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第百四話 地下の主と魑魅魍魎

お疲れ様です。


本日の投稿になります。


それでは御覧下さい。




 爽やかな風が頬を撫で、空の彼方へと昇って行く。


 鼻腔を擽る森の香。瞼を照らす温かな太陽の光。


 先ず間違いなく夢の中であると確認出来てしまう感覚を覚えてそっと瞳を開いた。



 此処は……。あぁ、そうだ。


 マイと初めて出会った森の中だな。



 あれ程強烈な出会いは早々無いからね。数多広く存在する森の中の風景の絵を数百枚以上見せられ、アイツと出会った森は何処だと問われても確実に正当を導き出せる自信がある。


 美しい森の光景を捉え体の力を弛緩させて、水際に立って餌を待ち続けるハシビロコウの様に只管動かないでいると女性の低い声色が頭の中に響いた。



『あはっ!! レイド君。眠っていてもいいのかなぁ――??』



 日に複数回の夢を見る機会は中々訪れ無いからね。


 偶には良いんじゃないのかな。



 どこか聞き覚えのある声にそう答えを返す。



『ふぅ――ん。あの子達、結構ヤバイんだけどなぁ――』



 あの子達??


 マイ達の事か??



『それはレイド君を取られるみたいで言いたくないけどぉ。己の行為に後悔して自ら命を断たれても私が困るしぃ』



 いや、でも。


 起きようにもどうやって起きればいいのやら……。



 俺は超人でも無ければ、この世の真理を捉えた仙人でも無い。


 夢、或いは幻だと確知しても現実の世界へ意識を戻す術は持っていないのですよ。



『そんな事簡単だよっ!! 前の私は無理だったけど、今の私なら出来るからさ。起こしてあげるねっ!!』



 はぁ……。


 それは親切にどうも……。



 姿見えぬ女性の声を放つ存在へ取り敢えずの礼を述べた。



『じゃあ、いっくよ――!! ええええいっ!!!!』



 彼女が気合十分な言葉を放つと、一瞬で森の景色が消失。


 そして……。





「――――――。いってぇぇええええええええ!!!!!!」



 右腕に激痛が迸り、勢い余って上体を起こして目覚めた。


 まるで熱した鉄を当てられた感覚に目を白黒させつつ我が右腕を見下ろすとそこには鋭利な凶器で切り裂いた様な傷跡が三つ。



 鋭く縦に刻まれていた。



「いてて……。誰だよ、眠っている人を傷付ける困った人は」



 恐らくシシリョウさんが俺の体に実験と称して傷付けたのだろう。


 その所為か知らんが、中途半端に拘束具が解除されていたので下半身の拘束を解除。机の上に無造作に転がる布を腕に巻き付け、応急処置を終えると。



「…………。んっ!? 何だ!?」



 背後から物凄い圧を感じてしまった。



 マイ達は魔法が使用出来ない。つまり、この圧を放つのはこの地下の主他ならない訳だ。



 不味い!!


 お、応援に行かないと!!



