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第九十四話 嵐の中の来訪者達

お疲れ様です。


昼休み中の投稿になります。


投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした。


それでは、体を休めながら御覧下さい!!




 大粒の雨が木々の枝を上手くすり抜けて此方の頭を濡らそうと恐ろしい速度での突貫を試みるが、それは頭上に薄っすらと輝く天蓋状の結界によって阻まれ。


 柔らかい曲線を描く天蓋に沿って地面へと落下。


 土茶色の泥濘へと染み込み、土中にびっしりと広がる木々の根に吸収され糧となった。


 横殴りに流れる強風が太い幹を揺らし、悪戯に此方の不安感を増長させ。刹那に光り輝く稲光が暗き森を照らすと……。




「うんぬぅっ!!!!」



 深紅の龍の体を大袈裟にビクンッ!! と驚愕させ。



「退け。前が見えん」



 更に深緑の髪の女性を辟易させた。



 もう間も無く一日の終わりが近付く中、更に嵐の中で行軍を続けるのは本当に骨が折れる。


 合羽を羽織り、荷物を担ぎ、泥濘の上を移動しているのだ。これで疲れない方が不思議です。


 まぁ、若干一名だけは肉体的疲労よりも精神的疲労に苛まれている事であろう。



「ね、ねぇ。引き返さない??」


「その台詞。次言ったら首、こうな??」



 ユウの頭頂部にしがみ付く彼女へ向かい、手刀を叩き込む仕草を見せる。



 街を出てから今に至るまでずぅっと聞かされ続けたら優しいユウだって怒り心頭になるだろう。



「だ、だって!! おんぼろ屋敷に行くんでしょ!? だ、だったら私が行く必要ないじゃん!!」


「そ、そうだよ!! 私とマイちゃんは街に帰るから。後は五人で行けばいいんだよ!!」



 もう一人いましたね。精神的疲労に苛まれている御方が。


 俺の左隣。


 忙しなく狼の顔を左右に動かし続けている彼女がそう話す。



 耳、物凄い勢いで垂れていますよ??



