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第二十二話 激戦の開幕です

この御話しから戦いの幕が開けます。

賢い海竜さんがどの様にして彼等に対峙するのか……。


それでは、お楽しみ下さい!!




 手に汗が滲み呼吸の回数が普段のそれよりも自然と増えてしまう。



 これが……。

 実戦の空気ですか。



 初の実戦で自分でも意図しない体の強張りに困惑してしまいます。



 周囲を渦巻く様々な思いが鉛の様に重く自分の体にしがみ付き、決して離さないと宣言して私に重みを与え続けていた。




「えぇ。では、皆さん。行って参りますね」



 皆さんから勇気を頂き一つ呼吸を整えて。作戦行動に移った。



 作戦通りに上手くいくかな……。


 それだけが心配です。




「カエデ」



 レイドの声だ。



「はい??」



 伝えたい事でもあるのだろうか。


 そう考え、振り返る。





「初陣を……。勝利で飾ろうな」




 ちょっとだけ弱気な私の心が彼の言葉を受けると、途端に前向きになってしまう。


 頼りないと思われちゃったのかな??



 自分の思いを見透かされるのは好きではありません。



 でも。

 その言葉が嬉しかった。



「…………っ。はいっ、行って来ます!!」



 心に灯った明るい光を胸に、大空の下へと躍り出た。





「「……っ!!」」



 早速、発見されましたね。


 でも、それは織り込み済みです。



「おはようございます。本日は、晴天に恵まれ。素晴らしい一日になりそうですよ」



 私達を発見した彼等に対し。

 朝も明けない時間に相応しい声量で挨拶を交わした。




 ふぅぅ……。


 さぁ、行きます!!!!



「大いなる炎の煌めき。我が前に集い、そしてその力を示せ!!」



 右手を前に掲げ体の中から湧き上がる魔力を集中させ、赤き魔法陣を形成。



 そして……。


 これから始まるであろう激戦に相応しい狼煙を上げた。



炎塊衝破ファイアストライク!!!!」



 巨大な炎の塊が魔法陣から出現し、私の魔力の放出と共に堅牢な門へと一直線に飛翔。



 着弾と同時に爆炎と衝撃波が天へと轟く。




「「!?」」




 見張り台の御二人が熱と衝撃により、構えていた弓から手を外し。


 見張り台の淵に手を乗せ揺らぐ地面に対抗した。





 けほっ……。

 ちょっと張り切り過ぎましたかね??



 燻ぶる煙を少々吸い込んでしまいました。



「カ、カエデさん!! もう少々抑えて下さい!! こっちまで吹き飛んでしまいますよ!!」


「これでも抑えた方です。私が全力を出せば門処か。里を取り囲む壁が消失してしまいますよ??」



 直ぐ後ろに待機するピナさんへと話す。



「「っ!!!!」」



 見張り台の御二人が弓を手に取り、弦を強く引いて私達に狙いを定める。




 予想通りの行動ですね。




「カエデさん!! 狙われていますよ!?」


「その様ですね」



 さて、と。


 この騒ぎを聞きつけた方々がそろそろ向かって来る筈です。




「そ、そんな呑気に……。撃たれちゃいますよ!!」



 それとも……。


 我々で戦力の大半を削らないといけないので、もう少々派手に狼煙を上げた方が効率的かな??


 レイド達は魔法が苦手ですのでその労を少しでも矮小な物にしてあげないといけませんよね……。




 見張り役の彼等が私に向け、矢を放つ。


 鋭い鏃が空気を切り裂き私の命を穿とうと美しい飛翔を見せた。



「――――。さて、ピナさん。準備は宜しいでしょうか??」

「前!! 前ですって――!!」



 御安心下さい。


 矢の攻撃では私の命は奪えません。




「ふぅ……。んっ!!」




 左手を前に翳し。


 魔力を放出し、結界を形成。


 薄い桜色の壁に矢が着弾すると乾いた音を立てて地面に落下した。



「そ、それは一体??」


「結界ですよ。魔力で構築した壁とでも呼びましょうか」


 安心されました??


