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第百二十八話 帰還の手向け

お疲れ様です。


本日の投稿なります。


それでは御覧下さい。




 前へ向かおうと思う強い気持ちが逸る一方。その速さは蓄積された疲労によって地面の上で懸命に働く蟻さん達も思わず二度見する程、鈍重なものであった。


 足首に黒鉄の鎖を繋がれ、その先に括り付けられた巨大な鉄球を引きずって歩いている気分だよ。



「ボケナス!! 何をチンタラ歩いているのよ!! 地獄の収容所から脱出した栄養失調で餓死寸前の囚人じゃねぇんだから!! もっと速く歩け!!」



 そして、貴女は必死の想いで脱出した囚人達を捕らえようと躍起になる恐怖の看守役ですか??


 誂えた様な配役、そして自分の妄想と少しばかりアイツの例えが重なり。心の中に小さな活力の花弁がポッと咲いた。



 偶にはアイツの下らない言葉も役に立つ事があるものだな。



「ユウ!! お腹空いた!! 素敵な胸の中に仕舞ってあるかた焼きを寄越せ!!」


「残念無念。お前さんが全部華麗に食っちまったよ」



 そんな場所に仕舞ってあったんだ……。きっとあそこなら横着なアイツもそう易々と手を出せないと考えたのでしょう。



「ちぃっ、仕方がねぇ。おらぁ!! 者共っ、私に続けぇ!!」



 隊の最前列を歩く龍から叱咤激励という言葉では生温い程の怒号が響き渡るものの、この体は素直に呼応する事は無く。


 寧ろ、あの恐ろしい顔と馬鹿げた元気さに接近する事を億劫に感じたのか。なだらかな傾斜を下る水の流れよりも遅い速度へと変化してしまった。



「敵が前に居るのよ!? 誰かに横取りされたら困るから早く到着しなきゃいけないのよ!!」



 彼女が話す通り、俺達の前方に敵が存在していると頭では理解しているのだが……。体が頭の厳しい命令を受け付けてくれない事が実情なのだ。


 抗魔の弓の影響が今になっても継続しているので此処は一つ。疑似隊長役を務める貴女は此方に対して労いの言葉を放つべきだと思いません??



 まぁ、そんな甘えた言葉を放つものなら更なる痛みが体を襲う事になりますので言いませんけども……。



 空が茜色に染まり一日の終わりを告げる刻。


 緑に囲まれた景色は随分と薄暗く、燦々と輝く太陽さんが頭上で笑みを浮かべる刻と比べて視界が狭くなって来た。


 肌に纏わりつく温度は幾分和らいだのは良いが、この先に居るであろう巨体を追うのに俺達は前回の戦闘から今に至るまで懸命になって移動を続けていた。



 目に映るのはいい加減見飽きた生い茂る緑と木々の枝。そして、茶色い地面。逸る気持ちを抑え、確実に前方へと歩みを進める。



「カエデ、もう一体はまだか??」



 何度この質問をしたのだろう。


 彼女が煩わしく思わないか心配になってくるよ。



「もう直ぐですよ」



 俺の気持ちとは裏腹にカエデの声色は、これといった憤りを隠すような雰囲気は感じられなかった。


 アイツもカエデみたいに人の気持ちを汲む事を覚えれば良いのに……。



「ちょっと!! ユウも遅いわよ!!」


「誰かさん達の荷物を背負っているからな。お前さんみたいに手ぶらじゃねぇんだよ」


「ルー!! 狼に変身して私を背に乗っけろ!!」


「絶対嫌っ!!」



 人の気持ちを汲む処か、逆撫でしてどうするのだね……。



 仕事で疲れ果てて眠りに就く時。


 やっと眠れると思った矢先、妻から日常生活の愚痴をいつまでもベッドの中で聞かされる夫の何処にも向けようの無い形容し難い気持ちを抱きつつ、歯を食いしばって足を前へと進めた。



