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第百三十話 母娘、そして義姉。我が腹上で相討つ その二

お疲れ様です。


本日の投稿になります。


それでは御覧下さい。




 蜘蛛の複眼が放つ不思議な魔力に捉えられると心臓の拍動が徐々に早まり。己の体温がほんの少しずつ上昇していくのを感じ取ってしまう。


 人の姿では無いが恐らく、この二人は大変宜しく無い雰囲気を醸し出す表情を浮かべているのでしょう。


 此処に至るまでに得た経験則によって己の危機を察知した俺はやんわりとした口調で。



「「……」」



 今も体を這い上がって来る御二人に本日の終了を伝えた。



「え、えぇっと。明日もありますので。そろそろ就寝させて頂けないでしょうか??」



 眠気は二体の蜘蛛の襲来によってとうの昔に消失しましたが。


 宜しく無い事が起きる前に!! きっぱりと、そしてバッサリと断っておきたいのです。



「シオン??」


「はい、何で御座いましょうか」


「私が……。先でも構いませんよね??」


「勿論で御座います。初手は見に徹しさせて頂きます」


「うふふ。貴女らしいわね」



 太腿の上で楽しそうに相談していますけども、一体何の初手ですか……。



「さ、レイドさん?? 強張っている体の力を抜き。私共に全てを委ねて下さいまし……」


「あ、いや。ですから。疲労が蓄積されていますので、そろそろ就寝させて頂きたいと考えているのですよ」



 腰から腹へ。


 八つ足を器用に動かして這い上がって来る黒き甲殻を持つ蜘蛛さんの体をちょいと押し返しながらそう話す。



「あんっ。も――。焦らすのが得意なのですね」



 嬉しそうに嫌がらないで下さい。



「レイド様。何を億劫になっているのですか??」



 シオンさんが此方の態度に不満を持ったのか。


 二本の前足をグワッ!! と天に掲げ、蜘蛛流の憤りを表す。



「億劫も何も。不必要な接触は頂けませんからね」



「――。ですって?? シオン」


「困りましたね。栄えある女王の夜伽に億劫になられるとは……」



 ほ、ほら!! やっぱりそうじゃないか!!


 シオンさんの口から出てしまった単語に危機感を覚えてしまったので。



「御部屋は自由に御使い下さい!! 自分は廊下で休みます!!」



 二体の蜘蛛さんをベッド上に放置し、危険と色気が渦巻く部屋から安全地帯である廊下へと脱出を試みた。



「まぁまぁ……。盛った雌から逃れる雄、ですか」


「いぃっ!?」



 大変お太い蜘蛛の糸が腹に巻き付き、脱兎の如く逃げ遂せようとした体を拘束。



「レイド様。我々を孕ませる事が自然の摂理で御座います」


「文明社会ではそれは通用しませんから!!!! いやぁっ!!!!」



 有無を言わさず。強力な力によって再びベッドの上へと引き戻されてしまい。



「いでっ!!」



 そのまま仰向けの状態で拘束されてしまった。



「シオン。貴女、今……」


「ふふ、えぇ。彼とでしたら優秀な子が生まれそうですので」


「まぁ!! 良かったぁ。シオンがお気に召す殿方が見つからなくて困っていたのですよ??」



 お腹の上に乗った黒い蜘蛛さんが嬉しそうに節足をワチャワチャと動かす。



「はぁ……。フォレインさん。大変申し訳無いのですが、この糸の拘束を解いて頂けます??」



 見事なまでに両腕を拘束し、この姿はさながら……。まな板の上の鯉、だな。


 煮るも焼くもフォレインさんとシオンさんの塩梅次第って奴ですね。



「さて、と!! では、先ず私が味見をさせて頂きましょうっ」



 此方の要望は無視ですか!?



