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第二十四話 空の女王

お待たせしました!! 本日の投稿になります!!

タイトルにも書いてある様に、この御話しから空の女王との本格的な戦いが始まります。


それでは、御覧下さい!!




 秒を追う毎に呼吸の回数が増え、外に聞こえるんじゃないのかと心配になる程に心臓が五月蠅い鼓動を繰り返す。



 額からは大粒の汗が幾筋も垂れ落ち、頬へと伝わり。


 頼る所を無くした彼等は、地面へと落下して行った。




 凄い圧だな……。


 彼女と対峙するだけで息苦しい……。




「よ、よぉ。マイ」


「何よ」


「奴さん。意識保ってるけど……。どうしてか分かるか??」



 ユウが今話した通り。


 その点は俺も気掛かりであった。



 魔物に埋め込んだ結晶体はその人の意識を奪うのでは無いかと考察していたからだ。



 それは此処迄の経験を加味すれば周知の事であると確信していたが……。


 どうやらそれは彼女。



 アレクシアさんには通じないようですね。




「分かる訳ねぇだろ。ま、あれじゃない?? 取り敢えず、ぶっ飛ばして。――――。ちっ!! でっけぇ胸に手ぇ、突っ込んで引っこ抜けば全て丸く収まるでしょ」



 途中。


 どうして舌打ちしたのかな??



 まぁ問いませんよ。

 恐らくそういう意味ですので。




「えっと、アレクシアさん」


「はい。何でしょうか??」



 僅かに口角を上げて俺の問いに反応する。



 やはり思考は可能な様ですね。




「この里の異常事態には気付いていらっしゃいますよね??」


「えぇ。勿論」



 あっれ??


 それならどうして今直ぐにでも、その結晶体を外さないのだろう。



「で、でしたら。街の人々を攫い、襲うのはもう止めて。その結晶体を外しましょう」


「どうしてですか??」



 カクンっと首を傾げる。


 その姿がちょっと似合っているなと思ったのは内緒です。




「どうしてって……。その所為で皆さんが狂暴化しているのです。自我を失ったままではいつか取り返しのつかない事が起こる可能性があります。ハーピーの里と、ルミナの街は良好な関係を構築していると御伺いしました。その美しい関係が崩壊しても宜しいのですか??」



 人と魔物が言葉を交わさずとも交流を深めている。



 両者の間に構築されてしまった呆れる程に高い壁を物ともせず。壁の向こう側の者達と手を取り、互いに助け合い、人生を彩る。



 これは素晴らしい事だと思うんだよね。



 言葉は無くとも、両者は歩み寄れるという数少ない実例なのだから。





「構いませんよ?? 人は劣等種です。たかが七十年か八十年足らずで命の火を消し。力も、魔力も無い。言うなれば……。道具を使用出来る二足歩行の動物です。それを利用しない手は無いですよ」




「いや、ですが。人間はあなた達同様、思考する動物です。考えもすれば感情も当然持ち合わせている。そして、人間には人らしく生きる権利があります」



 少なくとも。


 ここで一生道具として扱われて良い訳ではない。





「権利、ですか。ふふ。動物に権利……。あなたは中々に面白い考察をお持ちの様ですね??」



 いや、考察も何も


 至極当然の事を申しているだけなのですが……。




「アレクシアさんには申し訳ありませんが。彼等の命を最優先させる為、こうして里を襲撃させて頂きました。勿論、里の皆様には多少の怪我を与えてはいますが命までは奪っていません。――。そうだよな??」




 マイとユウへ視線を送る。




「あ、う、うん。た、多少!! ね?? 怪我を負わせた位だから……」



 妙な汗を額から流すマイが俺から視線をすっと外し。



「だ、だよなぁ?? あ、あの程度で……。う、うん。死なないとは?? 思う事も無い事もないけども……」



 それに引き続き、ユウも明後日の方向へと向いてしまった。



 まさかとは思いますけども。


 あなた達…………。




「手加減。したよな??」




「「っ!!」」



 二人仲良く、コクコクと激しく上下に頭を振る。


 怪しい……。


 まぁ、後で問い詰めるからいいけど。





「お聞きになりました?? ここの里の皆さんと同様に彼女達も魔物です。今、この大陸は人間以外の存在に敏感になっています。 もしも、私が此処で命を消失したのであれば。この地へと事態収束の為に軍が押し寄せます。あなた達はお強いですが、数千。数万を超える大軍勢を相手にして、無事で済むとは思えません。そんな不毛な戦いが起こる前に、どうかお願いします。元のあなたへと戻って下さい……」