「っと。その前にっ」



 何故かズボンが中途半端に開かれていたのでそれをキチンと直し、上半身の服も整えて扉を開き。恐らく、大運動会を開催しているであろう現場へと向かって駆けて行った。













 ◇






 良しっ、粗方の戦力は削り切りましたね。


 魔法の使用不可。不慣れな体。


 それら不安材料を抱えたままでの初の実戦でしたが、私の予想を超える速さの殲滅力に驚きを隠せませんよ。



「カエデ!! 行ったぞ!!」



 リューヴの鋭い声が私の鼓膜を震わす。



「えぇ、任せて下さい!!」



 左後方。


 其方側から私に向かって鋭い一閃を放とうとする泥人形の右肩口から袈裟切りの要領で狼さんの鋭い爪を打ち込むと。



「…………」



 体を寸断された個体は固形形態を維持できずに地面へと崩れ落ち、只の泥の塊へと還ってしまった。



 ふ、む……。


 泥人形の内部に僅かな魔力を籠め、術者以外の者を自動的に迎撃する仕組みですか。


 機会があれば一度その術式を拝見させて頂きたいものですね。



「おっらぁぁああ!! 最後の一匹ぃぃいい!!」


「カコゴ!?!?」



 大気を震わせる声量をマイが放つと同時に大地が微かに揺れ動く。


 何事かと思い振り向くと。



「ふぅっ!! いやぁ――!! 楽しい骸骨叩きだったわねっ!!」



 額に浮かぶ汗を手の甲で拭い、右手に持つ骸骨さんの残骸をポイっと捨てるユウの体を確認出来た。



 闇に慄き、形容し難い感情によって通常戦闘は厳しいかなぁって考えていたけど。


 物理攻撃が有効な敵に対しては無類の強さを発揮しますよね、彼女は。


 私も彼女の戦闘心は見習うべきだと常々考えていますが、指揮官が突貫してしまう部隊の行く末は目に見えていますのでね。


 反面教師として捉えるべきなのでしょう。


 餅は餅屋、蛇の道は蛇です。




「よし。こっちも終了!! カエデ、奥に行こう!!」


「えぇ、分かりました」



 マイの体の中のユウの声を受け泥人形さんの観察を終えると、すっと立ち上がり。闇が待ち構えている通路の奥へと移動を開始した。




「マイ。その体……。便利そうだな??」


「便利っちゃあ便利だけども。これがすっげぇ邪魔っ!!」



 右隣りに並ぶリューヴに対し、有り得ない肉の塊を両手で持ち上げて話す。



「バルンバルンって動くし、おめぇし、跳ねた反動で胸がいてぇし!! いっその事、布でグルグル巻きにした方が良いんじゃないの??」


「そんな事したら苦しくて真面に動けないって」



 ふぅん。


 そうなんだ。


 不作為に動くのなら固定してしまえば良いのにと考えていましたが……。


 思わぬ情報を入手してしまいましたね。只、今入手した情報は元の体の私には非必要であり、尚且つ一生使用する恐れがありませんので。


 忘れちゃいましょう。



「カエデちゃん。どうだった?? 私の体」



 っと。


 背後から陽気な狼さんに抱き着かれてしまったので、思わず前のめりになってしまいました。



「素晴らしいの一言に尽きますね。疲れ知らずの両足、敵を切り裂く爪、そして柔軟な体。そのどれもが想定以上でしたから」



 これで私並みの魔法を詠唱すれば。


 海竜に金棒ですよっ。



「あはは!! 気に入って貰えて良かった。このままずぅっと交換しないでおく??」


「いや、それは結構です」



 単純な計算も出来ない頭脳ではこの隊を率いる事は不可能ですから。それに、日常生活にも支障をきたす恐れがあります。



「うっわ。そう言う事言う?? 私はカエデちゃんの体、フニフニしてて結構好きなんだよね――」



 そう話すと、何を考えたのか知りませんが。


 私の双丘をフニっと掴んで持ち上げてしまった。



「元の持ち主の了承を得ないで勝手に触らないで下さい」


「減るもんじゃないし、別に良いじゃん。女の子同士なんだから。ん……?? 何、コレ」



 胸を弄っている最中。


