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第百話 与えられた試練 ~来訪者様達へ贈るささやかな挑戦状~

お疲れ様です。


本文中、とある箇所で算用数字が使用されていますので。見辛いと思われる方もいらっしゃいますが御了承下さいませ。


それでは、どうぞ!!




 命を刈り取ろうとする危険が通り過ぎる度に。次なる危険を求めて足が前へ前へと頭の命令を無視して進んで行ってしまう。


 私が待ち望んでいた危険な冒険が此処には咽返る程に存在しているのだ。


 これで高揚しない方がおかしいですよっ。



 おっと……。


 また罠の装置を発見してしまいましたっ。



 水気を含んだ土の地面から不自然に尖る突起物を捉え、素敵な罠を迎える為に敢えて右足で踏みつけると。



「っ!!」


「ンニャ――!!!! 危なぁぁいっ!!」



 左右の壁から矢が噴き出し、我々の眼前を過ぎて剥き出しの土壁に突き刺さった。



 ふぅっ!!


 流石狼さんの体ですねっ。咄嗟の判断にも反応してくれる身体能力に驚かされてしまいますよ。



「ちょっと!! カエデちゃん!! 何で罠を踏むの!!」



 顔中泥と汚れと汗に塗れ、今にも泣き出しそうな私の顔がそう叫ぶ。



「侵入者を撃退する為の罠を折角御用意してくれたのですよ?? それを堪能しないと損ですからねっ」


「踏む方が損だよ!!!!」



 ふふ、ごもっともです。


 しかし、製作者が心血注いで設置した罠ですからねぇ。満喫しないと本当に損ですよ。



 地面から無慈悲に突き出して来た鋭い槍の矛先。


 侵入者である我々の首を両断しようと左右の壁から横一閃に飛び出して来た大鎌。


 そして、今の素早い矢。



 そのどれもが私の冒険心を擽ってしまうのですっ。



 むっ……。


 また罠を発見しましたっ!!



 頑是ない子供が欲しがっていた玩具を見つけてしまった足取りで其方へと向かうと……。



「絶対踏ませないからね!! ほら!! 先に行くよ!!」



 横着な女性に後方から羽交い絞めにされてしまい、素晴らしい玩具が通り過ぎてしまいました。



「ルー、後で呪いますよ??」


「呪っても良いから!! 早く行こうよ!! レイドが危ないんだし!!」



 彼の身体能力を加味すれば、そうそう窮地に陥る心配はありませんが……。


 仕方がありませんね。


 冒険は後回しにして、彼の救出を優先させましょう。



「無きにしも非ず、ですね。先を急ぎましょう」


「はぁ――……。カエデちゃんと一緒になったのってやっぱり間違いじゃないのかなぁ。リューと一緒に行けば良かった……」



 情けない台詞を放つ女性を尻目に無警戒でズカズカと奥へ進んで行くと、この地下通路に不釣り合いな木製の扉が見えて来た。



 頑丈な木製の扉、ですか。


 きっとあの先に私が渇望している試練が待ち構えているのでしょう!!


