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第二十六話 心に闘志を灯せ

お疲れ様です!!

少々行儀が悪いですが、昼ご飯を食べながらの投稿になります!!


賢い海竜さんが合流し、果たしてどの様な方法で空の女王と対峙するのか。少ない手駒での戦いを御覧下さい!!




 上空で吹き荒れる魂の風。



 アレクシアさんを中心に吹くそれは、屈強な戦士さえも慄き恐怖を抱かせるものであった。


 だが、俺達は一歩も退かず降り注ぐ猛風に耐え。


 此方の闘志を掻き消そうとする邪悪な風に抗い続けていた。




「ふぅ。このままじゃあ、勝てませんね」



 カエデが小さく息を漏らし、耳を疑う発言を発す。



「はぁ!? 戦う前から何弱気な事言ってんのよ!!」


「マイ。言葉は正確に捉えるべきです」



 これでもかと眉を顰めるマイへと話す。



「私は今、このままではと申したのです」


「カエデ、何か策でも??」



 彼女の後ろからアレクシアさんの様子を窺いつつ問う。



「勿論です。この里の地下には……。幸いな事に地下水脈が流れています。地下深くからそれを吸い上げ、彼女に衝突させます」



 そんな事も出来るのか……。


 だが、相手は空に浮いているのだ。


 地下から汲み上げたとしても、それを空に存在する者に衝突させるのは至難の業では??


 寧ろ不可能な領域だろう。



 可能性を蓋然性に変える算段があるのか??




