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第百七話 沢山遊んだ後は御飯を食べて仲直り

お疲れ様です。


本日の投稿になります。


それではごゆるりと御覧下さい。




 地下での大変疲れる戦闘を終え、私の快刀乱麻を断つ活躍もあってか。すんばらしい勝利を収めた後。


 色白姉ちゃんの先導で暗くてジメジメした地下内をずぅっと歩いて行った。


 すると、疲れ果てた体に大変嬉しくない何処までも上に続いて行く階段が現れ。これまたずぅっと上って行くと今にもぶっ壊れそうな扉に辿り着いてそれを開くと。



 朝焼けの空の下に存在する爽やかな空気が私達を迎えてくれた。



 暗闇に慣れた目に朝の光を受けるとチクっとした痛みが訪れると同時に、疲労と自分でも笑えて来る空腹が押し寄せて来てしまった。


 無事に地上へと生還出来た事を喜ぶ前に、腹が減るとは……。そりゃあ笑っちゃうでしょう。



 余程地下が気に入ったのか。


 中々地下の扉の前から動こうとしない横着な海竜ちゃんを半ば強引に連れ出し。


 踏み心地の良い土の感触を楽しみつつ、友人達とのささやかな会話を交わしながら森の木々の合間を縫って行くとあのぼろっちぃ屋敷が見えて来た。



 つまり、地下への入り口は屋敷内部だけでは無く。森の中にも存在したのだ!!



 クタクタに疲れた面持ちで正面玄関を潜り抜けて姿見が存在する部屋へとお邪魔し。



 若干の埃が舞う部屋の隅。


 そこに存在する妙にデカイ姿見の後ろから矮小な声が疲れ切った私の体の鼓膜を震わせた。



「――――。手違い、だった」


「あ、あはは。皆さん、彼女はこうして謝っていますので。許してあげて下さい」



 姿見の中の幽霊姉ちゃんが死人とは思えない程。妙に明るくニコっと笑みを浮かべてそう話す。



「まぁ――。手違いなら仕方がないんだけどさぁ。はい、そうですかぁ――っと。納得する程私は大らかなじゃないのよ??」



 お分かり??


 そんな感じで片眉をクイっと上げて言ってやる。



 大体、その手違いをブチかまされ。元の体に戻る為に地下へと突入したのに。向こうは最初から聞く耳を持っていなかったし。


 それに、ボケナスの事を被験体云々と呼んで飼い馴らすと言っていたし!?


 明らかに敵意全開で向かって来たし!!



 手違い処か、る気全開だったじゃん!!!!



「まぁまぁ、マイちゃん。落ち着こ??」


「ふんっ。で?? さっさと戻してくれる?? 肩がクソ痛くて死にそうなのよ」



 姿見の影に隠れ、じぃぃっと此方を窺う色白姉ちゃんに向かって話す。



「――――。元に戻ったら、貴様等が私に対して攻撃を仕掛けて来ない保証が無い」



 こ、この野郎っ!!


 本気まじで一度横っ面を叩かれないと理解出来ないみたいね!!


 上等じゃない。


 そのほっせぇ首ぃ。ポキっと逝っちゃうよ?? 今の私は手加減出来ないからね??



「もう!! まぁたそんな事言って!! し――ちゃんの悪い癖だよ!?」



 し――ちゃん??