 そう話し終え。


 彼女の前で深々と頭を下げ、懇願した。




「礼儀正しくも、言葉の中に脅迫を混ぜる……。うんっ!! 気に入りましたよ??」


 は、はぁ……。


 何が気に入ったのだろう??



「有難うございます。では、襲撃を止め。里を解放してくれるのですね??」



 恐らく。


 こういう事でしょう。



「いいえ?? そんな事しませんよ??」


 あら。

 残念。



 そう簡単に事は上手く運びませんか。



「あなた個人が気に入ったと申しているのです。強烈な人の匂いがするものの……。こう……。スンスンッ。大変お強い魔物の香りもする。不思議な香りですからねぇ」



 すっと美しく真っ直ぐに伸びる整った鼻筋をヒクヒクと動かしつつ話す。


 俺、変な匂いなのかな??




「ど、どうも有難うございます??」



 淫靡な笑みを浮かべる彼女に対し。


 取り敢えずの礼を述べた。



 さて、次なる一手を考えていると。





 狂暴な龍が要らぬ横槍を入れた。




「さっきからよぉ。黙って聞いていれば……。あんた何?? 何様なのよ」


「何様、と申しますと??」



 おっと。


 こいつは不味い。



「マイ。止めろ」



「他人の街を我が物顔で占領していいのかって私は聞いてんの。頭、空っぽか??」


「あなたよりかは、中身は詰まっていると思いますよ」




「道徳ってぇ言葉が足りねぇあんたよりかは分を弁えているつもりよ。聞けや、鳥野郎。これが最終警告だ。今直ぐ、街を襲うのは止めろ。んで、あんたの結晶体を外すからそこを動くな」




 そう話し終え、マイがアレクシアさんの下へと恐ろしい顔を浮かべたまま進み出す。




「だから止めろって!!」


 不必要な戦闘は必要無い。


 そう考え彼女の前に立ちはだかり、進路を防ぐものの。



「邪魔」


「――――。は、はい……」


 恐ろしい目力の一睨みで進路を譲ってしまった。



 だが、まぁ……。


 これ以上は堂々巡りの虞があるし……。


 結晶体を外せば、問題は解決へと繋がる可能性が高い。




 ここは一つ!!


 温和な説諭……。


 じゃあなくて。


 武力交渉に頼るのも一つの手ですから!!



