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第百二十六話 足りない攻撃力は体力で補う その一

お疲れ様です。


本日の投稿になります。


それでは、どうぞ!!




 熱気溢れる戦場に響き渡る戦士達の咆哮が体の奥に存在する戦意を高め、魂が熱く燃え盛る。


 互いに互いを鼓舞し、体力面の不安を感じさせない熱き士気が完成。


 しかし。


 俺達の鼓舞する心が相手の敵意を悪戯に高めてしまったのか。デカブツが巨大な黒き瞳の視界に映る者達へと向かって手当たり次第無作為に攻撃を開始してしまった。



「ガアアアア――――ッ!!!!」


「うおっ!? あぶねっ!!」



 鼓膜が辟易する叫びが放たれると、大人の体よりも遥かに巨大な拳が空気の塊を吹き飛ばしながらユウの頭上を通過。



「おらぁ!! 掛かってこいやぁあああ!! 無駄にデカイ黒豚野郎!!」



 黄金の槍を中段に構えるマイの方へと向かって行った。



「グォォオオッ!!!」


「でやぁっ!!」



 堅牢な大地を抉り取る破壊力を持つ拳を宙へ飛んで回避。



「満点の着地っ!! えっほえっほ!!!!」



 そして何を考えたのか、知らんが。


 化け物のド太い腕に着地するとそのまま肩口まで黄金の槍を握り締めて駆け上がり始め。



「リューヴ!!」


「了承した!!」



 その意図を汲んだリューヴが左腕に颯爽と舞い降り、彼女と同じ速度で登り始めた。



「マイ!! 同時に打つぞ!!」


「おう!! いくわよ!!」



「「はぁぁああああ!!!!」」



 黄金の槍の穂先が弧を描き、漆黒の鉤爪が美しい直線の軌道を描いて岩石並みの硬度を誇る顎へと到達。



「ゴァッ!?!?」



 着弾すると同時に想像以上の鈍く硬い炸裂音がこの位置まで届いた。



 近接攻撃に特化した両者の一撃。



「グ……。ム……」



 分厚い装甲を持つ巨大な体でも彼女達の攻撃力を受け止めきれなかったのか、巨木と等しき太さを誇る両の足が微かに揺らいだ。



 はは、すっげ……。



 的確に敵の弱点を見付けて穿つ戦闘の才。


 言葉少なくとも息の合った意思の疎通。



 天才的な戦闘能力を持つ二人の攻撃についつい見惚れてしまいますが、これで当然攻撃は終わりを告げる事は無く。



「ルー!!」

「ユウ!!」



 不安定な足元。


 その様子を確認した天才二人が同時に叫んだ。



「分かってるよ!!」

「あいよぉ!!」



「「でぇぇええい!!!!」」



 ユウの鋼鉄を纏った右の拳が巨体の右の膝裏を、そしてルーの全体重を乗せた烈蹴が左の膝裏を襲う。



「グガァッ!!」



 関節の裏側を攻撃された巨大な体は自然の法則に従い、重心を崩して地面に膝を着く。



 ここだ!!!!


 見えたぞ!! 敵の隙が!!



「重厚なる水の力。我の前にその力を示せ。重水槍アクアヘビーランス!!」


「火よ。無慈悲にそして苛烈に……。敵を撃ち滅ぼせ。乱れ牡丹!!」



 カエデが宙に浮かべた水色の魔法陣からは巨大な水の槍が巨体に向かって降り注ぎ、そしてアオイが浮かべた朱の魔法陣からは空気を焦がす熱量を持った複数の火球が現れ巨体へ向かっていく。



「くらぇぇええええ!!!!」



 マイ達が生み出してくれた好機を見逃すまいと抗魔の弓の弦を強く引き、ほぼ無防備状態の胸の中央へと目掛けて穿つ。


 弦を離した刹那。



「うっ……!!」



 常軌を逸した虚脱感が体を襲い、甘い顔を浮かべて手招きをしている大地へ膝を着きそうになってしまった。



 頼む、効いてくれよ!?