 胸のポケットに違和感を覚えたのか。その所作を止め、ポケットの中に手を入れてその物を取り出す。



「ん――?? カエデちゃん。この四角い木の合板は??」


「図書カードですよ」



 それだけは無くしてはいけないので肌身離さず持ち歩いているのですっ。



「これで何が出来るの??」


「王立図書館で図書の貸し出しが可能になります」


「なんだぁ、じゃあ特に必要が無い物だねっ」



 はぁ……。


 全く、この人と来たら……。



「良いですか?? ルー。貴女が遊ぶ事が大好きな様に、私は本を読む事が好きなのです。即ち、それは貴女が遊びの最中に得た宝物と等しき価値を持っているのです」


「ふんふん。じゃあ、仕舞わなきゃ駄目だね!!」



 えぇ、お願いします。


 そして余り人の目に付かない様にして下さい。それは彼が私の為に態々貴重な時間を割いてまで作ってくれた……。




 宝物なのですから。




 いつも通りの雑談を交わし、されど四方へと警戒を怠らない歩みを続けていると先頭を歩くマイとリューヴがピタリと足を止めた。



「どうしました?? 二人共」



 その先に視線を送ると……。



 魔力感知に乏しい体ではこの距離に接近するまで、敵の存在を認知出来ないのが悔やまれますね。




「よぉ、姉ちゃん。そこで突っ立って何してんのよ??」



 マイが腕を組み、警戒心を高めた声色でそう話す。


 その先には一人の女性が通路内の中央に俯きがちに佇んでいた。




 私より僅かに高い背ですが、猫背且姿勢が悪い所為か。随分と低く見えますね。


 病弱そうな色素の薄い肌色、華奢な撫で肩、そして前髪の隙間から時折除く緋色の三白眼。


 彼女がこの地下の主。



 シシリョウさん、か。



「おうおう。世界最強の私が折角声を掛けているってぇのに、無視するとは上等じゃん。あんたの口は何のふぁめ……」


「マイちょっと黙っていて下さい。初めまして、私の名はカエデ=リノアルトと申します。無断で貴女の領域に土足で踏み込んだ事を謝罪させて頂きます」



 悪い御口をピシャリと叩き、彼女に向かって親切丁寧に頭を下げ。軽い自己紹介と謝罪を行う。



「何すんのよ!!」


「私達はとある理由があって地上の屋敷へと赴き、手違いからソラアムさんに魂を交換されてしまい今に至ります。そして、シシリョウさんに力を借りる為こうして参った次第であります」



 憤る彼女を放置し、此処に至った経緯を丁寧に説明し終えた。



「畜生めが……。私の問い掛けを無視しやがってぇ」



 この乱暴な龍の様に何でも力尽くで解決する御方でしたのなら、武力行使はやむを得ない。


 しかし、私の様に思慮に富んだ方であれば話し合いで解決出来ます。


 さて……。彼女はどんな反応を見せてくれるのでしょうか。



 私達が固唾を飲み、彼女の反応を窺っていると。本当にゆっくり、そう。


 蝸牛が大木の幹を這う様にゆるりと口を開いた。



「――――。帰れ」



「「はぁぁぁ??」」



 たった一言。


 その言葉を受け、マイとユウが怪訝な表情を浮かべてしまった。



「姉ちゃんよぉ。私達は元の体に戻る為にくっだらねぇ仕掛けを突破して此処迄来たんだ。それなのにぃ。帰れ?? だと??」


「あたしも色々ちいせぇ体で不便してんだ。ちゃちゃっと戻して、んでもって。うちの大将を返してくれれば帰るからさ」


「誰が小さいだ!!」



 マイが己の頭部にピシャリと平手を放つ。


 大変素敵な乾いた音ですね。



「聞いての通りですわ。レイド様は私の夫。さっさと返却して頂けますか??」


「アオイちゃん。妄想って言葉、知ってる??」


「いいえ!! 知りません!! レイド様は私の夫なんですぅ!!」



「喧しいぞ、貴様等。シシリョウとかいったか……。我々は主を取り戻しに、そして元の体に戻る為に此処へ参った。其方の出方次第では武力行使もやむを得ない。それを理解しておけ」



 はぁ――……。


 全く、この人達ときたら。


 敵意を剥き出しにしたら上手く行く筈の交渉も、破談になってしまいますよ??



