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第百二十二話 変異した獣達 その二

お疲れ様です。


本日の投稿になります。


それでは御覧下さい。




 あたしの体を取り囲む湿気を含んだ空気が肌から汗を噴出させ、妙に生温かく人の感情を逆撫でする鬱陶しい雫が額から頬へ。そして顎へと到達して地面へと落下。


 ちょいと水気を含んだ土にあっという間に染み込んで行き矮小な染みは瞬く間に消えてしまった。



 あたしに無謀にも向かって来た普通の豚二匹は速攻で片付け、世にも珍しい空を飛ぶ豚と対峙するものの。奴さんは膂力もそして速さも目を見張るものは感じられない。要は取るに足らない相手だ。



 しかし!!



 すっげぇ腹が立つ事にあたしの間合いには決して入ろうとしてはこなかった。



 慎重なのか、それとも狡猾なのか知らんが……。



「くっ……!! 上からちょこまかと!!」


「ギヘヘ!!」



 そう!! この長い槍が超厄介なんだよ!!


 遠距離からチクチクチクチクとまぁ、うざってぇ事この上なし!!



 そしてあたしが手も足も出ない事を理解すると、口元に笑みを浮かべていた。



「こんにゃろう……」



 笑っているのも今の内だぞ??



 こんな奴に使うつもりは無かったんだけどなぁ。長引いても仕方が無い、出し惜しみはやめておくか。


 ハーピーの一戦から学んだ事、それは……。あたしは地対空戦が苦手って事だ。


 地上戦は超得意な一方で、空中戦はからっきし。


 マイみたいに風を踏み場にして上空へと舞い上がれなければ、アオイやカエデみたいに遠距離魔法も使えない。



 では、あたしはどうすべきか??



 空を飛ぶ相手にでっけぇ岩を投げつけてやる、誰かさんを掴んで上空へと放り投げる等々。あたしなりに色々考えた案は枚挙に遑が無い。



 苦戦から学んだ事を反省しつつ。チマチマと術式を構築していって、つい最近完成したあたしの魔法を食らいやがれ!!




「ギャア!!」



 あたしを突き殺す為、一段高く舞い上がり此方に標的を見定めた。



「さぁ、来いよ」



 お前さんの的は此処だぞ――っと。敢えて両手を大きく広げて隙だらけの姿勢を取ってやった。



「グルルゥ……」



 あたしの余裕の態度が気に障ったらしい。


 余裕の笑みが消え失せると、代わりに憎しみの炎が瞳に宿る。



 そうそう!!


 い――い感じに頭に血が昇ってんじゃん!!



「ガァアァ!!」



 あたしの体の中心に槍の穂先定め、まるで空気を切り裂く様に急降下して来た。



 待っていました!! その愚直な突撃!!


 お前さんはあたしの魔法の実験台になって貰うよ!!




「すぅぅ――……。ふぅぅ……。んっ!!」



 丹田に力を籠め、集中力を高めて行くと大地の鼓動があたしの体の中を温めてくれる。


 体の中心から右手の先へ。


 魔力の欠片を徐々に集め、一気苛烈に炸裂させる!!!!



「食らいやがれ……。母なる大地の力よ!! 敵を切り裂き、天を貫け!! はぁぁああ!!」



 さぁ……。


 いっちょブチかましますかっ!!



大地衝穿グランドインパクト!!!!」



 大地の力を籠めた拳の先に魔法陣が浮かび、その拳を大地に激しくブッ叩いてやると。


 あたしの力に呼応した大地から鋭く、そして見上げんばかりの剣山が出現。



「ギィアアアア!!!!」



 剣山の鋭い先端が天へと伸びて行き。此方に向かって突撃して来た相手の体をいとも容易く、そして無慈悲に貫いて行った。



 実戦、そして初披露としては上々の仕上がりだねっ!!



「ユ、ユウ!! 何よ!! その物理は!!」



 既に三体を始末し終えたマイが驚きの表情を浮かべて此方を見つめていた。



「賢くてぇ、可愛くてぇ、超格好いいユウちゃんはお前さんと違って色々と考えて戦ってんのよっ」



 どうだ!?


 そう言わんばかりに出来立てホヤホヤの剣山をペシペシと叩いて話してやる。



「賢いと可愛いと格好いいは余分だけど。それ以外は認めてやるわ!!」



 人様が折角頑張って魔法を完成させたってのに……。もうちょっと褒めてくれでもいいじゃん。


 レイドだったら絶対褒めてくれるぞ??



