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第二十九話 女王様と働き蟻

大変お待たせ致しました!! 本日の投稿になります!!




 女王様が住まわれる屋敷に足を踏み入れ、何処に連れて行かれると思いきや……。



『お食事をお持ちしますので、そこでお待ち下さい!!』



 と、ピナさんから命令口調を頂き。


 入り口から二歩程しか進んでいない位置で待ち惚けを食らい続けていた。




 彼女は此処から向かって右側へと、進みコの字に曲がる通路の先へと消し。それから凡その計算で十五分が経過。





 正直ただ待つのは、暇なのです。




 勿論?? 他人様の家ですので、勝手に探検してはいけないのも十二分に理解しているつもりなのですが……。




 踏み心地の良い木の床と、真正面に備えられている両開きの扉が俺の足を無意識の内に進ませ。


 これまた無意識の内に右手を動かしてしまった。



 ここは何の部屋なのかな……。



「――――。お待たせしましたっ!!」


「っ!? お、お帰りなさい……」



 あっぶねぇ!!


 もう少しで開ける所だった……。




「如何されました??」


 両手に木のお盆を持ち、パチパチと瞬きを繰り返す。


「い、いえ。お気になさらず」


「そうですか……。はいっ、それでは向かいましょうか!!」



 此方に続いて下さいと言わんばかりに入り口から向かって左側の階段へと進み。五月蠅い心臓を宥めつつその後を追った。



「随分と良い香りがしますね」



 ピナさんが持つ御盆から馨しい香りが放たれ、移動する風に乗って此方の鼻腔に届く。



「パンにスープに、先程の特製蜂蜜。それと……。鯵の揚げ物。ふふ、確かに良い香りですよね」


 えぇ、全くその通りです。


 中途半端な胃袋には大変堪える香りですよ……。


 きっと今頃……。俺の食事はふとった雀と怪力無双の胃袋の中だろうなぁ。



 くそぅ……。



 もっと沢山食べたかったのに。



「食事を渡し、それから……。どうすれば宜しいですかね??」


 里を代表する者と顔を合わせるのだ。


 粗相があっては不味い。


 頭の中で一通りの段取りを構築しておいて、損は無いでしょう。



 彼女に続き、緩やかな階段を昇りつつ問う。



「アレクシア様は会話に飢えていますからね。日常会話を交わせば宜しいかと」


 その日常会話の塩梅が気になるんですよっと。


 どこぞの太った雀宜しく、ギャアギャアと騒ぎ立てる訳にもいかないし……。


 二階へと上がり、勢いを保ったまま更に三階へと昇る。




 階段を昇り終え先ず視界が捉えたのは木の壁に備えられた蝋の明かり。そして蝋の照らされた廊下を少し進むと。



「此方がアレクシア様のお部屋になります」


 品格の備わる者が住むべき部屋の扉が俺を迎えてくれた。



 縦にすっと伸びた美しい木目が高価な木材を使用していると物言わずとも理解出来てしまう。


 女王様のお部屋ですからね。それに相応しい物を選択して然るべきだろう。



「アレクシア様。レイドさんをお連れ致しました」



 彼女が左手で盆を持ち、右手で軽くノックをすると。



「どうぞ。お入りください」



 清涼で澄んだ声が扉の隙間から漏れた。



「では、レイドさん。お食事を御出し下さい」


「え、えぇ」



 ふぅっと息を吐き。


 大変硬い緊張の塊を飲み込んで、彼女から御盆を受け取る。



「そんなに緊張する必要はありませんよ??」


「里を代表する御方との対面ですからね。粗相が無い様に務めるのが当然です」


「ふふ、安心して下さい。アレクシア様はレイドさんが考えている以上にお優しい方ですから」



 優しい云々では無く。


 自分の所作に自信が無いのですよ……。



 盆を両手に持ち、ピナさんが扉を開くとそれに促される様に女王様のお部屋に足を踏み入れた。






「態々御足労頂き、誠に有難う御座います」



 彼女が此方に向かい、上の立場に相応しいお辞儀を放つと。



 俺の時間がピタリと制止してしまった…………。




