛鳥へ餌を運ぼうと顎をクイっと上向きにしていた。



「えぇっ?? 嫌……、なの??」


 肩を押し返すと、嬉しそうに嫌がる。


「嫌も何も。受け取れる訳ないだろう……」


 阿保な親鳥へ倫理観とやらを小一時間程説いてやりたかった。



「ギャハハ!! ほら、ルー!! これも食えよ!!」

「ユウちゃん!! それさっき食べたよ――!!」




 ――――――。


 あっれっ??


 な、なんか。皆さん、妙に上機嫌且不必要に五月蠅いですよね??


 ふと妙な雰囲気に気が付くと、俺を除く全員が通常時とはかけ離れた姿で食事を摂っていた。


 一部は妙に上機嫌だったり。



「どうせ、私には魔法しかありませんよ」

「はぁ……。主に慕われるのはどうすればいいのだ……」



 将又、暗かったり。


 俺が蕎麦に、そして師匠に気を取られている内に酒が各々を狂わせてしまったのか??


 やばいぞ……。これは非常に不味い。


 どう収拾を付ければいいんだ。


 酒を飲んでいる仕草は見られなかったが……。



「んふふ。宴に相応しい雰囲気になって来たわね」



 俺の視線を理解したのか、エルザードが小さく呟いた。



「皆、そんなに飲んでいたの??」


「実は……。湯呑に入っている水をお酒に替えておいたのよ」


 ペロリと舌を出す。


「ほんのちょっとずつ……。気が付かない様に、ね??」


「要らん事をするな!!」


 こいつと来たら!!


「だってぇ。最終日だしぃ?? ほら、酔った方が雰囲気も良くなるじゃない??」


「そんな訳あるか!!」



 大魔とその血を受け継ぐ者が酔い、自分勝手に暴れ回ったらどうなるか……。


 想像をしたら寒気がして来た。


 現に、膝の上に乗る金色の方は……。



「えへへ……。酒じゃ、酒」



 御猪口に酒を注ぎグイグイと飲み干し、陽気な笑みを浮かべている。


 体を完全にこちらに預けているが酒の所為で体温が上昇し、背中越しに儂は酔っていますよと。やんわり伝えていた。


 ここから脱出して、機を伺って戻って来るか??


 あ――、でも。また師匠の御顔をグシグシ出来るかもしれないし……。


 実に悩ましい選択だ。



「レ――イドっ。食べてるか??」


「酒くさっ!!」



 脱出と己の願望に気持ちが揺れ動いていると背後からユウの剛腕に捕まり、俺の願いは気泡の如く淡く消えてしまった。


 躊躇するんじゃなかった!! 即刻脱出すべきでしたね!!



「お、おう。食べてるよ??」


「へへ。そうなんだ」



 いやいやいやいや。頭に乗る柔らかくて、想像以上に重い物体は一体何??


 ユウが、良く肩が凝ると言っていた理由がよぉく理解出来てしまいますよ。



「あ、主。体が熱いのだ……」


「へ、へぇ。そうなんだ」



 今度は正面にリューヴがちょこんと女らしい姿で座る。


 灰色の髪が乱れ、右目に掛かりそれが女性らしさを増長させていた。



「ちょっとリュー!! 邪魔!! ねぇ?? レイド、私も熱いよ??」


「大変だねぇ??」



 灰色を押しのけ、再び灰色がやって来る。



「お退きなさい!! レイド様ぁ……。おかしいのです」



 今度は白色のお出ましだ。


 アオイの白い肌はピンクに染まり目も虚ろ。


 そして、何より訓練着の胸元が乱れているのでどうしてもそこへ視線が移ってしまう。


 悲しい男の性という奴ですな。



「おかしい??」


「えぇ。女の部分が……。疼くのですわ……」



 俺の右手を取り、己が双丘へ誘うのですが。



「はい!! 駄目です!!」


 秒で手を引っ込めてやった。


「あんっ。ふふ、楽しいですわねぇ??」



 御免なさい!! 全然楽しくない!!


 それ処か身の危険をヒシヒシと感じています!!



