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第百二十三話 興味本位の接近は計画的に その二

お疲れ様です。


本日の投稿になります。


ごゆるりと御覧下さいませ。




 駆け足によって起こる激しい呼吸を繰り返す度に肺が悲鳴を上げてひり付く痛みを生じさせ、両の足には大人の体重程の子供がしがみ付き前へ進もうとする此方の動きを妨げていた。


 もうそろそろ足を止めちまえと甘い囁き声を放つ体に喝を入れ、弓兵が残した痕跡を懸命に捜索しつつ駆け続けているが……。


 自分が思う様な結果が得られないのが非常なる現実なのです。



「くそっ!!」



 カエデ達に偉そうな事を言っておきながら完全に相手を見失ってしまった。



「参ったな……。一体何処に行きやがった」



 視界が捉えるのは極々平和な緑一色の世界。


 しかし、他の五感はナニかを察知して心に不安を与えていた。



「――――。狙っているな??」



 何処からともなく放たれている目に見えない視線が体の一部に突き刺さり、奴さんの敵意が背筋の肌を泡立たせる。



 太い幹の影、大人の胴体程の枝の上、視覚を妨げる茂みの中。


 これだけ深い緑だ。幾らでも身を隠せる場所はある。



 深く、ゆるりとした呼吸を続け周囲の景色を隈なく捉えて行くが……。



「早々姿を現す訳にはいかないってか」



 あの強化された弓兵、かなりの知能を持っていやがるな。


 通常個体なら有無を言わさずに襲い掛かって来るってのに。コイツは俺の隙が生まれるのを、じぃぃっと息を顰めて窺い続けている。



 敵意と憎悪を含ませた視線が質量を帯び、俺の体に纏わり付く。そんな錯覚が止まない。



 何処から狙っているか知らんが、根競べなら大いに自信がありますからね!!


 さぁ、早く姿を現しやがれ。


 俺は此処に居るぞ?



 不用意に動くのは隙を生み出してしまう恐れがあるので、踏み心地の良い大地の上に確と両の足を突きたて。


 五感を研ぎ澄ませつつ、いつでも抗魔の弓を穿てる姿勢を整えた。



 目に映る物体、肌に感じる温度、鼓膜を刺激する環境音。


 全ての事象に神経を傾けその中から違和感を手繰り寄せるんだ。



 緊張感からか。


 鼓膜を等間隔に揺らす心臓の音が徐々に高まり、それと比例する様に体温も上昇してしまう。


 手に滲む汗がそれ相応の質量を持って地面へと落下するのと同時。



「……っ!!」



 ギギ……、と。


 大弓の弦が力強く引かれる独特の重低音を捉えた。


 此方から見て左前方へと視線を移すと、太い幹の影から此方の胴体に照準を合わせている醜い豚の顔を捉えてしまった。



「そこかっ!!!!」



 咄嗟に弓を構え、強化種の体を穿とうと構えたが……。



「シャッ!!」



 奴の大弓の方が僅かに勝った。



「うおっ!?!?」



 明確な殺意が籠められた矢が左頬を掠めるとほぼ同時に裂傷独特の熱さが発生する。



「ギヒヒ……」



 俺に一撃を加え満足したのか。


 人の感情を逆撫でる薄ら笑いを浮かべて森の奥へと再び姿を消してしまった。



「ま、待ちやがれ!!!!」



 姿を隠さずに正々堂々と勝負しろよ!!


 見えない所からコソコソ此方を窺いやがって!! 男らしくないぞ!!



 あ、いや。


 アイツ等に性別は無いからこの場合は男でいいのかな……。



 兎に角!!!! 待ちなさいよね!!



 姿を消失させた深い森の奥へと駆け続けていると、この我慢比べに終止符を打つであろう手掛かりを遂に発見してしまった。



「これは……。足跡、か」



 先端が二股に別れた豚の足跡が若干湿気を含んだ大地に親切御叮嚀にくっきりと刻み込まれている。



 そして足跡は等間隔に森の奥へと続いていた。



 かくれんぼが大好きな狡猾で卑怯な弓兵がこれ見よがしに痕跡を残すとは……。明らかな誘い、だよな??


