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第百二十五話 既視感を覚える大きさ 

お疲れ様です。


本日の投稿になります。


それでは御覧下さい。




 アオイと共に先頭を歩んでいた我等が分隊長殿が緊張感を持った声色を放つ。


 その小さな背中からは強い警戒色が放たれ、異常事態を察知したと物言わずとも此方にそう伝えていた。



「何か……。居るのか??」



 足音を立てずに二人の背後へと到達。


 蚊の羽音よりも小さな声量で静かにカエデとアオイの背に問う。



「強い力を感じ取りました」


「えぇ、私も今感知しましたわ。この先……。数百メートル先に一体」


「更にその先にも一体います。その個体は真っ直ぐアオイの里の方角へ向かっているかと」



「里へ!?」



 魔力に長けたカエデとアオイが警戒するという事はそれなりの力を有している筈。


 そんな力を持った個体が二体も向かっているのなら蜘蛛の兵士さん達に被害が及んでしまうかもしれない。


 俺達で対処すべきか??



「どうする?? 今此処で対処するか??」



 可能であれば、の話ですけども。


 食料が底を尽き、長きに渡る移動、そして偵察の任を承っているという緊張感から疲労が蓄積され万全の状態とは言い難い。


 それでも……。


 シズクさんやシオンさん、そしてフォレインさん達が住む故郷を荒らす愚か者の存在は看過出来ないよな。



「近くの一体は動く気配がありません。幸い、向こうは此方の存在に気付いていません。背後から奇襲、そして殲滅するには格好の位置です」



 可愛い顔して、さらっと怖い事言うよね。



「さて、皆さん。最終局面を迎えた訳ですけど。如何しますか??」



 カエデが藍色の髪をフルっと揺れ動かしながら此方へと振り向き、真剣な眼差しで問うた。



「勿論俺はカエデの案に賛成だ。アオイの里の方々には大変お世話になったからね。その恩返し、じゃあないけども。今此処で死力を尽くすべきだ」


「レイド様……。それは私への求婚と捉えても宜しいでしょうか……??」



 アオイが大きく開いた着物の胸元の前で手をキュっと組み、ちょいと潤んだ瞳で此方を見上げていた。



 御免なさい。


 求婚、更にはきゅうって単語は一文字も話していないよね??


 どこをどう間違えたらその答えに辿り着くのか。時間が在る時に一度尋ねてみたいものさ。




「皆がいいって言うなら私も頑張るよ!!」


「彼女達には世話になった。そして、この機を逃す訳にはいかんな」


「あたしも乗った!!」



 ルー達は賛成、ね。



「おい、お前さんはどうする??」



 ユウが魔境へ大胆、そして唐突に手を突っ込み。その中から囚人を引っ張り出して茶の大地へと無造作に放り捨てた。



「アペチッ!? う、うぅぅぅ……。よ、良かった……。良かったよぉ――……」



 良かった??



「い、い゛ぎでる!!!!」



 そりゃよう御座いましたね。



 魔境の中はこの森よりも湿気に溢れていたのか、深紅の外皮がより赤みを帯び。その姿はさながら、熱湯から掬い上げ出来立てホヤホヤの蟹って所だな。



「ゼェハァァァ!!!! 空気がんまいっ!!!!」


「よぉ、この先に強い敵が二体居るんだ。準備は出来ているか??」



 若干涙目の姿でこれでもかと新鮮な空気を肺へ取り込んでいる龍へ向かってユウがそう話す。



「勿論行く!! だが、先ずはあんたの馬鹿げた肉から!! これでもかと塗りたくられた汗を洗い落としてからよ!! ってな訳で!! カエデ!! 水っ!!」



 人に頼む時の態度というものを彼女は習わなかったのだろうか??



