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第百四十七話 淫魔の女王様からの御指導 その二

お疲れ様です。


本日の投稿になります。


それでは、どうぞ。




 夏の夜の闇に漂う蛍の光よりも更に一段階小さな光を放つ彼女達の様子を見守り続けていると、エルザードが翳していた手を徐に下げて口を開く。



「はぁい、お待たせっ。測定完了よ」



 浮かべていた魔法陣が消失すると同時に彼女達を包んでいた発光が止み、それに合わせてマイ達が静かに目を開けた。



「何だか……。体内を覗かれている様な気分でしたわ」


「同じく」



 アオイとカエデが難色を示す一方で。



「私は何も感じなかったわよ??」

「あたしもだ」



 瞬きを繰り返しあっけらかんとしている者も居た。



 この違いは一体??



「今、違和感を覚えた子は魔法に長けている証拠よ?? 他人の魔力を敏感に感じ取り、それが内側に入って来ると……。体外へ追い出そうと己の魔力を自然に高めてしまうの。感じた違和感の正体がそれなのよ」



 成程、だからあの二人は険しい表情を浮かべていたのか。



「ふぅん。じゃあ、私はこれからずっと魔法を上手く使えないんだ……」



 ルーが唇を尖らせ、随分と後ろ向きな発言をする。



「そうは言って無いわ。魔法の扱いは誰しもが最初は苦労をして通る道なの。練習を積み、魔力を高め、詠唱を重ねれば自ずと扱いも楽になって来るのよ?? だから、安心なさい」



 俯きがちに座っているルーの頭の上にそっと手を置いて話す。



「えへへ、そっかぁ。じゃあ頑張ってみようかな!!」


「ふふっ、その調子よ」



 何んと言いますか……。


 普段はお茶らけて、淫らで、捉えどころのない飄々とした感じの淫魔の女王様ですが。ルーを見つめる目は全てを大らかに受けて止めて肯定する、そんな優しい瞳の色にも映る。


 淫魔の女王様は自分本位であろうと勝手に決めつけていたが正反対の姿に少しばかり驚いてしまった。



 人は見た目で判断するな。


 その最たる例が今の彼女の姿なのだろう。



「こほんっ、魔法が苦手な子もいる事だし。基本からおさらいをしていきましょうかね」



 俺を加えた横一列の前で一つ咳払いをして話を始めた。




「この世には六つの属性があるわ。火、水、土、風、光、闇。各属性にはそれぞれ上位の存在があるの。火は炎、水は濁流、風は嵐、土は岩。淡い蝋燭の光と灼熱の太陽が放つ閃光、逢魔が時の仄暗い闇と自分の手元も見えない漆黒の闇、といった感じで自然界でも目にする様に比較できるのが良い例ね」



 俺はエルザードが話す内容を噛み砕き、理解を進めながら聞いていた。


 いつぞやの時、アオイが話してくれた内容と酷似していたがそれでも魔法という存在に疎い俺にとってはありがたい話ですからね。



「何よ、基本中の基本じゃない。そんな事とっくの昔に習ったわよ」



 マイが呆れ気味に話す。



「お馬鹿さんねぇ」


「ば、馬鹿!?」



「基礎がしっかりしてこそ、魔法は映えるもの。基本が出来ていない者の放つ魔法は脆弱で見るに堪えないわよ??」



 その言葉を受けて、マイから聞いた魔法を放つオークの姿が思い浮かんだ。


 単純な魔力の差もあるだろうが。同じ魔法を放つ際高度な理解と解釈を重ねた魔法の方が、威力もそして純度も高いのであろう。



 アオイの得意とする火球の……。紅蓮牡丹か。


 アレの威力と覚えたての魔法とでは雲泥の差だからな。



「マイ、静かに」


 尖った眉のカエデがマイへ釘を差す。


「はいはい。黙って聞いていますよっと」



「それで、今あんた達の得意な属性を調べたんだけど。マイは火と風が突出していて他は並以下。ユウは土が強くて他はからっきし。アオイは満遍なく強いけど、突出して強い属性は見られないわね……」