 薄いピンクの髪を後ろに纏め、白の長いスカートに彼女の髪に誂えた様な紅梅色の上着を上品に身に纏う。


 机の上に怪しく揺らめく燭台から放たれる橙の明かりに映るそれは正に……。


 見る者全てを魅了する女性の姿であった。




「レイドさん??」


 不思議そうな顔を浮かべて此方を見つめる。


「あ、も、申し訳ありません!! 此方こそ、この様な貴重な機会を与えて頂いて有難う御座います!!」



 慌てて頭を下げ、五月蠅い心臓を宥めてやる。



 びっくりしたぁ。


 先日お会いした時とはまるで別人だもの……。


 纏う空気が違うとでも言えばいいのか……。


 この姿がアレクシアさん本来の姿なのでしょう。



「それではお掛け下さい」



 此方から見て左手側には大きさよりも値段の方が気になるベッドが置かれ、その側にはこれまた立派な化粧台。


 アレクシアさんは俺の正面に置かれた丸型の机の前に腰かけ、此方を促していた。



「は、はい。失礼します」



 ガチガチに固まった足を動かし、やっとの思いで机の前に到着する。



「本日のお食事を御持ち致しました」



 机の上に滞りなく配膳を済ませ。


 直立不動の姿勢でそう話す。




 よし。


 完璧な所作だな。



「お掛けにならないのですか??」



「さ、流石に女王様の前で寛ぐ訳にはいきませんので」




 此処で堂々と腰掛けようものならマイ達から大目玉を食らうに違いない。




「御安心下さい、レイドさん。謁見ではありませんので寛いで下さい」


「で、では……」



 彼女の対面におずおずと腰掛け。


 拳をぎゅっと握り、膝の上に置く。



「ふふ。緊張なさっていますね??」


「存分に……」


 里を代表とする者との会話だ。


 これで緊張しない奴がいたら見てみたい。


 ――――。



 あ、一人いるな。



『このパンいっただきぃ!!』



 女王様の食事に堂々と手を差し出すアイツの姿がぱっと頭の中に浮かんでしまった。



「食事を始める前に……。礼を述べさせて頂けますか??」


 礼、ですか。


 彼女が背筋を天へと一直線に伸ばし、此方に向けて美しい角度で頭を垂れた。




「我々に対して注力を尽くして頂いた事に一族を代表として礼を述べさせて頂きます。此度は里を救って頂き……。誠に有難う御座いました」



「そ、そんな!! 面を上げて下さい!! わ、私は当然の行いをしたまでで……。しかも、私一人では到底成し遂げられない事態でした。礼を述べるのは私では無く、彼女達に……」


「ふふっ。伝え聞いた様に、真摯な御方なのですね」



 は、はぁ……。


 狼狽え、額から変な汗を流す此方を見て柔らかい笑みを漏らす。



「礼を伝える事は当然です。そこに身分の上下はありませんから」


「では、真摯に受け止めます。アレクシアさんの御言葉は彼女達にも伝えさせて頂きますね」


「有難う」



 アレクシアさんと目が合うと酷く温かい空気が周囲を包む。



 彼女の後ろで微風を受けてふわりと揺れるカーテン、闇夜に相応しい青い光を放つ月明かりが窓からそっと差し込む。


 そして、彼女の瞳の中で揺れる燭台の明かりが心臓に大変宜しく無い悪影響を与えた。




 落ち着けぇ。


 絶対、変な気を起こすなよ……。



「それより、御怪我の具合は如何ですか??」



 重力に引かれ落ちた前髪を右耳に掛けつつ仰る。



 出来ればその仕草は御遠慮願えますかね。


 物凄く色気を含んでいますので……。




「それは、はい。順調に回復していますよ。ですが……。右肩と首元の怪我の治りが遅くて苦労しています」




 右肩にはズンと重い鈍痛。


 そして首元にはピリっとした疼痛。


 まだまだ列挙する痛みと疲労感はありますけど……。この二つは飛び抜けて痛むのです。



 当たり障りのない笑みを浮かべつつ答えた。





「も、申し訳ありません……」




 ――――――。



 しまったぁあああ!!



「ち、違うんです!! こ、言葉の綾です!!」



 この怪我の原因を鑑みれば分かる事なのに!!


