表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
275/1237

第百三十三話 不意に訪れた接触

お疲れ様です。


本日の投稿なります。


それでは御覧下さい。




 初秋らしく良く晴れ渡った空に浮かぶ燦々と輝く太陽が私の心を明るく照らし、彼から送られた光量を力に変えて蠢く人々の合間を縫って進む。


 スンスンっと鼻を動かせば脳汁をドバドバと分泌させる香りを掴み取り、随分とご機嫌になって一休みを続けるお腹ちゃんの肩をゆっさゆさと揺らして半ば強制的に起こしてしまった。



 っと。


 えへへ、お腹鳴っちゃった。



『お、おいおい。まだ食う気かよ……』



 右隣りで双子の大魔王様をバインバインと揺らして歩く我が親友が呆れた顔で念話を送る。



『あ、いや。一応は満足したのよ?? でもぉ……。なぁぁんか足りないのよねぇ』



 炭火で焼かれたお肉、見事な三角形のおにぎり、そしてぷっくりと膨らんだお肉入りのパンちゃん。


 そのどれもが私の舌を満足させてくれたのだが。私の五感……。いや、第六感は正体不明の何かを捉えているのか。


 まだ此処から去るなと告げていた。



『嘘でしょ?? あれだけ食べてもまだお腹一杯じゃないの??』



 左隣。


 額にちょいと汗を浮かべて歩いているお惚け狼が私の可愛いお腹へ視線を落として話す。



『はぁ?? ボケナスから貰った所持金で私がお腹一杯になる訳無いじゃん』



 今回頂いたお金はえっと……。


 あ――……。五万ゴールド?? だっけ。


 差し出された現金は適当に荷物の中へブッ込んでいるから一々数えた事無いのよねぇ。


 その額では心許なく、最低でもこの倍の額は頂けたいものさ。だが、奴は末端の兵士。


 少ない給料から捻出してくれた額で満足すべきなのでしょう。それ位の分別は付きますよっと。



『だろうぁ――。んぉっ!! よぉ!! マイ!! あの御饅頭美味そうじゃね??』



 ユウさんやい。


 自分の好みの食べ物を見つけ、程よく日焼けした肌に大変良く似合う快活な笑みを浮かべるのは私としても嬉しいのよ??


 只。


 あんたの馬鹿力は無意識の内にやった何気無い行動にも反映されているので、頼むからもう少し優しく肩を掴んでおくれ。



 肩の筋肉と中の骨が大変迷惑そうな顔を浮かべているのですよ。



『ユウ。肩が吹き飛びそうだから手を放しなさい』


『おぉ、悪い悪い』


『あの饅頭屋は違うわね。もっとガツンと来る物がこの何処かに存在しているのよ……』



 内円と外円沿いに併設された屋台群に鋭い視線を向け。


 肩をプルプルと震わせて猛獣から逃れようと画策している草食動物の索敵を開始した。



『ウグググゥ……。何処だぁ。何処に隠れやがったぁ……』



『マイちゃんの顔こっわ』


『あれだけおっそろしい顔浮かべていると人が避けてくれるから助かるな』


『だよねぇ。あの顔さ、何処かで見たことあるなぁ――って思っていたんだけど』


『聞きましょう??』


『私達が幼い頃、リューが野鼠の狩りに失敗してさぁ。鼠ちゃんに尻尾を思いっきり齧られてキャンキャンと痛そうな声を上げて地面の上を転げ回っていたんだ』



 ほぅ。


 窮鼠猫を嚙むって奴か。


 ――――。


 あ、いや。猫じゃなくて狼だったわね。





 んむぅっ!?


 あそこの焼きおにぎりは夜御飯用に買って行こう……。



『んで。私が狼の姿で腹を抱えて笑い転げていたらさぁ――』



 狼の前足で?? 器用に腹を抱えるものね。



『自分の失敗で生まれた恥ずかしさ、そして私の笑い転げる姿に怒っちゃったのかな。鼻にものすっごい深い皺を刻んで、ビリビリを纏いながら襲い掛かって来たんだよ』



『こっわ。姉妹……。じゃあ無いか。もう一人の自分に対して襲い掛かる程に腹が立ったのか』


『そだね――。自分の失敗なのにどうして私が怪我をしなきゃいけないのか。り、りふ――……』


『理不尽』


『そう!! それ!! 理不尽過ぎて一日中泣いてたもん』



 ルーが泣きじゃくる姿は容易に想像出来るが、リューヴが痛そうにキャンキャンと泣き喚く姿はちょいと想像出来難いわね。


 試しに尻尾を食んでみようかと、甘い考えがぬるりと首を擡げて出て来たが……。ワクワク感を満載して試みた愚行を後悔してしまう痛みが襲い掛かって来そうだからやめとこっと。