「お前さんは一体何様なんだよ……」


「ほっわっぁ……。でけぇ……」



 煌びやかに瞳を輝かせてあたしの剣山を見上げる愚か者を見つめ、巨大な溜息を吐きつつそう言ってやった。







 ――――。





 私相手にたったの三体ですか……。


 随分と嘗められたものですわねぇ。



「シャッ!!」



 目の前の個体が此方に向かって鋭く槍を突いて来る。


 半身の姿勢で素早く躱し、余裕の態度を取って口を開いた。



「どうしました?? そんな遠くからでは当たりませんよ??」


「グルルゥ……」



 私に攻撃が当たらないと考えたのか、安易に近付いて来ませんわね。


 さてと……。


 どの程度の攻撃なら受けきれるか、若しくは回避出来るのか。試してみますか。


 レイド様にも報告しなければなりませんしっ。



「それ!!」



 三体に目掛けクナイを投擲してやる。



「「グッ!?!?」」

「シャハッ!!」



 通常個体は必死に躱し、翼が生えた個体は容易く回避。


 ふぅむ、この差は報告せざるを得ませんわね!!


 レイド様はきっと喜んで下さいますわぁ。




『アオイ!! 有難う!! 君のお陰で素晴らしい報告が出来そうだよ!!』


『い、いえ。私はレイド様の指示に従ったのみですわ』


『そんな事無いよ。俺には君が必要なんだ。さ、おいで……』



 そ、そんなっ。何の変哲もない岩の上で、ですかぁ!?



『そうだよ?? 大自然に俺達の愛を見せつけてやるんだ』



 い、いきなり私の着物を剥ぎ取るなんて!!


 いつもの優しきレイド様らしくない猛々しい雄の姿に心臓がキュンっと高鳴ってしまいます。


 出来る事ならぁ、二人静かな場所で愛を紡ぎたいと考えていたのですがっ。


 野性味溢れ、自然に囲まれた中での受胎も通なものですわよね!!




「グルルルル……」



 おっと。


 将来設計は後でしっかりと考えましょう。レイド様のヨシヨシの権利をかけて、先ずはこの三体をきっちりと殲滅しませんと。



 翼の生えた個体が宙へ舞い上がり、残りの二体が私を挟撃しようと移動を開始した。


 私を中心に三点で取り囲むのですか。



「あらあら……。これじゃあ逃げ場がありませんわねぇ」



 ワザとらしく困り果てた所作を取ってやると。



「「「グルガァ!!!!」」」



 この態度に憤りを覚えたのか、憤怒の表情を露わにして一直線に向かって来るではありませんか。



「はい、これでお終いですわ!!」



 その場に素早くしゃがみ込むと同時、両手を強く体の中央へと引き寄せると。


 予めクナイに付着させておいた糸が私の腕の力と魔力に呼応して三体の背中へと同時に突き刺さった。



「「「ウ、ア、ガ……」」」


「いけませんわよ?? 美しい花には棘があるものですから」



 ふ、む……。


 毒に対する抵抗力は無いようですね。三体ほぼ同時に消滅してしまいましたので。


 これもレイド様に報告しましょうか。



『やっぱりアオイは頼り甲斐があるなぁ!! 俺の妻になってくれ!!』



 黒い土の塊に囲まれ、私はその中央でレイド様の愛を受けてぽぅっと朱に染まった頬に手を添え。イヤイヤと首を振っていた。



 は、はいっ!! 是非とも!!


 私、子供は八人が宜しいですわっ!!









 ――――。



 う――ん。このブヨブヨ、動きはてんで遅い。



「ブルァ!!」



 芋虫さんと同じ位の足の遅さと、冬眠から起き立ての熊さんみたいな腕の振りの遅さの攻撃が私の体を襲う。



「ほっ!!」



 後ろへちょこんと飛び退いて躱し、再びブヨブヨの観察を開始した。



 ん――……。普通に攻撃してもいいのかなぁ??


 アオイちゃんには様子を見ろと言われたけども、無造作に腕を振り回すだけの個体だからなぁ。


 他の個体と違って武器も持っていないし。



 これ以上様子見は要らないよね??



 それでは、試しに一発!!



「でぇい!!」



 相手の横顔に力を込めた一撃を放つと拳に柔らかい感触が広がった。



「ボグッ!?」



 私の一撃を受けるとブヨブヨの奴はその場に力無く、うつ伏せに倒れてしまう。


 なぁんだ、大した事無いじゃん。


 きっと何かを食べて太り過ぎちゃった個体なんだよねっ。



「ウ、ウブブ……」



 力無く倒れたブヨブヨが土に還るかと思いきや、何やら細かい痙攣を始めてしまう。



 あれっ??