「ぷくく……。いよっ!! 出ましたぁ――。器用貧乏ぅっ!!」



 マイがニヤケる口元を手で抑え、きゅうっとひん曲がった目元でアオイを見る。



「誰が器用貧乏ですって!?」



「そこ、静かに。満遍なく強いって事はどんな魔法にも対応出来るって事よ?? どの魔物にも属性に関して得手不得手はあるのだけど……。ここまで均一なのは逆に珍しいわ。これはもう一種の才能、十分誇って良い事なの」



 すかさず、エルザードが喧嘩の仲裁に入ると。



「ふふ……。馬鹿の一つ覚えはお呼びでは無い。ですって??」


「あぁ!? 誰が馬鹿だごらぁぁああ!!!! テメェの白い髪を深紅で染めてやろうかぁ!?」



 仲裁の筈が、燃え盛る戦いへ更なる火種を投下してしまう結果となってしまった。




「はぁ。あんた達は静かに聞く事が出来ないの??」



 数人を挟んで視線をぶつけ合う両名に対して静かな溜息を漏らす。



「続けるわね。カエデは水が異常に強いわ、それも私と肩を並べる位に。他の属性も強くて正直弱点を見つけるのが難しいわねぇ……」



 ほぉ。


 流石はカエデの一言に尽きる。


 魔法に関して俺達の中で頭一つ、いや三つ四つ飛び抜けている事は周知の事実。大魔のお墨付きを貰ったにも関わらず。



「有難うございますっ」



 然程表情を変えずに口を開いた。


 ――――。


 あ、いや。ちょっとだけ口角が上がっているかも??



「ルーは光と風が強くて、リューヴは闇と風。貴女達って同じ体なのに得意な属性は正反対なのね」



「私は光かぁ」


「闇、か。自分に似合った属性を伸ばしていけばいいのか??」


「リューヴが話した通り今回の訓練で各々の得意属性を伸ばし。そして、今日を含めて残り六日で新しい魔法の取得を目指して貰うわよ」



「新しい魔法ねぇ……。それはどんな形でもいいの??」


 マイが少々気乗りしない語気で話す。


「物理中心の付与魔法でも良し、魔力中心の放出系の魔法でもいいわよ。考え、理解し、構築する。体を鍛える以上に困難な事は覚悟しておくように」



「「「はぁ――い――」」」



 間延びした声が上がる。



「はぁ。クソ狐が伸ばすなって言った訳が分かったわ……」



 これで何度目か分からない溜息を吐き。



「話はここまで。さっき言ったように新しい魔法の構築に取り掛かりなさい。分からない事があれば私に聞く様に」



 小さくポンっと柏手を打って訓練開始を告げた。



「新しい魔法かぁ……。魔力使うの疲れるのよねぇ」



 ぶつくさと文句を言いながらマイがその場に座る。


 そして、手を翳すと何も描かれていない白い魔法陣が浮かんだ。



「そこに術式を書き込んでいくんだよな??」



「そうそう。はぁ……仕方ない。ぼやいていても魔法が出来る訳じゃないし、やるとしますかね……」



 右手の人差し指に淡い光が灯る。


 そして、その指で魔法陣の中に文字を書き込んで行く。


 確か……。対消滅だっけ??


 途中で間違えたら魔法陣が消し飛ぶんだったよな??