「ソラ。私は悪くない。悪いのは私の許可を得ないで勝手に攻撃を加えた貴女なの」



 あっ、色白姉ちゃんの事か。


 急に渾名で呼ばないでよね。



「ま、まぁそうだけど……。この人達は悪意の塊って感じじゃないのは分かるでしょ??」


「……」



 姿見の淵っこを掴みながら一つ小さく頷く。



「このままだと不便だろうし。それに、もう攻撃は加えないって言ってるじゃない」


「だったらそこの緑の髪の女を私から遠ざけて」



「ほいほい。マイちゃ――ん。こっちに来ましょうね――」


「私は今にも噛みつこうとする猛犬かっ!!」



 カエデの体の中のルーに宥められ、姿見及び色白姉ちゃんから一番遠い位置に置かれてしまった。



「はいっ、じゃあちゃちゃっと済ませちゃいましょうか!!」


「面倒だな……。この魔法はやたら疲れるのに……」



 姿見の中の友人から促されると、ブツクサと文句を言いつつも詠唱を開始。


 そして、腹の奥がズンっと重くなる衝撃を感じ取った。



「闇の中に渦巻く無数の矮小な明かり。辿れ、元の光へ。生陵復帰バックトゥオリジン



 色白姉ちゃんが浮かべた魔法陣から網膜を傷付けてしまう光量が放たれると、同時。


 馬鹿みたいに高い空から落下して行く無重力に近い感覚が広がり、思わず目を瞑ってしまった。



「――――。皆さん、瞳を開けて下さい」



 幽霊姉ちゃんの澄んだ声を受け、妙に重たい瞼を開けると……。




「――――。うっひょぉぉおお――!!!! か、体がかっっるぅぅい!!!!」



 肩に掛る負荷が霧散。


 私の体はまるで翼が生えたみたいに軽やかに感じてしまった。



「あ、在る!! あはは!! マイ!! あたしの胸、ちゃんと在るな!!」


「あ、あぁ……。そうね……」



 ごめん。


 嬉しそうな顔を浮かべて私の目の前で胸を持ち上げるのはヤメテ??


 ド迫力過ぎてちょいと怖いのよ……。



「やったぁ――!! リュー、戻ったね!!」


「あぁ、そうだな。この湧き起こる力……。素晴らしいの一言に尽きる」



「はぁ。やっと解放されましたわね??」


「ア、アオイ!! 二桁の乗算の問題を出して下さい」


「?? 二十八と十八を掛けると幾つ……」


「五百四です!! あ、あはっ!! やった!! 計算式が浮かんできますっ!!」



 計算が可能になった体に戻った事が余程嬉しいのか。目に大粒の涙を浮かべて大喜びする藍色の髪の女性。


 お惚け狼の体の中じゃあ苦労したのだろう……。


 その点に関して同情するわ。



「はぁっ……。やっと元に戻れた……」



 夜通し行動していた所為か、ドット疲れが体に押し寄せて来た。


 大きな溜息を吐き尽くし、ソファにどかっと腰かけてやる。



「あの――。それで、私達の処遇はこれからどうなるのでしょうか??」


「あ?? それを決めるのは私達じゃなくて、もう直ぐ私の元気の源を運んでくるボケナスに聞いて」



 元の体に戻った所為か。


 嗅覚がビンビンに冴えわたり、数十メートル先からふわりと香る素晴らしき食事の香りを捉えてしまっているのよ。


 そう、良いわよ……。


 そのまま転ばず、私の下へと素敵な朝食を届けなさい。



「皆、お待たせ――。朝ご飯ですよ――」



 包帯でグルグル巻きにされた両腕の先には大きな土鍋があり、そしてその中には私の食欲ちゃんをグッと惹き付けてしまう白い雪原が確認出来た。


 古米をクタクタになるまで煮た御粥ちゃん。


 それはそれはもう!! 疲れた体と心をヨシヨシと撫でてくれる優しい御味なのでしょう。



 いつもなら此処で。



『いやっっほ――い!! 朝ご飯だぁ!!』 と。



 我を忘れて飛び出すのだが。



 ふふ、私は今回の事件を経て大人の女性になったのだよ。


 飯炊きがちゃんと配膳を終わるまで……。



「うはっ!! 良い匂い!! レイド!! あたし超大盛ね!!」



 はい、やっぱ無理でしたっ。


 右隣りに座る馬鹿乳女が放った台詞が焦燥感を生み出してしまい、龍の姿に早変わりすると速攻でボケナスの肩に留まった。



「ねぇ!! 私から!! 私からだからね!?」


「はいはい……。少しは落ち着けないのか。お前さんは」



 無理ですぅ!!


 夜通し動いていたから腹が減って腹が減って……。死んじゃいそうなの!!