 黒い蜘蛛さんの体から強力な発光が迸り、それが収まると……。



「先程までは……。母親としての私でしたが。今からは一人の……。女として見て下さいまし……」



 男の本能を多大に刺激する麗しき女性が光の中から現れた。



「んっ。ちょっと窮屈ですわね」



 キチンと閉じていた淡い水色の長襦袢の胸元を嫋やかな指捌きで大きく開き、魅惑的な果実の末端が垣間見える位置で止めると。



「えいっ」


「ちょ、ちょっと!!」



 此方の了承を得ずに本邦初公開となる、大変無邪気な満面の笑みを浮かべて此方の体の上に圧し掛かってしまった。


 女性の姿になった途端、部屋に充満する女香。


 何とも言えない空気の香りと卑猥な色に変化した空気が肺へと到達すると。



『フンフンフンフン!!!!』



 来たる時に備え、腕立て伏せと腹筋運動を猛烈な速さで続けている男の性を大いに刺激してしまった。



「ウフフ……。楽しいですね??」



 粘着質な糸で拘束されている胸に細き指を這わせ、淫らに濡れた口元には背筋が泡立つ柔らかい笑みを浮かべている。


 白き髪は後ろに纏め、フォレインさんの後頭部上には牡丹の銀細工が見えた。



「これですか?? 大変気に入りました。一生大切に致します……」


「そ、それはどうも」



 さて、どうやってこの状況から脱出しよう。


 力で抜け出そうとしても恐らく捻じ伏せられてしまう。


 ならば大声を出して助けを請うか?? いや、それだと男としての尊厳というか面子が……。



「レイドさん……」



 粘着質の糸の上にポスンっと横顔を乗せると。



「フフ、心臓が五月蠅く鳴っていますよ??」



 此方の大変喧しい拍動の音を確認したのか。


 本能剥き出しの雌の顔になって見上げる。



「それは生理現象です」


「私もレイドさんと同じように感情の昂りを感じていますわ。ほぉら……。こんな風に」



 全て見せそうで見えない果実の末端を此方に見せつける様に、ゆるりとした速度で開いて行く。



「駄目ですって!!」



 女性の武器を是非とも眼に収めたいという男の性を振り切り、これでもかと瞼を閉じて視覚を断絶してやった。



「もぅ……。薄暗い部屋に男女が三人。これはもう自然の成り行きだとは思いませんか??」



 何をどう考えたら自然の成り行きと考えるのだろうか??


 数分前までは大変御堅い話をしていたってのに!!



「安心して下さい、至上の一時を与えますので」


「安心の意味が違います!!」



 砂浜に打ち上げられた死にかけの魚の様に体を上下に激しくビッタンビッタンと揺れ動かし、腹の上の横着なお肉を落としてあげた。



「あんっ。も――……。シオン??」


「如何為されましたか??」


「レイドさんが逃げてしまうんですよ」


「全く。栄えある女王の夜伽を拒むとは、男性失格で御座いますね」



 失格でも、落第でも何でもいいから拘束を解いて下さい!!


 い、今の内に距離を取らねば。



 木の幹からポトリと地面に落ちた芋虫の如く。ベッド上をえっこらよっこらと体を器用に動かしていると。



「そうなの。だから……。彼を捕らえてくれないかしら??」


「畏まりました」



 背後から強い発光が迸り室内を照らす。


 恐らく、俺を捕えようとしたシオンさんが人の姿に変わったのでしょう。



 少しでも距離を稼ぐ為、芋虫の動きを模倣していると。大変興味がそそられる言葉が発せられてしまった。



「やっぱり、そっちの方が似合うわよ??」



 やっぱり??


 髪型でも変えたのだろうか……。



 退避行動よりも、興味心が勝ってしまったのでちょいと首を捻ってシオンさんの姿を確認してみた。



 え、えぇ……??


 あの人はどちら様でしょうか??



 そこには一人の美しい女性が紺碧の海を想像させる青の浴衣を身に着け、女性らしい所作で此方の様子を窺っていた。



 黒き前髪をやや左へと流して分け、隠れていたシオンさんの素顔が露出。丸みを帯びた茶褐色の瞳、すっと流線を描く眉。


 誰もが羨む整った鼻筋に、柔和な曲線を描く頬が男の性を誘惑し。無意識の内にそこへと触れさせようとする。



 アオイが言っていた通り、物凄く綺麗な人だな……。



「視界が広くなって助かります。さて、レイドさん。失礼しますね??」



 し、しまった!! 見惚れている場合では無かったんだ!!



「勘弁して下さいよ!!」



 瞬き一つの間に体を拘束し、腰に腕を回して動きを御してしまった。



「こちらも種族繁栄がかかっていますので……。申し訳ありません」



 シオンさんは無意識なのだろうが。甘い囁き声に乗ってふわぁっと香る女性らしい良い匂いが兎に角厄介です!!


 り、理性!!


 ちゃんと機能しなさいよね!!