「おらぁ!! どけやぁ!!」



 いよいよ真打の登場か……。


 アオイの背を蹴り飛ばし、赤き龍のお出ましだ。



「ボケナスぅ――……」



 おっとぉ……。


 この目は非情に不味いです。怒り、憤怒、困惑。


 様々な感情が入り乱れ、我を失っている。



「あんたはねぇ……。女々しいのよ!!」


「はい。申し訳御座いません」



 ここは大人しく肯定するに限る。



「男だったらねぇ……。ガツン!! と行かなきゃいけない時もあるのよ」


「その通りですね」



 何の話か分からないが取り敢えず頷いておく。これが酔っ払い相手の常套句だ。


 先程から師匠が大人しい事に気付き、ふと視線を落とすと。



「…………。くぁ」


 だらしなく涎を垂らして眠っていた。


 剰え俺の服を汚す始末。



「どこ見てんのよ!!!!」


「すいません!!」



 俺の視線に気付き、怒鳴られてしまった。



「こ……の!! まな板がぁ!!」



 先程吹き飛ばされたアオイが復活して逆襲を開始。



「掛かってこいやぁ!! このあばずれ器用貧乏めが!!!!」



 御覧下さい、皆様。


 龍と蜘蛛、雌雄を決しようと最大の対決が今正に何の変哲もない畳の上で始まろうとしています。



「レイド、大丈夫??」



 朱と白が戦いを繰り広げて何処かへと向かって行く代わりに、藍色の髪の女性が現れた。



「あ、うん。カエデは正気みたいだね??」



 ほっと一息を付き、正面の端整な顔を見つめた。



「しょうき?? うん、私はしょうきだよ??」



 うぅむ……。


 正気と話すが、どこからどう見ても我を失っていると思うのだが??


 純白の肌はポッポッポと蒸気し、熱を帯びて今にも発火しそうだ。


 吐息は粘着質を帯び俺の体に甘く絡みついて来る。



「ねぇ、レイド??」


「はい、どうかなさいましたか??」



 カエデにもどこぞの龍と同じく冷静に、そして感情を込めずに返事を返した。



「私ね……。ふふ、聞きたい??」



 何をでしょうか??


 支離滅裂な言葉の波に若干困惑しちゃいますって。



「先生にね、色々教えてもらったんだ」


「へぇ。特別な魔法とか??」



 恐らく、その事を聞いて欲しいのだろう。



「ううん。違うよ??」


「じゃあ、何??」



「……。子供の作り方」


「ぶはっ!!」



 顔を赤らめて話す姿は正直ぐっと来るものがあるが、内容が内容なだけに吹いてしまった。



「エルザード――……」



 憤りを籠めた瞳で隣を睨んでやる。



「いつかは知る事じゃない。それに……。知っておいて損はないしぃ??」



 悪びれる様子も無く、俺の視線を流す。



「こうやって……。粘膜接触が好きなんだよね?? 男の人って」



 何を考えたらその答えに行き着くのか。酔っ払い状態のカエデの頭の中身を覗いてみたいですよ。


 小さな御口で山菜の天ぷらを咥え、彼女の先生と同じ姿勢を取った。



「いや、食べ物を粗末に扱うのは好きじゃないかな」


「え……。私のはいらないの?? そっか……。そうだよね、私はいらない子なんだよね??」



 いやいやいやいや。


 そういう事じゃなくてですね??



「ほ、ほら。食べ物はちゃんと手から口へ運ぶ物だろ?? だから行儀良く無いと思うんだ」


 尤もらしい訳を優しい口調で話す。


「カエデも良く行儀が悪いってマイ達を叱るだろ?? それと同じ事だよ」



「…………。どうして今ここでマイの名前が出るのですか??」



 淫らな雰囲気が百八十度と変化。


 彼女の体から放たれる魔力が、御馳走が乗るお皿を小刻みに震わせてしまう。



「え?? どうしてって。他意は無いけど??」


「そうですか。どうやら……。レイドにはキツイお仕置きが必要ですね」


「は?? はぁ!?」



 カエデが右手を翳して朱の魔法陣を浮かべると、俺の目の前に赤い球体が出現。


 それは光と熱を帯び、徐々に膨らんで行った。


 えっ!? ナニ、これ!!


