第百十二話 贈り物は慎重に選びましょう その二
お疲れ様です。
後半、いいえ。おまけ部分の投稿になります。
それではどうぞ。
本日も空は綺麗に晴れ渡り、青一面に染まる空からはあっちぃ太陽が満面の笑みで私達を照らしていた。
良く晴れた日。其れ、即ち!! 絶好の食事日和なのだ!!
出来立てホヤホヤの死人みたいな顔を浮かべて作業を続けていた野郎に別れを告げ、気の合う友人達と街を練り歩くのは大変気分が良い。
そして、今日も街行く人は朗らかな笑みを浮かべて思い思いの場所へと向かっていた。
まぁ私もそんな笑みに埋もれつつ、彼等と変わらない笑みを浮かべて目的の場所へと向かっているのだ!!
『ユウちゃん!! 今日は何処に行くのかな!?』
『菓子屋だよ。どこぞの誰かさんが移動中に口寂しくならないようにしないといけないからなぁ――』
ふぅむ??
それは、私の事??
まぁ、流してやろう。私は寛大だからなっ。
『んふふっふ――ん。ふふんっ』
しっかし……。
我が親友は今朝から随分と機嫌が良いわね。
『ねぇ、ユウちゃん。何か機嫌がいいよね??』
私の素晴らしい思考を汲み取ったお惚け狼がユウに問う。
『まぁねっ!! 朝、起きたらさぁ!! 肩が軽いのなんのっ!!』
右肩に左手を添え、グルンっと軽快に回す。
成程、だから今日はいつにも増してバルンバルン!! っと双子の大魔王様が大暴れなさっているのか。
内側から押し上げられた服がキャアキャアと悲鳴を上げるとどうでしょう??
「「…………」」
すれ違う男性達が生唾を飲み込んで鑑賞するではありませんか。
街を歩くだけで視線を一手に集めてしまうとは、正に恐ろしき凶器だ。
おら、野郎共。
これは見世物じゃねぇんだぞ?? それと、真っ直ぐ前を見て歩けや。
馬に撥ねられて死んじまうぞ??
『レイドに整体されてぐっすり寝たから効いたんだよ』
『だろうなぁ。こんなに肩が軽く感じるのはいつ以来だろう??』
『あんまり派手に歩くと、また肩凝りに苛まされるわよ』
クルっと振り返り、バインバインと上下に揺れ動く胸に合わせて首をコクコクと動かしながら注意を促してやった。
いかん。
見つめていたら何だか、悪酔いしそうだ。
『また凝ってもお強請りすればやってくれるさ』
ちっ。
満更でもない表情を浮かべやがって……。
『ユウちゃん、レイドの整体どうだったの??』
南大通りを南進し、南西区画に繋がる見慣れた裏通りを発見。
そこへと向かって右折を続けながらルーが尋ねた。
『もう気持ちが良いのなんの!! 十本の指が巧みにあたしの肩凝りを解き解してくれたんだよ』
『いいなぁ――。私にはしてくれなかったもんね――』
『へへっ。日頃の行いが報われたのさっ』
キャイキャイと明るい日常会話を交わしつつ、ちょいと暗い裏道を進んで行くと件の店が見えて来た。
一見。
菓子屋とは思えぬこの出で立ちっ。
私の鼻が利かなければきっと発見には至らなかっただろうさ。
『ふつ――の家だけど。扉から甘い匂いが漏れてるね??』
私並みに鼻が利くルーがスンスンと鼻を動かして話す。
『あたしとマイが何となく歩いていて見つけたんだよ』
『そうそう。ちょいと変わった女店主さんだけど、味と値段は保証するわ』
『ふ――ん。じゃあ、入ろうか!!』
うむ。
大賛成よ!!!!
私を先頭に普遍的な民家の扉を開くと……。
「ヒッヒッヒッ……。いらっしゃぁい……」
お昼真っ盛りなのに随分と薄暗い店内の奥からしゃがれた声がおどろおどろしく私達の耳に届いた。
ぷっくりと膨れた鷲鼻、皺が良く目立つ服装に俯きがちな姿勢。
初見では先ず間違いなく警戒心を抱く出で立ちと服装なのだが、この女店主。実は物凄く優しいのだよ。
「おやぁ?? お嬢ちゃん達。今日も来てくれたのかい??」
えぇ、そうよ!! ここの御菓子は安くて美味しいからね!!