「このままですと……。洞窟に着いてしまいますわ」



 アオイが険しい表情を浮かべ、二体目の化け物が居るであろう前方を見つめつつ話す。



 もうそんな場所まで戻って来てしまったのか。


 荷物をこの場に放棄し、身軽になって移動すべきかどうか。その提案を真の分隊長殿に進言しようとしたが。



「間もなく会敵します。距離……。凡そ二百メートルです」



 カエデの表情がきゅっと引き締まり、間も無く始まる二回戦の知らせを届けてくれた。



 いよいよか……。



「皆、聞いてくれ。このままじゃアオイの家族に被害が及ぶ。それは何としても避けたい」



 隊の最後方から戦闘開始の知らせを受け。



「ぬふふぅ……。今度はど――やって痛めつけてやろうかしらねぇ」



 朱の髪の揺れ幅が増大してしまった先頭の横着者にも聞こえる声量で声を放つ。



「疲れていると思うけど、此処が正念場だ。俺達でもう一体を仕留めよう」



 例え指の肉が引き千切れようが、足の筋肉が悲鳴を上げて倒れそうになろうが。


 アオイの家族を、友人を殺めようとする殺意の塊だけは決して見逃さん。


 確実に此処で息の根を止めてやる……。



「任せなさい!! あんなデカ物すぐ片付けてやるわよ!!」


「あぁ、そうだ。主の手を煩わせる前に倒す」


「私も頑張るね!!」


「まだ暴れ足りないと思っていた所さ。あたしの力、見せつけてやるよ」



 全く……。


 頼もしい限りですよ。



「残りは一体、死力を尽くすぞ!!」


「「「おおっ!!!!」」」



 各々の熱き魂が呼応し合い士気が高まる。


 最後の烈戦に向けてこれ以上無い士気の高さを保ったまま。



「ここからは少し早歩きで行きましょう」



 カエデが先導集団に加わり、歩みを早めた。



「あぁ!! カエデ!! 私が先頭を歩くのよ!!」


「隊長が先頭を歩くのは当然ですから」


「私が隊長なの!! あんたは参謀役でも務めていなさい!!!!」



 この際、どっちでもいいから静かにして下さいよ。



 呆れにも似た……。では無く。


 完璧に呆れた溜息を漏らし、その反動で肺へ新鮮な空気を送り込んで力に変える。



 うん……。


 少しだけど体力も回復してきた。


 全力の数射程度なら体も耐えられるだろう。至る所に死が存在する戦場で勢い勇んだ結果、気を失ってしまいましたぁては洒落にならんからね。



「だから!! 私が先頭を歩くの!!」


「私が先導しますのでマイは私の後ろに付いて来て下さい」



 朱と藍色が仲良く喧嘩を始め、早足で目的地へと向かって歩み進める事数分。


 静かな森の中で発生する音としては酷く似つかわしくない騒音が鼓膜を刺激した。








「ギィィヤァァァァアアアア!!」



 奴の雄叫びが周囲に生え伸びる木々の枝で翼を休める鳥達へ恐怖感を与え。自らの危機を察知した鳥達が四方八方へ一斉に飛び立って行く。



「全く、他人様の庭で派手に暴れていますわね」


「アオイの言う通りだ。主、仕掛けるぞ」


「了解だ」


「さぁって……。二体目の御馳走を平らげるとしますかぁ……」



 死を司る神の背筋を泡立たせるおっそろしい笑みを浮かべた朱の髪の女性の後ろに続き、化け物の圧を感じる場所へと移動を開始したのだが。



 何だ……??


 このもう一つの強い力は……。



 先程の化け物の雄叫びが放たれたと同時に出現したもう一つの力に違和感を覚えてしまう。



 誰かが戦っているのだろうか??


