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第百六話 一寸先は闇 されど掴む勝利の鍵

お疲れ様です。


本日の投稿になります。


それではごゆるりと御覧下さい。




 威勢良く立ったのは良いが……。


 戦いにおける大切な五感の内、視覚を奪われたのは痛過ぎる。



「くっ……!!」



 幾ら目を擦れど視覚は回復に至らず目の前に見えるのは漆黒の闇。その闇の中から此方を窺っている敵がいると考えると。



「……っ」



 恐怖で心が押し潰されてしまいそうだ。



 落ち着け……。落ち着くんだ……。



 視覚のみに囚われるな。残りの五感全てを駆使して敵を捉えろ。



「ボケナス!! 見える!?」



 少し遠い位置からマイの声が届く。



「全く見えない!! マイはどうだ!?」


「駄目よ!! なぁんにも見えん!!」



 くそっ。


 あわよくば回復している事を願ったのに……。



「カエデ!! 申し訳無い!! 視覚を奪われて何も見えなくなった!! そっちはどう!?」



 彼女達はどうだろうか。


 そう考え、今も激しい戦闘音が鳴り響いている別の戦場へと問う。



「此方は大丈夫です!! 恐らく、レイドとマイの視覚だけを奪取したのでしょう!!」



 広範囲に渡る魔法じゃないのか。


 それだけがせめてもの救いだな。此方側だけでなく、向こうの視覚も奪われていたら恐らく戦況は一気に向こう側へと傾いてしまっただろうし。



 だが、窮地に陥っているのには変わりない。


 一刻も早く敵の存在を捉えなければ……。



「すぅぅ――」



 深く息を吸い。



「ふぅ――……」



 そして、肺の中に残る恐怖感の欠片を吐き尽くした。


 大きく波打つ我が心の水面を鎮めようと呼吸を続けていると、不意に背後から声が届いた。



「キシシ……。どうだ?? 恐ろしいだろうぉ?? 敵が見えないのは……」



 声、ちっか!!


 折角鎮まりかけた水面が一斉に波打ち、嵐の真っ只中の海の様に荒れ狂ってしまう。



「シ、シシリョウさん!! マイ達の体を元に戻すだけで良いんです!! そうしたら俺達は此処から去りますから!!」



 どっちだ!?


 咄嗟に振り返るも、既に背後には気配が無く。闇の中へと言葉を投げ掛けた。



「駄目だ。不安要素は全て拭い去らなければならない。安心しろ……。被験体は何も考えず、只々私に身を委ねればいいのだ……」



 此方から声が徐々に遠ざかって行く。



 揶揄っているのか!?


 攻撃……。いや、命を奪い取れる絶好の機会だったのに。



「マイ!! 嗅覚で敵を捉えろ!!」



 嗅覚が鋭い彼女ならあの巨大骸骨の位置を正確に捉えられる筈!!



「出来るかぁ!! 今はユウの体なのよ!!」



 そ、そうだった!!


 ちぃっ……。これじゃどうしようにも……。


 何時、何処から襲い掛かるやも知れぬ恐ろしい攻撃に対して防御態勢を継続させたまま様子を窺っていると。



「ガァァァァアア!!」



 地を這う様な恐ろしい咆哮が鼓膜を大いに震わせた後。



「ぐぇっ!!!!」



 マイの痛みを堪える声が響き渡り、そして……。



「ンブグッ!?」



 生物らしき温かさと柔らかさを持った物体が猛烈な勢いで顔面に衝突し、通路内の土壁へと叩き付けられてしまった。



「いちち……。クソがぁ……。見えない相手にどう対処しろってのよ」



 あ、この感覚は……。



「ファイ、退いふぇ」


「ひゃぁっ!!」



 例え視界を閉ざされていたとしても、人間の頭部を全てスッポリと収めてしまう彼女の肉感は間違えようがありませんよね。



「ご、ごめん。大丈夫??」


「ぷはっ!! はぁ――……。味方の攻撃で死ぬのは御免だ」



 新鮮な空気を胸一杯に取り込んでそう話す。



「わ、わりぃわりぃ。でも、どうする?? 奴さん、全然見えないんだけど」


「それを考えているんだよ」



 再び地面に立ち上がり、攻撃とも防御とも言えぬ中途半端な態勢を取って話した。



 一か八か闇雲に向かって行っても勝機は零。


 勝利への鍵は何だ??