 倒したら土になるんじゃないのかな??



 その様子をじぃぃっと眺めていると、次の瞬間。


 私は自分の目を疑ってしまった!!



「うぇぇええ!?」



 倒したと思った矢先、何んとブヨブヨが二体に増えちゃったのだから!!



「「ウヴヴ……」」



 何事も無く立ち上がると私を四つの目で睨みつけて来るではありませんかっ。



「そんな!! ズルイ!!」



 に、二体に増えちゃった……。どうしよう。



「「ガァアアァ!!」」


「んっ!!」



 分裂しても動きは遅いままだ。でも攻撃したらまた増えちゃうんだよね??


 参ったなぁ……。



「ルー、苦戦しているわね」


「こっちは終わったぞ」


「分裂ですか……。これはまた珍種ですわねぇ」



 背後から皆の声が聞こえて来たので、ブヨブヨから距離を取り。マイちゃん達と肩を並べた。



「皆もう終わったの?? 早いなぁ……」


「ま、こいつが厄介なだけで後は雑兵みたいなもんよ」



 そうは言うけど、あの飛んでいる奴は結構強そうだったよ??



「さて、殴ると増えるんでしょ?? それなら……。蹴ったらどうなる!?」



 マイちゃんが相手に鋭く踏み込み、ブヨブヨの顔に豪快な蹴りを放った。


 水袋を叩くような鈍い音が周囲に響く。



「な――んだ。大した事ないじゃない」



 ブヨブヨが激しく顔を後方へと捩じらせ、その場にグシャリと崩れ落ちる。しかし、もう一体はその様子を満足気に目を細め見つめていた。


 何だろう?? あの余裕は。



「「「ヴェルヴヴ……」」」


「ウェゲバッ!? きっしょ!!!! また増えちゃったじゃん!!」



 マイちゃんの蹴りでも駄目か……。


 三体に増えちゃったブヨブヨ達は今も嫌な笑みを口元に浮かべていた。



「どうやら、攻撃を加えると分裂するようですわね。それなら……」



 アオイちゃんが何かを思いついたように三体の前へと、無防備で歩み始めてしまう。



「危ないよ!!」



 遅くても攻撃力はまぁまぁ高いしそれなりに危険を伴う。


 その姿を見ているこっちがヤキモキしちゃうよ!!



「いいから見ていなさい。アイツはあぁいう戦い方なのよ」



 う――ん。マイちゃんがそう言うなら見るけど……。


 危なくなったら助けに行かなくちゃ。



「「「ブブア!!!!」」」



 三方向から三体がアオイちゃんに向かって襲い掛かる。


 鈍重な体に誂えたような太い腕、そしてその指先から生えている鋭い爪の斬撃だ。


 当たったらきっとただでは済まない。



「フフ……。こちらですわ」



 三方向の攻撃を足捌き、そして卓越した身のこなしで簡単に回避。


 ブヨブヨはアオイちゃんの華麗な動きに翻弄されている。



「「「ブァァアア!!!!」」」



 まるで怒り狂った猪のように突撃しては容易く躱され、アオイちゃんの方へ振り向くと再び向かって行く。


 押しても引いても何の手応えも無い空気を相手にしているようだろうな。私だったら焦ってもっと手数を増やしちゃうよ。



「へぇ。アオイの奴また上手くなったな」



 ユウちゃんは素直に感心しているけども。



「はっ!! 私の方がもっと速く動けるわよ!!」



 アオイちゃんの凄さを認めたくないのか、マイちゃんは片眉を上げて睨みつけていた。


 器用に睨むね??


 眉、疲れない??



「ん――。上手く言えないけど、アオイちゃんは速いというより相手を翻弄するのが異常に上手いのかな。まるでそこしか攻撃出来ない様に仕向けている様な感じだもんねぇ」



 背中、正面、側面。


 あらゆる角度から攻撃を加えても手応えは感じられない。


 当然、相手は否応なしに躍起になって来る。私ならそこに合わせるかな??


 あ、でもブヨブヨに攻撃は駄目だった……。どうするんだろ??



「さて、そこまでです」



 突然、三体から離れてブヨブヨ相手に忠告を放つ。


 何だろう??