 シュンっと項垂れてしまったアレクシアさんに対し、慌ててふためき釈明を放った。




「か、構いません。悪いのは私なのですから……」


「と、兎に角!! い、今は食事を召し上がって下さい!! その揚げ物は私が作りましたので是非!! 御賞味下さい!!」



 一気に暗くなってしまった雰囲気を払拭する為、敢えて大袈裟に声を出してしまった。



 くそう。


 自分の面を殴ってやりたい気分だ!!



「これ、ですか??」



 彼女が視線を落として問う。



「本日、鯵を頂きましたので。少々変わった料理方法で仕上げてみました」


「実は変わった形の品だなと気になっていましたので楽しみです」



 銀のフォークを右手に持ち大変お行儀の良い所作で器用に切り分け、丸みを帯びた唇へと運ぶ。




 自分が丹精込めて作った料理なので感想が気になりますよね??


 じっと見つめるのは失礼ですけども……。ついつい鯵の揚げ物の行く末を見守ってしまった。



「あ、あの」


「はい??」


「余り見つめられると、その……。食べ難いと言いますか……」


「っ!! 失礼しましたぁ!!」



 此処に来て何度目の粗相だろうか。



 慌てて彼女から視線を外し、燭台の端っこへと視線を置いた。



「頂きます。――――――――。うんっ!! 美味しい!!」



 お上品な咀嚼を続け。



「衣の食感が歯を楽しませ程よい塩気が舌を喜ばせてくれます。しかも、魚の風味も損なう事も無い。ふぅ……。うん、素敵です」



 コクン、と飲み終えると大変嬉しい感想を頂けた。



 お上品に召し上がりますね??


 何処ぞの大飯食らいの龍とは大違いだよ。



「そうですか!! いや、良かったです!!」



 これで粗相が帳消しになれば御の字ですね。


 流石にそれは難しいかな。



「この料理は何処で習ったのですか??」


「本ですよ」



 休日の合間に足げに通った王立図書館での出来事を端的に説明する。



「忙しい合間に……。お料理が好きなのですね」


「好き、なのですかね。孤児院で培った技術を補完して今の仕事に生かせればと考えた結果ですね」


「え?? 孤児院、ですか??」



 そっか。


 アレクシアさんは知らなくて当然ですよね。



 食事の手を止めてしまった彼女に対し、俺のちっぽけな人生の歩みを伝える。



 その間。


 アレクシアさんは時に大きく頷き、そして時に少しだけ悲しい表情を浮かべていた。



「――――。そして、周囲の反対を押し切り孤児院を出た後。パルチザンの採用試験を受け、今日に至ります」



 訓練施設での成績は伏せました。


 それはどうしてか??


 情けない成績を知られたくないのです。



「孤児院の方々もレイドさんの身を案じたのですよね。その気持は大いに理解出来ます」


「私が抜けると人手が足りなくなる虞がありますからね。きっとその所為ですよ」



 食事を終え、食後の礼を放った彼女にそう話す。



「ううん、違いますよ。身を切るお仕事ですからね。真にレイドさんの身を案じての行為だと思います」



「そうだと良いのですがね。でも、軍に入って良かったと思っています」


「どうしてですか??」





「初の任務を受け、恐ろしい呼ばれる森へ入ると口喧しい龍に出会い。 森の優しい力持ちさんと協力してオークを撃退。海に出て賢い海竜さんに出会って……。素晴らしい人達を救う事が出来ました。 今日を取り巻く状況の中。魔物と人が手を取り合う事は難しいかも知れません。ですが、この里の皆さんと人達はそれを物ともせずに素晴らしい関係を構築しています。 私が今出来る事を続けていけば、この素晴らしい関係が世に広まるかも知れませんからね」




 うん、間違っていない。


 人と魔物は分かり合える。


 言葉の壁に阻まれようがこの里とルミナの街はそれを証明している。


 今は人達に話すべきでは無い関係だが、この大陸に真の平和が訪れたのなら伝えてもいいのかも知れない。



 勿論。


 その際には細心の注意を払いますがね。



「素晴らしい考えをお持ちですね。私もレイドさんの意見には賛成しています。周知の通り、我々とルミナの街には密接な関係があります。身振り手振りでの交易は大変な労力を費やしますが……。それでもこの関係は切っても切れない太い糸で結ばれています」



「身振り手振りは大変ですけど……。えぇ、絶やすべきでは無い関係ですよね」



「それで、その……。何んと言いますか……」



 そこまで話すと膝元に手を置き、頬をぽぅと染める。



「どうされました??」



 パンのお代わりかな??