 あっつ!!



「あはは!! レイド大変ねぇ。カエデを怒らせると大変よ??」


「笑っていないで止めてくれ!!」


「ほら、そうやって直ぐ他の女性に逃げる」



 焼け焦げる寸前になれば誰だって逃げますよ!!



「わ、分かった。カエデだけ見つめるから……。ね?? 良い子だから怒らないで??」



 両手を前に翳し、暴れる動物を宥める様に手を振ると。



「……。うんっ!!」



 途端、表情がぱぁっと明るくなった。



 は、はぁ――……。何んとか一段落。


 こんなカエデ見た事無いよ……。



「んあっ!? やっべ。寝てた……。おう、カエデじゃん」



 さっきから声が聞こえないと思っていたら……。


 俺の頭の上で寝ていたのか。



「ユウ、その南瓜をどけて下さい」


「へ?? ん――。どうしよっかなぁ?? すげぇ楽だし、このままの姿勢がいいかなぁ??」



 ちょっと、止めて??


 やっとカエデの機嫌が治ったのに。



「大体、ユウは大き過ぎです。少し下さい」



 他人様に譲渡出来る物では無いですよ??



「ふふん?? 羨ましいんだ?? ほ――ら、取って御覧??」



 ここからでは良く見えないが、カエデを挑発する仕草を取っているようだ。


 海竜様の機嫌がみるみるうちに悪くなっていきますもの。



「…………。良いでしょう。今の言葉、後悔なさらず」


「ほぉ?? あたしにタイマン勝負ってか?? 軽く捻って……、どぐわっ!!」



 頭の上の重りが奇妙な声と共に去って行った。


 振り返ると……。



「う、うぅ――ん……」



 ぐったりしたアオイがユウの上に乗っかっていた。



「ぜぇ……。ぜぇ……。勝った!!!!」



 どうやらマイがアオイをぶん投げたらしい。


 世紀の対決は龍の勝利で幕を閉じたようです。



「むっ。またマイを見てる」


「そりゃ、人が飛んで来たら見ちゃうだろ??」


 すかさず海竜さんの厳しい視線が刺さる。


「だ――め。こっちだけ見て??」


「うぶっ!?」



 小さな両手を此方の頬に当て、強制的にカエデの端整な顔へ視界を向けられてしまう。


 随分と、砕けた性格になるなぁ……。


 いくら酔っ払ってるからってここまで変わるものなのかしら??



「ふぁふぁりまふぃた」


 口が上手く動かせないのでどもりながら話す。


「おいおい?? 随分と楽しそうじゃないのぉ?? うふぇへ……」



 げっ!!


 徳利を片手に千鳥足のマイが大股でやって来る。


 目は充血し、口元は半笑い。


 俺に厄災を運んで来る、不吉な使者のお出ましだ。



「いふぁ、まぁ楽しいふぉは思うふぇど」


「そうだよなぁ?? 膝の上に狐を乗せて……。ぷはっ!! うっま!!」



 御猪口に注いだ酒をぐいっと飲み干す。


 その辺で止めておいたら??


 そう言ってやりたいが、口に出したら何をされるか分からないので黙って経過観察を続ける事にした。



「んでぇ。可愛い、可愛い海竜ちゅわんに顔を掴まれちゃデレデレにもなるよなぁ?? えぇ??」


「いふぁいです!!!!」



 いきなり人の首を絞めて来ようもんなら変な声も出ようさ。



「ちょっと、マイ。レイドが痛がってる」


 ほっ……。


 流石カエデだ。


 意識は混濁していても常識は保っているんだな。



「私が後で痛めるから止めて」



 あ、うん。


 そうなんだ……。



「止めてぇ?? それ、私に言ってんの??」


「えぇ。目、どこについています??」



 珍しくカエデの声が荒々しい。



「ほほぉ?? あんたが私に喧嘩売って来るの初めてじゃない??」


「いつもは黙って見ていますが……。今日は譲れません」


「譲るぅ?? アハハ!! 結構結構!! 地べた這いつくばらせて、きったねぇ泥水啜らしてやるわよ」



 そう話すと同時にマイが俺の首をきゅっと掴み。男性顔負けの握力で締め上げてきた。




「うぐぅ!? しにふぁすって!!」



 頬には海竜の柔らかい手。


 首には凶悪な龍の手。


 一体、俺の体はどうなっちまうんだ??


