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百九話 危険が佇む地へと赴く飯当番

お疲れ様です。


週末の夜にそっと投稿を添えさせて頂きます。


それでは御覧下さい。




 民家に挟まれた狭い通路から空を見上げると、空一面を染める青の中に存在する白がゆるりと何処かへと流れて行く。


 大変のんびりとした光景だが、それでも時間は確実に進んでいるとあの雲の動きが俺に教えてくれた通り。少々足を速めて本部へと向かっていた。



 レフ准尉は元気にしているだろうか??


 まぁあの人の事だ。御用聞きと称して本部内部で齷齪と情報入手に奔走しているに違いない。


 その所為で部下がヤキモキしているというのに……。


 犯罪紛い、では無くて。本家本元の犯罪行為のお陰で本来知る由も無かった事実も知る事が出来るので准尉の行為は強ち有益なのかもね。



 それでも、勿論駄目ですよ?? 犯罪行為は。



 日常生活感が溢れに溢れる道を進んで行くと、懐かしき光景が俺を待ち構えていた。


 ほんの僅かしか離れていないのにこうも懐かしく見えるのは、此度の任務で体験した事が日常生活からどれだけ逸れていたかを教えてくれているようだ。



「レイドです!! 只今戻りました!!」



 周囲に建つ民家の屋根で翼を休めていた雀さん達がビックリして逃げ出す程の声量を放ち、傷が目立つ扉叩く。



 昼過ぎだけど、居るかな??



「ん――。入ってよ――しっ」



 御用聞きに向かっていなくて良かったです。



「失礼しますっ!!」



 覇気ある声を上げ、普遍的な民家に足を踏み入れた。



「あのなぁ――。もう少し静かに入って来れんのか?? 近所迷惑も良い所だ」



 美味そうにお茶をズズっと啜り、本日は……。


 あぁ、広告か。


 題名に。



『本日の夕刻から大安売りを開始します!! 大、中、小!! 様々な大きさを取り揃えてお客様をお待ちしております!!』 と書いてありますからね。



 その店が食料品店なら一考でしたが、生憎。俺には女性用下着を着用する趣味はありませんのであしからず。



「はっ、申し訳ありませんでした!!」



 ここで軟弱な態度を示す様ではこの人に影響されたと周囲から揶揄されてしまうので、敢えて大袈裟に覇気ある声で返答し。キチンと気を付けの姿勢を取ってやった。



「クソ真面目な奴め。んで?? 簡単な報告は伝令鳥で受けたけども、お前さんの御口ちゃんからおんぼろ屋敷の詳細を伝えろ」


「分かりました。王都を発ち…………」



 机の上にぽぉんっと広告を放り捨て、長い足を組んで此方に厳しい視線を向けた。



 東へ向かい海路を使用してフリートホーフの街へと到達したと申しているが、これは勿論真っ赤な嘘。


 本当は不帰の森を南下して街へと到達。そして、帰り道は。



『船なんか絶っっ対乗らん!!!!』 と。



 深緑の髪の女性が駄々をこねてしまったのでこれまた不帰の森を北上して。しかも、再びミノタウロスの里へとお邪魔させて頂きこれまた補給物資を頂いたのです。


 里の皆さんに卑しい奴だと思われていないか。その点が不安ですよ……。


 後、ボーさんとフェリスさんに挨拶をさせて頂いたのだが。族長であられる彼が腰痛を罹患しているとは思わなかった。


 常軌を逸した筋肉量を積載している屈強な体でも腰痛は起こるものだと、要らぬ情報を入手して今日に至ります。



「――。そして、先程帰還しました」



「ふぅん。到着したは良いが、落雷によって消失しているとはな」


「えぇ、大変驚きましたよ」



 御免なさい。これも嘘です……。



 ソラアムさん、並びにシシリョウさんと相談し。地上の屋敷はアオイとカエデの魔法によって倒壊及び焼却処分させて頂きました。


 追跡者が彼女達を追って来る、並びに民間人が興味本位でやって来る恐れもあるし。


 それに二人一緒の方がシシリョウさんも仕事が捗るでしょう!!