「皆さん落ち着いて下さい。シシリョウさん、此方の無礼を謝罪させて頂きます。申し訳ありませんでした。そして、何故彼を返却して頂けないのでしょうか?? その理由を聞かせて頂ければ幸いです」



 今も俯き、前髪の隙間から明確な敵意を此方に向ける彼女に問うた。



「――――。あの被験体は私の物。誰にも渡さない、絶対……。絶対にぃぃいい!!!!」



「「「っ!?!?」」」



 シシリョウさんの体内から素晴らしい魔力の鼓動が迸る。


 ふぅむ……。


 大気を震わせる程の魔力、我々を刹那にでも圧倒した圧。


 素晴らしいの一言に尽きます。



 そして、今を以て交渉は決裂しましたね。



「皆さん!! 決して彼女の命を奪う真似はしないで下さい!! そして……。迎撃態勢を整えて下さい!!」



 私が指示を出すと同時。



「生きとし生ける生者を妬む死霊共……。我が命じる。思いのまま、貪り食え!!!! 死霊遊戯デッドマンズウォーク!!」



 彼女が術式を展開すると、再び四方八方から骸骨兵と泥人形の軍団が出現した。



「うっげぇ!! またかよ!! 面倒ね!!」


「ちぃっ。カエデ!! どうする!?」



「皆さん!! 分隊を分けます!! マイ、リューヴ、私がシシリョウさんを取り押さえます!! ユウ、アオイ、ルーが雑兵を蹴散らして下さい!!」



 ユウの問いに対し、咄嗟に浮かんだ作戦内容を叫ぶ。


 此処は彼女の領域。


 恐らく、地面から湧き出て来る軍団を相手にしていてもジリ貧に陥り。戦力が大幅に低下してしまう。


 それならば、一気苛烈にその元を取り押さえれば良い。



「この作戦は時間との勝負です!!」



 只でさえ少ない戦力を二つに分けたのです。


 取り押さえる時間が掛れば掛かる程、ユウ達に負担が増加してしまい。そこから隊が総崩れしてしまう恐れがある。



 雷撃作戦とでも申しましょうか。伸るか反るか、一か八か。


 マイが好きそうな作戦ですけど、魔法が使用出来ないので致し方ない作戦なのです。



「おっしゃあ!! リューヴ、カエデ!! 行くわよ!! 私に付いて来い!!」


「あぁ、行くぞ!!」



 先頭大好きっ子の御二人が私の指示を待たずして不適な笑みを浮かべているシシリョウさんに向かって駆けて行く。



「カエデ。あの二人の手綱をしっかりと持ちなさいよ?? 此方は私が受け持ちますので」


「分かっています。その為に貴女を其方に残したのですからっ!!」



 彼女達の背に追い付く為。素晴らしき両の足に力を籠めて勝利へと繋がる第一歩を踏み出した。



「そこの撫で肩貧弱女ぁ!! 爆乳の拳を受け取りやがれぇぇええ!!!!」



 マイが駆け出した勢いそのまま。


 拳をぎゅっと握り込むと、生肉を圧縮した鈍く生々しい音が此処まで聞こえて来る。


 そして、何の遠慮も無しに彼女の顔へと叩き込むが。



「馬鹿が……」


「はぁ!? おぬぐっ!?!?」



 マイの肉厚の拳はシシリョウさんの結界によって阻まれてしまった。



 やはり、使用出来ましたか。



「てっめぇ!! ずりぃぞ!! こちとら魔法が使えねぇんだよ!!」


「マイ!! 攻撃を与え続ければ、いずれ破れる!!」


「その通りです!! 私とマイは前線。リューヴは中、近距離から隙を窺いつつ絶えず攻撃を与え続けて下さい!!」



 私の作戦はこうだ。


 マイは放っておいても勝手に攻撃を続けるので敢えて指示は送りません。その方が彼女にとって戦い易いので。


 以前、二人の狐さんを相手にした時もそうでしたし。


 後は私とリューヴがマイの攻撃の隙間を埋め、シシリョウさんの攻撃。若しくは彼女から放たれる魔法を避け続ければ勝機は自ずと訪れる。


 大変簡単な作戦です。


 問題は……。時間と我々の体力です。




「おらぁっ!! ぶっ壊れろ!!」


「ふっ!!」



 マイの右拳が結界を捉えると鈍い音が響き、打撃の跡を私が鋭い爪で切り裂く。



「かってぇなぁ!!」


「そのままで良いです!! もっと、強く攻撃して下さい!!」



 我々の攻撃は微弱。


 しかし、小さな風でも膨大な時間を掛ければ堅牢な岩をも削り。川のせせらぎが大地を深く抉って地形を形成する様に。


 例え効果が薄くても与え続ければいつかは破壊出来るのです!!