『あの時のおっそろしい狼の顔に似ているから、人間の皆さんは道を譲ってくれるんだよね!!』


『野生動物の恐ろしい顔を越える表情、か。よぉ――、マイ。ちょいとその顔を記憶に留めておきたいからこっち振り向いてよ』


「……」



『無視かっ!!!!』



 お惚け狼と怪力爆乳娘の会話を無視し、強面狼の顔を模倣してチョロチョロと逃げ回る野鼠の尻尾を捜索していると……。




『ぬははぁんっ!?!?』



 き、き、来た来た――!!!!


 待っていましたよ!? 私のお腹と心にドンピシャな香りっ!!



 あ、はぁ……。


 何て、素敵な匂いなの?? この匂いを例えるのなら……。そう。


 カラッカラに乾いた砂漠を歩いている最中、水分不足でもう死にかけ寸前に出現した生い茂る森の中の泉。って感じかしらね。



 だけど、匂いだけで腹が満たされる訳ではないので。


 すんばらしい嗅覚を活かし、匂いの元を辿り始めた。



『相変わらず気持ち悪い顔しているね』


『気持ち悪いならまだマシさ。アレを越える変顔に変化すると、隣に居るだけで恥ずかしくなってくるからな』



 さり気なく私の尊顔を侮辱した二名には、双丘噛み千切りの刑に処してやる。


 食い付いたらぜってぇ放さないからな?? 泣いても知らねぇからな??



「いらっしゃい!! 当店御自慢のぉ……。巨人の手形をお求めですか!?」



 あ、あぁ。勿論よ!!!!


 その為に店の前に来たのだからね!!


 屋台の店主が私の顔を捉えると、ニッコニコの笑みで一枚の茶褐色の菓子を取り出す。



「お嬢ちゃん見てよ!! こぉぉんな大きいクッキー見た事無いよね!?」



 店主が両手で取り出したクッキーの面積は、大人の両腕をくにゅっと広げてくっ付け。両腕の中で円を描いた大きさ程度か。


 少なく見繕っても通常の大きさの約五十倍。


 私に誂えた大きさと言えよう。



「片手の大きさじゃ物足りなぁい、って考えた事あるよね!? それでおいちゃんピコぉん!! っと閃いたのさっ。物足りない大きさなら!! 呆れる大きさにしてやれと!!」



 素敵ぃ!!!!


 最高ぅ!!!! 買いまぁぁすっ!!



 素人とーしろは彼の崇高な考えを陳腐だと決めつけよう。しかし、私は店主の考えこそが食の本質であると咄嗟に見抜いたのだ。


 足りないのなら、足せばいい。


 単純且明快な答えが今っ!! 私の目の前にっ!!



 私は彼に負けない満面の笑みで人差し指を天へピンっと向けてやった。



「毎度ありっ!! 御一つ三千ゴールドになります!!」



 たけぇ!!!!


 だ、だが……。良く考えなさい。チマチマ五十個以上のクッキーを買って食べていたらあっという間に日が暮れちまう。


 それにあのボケナスは何日も此処に居る訳じゃねぇし。


 え、縁起物として買ってやるわ!!



 鞄の中から現金を取り出し、御釣りの無い様に店主へと渡してやった。



「毎度っ!! それじゃ、どうぞ!!」



 馬鹿げた大きさの円の下の包み紙を持つと、両腕の筋力にまぁまぁな負荷を感じてしまう。


 屋台からクルっと振り返り、クッキーの壁の向こう側に居るであろうお惚け狼と無駄にデカイ乳の親友へこれ見よがしに巨人の手形を掲げたやった。



『ど、どう!? 史上稀に見る大きさのクッキーは!?』


『美味しそうな匂いだから味は良さそうなんだけどぉ……』


『何でもかんでもデカけりゃ良いってもんじゃないぞ??』



 こ、こ、この素人共めがっ!!


 度し難い事この上ない!!!!



『はぁ!? ユウ!! あんたその言葉!! 自分の無駄乳に向かって言えるの!?』


『胸は……。まぁ、大きくても良いんじゃね?? 大きい方が好きって男子は一定数居るみたいだし』


『あはは!! だよね――!! でも、レイドは大きさに拘りを持っていないみたいだよ??』


『そうなんだよなぁ。だったらルー位のが丁度良いかもね』



 ぬ、ぬぅぅ!!!!


