第三十話 予期せぬ便りの到着
本日の投稿です!!
ごゆるりと御覧下さい!!
明るい陽射しに照らされた大地に矮小な雫が一滴ポトリと落ちる。
乾いた土に染み込んだ液体は瞬く間に乾燥を遂げ、もっとお前の液体を寄越せと咆哮している様にも見えてしまう。
暑い……。
まだ五ノ月だってのに何でこうも暑いんだ……。
皮膚の奥から此れでもかと染み出て来る液体に顰め面を浮かべ、出発時とは比べ物にならない体の軽さで里の東の作業場へと舞い戻った。
里の皆さんが大きな声を放ち、木材を加工している姿を捉えるとぐだっていた気持ちが引き締まる。
こういう時は逆に考えるんだ。
あれを全て運べ終えれば、きっと今よりも一回りも大きな筋肉に成長する筈。
禍を転じて福と為す。
そう心掛けて運びましょう。
「あ、レイドさん!! お疲れ様です!!」
「お疲れ様です。アレクシアさん」
紺色のズボンと、濃い青の上着。
作業に適した服を身に纏い。皆と同じく労働の汗を流す彼女が此方を見付けると、俺達を熱し続けている頭上の太陽も尻尾を巻いて逃げる笑みを送って頂いた。
お上品な御召し物も似合いますが、庶民的な服も似合いますね。
どちらかと言えば、自分的にはこっちの方がアリかも。
「大丈夫なのですか?? 今日は……。陽射しも強烈ですので」
回復して間もない体にこの暑さは堪えるだろうに……。
現に。
「暑いですけど……。ずっと横になっているのも飽きちゃいましたので」
綺麗に湾曲する頬から伝い落ちる汗を大きな手拭いで拭っていた。
本日の早朝。
さぁ、今日も元気に作業に携わろうと気合を入れて起きたらカエデの姿が見当たらない事に気付いた。
素敵な朝食を作り始め、その匂いに釣られて起き上がって来た両名にその事を問うたら。
『今回の事件について報告して来るってさ。今日中には帰って来るみたい』
寝惚け眼のユウからそう伺い。
帰りは何時頃になるのかな?? と、問うたら。
『おら。さっさと朝飯を作れ』
食の香りで目を覚まし。ギンギンに猛った瞳の狂暴な龍からは猛烈な勢いで催促されてしまった。
何故、此れでもかと睨まれ。時に悪態を付かれながら飯を作らなければならないのだ。
余りにも理不尽な命令に巨大な溜息を吐き、それでも命令に従ってしまう自分に辟易してしまう。
此方の真面目な性格を矯正するべきでしょうかね??
だが、いざ!! 矯正しようが。
暴力という名の強制行為により。どの道、俺が飯を作る羽目になるのだからしませんよっと。
あなたは一度。カエデやアレクシアさんみたいに品行方正な姿を敬うべきだと言えたらどれだけ楽か……。
そこで小言を言うものなら、狂暴龍の熱い拳が下腹部に突き刺さるので言えませんでしたけどね!!
ユウは里の西で作業を続け、マイは臨機応変に対応して、里の中を縦横無尽に駆け回る。
そして、カエデが抜けた穴はこうしてアレクシアさんが埋めているのだ。
昼食後の作業を開始し早数時間。
体が感じてしまう疲労感は誤魔化せない時間にいよいよ差し掛ったので、注意じゃあないけど。
相手の体を労う言葉を掛けた。
「適度な休息と水分補給を怠らない様にして下さい。少しでも疲労感を覚えたのなら森の木陰で体温を調節して下さいね??」
「ふふ。その口調……。ピナにそっくりです」
あら??
口煩い小言に聞こえてしまいました??
