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第百四十八話 黒き憎悪の片鱗 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。


それでは、どうぞ。




 しっかし……。



 暑いわねぇ。


 夕方だってのにまだまだ元気一杯な太陽が悪戯に私の体力を奪い、流れ落ちる汗が苛立ちを増長させた。


 私を苛立たせる要因はそれだけじゃない。

 


 中々完成しない術式と、訓練場の中央に座り昼前からずっと動かない二人だ。


 昼食の時間になってもぴくりとも動かないので私達は二人を置いて食事を済ませた。


 沢山お代わりしたし、おかずも沢山食べて少しは気が晴れたのだが……。


 それから帰って来てもず――っと。



 ず――――っと!!



 背中合わせに仲良く座っている姿が私の心を憤怒、義憤、激憤の迷宮へと誘っていた。



「夕方になっても、まだちょっと暑いよなぁ」


 ユウが誰とも無しに声を上げる。


「……。そうね」


 出来るだけこの怒りを悟られない様に落ち着き払った口調で答えた。


「んん?? どうしたのかなぁ?? マイちゅわん機嫌悪いの――??」



 それをこいつと来たら。


 妙に察しが良い事!! 全く!! 腹が立つわね!!



「べっつにぃ?? 普通ぅ――」


 ユウと視線を合わさずに、術式と睨めっこを続けてやった。


「安心しろって。あたしもあの二人を見て多少なりに憤りを感じているからさ」


 私の肩を軽くポンっと叩きながらそう話す。


「そんなんじゃないわよ……」



「全くですわ。私のレイド様とあのように……。仲睦まじい姿をこれ見よがしに見せつけるとは……」



 おっぇっ。


 珍しく蜘蛛と意見が合ってしまった。


 明日は雨、ううん。槍と剣、そしてこの星を穿つ大きさの矢が降って来るわね。



「いいなぁ。エルザードさん。私もレイドとくっつきたい」


「ルー。喋る前に手を動かせ。全く進んでいないぞ」


「リューだって私と大して変わらないじゃん!!」



 魔力の消費、秋の山中に不釣り合いな暑さ、完成しない術式。


 苛立ちが私達を包み不協和音が発生していた。



「皆さん、集中して下さい。間もなく本日の訓練は終了します」



 カエデの鶏の一声が私達を取り巻く苛立つ空気を緩和させる。


 鶴とか鶏とか孔雀とか……。この際、鳥類だったら何でも良いわよ。


 鶴よりも鶏の方が唐揚げに適しているし。多分、地位的に上でしょうからね。



 あ、いや。鶏の場合コッココッコ鳴いてうるせえからやっぱり鶴の方が適任なのだろうか??


 世の中は大変広い為、鶴の魔物が居たのなら是非とも真の鶴の一声を聞かせて貰いたいものだわ。



「それまでに一区切り出来る様、少しでも多くの術式を構築しましょう」



 むぅ……。


 相変わらず、こういう時は頼りになるわね。


 私なら怒鳴って抑え付けている所だわ。


 言う事を聞かない奴には容赦無く鉄拳制裁。


 うむっ、この手に限る。



「ふああぁぁ……。もう直ぐ一日が終わると思うと、なぁ――んか気が抜けるよなぁ」



 ユウが大きな欠伸を放ち、訓練場の上に仰向けとなり秋の夕空を見上げた。



「そうねぇ。でも、私にしては大分進んだし。収穫ありって所……。ン゛ッ!?」



 言葉の放っている途中。中央でいちゃつく二人から力の波動を感じた。



「カエデ、感じた??」



 横を振り向き、私と同じ面持ちを浮かべている彼女へ尋ねる。



「……えぇ。間もなく、帰って来るようですね」


「レイド帰って来るの?? じゃあ見てこよっと!!」



 ルーが術式を仕舞い訓練場の方へ呑気に歩み始めた。



「あたしも一区切りついたし。様子見てこよっかな――」


「あら、偶然ですわね。私も今日の分は終わった所ですわ」



 各々が勝手に理由を付けて訓練を切り上げる。


 私も一段落付いたし?? 別に様子が気になる訳じゃないけど?? 折角だからボケナスが得た収穫物を確認しに行こうかしらね――。



「どうせなら皆さんでお迎えしましょうか」



 その様子を見かねたカエデが立ち上がると、全員で二人の下へ向かった。


 さぁて。


 ちゃんと結果は残して来たんでしょね??