 狂暴な龍を御せない自分の嘆かわしい立場にそう言い訳して、ユウの隣におずおずと移動した。



「おかえり。中々頑張ったじゃん」


「どうも……」



 ユウの温かい言葉が今は本当に嬉しいです。



「あなたはこれを外すと申すのですか??」



 痛々しく柔肌を食む結晶体を指差して話す。



「何度も言わせんな。数秒前の会話の内容を覚えていないのか?? さっすが、鳥頭だなぁ」



 あの人。


 挑発って言葉に関しては、比類無双の御方ですよねぇ。



 だけど、その分。


 耐性が皆無なのです。




 攻撃力に特化した舌撃とでも申しましょうか。



「あなたも……。クスッ。とある肉体箇所では、最強無敵の存在ですよねぇ……」



「「あっ」」



 アレクシアさんの言葉を聞き。



 俺とユウは、現在の位置から二歩下がった。



「…………。そ、それってぇ。何処の事かしらぁ??」



 彼女の言葉を受け、眉間とこめかみに血管が出現。


 体全体をワナワナと震わせつつ話す。



「申しても宜しいのですか??」


 目元がきゅうっと細くなり、視線が徐々に下がって行く。




「ユウ、不味いな。もう三歩下がろう」


「だな――」



 交渉は決裂、か。


 武力行使は好まないけど……。この際、致し方無いのかな。


 何事も穏便に済ませたいのは山々ですけども。


 アイツに怒りの炎が灯ったらもう誰にも止められないし。





「お、お、おいおい。それ以上視線を下げんなよ??」


 これが最後の警告だ。


 そう言わんばかりの声色にこちらの肝が冷えてしまう。



「下げたらぁ?? どうなるのですか??」



「あんたの首を捻じ切って、脊髄ぶっこ抜いて、体全体の生皮剥いで木に吊るす」





「「こっわっ!!!!」」





 恐ろしい光景を想像したら、図らずともユウと声を合わせてしまった。



「あらあらまぁまぁ……。大変恐ろしい妄想ですね」


「妄想?? 後……。二センチ下げたら現実になるからな??」



 も、もうちょっと下がった方がいいのかも。


 無言で更に四歩。


 ユウと仲良く足並み揃え、行く末を見守った。





「それは……。楽しみ……」



 さぁ、始まるぞ!!


 腰をすっと落とし、此れから始まるであろう激戦に備えた。






「……ですね。 おやっ!? あっれっ!? 無い?? 無いですよ!? 女性に『必ず』 と言っていい程備えられている丸みが無い!! 何て、稀有な方なのですか。あなたは!!」





