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第九十八話 突入前準備運動 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。


それでは、どうぞ。




「では、参ります!!」



 アオイが静寂を打ち破り激しく床を踏み込んで、カエデの懐へ飛び込もうとするが……。



「きゃあっ!!」



 勢い余って彼女の横を通過して壁へと衝突してしまった。



 うっわ……。


 凄い音がしたけど、大丈夫かな??



「ちょっと!! どうなっていますの!? 貴女の体は!!」



 リューヴの方へ振り返ると憤りを込めた言葉を放つ。



「ふっ。私は貴様とは違って軟弱な鍛え方をしていないのでな」


「誰が軟弱ですって??」



 おっと……。この雰囲気は不味い。


 止めるべきか??



「アオイ、行きますよ??」



 此方の考えを汲んでくれたのか、カエデがアオイの正面に立ち。有無を言わさずに鋭い拳の連打を見舞う。



「ちょ、ちょっと!! 御待ちになって!!」


「へぇ……」



 彼女の激しい連打に思わず頷いてしまった。


 カエデはルーの体を上手く使いこなしているようだ。その証拠に拳の上下左右の連打から、蹴り技への連携も滑らかに行っている。



「カエデちゃんやるぅ!!」



 本来の体の持ち主であるルーも太鼓判を押す程ですからね。



「恐らく……。ルーの体に魔力を割いていなかったのが功を奏したのかも知れんな」



 リューヴが俺の隣に並び、アオイ達の組手を見て感想を述べた。



「割合的には??」


「主と戦った時と同じ位だ」



 それなら二割程度って所か。


 少ない魔力だと体も扱いやすいのかな??