 エルザードも一緒だし、万が一は無いとは思うが……。



 二人の力が徐々に強まり、もう間も無く通常の圧に戻ろうとしたその刹那。



「――――。馬鹿っ!!!! 何で私を守ったのよ!!」



 淫らな姉ちゃんがすっげぇ辛い物を食べた時みたいにカッと目を見開くと何を思ったか、血相を変えてボケナスの服を捲るではありませんか。



 お――い、おいおい。


 明るい内からアレをおっぱじめるつもりかい??


 私達が温かく見守る中、良い根性してんじゃん!!


 だっせぇ訓練着の裾を捲り、さぁ一発ド派手にブチかましてやろうかと考えていたが……。



「レイド!! 大丈夫!? 早く起きなさい!!!!」



 淫らな姉ちゃんが焦る理由が分かった。



「うおっ!! 何だこの火傷!!!!」


「レイド様!!!!」



 ユウがボケナスに近付くと目を丸くして、蜘蛛がひゅっと息を飲んで両手で口元を抑えた。


 そりゃそうだろう。


 ボケナスの背中の皮膚は黒く焦げ付き焼け爛れ、一部の皮膚が剥がれ落ち、体内からドクドクと真っ赤な血が滲み出ていたのだから。



 おっわぁ……。


 すっげぇ火傷……。


 何をしたら、いや。何を食らったらこんな状態になるのよ。



「先生!! 治癒魔法を!!」


「分かっているわ!!」



 カエデとエルザードがボケナスを俯せにすると瞬き一つの間に治療を開始した。



「ちょっと!! 何があったか説明しなさいよ!!」


「龍の力を受けたのはいいんだけど。思わぬ反撃を受けてね……」



 思わぬ反撃って。


 あんたはそれから守る為にボケナスと一緒に居たんだろうが。



「それで……。こうなったのか。自分の力で大怪我を負うなんて。龍の力ってのはよっぽどやっかいなんだな」


「――――っ」



 ユウの声で現実に帰って来た事に気付いたのか、ボケナスが徐々に目を開くとほぼ同時。



「あれ……。皆……?? いっでぇぇええええ――――!!!!」



 意識が明瞭になると共に痛みを感じたのか、クシャクシャに顔を歪めて叫び出してしまった。


 このひでぇ怪我だ。叫ばない方が珍しいか。



「動かないで!! 今治療中だから!!」


「もう直ぐ終わる。だから辛抱して……」



「た、助かるよ……」



 息も絶え絶えに話し、痛みから逃れる為に両の手で力強く大地を掴んで硬い砂を激しく握り込み。そして、無意味に足をばたつかせていた。



「レイド様!! 御安心下さい!! 私が……。はぇ!?」



 蜘蛛がコイツの右手を手に取ると目が点になってしまう。


 それもその筈。以前よりも凶暴さを増した龍の手が出現したのだから。



「な、何だこれ!?」



 本人も自分の右腕の変わりように驚いていた。


 そりゃそうでしょう。


 岩も砕く鋭く尖った爪が指先に生え揃い、以前はどちらかと言えば滑らかだった龍の外皮も今は角ばった甲殻へと変化。


 そして、太さは以前と比べ一回り成長していた。



 ほぅ??


 同じ龍族の私から見てもあの腕は中々立派なもんだ。


 例えるのならぁ……。


 あの無人島でこの私が!! 釣った石鯛級とでも言いましょうかね。



「ふふ、成功したわね。それが龍の力の片鱗よ??」


「お、おい。まさかとは思うけど……。ずっとこの手じゃないよな??」


「安心なさい。力を制御すれば元の腕に戻るわよ」


「そ、そうか……。はぁ、良かった」



 安堵の息を漏らし、驚きの余り浮かしていた体を再び地面に接着させ大人しく治療を受けた。



「これがレイドの新しい龍の腕かぁ……」


「艶のある珍しい黒色をしているな」



 狼二頭も物珍し気に、触ったり、抓ったりしている。



「…………、ふぅ。応急処置は終わったわ。レイド、立てそう??」


 エルザードが額の汗を拭う。


「ありがとう。ん……よっと」



 両の手を地面に付け、上体を起こす。


 良かった。


 何事も無い様だ。



 ――――。


 いやいや!! あれだけひっでぇ怪我だったのにもう立てるの??