「ルー。一つ面白い話をしてあげましょうか??」



 先頭を行く分隊長が久し振りに口を開く。



「楽しい御話なら聞く!!」


「先程、貴女が放った台詞。私が良く読む小説の中で何度も見かけた台詞でしたよ??」



 ――――。


 あ、そういう事か……。



「んぅ?? どういう事??」


「恐怖から逃れたい一心で帰ると叫び、問題から目を背ける登場人物の末路は……。大抵が惨たらしい死体となってしまうのです……」


「びゃっ!! な、無し!! さっきの話、無しだからっ!!!!」



 既に俺達の記憶に刻まれた記憶を無効にするというのかね?? 貴女は。



「カエデちゃん止めてよ!! これ以上私達を怖がらせないで!!」


「怖がらせる?? ふむ……。怖がらせるとはどういう事か。その身を以て分からせてあげましょう……」



 カエデがピタッと歩みを止め、ゆぅぅくり此方へと振り返り。



「……」



 ニヤァっと。俯きがちに意味深な笑みを浮かべて口を開こうとしたのだが。



「あ、あぁ――。カエデ、前を向こうか??」


「そうだな。先導役であるカエデが足を止めては我々も身動きが取れない」



 ミノタウロスの娘さんと、翡翠の瞳を浮かべるもう一頭の狼さんが前を向いて歩けと指示を出してしまった。



 この二人もなんだかんだいって女の子らしく怖がりなんだよねぇ。


 それと。


 今の顔は心臓に大変宜しくありませんので、可能であるのならばこれっきりにして下さい。



「そう、ですか。そこまで言うのなら進みましょう」



「「「はぁぁ――……」」」



 一堂が溜息を吐き再び隊長の後に続いて暗き森の中を進み始めた。



「レイド様ぁ。怖がりで情けない連中等放っておいてぇ。私と暗き森の中で危ない情事をしましょうよぉ……」


「仕事中ですからねぇ。それはいけませんよぉ」



 顔面に張り付いた蜘蛛の胴体を掴み、情けなくピスピスと鼻を鳴らしているルーの背中へと放ってやった。



「はぁぁああんっ。嵐の中に放物線を描きますわ――」


「アオイちゃん。今日だけは乗ってていいよ」



 誰かが近くに居ると安心しますからね。


 丁度良いじゃないか。



「結構ですわ。こぉんな獣臭い背中に張り付く人の気が知れません。私はレイド様の項、若しくは胸元に張り付き。男の香を嗅ぐのですっ!!」



 勝手に匂いを嗅がれる人の気持ちを理解しないのだろうか?? あの人は……。



「いいもん!! 無理矢理咥えるからっ!!」


「きゃあ!! ちょ、ちょっと!! お止めなさい!!」



 体を器用に捻り一匹の蜘蛛が宙へと舞うと。それを見事な所作で咥え取り、カエデと肩を並んで歩き始めてしまった。



「レ、レイド様ぁっ!! 狼に誘拐されてしまいますぅ!!!!」



 口からはみ出た八本の節足がワチャワチャと蠢く。



「あ、あはは。ルーは不安そうだし。そのままでいいでしょ」


「ま、まぁ!! 正妻である私が辟易しているのですわよ!? それを宥めるのが夫であるレイド様の務め……。キャハハ!!」



 キャハハ??


 どうしたのかな?? 急に笑い声を上げて。



「あふぉいちゃん。うるふぁいからお尻なめふぇあげるふぉ――」


「お、お止めなさい!! 私の臀部を淫らに、そして好きなだけ食して良いのはレイド様だけですのよ!? 貴女の様な獣に舐められる為に存在していないのですっ!!」


「あっふぉう」


「ひぃっ!! あはは!! や、止めなさい!!」



 へ――。


 アオイってあんな風に笑い声上げるんだ。



 出会ってから今の今まで声を大にして笑った声を聞いたのは指を数える程度だからね。


 大変貴重な機会を与えてくれたルーには感謝しなきゃな。



 この悪天候の中では会話を聞き取るのも一苦労なので、各々が口を閉ざし。泥濘に足を取られまいと歩行する事だけに集中して進んで行くと先頭のカエデとルーが不意に足を止めた。