 世の中は理不尽だっ!! な、なぁんで私だけちんまりとした双丘なのよ!!


 直角に近い角度の胸に産んだ母親と再会した時、私よりも小さくなれと。おっそろしい呪いをぜってぇかけてやる。



 ケラケラと笑う友人二人を放置し、絶対割らない様。慎重に屋台群の中を抜け。



「こぉぉらぁぁああああああ!!!! また貴女ですかぁ――!? 勝手に横断してはいけませ――んっ!!」



 はい、聞こえませ――んっ。



 毎度毎度私の横断を咎める交通整理の姉ちゃんの声を無視し、木製のベンチにドカっと腰を下ろしてやった。



 う、うひょ――……。


 ミテヨ、コレ。



 ググゥっと顔を遠ざけても大きいし、ムムっと近付けても大きい。


 遠近感がとち狂う大きさの巨人の手形にお腹ちゃんが早速反応。


 キュルリリリィンっときゃわいい音を奏でたお腹ちゃんの欲求を満たす為、馬鹿デケェクッキーをえっこらよっこらと持ち上げて大胆且豪快に齧ってあげた。



『――――。ふはぁいっ!!!!』



 サックサクのクッキーを咀嚼して先ず舌に感じたのはふわぁっと香った小麦ちゃんの香だ。


 そして、お次に訪れたのは僅かな苦みと満足出来る甘さ加減。


 美味しさを噛み締める為、モニュリモニュリと咀嚼を続けていると。ふと歯に違和感を覚えた。



 ぬっ!?


 何!? このちいちゃな異物は!?



 奥歯でコリっと噛み砕くと……。



 わ、わぁぁ。


 柑橘系の香りだぁ……。



 恐らく、今し方捉えたのは果実を乾燥させた物でしょう。



 甘さ良しっ。触感良しっ。香り良しっ。そしてぇ……。大きさよぉぉっしっ!!


 四拍子揃った巨人の手形に私はこれでもかと口角を上げて咀嚼を続けていた。



『お――お――。満面の笑みで食ってるな』


『うっわ。マイちゃん、傍から見ても物凄く浮いた存在に見えるよ??』


『うるふぁい!! 好きな物ふぉ食べて、ふぁにが悪いのふぉ!!』



 左隣りに座ったお惚け狼に向かい、クワッ!! っと大きく口を開いて抗議の姿勢を取ってやった。



『ちょっと止めてよ!! 飛んできたじゃんっ!!』



 けっ、雑魚が……。


 おととい来やがれってんだ。



『マイ、食べ難そうだから持ってやろうか??』



 ン゛っ!!


 流石、我が親友よ!! 咄嗟に気が利くところが大好きっ!!



『宜しくぅ!!』



 包み紙部分を右隣りのユウへと器用に手渡し。



『ほれ、食え。卑しい大飯食らい』



 私の座高に合わせてくれた巨大クッキーへと二度目の突撃を開始した。



『ふぁむふぁむ……。ング……。ぷはぁっ!! 美味しっ』



 やっべぇ。


 見た目は大雑把なのに味も良いなんて……。これで三千ゴールドは安過ぎじゃない!?


 割れにくくする為に敢えて硬めに焼いてあるのも好印象だ。



 円の丁度半分程度の距離まで掘削し終え。ちょいと顎の筋力を休憩させているとユウが何を考えたのか知らんが。



『美味そうに食うな。どれ、あたしも食べようかなっ』



 包み紙を外し。な、な、なんとぉ!! 私の承諾を得ずに齧り付くではありませんか!!



『頂きま――すっ。ふぁむ……。んまっ!!!!』


『美味しいでしょ?? 見た目よりも味が繊細に出来ているから驚い……。だぁっ!?』



 いやいやいやいや!! ユウさんやい!?


 何で貴女はサクサクと掘り進めるのかね!? 一口は許しますけども、二口以上は私の許可が必要なのよ!?



『へへ。こりゃ止まらんっ』



 私が掘り進んだ丁度反対側を何の遠慮も無しに齧り続ける大馬鹿者を捉えると、私の闘志に火が灯った。



『絶対にぃ!! それ以上は進ませんっ!! ファムファムファム!! ふぁぐらっぱぁっ!!』



 全神経を咬筋力に一点集中させ、えっさほいさと土中を掘り進める職人気質の土竜さんも思わず参ったっ!! っと。


 己の膝をピシャリと叩いて太鼓判を押してくれる速さで進んで行く。



『んふっ。ほっぺが落ちちゃう』



 ちぃっ!!