「私の言葉はアレクシア様にとって五月蠅い小言に聞こえるのですか??」
素敵な笑みを送るその後ろ。
作業を続ける手をピタリと止め、ピナさんがアレクシアさんの背中を鋭い鷹の目でジロリと睨んだ。
鋭い眼光ですね……。
「ち、違いますよ。此方の体調を気遣ってくれる姿勢が似ていると言いたいのです」
慌てて彼女の方へと振り返り釈明をする。
「ふぅん……。そうですかぁ……」
そして、一応の納得を果たし。
鋭い風の刃を放ち、太い木をスパっと両断してしまった。
あれじゃあどちらが上の立場か分からないよね……。
強いて言うのであれば、口煩い姑に対応する新米妻って所でしょうか。
彼女達が里の者へ的確な指示を出す姿に舌を巻いて眺めていると。
「只今戻りました」
ホトトギスも思わず二度見する澄んだ声が不意に後方から放たれた。
この声は……。
「カエデ!! お帰り!!」
「「カエデさん!! お帰りなさい!!」」
「え、えぇ。どうも……」
三名の軽快な声を受け、藍色の瞳をきゅっと見開きたじろいでしまう彼女。
「カエデさんの的確な指示の御蔭で作業は順調に進んでいますよ!!」
ピナさんがカエデの右手を手に取り、ブンブンと仰々しく嬉しそうに振れば。
「本当に何んとお礼を申して良いのやら……。それはそうと。中央区画の作業が滞っていまして……」
捲し立てる様にアレクシアさんの舌撃が始まり。
「西の作業場でユウが困惑してる。作業員の増員の打診が来ててさ、どの程度此方の人員を割けば良いか分かる??」
狼狽える彼女に俺が止めの一撃を放ってしまった。
「皆さん、大変お忙しいのは理解出来ました。ですが……。距離感を間違えていますので正常な距離感を保って頂けると幸いです」
「「「あっ」」」
真っ赤に染まってしまった頭の天辺からぽふっと蒸気を放つ彼女からの言葉を受け、指示通りの正常な距離へと足を置く。
優秀な彼女が抜けた穴はそれだけ大きかったのです。
そこを汲んで頂ければ宜しいかと。
三者三様。
やってしまった……。そんな顔を浮かべていた。
「ふぅ……。作業の進捗具合を教えて下さい」
「分かりました!! 現在、東区画の修復作業は凡そ五割程度終了しています。それに対し、西区画は四割です。甚大な被害を被った里の中央は二割です」
ピナさんが手元の紙の束へと視線を落として話す。
「ふ、む。ユウには申し訳無いですが作業はこのまま続けて下さい。此処から木材を運搬し先ずは東区画を完成さます。そして、同時進行で里の中央の作業に取り掛かる。西区画は向こうに一任させるのがもっとも効率的です。木材の供給方法についてなのですが……」
ふふ。
帰って来て早々、大変だな。
でも、それはカエデがそれだけ頼りになるという証拠。
困った様な顔をしているがその実、凄く嬉しそうだ。
ピナさんとアレクシアさんの意見に対し、的確な指示を与えている彼女の横顔を何気なく眺めていると。
「あ、そうでした。レイド。これ」
長い白のローブの裾から二枚の紙を取り出し、俺に差し出す。
「これは??」
「此処へ帰る道中。ルミナの住民の方から渡されました」
差し出された紙は恐らく、伝令鳥の足に括り付けられていた紙であろう。
折り目が目立つのが良い証拠です。
二つ折りにされ、折り畳んだ皺が少々目立つ紙を二枚受け取り何気なく開いた。
「――――――――。え、えぇ…………」
その紙に書かれていた内容に思わず辟易を通り越し、此れでもかと疲労の色を滲ませた吐息を吐き出してしまった。
紙の内容はこうだ。
『任務の成功の報告は確かに受け取った。良くやったな、レイド。そこで傷を癒し帰還しろと言いたいのだが……。お前さん宛てに新たな任務が与えられた。 西の拠点地、ファストベースへ指令書を届けろとの事だ。指令書、並びに拠点地の地図は後で送付する。 不帰の森を抜けたお前さんだ。そこから北に位置する深い森を北上し、平地へ抜けて。平和な平原をのんびりと進めばあっと言う間に到着だ!! 楽勝だって!!』
一枚目の紙には新たな任務の詳細と、軍人らしからぬ口調のレフ准尉の労いの言葉。
そして二枚目の紙に視線を泳がせると。
「は、はぁ!?」
一枚目の紙を越える内容に驚愕の声を放ってしまった。
『パルチザンの最大の支援者であるイル教からお前さんに褒賞金が授与された。 給料の三割を出身地の孤児院へ送付する様に指定されてあるので、褒賞金の三割も同日付で送付された。 そして、レイモンドへ帰還後。此度の任務の詳細をシエル皇聖に報告する様にと、上の連中から此方に指令が下った。 あの姉ちゃん可愛いからなぁ!! 手、出すなよ――!!』
い、いやいや!!!!
聞いていないよ!!
褒賞金!? それに、帰還後は宗教家のお偉いさんに報告もしなきゃいけないの!?
「どうしました??」
俺は余程驚いた顔を浮かべていたのだろう。
アレクシアさんが心配そうな顔で俺の顔を覗き込んでいた。
「あ、いや……。何んと言いますか……」
しどろもどろ、おずおず。
何とも形容し難い口調で手紙の内容を読み上げた。
「ふ、む。成程。西の拠点地へと指令書を通達するのが新たな任務ですか」
カエデが細い顎に指を当て、小さく頷きつつ話す。
「そうみたいだね。褒賞金に宗教家への事情説明……。何か、俺の知らない間に向こうでは色々事が進んでいるみたい」
「一つの街を解放したのですからね。しかも、たった一人で」
「俺一人の力じゃあないだろ。カエデ達がその役目を殆ど担っていたし」
「そこです」
はい??