 あの化け物相手に単騎で対応出来るのは、俺が知る限り二名。


 一人は一族を纏める地位に在られるフォレインさん。そしてもう一人は……。




「――――。そこまでですよ?? 大きな化け物さん」



 そう。


 彼女の右腕を務める重臣、シオンさんだ。



 まるで新雪の様な美しい白さを誇る鞘を左腰に携え。


 開いた空間の中央に立つ化け物の目の前で、奴が放つ圧に臆する事なく悠然として立ち塞がっていた。



「グルルル……」


「……」



 強烈な圧を放ち化け物を牽制しているかと思いきや……。その立ち姿は朧気で儚く、しかし確実にそこに存在する。



 あの姿を例えるのならば……。


 掴もうと手を伸ばして決して掴めない、宙に漂う霧に似たような感覚だな。



「グ……。ム……」



 彼女の得体の知れない力を感じ取ったのか。


 化け物は最大級まで警戒心を強め、その巨躯を強張らせている。そして、奴の右手首に違和感を覚えた。



「ちょっと、何であの化け物右手をちょん切られているのよ」



 あの戦闘に加わる事を躊躇ったのか、マイがそう話す。


 俺達は木々の合間から両者の様子を見守っていた。



「あたしが知った事か」


「ちゅ、ちゅめた!! それが親友に掛ける言葉なの!?」



「アオイ。あれって……」



 多分、そういう事だと思うけど……。



「彼女が切り落としたのでしょう。愛刀、細雪で」



 あの白い鞘の中に収まる刀の名は細雪というのか。


 アオイの髪の様に美しい白き鞘だよな……。遠目で見ても思わずほぅっと頷きたくなる美しさに目を奪われていると。



「グググ……。グゥッ!!」



 化け物が恐怖に縛られまいとして一歩を踏み出そうとした。



「それ以上進めば容赦はしません。命が惜しければ……。大人しく引き返しなさい」



 シオンさんが左手を白き鞘に添えた刹那。



「「「っ!?」」」



 まるで鋭利な刃物を喉元に突きつけられた感覚が襲った。


 隠す気配すら無い明確な殺気、とでも言えばいいのか。


 シオンさんの瞳に力が宿ると同時に体中の肌が泡立ち、背筋に大変冷たい一筋の汗が流れ落ちた。



「ちょっと……。何て力よ」


「あぁ。どうやら私との組手では半分の力も出してなかったようだな」



 マイとリューヴ、いや。この場に居る全員がシオンさんの力を受けて顔を顰めている。


 ある程度の力を持った者さえも慄く殺気、ね。



 あの殺気を解放したら一体どうなるんだ??



 見たい様で、見たく無い様な……。



「助けに行かなくてもいいのか??」



 ユウが小声で誰とも無しに声を上げる。



「丁度良い機会ですわ。シオンの実力、とくとご覧下さいまし」



 まるで自分の身内の功績を自慢する様な声色で、アオイがちょっと得意気に言葉を漏らす。


 距離を置いていると伺ったけども、やっぱりシオンさんの事が好きなんじゃないか。



 本当に毛嫌いしているのなら。



「はっ。テメェが強い訳じゃねぇんだからな??」



 そうそう。


 あぁ、やってドスの効いた声色を放つのですよ。



「アオイがそう言うなら見に徹するけど。シオンさんが危なくなったらいつでも飛び出せるよう準備しておいてくれ」



 さぁ……。始まるぞ!!