 何の仕事か、それは余り深く追及出来ませんでしたが……。



「無駄に長い時間を移動させて悪かったな。これで正式に上に報告が出来るよ」


「いえ、それが私の務めですから」


「さて!!!! 貴様も早く渡してくれとウキウキとした顔を浮かべているし。早速、今回の報告書を渡そうかなぁ!!」



 ウキウキでは無く。


 辟易です。



 まぁ、気分は量にもよって変わりますけどね。



「ふんふふんっ」



 妙に音程がズレている鼻歌を奏でつつ、軽そうな臀部を左右にルンっと振り。後ろの棚から微笑ましい量の紙の束を机の上に置いてくれた。



「これが今回の報告書の量ね」



 っし!!!!



「はっ、有り難う御座います」



 心の中で渾身の力を籠めて握り拳を形成し、感情が外に漏れないように答えた。


 やった!! 


 あの量なら一日で出来るじゃないか。



「んで、次の任務なんだけど……。真剣な話になるからそこに座れ」



 惚けていた口調から一転。


 これこそ軍属の者足る口調に変化して、准尉の正面に座る様に促す。



「分かりました。次の任務はどういった内容なのですか??」



 荷物一式を椅子の脇に置いて問う。



「今回の任務は、前線の偵察だ」



 重苦しい声量を放ち、机の上にアイリス大陸全土の地図を広げた。



「偵察、でありますか??」



「そうだ。大陸南部一帯に西から東へと広く分布する不帰の森、その内部を偵察せよ。そういう指示が降りてきている。大まかな位置はこの辺りだ」



 レフ准尉が大まかな偵察箇所を指でなぞって示す。それは丁度、森を分断するように動いている。


 あれ?? そこは確か……。アオイの故郷が近いよな??



「周知の通り、オーク共の動きは大人しくなっている。そこでだ、今の内に森へと入り。どこまで奴らが東部へ前線を伸ばしているか、それを偵察して来いとの話だ。確か最初の任務でこの周囲を通過したな??」



「ファストベースへと向かう為、南から北へと抜けました。今し方示して頂けた位置からは東へずれていますけどね」



 そこでアオイと出会い、オーク共と一戦交えた。


 懐かしいなぁ、僅か数か月前が遠い日の記憶の様に思い出されるよ。



「そうか……。それで」


「何か気になる点でも??」



 レフ准尉が何か考え込むように右手を口元に当てている。



「いや、不帰の森は危険区域に指定されているだろ?? それなのに名指しで指令が来ているという事はお前にそういった経験があるからだろう。そう思ってな」



 成程。それなら合点はいく。



「そして……。これは本来私達が知る由も無い情報なのだがぁ」



 うっわ。


 出たよ、このわっるい笑み。



 ニィィっと厭らしく口角を上げる笑み。もう既に嫌な予感しかしない。



「聞くぅ??」


「聞かなければ同罪と称して投獄される恐れがありますからね。伺いましょう」



「先日、不帰の森内部に調査に向かった部隊があるって言っただろ??」


「えぇ、それがどうかしましたか??」


「部隊の詳細な人数は約十五名。分隊三隊がそれぞれ別の位置から……。ほれ、先程示した位置の調査に向かったんだけど……」



 だけど……。何でしょうか??



「帰還したのは…………。たったの一名だ」


「ほ、ほぼ全滅じゃないですか!!!!」



 考えも無しに死地へと赴いたらそりゃそうなるよ!!



「これで奴さん達が確実に、そこに居る事が分かった。初見で森の中を行動するのは骨が折れるし、しかも体力も馬鹿みたいに必要だ。つまり、『恐ろしい森を横断出来る度胸と体力』 そして、『経験と実力』 この二つを兼ね備えている人物が……」



 人の顔面に指を差さないでください。


 失礼に当たりますよ??



「自分、であると」



「その通りっ。大まかな場所が分かった今、後は経験者に任せてしまおうという算段なんだろうな」


「十四名もの死者を出した作戦ですよ?? よく再認可しましたね」


「そ――しれ――命令だし。下の者は首を縦に振るしかな――いの」



 伸ばして言わない。



「はぁ……。しかし、自分がそんな大役を担っても宜しいのでしょうか」


「人員不足もあるし。何より、お前さんだからこそ出来るんだろう」



 おっと。


 これはちょっと嬉しいかも。俺しか出来ないって事はだよ?? 実力を認めてくれた事と同義だからね。



「服の大安売りを翌日に控えた主婦みたいに嬉しそうな顔しているけど、勘違いするな。今年の四ノ月に訓練所を出たばかりのぺーぺーだからな。死んでもそこまで痛手じゃないって意味だ」