「ソラアムさん、シシリョウさん。申し訳ありません。土鍋借りました」


「いえいえ!! お構いなく――」



 そんな礼は後でもいいからさっさと配膳しろや!!


 態々私が此処迄運んで持って来た各自のお椀にトロぉっと粘度の高い御粥さんを盛って行く。



 あ、凄い。コレ……。


 香りだけで卒倒しちゃいそう……。



「マイ、お前さんの分はこれ位でいいか??」


「……」



 無言のまま二度首を横に振る。



「――。これ位??」


「…………」



 今度は三度。



「はぁ……。じゃあ、これ位で良いよな」



 こ、この男は……。一体いつになったら私の適量を覚えるのよ!!



「駄目っ!! 全然足りない!! 私の一膳は皆の二膳分なの!!」


「言っている意味が分からん。まぁいいや、ほい。ど――ぞ」



 あはっ!!


 やったね!! 文句を言いつつも私の望んだ量を提供してくれるところが、コイツの良い所よね。


 アツアツの御粥さんを手に入れ、私は元居た位置へと颯爽と舞い戻り。


 っと。


 木の匙を忘れていた……。



 慎ましく置かれた匙を入手して早速頂くことにした!!



「いただきま――す!! はむっ!!」



 あぁ……。


 何だろう、この優しい気持ちは……。



 口の中にほっっわぁっと広がるほんの小さな塩加減と御米ちゃんの甘味。


 態々咀嚼しなくても舌でクニっと動かすだけでホロホロと崩れちゃうお米さんの柔らかさ……。


 これは、そう。


 天使がくれた優しい贈り物ね。



「シシリョウさんも如何ですか??」



 何!?


 貴様、敵に御粥を送るというのかね!?



「――。要らない」



 ほっ。


 良かった。お代わりが無くなる所だったじゃん。



「駄目ですよ?? 偶には温かい食べ物を食べなきゃ」


「そうですよ。――。因みに、いつもは何を食べているのですか??」



 幽霊姉ちゃんにボケナスが問う。



「屋敷内を徘徊している鼠を捉えて丸焼きにしたり、烏の姿になって街へと繰り出して廃棄寸前のパンをくすねたり。それ以前に、この子は全然食べないんですよ」



 鼠の丸焼き、か……。


 果たして美味いのか?? あのチュ――チュ――さんは。



「ねぇ、ルー」


「ん――?? なぁに?? ふぁっつ!! あっつ!! これ、ちょっと熱すぎない!?」


「あんた森育ちの野蛮人でしょ?? それなら野鼠の一匹や二匹、食べた事ある??」



 私の対面に座り、人の姿で御粥さんの熱さに目を白黒させているお惚け狼に問うた。



「ふぁ――。熱かった。あるよ!! これがまたすんごく美味しいんだぁ!!」



 やはり美味いのか!?




「本格的にガブッ!! と食べたいのは小鹿のはらわたなんだけどね??」



 いや、その味は知らなくても良い。



「鼠さんはおやつみたいな存在なんだ!! 地面の上を駆け抜けていく鼠さんを大きな口でガブ!! っと捉えて。そして、先ず頭をパキュっと噛み砕く!!」



「あ――、ルー。御免、その話はしなくて良いよ」



 我が親友が嫌な予感を捉えたのか、御粥の優しい味によって下がりに下がりまくっていた目尻を元の位置へと戻して話す。



「ルー、続けて」


「噛み砕いた皮膚の隙間からじわぁぁって血と脳が零れて来てね?? それをゴクゴクと飲み干してぇ。お次は体!! ギュムギュムと噛むとお肉の味が……」


「あぁ、確かにあの感覚は素晴らしいの一言に尽きるなっ」



 壁際に佇み、大人しそうに御粥を食んでいた強面狼がウンウンと頷く。


 狼アルアルなのかしら。野鼠の食み方は。



「そして最後!! ながぁい尻尾をチュルンっと飲み干すとほわぁって気分になるんだっ」



 ふぅむ……。


 野鼠の生食、ね。


 一度はアリかと思ったけども。やっぱ最低限火を通さないと駄目の結果に至ってしまった。



「うぇっ。何だか食欲無くなりそうだ……」


「じゃあそれ頂戴!!」



 ユウのお椀を奪おうとするが。



「駄目だ。これはあたしのっ」



 捕えかけたお椀が私の指先からスルっと逃げやがった。


 ちぃっ、あわよくば食らってやろうかと思ったのに。



「体が温まって美味しいですよ??」



 アイツ、まだ諦めていないのか??