『わ、分かりましたっ!!』



 今にも折れてしまいそうな大変情けない剣を手に持ち。



『うっし!! そろそろ俺様の出番だなっ!!』



 筋力鍛錬を終え、筋骨隆々の姿に変わり果てた己の性と対峙するものの。



『ぼ、僕は負けないんだっ!!』


『あぁ?? そんなチンケな剣で俺様を倒そうってのか??』


『や、やってみなきゃ分からないだろう!?』



 大変心配になる理性と性の戦いが、己が心の中で開始されてしまった。




「そうそう、良く出来ましたっ。フフフ……。美味しそう……」



 此方に見せつける様に淫靡に舌を動かし。背筋がゾクリとする所作で着衣を脱ぎ捨て、白き肌に纏った下着姿を披露してしまった。



 はい!! 絶対見ませんっ!!



「……」



 肖像画の裸婦像も思わず嫉妬してしまうフォレインさんの柔肌に魅了されまいとして、断固たる態度で両の瞼を閉じてやった。



「まぁまぁ……。私の姿を見たく無いと??」


「レイド様。それは失礼に値しますよ?? 女性が勇気を振り絞って己の身を曝け出したというのに」



「いやいや……。自分の意志も尊重して下さいよ」



 女の性が昂る二人に対し、冷静に言い聞かせてあげる様に声をあげた。



「この二人でも役不足ですか??」


「そうじゃないわ。レイドさんはきっと恥ずかしいのですよ」



 違う、そうじゃないです。


 此方の意思を無視し、好き勝手に事を進めるのは如何な物かと思うのですよ。



「はぁ……。本当に良い香りですね。これをアオイ様は四六時中嗅いでいるのですね……」



 シオンさんが己が鼻を此方の首元に近付け、スンスンと器用に鼻を動かして肺へ空気を取り込む。


 優しい鼻息が首の根元に吹きかけられると、何だか腰辺りの肌が一気に泡立ってしまう。



「さぁ、一緒に旅立ちましょう。安心して下さい、壁の染みを数えている内に終わりますから……」


「それは男性が女性へ放つ台詞ですっ!!!!」



 も、もう駄目だ!! 大絶叫を上げよう!!


 女性に襲われて情けなく男が助けを請う。


 そんな下らない面子なんかに拘っていられない!!


 誰か、助けに来てくれよ!?



「すぅぅ――……」



 この窮地を救ってくれる英雄を呼ぶ為、意を決して大きく息を吸い込んだ。







「………………。御二人共、私のレイド様に何をしていますの??」


「ア、アオイ!!」



 きっと俺の顔は大変情けない顔を浮かべているであろうさ。


 でも、それでも構いません!! もう助かったのだから!!



 いつもの定位置である右肩へ颯爽と舞い降りた蜘蛛の姿のアオイを安堵の息を吐くと共に見下ろした。



「助かったよ!!!!」



 よぉし。


 これで男の面子は保たれ、しかも!! アオイが退路を切り開いてくれる筈!!


 御姫様の窮地に訪れた王子様みたいですねっ!!



 ――――。


 あ、いや。


 俺が御姫様じゃなくて、アオイが御姫様か。



「アオイ様、遅かったではありませんか」


「横着な方々が休んでいる扉を糸でしっかりと固定して来たので遅れてしまいましたわ」



 ん??


 どういう事です??



「アオイ、一番は私が貰ってもいい??」


「駄目ですわ。レイド様と一つになるのは私が最初です」



 あっれぇ??


 ちょっと可笑しな流れだなぁ??