「どうした?? 二人共」



「到着しましたっ」


「ふぁえりたいよぉ……」



 一体全体この状況下でどうやったらそんな高揚した声が出るのかと問いたくなる海竜さんの声と。


 尻尾、耳、毛皮。そして眉……。は狼の姿だから無いけども。全てが地面へと垂れ下がり、足を踏み入れる前から既に及び腰且蟻の心臓よりも小さな狼の声。


 対照的な姿と声に違和感を覚え、彼女達の視線の先に目線を移すとそこには……。俺達が探し求めた物がひっそりと佇んでいた。




 生い茂る森の中に現れた広大な空間に建つ屋敷の壁は痛み、所々に損傷が目立つ。


 くすんで汚れた窓硝子には穴が開き、外からの雨風を容易く通し。外壁を取り囲む緑の蔦がどれだけ放置されたかその年数を物言わずとも此方に教えてくれる。


 屋敷へと続く空間には鬱蒼と生い茂った真っ赤な彼岸花が咲き乱れ、俺達を誘おうと風に揺れて手招きをしている。



 漆黒の雷雲から放たれる轟く雷鳴と強烈な稲光。



 闇の中に刹那に浮かんだそれは例え恐怖を覚えない者でも不気味さを感じてしまうであろうさ。



「――――。ぶ、不気味過ぎんだろ……」



 はわわ……、と。


 ポッカリと開けた口にちいちゃな手を添え。マイが的を射た発言を放つとユウの背中側の服へ引っ込んでしまった。



「さ、さぁ!! 皆さん到着しましたよっ!! 早く入りましょう!!」



 足を止め、身動き一つ取れない者共の中から一名の女性が場違いな足取りで屋敷へと向かって行く。



「カエデの奴……。肝が据わり過ぎだろう」



 リューヴの話した通りです。


 流石の俺も好き好んで怪しき廃墟に堂々と乗り込む勇気はありませんよ……。これはあくまでも任務ですからね。


 渋々、向うとしましょう……。



「はぁ――……。ここで立っていても仕方がないし。行こうか」



 カエデが描いた軌跡を辿り、闇の中で待ち構えている屋敷へと向かう。



「はいはいっと……。おら、いい加減出て来い。背中がくすぐったいんだよ」


「でんっ!!!!」



「ふぁ――……。しふぁたがないなぁ……」


「いい加減放しなさい!! ケダモノめっ!!!!」



 嵐に負けない声量を背に受け、俺達の体を掴み取ろうと画策する彼岸花の手を振り切り。やっとの思いで玄関口へと到着した。




「さ、さぁ!! レイド。鍵を貸して下さいっ」



 そう慌てなくても屋敷は逃げませんからねぇ――……。


 背嚢の中から指令書の中に同封されていた屋敷の鍵を取り出し、彼女へ差し出……。



「では、皆さん!! 入りましょう!!」



 半ば強奪する形で見上げれば首が痛くなる高さを誇る扉を開けて入って行ってしまった。



「はぁ――……。行くかぁ……」



 ユウがガシガシと後頭部を掻き、カエデに続くと。俺達もそれを合図に捉えお化け屋敷擬きの廃墟へとお邪魔した。




 先ず目に飛び込んで来たのは真正面の大きな扉だ。そして、左右に首を動かすと正面の扉とは一回り小さな扉が二つ。


 右側の扉の少し奥には、一際豪華な装飾が施された扉もある。


 玄関口の大きな空間には背後の扉を除き、計四つの扉が確認出来た。



 そして、二階へと続く階段が左右に設置され。階段を上った先には二階部分へと続くであろう扉が風に揺られ、キィ……。キィ……。っと恐怖感を増長させる音を奏でていた。





「素敵な御屋敷ですねぇ……」



「よし、先ずは受け取った見取り図を確認しよう。カエデ、光を点けて」



 背負っていた装備一式を痛んだ木の床へと下ろし、背嚢の中から一枚の紙を取り出すと。


 煌びやかに藍色の瞳を輝かせ、うっとりとした表情で周囲を見回している彼女へと懇願した。



「了解しました」


「皆、集まってくれ。俺達は今此処、玄関口の部屋に居る」



 一枚の紙を皆で取り囲み、現在箇所である場所を指で差す。



「この屋敷の作りはこうだ。玄関から真っ直ぐ向かった先にある大きな扉は中庭へと続いている。そして、左右の扉は屋敷の廊下に出る」



 見取り図上に指を置き、ゆっくりと扉の先へなぞりつつ話す。



「右の扉から出た場合。暫く進むと左へ九十度曲がって続き、奥に進むと更に九十度曲がる。つまり、中庭を囲む形でぐるっと一周する造りなんだ」



 屋敷の廊下部分をなぞり終え、現在位置に到着。



「見て分かる通り。正面玄関の上に渡り廊下が設置されていて、二階の廊下へと続く左右の扉が繋がっている。二階に関しては一階と同じ作りだから特筆すべき事は無いかな。此処迄何か質問はある??」



 端的に説明を終え、地図から顔を上げて皆の表情を確認する。



「特にはありません。しかし、効率よく屋敷内を調査する為。班を二つに分けるべきかと」



 ふむ、それは悪くないね。


 カエデの案に乗ろうかな。



「はい!! はいはい!!」


「何??」



 器用に左の前足をピンっと伸ばす狼さんに顔を向けた。



「分けるのは反対ですっ!! 皆で一緒に行動する方が良いと思います!!」


「その根拠は??」



 カエデさん。


 せめてもう少し優しい瞳を向けてあげてやって下さい。これ以上彼女を怯えさせないで??