「グルアァ!!!!」



 自分より小さい相手に臆した己の弱気な心を鼓舞するように巨体が雄叫びを上げると、波打つ音の衝撃波に鼓膜が大きく震えてしまった。


 あれを間近で聞かされれば鼓膜が破られてしまうのではないのか?? そんな杞憂を与える咆哮だ。



「弱い者程、良く吠えますねぇ」



 シオンさんが嫋やかな声色で傍迷惑だと言わんばかりに怪訝な表情で巨体を睨み返す。



「ガァアアアア!!!!!」



 最大限にまで高まった怒りを携え、巨体が地面を揺らしながらシオンさんへ最後に残った己の左手を前に翳して向かって行った。



「――――。さて、見学している人達もいる事ですし??」



 あれま。


 やっぱりばれていましたか。



 固唾を飲んで戦況を見守る此方へ一瞬だけ、長い前髪に隠された優しき視線を送ってくれた。



「私の力の片鱗をお見せしましょうか」



 白き鞘に左手を優しく添え、腰を深く落とし。


 右手で刀の柄を掴んだ刹那……。




「「「っっ!?!?」」」



 アオイを除く六名がその場から一歩後退してしまった。


 いや、後退せざるを得ないと言った方が正しいか……。



 何て恐ろしい圧と殺気だ。


 首が切り落とされたかと思ったよ……。



「べ、別に!? ビビった訳じゃないのよ!? これは……。そう!! 食前の軽い運動だからっ」


「問題はそれが此処迄届くという事だ」



 戦闘の才に恵まれたマイとリューヴを後退させる力、か。


 シオンさんが言う通りならば、これでもまだ片鱗なんだよねぇ。


 力を解放したら一体どうなる事やら。



「バァアアアアアアアア――――!!!!!!」



 巨体が突進の推進力、そして激情を力に変え左腕を上げて襲い掛かる。


 あの常軌を逸した巨躯、そして力の波動。


 相対するだけで常人なら尻すぼみしてしまうだろう。


 しかし、シオンさんは臆する処か呼吸も乱れていない。まるで静かな水面に映る朧げな月の様に澄んでいた。



 そして、巨体の攻撃がシオンさんの細い体に届くかと思われた時。彼女は静かに腰を落とし、敵へ雷撃を放つ姿勢を構えた。





「悪しき魂を焼き尽くす地獄の火炎よ、我が刃に宿れ……。勝利の煌めきを求めよ、らば与えられん!!!!」


「ガァァァァアアアアアア!!!!」



 化け物の脅威が眼前に迫っても彼女はその姿勢を一切崩す事無く構え続けていた。


 見ている者の肝を冷やす刹那に思わず叫びそうになるが、それは杞憂に終わってしまった。





冥獄紅蓮八刀みょうごくぐれんはちとう!!!!」





 抜刀すると同時に、空気をいいや。空間さえも断絶してしまう赤い一閃が迸る。


 シオンさんの俊足移動に合わせて大地の上を一陣の砂塵が駆け抜けて行き、彼女が化け物の背後へと到達。



「ふぅ。久々にこの技を使いましたね」



 白き鞘へ愛刀を納刀。


 刀の鍔と鞘が触れ合う美しい乾いた音が戦場に静かに鳴り響くと……。



「グッ……。アアッ……」



「まぁ、あなたには過ぎた技ですけど」



 分厚い装甲を誇る巨躯が、積み木が崩れるが如く地面へと崩れ落ちてしまった。



「「「は、はぁぁぁ!?!?」」」



 地面に横たわるドス黒い土よりも、使用した付与魔法よりも。


 何故巨体が無残な姿に変わり果ててしまったのか全く理解出来ないので周囲の者と同じく驚嘆の声を上げてしまった。



「ちょ、ちょっと待って。赤い一閃が迸っただけなのに……。何で細切れになっているんだよ」



 一刀なら胴体、若しくは両足の切断が限界な筈なのに。



「ふぅん。あんた、初太刀見えたんだ??」



 マイが意外と言わんばかりに此方を見上げてそう話す。



「マイは見えたの??」


「途中までかしら?? 六……。いや七太刀までは目で追えたわね。」



 おいおい……。嘘だろ??


 何かが刹那に光ったようにしか見えなかったぞ。



「えっ?? 一回じゃないの??」


 俺と同じく、狐につままれた顔を……。



『何じゃ!? 儂が頬を抓んでやろうか!?』



 師匠が頬を抓んでしまったら顔面の肉が削げ落ちてしまい、呆気に取られる顔処か。苦痛で顔が歪んでしまいますのでどうか御勘弁を。



 呆気に取られた面持ちのルーがリューヴに尋ねる。



「一太刀であそこまで切り刻める訳なかろう。私もマイと同じ回数まで数える事が出来た。遠目で助かったぞ」



 マイとリューヴでも最後の一太刀を目で追えぬ速度の斬撃……。


 間近で食らったらきっと俺もあぁして細切れになっちまうんだろうな。



「あれはシオンの最強の技ですわ。刀に炎の力を宿し、相手に八回切りかかる斬撃ですわね」



「は、八回も??」



 アオイの放った驚愕の真実に自分でも上擦った声だと思える程の声色を出してしまう。



 シオンさん。


 血には勝てぬと申していましたが……。貴女は既に傑物をも越える実力を備えているじゃないですか!!


 ひょっとしたら師匠やエルザードに肩を並べる実力を持っているんじゃないのか!?