 姿見の奥でウジウジと佇んでいる色白姉ちゃんに向かいお椀を差し出している。



「――。分かった」



 ほぼ奪い取る形でボケナスからお椀を受け取り、恐る恐る熱々の御粥を口に運ぶと。



「…………。お、美味しい」



 緋色の三白眼がぽわぁっと温かい色を放ってしまった。


 へぇ……。


 冷たい表情ばかりかと思ったのに、温かい表情も浮かべられるんだ。



 まぁ、感情を持つ生物なら誰しもが食に対して嬉々とした表情を浮かべよう。私がその際たる例っ!!


 美味しい御飯を食して、無表情を貫けるのは感情が欠如した生物なのさっ。



「あはは。良かったです。食べながらで良いので、幾つか自分の質問に答えて頂けますか??」


「……」



 熱さに四苦八苦しながらコクコクと頷く。



「地下内部で見た骸骨。あれは……。その、人体実験と称して誘拐した人間の成れの果てではありませんよね??」


「違う。墓場から盗んだり、自分で作ったりした」



 ほう、そうなのか。


 てっきり私は実験の失敗作と考えていたのに。ってか、サラっと流そうとしたけども。


 墓場荒らしも立派な犯罪よね?? 


 例え犯罪ではなくとも、死者を弄ぶのはその人の尊厳を傷つける行動であって。よっぽどの事が無い限り認められない事だ。



 それを色白姉ちゃんは行った。


 つまり、それだけ幽霊姉ちゃんを守りたい想いが強かったのか。将又、単に自分の趣味。若しくは下らねぇ研究の為なのか……。


 御粥を食みつつ、会話の流れから判断してみっか。



「では、次の質問です。此処は人里離れた僻地ですが、また人間が訪れる可能性がありますので。屋敷を焼却処分した方が良いかと。それに、森の中でポツンと佇む屋敷は異様に目立ちますからね。御二人を追撃する者達からも隠れる事が出来ますし」



「だって。どうする?? 私は地下で暮らしても良いけど」


「認める」



「有難う御座います。では、次に……。シシリョウさんはこれから、御自身の研究の為に人を襲う可能性はありますか??」



「只の人間に興味は無い」


「あ、大丈夫ですよ。この子、生きた人間には全く興味を示さないので」


「一言余分」



『生きた人間』



 つまり、あの色白姉ちゃんは死体にしか興味が無いのか。


 ぶっ飛んだ性格しているわね。




「これが最後の質問です。地下通路内で蠢いていた骸骨兵なのですが……。アレは侵入者撃退用に作った。これで合っていますか??」


「うん」


「合っていますよ。私を守る為に作ってくれたんだよね――??」


「自分だけを守る為に作った」


「うっわ!! 何でそういう事言うのかな!?」



 ははっ。


 分かり易い嘘だ。



 同じ女性同士。


 簡単な嘘は直ぐに見抜けるさ。色白姉ちゃんは恥ずかしさを誤魔化す為、咄嗟に嘘を付いた。


 それは照れ隠し、とでも言いましょうかね。




「別に……」



 御粥がたっぷりと詰まったお椀を手に持ち、姿見の奥に隠れて小さく呟く。



「またそうやって隠れて……。私はレイドさん達が此処に来てくれて良かったなぁ――って考えているのですよ??」


「良かった?? それまたどうして」



「紆余曲折ありましたが、こうして皆さんと知り合う事が出来ましたし。それに……。ずっとこの部屋で貴女が帰って来るのを待つのは寂しかったのです。これからは、地下で一緒に過ごせますから……」



 肉体が滅んでも、友情は不滅ってか。



「へへっ。お代わりしよっ」



 私も、例え魂だけの存在になったとしても。ユウと離れ離れになるのは寂しいかな。


 幽霊姉ちゃんの気持ちは物凄く理解出来た。



 まっ、横着を働く気配も無いし。


 多分大丈夫でしょう!!