「皆さん御安心を。直撃させる算段は既に整えてあります」



「さっすが!! んで?? 作戦内容は??」



 ユウがカエデの肩をポンっと叩いて話す。




「私が今から魔力を解放し地下から水を呼び寄せる。その間、結界を展開して己を守りますが……。無防備になります。皆さんは命を賭して、私を守って下さい」



「「「…………」」」



 カエデの言葉に一同が頷く。



「この魔法は詠唱に長い時間が掛かります。ですが、詠唱さえ出来れば私達の勝利です」


「はいはい。要はアレクシアからあんたを守れば良いって事ね??」


「その通りです」



 マイの言葉にカエデが一つ頷く。



「詠唱終了後。大量の水が地下から湧き、一気苛烈に彼女をそして里を飲み込みます」


「え、えぇ!?」


 ピナさんが慌てるのも理解出来る。


 里が破壊されてしまう虞がありますからね。



「この際、多少の被害は目を瞑って下さい。作戦成功の為には必要な犠牲です」



「安心しなって!! 戦いが終わったら修復作業を手伝ってやっからさ!!」


「勿論!! 美味しい御飯付きでね!!」



「わ、分かりました。この際、やむを得ないですね……」




「では、皆さん。最終作戦の開始です!!!!」


「「「「了解!!!!」」」」



 カエデの言葉に皆が一斉に頷き、今も風を纏い続けるアレクシアさんに対峙した。




「ふぅ……。大海を統べし遍く叡智……。今、此処に!!」


 カエデが右手を翳し、正面に青色の魔法陣を浮かべ。


 その中に細い腕を入れる。



 も、もしかして。


 と、言いますか。やはりあなたも傑物の血を受け継ぐ者でしたか。



「姿を現せ!! アトランティス!!!!」



 彼女の腕が現実の下へと戻って来ると、その手にはカエデの背丈程の樫の木が握られていた。


 お伽噺の挿絵に描かれた魔法使いの道具。


 第一印象はそんな感じですね。



「おっ!! やっぱりあんたも継承召喚出来たのか!!」


「だろうなぁ!! あたしもそんな気がしてたんだよ!!」



「御二人共、前方に意識を集中して下さい。では、私は詠唱を始めます。んっ!!!!」



 カエデが樫の木を掲げると、分厚い結界が彼女を包む。


 そして。



「大地に眠る水の精。悠久の流れに身を委ね、愚者の行進を続ける我々にその力を譲渡し……」



 大きな目を瞑って詠唱を始めた。



「本当に無防備ねぇ。まっ!! それを守るのが私達の役割ってね!!」


「だな――。奴さん、そろそろ準備出来そうだし。前衛のあたし達は何をすればいいんだ??」



 守備一辺倒の作戦だが、空に浮く彼女に対しての抵抗案が未だ出来ていないな。



「ピナが私を空へ浮かせて戦うってのは!?」


「無理です!! あんな馬鹿げた風を受けたら一瞬で地上に落下してしまいますよ!!」


「あっそ。非力な翼ねぇ」


「申し訳ありません……」



 もうちょっと相手の気持ちを汲んで話して上げなさい。




「この作戦の根幹は守備だ。勝利条件は詠唱完了までカエデを守り抜く事。カエデを中心に置き、全方位から襲い掛かる戦力に対し跳ね除ければ自ずと勝利は訪れる、つまり」



「はぁ――。守備より攻撃の方が好きなんだけどねぇ。あの姉ちゃんにスカっとする一発をぶち込みたいわよ」



 マイが大きく溜息を吐き、上方を睨む。



「同感。でも、まっ!! レイドが話す通り。守備に徹するとしますか!!」


「そう言う事。では、作戦開始と行きましょう!!」



 カエデを囲む様に全員が立ち、徐々に風が収まりつつある空を見上げた。




「――――――――。ハァァァ……」


「「「「っ!?」」」」



 俯いていたアレクシアさんの顔が徐々に面を上げ、俺達を睨む。



 その顔には理性の欠片も見当たらなかった。



 目は全て真っ赤に染まり、体からは深い緑の魔力が放出され、口からは憤怒を籠めた白い息が漏れ続けている。



 周囲の風を全て吸収したのか。


 それとも彼女が放つ圧に風が恐れたのか……。




 晴れ渡った空の下には静寂だけが存在していた。




「マイさんやい」


「何だい?? ユウさんやい」



 カエデの前に立つ二人が話す。



「あれ、絶対やっべぇ奴ですよ??」


「その様で御座いますわね」



「二人共、ふざけるな。集中しろ!!」



 こんな時に変な空気を招く訳にはいかんでしょう。




「準備運動みたいなもんよ。緊張したままじゃ思った様に体が動かないでしょ??」


「そ――そ――。あたし達もそれなりに緊張してるのよ。それを解き解す為、だよな??」



 黄金の槍を構える彼女の頭をポスっと叩く。



「だから!! 背が低くなるから止めろ!!」


「――――。ふふっ。皆さんとご一緒だと、本当に何でも出来そうな気がしますよ」



 この明るい空気に当てられたピナさんから笑い声が漏れる。



「駄目ですからね?? 彼女達を見本にしたら」



 見本にすべき人は俺の左側で詠唱を続けている御方です。



「あんたは、後で、前歯、全部へし折るから」


「その後。しっかりとあたしの胸の中に埋めて、失神させるからな――」



「ご、ごめんなさい……」



 何で緊張感の代わりに、恐怖感を与えられなきゃいかんのだ。


 だが、まぁ……。


 いつものやり取りで肩の力が抜けたのは事実だな。



 俺も随分とこの人達に感化されて来てしまいましたね。



 緊張により狭くなっていた視界が広くなり、周囲の状況を確認出来るまでに至ると。



「アアアアアァァアア!!!!」



 アレクシアさんの咆哮と共に纏っていた緑の魔力が破裂し、上空に浮かぶ雲が霧散した。



「ぎゃあ!! 何だよ、あれ!!」


「知らないわよ!! と、兎に角!! 腹に力入れて、構えなさい!!」



 マイ達が慄く声を出すと……。



「アァァァッ!!」


 彼女は空高く飛翔し、空の彼方へと姿を消してしまった。



「ど、何処に行った??」



 空の中を探すも、彼女の姿は見当たらず。


 只々美しい青だけが目に入って来る。



 有り得ないだろ!!


 近くならまだしも……。何処までも広がる空の上で見失うか!?



「もの凄い速さで飛んで何処かへ行ったのは分かるわ。問題は……。どうしてあんな速さを得る必要があったのか」



 マイの言葉に思考を巡らす。



 ぱっと思いついたのは、常軌を逸した速度での突撃だな。



 速度を上昇し続け、目にも止まらぬ速さで此方の防御網を突破。


 カエデに留めの一撃を放つ。


 うん。

 間違っていない。



 しかし。


 ここで一つ、恐ろしい考えがぬるりと湧いて来てしまった。



 速度を上昇させれば、周囲に多大な影響を与える衝撃が比例的に増加する。


 つまり!!