「……」



 ビッチャビチャに汗をかいている龍から依頼を受けた海竜さんが無言で淡い水色の魔法陣を浮かべると、冷涼で範囲の狭い滝が出現した。



「おっひょ――!! ちべてぇ――!!」


「フォレインさん達の被害を少しでも減らしたい。近くの一体を殲滅、それから先行している個体に追いつくぞ。異論はあるか??」



 滝の冷たさが心地良いのか。


 いつもよりも三割増しで尻尾を振り続けながら滝行を続ける龍を放置して各々の表情を見渡すが異論は無い様だ。



「ぷはぁっ!! ふぅ!! さっぱりした!!」



 人の姿へと戻り、たっぷりと潤った深紅の髪を一つ大きく揺らすと。豊潤な髪の先端から飛び散る水飛沫が美しい弧を描き。



「マイちゃん。掛かったよ??」



 金色の瞳の狼さんの真っ黒な鼻頭に到達してしまいましたとさ。



「わりぃわりぃ。んで?? これだけ敵の前線から離れているから継承召喚してもいいのよね??」


「えぇ、いつもみたいに派手に暴れて下さい」



「いつもって……。まぁいいわ。大体の事は理解した!! とっととそいつらをぶちのめせば言い訳よね?? さぁ、行くわよ!! ノロマな亀共!! 我に続けぃい!!」



 マイの言う通り、先行している個体が存在する以上。手前の敵を速やかに排除する必要がある。


 口が悪く、本当に事の重大さを理解しているのか首を傾げたくなる台詞を放つマイであるが。戦闘に関しては頼り甲斐があるからねぇ……。


 普段の態度と戦闘時の信頼度の落差が激し過ぎて困惑してしまうよ。




「野郎共!! こっちだ!!」


「それでは行きましょうか。物音は立てない様に」



 アオイが静かに歩を進めると、俺達はそれを合図に朱では無く。白の後へ続いて進行を開始した。




 カエデ達が警戒をする強力な力を持った二体、か。


 二体の姿を想像する以前に、何故奴らはたった二体で侵攻を画策したのかが気になるよね??


 奴らは蜘蛛の兵士さん達から手酷い攻撃を受けてその侵攻を妨げられている。彼女達の強さが身に染みているってのにどうしてだ??



 その二体は劣勢を覆す程の実力を備えているのか、それとも只の愚か者なのか。



 前者の場合、苦戦は必至。


 そして、俺の願いとしては後者なのだがどうも嫌な予感が止まない。


 巷で噂されている言葉でこんな言葉がある。



『嫌な予感程良く当たる』



 正しく今の状況に酷く似合う言葉ではありませんかね??



 ど――か良い方向に予感が当たりますように!!



 祈る神は居ないが、誰でも良いからこの言葉が届けと念じて進んでいるとアオイがシオンさんの無音歩行を彷彿させる歩みを止めた。




「あらあら……。これは……」



 前方の茂った森を見ると言うよりは木々の頂点を見上げる、彼女の視線はそんな斜線を描いていた。



「アオイ、どうした??」



 彼女の様子が気になり、少々速足でアオイの隣へと並んで尋ねる。



「上を御覧ください」


「上……?? ブフッ!!」



 アオイの言葉を受け、彼女の視線の先を追うと思わず盛大に吹いてしまった。



 そりゃそうだろう。



 背の高い木々の間から、その木々と何ら変わりない背の高さのオークの『頭部』 が確認出来たのだから。



 勘弁してくれよ……。


 何だよ、あの馬鹿げたデカさは……。




「おいおい、ありゃ何だ」



 ユウも俺と同じく目を丸くしてデカイ個体を見つめており。



「あれって。オークだよね?? おっき過ぎだよねぇ――」



 そしてどちらかと言えば能天気なルーでさえも呆れ果てていた。



 周囲に生え揃う木々の高さは凡そ十メートル程。


 そこから頭が飛び出る、という事はだよ?? 少なくとも木々より大きな体を有している訳だ。



 ほらね??


 嫌な予感って絶対当たるから嫌なんだよ!!