「怖くないからですっ!!」


「却下します。班分けはこうです」


「えぇ!? 無視っ!?」



 垂れていた耳をピンっと立てて抗議の声を上げるが、カエデが無表情で隊を二つに分け始めた。



「レイド、アオイ、私が一階の調査。マイ、ユウ、ルー、リューヴの四名が二階の調査です。何か異論はありますか??」



 きっと今直ぐにでも扉の向こうに行きたいのでしょう。


 荷物を置いてから悪戯に足を動かしていますものね……。



「あるわ!!!!」



 ユウの背中からマイの声が響く。



「何ですか?? マイ」


「も、もう屋敷に入ったんだし。別に隈なく調べなくても良くね??」


「レイドの今回の任務は屋敷内の見取り図を完成させる事。並びに損傷箇所の調査です。まだ我々は入り口に足を踏み入れただけですので、任務は達成されていませんよ。それと……」



「何よ!!」


「あ――。鬱陶しい!!!! 背中で蠢くな!!」



 ユウが背中に向かって腕を伸ばすが。



「ふんっ!!」



 恐ろしい力に掴まれない様、器用に動いて躱す。



「この屋敷の所有権はレイドの所属する部隊の物ではありません。人様の家を悪戯に傷付ける訳にはいきませんので、マイとルーは早く人の姿に戻って下さい」



 御二人の爪は鋭くて硬いですからねぇ。



「え――……。どうしても人の姿にならなきゃ駄目ぇ??」


「御免な?? 誰かが再び訪れた時、廊下や部屋が狼の毛と爪の跡だらけだと俺が怒られちゃうんだ」



 シュンっと項垂れている狼の頭を撫でつつ話す。



「ん――……。分かったぁ」



 いい子ですね。



「おら、お前さんもさっさと人の姿に戻れ」


「ちぃっ。仕方があるまい……。とうっ!!!!」



 狼さんとユウの背中から一際強い光が放たれ、カエデさんの指示通りに人の姿へと変身したのですが……。



「……。なぁ」


「ん――??」


「あたしの服に入ったまま歩くつもりか??」



 こんもりと盛り上がった自分の背中へと問う。



「そうよ!! すっげぇ良い匂いするし、これなら何処へでも向かって行ける!! さぁ……。進めぇ!! 我が分身よ!! 恐れる事は何もぬわぁい!!」


「邪魔だって……。言ってんだろうがぁぁああ!!!!」



 マイの腕を剛力で掴んで無理矢理体ごと引っこ抜き、ぽいっと乱雑に放り捨てるが。



「ヤダっ!! 暗いのは嫌ぁぁああ!!」


「だぁぁああ!! 止めろ!! 服が伸びるだろう!!!!」



 飛び立った雛鳥は直ぐに親鳥の懐……。では無く、背中へと舞い戻って来てしまった。


 あの雛鳥の世話は骨が折れそうですねぇ。



「では、皆さん。屋敷の調査を終えましたのなら此処で再び集合しましょう」



 絡みつく朱の髪の女性を懸命に押し退けるユウへそう話し、玄関から向かって右の扉へ。スタスタと素早い足取りで向かって行ってしまった。



「ささ、レイド様っ。参りましょっ」


「あ、あぁ。うん……。ユウ、リューヴ。二人の面倒を頼むな」



 面倒役の二人へと言葉を放ち、アオイに腕を引かれながら調査へと向かった。



「リュ、リューが先頭ねっ」

「断る。貴様が前を行け」


「こ、このっ。脇腹に顔を突っ込むなぁ!!」

「い、良いじゃん!! 偶にはぁ!!」



 やれ誰が先頭だ、やれお前が先に行け。


 あの様子を見る限り、俺達の方が先に調査を終えそうだな……。頼むから屋敷を破壊しないでくれよ??


 一抹の不安処か、多大なる不安を玄関口に残し一階部分の廊下へと躍り出た。



















 ◇









 割れたガラスの隙間から吹き込む強風がボロボロに、ズタズタに擦り切れた今はもう何の価値も無いカーテンを揺らし。


 今にもぶっ壊れそうな音を立てて窓枠が耳障りな音を立てて振動。


 その音に煽られたのか、それともこの暗闇が影響したのか。私の心臓は生まれて此の方体感した事が無いくらいに喧しく雄叫びをあげていた。



 心臓の音が五月蠅すぎて鼓膜がドクドクドクドク響いちゃっているもん。



 一歩踏み出せばキシっと床が心配になる音を奏で、二歩進めばガタンッ!! っと何処からともなく鳴り響く音が私の心を発狂寸前にまで追い込んでしまった。




 やっべぇだろ、この雰囲気……。


 世界最強の龍を慄かせるとは、上等じゃないか。



 天上からは闇がじぃぃっと此方の様子を窺い、あの中からこの世の理から外れた者が襲い掛かって来そうだ。


 魔物、化け物、強者、巨大な生物等々。


 物理攻撃が通用する奴等なら喜んで張り倒してやる。しかし!! しかし、だよ……??