 意気揚々と、そして高揚感全開の足取りで扉へと向かい。逸る気持ちを抑えきれずに扉を威勢良く開いた。



「お――……。広い空間だねぇ」



 一辺凡そ十五メートル。


 高さは七メートル程でしょうか。


 普遍的な部屋よりも一回り大きな部屋。しかし、狭い通路を進んで来た所為もあってこの大部屋がやたらと広く感じてしまいますね。


 剥き出しの土の壁の部屋に到達し、物珍し気に四方へ視線を送っていると。右側の壁に何やら面白そうな仕掛けが飾られていた。



「カエデちゃん。これ何だと思う??」



 ルーがタタッと壁へ進み、その仕掛けの前で歩みを止めて私に問うた。



「恐らくそれは……」



 私が素敵な仕掛けに対して意見を述べようとすると、入り口の扉。そしてその対面にある扉からカチッっと。


 金属同士が触れ合う独特な音が響き渡った。



 ふふふ……。


 残念無念、私達は閉じ込められてしまいましたね。



「びゃっ!! な、何!? 今の音は!?」


「扉に施錠が施された音でしょう」


「えぇ――!! 閉じ込められちゃったの!?」


「その通りです。そして恐らく……」



 私がそこで言葉を切ると、背の高い天井へと視線を向けた。



「天井に何かある……。へ、へっ!?」



 天井の壁一面には無数の穴が広がり、その穴の中から幾つもの鋭い槍の穂先が覗いている。


 あれが侵入者撃退用の罠、でしょうね。



「な、何!! 何なの!? アレは!!」



 藍色の瞳に大粒の涙を浮かべて天井を指す。



「罠ですよっ。その仕掛けを解き、間違った答えを示したのならあの天上にビッシリ生え揃う槍が無情に降り注ぐのです」


「うっそ!? 私達串刺しになっちゃうの!?」



 正解ですっ。


 その意味を含めて人差し指をルーに向かって指してやった。



「い、嫌だよ!? こんな暗い所で死にたくないもん!!」


「答えを間違わなければ良いんですよ。では!! 早速問題を解こうとしましょうかねっ」



 頭を抱え、今にも膝から崩れ落ちてしまいそうな私の体の脇を通り抜け。


 素敵な仕掛けの前に到着した。




 四つのマスの上には古びて注意して見ないと解読出来ない文字でこう書かれていた。





『勤労の神が現世に残した数字を拾い集め、我に捧げよ』



 そしてその下には。



 一~五十八。と。



 簡単な二つの数字と記号が記入されており。直ぐ下には四つの四角いマスが。




 更に!!