 考えろ……。考えるんだ!!




「二人共!! 聞いて下さい!!」



 ん!? カエデの声だ。



「何よ!! こっちは今忙しいんだから!!」


「視覚が使えないのなら、敵の魔力を感知して下さい!! そうすれば凡その位置を掴める筈です!!」



「魔力、ね」


「そう、だな……」



 骸骨兵の群れを相手にしている分隊長殿には申し訳無いですけども。


 こちとら、肉体鍛錬に重きを置いている者ですので。貴女の様に魔力探知に長けている訳では無いのです。



 しかし……。


 カエデの言葉を受け、二人の世話焼き狐さんとの一戦が脳裏に浮かんだ。


 あの時は目を閉ざし。


 心を研ぎ済ませたら周囲の状況が手に取る様に理解出来た。


 そう。


 あれこそが極光無双流の神髄では無かったのか??



 思い出せあの感覚を!! そして、心に描くんだ!! 敵の姿を!!!!




「すぅぅ――。ふぅぅ……」



 闇によって恐怖が占領しつつある心を宥め、精神を統一。



「ふぅ――」



 右隣りのマイも俺と同じく集中を開始したようだ。


 超珍しく集中した吐息が漏れた事が良い証拠です。



「クフフ……。何をしているのだ?? もう降参したのか??」



 いいえ、違います。


 勝利の鍵を掴み取る為の行為を続けているのです!!



 もっと、もっと深く集中しろ!!



 荒れ狂っていた心の中の水面を鎮め、深く大きな呼吸を続けていると……。



「っ!!!!」



 漆黒の闇の中、朧に浮かぶ巨大骸骨の輪郭を捉える事に成功した。



 これか!?


 見えたぞ!! お前の姿が!!



 視覚で捉えた時と変わらぬ巨大な骸の姿が薄い紫色に光る。そして、その光は背骨の中央から指先へと向かいまるで血液が流れているかの様に流れ光輝いていた。



 あそこが、弱点なのか??


 背骨の中央を破壊すればコイツの活動を止められるかも知れない。


 だが、コイツも馬鹿じゃあるまいし。弱点へはそう易々とは近付けさせてくれない筈。


 攻撃の合間を縫って脇腹の下を潜り抜けて攻撃を加えるか、それとも先程と同じく攻撃を加え続けて無理矢理にでも隙を生みだすか……。



 実に迷う選択肢だな。



「ガァアアアアアア!!」



 薄紫色に光る巨大な骸骨が耳障りな雄叫びを放つ。



「――――。マイっ!! 上だ!!」


「おうよ!! わぁってらぁ!!」



 上空から降り注ぐ分厚く巨大な拳に対し、両腕を翳して受け止めてやった。



 そして、この感触……。




「マイ!! 見えたか!?」


「少しだけね!!」



 一人で受け止めた時と比べ随分と軽い感覚に嬉々とした感情が浮かんでしまう。



 二人同時ならコイツの馬鹿げた破壊力も受け止められる!!


 行ける、行けるぞ!!




「貴様等……。これ以上、私を苛つかせるなぁぁああああ!!」



 眼前に存在する巨大骸骨の後方。


 そこから禍々しい圧が放たれ、俺達を圧倒する。



「「っ!?」」



 それと呼応するかの様に骸骨が放つ薄紫色の色が濃くなり。呆れる程に強力な力が巨大骸骨に宿ってしまった。



「ギィィヤアアア!! アァッ!!!!」



「マイ!! 俺に合わせろ!!」

「うっせぇ!! あんたが私に合わせろ!!」



 来る!!


 俺達の体を吹き飛ばそうとする骸骨の右の拳が弧を描き、思わず顔を背けたくなる圧を放ちながら向かい来た。



「せぁっ!!」

「ふんがっ!!」



 恐ろしい風切り音を放つ拳を、二人の右の拳で後方へと跳ね返し。



「グガラァッ!!」



「次!! 左よ!!」

「分かってる!!」



 残る片方の拳が再び襲来。


 声を合わせ、そして同時に左の拳で共に跳ね除け。



「ガ……。ガァァッ!!」



 二つの攻撃を後方へと跳ね返された巨大骸骨は最後に残る攻撃方法。


 つまり、己自身の頭蓋を俺達の体へと向かい一気苛烈に振り下ろして来やがった!!



