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第九十話 滾る雌共 無力な雄達 その二

お疲れ様です。


週末の深夜に慎ましく投稿を添えさせて頂きます。


それでは御覧下さい。




 私の腹は大変ご満悦である。


 素晴らしき夕食を平らげ、親友の腹でうたた寝した後にあの胡麻団子を食したのだ。これで満足しない方が……。



「――っ」



 っと、えへへ。


 浴場から届く湿気の含んだ温かい空気が私のお腹ちゃんをまた起こしてしまった様だ。


 キュルリンと、可愛い声を放ってしまった我が相棒の腹を可愛く撫で。



『コイツ……。本気まじかよ』 と。



 軽蔑にも受け取れる親友の冷たい視線を受けつつ。我が身を拘束する服を颯爽と脱ぎ捨て、疲れを洗い落としてくれる素晴らしき浴場へと足を踏み入れた。



「おぉ――!! 広いねぇ!!」



 人の姿に変わったルーが、厳しい躾を施す親元から離れた子供の様に燥ぎつつ浴室を見渡す。


 それもその筈、ここのお風呂は兎に角肌に嬉しい温かさと効用を与えて来るのだ。


 お惚け狼が燥ぐのも無理はなかろうて。



 前回同様。


 石造りの四角い風呂からは湿気をふんだんに含んだ蒸気が放たれ、私の手を取ってさぁ早く入りなさいと催促する。


 その手に促されるまま飛び込んでも良いが、ここは一応ユウの家なのだ。


 風呂の作法を怠るのはいけない。


 先ずはちょっとだけ汚れが目立つ桶でお湯を掬って、ちゃちゃっと体を洗いましょうかね。



「あんまりはしゃぐと転ぶわよ」



 プリンプリンの尻と胸を揺らす彼女へと、世界で一番優しいこの私が直々に注意を施してやるのだが。


 案の定。



「へ――き、へ――き。キャッ!!」



 言わんこっちゃない。


 派手に尻もちを付き、もぎたてホヤホヤの白桃の曲線を描くケツを痛そうに撫でていた。



「いった――い!! もう!! 滑る所は狼の姿じゃないとやだ!!」



「駄目ですわよ?? 湯が毛まみれになってしまいますから」



 くっそ。蜘蛛の分際でぇ……。


 生意気な事を言う割には、良い体つきをしていやがる。


 女性特有の程よい丸みを帯びた体の線。


 そしてユウに次ぐ高さを誇る双丘……。



 きしょい蜘蛛なのに何で人の姿になるとそれ相応の武器を持ってんだよ。


 不公平にも程があるだろう。



「余り見ないでくれます?? 貴女の視線がこの美しい体を穢してしまいますのでぇ」



 おえっ!! きしょわぁぁああ!!


 だ、誰がてめぇの体なんか見るかってんだ!! 自惚れにも程があんだろうが。



 きっもい蜘蛛から視線を外し、乱雑に桶を手に取り頭の天辺からぶっかけてやった。



「はっは――!! やっぱり実家の風呂は良いねぇ!!」


「ユウ、そこに居ては入れぬ」


「ちょっと退いて下さい」



「はいはい……。辛辣です事……」



 おいおいおいおい。


 こちとら、裸一貫且無装備だってのに。何であんたは前人未到の秘境の奥地に封印されし宝剣を装備しているんだい??


 しかも、二刀流……。


 剥き身の刀に触れたら危ないと言われる様に、剥き出しのアレに触れたらきっと心がズバッ!! と真っ二つに切り裂かれ。一生立ち直れない程の絶望感を与えられ、廃人となってしまうだろうさ。



 服、そして下着という名の拘束具が備わっている時は触れるけども。


 絶賛大解放中のアレを真正面に捉え、鷲掴みにする勇気は無い。それが例え親友であり、宝剣の持ち主であるユウの頼みがあってもだ。



 ってか、仕舞おう??


 此処に居る女性陣の正気度を狂わすおつもり??