 この先に罠でも仕掛けてあるのか??



「――――。ええい!! 考えても埒が明かない!!!!」



 奴の後を追わないとこれから先。背後から常に狙われる危険が伴う。


 それはカエデやリューヴにも等しく及ぶ恐れがある以上、例え罠だとしても俺には奴を始末する責務があるのだ。



「ふぅぅ……。よしっ!!」



 良いだろう、お前さんの罠に乗ってやるよ!!


 待ち構えているであろう見えぬ罠へと向かい、地面に刻まれている足跡を辿り始めた。



 足跡は等間隔に、そして規則正しく奥へと続いている。



 何て馬鹿真面目な野郎だ。


 もっとワザとらしく不規則に足跡を刻んだり、此方へ振り返る仕草を見せても良いのに。


 妙に既視感が湧く馬鹿真面目な足跡を辿り始め、凡そ十分程度進んだのだろうか。




 正面に開かれた空間が現れ、その中央を通る様に足跡は向こう側の森へと続いていた。



「さて、どうするか……」



 四方約十メートルの開かれた空間は奴にとって絶好の狙撃場所だ。


 森の向こう側で待機して、足跡を辿って開いた空間に現れた俺を狙い撃つ。


 絵に描いたような罠に俺が引っ掛かると思っているのか?? あの豚は……。


 しかし。


 待っていてもアイツは決してその姿を現さない。それなら、敢えて此方の姿を晒して燻り出してやるよ!!



「ふぅ……。うん、行こう」



 正面にあの醜い顔が浮かんだ刹那を穿つ!!



 集中力を極限にまで高め、一つ呼吸を整えると赤みを帯び始めた陽光が差す空間へと躍り出た。



「……」



 左右交互。


 爪先を大地に着け、指先の力で体を支えてそっと静かに踵を着ける。


 音を消し去る歩行を続けながら真正面の変化に即座に対応出来る様に弓を持つ手に力を籠めた。



 砂粒一つ程度の小さな変化も見逃すまいと。


 紫陽花の葉の上を這う蝸牛さんも思わず心配になって大丈夫ですか?? と。親切な御声を掛けて下さる慎重で鈍足な歩行で進んで行くと。



 心臓が猛烈に鼓動を早めてしまう事象が大地に刻まれていた。




「お、おいおい。嘘だろ……」



 向こう側までくっきりと続いていた筈の足跡が、森と開けた空間との間でプッツリと途切れていたのだから。



「考えたな!!」



 自分の足跡を踏んで引き返して、周囲の森の中に身を顰めやがったな!!



 足跡は向こう側まで続いているであろうと。人間の視覚と心理的錯覚を利用した罠にまんまと嵌ってしまった。



 何時、何処から襲い掛かって来るかも知れない狙撃に備え。咄嗟に身を屈めて態勢を整え荒ぶる心臓を宥めた。



 参ったぞ……。こりゃどこからでも狙い撃てる。


 正面の茂み、縦横無尽に広がる木の影、そして太い幹が伸びる頭上から此方の姿が丸見えだ。


 開いた空間に現れた俺に直ぐ矢を放たなかったのは、確実に射殺す為だろう。



「ふぅ……。ふぅ……」



 額に浮かんだ汗が頬へと伝わり、顎先に到達。


 五月蠅い心臓を宥めながらそれを右手の甲で拭い去った。



 何処だ……。何処から俺を狙っている??



 奴を追走してからずぅっと此方が後手に回っている。もう認めよう。


 アイツは人間並みの知能と狡猾さを備えていると。



 だがな??


 人間と魔物はお前達に屈する程、弱く無いんだよ!!



「すぅぅぅぅ――……。ふぅぅ……」



 強張っていた肩の力を抜き、自然体の立ち姿へと移行。


 荒々しく吹き荒れている我が脆弱な心の波を鎮める為。美しい自然の空気を胸一杯に取り込んだ。



 一切の凪が無い澄み渡った水面を心に写せ。


 何物にも決して乱れぬ心。


 それ即ち極光無双流の神髄也。



 師匠の教えに従い、美しい水面を心に投影。


 視界を閉ざして一切の凪が見当たらない水面の上に立つ己の姿を想像した。



 よし、良いぞ。


 集中力が高まって来た……。



「……」



 酷く暗い闇の中に澄み渡った美しい水面がその円を広げていく。


 広がっていくにつれて左手に持つ弓の触覚が消失し、肌を温める陽光が消え失せ、鼻腔を楽しませてくれていた森の香りが途絶えた。



 全ての感覚をこの水面に……。



 水面の上に立つのは己の体のみ。


 完全な静けさを構築したその刹那。




 左後方から産毛を揺らす程度の波が発生した!!