「合わせろ!! 昇拳っ!!」

「私に命令すんなぁぁああ!!」



 そうは言いつつも同じ所作、同じ瞬間で放ってくれるあたり。戦闘に関しては素直ですよね!!


「ふっ!!!!」

「おらぁぁああ!!」




 拳に捉えた硬き頭蓋の感触。


 そして……。



「カ……。カカ……」



 俺達の攻撃を真面に食って天井深くにめり込んだ頭蓋の下。


 息の合った攻撃によってピンっと伸びきった上体の背骨中央付近に存在する魔力の塊を確認出来た。



 此処だ!!!!


 此処で、全てを出し切る!!



「マイ!! 見えるか!? 背骨中央に向かって突撃するぞ!!」



 俺達の攻撃目標はあそこだぞ!?



「おうよ!! バッチリ見えてらぁ!!」



 はは!! 流石っ!!



 二人同時に露見された弱点へと飛び出し。



「「はぁぁぁぁああああ!! だぁぁぁぁあああああああ!!!!」」


「や、止めろぉぉおおおお!!」



 重ね合わせた心、そして魂の一撃を巨大骸骨の中枢へと叩き込んでやった!!



 ど、どうだ!? やったか!?



 熱き想いを乗せた拳が背骨を貫通し、勢い余って地面の上を転回。颯爽と立ち上がって骸骨の圧を探ると……。



「ク、クァァ……」



 砂が零れ落ちる音と共に、巨大な魔力の塊が霧散していく様を闇の中で捉えた。



 よし!!


 一体、撃破!!!!



「ち、ちぃっ!!!! こうなったら……。全ての魔力を解放して。貴様等を捻り潰してやる!!」



 残りの骸骨兵を解き放つ為だろうか。


 彼女が魔力を高めていくと。



「うぉっ!? 視覚が戻ったわよ!?」



 マイが話す通り、周囲の光景が確知できるまでに視覚が回復出来た。


 そしてそれと同時に恐ろしい圧を放ち続けるシシリョウさんの姿を捉える。



「クフフ……。貴様等全員皆殺しにしてやる!!」



 考えるよりも、体が動いたと言えばいいのか。



「させるかぁぁああ!!!!」



 残り僅かな体力を振り絞り、彼女へと突撃を開始。



「でやぁっ!!!!」


「くぅっ!?」



 龍の鋭く尖った漆黒の爪で結界を切り裂き、続け様に放った俺の攻撃から逃れる形でシシリョウさんが後方へと咄嗟に回避。



「うっ!?」


「貰ったぁぁああ!!!!」



 地面の上に仰向けの姿勢で倒れてしまった彼女へと向かい、頭蓋を叩き割る勢いで右正拳を振り下ろしてやった。









「――――――。シシリョウさん、俺達はこれ以上無益な戦いは望みません」



 鼻頭に拳をちょこんと当てて話す。



「武装解除、そして元の体に戻して頂けますか??」



 大きく見開かれた緋色の三白眼へ向かって懇願した。



「――――。ふ、ふんっ。分かった。私の負けだ」



 彼女の体内から僅かな魔力が迸ると。



「おぉっ!! 骸骨さん達が倒れちゃったよ!?」



 依然戦闘を継続していた彼女達の方角から乾いた音が響いた。



「有難う御座います」



 拳を引き、確と頭を下げて礼を述べた。



 はぁ――。つっかれたぁ……。


 何はともあれ、戦意喪失してくれて何よりだよ。



 そして、現時刻を持って状況終了っと……。


 皆様、お疲れ様でした。



「よ――、色白姉ちゃん。これからお仕置きする訳なんだけどぉ?? 左右均等に尻を膨らませて欲しい?? それとも、片側だけを腫らして欲しいのか。さぁさぁどっちぃ??」