「なぁんか既視感があると思った。あの大きさ、あたしの両親と同じ位だ」



「え?? ユウちゃんのお母さんってあんなに大きくなかったよ??」


「怒るとモウモウ唸りながらデカくなるんだよ」


「あはは!! 牛さんだねぇ!!」



 クレヴィスを拳一つで吹き飛ばした時のフェリスさんもあれくらいの大きさだったな。


 酷く懐かしい光景が脳裏に映し出された。



「さて、どうする??」



 マイがデカブツを見上げながら誰とも無しに口を開く。



「皆さん、集まって下さい」



 カエデが地面にしゃがみ、俺達に分かりやすい様に巨大オークが位置する図を地面へ描き始める。



 そして俺達は円を描くようにカエデの周りに集まると、彼女と同じ姿勢を取り。器用に描かれて行く図を見下ろした。




「あれ程の巨体との戦闘は初めてです。速さ、力、どれも未知数です」



 大きな円を描き、その外円の近くに小さな内円を描き終え。此方を見つめながら話す。



「そこで攪乱させながらの戦闘を提唱します。先ずはルーとリューヴが前後からの挟撃で戦闘を開始します」



 大きな円の前後から小さな円へ向かって対の方角から矢印を描く。



「うん!! 頑張るよ!!」


「了承した」



「続いて、マイとユウが左右から相手の攻撃を抑える為に仕掛けます。先に出た二人を援護しつつ攻撃を加えて下さい」



 今度は小さな円の右側と左側から矢印を。



「あいよ!!」


「任せなさいって!!」



「最後に。レイド、私、アオイが三方向から開かれた空間へと出て。遠距離から魔法と抗魔の弓で相手を牽制しつつ仕掛けます」



 近距離に特化した四人を時間差で送り、隙が出来た所を魔法と矢で仕留める。


 うん、実に理にかなった作戦だ。



「第一波、第二波、第三波の波状攻撃です。第二波、第三波の方々は前の波の様子を確かめ。的確に敵の戦力を判断して攻撃を加えて下さい」



「え――。じゃあ私達が貧乏クジじゃん」


「案ずるな。私が前に出て奴の注意を引く。ルー、貴様は後ろでせせこましく吼えてでもいろ」


「うっわ。そんな事言うなら本当にキャンキャン吼えるだけにしちゃうよ!?」



「まぁまぁ。カエデの作戦は的確だ。第一波を任されたって事はそれだけ信用を置かれているって意味だよ。そうだよな?? カエデ」



 人の姿に戻った狼さん二頭の軽い喧嘩を宥めつつそう話す。



「その通りです。時間がありません、早速行動を開始しましょう」



 一つ大きく頷くと静かに立ち上がり、作戦行動開始の合図を放った。



「あんなデカ物、そうそうやる機会は無いわよ。腕がなるわねぇ」


「マイはどっちから攻める?? あたしは右側か??」


「折角だから右を攻めるわ!! ユウは左から攻めなさい!!」


「折角の意味が分からん」




「ルー、私が相手の正面から飛び出る。機会を窺い飛び出して来い」


「私が正面からでもいいんだよ!?」


「貴様では当てにならん」


「またそうやって!!」




 各自が配置、並びに戦闘方法について相談しているし。第三波役のカエデに一つ相談しますか。



「カエデ、俺はどこから矢を射ればいい??」


「そうですね……。マイの後方で待機、彼女が出た後から射れば宜しいかと」


「了解だ。皆、相手を一体だと思って気を抜くなよ。まだ先に一体いるんだ」



 士気が高まりつつある周囲をゆるりと見渡して言葉を発す。



「出来るだけ早く倒して追いつかなきゃいけない。危険だと思うけど皆の力、信用しているぞ」


「「「……」」」



 心に思っている事をありのまま伝えると、肯定の意味を含めて大きく頷いてくれた。




「では皆さん、配置について下さい。作戦開始です」



 俺達はカエデの言葉を合図に、緑に包まれた景色に同化する様に身を屈めながら移動を始めた。



 巨体から見下ろす視界はさぞ広い事だろう。しかし、ここが森の中で助かったよ。


 大木の影、背の高い茂み。身を隠す所はそこかしこに存在するからね。




「ほら、早く来なさいよ」


「お前さんが早過ぎるんだよ……」



 背の低さを活かし。


 ちょいと前屈みになるだけですっぽりとその姿を茂みの中に収められるのだから。



「到着っと……。おぉ――。奴さん、随分と暇そうにしてるわねぇ」


「自然豊かで平和な景色だからな」



 相手の右腕側に配置を完了させると、マイと共に息を顰めて大木の影から奴の動きを観察した。


 姿形は普段見るオークと変わらないが、問題はその大きさだ。



 森の開かれた空間に両の足を突きたて、時折暇そうにグルリと肩を回す。



 馬鹿みたいに太い両腕、巨大な体を支える丸太数本分の太さを誇る両足。あの姿を見て素直に浮かんだ感想が。




『遠近感が狂う獣』 だな。



 デカ過ぎて遠くで立っているのに随分と近くに居る錯覚を覚えてしまうよ。



 長い手足を活かした攻撃、並びに岩石をも噛み砕けそうな牙の一撃等々。


 危険な攻撃は容易く想像出来てしまう。


 唯一の救いは、武器を携帯していない事のみ。