 百点満点を越える超絶可愛い顔で齧りおって!! 私が男なら今の笑みでぇ……。



「「っ!?!?」」



 猛烈な勢いで掘り進めていたのだが……。


 妙――にやわらけぇ何かと私の唇が刹那にプチュっと接触すると、クッキーが半分に割れてしまった。



『おっと。こっち側は落としませんよ??』



 真っ二つに割れた巨人の手形の一方はベンチの背もたれ側へ。


 一方は地面の方向へと落下して行き、私は地面の方向へと落下したクッキーを颯爽と受け止め。


 再びキチンと姿勢を整えて咀嚼を開始した。



 はぁ――。


 いつまでもこうして食べていたいわねっ。



『お、おい。マイ……』



 ユウが怒り心頭の猛牛みたいに顔を真っ赤に染め、右手の甲できゃわいい唇をフキフキしながら私の顔を見つめている。



『んっ?? どした?? その半分に割れた奴食べていいわよ??』


『いや、今さ……。あたしの唇と……』



 なぁにモジモジしてんだ??


 貴様の馬鹿げた筋力はそんな女々しい姿を披露する為に積載されている訳じゃねぇんだぞ??


 ユウが羞恥に塗れ、モジモジしている理由が理解出来ず。怪訝な顔を浮かべて咀嚼を続けているとお惚け狼がケラケラと笑い始めた。



『あはは!! マイちゃんとユウちゃん!! チュってしたね!!』



『――――。はぁっ!?』



 な、何を言っているのだね!? 君は!!



『マイちゃんは食べる事に夢チュウで気付かなかったと思うけどさ。ユウちゃんとチュウってくっ付いたからクッキーが二つに割れたんだよ??』



 さっきの違和感の正体はソレか!!!!



 はっず!!


 穴があったら尻まで全部綺麗に、そして見事に収めたいっ!!



『っと……。ご、御免。ユウ……』


『あ、あぁ。別に構わんよ……』



 昼から夕へ向かう刻。


 うら若い二人の女性が半分に欠けても妙にデカイクッキーの欠片を抱え、こじんまりとした姿勢でモジモジと体を動かす。


 私達らしからぬ姿がルーの笑いのツボを押したのか。



『あはははは!! 二人共!! 猛烈に似合わないよ――!!』



 お腹を抱え、無意味に足をパタパタと動かして笑い転げてしまった。


 きっと幼い頃のリューヴもこの姿を見て腹が立ったのだろうさ。



『マイ……』


『ん――』



 ユウがポツリと言葉を漏らし、私に欠けたクッキーを預けて来たので。



『これでさぁ。ほら、無人島の事件あったじゃん?? その時ユウちゃんはカエデちゃん達とチュ――ってしたからぁ。レイドを除いて、ほぼ全員としちゃったんだね!!』



 笑い過ぎてお腹を痛そうに抱えるお惚け狼からさり気なく距離を置き、猛牛さんが着席出来る分の空間を捻出。



『……』



 その空間にポスンっと腰を下ろした我が親友は、周囲の人間共が思わずヒッと慄く表情を浮かべ。灰色の髪の女性の姿をじぃぃぃぃっと眺めていた。



『はぁ――。笑ったぁ……。こんなに笑ったのは三日ぶり位だよね!?』


『よぉ、ルー……』


『ん――?? どうしたの?? ユウちゃん。オニヤンマが逃げ帰りそうな顔をして??』


『あの島の一件と今回の事件を合わせてぇ。あたしと唇を合わせていない女性は……。ダァレダッ??』


『え?? 多分、私だけど……。ま、まさかっ!?』



 はい、お疲れ様――。



『正解――。ってな訳で。一発すっか!!』


『んぶっ!?!?』



 ユウがお惚け狼の両頬をガッチリ掴むと、彼女の顔が梅干しみたいにクシャクシャに変化。



『まぁ、記念?? みたいなもんだ。あたしも滅茶苦茶恥ずかしいけどさ、ほらっ。一人だけ仲間外れだと可哀想だろ??』


『全然可哀想じゃ無いもん!! 止めてよユウちゃん!!』



 腰の入っていない拳でポコポコとユウの腹を殴るが。


 残念無念。


 お前さんの腕力じゃあ、怪力無双の装甲を貫く事は叶わないのさっ。



『なぁぁに。一瞬で済ませてやるから、安心しろ』


『や、ヤダっ!! 誰か助けてぇぇええ!!!!』



 ユウの腹を殴り、蹴り飛ばすものの。



『ん――……』



 ちょいと頬を朱に染めたユウの可愛い顔の進行は止まる事は無く、己の行動を後悔させるが如く。


 敢えてゆるりとした速度で接近して行った。



『やぁっ!! 止めてぇぇええええ!!!!』




























『――――。ユウ、そこまで。人が見ていますよ??』


 ちぃっ!!