「お帰りなさいませ、アオイ様」



 巨体を完全に消滅させると、此方へ向かって軽やかに振り向く。


 そこには屈強な戦士の面持ちでは無く、柔和な顔付きのシオンさんが汗一つかかずに立っていた。



「只今戻りましたわ。お手を煩わせてしまいましたね」



「いえ、一体は皆様で片付けたのでお疲れかと思い。細やかながら助力させて頂きました」



 綺麗なお辞儀と同時に声を上げる。



「うん?? シオンさん私達の傍にいたの??」



 ルーが純粋な金色の瞳を彼女へ真っ直ぐに向けた。



「大変遠い距離でも貴女達の強き力は確知出来ますので。恐らくそうかと」



 成程、そういう事でしたが。



「しかし、凄い技ですね」



 シオンさんの白き鞘へ視線を送りながら話した。



「ふふっ、褒めて頂き光栄です。しかし……、これでもまだフォレイン様の足元には及びません。まだまだ力不足です」



 いやいや……。シオンさんで足元に及ばないのなら、俺達なんて。


 以前師匠が仰っていた通り、武の世界は正に天井知らずだな。



 強き者が現れれば、その者より更に強き力を持った者が現れる。全く……。末恐ろしい世界だ。



「さ、皆さんお疲れでしょう。食事の用意が出来ていますよ??」


「やった――!! ユウちゃん行こうよ!!」


「あぁ!! 久々にお風呂入ってさっぱりしたい!!」



 洞窟の方角へと足を向けたシオンさんの後に浮かれた様子の二人が続く。



「レイド、行きましょうか??」


「あ、あぁ。うん、わかった」



 シオンさんの常軌を逸した力に微かな嫉妬を覚え、更なる力を得る為。身の毛もよだつ鍛錬をこの体に与えてやろうと人知れず心の中で小さく誓い。


 いつも通りの表情と、歩幅で進んで行くカエデの後ろに続いて行った。






 ――――。



「何だろう。この気持ち」



 私の心の中に何か言い現し様のない暗い気持ちが渦巻いていた。


 きっと、前髪姉ちゃんの力を目の当たりにしたからだろう。



 私は世界最強を目指す傑物なのだが……。お前の力は今現在、取るに足らない位置にあるのだぞ?? と。


 まざまざと見せつけられたみたいだ。



「マイ、分かっている。実力の差を見せつけられて悔しいのだろう。安心しろ、私も同じ気持ちだ」



 リューヴの言う通りかもね。あの高さに這い上がるまで一体どれだけの時間が掛る事やら。



 ったく。


 両親、そして姉さんが言っていた通り。世界はとんでもなく広いわ。



「もっと強くなり、誰からも頼られる。そんな人物に成長したいものだな」


「そうね」



 目標は高い方が良い。


 そして、その目標を目指す者は私達の周りに幾らでもいる。互いに鍛え切磋琢磨すれば自ずと高みも見えてこよう。


 頂点に至るまで歩みは止める訳にはいかないわね。



「お――い!! 置いて行くぞ!!」


「分かってるわよ!!」



 ボケナス。


 あんたが戦闘面で私を頼りにしてくれている事は知っている。けど、まだその信頼に応える実力は有していないと思う。



 修練を重ねて誰よりも強くなってやるわ。


 その日が来るまで私は止まらないわよ?? だからあんたは私の体の疲労を拭い去る為に飯を炊いていればいいのよ。



『俺は飯炊きじゃない』



 ははっ。


 いつも通り溜息を付きつつも、ちゃんと飯を炊く姿が容易に想像できるわね。でも、私はそれでもいいと思う。



 どんなに辛い出来事でも、気の合う仲間となら越えていけると思うから。



「はぁぁんっ、レイド様ぁ……。またまた足が縺れてしまいましたわぁ……」


「ちょっと!! 何でそんな都合良く足が縺れるんだよ!!」



 ほぉ??


 どうやら齧られ足りないみたいね??


 その心の奥底に払拭出来ない程の傷跡を刻んでやりますかねぇ……。



 指先に力を込め、鋭い爪を伸ばして首を二度三度左右に傾けて乾いた音を放つと。



「っ!?」



 獰猛な野獣を発見した危機感が満載された草食動物の目みてぇにボケナスの瞳がきゅっと見開かれた。



「ア、アオイ!! 退いて!! お願いだから!!」


「あっ、んっ……。そこは駄目で御座いますわぁ……」



 二体目のお仕置きが叶わなかったし?? 何だか腹が立つし!?


 いつもより三割増しでお仕置きを食らわせてやろう。



 地面の上でアンアンワンワン叫びながら転がり回る黒と白へ目指し。


 私は野郎に恐怖感を植え付ける為に敢えて!! ゆるりとした歩調で進み行き。


 この素晴らしい龍の爪をてめぇの腹にぶち込んでやるぞ?? と。背後から射す茜色の陽に翳して強調してやった。




最後まで御覧頂き有難う御座います。


そして!!


ブックマークをして頂き誠に有難うございました!! いよいよ第二章の大詰めへと向かう中、執筆活動の嬉しい励みになります!!



蜘蛛の里から帰還後、第二章の最終話が始まります。


更なる強敵、更なる危機。


彼等を待ち構えている冒険を是非とも楽しんで頂ければ幸いです。


それでは皆様、おやすみなさいませ。

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