 只、武器は所持していないとしても全身そのものが凶器だろうさ。



「なぁ」


「何よ」



 相手に聞かれないよう、小声で前方に鋭い視線を向けているマイへ話しかける。



「どうやって攻撃を仕掛けるんだ??」



 俺と違って近接攻撃が主体の彼女だが、流石に真正面から殴り合う訳ではあるまい。


 その証拠として。


 既に継承召喚を済ませ、右手に黄金に輝く槍を掴んでいるからね。



「ん――。その場の流れかしら?? 戦う時に一々考えていられないわよ」



 おいおい。


 大丈夫か?? 考え無しに突っ込んでもいい相手じゃなかろうに。



『皆さん、配置につきましたか??』



 頭の中でカエデの念話が響く。



『問題無い』


『着いたよ――!!』


『こっちも着いたぞ!!』


『いつでもいけますわ』


『ばっちりよ!!』



 さぁ、いよいよか。



『準備完了だ』



 各々が戦闘準備を終えた事をカエデに伝えると、抗魔の弓を持つ手に汗が滲む。

- 

 緊張感によるものなのか、将又。


 あの大きさの敵に対する恐怖感によるものなのか。


 いずれにせよ普段のそれとは比べ物にならない程、心臓が五月蠅く鳴っていた。



 これに飲まれるなよ??


 緊張しているのは俺だけじゃないんだ。それに……。万が一俺達が負けたらアオイの里に被害が及んでしまうのだから。




「――――。よぉ、ボケナス」


「何だ??」



 マイがこちらに振り向く。



「無理はしないように。あんたは後方から私達を援護してくれればいいから」



 成程。


 コイツなりの激励か。



「あぁ、前衛に出るとお前さんに殴られかねないからな」


「そういう事。一発派手にブチかますわよ??」



 右の拳を作り、此方へ向かって突き出す。



「了解だ」



 それに軽く合わせるとカエデの声が再び響いた。



『では、作戦を開始します。リューヴ、マイ。飛び出す機会はあなた達に任せます。他の方々はそれに合わせて行動するように』



『了承した』


『分かったわ。リューヴ!! 早く突撃しなさいよね!! 私は早く出たくてウズウズしているんだから!!』



 勇むマイに対し、此方はまだ少々弱気であった。


 この巨体をどうやって倒すのか、まだ頭の中に描けないでいるから。



 俺達の総攻撃で?? それともあの巨体の足元から崩す様に攻撃を仕掛けるべきか??



 纏まりそうで纏まらない攻撃方法に悩んでいるが。


 しかし、それとは対照的に。彼女の頭の中には既にそれが描かれているようだ。



「……っ」



 早く飛び出したいのか、今か今かとその機会を窺っている。そして、紅の瞳には戦意という名の炎が宿っていた。



 弱気は駄目だ……。


 心を強く持て。



 彼女に倣い気合を入れ直すと、今回の作戦の要であるリューヴの出現を固唾を飲んで待った。





 ――――。


 来た!!



 リューヴが正面から正々堂々と巨体目掛け疾走して行く。彼女の右手には既に鋭い漆黒の鉤爪を装備していた。



 風よりも速く、遠目でないと見失ってしまうのでは無いかと思われる程の速さに目を丸くする。



「リューヴの奴。また速くなっていないか??」


「あぁ――。まぁ、私程じゃないけどね」



 左様で御座いますかっと。



「グォォォォオオオオ――――!!!!」



 リューヴの姿を見つけるや否や、巨体が彼女を迎え撃つ為に上空に浮かぶ雲を吹き飛ばす勢いで雄叫びを上げた。



「「うるさっ!!!!」」



 何て馬鹿デカイ声だ!!


 叫び声だけで鼓膜が破れてしまう程の声量だぞ。



 巨体が右腕を大きく振り上げると、目を疑いたくなるような高さから拳がリューヴ目掛け振り下ろされた。



「遅いっ!!」



 容易く巨体の攻撃を見切り、素早く右側へ回避した。



 良かった、リューヴにとって奴の攻撃は遅過ぎる様だな。着弾する前に余裕を持って回避行動を取っていた事に安堵するが。



 空を切った拳が地面に着弾すると同時。


 地面の土塊が弾け飛び周囲の土が抉れて地面が微弱に揺れてしまった。



 見た目通りの破壊力だ。


 馬鹿力はユウにも匹敵するかもしれない。



「ルー!!」


「分かっているよ!!」



 リューヴは右足へ、ルーは背後から駆け寄り左膝の裏側を同時に攻撃。



「グルァッ!!」



 態勢を崩した巨体が虫を払うかのように腕を左右に激しく振る。



「あぶなっ!!」


「こっちだぞ!!」



 両者同時に襲い掛かる丸太を躱し、即座に拳を構えた。



「っし!!!! 行って来るわ!!」



 二人の様子を見守っていたマイが不意に声を上げる。



「気を付けろよ。相手の大きさは想定外だ、間合いに注意を払うんだぞ」


「言わずもがな!! じゃあね!!」



 素早く此方に視線を送り、別れの挨拶を済ませると。太陽の光が降り注ぐ大地へ向かって勢い良くマイが飛び出して行く。


 その背中は頼もしく、見ている此方に安心感を与えてくれる程であった。



 俺達が後に控えているんのだから無茶はするなよ??