 物理が通用しない者に対して、我々は有効な手段を持ち合わせていないのよ。


 倒しようにも倒せない。逃げようにも体に纏わり付いて逃げ出せない……。


 会敵したら必敗が確定している相手にどう立ち向かえと!? 退治方法を知っている人が居れば是非とも御教授願いたいものさ。




「なぁ……」


「何……」


「いい加減離れね??」


「い、嫌よ!! ぜぇぇったい私はあんたの腕から離れないからね!!」



 ユウの逞しい腕をきゅぅっと掴んで話してやる。



 こ、これを離してしまったら私はきっと一陣の風を纏って何処かへと逃げ帰ってしまうだろう。


 逃げ場なんか何処にも無いんだけどねっ!!!!



「あのなぁ。あたしも怖いのを我慢して歩いているんだぞ??」


「う、うん。知ってる」


「だったら!! さり気なくあたしを最前線に送ろうとするな!!」



 漆黒の闇が包む廊下の先へ。この素晴らしい体を放り投げる為に右腕をブンっ!! と強く振るが。


 それ以上の力でしがみついてやった。


 し、仕方がないじゃん!! 私も怖いんだもん!!



「ほ、ほら。リュー、最初の部屋見付けたよ??」


「その様だな」



 あっちもあっちでくっついちゃってるし。


 別に良いでしょ?? 今日くらいはっ。



 二階の廊下を進んでいると痛んで、経年劣化して、指先一つでも触れたら崩れてしまいそうな扉を発見してしまった。



「開けるぞ?? 良いな??」



 リューヴが此方に最終確認を促し、私達は無言で一つコクンっと頷くと。



「…………」



 彼女が割れ易い陶器に触れるみたいにそっと優しく取っ手に触れ、扉を部屋の方へと押し込んだ。





「――――。普通の、部屋だな」



 人一人が十分快適に過ごせる空間にはたっぷりの埃が詰まった空気が沈殿していたが、扉を開け風を迎い入れると思わず咽返ってしまう酷い空気が漂った。



 若干のカビの臭いが漂う部屋……。


 不安感を増長させる暗さと臭いだが、リューヴが言った通り普遍的な部屋の造りね。



 大量の埃が積もった箪笥、四肢を大胆に広げて眠れる広さのベッドに化粧台。


 そのどれもが痛んで今は使用出来ないが、人が生活し易い様に考えて作ったのだろうさ。



「よ、汚れているけど。変わった所は無いよね??」



 リューヴの背にピタっとくっつくルーが話す。



「そうだな。よし、次の部屋に行こう」



 一通り調べ終え、リューヴを先頭に廊下を進み次なる扉を開けるが。現れたのはまたもや普遍的な部屋の作り。


 痛みと臭いは気にはなるけども、特筆すべき異変は見当たらないわね。


 願わくば、この調子が続きますように……。




「ここも一緒かぁ――。なぁんだ、ちょっと拍子抜けしちゃうよね――」


「主が見せてくれた見取り図では同じ部屋が続く作りであったからな」



 私はその見取り図を見ていないから良く分からんが、この調子なら問題無い……、か??



 二つ目の部屋から退出し、次なる扉を開けるもこれまた同じ部屋。


 おっかなびっくり続けていた調査だが、慣れて来るとてぇした事ないわね。


 慣れとは恐ろしいものよ。



「ユウ!! 次、左に曲がるわよ!!」



 三つ目の部屋を調べ終え、左へ曲がる角が見えてきた。



「わ――ってるよ。――――。ん?? 何、この扉」



 曲がり角の手前。


 私と同じ位の肩幅の扉にユウが手を掛けた。



「見取り図では小さな空間が描かれていたぞ」


「そうだっけ?? どれ、調べようか……」



 ユウが何の警戒心を抱かずに扉を開いた刹那。





 な、な、何か黒くて細い物体が此方に向かって飛び出て来た!!!!