「さて、ルー。私達も組手を行うぞ」


「ふふん、アオイちゃんの体のリューなら怖いもん無しだよ!!」


「それはお互い様だ。徐々に力を上げて行こう」


「よぉし!! いっくよ!!」



 カエデの中に宿るルーが、彼女の細い腕の先にくっ付く頼りない拳で攻撃を開始したのだが。



 こう言っちゃなんですけども。……、遅いなぁ。



 俺でもあの速さは余裕をもって見切れる。


 当然……。



「甘い!! 体の動きが隙だらけだぞ!!」



 リューヴが半身の姿勢でその拳を悠々と躱してしまった。



「拳はこうやって……。わっ!!」



 アオイの体の中に宿るリューヴが反撃に転じよう深く腰を落とし。突撃の姿勢を試みたが足が縺れ、盛大に転倒してしまう。


 リューヴ達も慣れるのに時間が掛りそうだな。



「いたた……。この体、軟弱にも程があるぞ。私が思い描く動きに全くついてこれんではないか」


「へへ――ん!! もらい――!!」



 ルーが刹那に生まれた隙を狙い宙へと飛び上がり。本人は素晴らしい足技を見舞おうとしたのですが。



「やぁぁ――!! …………、あり??」



 目標であるリューヴの随分手前で着地してしまい、パチクリと細かい瞬きを続けていた。



「もう!! カエデちゃん!! この体柔らか過ぎ!!」


「私に言われましても……。ルー、この体はどんな魔法が使えますか??」



 カエデがルーの前にしゃがみ、己の体に問いかけた。



「えっと……。変身魔法、継承召喚、ビリビリ、くらいかなぁ?? 魔法はからっきしだからさ」



 ビリビリ……。


 あっ、雷の力の事か。



 滅茶苦茶可愛い笑みを浮かべ、えへへと頭を掻く。


 ルーさん有難う。カエデさんの満面の笑みは大変貴重ですので、頭の記憶に今の笑みをキチンと保存させて頂きましたっ。




「ふむ……。では変身魔法から使用してみますか」



 カエデがすっと立ち上がり、開けた空間へと移動する。



「カエデ。使用出来るのか??」



 ソラアムさんが言っていた通りなら魔法の使用は困難な筈。


 いくら魔法に長けているカエデでも、そう易々と別人の魔法を使用は出来ないであろう。



「やってみない事には分かりません」



 金色に光る瞳を閉じ、聞き取れぬ言葉を呟いて集中力を高めていく。



「ん……!!!!」



 そして、カエデの体が淡い光に包まれ。その光が止むと同時に狼の姿が現れると俺達は感嘆の声を上げた。



「おぉ!! 凄いじゃないか!!」



 狼の姿に変身を遂げたカエデに近寄りヨシヨシと頭を撫でてやる。


 このモフモフさも何ら変わりない。可能であるのならばずぅっと撫でていたくなるからね。



 本来の体の持ち主であるお惚け狼さんの頭を撫で続けられない理由は。


 頭を撫で続けていると、温まってしまった高揚感を抑えきれないルーの舌撃が開始されてしまいますから……。あの獣臭、中々落ちないんだよねぇ。




「これが狼の感覚ですか……」



 大人しく頭を撫でられながら俺を見上げる。


 いつもはホワホワした感じで柔和な印象を与えてくれるルーの顔なんですが、今はキリっと鋭く瞳を尖らせているのでリューヴの頭を撫でている錯覚に陥るな。



「しかし……。狼は鼻が利き過ぎていけませんね」


「どうした?? 何か変な感覚がする??」



 大きくて黒い鼻をスンスンとひくつかせ、俺と視線を合わせないようにしている。



「ふっふ――。凄いでしょ?? 近くにいる人の匂いとか強烈に感じちゃうんだから!!」


「そんなに臭いか??」



 袖口の匂いを嗅ぐがそこまで変な匂いは感じ無いけども……。



「そ、そうでは無くて……。何んと言いますか……」



 一頭の狼がしどろもどろに答える。



「苦手な匂いなら離れるよ??」


「あ……、そういう事では無いのです。その……、いけませんね。言葉にするのが難し過ぎます」



 困ったように両の前足で頭を抱えて、地面に伏せてしまった。



 器用に前足を動かすなぁ。



「むむむ!! こうなったら私も狼に変身して、レイド様の香りを堪能してみせますわ!!」


「もう少し有意義に使ったほうがいいんじゃないの??」



 鼻息荒げるアオイへと呆れた声色で言ってやる。



「やめておけ。私の体は扱いが難しいぞ??」


「いいえ!! やってみせますわ!! ふぅ――……」



 リューヴの忠告を無視して目を瞑り、集中を始めてしまった。



「ふむ……。術式はこうで……。基礎は分かりました。後は……。んっ!!」



 カエデ同様、淡い光がアオイの体を包む。


 そして光の中から現れた姿は……。一部を除き殆ど変わらない人の姿であった。


 そう、一部を除いて。



「何も……。変わっていませんわね??」



 己が手を見つめそう呟く。


 しかし、俺達は彼女の変わりようを確と両の目で捉えていた。



「あはは!! アオイちゃん!! 狼の耳が頭の上からぴょこんって出てるよ――!!」



「へっ!?」



 慌てて頭の天辺を触り、頭頂部からにょきっと生えた狼の耳を触る。



「な、何ですの!! これは!?」



「でもアオイちゃん、その姿可愛いよ??」



「は、早くその耳をしまえ!! 私の体で醜態を晒すな!!」



 リューヴが顔を真っ赤に染め、頭頂部の獣耳を指す。



 そりゃ自分の体があんな風に変われば誰でも焦るだろうなぁ。

 


 けれど……。


 一部の愛好家には需要があるかもしれない。



「難しいですわねぇ。では、もう一度……!!」



 再び淡い光がアオイを包む。


 元の姿に戻ると思いきや。頭の獣耳は引っ込む処か、両手までもがモフモフの狼の前足に変わってしまった。



「こ、これは……」


「き、貴様!! わざとやっているのか!!」


「アハハ!!!! 駄目だぁ、お腹痛いよぉ!!」



 ルーが笑い転げ、無邪気に足をバタバタと動かして腹筋の痛みを誤魔化していた。



 己の体の醜態に赤面するリューヴには申し訳無いが。これはこれでありかもしれない。


 端整な顔にくっ付く可愛いモフモフの耳と足。普段は武士の雰囲気を醸し出す彼女とは正反対の雰囲気ですからねぇ。


 これも大変貴重な記憶だな。



 そして、可能であれば彼女に。



『がおぉ――』 と。



 獲物に襲い掛かる前の台詞を若干大袈裟に可愛く言い放ってもらいたいものさ。

 