 そんな意味を含めた声色を放ちつつ振り返る。





「へぇ……。初めて見まし…………」




 そこまで話すと、地面と平行になっていた彼女の視線が徐々に空へと傾き始めてしまった。



 ふぅぅ……。


 作戦の第一段階の開始ですねっ!!!!





「カエデさん!! しゅ、出現しましたぁ!!」


「分かっています!! 私の体を掴んで、空へ向かって下さい!!」



 里の中から空に舞い上がった大勢の人々の影。



 彼等の背には翼が生え一つ羽ばたけば上昇し、二つ羽ばたくと此方に向かい。大変お強い魔力を携えて突撃を開始する。



 その数、凡そ……。





 百体、ですか。


 想像以上でも、以下でも無い数です。




 装備は長剣、槍、手斧。


 これも想像通り。



 つまり。

 全て想定内の戦力ですが。



 如何せん、此方は初陣。


 実戦の空気に当てられ。想定よりも体が動かない事を懸念せねばなりません。


 正常な思考で判断が下せる内に、勝負を決しましょう!!!!




「は、はいっ!!」


 彼女の腕がお腹に絡み、風の力を纏って大空へと移動を開始した。





 太陽がそろそろ起き始め様とする頼りない明かりの空へと急上昇して行く。



 っと。

 意外と寒いですね……。




「いいですか!? 以前説明した通り。私の指示通りに飛翔して下さい!!」


「分かりました!! 作戦通りに事が進む様に願います!!」




 あれだけ大きかった里の壁がもう矮小な点に変化。



 そして、私とピナさんの周囲には……。






「「「…………クアァァァ」」」






 我を失った彼等が囲み、私達の命を奪い取ろうと武器を。


 或いは魔法陣を掲げていた。




 さぁ。


 作戦を展開しましょう。





「ピナさん!! 行きますよ!! 地面と垂直。急上昇!!!!」

「はいっ!!」





 彼女が翼を羽ばたかせると、物凄い風圧と加速度による重力が体を襲う。



 くっ……。

 かなりの速度ですね。



 下方に視線を送ると……。




「「「ギィィィアアアア!!!!」」」




 彼等が群れを成して私達の軌跡を追随していた。



 良い感じで追いかけて来てくれますね。


 出だしは好調です。




 よし!! ここ!!



「地面と平行!! 左方向、九十度旋回!!!!」


「ふっ!!」



 地面に対して、垂直方向だった体が地面と平行になり飛翔を続ける。





 旋回時の衝撃はかなり堪えますね……。


 刹那に呼吸が止まってしまいました。



 そして、彼等も私達の命を奪おうと後に続く。




「次!! 地面へ向かって九十度!! 垂直下降!!!!」

「んっ!!!!」



 ピナさんの体が地面へ向かって急下降。



 目も開けて居られない風圧が体全身を襲う。





「――――――――。右方向!! 地面と平行!! 九十度旋回っ!!」

「分かりましたっ!!」




 刹那に視界が暗闇に包まれ、思わず意識が遠のく。


 うぅ……。

 今のは、堪えましたね……。



 遠のく意識を保つ事に集中していると。




「カ、カエデさん!! 不味いです!!」



 ピナさんの焦燥した声に反応し、加速度によって彫刻の様に固まってしまった首を捻り。後方を振り返った。




「「「アアァア!!!!」」」



 数十名のハーピー達が私達目掛け。


 美しい緑の魔法陣を浮かべて、風の刃を放射した。



 不味い!!



「ふぅっ!! はぁぁっ!!!!」



 左手に魔力を籠め、結界を展開。


 最小限度に構築した壁は風の刃を防ぐ。しかし……。


 数十もの刃が結界に着弾すると甲高い音を放ち、崩れ落ちてしまった。



「は、破壊されちゃいましたよ!?」


「ここで全力を出す訳にはいきませんからね。魔力も最小限度に抑えました。そして……。右方向!! 九十度旋回!!」


「は、はいっ!!」



 うぐっ!!