「では、食事を終えて出発の準備を整えたら早速作業に取り掛かります。森へ延焼しない様、屋敷全体を結界で包み込んで焼却します。ソラアムさんが宿る姿見は自分が運びますので御安心下さい」


「はいっ。宜しくお願いします。ほら、し――ちゃんもお礼っ」


「宜しく、被験体……」


「あ、あはは……」



 姿見の奥からじぃっと睨む色白姉ちゃんにボケナスが若干呆れた笑みを返した。



 これにて一件落着っと。



 後は王都に早く帰って、屋台群に飛び込んで胃袋が悲鳴を上げるまで飯を食らおう!!


 ウキウキ気分でお代わりの手を伸ばすと、先に食事を終えたカエデがボケナスの隣に並び。色白姉ちゃんに質問を投げかけた。



「シシリョウさん。あの骸骨を操った魔法の術式を見せて頂けませんか??」



 魔法を得意とするカエデには垂涎ものだろうさ。



 ほら、すんげぇ目がキラッキラに輝いているし。



「嫌」



 っと。


 一言で片づけられちゃったわね。ご愁傷様――。



「あはは。長い時間を掛けて構築した術式は早々見せられないって」


「むっ……。導入部分でも良いから見せて」



 意外と食い下がるわね。



「拒絶する」


「また今度の機会にしなよ。シシリョウさんも疲れて……。うん?? こら、駄目じゃないか。口元にお米と……。顔に泥が付いているぞ??」



 お――い、おいおい。


 ボケナスさんやい。そいつはルーじゃなくで、カエデさんじゃぞ――い。



 恐らく、というか。十中八九体が入れ替わった事を引きずって間違えてしまったのだろう。



 ズボンの中からハンカチを取り出すと、何の遠慮も無しに可愛い海竜ちゃんの顔を丁寧にゴシゴシと拭き始めてしまった。



 アイツは孤児院でガキンチョの面倒を見ていた所為か。たまぁに年齢の割には幼いルーに対してあぁしてお節介をしているからねぇ。


 父性本能が働いたのでしょう。


 いや、母性本能の方がしっくりくるわね。




「うん!! これで綺麗になった!! ルーはおっちょこちょいだからな」


「へ?? レイド――。私はこっちだよ――??」


「え゛っ!?」



 ほら、当たった。



 間違われた海竜ちゃんの様子が気になり、ガジガジと匙を食みながらその様子を窺っていると。



「……っ」



 ボフンっ!! っと。


 白くて肌理の細かい顔が刹那に沸騰してしまった。



「あ、いや!! カエデとは理解していたよ!? ほら!! 今まで交換されていたからさ!!」


「人の顔を……。了承を得ないで……。勝手に拭いては行けないと習わなかったのですか??」



「す、すいません……。い、以後気を付けますから……」


「取り敢えず正座して下さい」


「ひゃ、ひゃい……」



 藍色の瞳は凍える吹雪さんもひぇっと慄く冷たさ。


 しかし、頬は灼熱の業火も勘弁して下さいと懇願する程に燃え盛っている。



「「「アハハ!!!!」」」


「レイド様ぁ――!! 私の顔も……。ほら、汚れてしまいましたわぁ――!!」



 真冬と真夏が混在するカエデの顔色を捉えると一同がいつも通りに口を大きく開けて笑いを解き放った。




 曙の空には少々不釣り合いだと考えられる私達の明る過ぎる笑い声。


 しかし、その中に居ると。これが自然なんだなと改めて実感してしまう自分も居た。



 お化け屋敷、幽霊騒動、真夏の冒険、地下迷宮攻略……。



 蓋を開けてみれば楽しくもそして、時折恐ろしくもある記憶が私の心に深く刻み込まれた。


 可能であるのならば、こうして気の合う連中達と下らない事をしながらさ。輝かしき記憶を己の魂にいつまでも刻み込んでいきたいものね。