 背筋が凍り付く恐ろしいお仕置き。


 そこから得られる快感を想像したのか、高揚感全開の笑みを浮かべるマイが指の骨を鳴らしつつ此方に向かってゆるりとした速度で歩み来る。



「戯れは此処迄ですよ、マイ」


「そ――そ――。もう疲れるのは嫌だからねぇ――」


「な、何すんのよ!! あんた達っ!!」



 カエデとルーが恐ろしい悪魔の進行を妨げてくれた。


 有難う二人共。


 正直、彼女を抑え込む力はこれっぽっちも残っていませんから……。



「地上で話す。貴様等、付いて来い」



 シシリョウさんがそう話すと、俺達の了承を得る前に通路の奥へと大変静かな足音を奏でながら進んで行ってしまった。




「皆、取り敢えず彼女に従おう」


「了解しました。では、皆さん。移動開始です」



 カエデを先頭に暗き闇が何処までも続く通路の奥へと進んで行く。



「くっは――!! つっかれたぁ……」


「ユウ。貴様が倒した数は、私が倒した数よりも少なかったではないか」


「別にいいじゃん。競う訳じゃないんだし」



「アオイちゃんも結構倒していたよね??」


「ウフフ。それはレイド様に後から頭を撫でて貰う為ですわっ!! あまぁい褒美の為なら私は火の中にさえ飛び込める自信があります!!」


「そんな事しなくても、レイドは私の頭を撫でてくれるよ??」


「何ですって!?!?」


「狼の時だけだけどね――」



 はは……。


 皆酷い姿だな。


 端整な顔は泥と埃と汗に塗れ、表情には明るさが灯るが。その明るい表情にも疲労が滲んでしまっている。



 地上に戻ったら簡単な食事でも作ろうかな??


 まぁ、俺が行動を起こさなくても。




「よぉ!! ボケナス!! 地上に戻ったら何か作ってよ!!」



 こうして催促されてしまいますからね。


 どの道作る破目になるのです。



「分かったよ。簡単な物しか作れないからな」


「それで充分!! ――――。あ、そうそう」



 うん??


 何だろう。急に足を止めて。



「あんたが作ってくれたおにぎり。凄く美味かったわよ」



 いつものユウの快活な笑みを浮かべてそう話すのだが……。


 その笑みにマイの笑みが重なって見えてしまった。



 口角をこれでもかと上げてニっ!! と笑うコイツの笑み。一度見れば誰だって心に温かい気持ちが生まれてしまう清々しい笑顔だ。



 何で重なって見えたんだろうな。


 きっと、ユウの器に収まりきらず。コイツの魂が零れてしまった所為で見えたのだろう。



 一度歩けばやれ腹が減った、疲れた、等々。口から飛び出て来た文句は枚挙に遑がない。


 きっとその理由もあり。ユウの体は呆れる位に辟易しているだろうから、一刻も早く退出を願いたいが為にそう見えたのだろうさ。



「そりゃどうも……」



 何となく直視出来なかったので、ふっと視線を逸らして答えた。



「ほら、ユウ!! さっさと歩け!! 地上に戻ったら御飯が待っているのよ!?」


「ちょっと静かにしろ。あたしは疲れてんだ」


「はぁ!? 私はもっと疲れる奴を相手にしていたのよ!?」



 ユウも可哀想に。


 疲れている時にアイツの溌剌とした声って、結構堪えるんだよねぇ……。



 いつもの明るい会話が戻り、彼女達の明るさが通路の闇を払拭する。


 このちょいと明る過ぎる会話は深く沈んだ地下から地上にもきっと届いている筈さ。 


 ごめんなさいね?? 地上で休んでいる方々。


 今から五月蠅い連中が戻りますからね……。



「おらっ!! さっさと歩けっ!!」


「うっせぇ!! 急かすな!!」


「ウブラッ!?!?」



 背後で何か乾いた音が炸裂したが、その音源を確認する事も無く。


 長き灰色の髪を等間隔に左右へと揺らし続ける彼女の背を捉え続け、体が渇望し続けている明るい空の下へと出でる為。


 今にも崩れ落ちてしまいそうな疲労困憊の体に鞭を放ち、まるで棒の様に固まった両足を交互に動かし続けていた。





最後まで御覧頂き誠に有難う御座いました。


本日は体調が優れない為早めに就寝させて頂きますね。


皆様も体調管理には気を付けて下さい。それでは、おやすみなさいませ。

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