 崩れ落ちてしまいそうになる情けない体に喝を入れ、奥歯をぎゅっと噛み締めてその場に留まり。


 後衛達の攻撃の行く末を見守った。


 二人の素晴らしき力が籠められた魔法と、熱き想いを乗せた朱の矢が着弾すると同時。



「グルァァアアアア!!!!」



 森の中に張り巡らされた木々の根を揺らす程の衝撃波が生じ、化け物が漸く天を仰ぐように後方へと倒れ込んだ。



「よっしゃ!! 一回倒れたわね!!」



 黄金の槍を誇らし気に肩へ担ぎ、巨体を細かく痙攣させている化け物の姿を満足気に眺めてマイが話す。



 たった一回倒すだけにかなりの体力を消費しちまったよ……。


 果たして後何射出来る事やら。



「今の連携。見事なものだ」



 リューヴがマイと肩を並べ、腕を組んで話す。



「ね!! 皆息合っていたしさ!!」


「これでこいつも…………。まぁ、そうなるよなぁ」


「グゥゥゥ」



 巨体が鈍重な速度で上体を起こし、怒りの炎を宿した瞳で睨みつけて来る。



 これまでの攻撃は何ら効果を与えないモノだったのかと、思わず深い溜め息を零しそうになるが……。分厚い胸には初撃とは異なり。


 俺達が与えた攻撃の威力を物語る深い傷が刻まれていた。



「傷は付く。それなら倒せるな」


「えぇ。何度でもブッ倒してやるわよ!!」



「ギャアアアアアアァアァアアァ!!!!!!」



 化け物が己を鼓舞するように雄叫びを放ちその見た目よりも素早く立ち上がる。



 この野郎。


 これだけ傷つけても戦意を喪失しないのか!!



「グググ……。アァッ!!」



 体の奥底から込み上げて来る怒りに身を任せて後方の森へと向かい、何を考えたのか。


 大地に深く根を張る巨木を根元から引っこ抜くではありませんか。



「はは、中々の力持ちじゃん」



 怪力無双のユウが目を丸くする程の膂力がお披露目されると。



「バァァアアアア!!!!」



 右脇に抱え込んだ巨木をユウ達に対し、地面と平行に薙ぎ払った。



「あぶなっ!!」



 ルーは咄嗟に伏せて巨木の一撃を躱すが……。



「へへっ」



 巨木の攻撃範囲に身を置くユウはペロリと舌なめずりを始め、回避行動を取る処か。


 鉄を纏わせた拳を力の限り握り締め、常軌を逸した攻撃が届くのを待ち侘びていた。



 ま、まさかね……。



「来やがれ!!!! あたしと力比べだ!!!!」



 いやいや!!


 避けましょうよ!!



「ユウ!!!!」



 彼女の無茶を通り越した無謀な行動に対し、回避行動を取れと注意を含ませた声色で叫んでやる。



「ずぁぁああああああ!!!! ド根性ぉぉおお!!」



 両足を肩幅に開き、深く腰を落として重心を確保。


 一階建て民家の外壁の高さを誇る巨木に向かって、思わず惚れ惚れしてしまう筋力を備えた腕の先に存在する鉄の拳を叩き込んだ!!



 両者の攻撃が衝突すると、耳を疑う程の轟音が戦場に響く。



 鉄の拳は巨木を砕き、真っ二つに粉砕したが……。



「どわぁぁっ!!!!」



 彼女の体は相殺した衝撃によって紙屑の様に後方の森へと吹き飛んで行ってしまった。




「ユウ!! この野郎!!」



 普段の数倍の力を込めて弦を引くと矢が朱を増し、稲妻を纏った様に白き閃光が迸り力の片鱗を体現する。


 さぁ、俺の体力を存分に食わせた矢だ……。



「食らいやがれ!!」



 弦を放つと矢は空気を切り裂き照準通り。左胸へと一直線に飛翔する。



「ギャッ!!」



 巨体が短い悲鳴を上げると、左胸に深々と朱の矢が突き刺さった。


 この力なら突き刺さるか……。



「はぁ……はぁ……」



 たかが三射しただけなのにこの疲労感……。


 こいつを倒すのに何射必要なんだ??



 えぇい!! 考えても仕方が無い!! 倒れるまで射るのみ!!