 術式の構築の始めは良いとして、終盤で間違えたら目も当てられ無いだろう。



「ちゃんと考えて作りなさいよ?? ほら、レイドはこっちに来なさい」



 訓練場の中央でこちらに向かって手招きをしている。


 それを受けて彼女へ向かって歩み始めた。



「何をすればいいんだ??」


「レイドには、龍の力を一段階引き上げる訓練をしてもらうわ」



「龍の力を?? どうやって」



 巨大な岩を括り付けて水深の深い川を泳げ。


 鉄をも溶かす溶岩の上を裸足で歩け。


 等々、恐ろしい訓練の数々が頭の中に浮かんでは消失。どの訓練の先に待ち構えているのは惨たらしい姿に変わり果ててしまった自分の姿であった。


 お願いしますから死なない程度の訓練でありますように……。



「龍の力は生命力のみならず、腕力、脚力、果ては形態変化。あなたの奥底に眠る力を呼び起こせば様々な力を扱えるようになるのよ」



 怪我の治りも早いし、それに足の速さも膂力も人の時とは桁違いに強くなっているからそれは理解出来るが問題は。



「どうしてエルザードがそれを知っているんだ??」



 龍族では無い淫魔である彼女が知っている事だよね。



「私の知り合いにね、情報通がいるのよ。その人を尋ねてちょちょいと聞いて来た訳」


「何か悪いね。態々尋ねに行って貰って」


「本当よ。この労力のお返しはぁ……。体で払って貰おうかしらぁ??」



 此方の右腕を掴み己の双丘の合間にすっぽりと収めると。背筋が泡立つ瞳で此方を見上げる。



「そ、それはいつか物品でお返し致します」



 柔肉を刺激しない様に谷間からスポっと腕を引き抜き、真面目な態度で頭を垂れた。



「もう……。つれないわね。じゃあその場に座って??」



 彼女の言葉を受け、その場に胡坐をかいて座る。



「それで?? お次は何を??」



 俺の真正面にちょこんと腰を下ろしたエルザードへと問う。


 そして、彼女は何を考えたのか知らんが。



「んふふっ。さ、ぎゅってして??」



 貴方は今から此処へ飛び込むのよ?? と言わんばかりに満面の笑みを浮かべて両手をふわぁっと左右に広げてしまった。



 これが真夜中且物凄く良い雰囲気の中で見たのならアイツがびっくりする位の勢いで腹筋運動をしてしまうのですが、生憎今は大変真面目な時間帯ですのでね。



「あのね。真面目な訓練の最中なのですから、真面目な態度を取って下さいよ」



 我儘な性欲の額をピシャリと叩き、倫理観を補佐してあげた。



「あら?? 私は超大真面目よ。今からレイドと私に掛ける魔法は精神干渉サイコダイブといって、互いの魂と魂を共有させる事が出来るの。互いの信頼、そして肉体的接触が強ければ強い程より強烈に魂同士を干渉させる事が出来るんだからっ」



 食事中の烏の嘴みたいに唇を尖らせてそう話す。



「えっと……。じゃあ心?? 魂?? を繋げて何をするのかな」


「貴方と一緒に魂の奥底に居る龍の力を見付けに行くのよ」



 自分自身の魂の中でエルザードと龍の力を探しに行く冒険を繰り広げるという解釈で構わないのだろうか……。


 自分の中で冒険するってのも可笑しな話ですがね。



「百聞は一見に如かず。説明するより見た方が早いのよ」



 そう話すと柔らかそうなお尻を地面から外し、俺の背後に座ると女性らしい硬さと幅の背を此方に預けた。


 そして、恐らく精神干渉の魔法の為にだと思うのですが。地面に置いてある俺の手に己の手を上から乗せ、此方の左右の指に彼女の細い十の指を甘く絡ませた。



「これなら大丈夫でしょ??」



 風に乗って届く良い匂いが余計ですけどね。



「あ、あぁ。何んとか」


「緊張感を解き、自然体で力を抜きなさい。私に全てを預けるの……。悪くはしないわよ……」



 その声色を止めなさいよ。


 甘ったるい声に背筋が泡立ってしまうじゃないですか。



「違う意味で危険そうだけど。ふぅ……」



 目を瞑り、大きく息を吐いて体中の筋力を弛緩させた。


 呼吸は浅く、そして時折深く。


 眠る前の呼吸を思い出しながら心を落ち着かせる。



 うん。この精神状態なら今直ぐにでも昼寝が出来そうですね。



「よし、準備出来た。レイド、行くわよ??」


「へ??」



 彼女が言葉を放った瞬間、視界が白い靄に覆われ体の力が抜けていく。


 この感覚、やっぱり慣れないよなぁ。


 あの天使擬きのセラから離れる時の感覚と酷似している。


 この感覚を感じる時は、大体ろくでもない経験をしている所為か。嫌な予感しか頭に浮かばなかった。


 頼むから変な事は起こらないでくれよ??