 仕掛けの前には石作りの台座が設置されており、その上には異なる複数の数字が刻まれた鉄製の欠片が置かれていた。





「え――っと、何々?? 勤労の神様とぉ。数字を拾い集めるぅ??」



 勤労。


 つまり、一生懸命に励む事ですね。そして、数字を拾い集めると言う事は。一つ一つの数字を拾う事を指す。


 最後に四つのマス……。



「ふ、ふふ。簡単過ぎて欠伸が出てしまいますよっ」


「えぇ!? もう分かったの!?」


「勿論です。勤労の神様が現世に残した数字、つまり一から五十八までの数字を一つ一つ拾っていけばいいんですよ」


「んぅ?? どういう事??」



 彼女が首をカクンと傾げて私を見つめる。



「もっと簡単に説明しますと。一から五十八までの数字を足して、あの四つのマスに台座の上に置かれている数字の欠片を嵌め込めばいいのですっ」



 もうちょっと捻った問題を期待したのですけども。これはこれで良いかも……。



「なぁんだ!! 簡単だねっ!!」


「えぇ、では計算式に当て嵌め……」



 頭の中で自然数の和の計算式を思い浮かべようとしたのですが……。


 全く、これっぽっちも、全然浮かんで来ない事に驚愕してしまった。



「カエデちゃん、どうしたの??」


「質問します。貴女は二桁の乗算は出来ますか??」


「お嬢さん??」



 こんな時に惚けた台詞を放った愚か者に対し、言葉の代わりに頭の天辺に平手打ちを振り下ろしてやった。



「いった!! 何で叩くの!?」


「ふざけないで下さい。乗算とは掛け算の事です」


「だったら最初っからそう言ってよ。えっとね?? 私は計算が大っ嫌いだから二桁の掛け算は出来ませんっ!!」



 満面の笑みで大変残念な台詞を放つ。


 つ、つまり……。


 今現在の私がこんな単純で簡単な問題が解けない理由は、彼女自身の頭を使用しているからであって。



「掛け算かぁ――。昔、お母さんに教えて貰ったけど。直ぐ遊びに出掛けちゃったからなぁ――」



 えへへと笑みを浮かべる彼女は計算する事自体を放棄してしまっているので、簡単な加算も解けない。



「ルー、お願いしますから頑張って計算式を思い浮かべて下さい」


「え――……。数字見ると頭痛くなるし、計算式も考えるだけでうぇってなるからなぁ」


「お願いしますよ!! 宝の持ち腐れじゃないですか!!」



 彼女の細い肩を掴み、前後左右に揺れ動かす。



「カエデちゃんの頼みでも無理な物は無理だって。でも、足し算は出来るよ!? 一から五十八を順番に足していけばいいんだよね!?」



 そう話すと地面にしゃがみ込み。



「一足す――。二――足す。さ――ん足すぅ――」



 っと。


 超絶回りくどい計算方法を開始してしまった。



「六足す……。あはっ、間違えちった」



 私の頭脳を使用して、馬鹿げた計算を行い。剰え、二桁到達前に間違える愚か者を見ていると何だか……。涙が溢れて来てしまいました。



「カエデちゃん、どうしたの?? 半べそかいて」


「い、いえ……。三歳児にも出来る簡単な計算が出来ない私の姿を見ていると、何だか自然と涙が溢れて来てしまったのです」


「あはは!! 三歳の子にこんな難しい計算は出来ないって。もう一回、一から足そう!!」



 しかも。


 途中からではなく、一から始める始末。



「分かりました。私が三十から五十八までの加算を担当しますから、ルーは一から二十九まで担当して下さい。二人で求めた答えを更に足せば、真の答えに辿り着きますからね」



 地面にちょこんとしゃがみ込み、奥歯をぎゅっと噛み締めて回りくどい計算を開始した。



「え――……。私の数字多くない??」


「あ、貴女が宿る体の頭脳の方が優れているのですよ!? つべこべ言わずにさっさと計算を開始して下さいよ!!」



 文句を垂れた後頭部に向けて再び平手打ちを放ってやった。



「いった!! ちょっと!! 人の頭を勝手に叩いたら駄目って、お母さんに習わなかったの!?」


「知りません!! 今は非常時だから許されるのですっ!!」


「うっわ。そういう事言うんだ……。あぁ――!! カエデちゃんが頭叩いたから文字が消えちゃったじゃん!!」



 皆さん、御免なさい。


 この部屋の突破には時間が掛りそうなので、彼の救出には遅れてしまいそうです。


 簡単な計算式に躓き、歯痒い思いで一つ一つの数字を加算。


 時折、後方から問われる加算にも咄嗟に答える事が出来ない頭脳に涙を流しつつ。悔し涙を堪える大変残念な時間が開始されてしまった。



















 ◇





 一歩踏み出せば地獄の底から召喚された恐ろしい生物の唸り声が何処からともなく聞こえて来る。



 ほ、ほら。


 今も変な音がしたしっ!!



「マイ」



 私の直ぐ前を歩く私の体が何やら痛みを堪える声で問うてきた。



「な、何よ」



 ひゅ、ひゅぉぉぉぉ……。


 暗闇、こっわ!!


 そして、出所の分からない音も不安っ!!!!



「肩が砕けそうだ。頼むから、両手を放してくれ」


「御断りよ!!」



 何かを触っていないとこの恐怖心は誤魔化せないからね。


 それは無理な注文さ。



「そうか……。だったらせめて、あたしの頭の上に乗っかるクソ重てぇ胸を退かせ」



 あ、それなら何んとか。



「んっしょっと。これでいい??」


「あぁ、助かるよ。首の筋が重さでブチ切れる寸前だったから」



 それはあんたの堪忍袋の緒の話じゃなくて??



 皆と別れてからずぅっと乗せていたものねぇ……。歩く度に胸が肩の筋肉に負荷をかけ、痛みから逃れる為に知らず知らずのうちに乗せちゃったのよ。


 そうするとどうでしょう!?


 物凄く肩が楽になるではありませんか!!



 いやぁ――。多少、矮小、蚤の心臓程に胸の大きさに憧れる私ですけども。


 ここまでデカくなると相当苦労すると分かった今。元の大きさでも良いかなぁ――っと考えてしまうわね。



「ん?? マイ。何か見えて来たぞ??」


「ぬっ!?」



 ユウの体を思いっきりぎゅっと抱き締め、彼女の視線の先を追うと……。



「おぉ……。鉄の扉が見えて来たわね」



 せめぇ通路にぴったり収まるデカイ扉が見えた。



 あの先に試練が待ち構えているのかしら??



「ユウ!! 早く歩け!!」



 私は先には行かんぞ!!