「死ねぇぇぇええええ!!!! 内臓取り出してぇ、鳥鍋にしてやらぁぁあああああ!!!!」



 大地を蹴り、怒号を喚き散らしながら突貫を開始した。



「あら。中々の素早さをお持ちの様ですね」



 初手をあっさりと躱し、余裕の笑みで猛る獣を見つめる。



「あぁ?? まだまだ速くなるわよ……。あんたの、首を、ぽっきりとへし折るまでねぇっ!!」



 右手に生えた鋭い龍の爪で襲い掛かるも……。


 マイの攻撃を視線で追い、攻撃が当たる前に体を動かして躱している。


 直情型のアイツの軌道は読み易いのだが……。

 化け物並みに速いので来ると分かっていても避けられないってのに。




「ユウ。気付いた??」


「ん――。奴さん、べらぼうに速さに慣れてら」


 そう。


 同程度の速さ、又は狂暴龍以上の速さを『知っている』 為。軌道、若しくは次の行動を予測出来るのであろう。




「ひょいひょい避けやがってぇ!! 掛かってこいやぁ!! 鶏肉ぅ!!」


「肉……。お持ちで無い方の僻み、ですか??」


「はぁぁっ!?」




 易々と相手の安い挑発に乗って、更に軌道が単純に。


 アイツの悪い癖だな。



「もう我慢ならんっ!! 鶏冠、切り落としてやらぁ!! ふぅぅ……」


 アレクシアさんから距離を取り、心静かに集中を始めた。



「ずぁっ!!」



 体の前に交差させていた腕を腰の位置に素早く置くと、薄緑色の膜がマイの体を覆う。


 そして、彼女の体を中心に心地良い風が吹いた。




「――。あれが、付与魔法??」


「そ。カエデが浮かべた魔法陣があるだろ?? あれとは異なって、己の体の中で構築した魔法を自分に付与するんだ」



 ほぅ。


 また一つ勉強になりました。



「はっは――!! 軽い軽い!!」


 地面の上を軽く弾みつつ話す。




「軽い……。あぁ、虚無な胸の事ですか」


「いい加減、嘴を閉じろやぁああああ!!」


「っ!?」



 アレクシアさんの目の色が変わったのも頷ける。


 その場に居たと思いきや……。


 瞬き一つの間に体消えましたからね。



 上下左右の連打を放つ龍。


 それに対し、先程までとは打って変わって余裕の笑みが消失したアレクシアさんが必死に体を上下に動かしつつ躱す。



 だが。



「っし!!!!」



 マイの鋭い突きが彼女の横顔を掠めると。



「おぉ?? 何だ。血は赤いのか……」



 爪の先がアレクシアさんの柔肌を漸く捉えた。



 小さな赤い筋が端整な顔を沿って落ちて行く。



「私に攻撃を当てた事は称賛に値します」




 マイから距離を取り、細い人差し指で流れ落ちた血を掬い。


 口へと運ぶ。




「当てたぁ?? 掠っただけじゃん。あんたの鼻頭にきんもち良い一発を捻じ込むから待ってろ」


「それは不可能です」


「はぁ??」


「私を怒らせた罪は非常に重い。あなたにはそれを……。身を以て知らしめてあげましょう!!」




 彼女が右手を前にすっと掲げると、体の前に巨大な薄緑の魔法陣が浮かぶ。


 そして、彼女を中心としてマイが放った風とは比べ物にならない風が渦巻き始めた。




「ユ、ユウ!! あれは何だ!?」


 強風に負けじと声を張る。


「付与魔法の上位互換だよ!!」


「何だ、それは!!」



「体内で構築出来る物もあれば、あぁやって魔法陣を展開して付与する事も出来るの!! んで、術式を一から構築した魔法陣から得られる力は。体内で構築した物とは訳が違う!!」



 つまり。


 高度な付与魔法って事ね!!




「――――。ふぅ。久しぶりに使用しましたが。ふむっ。悪くない風です……」



 荒れ狂う風。


 それとは対照的に穏やかな彼女の声が、風の中心から此方に届く。




「ちぃっ……」


「おや?? 如何為されました?? あなたの風が……。怯えていますよ??」


「うっせぇ!! だぁぁあああ!!」


 一直線に彼女の下へと突貫し、右手を突き出すが……。



「くっ……。うぎぎぎぃ!!」


 渦巻く風の手前。


 猛風吹き荒れる先には、龍の爪が到達する事は叶わなかった。



「届いていませんよ?? 当然ですよね。あなたは風。対して、私は嵐。格の違いですっ」



「こりゃいかん。レイド、ちょいと行って来るわ」



 戦力差を鑑みたユウが前に進む。



「勝手に横槍入れて怒られても知らないぞ!?」


「大丈夫だって――。…………、やい!! 鳥野郎!! あたしと勝負だ!!」



 猛風がユウの体を襲うも。


 彼女は飄々としてその中を進む。



「虚無の次は……。不必要な塊ですか。全く……。丁度良い塩梅という言葉を知らないのですか?? あなた達は」




「知らねっ。マイ!! 偶にはいいだろ!? 共同戦線だ!!」

「ちっ!! しゃあないわね!! 右足の鶏肉はあげるわ!!」



 食料じゃあないんだけどな。




「ってな訳でぇ……。マイ!! あたしに合わせろ!!」

「あんたが私に合わせなさい!!」



「「だぁぁぁぁあああ!!!!」」



 アレクシアさんの左右から襲い掛かる二人の女性。



 風速に負けない突撃。

 風の壁を易々と突破出来ると思いきや……。




「欠伸が出ますね。二人仲良く……。空を舞いなさい!!!!」



 アレクシアさんが両手を大きく左右に広げ、腰を深く落とす。


 そして、両手の先に美しい緑の魔法陣が浮かんだ。






嵐烈破ストームランペイジ!!!!」







 両手の先から逆巻く風の竜巻が直線状に発生。


 それを真面に食った二人は……。




「ぎぁっ!?」

「おわぁっ!!!!」



 いとも容易く後方へと吹き飛び、家屋の壁を突き破って見えなくなってしまった。



 う、嘘だろ??


 あの二人が、まるで手も足も出ないなんて……。




「ふぅ。五月蠅い蝿が居なくなって清々しました。――――。ね??」



 やっべぇ!!


 次の相手は俺か!!



「そうですね。あ、後。出来れば……。優しく叩き潰してくれると幸いです」




 腰から短剣を抜剣。


 同時に龍の力を発動して、今にも襲い掛かろうとする彼女に対峙した。




「ふぅむ……。湧き上がる力は素晴らしいですが。まだ、不慣れですよね??」


 何故、それが分かるのだろうか。


「いいえ?? 十二分に使い熟せていますよ」


 俺一人じゃあ手に余る。


 いや、三人掛かりでも倒せるかどうか……。


 マイ達が受けた攻撃が回復するまで、俺が時間を稼ぐ!!