 意識を失うその時までこの何とも言えない気持ちは消える事は無かった。










 ――――。



 え――っと。


 ここに炎の術式を書いて……。んでお次はこれに合わせる対象を……。



 ピッカピカに晴れ渡る空の下に不釣り合いな唸り声を上げ、天才的頭脳を駆使して魔法陣の中に術式を描いて行く。


 慣れない術式構築作業の所為か、肩は凝るわ、お尻は痛いわ、頭痛はするわ、腹は減るわで文字通り四苦八苦していた。


 苦手なのよねぇ、術式の構築って。


 カエデは好きみたいだけど、私にとってこれは苦痛以外の何物でもない。


 まだ体を動かし、鍛えていた方がましだ。



「よう。マイはどんな魔法作っているんだ??」



 隣で作業の手を一旦止めたユウが興味津々といった感じで私の術式を覗き込む。



「ん――?? 火の槍を継承召喚と合わせようと思っていてさ」


「それってあの爆発する奴??」


「違う違う。あれは威力を高めた炎の槍を合わせた奴で、着弾と同時に爆散するようにしてあるの。で、今作っているのが炎の威力を抑え、火を纏った槍を作ろうとしてんのよ」



 ここは……。


 こうかしらね??



「ほ――。威力の違う槍か。面白そうじゃん」


「でしょ?? 継続時間も長く出来るし、それに相手に物理攻撃のみじゃなくて火属性の攻撃を与えられる。正に一石二鳥の代物よ??」


「成程ねぇ……。あたしもそんな感じにしようかな」


「ユウはどんな魔法を考えているのよ」



 気になったので何とも無しに聞いてみる。



「先ず、土中の鉄分を土属性の魔法で搔き集める」



 腕を組み、目を閉じ、思考を繰り広げている素振を見せた。


 物理中心の彼女がこの姿勢を取ると異様に笑えて来るのは私だけでしょうかね??



「ほうほう」


「んでっ。集めた鉄を一塊にする」


「――――。ふぅむ??」



 この時点で何か違う気がするわね。



「これでもかと集めた超巨大な鉄を……」


「鉄を??」



 多分……。



「持ち上げて、敵にぶん投げる!!」


「まぁ、多分そうだとは思ったけどさ」



 予想通りの答えに作業で募った苛立ちも幾分か楽になった。



 凝り固まった疲れが彼女の陽気で溶け出す。ユウの明るさは本当に気持ちが良い位に清々しいのよねぇ。



「んだよ。折角いい考えだと思ったのに……」



 不貞腐れるようにむちゅっと唇を突き出す。



「はいはい。サボっていないであんたも早く作りなさいよ」


「う――い……。所で、レイド達座ったまま動かなくなったけど。大丈夫なのか??」



 ユウが訓練場の中央に座っている二人へ視線を移す。


 背中合わせで座り、目を閉じてからというものの微動だにしない。



「さぁ?? カエデ――。あの二人大丈夫なの??」



 少し離れているカエデに聞いてやる。



「…………」



 私の言葉を受けると馬鹿みたいにドデケェ術式に向かって伸ばす手を下げ、集中力を高めてボケナス達を見つめた。



「大丈夫です。今は先生がレイドの心の中に潜っています」


「そんな事出来るの??」



「淫魔特有の魔法ですね。夢、精神、心。人と魔物が持つ心の内側に侵入するのが得意ですから」



 その言葉を受け、なんちゃらベースで兵士達の生気を奪っていた姿を思い出す。


 あの時、拠点内にいた兄ちゃん姉ちゃん達は恍惚の表情を浮かべて夢を見ていたし。淫魔という種族はそういう事が得意なのだろう。



「ふぅん。アイツの中に入って何してんのかしら??」


「さぁ?? 大方、厭らしい事でもしてんじゃないの――??」



 ユウがちょっとだけ怒気を含めた口調で話すと、蛸さんも思わずお手本にしたくなる程に唇を尖らせて作業を再開させた。



 本当に大丈夫かしらね?? もしもぉ、発情期の犬みてぇに淫魔の女王に襲い掛かったら死ぬ気で蹴飛ばして山の麓へ送り込んでやろう。


 んで、命辛々此処に登って来たら血反吐を吐くまでボッコボコのギッタンギタンにしてやっから。



 まぁ、でも……。エルザードが付いているのならアッチ方面は兎も角。訓練自体は大丈夫でしょう。


 今はアイツの事より、自分の事に集中しよう。



 見てなさいよ??


 あんたがあっと驚く魔法を作ってやるんだから。


 中央の二人から自分の魔法陣に目を移して苦くて辛い作業を再開した。





最後まで御覧頂き有難う御座いました。


そして、ブックマークをして頂き誠に有難うございます!!


第二章完結へ向けて嬉しい励みになりました!!


それでは皆様、お休みなさいませ。

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