「――――。まぁ、分かっていましたよ?? 自分の階級を加味すれば……」



 階級は兵卒ホカホカの二等兵。上よりも、下から数えた方が早いと来たもんだ。


 俺一人の損失等、たかが知れているだろうさ。



「私達は所詮、都合の良い捨て駒なのさ」



 もう少し言い方ってものがあるでしょうに。



「それで、その情報は何処で得たのですか??」



 また某大佐の部屋だろうか。



「聞いてくれ!! 今回の情報入手は細心の注意を払ったんだよ!!」



 嬉しそうに犯罪行為を語らない。



「最上階のとある部屋へお茶を運びに行って」


「行って??」



「しつれいしま――っすと声を掛けても、扉の向こうからはうんともすんとも言わないときたもんだ。んで、踵を返そうとしたんだけどぉ。どういう訳か!! 扉が一人でに開いちゃったんだよ!! そりゃあ驚くよな!?」



 ごめんなさい。


 驚きを表現したいのはこっちです。勝手に扉が開く訳がありませんからね。



「勝手に扉が開いたら、閉めるのが当然。そう考えた私は扉の前へと進み。内側から扉を閉じたんだ」


「すいません。そこ、既におかしいです」



 何で内側に入っているんですか。



「お茶を運べと命じられたので、お茶を置かなければならない。私は己に課せられた任務を果たす為に総司令の執務机に……」


「ま、待って下さい!! そこ!! そこで止めて!!」



 これ以上は聞きたくない!!


 な、な、何て命知らずの人なんだよ!! よりにもよって最高責任者であるマークス総司令の部屋に侵入するなんて!!



「だ――か――ら――。お茶を運んだだけだってぇ。ほいで、机上が散らかっていたから。私が善意で整理整頓を果たし。綺麗になった机の上にお茶を置いて帰って来た訳さ!!」



 善意ではなく。


 知っていて行ったら悪意じゃないか。



「その作業中。准尉の目に機密情報が留まってしまったと??」


「大正解っ!! 流石の私も心臓がバクバクだったさ」



 そりゃそうでしょうね。


 バレたら除隊処分……。違うな。間違いなく刑務所行きだ。



「んで、情報を得た後。本部から風を纏って去ろうとしたんだけど……。友人に呼び止められてしまって……」



 犯罪行為がバレて晴れて刑務所行き……。


 では無いですよね。現に此処に居ますので。



「友人が言うには。我が軍の最高司令官殿から直接任務の説明をするから部屋に行けって言うんだよ。あれは二度手間だった」


「え?? 准尉が直接、ですか??」



 もっと下の階級の人から指令書を渡されると考えていたのに。



「今回の任務はそれだけ危ないって事さ。マークス総司令から伺った内容によると。前回の任務で調査出来た範囲はぁ……。不帰の森北側から突入して、南へ向かい。凡そ……。三分の一程度だな」



 再び准尉が地図上に指を差し、言葉通りの位置で指をピタリと止めた。



「今回の任務は先に述べた通り、森の内部の偵察と調査。お前には残りの三分の二の範囲を調べて来いとありがぁい任務を拝命したのだが……。総司令はこうも言っていた。 これ以上は危険だと判断したら即刻退却しろ、とな」