 アオイが人の姿に変わると。



「と、言う訳で!! お母様は退いて下さいましっ」


「あんっ。もう……」



 甘く絡みついていたフォレインさんを邪険に退かし。



「んふふ……。さぁって、下準備は整っている事ですし?? 早速始めましょう!!」



 端整な御顔に似合わない強めの鼻息を荒げ、黒の着物を脱ぎ始めてしまった。



「あ、あの――。アオイさん??」


「何ですか?? レイド様??」



 白の長襦袢一枚の姿になると、満面の笑みでこちらを見つめる。



「助けに……。来てくれたんじゃないの??」


「助けで、御座いますか??」



 何の事か分からない。全く理解出来ませんわと言わんばかりに小首を傾げるものだから。



「違うの??」



 俺も彼女に倣い首を傾げてしまった。



「此処は蜘蛛の巣の中。レイド様は私達に貪り喰われる運命にある美しい蝶なのです……」



 大変わっるい笑みを浮かべると。



「……っ」



 俺に見せつけるかの如く、敢えてゆるりとした速度で最後の拘束具を脱いでいく。


 白き拘束具の下から現れたのは、白雪も嫉妬する繊細な白き肌。


 彼女の肌を隠すのはやたら面積の少ない淡い桜色の下着のみ。



 恐らく、大変絵の上手な画家もアオイの下着姿を見たら筆を落としてしまい魅入ってしまうだろうさ。


 女性らしい丸みを帯びた肩に、男の性を大いに刺激する標高を誇る双丘。


 素顔は幾百と拝見させて頂きましたが……。


 服の下を覗く機会はそうそう訪れない為、俺もどこぞの画家宜しく彼女の美しい姿に見惚れてしまいましたよっと。



「うふふ……。レイド様ぁ」


「ちょっとぉ!!」



 甘い猫撫で声を放ち、何の遠慮も無しに腰元へ腰を下ろし。



「今夜の私はぁ……。一味違いますわよ??」



 首に己が腕を絡め、脳内を直接浸食させる為に鼓膜へと甘い吐息を吹き込む。



 も、もうこれ以上は無理です!! 理性と正気が保てませんっ!!


 げ、限界だ!! これ以上は危険過ぎる!! 誰か俺の声を聞いてくれよ!?



「レイド様ぁ。私、子は八人が宜しいですぅ」


「私は元気な子であれば人数は問いません。まぁ、でも。レイド様が宜しければ励む数だけ精進させて頂きますけど」


「シオン!! 先ずは私からですからね!!」



 体の正面と背に横着なお肉くっ付けたまま、甘ったるい空気を胸一杯に取り込んだ。



「――――。レイド様。失礼しますね??」


「ン゛ムっ!?」



 アオイの囁き声と共に、俺の口元に粘着力のある糸が張り付き。洞窟の外部まで届かせようと気合を籠めた雄叫びを阻害されてしまった。



「んん!?」



 な、何て粘着力だ。


 俺の咬筋力じゃ太刀打ちが出来んっ!!



「アオイ様。どうして口を??」


「シオン、気付かなかったのですか?? 声を上げようとしていた事に」


「よもや殿方が女性に助けを求めるとは思ってもいませんでしたので……。不覚です」


「念には念を。石橋は叩いて渡るものですわ。さ、始めましょうっ!!」



 柔和な顔付きから一転。


 視界に獲物を捕らえた猛禽類のような笑みを浮かべると首筋に柔らかい唇をチュピっと当ててしまう。



「ン゛ン゛――!!!!」


「では私はこちら側を……」


「フフフ、可愛い耳を頂きましょうか……」



 四方八方から正気を失わせてしまう生温かい攻撃が襲う。


 恐ろしいまでの破壊力に思わず降参しかけてしまうが……。



『やぁぁああ!!』


『けっ、雑魚が』


『い、痛いっ!!』



 頑張れ!! 理性!! 強き性に負けるなよ!?


 ボロボロに打ちのめされながらも何んとか踏ん張る理性さんの姿に応援され、脆く崩れそうになってしまった正気を立て直した。



 こ、この!!


 最後まで決して諦めんぞ!!


 例え……。そう!! 敗北したとしても!! 



「もう……。雰囲気が台無しですわ」


「ムグッ!?」



 糸が目元に巻き付けられ、辺り一面。恐ろしいまでの暗闇に包まれてしまった。



「アオイ様、こちらは如何ですか??」


「ちょっとお母様、邪魔ですわ」


「いいじゃない。狭いのだから、我慢しなさい」



 視界を奪われ温かい感触が直接脳内に響くようだ。


 蜘蛛の巣に掛かり、粘着質な糸でグルグル巻きにされて捕食される蝶の気分が理解出来た気がする。



「これ邪魔だから取っちゃいましょうか」


「いいですわね!!」


「ん――――――!!!!」



 そこは駄目ですぅ!!