「死にたく無かったらこれ以上私に近付かない事。もっとも?? あなた達のような鈍重な方々は一生かかっても私には指一本触れる事は出来ませんけどね??」



 うわぁ……。


 アオイちゃんの流し目って女の私でも思わず背筋がゾクってする位綺麗だな。



「ぐぬぬ……。あの態度……!! 私が三体に成り代わって、クソ生意気な横っ面に一発捻じ込んでやりたいわ!!」


「おいおい。味方だって」



 マイちゃんの見当違いの意見はさて置き、三体も彼女同様挑発に乗りアオイちゃんに向かい走り出してしまった。



「「「ブァァアアアア!!!!」」」


「はぁ……。残念ですわ。一応、忠告はしましたからね??」



 鼻息を荒げ、怒りを露わにして突撃する三体。もう間も無くアオイちゃんに魔の手が迫る!!


 そう思った刹那。



「へっ!?」



 これで何度目だろう、彼女達の戦いを見て驚くのは。



「「「ヴグッ!?!?」」」



 三体はアオイちゃんに近寄ると同時に、首と胴体が永遠の別れを告げてしまった。



 な、何が起こったの??



「首を切り落とされたら分裂は出来ませんか。残念でしたわね」


「アオイちゃん、ブヨブヨ達に何したの??」



 土に還ったブヨブヨの残骸を冷静な目で見下ろす彼女に問うた。



「目には見えない程薄く、そして鋭利な糸を肥満体の首に巻き付けて周囲の木々に接続。相手の突進に合わせて引いてあげたのですわ」



 彼女が指差す箇所を注意深く見ても、その影は一切認識出来なかった。



「これか」



 私の代わりにマイちゃんが糸に近寄り、興味津々といった様子で糸を触っている。



「……っ!!」



 鋭利な糸で指を切ってしまったのか、一瞬顔を顰めると一筋の赤い水滴が滴り落ちる。


 そして、その血を吸った赤い糸が何も無い空間に現れた。



 緑に囲まれた中に浮かぶ真っ赤な糸。



 不自然な光景を見つめていると、何だか背筋がゴワゴワしちゃった。



「おっかない技だなぁ。間違ってもあたし達に当てるなよ??」


「ユウ、安心なさい。混戦では使用しませんから。それに、この技はこういった何かに囲まれている空間、確実に相手がこちらに向かって来る時等。使用用途は限られて来ますわ」



 アオイちゃんが指を鳴らすと。糸が地面へ向かってはらりと落ちる羽毛の如く、音を立てずに落下してその存在を消失させてしまった。



「さて……。後は親玉を残すだけか」


「そうね。噂をすれば……」



 マイちゃんとユウちゃんが身構えると、一体のおじいちゃんが現れた。



「グゥゥ……」



 正確に言えば、背の低い皺くちゃな黒豚さんと言えばいいのかな??


 ボロボロの茶色のローブを羽織り、樫の木を持った個体が此方を恨めし気に睨みつけていた。



「ん?? 何だぁ?? アイツ」



 ユウちゃんがおじいちゃんをじぃっと睨む。



「何か胡散臭い魔法使いみたいな恰好をしているわね」


「本当に魔法を使ってきたりしてな」


「あはは!! まさかぁ!!」



 時に嘘がま……。まぁ――……。何だっけ?? こういう時カエデちゃんが居たら教えてくれるんだけどねっ。


 嘘がナントカになる様に!! おじいちゃんオークが体を支えている樫の木を振り翳すとぉ。



「ゲヒャヒャ!!!!」



 樫の木の先端に大人の頭大程の大きさの火球が現れた!!