「え、っと。実は、レイドさんに……」



 鯵、のお代わりかしら。


 生憎鯵は品切れですのでその提供は難しいかと。



「我々と、人とを繋ぐ。通訳のお仕事を依頼しても宜しいでしょうか??」



「通訳、ですか」



「は、はい。レイドさんの能力は大変稀有なものです。我々にもそして人間の街にも利益をもたらし、互いの街の発展に繋がると考えまして……。と、突然ですよね!!」



 正に、青天の霹靂ですね。



「い、今直ぐに答えなくても宜しいですから!!」


「りょ、了解しました……」



 激しく手を振る彼女に対し、保留の意味を籠めた相槌を放つ。



「ふ、ふぅ……。暑いですねぇ」



「も、もう直ぐ初夏ですからね!! いや、本当に」



 互いの瞳が燭台の上で交わさると。



「「ふふ……」」



 意図せぬ笑みが両者から零れ落ちた。


 それはこの温かい空気に誂えた様な笑みにも見えてしまったのだった。




   ◇




 窓から射し込む月明りの角度が大きく変わり、蝋の明かりも弱々しい物へと変化。


 室内が深夜に相応しい闇へと移り変わる。


 それでも私達は口を閉ざす事無く会話を交わし続けていた。



 本当、久しぶりですね。


 こんな心地良い会話は……。



 勿論??


 日常会話に飢えている訳では無く。彼自身の御話しに興味を大いに惹かれてしまっていると呼ぶべきなのです。



 緊張感が解けた彼が細やかな冗談を放てば、私の口角が上がり。


 私が里の者には言えないちょっとした愚痴を零すと彼が困った様なはにかんだ笑みを漏らす。




 彼の心が言葉に乗って私の心に届く。




 素敵な会話ですね。


 時間は目に見えませんが、もしも。触れられる物だとしたら止めてしまいたい。


 そしてこのまま。彼と共に永劫にも近い時間を過ごしたいとさえ感じてしまっていた。



「――――。もうこんな時間ですか」



 燭台の上に残った僅かな蝋を見つめて彼が話す。



「随分と長い間会話をしてしまいましたね。お疲れではありませんか??」



 体に痛々しい白い布を巻く彼が私の瞳を見つめて問う。



 何処まで、優しいのだろう。


 私はずっと床に伏せていたのに対し、彼は傷を負ったまま作業に没頭していたのに……。



「私は大丈夫ですよ。レイドさんの方がお疲れではありませんか??」



「頑丈なのが取り柄なのです」



 柔らかい笑みをふっと浮かべ紳士的な目を浮かべて私を見つめる。



 ずるいですよ。


 そんな目をしちゃ……。



「ふぅ――……。ですが、此処だけの話。少々疲れているのが本音ですね」



 あら??