 直撃させなくても、『通過』 するだけで圧倒的な破壊力が得られるのだ。





「「「「…………」」」」



 俺と同じ考えに至ったのか。



 全員の顔の血の気がサっと引いてしまった。



「じょ、冗談じゃない!! あんな馬鹿げた速さの突撃を受け止められるか!!」


 ユウが冷や汗を流しつつ叫ぶ。



「わ、私は軽いから、さ。後方で待機するわ。ほら、前に出ろ」



 マイがユウの背を押し、先頭へと導く。



「止めろ!! 頑丈なあたしでも限界ってのはあるんだよ!!!!」



「あんたの戦斧は飾りか!? 恐れを知らぬ戦士に不可能は無いっ!!」


「こんな時に煽てても無駄だ!!」



 誰だって直撃は食らいたくないよな……。


 力在る者は大変ですね。


 お疲れ様です。



 人知れず自分の実力の無さに安堵の息を漏らしていると……。



「ぎぃやっ!! き、来たわよ!!」



 地平線の果てから緑色の線が此方に向かって来るのを視線が捉えてしまった。



「えぇい!! こうなったら腹を括る!! あたしの後ろに控えてろ!!」



 ユウが大戦斧を前に構え、深く腰を落とした。



「さっすがユウ!! 超乳なのは伊達じゃないわね!!」


「いや、それは関係無いから」


「二人共!! そこまでだ!! 来るぞ!!!!」





 甲高い音を奏でつつ美しい緑が空気を。そして、空間切り裂きながら一直線に飛翔し。恐ろしい襲撃を開始した。





「「「「ギャアアアア――――――!!!!」」」」




 彼女が上空を通過した刹那、常識を疑いたくなる衝撃波が大地を襲う。



 周囲の家屋の屋根が、壁が吹き飛び。


 地面が抉れ、衝撃の余波で体が宙を舞い。硬い何かに叩きつけられてしまった。




 な、な、何だよ!!


 たかが通過しただけでこの威力か!?





「ぐ、ぐぅううう……」



 右肩を貫通した木の破片が視界に入る。


 ど、どうやら……。


 壁に叩きつけられたみたいだな……。




「ふ、ふ、ふぅぅう!!!! ぐぁああっ!! ああぁっ!!!!」



 痛みを誤魔化す為。


 喉の奥から声を振り絞り、一気呵成に体を前方へと傾けてやった。



「がっ!! はぁ……。はぁ……。み、皆は??」



 右肩を抑え痛む足を引きずり、カエデの側へと進みつつ状況を確認する。



 カエデは結界の御蔭で無事か。


 な、なんとか……。第一波は防げたな。




「い、いってぇ……」


「ど、同感よ……」



 ユウとマイは健在。


 俺と同じく壁に叩きつけられたみたいだ。



 足を引きずり、武器を引きずり元の位置へと戻って来る。



「ピ、ピナさんは??」



 顔を左右に振るも、彼女の姿だけが見当たらなかった。



「里の何処かへ吹き飛ばされて行ったわよ」


「あの状況で見えたの!?」



 呆れた動体視力だな。



「私の上を飛んで行ったからね。そ、そんな事よりも……」




 この甲高い音は……。



「い、いやいや。もう勘弁してくれよ。一発で此処まで体力を削られたんだぞ??」



 ユウが辟易した声を出し、第一波の反対方向から向かって来る緑を見つめた。



「作戦を遂行するんだ。カ、カエデを守り切るぞ!!!!」



 カエデの前に立ち、腰を落として第二波に備える。



「く、くそう!! 耐えてやる!! 掛かって来やがれ!!」


「ユウ。お腹、借りるわね??」


「おう!! しがみ付いてろ!!」



 さぁ……。

 来るぞ!!!!




 遠くに見える森の木々を掻き分け、空の女王が二度目の飛翔を開始した!!!!