そう言わんばかりに大きく頷いてやった。
『マ、マイちゃん。この女の人……。お伽噺の中に出て来る悪い魔法使いみたいな姿しているよ??』
女店主にビビったのか。
ユウの背中に隠れてしまったルーが上擦った声色の念話を放つ。
『人は見た目で判断するなって言うでしょ?? 兎に角!! 御菓子を選ぶわよ!!』
恐れ戦く軟弱者に適当に返答し、店内の四方八方に並べられている机の上に佇む御菓子ちゃん達の下へと駆け寄って行った。
えぇっと……。
一日飴はどこかなぁっと……。
一日中舐めていても球体の面積が減少しない御菓子で有名なのだ。
だが、私の場合。三分の一日飴になってしまうのが歯痒いっ。
「お探しの品は、これかい??」
しゃがれた声で私が探し求めているバカでかい飴が詰まった瓶を差し出してくれた。
『っ!!』
有難う!!
満面の笑みを浮かべて一つ頷くと、彼女は見覚えのないクッキーが入った瓶を机の上に置く。
「これは私が丹精を籠めて作った砂糖菓子さぁ。美味過ぎて歯が溶け落ち、臓物が悲鳴を上げて悶え苦しむ甘さ……。素人はおいそれとは手が出せない代物さぁ……」
ほぉ??
それは是非とも賞味したいわね。
「お嬢ちゃんは見たところ……。その道を極めんとする者だろぉ??」
流石だな。
私は食を極め、人々を導く使命を与えられた者なのだよ。
「玄人は玄人を見極めるからねぇ。素敵な味覚を磨く為にも一つ買っておく事を勧めるよ」
『マイちゃん。それ、絶対毒入りだよ??』
ふぅむ……。毒、か。
最近の若者は食に対する意識が低下している。やれこれは栄養価が高いけど不味い、やれ汚いから食べない、臭いから遠慮する等々。
耳が痛くなる言葉は枚挙に遑が無い。
私は毒を食らって血肉に変える努力はしてきたのだろうか??
飯炊きが作る飯に依存している所為もあってか、その努力が欠如しているのだ。
つまり!!
このやたら黒いクッキーを食らい、毒を我が血肉に変える努力をせねばならぬのだっ!!
おばちゃん!! 買いますっ!!
瓶の蓋をキュポっと引っこ抜き、机の上に置かれている受け皿の中に数枚運んでやった。
「毎度ありぃ……。きっと、そう……。きっと気に入るからねぇ……」
『うっわ……。絶対変な薬とか入ってそうだし。止めなよ――……』
『これだから素人は……。度し難いわね』
『難しい言葉知ってるね??』
『黙れ!! 小童が!!!!』
人様が折角食の何たるかを語ってやろうって言うのに!!
『私とあんまり歳変わらないじゃん』
『いい!? 耳糞全部ブチ抜いて良く聞け!! 玄人はね?? 毒も食って、己の糧にしなきゃいけないのよ!!』
『ふぅん……。あぁ!! ユウちゃん!! その飴美味しそうだね!!』
ちっ。
入り口脇に置かれている美味そうな飴が詰まった瓶の下へと駆けて行きやがった……。
今回は長旅になりそうだし、予算が許す限りたぁぁくさん買おうっと!!!!
「そうそう、これもお薦めだよぉ??」
私がウキウキ気分全開で店内をうろついていると店主が、茶色の飴玉がびっしりと詰まった瓶を差し出してくれた。
何処にでも見かける飴玉に見えるけども……。
「最近の子は占いってものに取り憑かれている様でねぇ。これもその呪いの類さぁ」
飴玉に呪いとは如何に??
「この飴玉。最初はあまぁい味がするんだけどね?? 暫くすると味が変わるんだよ。そして、味が変わったら中身を確認して御覧なさい。茶色の飴玉の色が変化しているから。茶色の中にはたぁくさんの色を混ぜておいた。同じ色の飴玉を選んだ人とは相性が良いって事さぁ」
いや、私はゲン担ぎの類はあまり信用しないんだけども……。
「今なら何んと一つ三ゴールドで売るよぉ?? お嬢ちゃんだけの特別価格さぁ」
買います!!
いいえ買わせて下さい!!!!
な、何てお得な買い物なんだ!!
一個三ゴールドよ!?
私は半ば怪しい店主から奪い取る形で瓶を受け取ってしまった。
えへへ。
これだけ沢山あれば暫くは甘味に困りそうにないわね。
「まだまだ沢山あるからねぇ……。ゆっくり選ぶといいさぁ……」
おどろおどろしい声色が狭い店内に響く中。
私は取捨選択に苛まれながら数多くの菓子を手に取り、束の間の幸せを享受していたのだった。
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