 珍しい愚痴ですね。



「作業は勿論体力を消耗しますが……。何んと言いますか……。口喧しい者共と行動を続けていますので。どちらかと言えば其方の方が体力の配分に気を遣ってしまいますから」



 むっ。


 その台詞は駄目です。



「マイさん達、ですか??」



「えぇ、もう本当に大変なのですよ?? やれ飯を作れ、やれ疲れたから寝かせろ。彼女達の愚痴は枚挙に遑が無い程に多くて……」



 何かを誤魔化す様に後頭部をガシガシと掻く。



「それだけレイドさんの事を頼りにしているのですよ」



「頼り、ですか。ふふ、その通りだと嬉しいのですがね」



 机の上に手を組み、私の後方の窓へと視線を送る。




 その視線の意味は恐らく、外の風景を探した物だと思うのですが。


 卑しい私の心は件の女性達を追う姿の様にも見えてしまった。




 駄目ですよ?? 私。


 彼は……。このまま西へと向かうべきなのですから。


 ここで引き留めては駄目なのです。




「さて!! そろそろお暇させて頂きます。余り長い時間此処に居座るとアレクシアさんの御体に御障りますので」



 このままずっと話していたい。


 もっとレイドさんの事を知りたい。



 でも、私の口は心とは真逆の言葉を伝えてしまった。



「本日は誠に有難う御座いました。レイドさんも御体を御自愛くださいませ」


「勿論です。それでは」



 静かに椅子を引き、礼儀正しいお辞儀を放つと。




 此処に留まる事に後悔する姿を一切見せず、扉を開けて出て行ってしまった。




「はぁぁ。行っちゃった」



 何で引き留めなかったんだろう。



 優しい彼ならきっと私の我儘を叶えてくれたのに……。彼に甘えている自分の姿を見つけてしまうと心がキュっと痛んでしまった。




 自分の立場を利用するのは駄目ですよね。




 いつか。


 彼が私を必要としたのなら背に翼を生やし、瞬き一つの間に彼の下へと駆けつけよう。


 そして、彼の願いを叶えてあげたい。



 彼の願い?? ううん。私の願いなのかな。




「アレクシア、入りますね」


「あ、うん……」



 ピナが此方の了承を得ずに扉を開き、大股で私の下へと歩んで来る。


 そして。



「こ、この!! 意気地無し!!」


「ぴぃっ!?」



 何の遠慮も無しに頭の頂点へと手刀を叩き込んで来た!!



「な、何するのよ!!!!」



 いったぁ……。


 目からお星様が飛び出てしまったじゃないですか!!



「何であのまま帰したのよ!!」


「だ、だって。夜も遅いし……」



「言い訳無用!!」



 私の後方へと移動し、此方の首に己が腕を絡めて来た。




「どうして帰しちゃったのよ。アレクシアがお願いしたらレイドさんならきっと聞いてくれたでしょ??」



「う、うん。多分……」



 耳元で囁く彼女へと話す。



「この機会を逃しちゃったら、レイドさん達は西へ行っちゃうよ??」



「分かっています。でも、私には彼を止める権利は無いですから」



 我儘な女だと思われるのが嫌、なのかな。


 自分でも良く分かりませんよ。



「弱虫ぃ!!!! 彼の手を取って、強引にベッドに運べば良かったのよ!! 折角、勝負下着履いているのに!!」



 細い腕を背後から伸ばし、私のとっておきをガバっと開いて新鮮な空気の下へと晒す。



「きゃあっ!? な、何するのよ!!」


「ほぉら、綺麗な緑。これ、お気に入りだものね――」


「そ、そういうあなただって!!」



 椅子から立ち上がり、お返しと言わんばかりに彼女のシャツを下から捲し上げてやった。




 わ、わぁ……。


 本当にとっておきだった……。


 冗談で言ったのに。



「ちょ、ちょっと。ピナ?? 何で、この下着を履いているの??」


「え?? あ、いやぁ……。もしかしたら、もしかすると知れませんし……」



 シャツを元の位置へと戻し。


 赤くぽっと染まった頬でそう話す。



「駄目って言ったでしょ!?」



 これだけは譲れません!!



「優秀な雄を得る為には上下関係は関係ありませんからねぇ」



「そ、そんな顔しちゃ駄目です!! レイドさんは優しい御方ですから、そ、そうやって色仕掛けにもコロっといっちゃうかも知れませんから!!」



「え?? 仕掛けても良いの??」


「だからぁ!! 駄目ですって言っているでしょ!?」



「怪しい月明かりが私を悪い子にしちゃうかもよぉ??」


「駄目――!!」





 女達の喧噪に呆れた顔を浮かべる白き月。


 彼女が怪しく光り、白い明かりが大地を照らす。そして、その大地の上を歩き続けていた彼が柔和な笑みを浮かべ建物を見上げた。




「「!!!!」」




 そこから零れ落ちるうら若き乙女達の明るい声に彼はふっと笑みを漏らし。


 大変仲が宜しいのですね、と。


 夜虫の歌声にも勝るとも劣らない声量で呟き、家路へと急いで行ったのだった。


お疲れ様でした!!

夜も遅い時間帯の投稿になってしまい、申し訳ありません。





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