「ぎにゃぁぁぁぁああああああ!!!!」


「いっっっってぇぇええええええ!!!!」



 な、何!? 何よ!!


 何が飛び出て来たの!?



 確認云々の前にユウの体にしがみ付き、恐怖心を誤魔化す為に彼女の肩口を思いっきり食んでやった!!!!



「――――。安心しろ、マイ。草臥れ果てた箒だ」


「ふぇ??」



 ほ、箒??



 リューヴの声を受け、ぎゅぅっと閉じていた瞳を開くとそこには確かに役目を終えた箒が廊下に倒れていた。



「ふぉ、ふぉうきか――。ふぁ――んだっ」


「いつまで噛んでるんだ!! 大馬鹿野郎!!!!」


「あぶちっ!!!!」



 脳天に突き刺さった痛みで思わず噛み心地の良いお肉から口を離してしまった。



「いってぇなぁ……。うっわ、血が出てんじゃん」


「そ、そうなんだ。ほら、次。いこ??」



 再びユウの背中にへばり付き、私のお腹ちゃんで柔らかい彼女のお尻らしき付近をグイグイと押しつつ話す。



「マイちゃん急に大声出すの止めよ??」


「うっせぇ!! 怖いものは怖いんだよ!!」


「その大声を聞くとこっちまで怖くなっちゃうんだって……」



 そんな事を言われても知らん!! これが大声を出さずにいられるかっての!!



 左へ九十度曲がり終えると、早速次なるビックリ箱が現れやがった。



 ちきしょう……。これが後何回続くのよ……。



「いいか?? 開けるぞ??」


「「……」」



 ユウの言葉を受け、私とルーがコクコクと頷くと彼女が扉を優しく奥に押し込んだ。









「ひゅ、ひゅ、ひゅぉぉぉぉ…………」



 な、何ぃ。この部屋ぁ……。


 普通のお部屋が荒んだ私の心を迎えてくれるかと思いきや、四名の女性を迎えてくれたのは……。



 人体を模した大量の木偶でくであった。



 一体の大きさは成人女性程度。


 こんなおんぼろ屋敷に一体だけ無造作に置かれていたら、それはそれで恐ろしいのだが。この部屋に置かれている木偶は少なく見繕って数十体以上だ。


 痛んだ床の部屋に山積みに置かれ、無表情な顔でじぃっと私達を窺っている。それはまるで、表情豊かな私達を恨んでいる様にも見えてしまった。



「な、何でこんな大量の木偶が置いてあるのよ……」


「分からん。当たり前だが、木製だな」



 リューヴが木偶の一体の腕を無造作に掴んで立たせる。


 良く触れるわね、あんた。



「リュ、リュー。触ったら呪われるよ??」



 そう、それ!!


 呪物ってのは人が触り易い位置に置いてあるのが定説なのよ。



「そんな訳あるか。ふむ……。床に立たせて、徒手格闘の訓練に使えるかもな」



 関節部分はしっかりした造りだし。キチンと立たせれば木偶の役目を果たせるとは思うけども。私はぜってぇ触らん!!!!



 この部屋の調査を終え、次なる部屋を開けるも現れたのはまたしても木偶。そして、次も木偶……。



 え?? 何、この屋敷。


 木偶の職人でも住んでいたのかしら??




「おら、次曲がったら最後だから頑張れよ」


「ぅ、ぅん。ふぁんばるね??」



 ユウの背中に顔を密着させ、体の奥から湧き起こる恐怖心を彼女の体内へと注入。


 抱き心地の良い腰に手を回して、半ば引きずられる形で新たなる角を曲がったのだった。




最後まで御覧頂き誠に有難う御座いました。


深夜に投稿しようかと考え、編集作業を終えた所で力尽きてしまいこの時間帯の投稿になってしまいました。


それで皆様、午後からも頑張りましょうね!!

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