 それは本当に矮小な動き。


 しかし、確実に何かが波紋を生じさせたのだ。



「――――。そこだぁぁああああ!!!!」



 瞳を開くと同時に左後方へと振り返ると、此方の予想通り。



「ッ!?」



 太い木の幹の上から俺の命を奪おうと今にも矢を穿とうとする弓兵と対峙した。



「くらぇぇええ!!」

「ガァッ!!」



 互いの体に照準を定め、ほぼ同時に矢を射る。


 弓兵の矢は鋭く、そして正確に命を絶やす軌道で此方へと飛翔し。



「ぐあっ!!!!」



 殺意の塊が左肩に突き刺さり、痛さの余り弓を地面へと落としてしまった。


 だがな??


 多大なる犠牲を払った見返りは勝利という美酒に変換されたようだな。


 深紅の矢は相手の胸を確実に貫き、胸の中央に拳大程の穴が貫通していた。



「アァ……。ガァ……」



 己の胸に空いた穴が信じられない、と。


 刹那に驚愕の表情を浮かべてドス黒い土へと還り、大弓と仲良く肩を並べて地面へと落下して行った。



 ふぅ……。危なかった



 敵の罠に飛び込む真似は金輪際止めだ。


 危険過ぎて命が幾つあっても足りないよ……。



「いてて……」



 地面に横たわり、早く拾い上げて欲しいと此方を見上げる抗魔の弓を手に取り。


 無傷な右肩に掛けて勝利の報告を遂げる為にカエデ達の下へと駆け始めた。

















 ――――。





 私を取り囲む醜い豚共が此方の命を奪おうと己の得物を一切の躊躇無く無慈悲に振り回す。


 私は敢えて後手へと回り三体の力を推し量っていた。


 膂力、踏み込みの速さ、間合い、そして目の良さ。


 そのどれもが武を嗜む者であれば納得するであろう領域に達している。



 だが……。


 それはあくまでも嗜む程度の者からの視点だ。


 私から見ればそれは児戯にも等しき戯れ。



 もうこれ以上の様子見は不要だな。


 主とカエデも様子も気になる故、貴様等を…………。



 狩るっ!!!!




「ガァッ!!」



 正面の個体が両手に握り締めた槍の鋭い穂先を此方の体の中央へ目掛けて一直線に突く。



「甘い!!!!」



 空気を切り裂く甲高い音が鼓膜へと到達する前に右へ回避。



「グルァ!!」



 右に避けた私の体目掛け、頭蓋を叩き割ってやろうと画策した手斧が天高く掲げられた。



 刹那に生まれた隙を見逃さないその選別眼は称賛してやろう。


 しかし、当たってやる訳にはいかぬ!!



「ふっ!!」



 右足で大地を蹴り、手斧が振り下ろされる前に相手との距離を消失させてやった。



 さぁ、この距離だと貴様の武器は役に立たぬぞ??



「ガァァアア!!!!」



 先程から一撃も当てられ無い事に憤りを感じているのか。


 憎悪と殺意を込めた左の拳が弧を描き、私の顔面へと放たれた。



「少し、本気を出すぞ!!」


「ウガガガガ!?!?」



 相手の拳が到達するよりも速く、左右の拳の連打を腹部に打ち込む。


 超接近戦では弧を描く拳よりも、最短距離を走る拳の方が有利だぞ??



 ほぅ……。


 それ相応の装甲は備えているのか。


 拳に感じるそれは木の幹と等しき硬さだ。



「ウグ……。ア……」



 存分に打たれた腹を抑え踏鞴を踏んで、口から猛烈な悪臭を放つ粘度の高い液体を吐き零す。


 そして私の拳が与えた痛みに耐えられなかったのか、両膝を地面へと着いてしまった。



 戦いの最中、両膝を着けるのは負けを認めたと同義!!