「「「イヤアアアァアアアアアア!!!!」」」



 再来する衝撃波。



 里の中央付近の家屋は第一波により既に壊滅状態に陥っている。つまり、俺達の体はもう少々遠くまで吹き飛ばされる訳だ。




「ぐ……。う、うあぁぁ……」



 体に感じるのは痛みと呼べる代物では生温い。


 激痛?? そんな物じゃあない。




 死に至る激痛だ。




 大殿筋を穿つ鋭い木の破片が辛うじで、意識を現実に繋ぎ止めてくれていた。



 こ、この痛みがなければ気を失っていただろう……。



「あ、ありがとう……よぉぉおおっ!!!!」


 木の破片を引き抜き、真っ赤に染まった先端に礼を述べ。


 死人と等しき足取りで里の中央へと戻る。





「――――。よ、よぉ。ひっでぇ面だな??」


「ユ、ユウもな」


 彼女も俺と同じく足から血を流し、額からも赤き線が零れ落ちている。



「し、し、死んじまうってぇ……」


「マイ。大丈夫か??」



 此方と同じく、死人の足取りで向かい来るマイに話す。



「あ、あんた達よりかはマシよ。運が良い事に、何も刺さってないし」


「そ、そっか。で、でもさ」


 カエデの側に力無く座り込み、言葉を振り絞る。


「アレクシアさんの突撃、さ、さっきより遅くなっていない??」




 衝撃波は相も変わらずだけど、何となくそんな感じがした。


 幻か、それとも自分の都合の良い様にそう感じたのかも知れないが……。



「あんたもそう感じた??」


 マイが片膝を付きつつ話す。


「何となく、だよ。これを耐え続ければ、きっと……」



 体力を消失し、地に落ちた所を狙い討つ。


 カエデが魔法を詠唱する必要も無いが……。




「も、問題はあたし達の体がそれまでもつか……」



 その一点に尽きるだろうな。



「じょ、上等ぉ……。百回でも耐えてやらぁ……」



「「いや、それは無理」」



 ユウと声を合わせ、正直な感想を述べた。



 あんな物を百回も食らった日には魂までもが消失してしまうって。





「私は耐えてやるわよ!! と、と、と、通り過ぎるだけのぉ」



 震える声を放つマイの視線を追うと……。





 第三波の開始を知らせる非情な色が地平線の彼方からやって来た。




「奴になんか負けられな、な、ないし??」


「だ、だなぁ。はぁ――……。今度は何処に飛ばされるのやら……」



 ユウががっくりと肩を落とす。



「耐えろ!! 今は、耐えるんだ!!」



 情けない退却を決めた足に喝を入れ、遠くに見える勝利へと進む力に変えて大地に立つ。




 俺達の魂はそんな攻撃じゃあ折れないぞ!!


 折れるものなら、折ってみやがれ!!!!





 里を囲む壁を破壊し、第三波が上空を通過。


 鼓膜に音が届く前に体が後方へと吹き飛ばされてしまった。





「「「ウギャァアアアアアアアア!!!!」」」



 三度響く、絶叫。


 そして、三度宙を舞う体。



「は、はぁっ……。あぁ……。うぅぅぅ……」



 民家の壁を貫通し、ちょっとだけ染みが目立つ天井を視界が捉えた。




 く、くっそう……。


 体が千切れ飛びそうだ。


 意識が、魂が体から抜け落ち……。冥府へと旅立とうとする。



 持てる力を全て駆使し、意識を繋ぎ止め。此方の命令を拒絶する足に全身全霊の力を籠めて立ち上がった。



「あ……。あぁああああああああああ!!!!」



 左肩に刺さった包丁を引き抜き、痛みを誤魔化す様に木の床へと叩きつけ。


 自分で破った壁の穴を潜り抜け美しい青が広がる空の下へと移動を開始した。





 が、頑丈なのも大概にしろ……。



 自分の体に悪態を付き、足……。なのかな??


 兎に角。


 足らしきモノを動かし、随分と離れてしまった里の中央へと歩み続けた。





 マイと、ユウは……??



 粉々に砕けた里の中央にその姿は確認出来ない。


 唯一確認出来るのは、カエデの姿のみ。



 凄いな、あの結界……。



 クレヴィスの結界も強力だったが、カエデが展開する結界はそれ以上の物かも知れない。



「カ、カエデ。無事、か??」



 力無く結界にもたれ、問う。


 だが、彼女は今も詠唱を続け。集中力を継続させていた。




「はは、流石。も、もうちょっとで向こうも体力を消失させる、筈。それまで耐え抜いてみせるから。カエデも頑張れ……」




「――――――――。そうはいきませんよ??」


「っ!?」



 頭上から降り注ぐ声に反応し、視線を上方へと向けた。



「はぁ……。はぁ……。全く……。こ、ここまで体力を浪費するとは思いませんでした……」



 瞳に浮かぶ朱は薄れ、白目の部分のみに朱が浮かぶ瞳へと変化。



 そして。

 飛ぶ力を無くしたのか。


 徐々に此方へと下降し続ける。



「残念でしたね。お、俺達は頑丈なのが取り柄なんですよ……」



 不味いぞ。


 全く体に力が入らん……。


 それに、マイ達は何処だ!?