カエデが俺の顔をビシッと指差して話す。
「恐らく、と言いますか。街の解放について確実に疑問視している筈です」
「どうしてそんな事が分かるの??」
「どうしてって……。一人の力じゃ到底叶わない任務を成し遂げたのですよ?? 疑問に思う方が自然です」
「だから、それは街の住民の方々と協力して……」
此方からの通達にもそう書き記したし。
矛盾はしていないと思うけど……。
「一人の軍人が参戦したからと言って状況が好転する程度なら、ルミナの街の方々で十分に対処出来ますよね??」
そう言えば……。確かに。
「つまり……。俺達の最大の支援者である宗教家の人達。若しくは軍の上層部はそこを懸念しているのか」
「その通りです。イル教……。魔物排斥を訴える教えとして有名ですね」
カエデが話す通り、イル教は魔物排斥を訴えこの大陸に広く伝わっている。
今から遡る事……。数百年以上前に布教され、徐々に信者を増やし。今や数万名を超える信者がいるとされている。
具体的に信仰を捧げる神はおらず、聖書信仰?? だっけ。
宗教に関して疎いが。確か、その教えを守り。教えに従って生きる事を人生の糧にしているそうな。
そして、イル教は。我々パルチザンの軍資金の後ろ盾の役割を担っている。
オーク並びに魔女を殲滅する事を本懐として設立されたパルチザン。
魔物排斥を掲げ、崇高な教えを守って生きるイル教。
敵を倒す為には莫大な資金が必要になる、そしてその資金は地面を掘って湧いて出て来る物では無い。
互いの理念が一致した所為もあってか。背に腹は代えられないと言われる様に、軍部も辛酸を嘗める思いで了承したのだろう。
そりゃあ、そうだ。
資金の援助を受ける以上、ある程度の自由……。じゃあないな。ある程度の力を掌握されてしまうのだから。
「そんな宗教が人の間には広まっているのですか……」
ピナさんが難しい顔を浮かべてカエデを見つめる。
「今日の状況を鑑みれば致し方ないでしょう。人は、絶望に打ちひしがれた時。何か縋る物が必要なのですから」
神に祈ろうが。
神に請おうが。
何も返って来ないのに。
いや、違うな。
宗教の根幹は俗世的な利益を追い求めるのではなく、心の救済か。
俺とは真逆の考えだからなぁ……。
理解出来ないのが本音です。
「それを上手く提供したのがイル教です」
「カエデ、良く知っていたな」
少しだけ饒舌に語るカエデに話す。
「本で学びました」
左様で御座いますか。
「レイドさんは、その……。その宗教に入信していたりするのですか??」
アレクシアさんが不安気な表情で問う。
「いいえ。自分は正直、宗教に興味が無い人間ですね」
幼い頃は寧ろ、神を憎んでさえいた。
どうして俺には両親が居ないのだろうと。
そして、何故。
俺にこんな辛い思いをさせるのか。何度も、何度も天井の染みを睨みながら問うたが。
返って来るのはいつも無言の答え。
そんな何も答えない、応えてくれない神に祈る時間を費やすのなら仕事を一つ覚えた方がよっぽど有意義だからね。
人は人それぞれだから、宗教全てを否定する訳では無い。
だけど、俺自身は神に傾倒する気持ちは理解出来ないのが正直な気持ちだ。
「そうですか。――――良かった」
何かを呟き、アレクシアさんが胸を撫で下ろす。
「レイド。次の任務地へはいつ出発するのですか??」
カエデが俺の目を真正面に捉えて問う。
「任務が下された以上。俺にはそこへと向かう義務があるからね。指令書、並びに地図が届き次第出発するよ。 前線拠点の殆どは西に位置しているから……。予定通り此処から西へ向かい。蜘蛛さん達の様子を窺いつつ、森を北に抜ける進路を取ろうかと考えている。まだ地図を確認していない以上、分からないけど。凡その行路はそんな感じかな」
「そう、ですか。分かりました」
「その指令書も明日には届くだろう」
此方に返信を送ったのだ。
同日、或いは翌日に送るのが自然な考えだし。
「あ、明日には出発するのですか??」
ほっとしたのも束の間。
アレクシアさんが残念感を満載した声色で話す。
「まだ分かりませんけどね。届き次第、出発。そう考えていますよ。里の作業を残す形での出発ですが……。申し訳ありません」
「い、いえ!! そこまで甘える訳にはいきませんからね!! う、うん。明日、か」
人手が足りなくなりますからね。
落ち込む気持ちは理解出来ます。
「じゃあ、俺はユウ達にこの事を伝えて来るから」
「分かりました。私は此方で作業に取り掛かります」
「宜しく!!」
軽快に右手を上げ、里の東の入り口へと向かった。
何だか自分の知らない所で事が進んでしまっている。厄介な事件に巻き込まなければ良いのだが……。
得も言われぬ不安感がぬるりと心の中に湧き起こってしまう。
今は先の事に杞憂を抱くよりも、己に課された目先の課題を解決すべきだな。
西へと向かい、蜘蛛さん達の様子を窺い。
そして……。新たな任務地へ。
目が回る程に忙しくなりそうだ。
新しい任務に就くにあたっての高揚感、帰還後に待ち受ける辟易、そして蜘蛛さん達を憂慮する心。
複雑な心境を胸に抱きつつ、里の中を歩く。
此方の気持ちを汲んだのか、それとも余程心労祟った顔を浮かべていのか。
すれ違う里の者達は皆一様に俺の顔を何とも言えない複雑な表情を浮かべて眺めていた。
お疲れ様でした!!
気が付けば本話で三十話。皆様に御覧頂いている、只その事実が私の創作意欲を高めてくれていると感じている今日この頃です。
それでは、また明日にお会いしましょう!!