 ぎゅむっと抱き締めたまま彼女に指令を出すが、彼女の体はうんともすんとも言わず。その場に立ち尽くしていた。



 その様子を不思議に思い、彼女の頭の上に乗っかる横着なお肉の横から下を覗き込むと……。



「コ、コヒュ……」



 苦しそうに口をパクパクと動かしていた。



 あ、ごめん。


 剛腕で気道を圧迫していたのか。



「はは、わりぃわりぃ」



 パっと腕を話すと同時。



「ふ、ふざけんな!! この馬鹿デカ乳女め!!!!」



 何を考えたのか知らんが。


 私の体が牙を向いて襲い掛かって来た。



「悪いって言っているでしょ?? ほら、行くわよ??」


「んむっ!?!?」



 私の細い体をきゅっと抱き締め、胸の谷間へと頭部をキッチリ収め。鉄製の扉へと到着した。



「ふ――ん。開けても良さそうね。ユウ、行くわよ」


「ふぁったらふぁなせ!! ちっふぉくする!!」



 ふふ。


 いつも私が感じている恐怖を味わうがいいさ。



 ジタバタと暴れ回る可愛い私の頭を撫で、扉を開けると……。



「ほっわぁ…………。ひっろ!!!!」



 どうやって地下にこんな馬鹿デカイ部屋を作ったのかを問いたくなる部屋が出現した。



「ぷはっ!! はぁ――……。死ぬかと思った……」


「ユウ、ほら見てよ。大きな部屋に到着したわよ??」



 顔を真っ赤に染めて新鮮な空気を肺に送り込んでいる彼女にそう話す。




「んおっ!! でっか!! そして、あれは何だ!?」



 まぁ、当然気付くわよね??



 鉄の扉を潜り抜けた正面。


 そこには壁一面に貼りつく様に巨大な女性の石像が設置されており、目隠しをされた彼女は右手で天秤を持ち。その天秤には何も乗せられておらず、平衡を保っていた。


 そして、天秤の丁度ド真ん中の下には出口である扉がどっしりと腰を据えて私達を見つめている。



 馬鹿デカイ部屋の左右の壁には……。


 烏を模った十三体の石像が設置さており、どの石像にも差異は見られなかった。



「何だよ、あの姉ちゃん。何も無い空気でも量ってんのか??」


「さぁ?? 取り敢えず近付いて……。ン゛っ!?!?」



 私達が天秤を持つ石像に近付こうとした刹那。


 両方の分厚い鉄の扉から乾いた音が響く。



「お、おいおい。何だよ、今の嫌な音は……」


「さ、さぁ。そ、そんな事よりも上!! 上を見なさいよ!!」


「はぁ?? んぉう!? 何だよ!! あれ!!」



 天井には鋭く尖った岩の針が出現。


 今にも落下してきそうな雰囲気に思わず固唾を飲んでしまった。



「下手に何かを触らなければ大丈夫そうだな……。うし!! あの姉ちゃんを調べてみっか」


「う、うん……。分かった……」



 彼女の二の腕をきゅっと掴み、私が力加減を間違えたかどうか知らんが。


 ユウが私の腕を振り解こうと躍起になり、放す放さないの激しい押し問答を繰り返しながら進んで行くと。石像の下にある鉄の扉の脇に注意文が掲載されていた。



「何だ?? この文は??」


「さぁ?? えぇっと……」



 ユウから腕を放し、その文に視線を送るとそこには丁寧な文字でこう書かれていた。





『十三の神々』


『神は等しく強大な力を持つ。しかし、偽りの神は彼等のそれよりも矮小な力しか持たない。そして、真実を司る神の天秤は三度力を測る事を許される。神々に紛れし偽りの神を真実の神へ差し出せ』





「――。だとさ??」



 私が文を読み終えると、ユウが左右の壁へと視線を向けた。



「十三の神って事は……。あぁ、やっぱりそうか。左右の壁際に設置されている烏の石像の事を示しているのか」



 ほぅ!!


 もう一つの謎を解き明かしたのかね、君はぁ!!


 大変優秀な助手ではないか!!



「じゃあ、偽りの神ってのは??」


「知らん」



 わ、わぁ……。


 真冬の空の下の湖で、キンキンに凍って張った氷よりもちゅめたい口調だぁ。



「神よりも力が劣るのが偽りの神なんだろ??」



 部屋の中央へと戻り、乱雑に荷物を床に置きながら話す。



 それに、三度力を量るってのも気になるわね。




「そう書いてあるわね。ってか、何で座るのよ」


「時間制限がある訳じゃないし。ゆっくり考えようかと思ってね」



 あぁ、そういう事。


 寛いだ姿勢の彼女の下へと移動を果たし、左右の壁へと視線を送った。



 ふぅむ……。


 ぜぇんぶ同じに見えるわね。



「この十三体の中に偽物が紛れ込んでいるのか」


「って事はだよ?? 残りの十二体は本物の神様って事になるわよね??」



 恐らく、そういう事だと思うけど。



「だろうなぁ。そして、多分だけど。あの姉ちゃんが持つ天秤を使用して偽物の神様を見つけて。んでもって……。ほら、あそこ。扉の左脇にある台座に偽物の神様を乗っけるんだろ」



 天秤を持つ女性の真下。人体の部位で表現すると左脇腹付近に大きな台座が見える。



「これもまた推測だけど……」



 フンフンっ!!