 恐怖に慄き、体が自然と後退を始める。


 こ、このままでは体が持たん……。一時撤退して安全な場所に避難して、ほとぼりが冷めるまで待とう。


 うん。


 これが最善策だ。


 カエデの手と狂暴龍の手を引きずりながら下がると、右手に柔らかい感触を感じた。


 ん??


 隣に食い物なんてあったっけ??



「…………、やんっ!! なぁにぃ?? 結局は、私を選んだの……ね??」



 恐る恐る何やら可愛い声を放った淫魔の女王様の方向へ視線を送ると……。



「っ!?」



 俺の右手はエルザードの形の良い太腿の上に乗せられていた。


 しかも、彼女の短いスカートを捲る形で。


 さ、最悪だ。


 ここから予想される事態は当然……。



「ハハ。ヨユウダナ?? オイ」

「それは……。どういう了見ですか??」



 マイとカエデの瞳に大炎が灯り魔力を放出しているのか、二人の間の空間が湾曲してグニャリと歪む。



「ち、違うって!! 下がっていたら偶然……。お、おい!!」

「ふふ。そんな事言って……。ね?? 子作りしよっか??」


 背後から俺の首に両腕を回し、耳元で甘い言葉を囁く。


 こいつ!!


 ワザとやっていないか!?



「祈れ……」


「へ??」


 マイが拳を握り。


「そうですね。祈って下さい……」


 カエデも彼女に倣う。


「な、何を??」




「「容易く、気絶しますようにって!!!!」」


「どぶぐっ!?」



 目がすわった二人が声を合わせると、両の拳が俺の顎を下から捉えた。


 視界が天井を捉え、気持ち良く畳に叩きつけられる。


 あぁ……。


 雲の上に乗っているようだ。


 このフワフワとした感じ……。


 ふふ、君達と知り合って一体何度目の経験だろうね??




「ちょっと!! 私のレイドに何すんのよ!!」


「先生!! 今は訓練中じゃありませんから言わせて貰いますけど!! 男の人を誑かすのは程々にして下さい!!」


「そうよ!! 大体、大魔のあんたが小僧を相手にしてんじゃないわよ!! 後、下着丸見えだから直せや!!」


「残念でした――。淫魔の刻印が刻まれている以上、レイドは私の所有物なんですぅ――」


「だ、だったらさっさと解け!!」


「一生外す訳ないじゃん。あんたの頭の中身はすっからかんなのぉ??」


「こ、このぉっ!!」




 あぁ、彼女達の叫び声が子守歌に聞こえて来た……。



「ふにゃら……」



 膝の上で眠っていた師匠も俺と同じ姿勢で眠っているし。このまま眠っちゃおう。


 瞼をゆっくりと、眠りに落ちる時の様に柔らかく閉じ。



『おいおい。いきなり呼ばれても困るんだけど??』



 夢の世界からの使者さんの大変苦い顔へ向け、静々と頭を垂れ。


 彼若しくは彼女に致し方なく手を引かれて痛みも、暴力も存在しない素敵な夢の世界へと旅立って行ったのだった。




最後まで御覧頂き有難う御座いました。


落ちの部分は本来狐の師匠の一撃を受ける予定でしたが、指導疲れも溜まっている事もあり気持ち良く休ませ。


代わりとして二人の 龍竜 の一撃をみまってあげました。



そして、この御話で特訓編は終了し。次話からはラミアの里へ向かいます。


漸くかよ、と考えている読者様も当然いらっしゃるかと思います。私も漸く書き終えてほっと胸を撫で下ろしていますから……。



それでは皆様、お休みなさいませ。


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