 そして、この隙を見逃すわけにはいかんな!!



「はぁぁああ!!!!」



 渾身の力を込めた右足で強化種の顔面へ鋭く、そして情け容赦無しに打ち込んでやった。



「ギィィヤァァアア!!」



 奇妙な角度に首を曲げたまま宙を舞い、背中から無慈悲に後方の樹木へと激しく打ちつけられ。そのまま力無く地面に倒れると土に還っていった。



 先ずは、一体撃破。



「「グォォオオ――――!!」」



 仲間がやられてしまって激怒したのか、雄叫びを上げながら二体が鬼気迫る表情で襲い来る。



「来い!!」


「グァッ!!!!」



 背筋が凍る槍の薙ぎ払いを宙へ舞って躱す。



「ゴァッ!!」



 ふっ……。


 宙では防御態勢が取れぬと考えたのだな?? 及第点を与えてやる攻撃だ。


 しかし、私は貴様の想像の更に上を行く力を備えているのだ!!!!



「だぁっ!!」



 体の真芯を軸に半回転。


 私の胴体を両断しようとする大剣の側面を激しく蹴り飛ばしてやった。



「っ!?」



 大剣の重量、そして私の烈蹴を受け止めてしまった衝撃で相手の軸が微かに揺らぐ。



「づあぁぁああ!!」



 着地と同時に流れた相手の体に追撃を開始。


 右の拳を腹部へ、巨躯が宙に浮く程の力を込めて放つ。



「グォッ……!!」



 顎が無防備だぞ!!


 防御を疎かにするな!!