「馬鹿共が……。私が大人しく攻撃を受け続けると思っているのか?? さぁ……。闇より出でし魑魅魍魎よ。愚かな生者を妬み、輝かしき生を掴む為に苦しみ藻掻け……。死者の渇望デッドクレイビング



 彼女が結界内で詠唱を終えると、我々の足元に黒みがかった紫色の魔法陣が浮かぶ。


 怪しい光の中から現れたのは……。



「「「「ォォォォオオオオ……っ!!!!」」」」



 何んと、生者を憎む骸骨の群れではありませんか。



「ギィィヤアアアア!!!! きっしょ!! きしょわぁぁああああ!!!!」


「やぁぁああ!! 何ぃ!! これぇ!!」



 此方側だけでも無く、向こうにも……。


 かなりの広範囲の拘束魔法ですねっ!!



「皆さん!! 冷静に!! ただの拘束魔法です!! 骸骨を振り払い、拘束を解いて下さい!!」



 彼女は恐らく、刹那の隙を生みだす為にこの魔法を詠唱したのです!!


 何故時間を稼ぐのか。


 それは長い詠唱を可能にする為だからっ!!


 同じ魔法戦を得意とする私には理解出来るのです!!




「こ、このっ!!」



 私の腰を掴み、動きを制御しようと画策する骸骨の腕を振り払い。足に絡みつく個体共を撃破。



「ひぃっ!! や、やめっ!! てめぇ!! 私の親友の胸を掴むんじゃねぇ!!」



 這い登って来た骸骨の上半身を両手で粉砕するマイから随分と距離を取った彼女に視線を送ると、私の想像通り。



 シシリョウさんが詠唱に集中していた。



「さぁ、御出で。私の可愛い、可愛い僕よ。愚かな生者共を駆逐し素敵な断末魔を聞かせておくれ……」



 ま、不味い!!



「リューヴ!! マイ!! 彼女の詠唱を止めて!!」



 此処からじゃ間に合わない!!



「あぁ!! 任せろ!!」


「ふんがぁ!! 退けやぁあ!! 卑猥な骸骨め!!」



 彼女達が骸骨の群れを撃破すると同時にシシリョウさんへと突貫を開始したが、時。




「既に遅し、ですか」



「――――。傀儡鋼髑髏スカルマリオネット



 地面に巨大な漆黒の魔法陣が浮かぶと、この世の光を全て吸い込むであろう闇の中から背の高い天井付近にまで達する巨大な骸骨の上半身が現れた。



「クォォォォ……」



 な、何て圧。


 そして、何んと背筋が凍る悲しい音を奏でるのでしょうか……。



「あ、あはは。超でっけぇ骸骨ね??」


「臆するな!!!! 勝機は前だぞ!!」


「んな事はわ――ってんのよ!! 行くわよ!? リューヴ!!!!」



 マイとリューヴが互いに肩を並べ、巨大骸骨のみぞおち辺りに駆け込むが。


 その姿を髑髏の眼窩が捉えると、大きな顎間接を開いた。



「キィィィヤァァアアアァァァアアァ!!!!!!!!」



「「うぐっ!?!?」」



 な、何!?


 今の叫び声は!?