 怒り狂う巨体に向け、再び弦を引く。



 こいつは右利きだ。


 それなら利き腕である右腕の付け根を狙ってやる!!



「もう一つっ!!!!」



 渾身の力を込め、弦を放つと猛烈な虚脱感が体を襲う。


 うぐっ……。あ、あぶねぇ。


 思わず意識が飛ぶところだったぞ。



 俺の体力を根こそぎ奪った矢は狙い通りに的へと直進して行く。



 良し!! 


 そのまま付け根に着弾しやが……。



「グアッ!!」


「っ!?」



 こ、こいつ!!


 矢が見えた瞬間、咄嗟に左肩を前に出しやがった!!


 利き腕の自由を奪われまいとした行動から察するに、只の木偶の坊じゃなさそうだな。



「グ……。ア……」



 俺の全力を込めた二射を受け、その効果が如実に現れている。


 今にも力尽きて膝を着きそうだ。


 後一押し……。


 今にも横たわりそうになる体へ鞭を打ち、弦を引いて巨体へ照準を定めてやる。



「コォォォ…………」



 巨体が何を考えたのか、此方を正面に捉えると大きく息を吸い始めた。



 何だ?? 雄叫びでも上げるつもりか??


 どうせならあの馬鹿デカイ口に矢を捻じ込んでやろうと照準を定めた時、俺は目を疑った。



「ゴァアアアアアアアア!!!!」



 こいつは雄叫びを上げる為に息を吸い込んだんじゃない。



「ブァァァアアアアアア!!!!」



 どういう仕組みから知らんが。


 肺へ溜め込んだ空気を、炎の力に変える為に息を吸い込んだのだ!!


 巨大な口から炎の渦が吐き出され、地面の上をうねり。逃げ場は無いぞと伝えながら此方へと向かって来る。



「やっべぇ!!」



 化け物からある程度離れているが炎の勢いは凄まじく、瞬き一つ二つの間で直ぐそこまで接近。


 抗魔の弓を咄嗟に肩へと担ぎ、回避行動を開始したが。



「グォッ!!!!」


「いぃっ!?」



 何んと!! 


 俺の動きに合わせて首の角度を器用に変え、炎の軌道を変えるではありませんか!!



 眼前にまで迫った炎の熱が髪を焦がし、独特の煙の臭いが立ち込めた刹那。


 慣れ親しんだ声が森の奥から響いた。






「――――――。大地烈斬アースクエイク!!!!」



 此方の体を焦がそうと襲来する巨大な炎の波が森から押し寄せて来た岩山の波によって行く手を阻まれ。彼女の素晴らしい攻撃が灼熱の炎の直撃を防いでくれた。



 今のは本当に危なかった……。



「ユウ!! 助かったよ!!」


「へへ、気にするなって!!」



 森の中から悠々と大戦斧を担いでくる彼女は服にこそ汚れは目立つが、目に付く怪我は見られなかった。



 あんな風に吹き飛ばされて無傷とはね。ミノタウロスの血は伊達じゃないってか。



 さて!! ここからが正念場だ!! 体力が底を尽くまで戦い抜いてやるよ!!








 ――――。




「どう?? まだいけそう??」


 ちょいと疲れと汚れが目立つ我が友人へと問う。


「全然余裕。お、レイドの矢が効いてるじゃん」



 ユウの話す通り。


 私達四人の前に立つ馬鹿デカイ黒豚はボケナスが放った矢の効果によってかなりの痛手を受けた様で??



「グ……。ググ……」



 もう二、三発ぶん殴れば気持ちよぉく眠りそうなのよねぇ。


 但し!!


 私達の体力も結構ヤバめなのだ。



 通常の状態で会敵したのなら私の超最高な一撃でぶちのめせるのだが、如何せん。満足に食事も摂れず且、長きに渡る緊張感を携えた偵察と移動。


 並びに下々の部下の面倒で疲労が溜まっているのだよ。



 いやぁ――。


 やっぱり上に立つ者は疲れるわねぇ。


 肩、コッリコリ。お腹ペッコペコだもの!!