「嘘ですね。視線が泳ぎましたよ??」



 風を纏い、静かに此方へと歩み来る。


 一歩一歩。



 その静かな歩みがまぁ、心臓に悪い事で。




 此方の間合いに入っても一切の無防備。


 余程自分の力に自信があるんだな。



 ですが……。

 そうやって過信すると、足元を掬われますよ!?



「はぁっ!!」



 右足の力を解放し、鋭い切っ先をアレクシアさんの胸元に埋め込まれた結晶体へと解き放つ。



「見た目以上に速いですね!! 良いですよ、その調子です」



「く……。くそぉ…………」



 切っ先が届きそうで……。届かない!!


 何て風圧だ!!!!





 右腕に左手を添え、奥歯を噛み締めて押し出すも。


 彼女から吹き荒れる風の壁に阻まれ、短剣の切っ先はその場から動こうとはしなかった。




 いや、寧ろ。


 体が徐々に風に押し出されて行ってしまう。




「後少しですよぉ?? ほら、私の弱点はぁ……。ここですっ」

「ぶふっ!?」



 何でこんな時にシャツを開くのかね!!



 全く!! けしからん!!


 と、通常時には言えるのですが。今は非常時。




 少しだけ視線を落とし。


 彼女の美味しそうな鶏肉……。基。


 開かれてしてまった胸元から、足元へと視線を落として突進を続けた。




「御覧になられないのですか??」


「他人様のそういった箇所は注視しない様に習って来ましたので……」


 やっべぇ……。


 後ろに吹き飛ばされそうだ……。



「うふふ。真摯な御方なのですね」


 そりゃどうも。


「良かったら如何です?? 私と共に、この地を平定し。王となる気はなりませんか??」




「自分の考えは、民に慕われてこその王です。 武力を振り翳し、民を抑え付ける。それは正しく愚の骨頂。そして……。あなたは前者であるべきだ!!!!」



 ルミナとハーピーの里は古くからの密接な関係がある。


 言葉の壁により隔たれてしまった両者を繋いでいたのはアレクシアさん自身の力によるのもあるだろう。


 それが今やどうだ。


 暴力の限りを尽くし。


 人の命を奪う事に何の躊躇いも無い。


 そんな女王は不要だ。


 皆が求めているのは裸の王では無く、器の大きな女王様なのだから。




「残念です。あなたとなら……。優秀な子を授かる事も出来たのに」


 俺は種馬ですか??




 絶え間なく押し寄せる風に対抗し続けてると、彼女の背後から何やら鉄の塊が飛翔して来た。




「っ!?」



 アレクシアさんが咄嗟に反応し、振り返るも。


 その鉄の塊は風の勢いに敗北して無様に地面へと叩きつけられてしまった。



 ――――――――。


 何で、フライパンが飛んで来たんだ??





「よぉ、姉ちゃん。あんた、私を怒らせたわね??」


「マイ!!!!」



 顔、体に傷が見られるものの。

 堂々たる歩み方は負傷の大きさを感じさせない。





 しかし……。

 その……。


 何んと言いますか……。




 頭から何かを被ってしまったのか。


 黒い何かによって、深紅の髪が黒く染まっている姿がこんな時だって言うのに此方の腹筋に悪戯に攻撃を仕掛け。笑いが込み上げて来てしまう。




 フライパンが飛んで来たのはきっと、この上に何かが乗っていて。それを頭から被ってしまったのだろう。




 お疲れ様です。




 後。

 意外と黒髪も似合いますよ??



「ちっ。何度でも吹き飛ばして……」



 おっと。


 今度は俺の背に視線を向けましたね??