 助手君の提案にコクコクと頷く。



「天秤があるって事は、重さを量る事だろうさ」



 天秤の使用用途に間違いは無いわね。


 で、でも。


 そうなるとぉ……。



「ちょ、ちょっと待って。注意文には三回だけ力を測る事を許すって書いてあったから……。たった三回で十三体の中から一体の偽物を見付けろって事!?」



 しかも!!


 天秤に石像を乗せる為には、でっけぇ姉ちゃんの脇にある階段を上って。えっこらよっこらと運ばなきゃならんし!!



「だろうなぁ。んで、失敗したら。ほれ、あれがぜぇんぶ降って来るんだよ」



 のんびりした口調でユウが天井の突起物を指す。


 な、なんてこった。


 私の素晴らしく天才的な頭脳は現在使用不可だし。


 胸に栄養を取られて馬鹿になってしまった頭の体でこの謎を解かなければならないのかっ!!!!



 不可能に挑戦するお伽噺の登場人物になった気分だわ……。



「まっ、携行食でも摘まみながらゆっくり考えるか」



 その手があったわね!!


 お腹が減ったら頭が働かないものっ。



「いいわね!! 丁度小腹が減っていたし!!」


「おっ、こりゃ美味そうだ!!」



 ユウが背嚢の中から素敵な香りを放つ携行食を取り出すとどうでしょう!! いつもならグースカと眠りに就いている時間帯なのにお腹が空くではありませんか。



 待っていなさいよ?? ボケナス。


 腹を満たして、頭に栄養を送って。ちょいと小休憩してから助けに行くからね!!!!




















 ◇





 緊張感を含んだ吐息を吐き、矮小な橙の明かりに照らされた暗き闇が存在する通路を進む。


 狭き土の通路は此方に閉塞感を与え、土と埃が混ざり合う空気が緊張感を増幅させる。


 慎重に奥へと向かって静かに歩みを進めていくと、右の脛に何やら違和感を覚えた。



 刹那。


 左右の壁から此方の命を断とうとする鋭い矢が襲い掛かった。



「ふっ!! はぁっ!!」



 上半身を仰け反り右の矢を回避。


 そして、躱した上半身を穿とうとする左の矢を左手の手刀で叩き落としてやった。



 よぉし……。


 大分慣れて来たぞ……。



「流石で御座いますわねぇ、リューヴ」


「アオイ、謝罪をさせてくれ。この体は中々に扱いやすいぞ」



 私は右利き。


 対し、彼女は両利き。その差異に最初は戸惑っていたが……。こうした軽い運動を続ける内に大分慣れた来た。



 慣れてしまえばどうという事は無い。



 左右どちらからの攻撃も容易く反応出来、しかも。態勢を崩した状態でも挟撃に反応出来る構造に私は舌を巻いてしまっていた。


 両利きの利点。


 これは学ぶべき事が多そうだ。



「うふふ。どういたしまして。ほら、間も無く目的地へと到着しますわよ??」


「あぁ、分かっている。下らない軽運動も此処迄の様だな」



 あの鋼鉄製の扉の向こうにはどんな危険が待ち構ているのか……。


 ふっ、血が騒ぐぞ!!