 巨大髑髏の叫び声が通路内にこだますると、全員の動きが制限されてしまう。



 う、うごけ……。




「キシシ……。死者の叫び声はよぉぉく効くだろう??」



 一種の精神干渉です、か。



「こ、このぉ……。動けぇ……。動けぇぇええ!!」


「さっきから騒ぎ立てて……。目障りな女だな。お前は……」



 シシリョウさんがマイに標的を定めてしまう。



「ま、待っていなさいよぉ?? この痺れが取れたら……。あんたの小さい尻が真っ赤に燃えるまでペチペチペチペチ叩いてやっからね!!!!」


「クフフ……。アハ、ハ。キャハハハハハ!!!! 出来る訳無いだろう!? お前は今から私の傀儡鋼に潰されるんだからぁぁああ!!」



 シシリョウさんの手に魔力が籠められると、巨大髑髏の眼窩がマイを捉えてしまった。



「マ、マイ!!!! そこから逃げてぇぇええ!!」


「出来たらやってるわ!! 動かないのよ!!」



 ま、不味い!!


 マイがやられちゃう!!!!



「さぁ、死ねっ。そして、私に抵抗した事を地獄の底で後悔しろ……」


「グギャラァァアアアアアアアア!!!!」



「「「「マイ――――――!!!!」」」」




 私達が祈りを籠めて彼女の名を叫んだ刹那。


 無情にも巨大骸骨の拳が常軌を逸した速度で振り下ろされ、咽返る程の土埃が通路内に舞ってしまった。



 う、嘘ですよね。


 こ、こんな所で終わる貴女ではありませんよね!?!?



「…………っ」



 土埃が徐々に晴れ渡り、彼女の成れの果てが明瞭になってしまう。私は固唾を飲んで最悪の光景を想像していたが……。


 そこには私が想像した姿とは全く真逆の光景が待ち構えていた。






































 ほ、ほ、本当に……。


 全く……。


 貴方という人は。



 私に一体どれだけの驚きを与えてくれるのですか??




「――――――。よっ、マイ。らしくないんじゃないのか!?」



「「レイド!?!?」」



 ユウとルーが目を丸くして彼の大きな背を見つめ。



「主!! 無事だったか!?」



 普段の物静かな彼女とは正反対の声量で彼の横顔へと叫び。



「レイド様ぁぁああ!! 私も動けませんからぁ!! 逞しい腕で抱き締めて下さいましぃ!!」



 あの人は無視して宜しいでしょう。



「ボ、ボケナス……」



 龍の力を解放し、両腕で巨大髑髏の拳を受け止めている彼の姿を見てマイがポツリと言葉を漏らす。



 それはまるで、劣戦の戦火の中。孤軍奮闘を続ける戦姫の窮地を救いに来た英雄にも見えてしまった。


 ちょっとだけ羨ましいと思ったのは内緒ですよ??



 そして、颯爽と駆けつけてくれた英雄が私にこう問うた。



「さて、隊長殿。俺達に、いつも通りに指示を送ってくれ!!!!」



 うん……。


 任せてね?? 


 全戦力が揃った今。


 この戦い、負ける要素は見当たりませんっ!!!!



「分かりました!! 皆さん、丹田に力を籠め。精神干渉を解いて下さい!! レイドはそれまで巨大髑髏の相手を務めて下さい!!」


「了解!! さぁ、掛かって来いデカブツ!! 俺が相手だ!!」


「キキキッ……。キィィヤァァァァアアアァア!!!!」



 強敵とたった一人で対峙する彼の背中が、本当に大きく見える。


 自分はまだまだ若輩者だと謙遜してますけど、立派な背中が一人の男だと証明していますよ??


 私も貴方に負けない様に頑張りますから、ほんの少しだけでも良いから私の事をちゃんと見ててね??



 彼の下へと駆けつける為。


 私の熱い想いを留めようとする愚かな精神攻撃を振り払う為、闘志を燃やして対抗してやった。





最後まで御覧頂き、誠に有難うございました。


本日は大変冷える夜ですので、体調管理に気を付けて下さいね。


それでは皆様。本日から始まる一週間を頑張って乗り切って行きましょう!!

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