 旋回の度に体が悲鳴を上げてしまう。


 体外から与えられる加速度により五臓六腑が肉の壁に衝突し、喉の奥から辟易する液体が込み上げて来る。




「ピナさん……」

「何ですか!?」


「これ以上……。速度を落とすことは可能ですか??」




 作戦を完遂させる前に、私の意識が遠のいてしまいそうだ。




「無理です!! これ以上速度を落としたら……。追いつかれてしまいます!!」



 そ、そうですか。


 し、仕方がありませんね。




「地面に直角、垂直方向!! 急上昇して下さい!!」

「了解です!!」



「「「ギイイイイイヤアア!!!!」」」



 獣の声が私の意識を現実世界に留め。



「はぁ……。はぁ……」



 ピナさんの荒い呼吸が闘志に火を灯す。


 そして、レイド達は地上で今頃戦闘を開始している筈。



 私も……。負けていられませんよね!!





「ふぅ、ふぅ……。地面に、平行……。背中方向へ反転旋回して下さい!!」

「はぁぁ!! はっ!!」



 ぐっ!! うぅ!!


 自分の体の貧弱さが恨めしい……。


 たかが空中を移動しているだけで悲鳴を上げるのだから。



 だけど、絶対に諦める訳にはいきません。



 私達の結果次第で多くの人命が失われてしまいますのでね!!!!



 頭を振り、必死に意識を繋ぎ止め。


 次なる指示を出す。





「ひ、左手後方。地面に対して、四十五度。限界高度まで一気苛烈に上昇して下さい!!」

「カエデさん!! 大丈夫ですか!?」



「大丈夫です!! は、早く移動して下さい!!」

「分かりました!!」



 彼女が翼に風を纏わせると同時に、視界が一気に暗闇に包まれてしまう。



 くっ…………。


 後少しで、後少しなのに……。



「……、エデさん!! しっかり……」


 えぇ。

 分かっています。


 分かっていますよ??



 これ以上の加速は恐らく、私の体は耐えられません。

 ですが。



「「「ググァァアアアア!!!!」」」



 彼等を正気へと戻し。


 尊い人命を救う為に、私達は勇気と力を振り絞っているのです。





「はぁ……。はぁ!! 此処が、限界高度です!!!!」



 彼女の声を受け、朧な意識を現実へと戻して周囲を窺う。







 雲一つ浮かばない大空。




 東の空には太陽が僅かに顔を覗かせ、西の空には暗闇が私達に別れを告げていた。


 こんな状況でなければ思わず見惚れてしまう光景。



 この問題が片付いたのなら、是非ゆっくりと眺めたいですね。




「ふぅ――……。ピナさん。今から一気に地上へと急降下します。ピナさんの前方に結界を展開。彼等から激しい攻撃を受ける事が想定されますが、絶対に動きを止めないで下さい」




 地上から、此方に追いすがろうとする百の個体を見下ろしつつ話す。



「カエデさんは大丈夫ですか!?」


「だ、大丈夫です。準備は宜しいですか??」



「はい!!」




 では……。


 行きましょうか!!



「はぁっ!!」



 地上へと傾いた彼女の前に結界を展開。


「行きます!!」




 ピナさんの声と共に、常軌を逸した加速度が体を襲った。




 視界が狭まり地上一杯に広がる緑が消失。

 刹那に意識が雲の彼方へと遠ざかる。




「「「アアアアアッ!!!!」」」




「来ます!!」


 彼等から数百もの分厚い風の刃が放たれ、急降下し続ける私達の結界へと着弾した。




「きゃあ!! す、凄い数の攻撃ですよぉおおお!!」




 襲い掛かる無数の風の刃。


 甲高い音が響くと壁が綻び、ひび割れて行く。



「御安心下さい。こ、この結界はそう易々と突破されません……」


「ほ、本当ですかぁ!?」



 勿論、これは気休めの言葉です。


 今は目的地へと……。彼等よりも先に到着する必要があるのです。




 私達を攻撃し続ける孟狂った百の魔物。





 その集団の中を私達は一筋の線となって…………。突破した。





「抜けました!!!!」




 よし。


 後は……。仕上げですね!!!!