「でやぁぁぁ!!」


「どぉっせい!!」



 左右からマイとユウの挟撃が始まる。


 右足には鋭い槍の突きを、そして左足にはユウの鉄拳が同時に直撃した。



「「かってぇぇええ!!」」



 想像以上に奴の装甲は硬く、両者の攻撃を跳ね除けると。



「ガァァアアッ!!!!」



 民家の外壁を彷彿させる大きさの拳をマイに振り下ろした。



「見えているわよ!!」



 余裕の態度と笑みを以て巨体の攻撃を躱し、奴の正面に立って堂々と槍を中段に構え直した。




「全く。硬いったらありゃしないわ」


「だな――。どうする?? あたしが前に出ようか??」


「冗談っ。私が前よ!!」


「いやいや、あたしが」



 あの攻撃でも通用しないのか。


 こりゃ強めに撃たないといけないな……。



『レイド、アオイ。行きますよ!!』


『畏まりましたわ』


『了解した!!』



 さぁ、デカブツさんよ。


 第三波の登場ですよ!!!!




「光の槍よ……。天より降り注ぎ悪を撃ち滅ぼせ。光重槍シャイニングジャベリン!!」


「風よ。無慈悲に敵を切り裂け!! 重ね鎌鼬!!」



 二人の同時詠唱が開幕し、重厚な光の槍と重なり合った空気の刃が巨体を襲う。



 今だ!!



「くらえぇぇええ!!」



 木の影から前方へと飛び出し、巨体の胸目掛け矢を放ってやった。



 威力十分の魔法、そして抗魔の矢。


 この同時攻撃だ。マイ達が与えた攻撃の効果もあり多少は痛手を負うだろう。



「グゥッ!?!?」



 三つの攻撃が相手に着弾すると同時に爆風が発生し、煙に包まれて敵の姿が視認出来なくなってしまう。


 敵が反撃してくる様子も無いし……。


 やった、のか……??



「おぉ――!! 凄い威力だ。これなら…………。あんれま。随分と頑丈な体で」



 ユウが目を丸くしている。


 それもその筈。煙幕が風に流され相手の状態が視認出来る様になると、その体の一部にしか傷を負っていなかったのだから……。。



「ゴルルルルゥ……」



 さも面倒くさそうに、埃を払うように胸を手で払っている。



「少しばかり傷つきました」


「えぇ、こうなったらもっと高威力の魔法を使用させて頂きますわ」


「皆さん。少しばかり時間を稼いで下さいね」



 巨体から最後方へと身を置き。二人がその時に備え、魔力を高め始めた。


 この間カエデ達は無防備。


 彼女達へ攻撃が与えられぬ様、体を張る出番が訪れたという訳だ。




「了解した!! 皆、聞こえたか!? 俺達が時を稼ぐぞ!!」



 物理、魔法。


 ちょっとやそっとの攻撃力では効果が薄い。


 彼女達の殲滅力に期待して時を稼ぐのか、それとも俺達だけで対処するのか。


 多大に悩む問題ですよね……。



「ググルルゥゥ……」



 巨大な口から放たれる異臭が風に乗って届き、此方の神経を逆撫でする。



「時を稼ぐ前にぶっ倒してやらぁああああ!!!!」



 お前さんはそう出ると思ったよ!!



「マイを軸に各自は適宜戦闘を開始!! 始めるぞ!!!!」



 さぁ……。


 本格的な戦闘の開始だ!!!!


 巨大な黒豚へと突撃を開始した朱の髪の女性の頼もしい後ろ姿に鼓舞され、右の指の肉が悲鳴を上げる力を以て弓の弦を力一杯引いてやった。




最後まで御覧頂き誠に有難うございます。


そして、深夜の投稿になってしまい申し訳ありませんでした。


それでは皆様、お休みなさいませ。

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