「大分コツが掴めてきましたわ。今度こそ!!」



 三度、光が包み込む。



「…………」



 光の中から現れたアオイの姿を見て、リューヴは開いた口を閉ざそうと懸命にパクパクと動かしていた。



 そりゃあそうだろう。



 狼の耳は依然として残り、ふわふわ感が増量した毛並みの二本の足が手に代わり。


 そして極め付きとして人間の鼻が、立派な狼の鼻頭に変わってしまっていたのだから。



 リューヴは目を点にして、変わり果てた己の姿を見つめていた。



「あら?? 今度も失敗……。んんっ!? こ、この香りは……!!」



 アオイが風を纏って素早く俺の近くに駆け寄り、此方の了承を得ないで匂いを嗅ぐ。



「す、素晴らしいですわ!! こうもレイド様の匂いを強烈に感じる事が出来るのなんて!! まさに夢のようですわぁ……」



 体をきゅ……。っと密着させ、服の上からスンスンと匂いを嗅いでいる。



「ちょっと……。近いって……」



 形容し難いくすぐったさと、リューヴの体の一部が体に当たって気が気じゃいないのですよ。



「はぁ……。匂いだけで、幸せな気持ちになりますわぁ……」



 そんなにいい匂いなの?? 自分では分からないから何んとも言えないけどさ。



「おら、蜘蛛狼。さっさと離れろや」



 横着を働いたユウを成敗し終えたマイが、心臓が萎んでしまう恐ろしい足音を奏でながら此方へと歩み来る。



「あら、まな板巨乳さん。どうかなさいまして??」


「せめてどっちかにしろ!!」



 その意見には同感で御座います。



「では、レイド様。後ほど、再び心行くまで匂いを堪能させて頂きますわね??」



 今も、そして後も決して俺は首を縦に振りませんよ??



「ふんっ。さぁって……。ユウを起こしてまた張り倒そ――っと」



 そう話すと踵を返し。



「……っ」



 両足をピクピクと細かく痙攣させて倒れているユウの元へと戻っていく。



 別人に変わっている今、力加減は難しい。


 ユウの体の中に入っているのはマイ。つまり、マイを怒らせる事はユウの重撃を食らう事に直結する。


 怪力であるユウの一撃を真正面から受けると……。あの無残に横たわる姿を見れば言わずもがな。


 想像するだけで背筋が凍ってしまいそうだ



 大人しく壁に寄り掛かって観察を続けましょうかね……。














 ◇






 我が親友の体に宿って初めて分かった事がある。


 それは……。



「肩こりが酷いっ!!!!」



 そう!!


 只突っ立っているだけでもゴリゴリと肩の筋肉に痛みを与えて来るのだ!! この破裂寸前に張った二つの乳がっ!!!!



「あたしの苦労を少しでも理解してくれて幸いさ」



 こめかみを抑え、復活を遂げた私の体の中に宿るユウが話す。



「それで、どう?? 私の至高の体を動かしてみた結果は」



 痛みでちょいとげんなりしているユウに問う。



「ん――。身軽さは素晴らしいの一言に尽きるんだけどな?? 妙に嗅覚が冴えてびっくりしてんだよ」



 ユウが自分の腕に鼻を当てクンクンと、至高の香りを享受してしまった。



「ちょ、ちょっと!! 何してんのよ!!」


「いや、これが龍の嗅覚なんだなぁって。この部屋中の匂いを嗅ぎ取れるし。つまり!! お前さんはぁ……。誰かさんの胸ポケット中で眠りコケている時にぃ……」



 ニィっと憎たらしい笑みを浮かべ私の顔を直視するが。



「それ以上話したら、あんたの首を捻じ切って玩具にしてやるわ」


「わ――ったよ。落ち着けって、な??」



 怒り心頭の己の体を見て考えを改めてくれた事にほっと胸を撫で下ろした。



 はぁ……。


 ったく、余計な事を話しやがって。アイツのポケットの中とあんたの頭の天辺は妙に落ち着くから仕方が無いのよ。


 それに。べ、別に良いわよね?? 私は嗅覚が冴えてるんだからそ、そのついでに匂いを嗅いでも……。



「マイも大分あたしの体に慣れたようだな」


「まぁね。でも、この重さには慣れない……。かな??」



 馬鹿みたいに重くて、動きを阻害して、腹立たしい事この上ない代物だ。


 シャツをクイっと指で開き、山の谷間を何気なく見下ろすと……。



「おぉ……。谷間に汗が染み込んで行くわね……」


「だから、まじまじと見るなって!!」



 ユウが瞬き一つの間に接近し、シャツを正してしまった。



「もっと曝け出したら?? 女の武器を見せつければ世の男は釘付けよ??」


「いや、別に……。誰でもいいって訳じゃないし……」



 恥ずかしそうにそう話すと、私からプイっと視線を逸らしてしまう。



 ははぁん?? 初心な奴よのぉ――。



「ボケナス――。シャツ替えたいから荷物の中から取って――」


「ん――」



 さてぇ!! お膳立て終了ぅっ!!!!