「その様ですね。ですが、それも此処までです」



 大地に降り立ち、俺の前で静かにそう話す。



「此処まで?? 俺達は……。っ!!」



 アレクシアさんが音を殺して移動を開始。


 此方の体を抱き留めてしまった。


 こんな状況じゃあなければ、美しい女性の抱擁ですので。心臓が五月蠅く鳴り響くのですけどね……。




「さぁ……。絶望の音を奏でて下さい」



 心臓が尻窄む恐ろしい笑みを浮かべると、俺の首元に狂気の牙を突き立てた!!



「う、うわぁああああああああああああああああ!!!!」



 激痛が首を襲い、生温い液体が噴射して肌を濡らす。


 激痛から逃れる為必死に押し返すも、彼女の体は微動だにせず。肉を食み、血を食らい続けていた。




「暴れないで下さい。あなたの命を涸らします……」


「あ、あぁ……。うあぁああ!!!!」



 白き翼が体を包んで体をより強力に拘束し、噴き出した朱が白を穢す。




 く、くそぉ……。


 情けない体め……。


 い、今が絶好機だろうがぁあああああ!!




 体の奥に残る砂粒程度の力を右手に集め。


 そして、彼女の体の後方に両腕を回した。




「あら?? 抱き締め返してくれるのですか??」


 口元が真っ赤に染まり、背筋が凍る恐ろしい顔で俺を見つめる。



「え、えぇ。アレクシアさんは魅力溢れる女性ですので……」


「嬉しい……。あなたの命を私の体に注いで??」




 再び打ち立てられた狂気の牙が命を刈り取り、闇の奥へと誘う。



 い、意識を……。


 失うな……。



 心に……。闘志を灯せぇえええええええ!!!!




「う、うぉぉおおおおお!!!!」



 腕が、体がどうなってもいい!!!!


 此処を逃したらもう俺達に勝利は訪れない!!!!




 彼女の体に絡めた腕に一気苛烈に力を籠めた。



「ぐっ!? な、何を!?」



「へ、へへ…………。自分は、マイや、ユウや、カエデ。そしてピナさんに比べて弱いです。ですけど、ね?? 体の頑丈さだけは負けない、自信があるんですよ!!!!」




 カエデ!!!!


 お膳立てはしたぞ!!


 勝つなら、此処だ!!!! 此処しかない!!!!
























「皆さん。本当に……。良くぞ耐え抜いてくれました」



「っ!?」


 カエデが目を開くと同時に、アレクシアさんの表情に微かな変化が見られた。


 あれは、そう。



 絶大な力を目の当たりにした時の恐怖の表情だ。



「さぁ、終局です……」



 樫の木を地面に突き立てると同時に、この里を覆い尽くす巨大な水色の魔法陣が出現する。



 す、凄い。


 これが……。カエデ本来の力、なのか??



「は、放せぇええええ!! 放しなさい!!!!」



「ふふ……。絶対に放しませんよ?? 自分と一緒に、仲良く溺れましょう……」




 此処で放したら今までの苦労が水の泡だ。


 里を救うため、そして住民を救う為。例え、この体が命の鼓動を止めようとも放しはしない!!!!





「大地を駆けろ、天へ昇れ!!!! 我の前に立ち塞がる者を全て飲み込め!! 大海の力を思い知らせるのだ!!!! 行きます!! 怒り狂え…………」




「水竜の暴走アクアタイラント!!!!!!」




 カエデが力を解放すると、大地が裂け。


 天へと駆け昇る猛烈な勢いで水が出現する。


 そして、水が蛇の様なうねりを見せ模ったのは……。




「…………」



 水の竜??


 カエデの魔物の姿に似ているな。



「さぁ、食らい尽くせ………。大地を洗い、穢れを奪い取れ!!!!」



 彼女が水竜の頭上に乗り、俺達を。




 そして里を食らい始めた。





「いや……。いやあああああああああああああああ!!!!」



 アレクシアさんの絶叫後。


 俺達二人は仲良く水に飲み込まれてしまった。




 上昇と、下降。

 水の中で踊り続ける体は里の外へと押し流されて行く。



 こ、此処に来て。この水圧は不味い……。


 だが、それはアレクシアさんも同じ事。


 仲良く溺れましょうね??


 今も必死に彼女の体を抱き留めつつ。


 これが勝利の代償なのだと、自分に言い聞かせながら。呆れた水圧が与える激痛に耐え続けていたのだった。


お疲れ様でした!!


夜の投稿も是非御覧下さい!!

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