 後少しだったのに!!



『カエデちゃんっ!! わぁぁ――!! 純朴が奪われそうだったよ――!!』


『それを言うなら純潔です』



 情けなくピスピスと鼻を鳴らし、窮地に訪れた英雄の背後へと隠れてしまった。



『こんな昼間から何をしているのだ。貴様等は』


『ユウ。貴女らしくありませんわね??』


『寸止めする予定だったんだよ。あたしを揶揄ったらこうなるんだぞ――ってね!!』



 まっ、ユウならそうすると思っていたからね。私は敢えて止めない振りをしていたのさ。



『カエデ、随分と早いお帰りじゃない』



 引き続き巨人の手形を食みながら。人間の男性の視線を集めている藍色の髪の女性へ話す。



『もう間も無く夕方ですからね。早めに疲れを癒す為に……』



 カエデが背後の女性の頭をヨシヨシと撫でながら話していると、何だか棺桶から出たてホヤホヤの声が頭の中に響いた。




『皆、宿はいつもの部屋を取れたよ。俺は部屋で仕事中だから好きな時間に返って来て下さい』



『レ、レイド様ぁ!! 御声に違和感がありますが、大丈夫で御座いますかぁ!?』



 ちぃっ。


 鬱陶しい蜘蛛め。


 もうちっと静かに念話を飛ばしやがれ。



『大丈夫、だと思う。でも、何だか顔が熱くて体が重いんだよ』


『恐らくその症状は風邪ですね。食事は摂りましたか??』



『いいや。食欲が無いから摂っていない』



 は、はぁ!?


 しょ、食欲が無い!?



 か、風邪という病はそこまで恐ろしいのか!?



 生命体の食欲を消失させる力を持つ病……。私が罹患したと思うとゾっとするわね。



『栄養価の高い食料。並びに必要な物を買い揃えて向かいます。それまで、ベッドの上で休んでいて下さいね』



『いや、仕事が溜まって……』

『良いですねっ??』



 お、おぉ……。


 随分とドスの効いた海竜ちゃんの声色ね。



『善処します……』



 そして、ボケナスの声色から察するに。アイツは仕事の手を止める事はしないだろうさ。



『コホン。では、皆さん。彼の病克服の為に作戦を展開します』



 カエデが一つ咳払いをすると、ちょいと真面目な顔で私達の顔を見渡した。



『マイとユウは中央屋台群で沢山の鶏粥を。ルーとリューヴは野菜市場で葱と生姜を。そして私とアオイは薬を購入します。全て買い揃えたら此処で再集合を果たし。宿へと向かいます。何か異論はありますか??』



「「「……」」」



 特に無いのか。皆一様に口を閉じ、カエデの真剣な顔を見て一つ頷いた。



『では、作戦行動を開始します』



『おっしゃ!! ユウ!! 行くわよ!?』


『おう!! レイドには普段から世話になってるからな!!』



 ユウとパチンと手を合わせ、目的物が売られているであろう場所へ進もうとするのだが。



『マイ。そのふざけた大きさのクッキーを食べ終えてから向かって下さい。目立ち過ぎです』



 海竜ちゃんにちょいと叱られちった。



『私は気にしないっ!!』



 もう残り四分の一となったクッキーをハムっと噛み千切り。



『おい!! さっさと来い!!』


『私に命令すんなっ!!!! そこで待ってろ!! 無限に牛乳を垂れ流す乳牛め!!』


『あぁっ!? 誰に物言ってんだ!?』



 ちょいと離れた位置でこっちに向かって喧嘩腰で叫ぶ超乳大将の下へと駆け出して行った。



 待っていなさいよ?? ボケナス。


 腹がはち切れんばかりの粥を持ち帰ってやるからね!!


 米粒一つでも残す様なら、鼻の穴から無理矢理捻じ込んでやる!!!! 私の飯を拒絶したらとんでもない目に遭うと思い知らせてやるわ!!!!




最後まで御覧頂き有難うございました。


執筆、並びに編集作業を終えた所で睡魔に抗えず寝落ちしてしまい。この様な時間帯での投稿になってしまい申し訳ありませんでした。


それでは皆様、冷える夜ですので体調管理に気を付けて下さいね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