 マイが飛んで行った反対方向。


 つまり、ユウが何かを投擲したのだろう。



 身の危険を察知した俺は、咄嗟にその場から飛び退き。飛翔して来る物体を確認した。






 ――――。


 石造りの大きな竈、ですね。


 しかも、丁寧に鉄の鍋付き。



 あれは飛ぶ物では無く、大人数で運ぶ物です。


 軽い紙みたいにひょいひょいと飛ぶ物じゃあない。




「っ!!」



 アレクシアさんが右手をすっと掲げると、そこから風の刃が幾つも放射され。

 硬化物質である石を見事に切断。



 石造りの竈は彼女の脇を通り抜け、地面にコロコロと転がって行ってしまったとさ。




「ってぇなぁ……。よくもまぁ、吹き飛ばしてくれたな?? あぁ??」


「ユウ!! 無事だったのか!!」



 頭を少し切ったのか。


 こめかみ辺りから出血の跡が確認出来る。


 しかし、怒りがそれを凌駕したのだろう。


 これでもかと眉を中央に寄せ、アレクシアさんを睨みつけていた。




 御二人共。


 ものすごぉく、怖いですからね??


 もうちょっと表情に注意しましょう。



「ユウ。準備はいい??」


「おう。血祭りにしてやらぁ!!」




「血祭りは駄目だってぇ!! どわっ!?!?」



 注意を呼び掛けた瞬間、二人から周囲に渦巻く風を吹き飛ばす量の圧が放たれ体がふわりと浮いてしまった。



「風よ、炎よ!! 吹き荒べ!!」


「大地よ!! 我に力を!!」



 慌てる俺に対し。



「……」


 アレクシアさんは興味津々といった表情で二人を見つめていた。





 浮かべた魔法陣に両者が腕を突っ込み。


 大魔の血を受け継ぐ者だけが可能とする、武器を取り出した。




「覇龍滅槍!! ヴァルゼルク!!!!」


「来やがれ!! タイタン!!」



 武を嗜む者も思わず魅入ってしまう黄金と、歴戦の勇士も慄く巨大戦斧が現世へと解き放たれてしまう。



「ここからはぁ……」


 マイが黄金の槍を肩に担ぎ。



「手加減無用だ。鳥野郎……」


 それに倣ってユウも銀の柄を肩に乗せた。




「ふ、ふふ!! あははは!! 何よ、何よぉ!! 二人共、まだ上があったなんて!!」



 子供が新しい遊び道具を見つけてしまった様な表情を浮かべ、大笑いを放つ。



 ここは普通、慄く場面なのですけど……。



「いいわ。じゃあ、私も更に上を見せてあげる……」



 刹那に瞳が赤く染まり、怪しい光を放つと。




「ふぅ……。ふっ!!」




 アレクシアさんの背中から純白の美しい翼が生えた。




 大きく開かれたそれはまるで天使の羽だ。


 だが、今だけは。

 恐ろしい物にしか見えない。




 ピナさんが仰っていた、空へ舞わなければ勝機はある。




 今から彼女は空へと『舞う』 のだ。



 此処で抑えなければならないと考えたのか。


 二人が白き翼へと突貫を開始した。



「でやぁああ!!」


「食らえええ!!」


 槍の中段突きと、大戦斧の刃がアレクシアさんを襲う。




「――――。さようなら」


「「っ!?」」



 攻撃が着弾する刹那。


 翼が一度羽ばたくと、彼女の姿はもうそこには無く。一枚の羽がひらりと舞い落ちるだけ。



 数秒前までそこに居た筈の彼女を見失った二人は慌てて空を見上げた。




 一瞬であの高さまで……


 一体、どうやったらあんな風に飛べるのだろう……。




「下らない遊びもここまで。あなた達は私の攻撃に怯えて……」



 空に浮かぶアレクシアさんの体から薄い緑が放たれると、前後左右至る所で風が渦巻き始める。



 塵が舞い上がり、落ち葉が吸い上げられ。太陽が昇った空へと上昇していく。




「死ぬのよ!!!!」



 一際強烈な光が発生すると、渦が竜巻へと変化。


 俺達の周囲を囲み空へと舞い上げようと画策していた。




 空に浮かび、地上に立つ者共を見下ろす姿は正に圧巻の一言に尽きる。そして、太陽の光を浴びて美しき純白の翼を羽ばたかせる姿は正に。







『空の女王』







 その名に恥じないものであった。




 不敵に笑みを浮かべる彼女に対し。


 俺達は周囲に渦巻く風に負けぬ様、その場に立ち尽くす事に精力を注ぎ。彼女を見上げていたのだった。


如何でしたか??

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続きます!!

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