「――――――――。急停止!!!!」

「はいっ!!」



 地上、約三十メートルの位置で停止し。



 遥か上空から向かい来る彼等に向け、熱き魂を籠めて右手を掲げた!!







「地獄の亡者を焼き尽くす憤怒の炎……。大気を、そして!! 空を燃やし尽くせ!!」



 体の奥底から迸る魔力を右手に籠め、魔法陣を展開すると。



「な、何ですか!? あれはぁ!!!!」



 八つの赤き魔法陣が私の魔力に反応して上空に出現。


 そして……。


 八つの魔法陣から赤き線が直線に伸び、互いを結ぶ。




 点と点が繋がり、赤き直線で描かれた巨大な直方体が空に浮かんだ。





「設置型の魔法です。直方体の八つの点。先程の飛翔はこの為に行ったのです」



 あの直方体はさながら……。





『鳥籠』





 ほら、百もの個体が直方体の中で呆気に取られています。


 そして……。

 これを逃す手はありません!!!!









「はぁぁぁあああ!! 爆導柵ブラストインケイジ!!!!!!」







 一気苛烈に魔力を籠めると直方体の線の赤が朱を増し、周囲の空気を揺らしつつ熱を帯びていく。



 さぁ…………。



 勝利の音を奏でましょう!!!!











発動イグニッションッ!!!!」







 燃え盛る魔力を籠めた右手を左手へ猛烈な勢いで重ねると。


 私の魔力に反応した直方体が此方の命令を無慈悲に遂行する。



 灼熱と化した赤き直方体の線が膨張。



 溜めに溜め込んだ狂気の炎に火が灯り、地平線の彼方へと轟く爆音と共に炸裂した。




「キャ――――!!」




 上空で破裂した爆風と業火の余波が私達を襲い、ピナさんが熱から逃れる様に腕を翳す。




「だ、だ、大丈夫なんですかぁ!! あれはぁ!!」




「大丈夫です。逃げ場の無い全方向から襲い掛かる衝撃波で敵性対象の意識を刈り取り、一網打尽にする魔法です。ですが……。生焼け程度の火傷は負うでしょうね」



 火傷程度の負傷を気にしていたら、この戦いは勝てません。


 寧ろ。

 火傷程度で済んで御の字です。



 警戒を続けつつ、黒煙が包む鳥籠の中を注視する。



「は、はぁ……。あぁ!! 皆さんが!!」



 意識を失った彼等が重力に引かれ力無く落下していく。



 よし。

 これで……。


 第一関門突破です!!



「地面に激突しちゃいますよ!?」


「御安心を……」



 黒煙を引っ提げ、落下し続ける彼等の下に魔力で構築した結界の受け皿を展開。


 一人、また一人と受け皿に到着する様は……。


 料理にも見えてしまいますね。





 程よく焼かれた鶏肉の盛り合わせです。





 ――――。


 ふふ。

 マイに感化されてしまいました。



「すっごい……。あれもカエデさんが……」


「その通りです。海竜に不可能はありませんからね。さて、此処からが忙しくなりますよ??」



「へ??」



 項から気の抜けた声が届く。



「結界を地上へと下ろし。彼等に埋め込まれた結晶体を私達で全て取り外します。その後、里へと戻り本戦の開始ですから」


「そ、そうですね。頑張りましょう!!」


「勿論です」




「ですが……。その前に」



 何でしょうか??


 髪型がしっちゃかめっちゃかになってしまっているピナさんの方へと振り返る。




「髪型、直して行きましょうね。つるはしみたいになっていますよ??」


「っ!!」



 手櫛で髪型を直す彼女に倣い、慌てて己の前髪を直す。


 ツメが甘い、とでも呼びましょう。





 まだこれは前哨戦に過ぎないのです。


 此処で躓いている様では……。勝利の栄光は訪れませんから。



 地上へと降下し続ける程よく焼けた大量の鶏肉……。


 基。

 大勢の彼等を見下ろしつつ、此れから始まる激戦の予感を抱かずにはいられなかった。


如何でしたか??

それでは、明日に続きます!!

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