「うっわっ。ユウちゃんまた大きくなった??」



 あろうことか私よりも先に、湯に浸かっているルーが辟易した顔で伝家の宝剣を見つめながら話す。



「うわって何だよ。大きさは……。まぁ、うん。ちょっと?? くらい大きくなったかな??」



「「「…………」」」



 成長してしまった。


 その言葉を受けた一堂が一連の動きをピタッ!! と止め。ユウの宝剣に注目してしまう。



「ユウ、それはこの世界に存在しちゃいけない物なの。分かる??」

「レイド様にそのような物をお見せする訳にはいきませんわね」

「ん――。大きすぎるのもアレだよねぇ……」

「鍛錬や、戦いに支障をきたす。私なら引っ込めるよう工夫をするぞ」

「いっその事取っちゃいましょう」



 蜘蛛は当然無視するとして、皆が私と同じ気持ちを抱いてくれて何よりよ。



「えぇい!! 喧しい!! これがあたしなの!!」



 適当に湯を掬って乱雑に浴び、言葉の嵐から逃げるように湯船へと飛び込んでしまった。



「ちょ、ユウちゃん!! わぷっ!!」



 聳え立つ山々をも辟易させる巨岩が波を発生させ、その余波が山の麓で生活していた野生の狼へと襲い掛かった。



「もう……。大人しく入ってよ――」


「はは!! 悪い悪い!!」



 馬鹿げた乳のデカさには目を瞑るとして。


 この愉快、爽快、快活な性格がユウの良い所よねぇ。


 こっちの大陸に襲来して初めて出来た同性の友人。性格も私とバッチシ合うし、一生大切にしてやろうじゃあないかね。



「はぁんっ。此方側は少し熱いですわねっ」



 アイツは私の友人でもねぇし、火傷しても一切関知せん。


 大火傷でもしてその白い皮膚を焼け爛れさせ、赤く染めちまえ。




 大雑把に湯を浴びた親友とは違い、しっかり体の汚れを落としてから湯へとお邪魔し。


 超絶大胆に足をグンッ!! と伸ばして生まれたままの姿で湯を享受した。



「はぁ……。滲みるわねぇ」



 こうして目を瞑っていると……。


 湯が肌の隙間を縫って体の疲弊箇所に染み渡るのを確認出来てしまいそうだ。



 私はこの隊を纏める地位にあるのでね。知らぬ内に疲れているのでしょう。



 ヤレヤレ、全く……。


 偉くなるのも楽じゃないわ。



「マイちゃん、おばあちゃんみたいだよ??」


「馬鹿ねぇ。風呂はこうやって自分に肯定しながら入るのが通なのよ」


「そうなの??」


「戯言を信じないように……」



 ちっ。


 鬱陶しい蜘蛛めがっ。私達の会話に入って来るなっつ――の。



「おぉ!! アオイちゃんの肌艶々!!」


「常日頃から磨きをかけておりますので……」



 腕に魅惑の湯を垂らし、一丁前にまぁまぁな肌理の細かい染み渡せていた。


 なぁにが磨きをかけているだよ。てめぇの肌なんか誰が見る……。



 あ、いや。一匹いるわね。蜘蛛の肌を見つめて鼻の舌を伸ばしている野郎が。


 あのボケナスにはやっぱり誰かが躾なきゃいけないと思うのよ、ウン。


 私が率先して皆が嫌がる役割を担っているってのにちっとも賢くならないのよねぇ、あの駄犬は



 今日なんかほら。


 私の至高の谷間を覗いてハァハァと発情期真っ盛りの雄犬みたいに涎垂らしていたし。


 いつか私以外の女性へと襲い掛かるやも知れぬからね。飼い主の務めを果たさなければならないのですよっと。




「いやぁ。実家の風呂はやっぱ落ち着くよなぁ」


「むふふ……。そうだよねぇ……」



 ルーが何かを企て、ユウの背後に迫る。


 よしなさい、お惚け狼よ。


 それは覚悟無き者が触ってはいけない物よ??