「フンッ!!」



 腰を深く落とし、全体重を乗せた拳を大地から天高く振り上げ。



「ガッ!!」



 体が伸び切り、つま先立ちになった死に体へ回転蹴りを放つ。


 足先に硬い感触が広がるがそれは刹那の出来事。


 大剣よりも恐ろしい威力を持つ我が足刀が巨躯の胴体を貫き、向こう側の空気の無感触を捉えていたのだから。



「ハ、ア……。ガ……」



 そのまま膝から崩れる様に倒れ、二度と立ち上がる事は無かった。


 これで二体。



「ジャッ!!」



 私の背の中央を貫こうと考えたのか、情けないと言わざるを得ない中段突きが襲い来る。



「……」



 無言のまま素早く回転して躱すと、体の真横を槍の穂先が通過。


 敵が槍を手元に戻すよりも速く槍の柄を右手で掴んでやった。



「ギッ!! ギッ!!」



 両腕に備わった筋力が膨れ上がり私が掴んだ槍を手元に戻そうと躍起になっている。



 堅牢な大地をひっくり返す事も可能としているユウの恐ろしい腕力や龍の力を解放した主の力の足元にも及ばない矮小な力に思わず溜息が漏れてしまった。



「はぁ……。貴様の力はこの程度の物なのか??」



 見た目だけは立派だが……。それに見合う中身が備わっていない。


 あの二人に比べると雲泥の差だな。いいや、比較するのも失礼に値するぞ。



 呆れ果てた言葉を放つと同時に槍を手放し、相手の真正面に無防備な姿勢で立ってやる。



「そら、放してやったぞ??」


「グァァアアアア――!!!!」



 己よりも数段小さい相手に力が叶わぬ事に苛立ち。私が浮かべた表情に殺意が湧いてしまったのか。


 殺意と憎悪を籠めた槍を上段に構えた。



「隙だらけだ!!!! 愚か者め!!」



 全体重を乗せた右正拳を丹田の位置へと捻じり込むと……。



 ――。


 手応えあり。右の拳に背中側の空気を掴み取った。



「フ……。ガハッ……」



 腹を抑えたまま一歩、二歩下がり。己の腹部に空いた穴を見つめ驚愕の表情を浮かべると、力無く地面へ倒れ込み。汚らしい黒い土へと還って行った。


 これで、三体撃破。




「他愛の無い。マイ達の方が千倍強いぞ」



 我々にとってコイツ等の力は準備相手にちょうと良い程度。


 だが、人間にとっては脅威になり得るな。


 主が帰って来たら報告しよう。



 額に薄っすらと浮かんだ汗を拭い、美しい森の大地に不自然に盛り上がった黒い土を満足気に見下ろしていると。



「――――。素晴らしい身のこなしですね」



 カエデがいつもと変わらない表情で帰還を果たす。


 どうやらそちらも片付いたようだな。



「特に空中での蹴り。どうやったらあんな風に強い蹴りを打てるのですか??」


「日頃の鍛錬の賜物だ。それより……。主は??」


「……。今来ます」



 カエデが私の背後に視線を移すと、弱々しい笑みを浮かべながら主がこちらへやって来た。



「お疲れ様。こっちも片付いた様だね」


「あぁ、今片付け……。っ!?」



 優しい主の声を受け、振り返ると。彼の左肩には矢が深く突き刺さり、主は少し疲れた表情を浮かべて倒木へ腰掛けてしまった。



「主!! 大丈夫か??」


「あぁ、敵に一杯食わされてさ。随分と賢い相手で苦労したよ」



 私は不安な表情を浮かべていたのだろうか??


 主が語り掛ける様な優しい口調で私を見上げる。



「カエデ、主に治療を」


「分かりました」



 彼女が主の前に屈むと同時に、丁寧に傷口の観察を開始。私もカエデの隣に立って主の状態を確認した。



 長い矢は皮膚を突き破り、深い位置まで肉に埋まっている。


 このまま鏃を抜くと悪戯に体を傷付けてしまうな……。


 だが、傷口を塞がぬ限り出血は止まらぬ。



「このまま抜いても良いか??」



 主の右肩に手を添え、彼に痛みを与え続けている元凶を掴む。



「大変な痛みを伴いますが、刺さりっぱなしだと見ているこっちも痛くなりますので。泣こうが叫ぼうが気にせず一気に抜いてやって下さい」



「カエデさんっ!? 思い遣りの心、お留守番ですか!?」



 主が美しい漆黒の瞳をきゅっと見開いてそう話す。



「主、行くぞ??」


「あんまり痛くしないでよ?? 体、弱いからさ」


「ふっ。安心しろ、一瞬で抜いてやる。ふんっ!!!!」



 一気苛烈に矢を引き抜くと、鏃が肉体を切り裂き傷口を広げてしまった様だ。



「いっでぇぇええ!!!!」



 主の苦痛の叫びが静かな森の中に響き渡ってしまった。



「水よ、万物の生命の源。癒しとなりその者の傷を取り払え」



 主の服がみるみるうちに朱に染まって行くが、カエデの治癒魔法がその拡大を止めた。



 ほぉ……。


 流石、魔法に長けている事はあるな。


 負傷箇所へ的確に魔力を流し込み、主の治癒能力を高めている。私には到底出来ぬ芸当に思わず舌を巻いてしまった。



「い、いてて……。もうちょっと早く治らないかな??」


「私の指示に従わず独断専行。情けない傷を負って帰還した人に対し、本来であれば治療を施す必要はありません」



 ムスっとした表情を浮かべ、空いている左手で主の傷口をピシャリと叩く。



「いだいですぅ!!」


「はは。主もカエデの前では形無しだな??」


「傷口が塞がり次第南へと移動を開始します。後、泣き叫ぶのは止めて下さい。その所為で治りが遅くなってしまいますから」


「し、辛辣ではありませんかねっ!?!?」



 勝利を祝う我々の笑い声が森の中に静かに響く。


 此れから先、今の個体以上に力を持った敵が存在しているかも知れぬ。


 これ以上主に不必要な怪我を負わせぬ為にも、私がこれまで以上に警戒心を高めて進むとするか。



 藍色の少女にこっぴどく叱られ続け、せせこましく身を縮めている主を見つめながらそんな事を考えていた。





最後まで御覧頂き有難うございます。


そして、ブックマークをして頂き誠に有難う御座いました!!



週の初め。


先週の疲れが多大に残るこの体に大変嬉しい知らせとなりました!!


皆様の御心を少しでも温められる様、此れからも精進させて頂きますね!!



それでは皆様、おやすみなさいませ。

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