 程よい緊張感とそこから湧き起こる高揚感を心に浮かべ、重厚な扉を開いた。




「――――。普通の部屋ですわね」


「あぁ、期待外れも良い所だ」



 鋼鉄製の扉の先は四方約七メートルの何ら変哲もない部屋に繋がっていた。


 そして、入り口の対面側にも同じ鋼鉄製の扉が待ち構えている。



「あら?? 向こうの扉の隣に何かがありますわね」


「調べてみるか」



 アオイの声を受け、向こう側の扉へと歩み出した刹那。



「っ!? 何だ、今の音は??」



 前後の扉から乾いた音が響き、私は咄嗟に戦闘態勢を整えた。



「安心しなさい。恐らく施錠の音でしょう」


「ふんっ。警戒は怠るべきではないからなっ」



 施錠、か。


 つまり我々はこの部屋に閉じ込められた訳だ。



 部屋の中央で周囲に警戒を続けていると、天井。そして左右の壁に無数の穴が出現した。



「んまぁ……。私達を串刺しにしようとしている訳ですか」


「あぁ、だがおかしいな?? 直ぐにでも攻撃を加えれば我々に対して痛手を与える事も可能なのに……」



 例え体が入れ替わったとしても、私とアオイならこの距離でも矢と槍の攻撃は躱せるが……。


 全てを華麗に回避するのは不可能に近い。


 侵入者に手負いを負わせ、弱った体の命を刈り取るのが最も効率的な筈。




「ふふ。この地下を構築した主は存外、優しい御方なのかもしれませんわねぇ」


「主を捕縛する者は許さん。下らない仕掛けを解除して先へと向かうぞ」


「あら?? 戯れを嗜まない無粋な女性は嫌われますわよ??」



 柔和な目付きで罠を観察するアオイを尻目に、出口側の扉へと到着した。



「む?? 何だ、これは……」



 鋼鉄製の扉の左側には古びた文字で注意書きが記されており、その反対側。


 つまり扉の右側には四つの数字が示されるように専用の器具がはめ込まれている。



「ふぅむ。つまり、下らない質問に答え。扉の右側の器具でその数値を当て嵌めればいいのですか。ほら、簡単に零から九までの数字が動かせますわよ??」



 アオイが鉄製の器具の下にある取っ手を左右に回すと、器具が乾いた音を奏でて数字を順に示す。



 そして、四桁の最初の一桁の上側には一、と。


 続く二桁から三桁目には二、そして四桁目には三と刻まれていた。



 更に。


 四桁のマスの少し右側には烏の絵が刻み込まれた突起物がある。恐らく、数字を決定したらその突起物を押せばいいのだろう。



「やはりこの地下の主は優しき方ですわね」


「どうしてだ??」


「其方の質問の答えから導き出される答えは三つ。三つの数字の並び変えるのは六通り。その順列の手間を省いてくれていますので」



 あぁ、そう言う事か。



「つまり、我々は今からこの問いに答えて。正解を導き出さなければ先に進めないのだな??」


「正解ですわっ。では、さっそく解いて行きましょう」



 若干興奮気味の私の声色を奏で、アオイが注意書きの真正面へと立った。







『悪戯の神が地上に残した数字を導き出せ』





『一』




 1+2=6


 2+2=6


 3+4=7




 6+9=





『二』




 4→→=7


 6→→=9


 5→→=7


 9→→=9


 7→→=13




 8→→=






『三』





 1←→7


 11←→5


 2←→8


 12←→6



 3←→





「何だこれは。計算も合っていないければ、支離滅裂な矢印が書かれているだけではないか……」



 簡単な数式も計算出来ないのか?? この地下の主は。



「うふふ。そう慌てる事はありませんわ。どの問題も少し頭を柔らかくすれば解けますわよ??」



「アオイ、貴様は解けたのか??」


「えぇ、既に一問目は……」



 何だと!?


 こ、この狂った計算が解けたと言うのか!?



「貴女の頭脳が比較的明瞭で助かりますわ。問題は二問目ですわね。何故、矢印が二つも連続して示されているのか」



 右の器具を見れば分かるが。二問目の問いの答えは二桁である事は確定しているな。


 つまり……。一問目と、三問目の答えは一桁か。




「それなら三問目の左右、逆を向いた矢印もそうだぞ」


「その法則性を導き出す為に考えを柔軟にすべきなのです。時に視点を変えたり、単純な計算式に囚われず、又は全く違う別の物と捉えるべきかと……」



 ふんっ。


 主が窮地に立たされている今、我々はこんな所で足止めを食らう訳にはいかん!!


 待っていろよ、主。私がこの問いを直ぐにでも解き明かし、風を纏って颯爽と参上するからな!!



「ふぅぅむ……。二つの矢印は何か二つの計算を続けて行えという事でしょうかねぇ……」



 アオイは二問目の問いに挑戦中の様だから私は三問目を解いてやろう。



「うむむ……」



 腕を組み、これでもかと眉を顰めて問題に浮かぶ数字と矢印を睨みつけてやった。





最後まで御覧頂き誠に有難うございました。


解答は次話の中で発表させて頂きます。




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