 皆の衆!! 食らえ!! 私の最終秘奥義を!!



「ふんぬぅっ!!」



 シャツをむんずっと掴み、一気苛烈にたくし上げ。世界最恐の呪物を晒してやった。



「て、てめぇ!! いきなり何してんだよ!!」



 ユウが顔を真っ赤に染めてシャツの端を掴み、必死に引き下ろしてしまう。


 ヤダ。


 羞恥に染まる私の顔って結構可愛いくない??



「アイツに正々堂々と見せびらかしてやんのよ。どういった反応するか、楽しみじゃない??」



 ニッコ――っと。


 人の笑みはこうして浮かべるのですよと、手本にしたくなる口角を上げてユウを見下ろしてやった。



「あのなぁ。人の体を何だと思ってんだよ」


「だってぇ、私の体じゃないしぃ?? 全く困らないもの――」



 どこ吹く風といった感じでユウの視線を流してやる。



「…………、そうか。そっちがそのつもりならあたしにだって考えがある」



「ほっ??」



 考えとは如何に??



「ふんぬっ!!」


「どわぁ!!」



 こんにゃろう!! ば、馬鹿じゃないの!?


 いきなりシャツを脱ごうとしやがって!!



 ユウの両腕を咄嗟に掴み、ちょっとだけカッコ悪い下着が見えぬ位置までシャツを下げてやった。



「ぬふふぅ……。これで好き勝手に動けなくなっただろう??」


「この野郎。考えたわね……」



「お――い。シャツ投げるぞ――」



 ボケナスがこちらに向かってユウの体専用の替えのシャツを投げる。



 くそっ!! 今、先に動いたら絶対駄目だ!!


 動いたら……。下着姿を御開帳されてしまうぅ!!!!



 互いの腕を握る手に緊張の汗が滲む。



 そんな中。


 シャツは美しい放物線を描き、ユウの体の頭の上に乗った。そして、丁度良い塩梅に視界を隠す。



「むっ!?」



 今だ!! 


 視界が奪われ、気を抜いた瞬間を私の鋭い目は見逃さなかった。



 素早く手を振り払うと、シャツを派手に脱ぎこの我儘に育った体を白日の元に曝け出してやる。



「ボケナス――!! こっち見ろや――!!」



 はっは――!!


 私の……、勝ちね!!


 さぁ、狼狽えろ!! 我が親友!!!! そして、情けなくピィピィ泣きやがれぇぇええ!!



「…………。うぉっ」


「ぬぁぁああ!! な、何してんだ!! 大馬鹿野郎がぁ!!」



 ちぃっ。


 何んと素早い所作よ。


 刹那に生まれた隙を御自慢の素早さで打ち消し、あっと言う間に私の手を下げ。爆裂淫猥西瓜を隠してしまった。



 でも、まぁ――。


 見たでしょうね。


 アイツは超絶怒涛にむっつりだからこの瞬間を見逃さない筈さ。



「おらぁ!! ボケナスぅ!! 私の最恐のぉ……。あ、あれ??」



 さっきまで壁に寄り掛かって阿保みたいにボ――っと突っ立ていたボケナスの位置に視線を送るとそこには虚しい空間が待ち構えていた。



「え?? ねぇ、ユウ。アイツ何処行った??」


「はぁ?? 知らないよ。シャツで視界が閉ざされていたんだし」



 ちょ、ちょ、ちょっと待って。


 私が一瞬目を離した隙に、アイツが消えたのよ??


 龍の力を解放した訳でも無いボケナスが一瞬でこの部屋から消え去れる訳が無いのに……。



 私は何度瞬きを繰り返し、首を傾げ。


 この体に懸命に痛みを与えようと躍起になってポコポコと攻撃を続ける私の体を余裕を持って抑えつつ、その空間を呆気に取られて眺めていた。




最後まで御覧頂き誠に有難うございました。


残暑厳しいこの頃ですが、体調を崩されない様にお気を付けて下さいね??


それではおやすみなさいませ。

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