「わぁっ!! あのおじいちゃん、魔法使えるんだ」


「お、おいおい。本当に唱えちゃったよ」



 私と一緒に目を丸くするユウちゃんに対し。



「「はぁぁぁ……」」



 マイちゃんとアオイちゃんは相手にするのも面倒だ。


 そう言わんばかりに大きな溜息を吐いてしまった。



「ちょっと、早く片付けなさいよ」


「分かっていますわ。ちょっと、そこの素人魔法使いさん?? 本物の魔法というものをご存知ないのですか??」


「ギシシ……」



 まるで勝ち誇ったように、薄ら笑いを浮かべるおじいちゃん。


 しかし、アオイちゃんが右手を前にすっと翳すとその顔が一気に凍り付いてしまった。



「業火よ……。森羅万象を焼き尽くすその力、我が前に示せ……」



 そりゃそうだよね。


 おじいちゃんが浮かべた火球の十倍程の大きさの火球が出現したのだから。



 特大の大きさの火球から放たれる熱量が空間を歪め、周囲の木々の肝をひぃっと冷やしてしまう。


 アオイちゃんから離れていても彼女が浮かべる火球は私の肌を刺す痛みを放つのに対し、ヨボヨボの魔法使いが浮かべる火球は……。蝋燭が放つ熱よりも矮小に感じてしまった。



「キシャアアアア!!」



 おじいちゃんが勝てぬ勝負に挑み、アオイちゃんへと火球を放射。



「では、さようなら。紅蓮牡丹!!!!」



 アオイちゃんが火球を放つと、向い来る火球を飲み込み。更なる熱量を増した大火球が魔法使いの身を。そして、後方の木々を焼き払ってしまった。





「アギャァァァァアアアア――!!!!!!」



 大炎で身を焼かれ、断末魔の恐ろしい叫び声が静寂な森の中に響き渡る。


 草木が炎で焼け焦げ、燻す煙が鼻腔を悪戯に刺激した。



「全く、私に魔法勝負を挑むとは……。一万年早いですわ」



 アオイちゃんが魔力の放出を止め、格好良く指をパチンッ!! っと鳴らすと周囲でもうもうと燃え盛っていた炎がピタリと消失してしまった。



 うわぁっ、今の所作。


 すっごくカッコいい!!!!


 いつか私もアオイちゃんみたいに指をパチンと鳴らして決め台詞を放ってみたいものだっ。



「アオイちゃん!! 今の凄かったよ!!」


「この程度で……。まだまだですわ」



 特に気に掛ける様子も無く、白く長い髪を細い指でかきあげる。


 その仕草も妙に似合うなぁ――。大人のおねぇさんって感じで。



「そうそう。カエデと比べれば月とスッポンポンよ」


「なんで脱いでいるんだよ。それを言うならすっぽんだろうが」



 マイちゃんとユウちゃんのいつものやり取りが、脅威が過ぎ去った事を証明した。



 ふぅ――。


 これで一段落かぁ。ちょっと休憩しよ――っと。



 狼の姿に変わり、ちょこんと腰を下ろした。



「よし!! 綺麗に片付けた所で!! 北進しますかっ」



 ユウちゃんが荷物を背負い、北の方角へと進もうと私達を促してしまう。



「え――。ちょっと休憩してから行こうよ――」


「大賛成よ!! おら、ユウ!! 何か食わせろっ」



 マイちゃんと意見が合ってしまった。


 こういう時、ユウちゃんはちょいと怖い顔を浮かべるんだよねぇ。



「レイドが待っているんだ、北進するぞ」



 ほら、深緑の瞳で龍の姿で寛ぐマイちゃんと狼の私を睨んじゃったもん。



「私は!! 飯を食うまで!! 此処から一歩も動かんっ!!」


「あっそ。ルー、アオイ、行こうか」



 此処で休憩していても偵察が終わる訳じゃないし。


 頑張って歩こうかなっ。


 人の姿に変わり、荷物を纏めて背負い北へと向かって進む二人の背に続いた。



「ユ、ユウ!! 私を置いて行くの!?」


「…………」


「無視かっ!? つ、遂に無視かぁ!?!?」



 深紅の雀さんがユウちゃんの頭の天辺にしがみ付き、ギャアギャアと五月蠅く騒ぐ。



「喧しい。お前さんに一々餌を与えていたらこっちが飢え死にしちまうんだよ」


「そんな事はぬわぁい!! あんたの荷物の中にたぁぁっぷり食料が入っているのは知っているんだからね!?」


「荷物の中に潜るな!!!! テメェは人間の食糧庫に侵入したドブネズミか!!」



 ユウちゃんがマイちゃんの尻尾を掴んで荷物の中から引きずり出すと、静かな森の中で五月蠅い喧嘩が始まってしまった。



 はぁ……。


 私ももっと頑張らなきゃなぁ……。皆に置いて行かれたく無いよ。


 うん、弱気は駄目!! 前を向かないと!!


 待っていてよ?? 皆。直ぐにおいつてみせるんだからっ!!



 自分の中で小さな決意を固めるとマイちゃん達の大きな背中を真っ直ぐに見つめその後に続き、レイド達との合流を目指して北上を開始したのだった。




最後まで御覧頂き有難うございました。


そして、ブックマークをして頂き誠に有難うございます!!!!


今にも朽ち果てそうなこの体に嬉しい励みになりました!!


最近は夜も冷えますので皆様も体調管理には気を付けて下さいね??


それでは皆様。おやすみなさいませ。

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