「あぁ、もう一押しなのだがあの巨体だ。その一押しが苦労する」


「ガァッ!!」


「本当だよ。もうクタクタ……。わわっ!!」



 お惚け狼目掛けて巨大な拳が振り下ろされるが、速さに勝る彼女には最早当たる気配さえ無い。


 だが巨体の速さは鈍っているけども、厄介な馬鹿力は健在ね。



 ほら、地面ちゃんがひぃひぃ悲鳴を上げてへっこんじゃったし。



「カエデと蜘蛛が何とかするでしょ。私達はそれまでこいつを弱らせるだけよ」


「へいへい。前衛は辛いですねぇ」



 そうは言ってもユウさんやい??


 どうしてニヤニヤしてるのかしら??



 強敵と対峙、しかもこちらは万全の態勢では無い。


 このちょいとした危機感を楽しんでいるんでしょうね。



「ガグアァ!!」



 巨体がユウを見つめると一際大きな声を上げて己を鼓舞する。



「お!! あたしに木を壊されて怒っているのか??」



 武器を破壊されたお返しと言わんばかり右の拳を天高く振り上げ、ユウの体へ打ち込もうと力を溜めている。



 隙だらけの構えにちょいと既視感を覚えますけども。


 うちの力自慢と力で張り合おうなんて烏滸がましいのよ。



「上等!!!! お前の力は大体分かった。真正面から正々堂々とぉ!! 打ち返してやるよ!!」



 それに対し、怪力無双の親友が左肩を前に。


 そして、右足を軸にして大戦斧を正面へ打ち込む構えを見せた。




「ユウさんやい」


「何だい?? マイさんやい」


「一発ぅ派手に打ち返してやりなさいっ!!!!」


「おぉぉう!!!! 地平線の果てまで打ち返してやらぁ!!」



「あのね?? ユウちゃん。ふつ――は避けるものだよ??」



 私達のいつものやり取りの後。


 お惚け狼が呆れた声を口から零した刹那。



「グルルァァアアアア!!!!」



 ほぼ二階建ての大きさの拳が天より降り注いで来た!!



「はああぁぁ!! ひっさぁぁつ!! 猛烈一刀打法チカラマカセウチ!!」



 大地から左足をクイっと上げ、全体重を右足へ乗せ。両腕の筋力が鈍い音を立てて大膨張。



「んがぁぁああッ!!!!」



 でけぇ拳がユウの体の前に届くと彼女は左足を素早く地面に着け。腰の回転と両腕のアホみてぇな腕力で大戦斧を、独楽を回す要領でクルっと回転しつつ振り抜き。


 分厚い刃の先にある刃面で拳を迎え撃った!!



「吹き飛びやがれぇぇええええ!!」


「ギィィヤアアアア!!」



 激しい衝突音と共に化け物の指が数本吹き飛び、巨大な腕が衝撃によって後方へと弾かれてしまった。



「よっしゃああ!!!! 見事に打ち抜いてやったぞ!!」


「良くやった!! 後でヨシヨシしてあげるわ!! リューヴ、ルー!! 行くわよ!!」



 ユウが作ってくれた好機を見逃す訳にはいかない!!



「やぁぁああ!!」


「ずああああぁ!!」



 ルーとリューヴが巨体の膝から駆け登り、腹部へ拳と爪の連打を繰り出す。



「ウ……。グ……。アァ……」



 息の合った連打と豪打によって徐々に頭が下がり、体がくの字に折れ曲がって行く。



 ほっほ――!!


 丁度良い高さに降りて来たじゃあありませんかぁ!!



 ここが私の見せ所よね!!!!



「どおぉぉりゃああああ!!」



 化け物の真正面から黄金の槍を掴んで上空高く飛び上がると、落下の速度。


 そして上段から勢い良く振り下ろす速度を合わせた合力によって得た破壊力を化け物の顔面へ向かって鋭く振り下ろしてやった。



 この感触……。



「クァギャ――!!」



 うっし!!!!


 手応えありっ!!



 化け物の右目に深く刻まれた斬撃の跡が私の力を証明していた。



 さぁ、前衛のお膳立ては終了したわよ!?


 後衛の野郎共!!


 一発ド派手にブチかましなさい!!!!



最後まで御覧頂き有難うございました。


それでは皆様、お休みなさいませ。

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