 エルザードとカエデの治癒魔法の効果もあるだろうけど、頑丈過ぎるでしょ。いつもボッコボコにされている印象が強過ぎる為見過ごしがちだけど、この回復力も新しい力の所為なのかしらね……。


 取り敢えず、後で殴って確かめてみるか??


 殴られた箇所の腫れの引き具合で分かるでしょう。この私が確認の為に隙あらば一発、派手に捻じ込んであげよう。



「うん!! 大丈夫。二人共、ありがとうな」


「いえ。当然の事をしたまでですから」


「この貸しは高く付くわよぉ?? それより、どう?? 力を制御出来そう??」


「ん――。やってみるよ。集中して抑えつける感じでいいんだよな??」



 そっと立ち上がり、大きく息を吸い長く吐く、


 目を瞑り意識を右腕に集中させると。



「すぅ――……。ふぅ……」



 右腕の甲殻は徐々に人の腕へと成り代わり、そしていつも美味しい御飯を生み出してくれる人間の右腕へと変わった。


 おぉ……。力の制御が上手く出来ているじゃん。


 コイツにしては上出来ね。



「どう……。だ??」


「はい、良く出来ました。合格点をあげるわ」


「そりゃどうも。ふぅ……!! つっかれたぁ……」



 大袈裟に息を漏らして地面へと座り。



「それにしても……。腹減ったなぁ」



 私と同じ考えを述べて空を仰ぎ見た。



「あれ!? もう夕方じゃないか!!」



 時間の経過に気付かなかったのだろうか??


 黒き瞳を丸くして赤く染まった空をポカァんと口を開いて見つめていた。



「お昼前からずっと、動かなかったんだよ?? 心配したんだから」


 狼の姿のルーが大人しくお座りして話す。


「そんな長い時間動かなかったの??」


「心の中の時間と、現実の時間は早さの感覚が違うわ。良い経験したじゃない」



 エルザードが言う。



「それもそうだな。今日の訓練はこれでお終い??」


「えぇ。後は食事と、あんた達がさぼっていなかったか。食事の後に成果を確認したら本日の訓練は終了よ」



「「「え――っ!!!!」」」



 あ、後は御飯を食べて本日の訓練はお終いかと思っていたのに!!




「文句言わないの。ほら、先ずは食事よ。私も腹ペコなんだから」



 エルザードが平屋へ向かって歩み出すと。



「さ、俺達も行こうか??」



 それに続けと言わんばかりにボケナスが臀部に付着した砂を払いながら立ち上がると私達へ促した。



「勿論。食って失った力を回復させなきゃね!!!!」



 何か……。うん。


 取り敢えず無事で良かったわ。


 ボケナスは気付いていないのだろうけども、新しく変化した腕から放たれる圧は以前のそれとは比べ物にならない程強力であった。


 つまり、コイツは自分の心の中に潜む龍から力を上手く引き出した訳だ。 


 親鳥が雛鳥の初飛行をハラハラドキドキしながら眺める気持ちが今初めて理解出来た気がするわねぇ……。



 まっ!!


 後は強過ぎる力に振り回されない様、世界最強の私が監視を続けてやりますか。




「お前は食べ過ぎなんだよ」



 私の心がホッとする笑みを浮かべて揶揄う。



「五月蠅い」



 そして私はいつも通りの笑みを浮かべて言い返してやった。



 本当、雑魚のくせに良くやったわね。


 これは……。


 私のおかずを一つ、褒美としてくれてやろう。


 うん、偶には……。優しくしてあげなきゃ可哀想、だよね??


 妙に大きく見えてしまうボケナスの背中を見ながら、大変優しい私は丸い心でそう考えていた。




最後まで御覧頂き有難う御座いました。


そして、ブックマークをして頂き誠に有難う御座います!!!!


特訓編完結へ向けての嬉しい励みになりました!!


本日も大変寒い夜ですので温かくしてぐっすりと休んで下さいね。


それでは皆様、おやすみなさいませ。

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