 十四名もの猛者が命を落とした地だ。何が潜んでいるのか分からない……。


 だが、此方には血の気が多い方々が居ますからねぇ。その点に付いて心配は御無用なのですが。


 問題は広大な調査範囲、並びにアイツが大人しく指示に従うかだな。


 前線の偵察と調査。即ちそれは敵性勢力がどの程度の規模なのか、兵の質、使用する武器等多岐に渡る調査も含まれているし。それに、アオイの里も近い。


 悪戯に敵の前線を刺激して蜘蛛の里を脅かす真似だけは避けなければならないから。




『ギャハハ!! 大盛だぁ!! ぜぇんぶぶっ飛ばしてやらぁぁああ!!』



 後先考えずに最大火力を解き放つ姿が脳裏に浮かんでしまう……。


 今晩、カエデ達と一度相談しよう。アイツが横着を働く前に枷を付けなければならないからね。




「了解しました。私が限界だと感じた時点で即刻退却します」



「偵察任務……。お前も知っていると思うが、出来るだけ多くの情報を持ち帰って来い。それと……」



 ふぅっと一つ大きく息を吐き、若干の優しさを籠めた瞳で此方を見つめた。



「主任務は偵察だ、戦闘は極力避けろ。もしも、危険だと判断したら無理をしないで帰って来い。私が許す」


「有難う御座います。何だか、今日は妙に優しいですね??」



 いつもはニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべて俺を揶揄うのに。



「お前は私に出来た初めての部下だからな。私も私なりに思う所があるのさ」



 へぇ、そうなんだ。


 それは初耳だな。



「さ、さて。経緯の説明だが」



 一つ咳払いをして地図に視線を落とす。


 毎回こんな風に真面目且ほんの少しの優しさを滲ませてくれる上官であるのなら素直に尊敬しましたのに。



「先ずは西へと向かって出発、各地で補給を繰り返して……。そうだな、ここから馬の脚なら十八日もあれば到着するだろう」



 十八日間に渡る移動か。


 各地点での補給は確実に済ませておかないと。


 そうしないと、我が分隊は即刻食糧難に陥ってしまいますからね。




「任務開始は明後日。装備と補給品は明後日の朝に取りに来てくれ。何か気になる点はあるか??」


「この西部一帯。つまり北から南、森林内の前線を偵察する。それで構いませんか?? 南に抜けて海岸線まで偵察しなくても宜しいのでしょうか??」



 森林から南へと抜けた先。


 僅かに存在する海岸線一帯を指して話す。



「いや……、森林内だけで構わん。そういう指示だ」



 手元の指令書に目を通しながら話す。



「見せて頂けますか」


「ん。汚すなよ?? 私のと違ってこれは本物の指令書だからな」



 にやりと笑い、此方に指令書を渡して頂けた。



「あれを使う時、かなり動揺したんですからね。何々……??」



 上から順に文字の海に視線を泳がせていくが、今し方説明された通りの任務内容に変わりはなかった。



 そしてパルチザン総司令マークスの印章が著名欄に記載されている。間違いなく本物の指令書ですね。


 それと……。此方の方は……。


 レナード大佐、か。


 お偉いさん二人の印章ねぇ。


 今回の任務は我が軍部にとって余程重要な任務なのだろう。経験者だからって俺に一任させても宜しいのでしょうか??


 その点だけが疑問に残る。



 しかし、此処でレフ准尉と押し問答を繰り広げても詰まる所。徒労に終わるだけなのは目に見えている。


 以前、准尉が仰られた。



『軍属であるもの。任務に疑問を持つな』



 その言葉を胸に栄えある任務を受け賜わりましょう。



「有難う御座いました。確かに正式な指令書ですね」



 彼女へ指令書を渡しながら話す。



「説明は以上だ。明後日に備え、体を休めておけ」


「了解しました。それでは失礼します!!」



 一礼をすると扉を開け、八ノ月に終わりに相応しい暑さと湿気を含んだ外の空気に触れた。



 今度は偵察任務か……。初めての経験だけど上手くいくかな。



 索敵と偵察。


 カエデやアオイに頼りそうになるな。いや、龍と狼の鼻を頼るか……?? しかしそれだとごく狭い範囲に絞られそうだし……。



 いかん、一人であれこれ考えても纏まらない。カエデに相談しよう。



 確か、彼女達は図書館だと言っていたな。よし!! 北の区画へ向かおう。西通りに出ると図書館に……。



 違う!! 先ずは宿だ!!


 あっぶね、宿無しで過ごす所だったよ。もし宿が取れていないと言ってみろ、龍の逆鱗に触れてしまう。



「「??」」


 

 急に方向転換をしたので何事かと思い、通行人の方々がこちらを不思議そうに見つめていた。


 お騒がせして申し訳ありませんでした、どうぞ心行くまで日常を謳歌して下さい。心の中で軽く謝罪の言葉を述べると一路贔屓にしている宿へと足を向けた。




最後まで御覧頂き有難うございます。


そして!!


ブックマークをして頂き誠に有難う御座いました!!


風邪が治らす調子が上向かないこの頃、執筆活動の嬉しい励みになります!!


それでは皆様、良い週末をお過ごし下さいね。

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