 幾ら器用に跳ねようが、激しく体を捩ろうが。此方の意思とは無関係に最終防衛線へと魔の手が差し掛かってしまう。



「こう……。かしら??」


「アオイ様。そこのベルトを外せば……」



 三方向からの魔の手が最終防衛線を突破し、本拠地を落とそうと画策してしまう。


 それに対しこちらは孤立無援。補給路も退路も断たれ孤軍奮闘を強要されている。



 恐ろしいまでに固めていた最終防衛線がこうも簡単に突破される日が来ようとは……。



『ぼ、僕は負けないっ!!』


『あっそ。御主人様が呼んでっからそろそろ行くぜ』


『ま、待てぇ!!』


『ぎゃはは!! あばよぅ!!』



 結局、理性も負けちゃったし。


 もうどうともなれ……。



「おや?? 力が抜けましたね??」


「私はレイド様の元気な愛の結晶を授かりますわ」


「うふふ。レイドさん?? 私達を満足させて下さい……」



 アオイとフォレインさんの娘は白い髪が良く似合う娘に育ち。



「レイド様が悪いのですよ?? 私の……。女の部分を刺激してしまったのですから」



 シオンさんの娘は両親と同じく、黒い髪の娘が生まれるのだろうなぁ。


 そして、俺はこの里で三名の娘の面倒を見る良き父親としてこれからの余生を過ごすのだ。



 所帯を持ち、どっしりと腰を据えて生活するのも存外悪くない。


 我が人生の確固たる道が築かれそうになった時…………。






























 奇跡が起きた。





「――――。ちわぁ――っすぅ。恐怖の出前でぇぇええっす」



 こ、この声はぁ!!



「ふぁ、ファイ!! たふけへ!!!!」




 俺が救いの声を心から放つと同時。



「あらよっと!!」



 視界が閉ざされて全貌は理解出来ませんが、空気を切り裂く音から察するに。


 黄金の槍によって木製の扉が瞬き一つの間に切り裂かれ、その向こう側から真の英雄が推参したのだろう。



「うどん大盛ぃ……。四つぅ。御持ちしましたぁ――」


「貴様等……。何をしているのだ??」



 横着なお肉たちの隙を窺い、ベッドの上で器用に頭を動かして目元の糸を外すと。二人の英雄の雄姿が視界に飛び込んで来た。



 深紅の髪の女性は光り輝く黄金の槍を肩に担ぎ。


 灰色の狼は嘯く声を放ちながら今にでも襲い掛かろうとする姿勢を取っている。



 登場の仕方、機会。


 控え目に言っても……。格好良過ぎるっ!!!!



「ふぁい!! リューフ!! ふぁすけて!!!!」



 要救助者は此処ですよ!!


 は、早く助けてっ!!



「何って……。子作りですわ??」


「そうですね。孕ませて頂けたらと??」


「種の存続の為の行為ですよ??」



 三人同時に惚ける様に言葉を放つ。


 また見事に声を合わせましたね??



「無理矢理するものでも無いだろう!!」



 ごもっともです!!



 リューヴが恐ろしい牙を剥き出しにしてベッドに飛び掛かると。



「とんだ邪魔が入りましたわ」


「レイドさん、またの機会に」


「残念です」



 文字通り、蜘蛛の子を散らす様に壁の隙間へと三体の蜘蛛が姿を消してしまった。



「主、大丈夫か??」


「ったく。隙だらけだっつ――の」



 マイの槍と、狼さんの鋭い爪が蜘蛛の糸の拘束を解除。



「ぷはっ!! た、助かったぁ……」



 呼吸が正常へと戻り、今度こそ真の安寧が訪れたのだと心の底から安堵してしまった。



「二人共、よく気付いたね」



「部屋で休んでいたら不穏な空気を感じたからな」


「食い過ぎて眠れなかったからうたた寝してたのよ」



「いや、本当に助かったよ……」



 ベッドの上で情けなくへたり込み、女香が残る空気を胸一杯に吸い込み安堵の息を漏らした。



「おら、移動すんぞ」


「移動??」


「私と、カエデの部屋。若しくはマイ達三名の部屋。どちらかで休むと良い」



 お、おぉ!!


 それは妙案ですな!!



「あ、有難う!! 是非そうさせて下さい!!」


「ふんっ。あ、アイツ等が襲い掛かって来るかも知れないからね。特別にだからね!!」



 特別でも何でもいい!!


 危険が無い所ならどこでも構いませんよ!!



 ベッドの上のシーツを腰に巻き、そして腰の前に枕をあてがい若干腰を引きつつ二人の後に続く。



「「????」」



 この姿を見て不審に思っている様ですね??


 御安心下さい。


 移動中に元の位置へと戻して見せますから……。


 もしも、元気溌剌な姿を晒してしまえば。救いの道は閉ざされてしまいますからね。



『や、やりましたぁ……』


『お、おぉぉおおい――!!!! 俺様の出番は!? なぁ!! なぁって!!!!』



 情けない歩き姿を披露しつつ、打ちのめされた理性さんに労いの声を放ち。元気一杯な性さんを必死に宥めながら安全地帯へと避難したのだった。




最後まで御覧頂き有難うございます。


そして、ブックマークをして頂き誠に有難う御座いました!!


第二章の終幕の執筆に向けて嬉しい励みになりました!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

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