 海竜ちゃんが継承召喚で呼び寄せた樫の杖で頭の天辺をポコポコと殴られているボケナスの情けない顔を何とも無しに眺めながらそんな事を考えていたのだった。





























 おまけ。




 蝋燭の揺らめく橙の明かりが暗い室内を怪しく灯す。


 暗く湿ったこの狭い部屋の中で本日も彼女は忙しなく机に向かっていた。



「ねぇ――。し――ちゃん、今日も研究??」


「そう」



 うわ、冷たいなぁ。


 せめて振り返って返事してよね。



「レイドさん達が出発してから三日経つけど……。いい加減御風呂入ったら??」



 明るい魂を持った彼等が立ち去った後。


 し――ちゃんは彼等から何か得たものがあったのか。



『捗るっ……。捗るっ……!!』



 って、取り憑かれた様に机に向かっているし。


 偶には気分転換も必要だと思うんだよね。



「五月蠅い。もう少しで一段落付くから」


「ふぅん。それで、今は何の研究しているの??」


「端的に言えば。貴女の器に相応しい体を作る為の設計図の構築、といったところか」


「も――。気にしないでいいって前も言ったでしょ??」



 私はこのままでも良いと、数十年前に言ったのに聞きやしないんだから。



「クフフ……。素晴らしい標本が手に入ったから、完成により近づいた」


「標本??」



 彼女がそう話すと、氷魔法でキンキンに冷えた箱の中から一本の円筒状のガラス容器を取り出した。


 容器の中身は赤ワインの様に美しい深紅の液体で満たされている。



「それは何??」


「被験体の血液。気絶している時に数本分抜いておいた」


「だ、駄目じゃない!! 勝手に血を抜いたら!!」


「バレなきゃいい。それと……。キシシッ!! これもね……っ」



 続け様に取り出したのは矮小な円筒状の容器だ。


 中身は液体なのは液体なのだが……。何だか白く濁っており血液に比べて粘度が濃い気がする。



 ふぅむ……??


 レイドさんから血液を採って、そして研究熱心の彼女の事だ。


 それだけじゃ飽き足らず、男性の体に興味を持って、アチコチ触りまくって……。



「――――。はっ!?!? まさか!! それは、せ……」

「唾液も採取しておいた。被験体の肉体は真に素晴らしい。本来であればあなたの器になれるべき資格を持っていた」



「あ――…………。う、うん。そ、そうね。逞しい体付きだったものねっ」


「どうした?? 顔が真っ赤だぞ」


「五月蠅いです!! 早く御風呂に入りなさい!!」



 研究と称して絶対何か悪い事を企てていると思うじゃない!!



「五月蠅いぞ、ソラ。だから私はお前を地上に置いていたのだ」


「あ――そうですか。どうせ私は口喧しいお姑さんですよ――だっ」


「夫婦になる男性を得る前に肉体は他界しただろう」


「そういうのを揚げ足を取るって言うんだよ!?」


「中々賢しいな??」



 こうして他愛の無い口喧嘩が出来るのもし――ちゃんが私の為に禁忌を犯してくれたお陰なのは分かっているけども。


 友人に対してちょっと辛辣過ぎじゃないのかな!!



 それから私達は友人として、竹馬の友として。いつまでも終わらない、ううん。



『終わらせたくない』



 口喧嘩を陰湿な室内でずぅっと交わしていたのだった。





最後まで御覧頂き誠に有難うございました。


さて、今回の御使いは此れにて終了で御座います。


次話からは新しい御使いへと旅立ちます。


引き続き、彼等を待ち構えている冒険を堪能して頂ければ幸いです。



それでは、調子が上向きにならないので休ませて頂きます。皆様も体調管理には気を付けてくださいね??

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