「とうっ!!」


「お、おい!!」



 ルーが背後からユウの胸を鷲掴みにする。



「おぉおぉ!! 手に収まらない!!」


「ちょ!! アハハ!! くすぐったいって!!」


「ふんっ!! ふんっ!! ふんっ!!」



 ルーの手の中から零れ、溢れ出たお肉が上下左右に乱舞する。



 おやおや、お嬢さん。お前さんの胸は一体何で出来ているのだい??



 女性の胸ってあんなに弾む物なの??


 自分の胸元にチラっと視線を移すが……。




『え、へへっ。あ、あっしはアノ御方と違って慎ましく生きるんでさぁ』




 胸元に居るのは彼女の様な大富豪ではなく、せせこましく痩せ細った盗人であった。


 やい盗人。


 あそこに浮いている大富豪から少しばかり盗んで来い。



『えぇ!? そ、それは無理な注文でさぁ』



 でしょうね。


 期待していないわよ――っと。



 まぁ――……。うちの母さんは下の上程度の大きさだし。私はそれを大胆に受け継いで産まれちゃったのだから致し方ないとは思う。


 しかし。


 姉さんはどういう訳がまぁまぁな大きさなのよねぇ――。父方の血筋なのかしら。


 数年に一度、各地で得た土産話を引っ提げて。


 たまぁにふらっと帰って来る。


 瘋癲ふうてんの馬鹿さ加減はあの超熱釣り大好きの父親譲りって訳さ。



 姉は自分の興味のある事に対しては超絶真面目、私は食以外に対してはお座なり。


 一つの事に対して真摯に取り組む姿勢は瓜二つ。しかし、顔は似ていないと思う。



 今は何処で探検を続けているのやら。


 元気にしてっかなぁ――……。


 数年前の姉の姿を頭の中で思い描き、懐かしんでいると。





「はぁ……。はぁ……。んっ……」



 湯の熱さか、宝剣をこねくり回されたのが影響したのか知らんが。


 ユウの表情がどこか恍惚に染まっているように映って見えてしまう。


 湯あたりしたのか??



「ねぇぇ、ユウちゃん。なぁ――んか体がフワフワしない??」



 ルーの瞳も微睡むようにトロンと垂れ、頬が朱に染まっている。



「ルーもですか?? 実は私も先程から……。女の部分が疼いていますの……」



 こいつはどうでもいいや。


 箪笥の角に頭でも打ってくたばりやがれっ。



「気をしっかり持て。私は大丈夫だぞ」



 異常を感じている三名に対し、リューヴは平気を装っているが……。


 傍から見ればそれは強がりよね。


 込み上げて来る何かを誤魔化す様に内股擦り合わせてるし。



「ル、ルー。頼む……。離してくれ。何かが炸裂しそうなんだっ」


「えへへ……。だ――めっ」



 おかしいわね。


 いつもなら冗談っぽい行動なのだが。今は妙に艶っぽいというか……。淫靡に映ると言いますか。


 彼女達に現れ始めたちょいと湿っぽい変化が。甘い吐息とそして湯を媒介にして私の体にも伝わってしまった。



「ふぅっ……。ふぅっ……」



 体の奥が……。熱い……。


 何よ、これ。


 湯あたりとも違う、寝過ぎてぼうっと体内に篭る熱とも違う。


 心の奥が何かを求める為にぐぁっと!! 熱を帯びてしまった感じだ。



「リュ、リューヴ。体大丈夫??」



 この中で一番真面っぽい彼女に話し掛けるが。



「……。熱い」



 残念無念。


 どうやら強面狼にも症状がクッキリと浮かんでしまった。


 ハっ、ハっ、ハっ、と。


 長距離を走り終えた狼の呼吸みたいに小さく細かい熱の籠った呼吸を続け、しっとりと艶を帯びた灰色の髪が彼女の異常事態を更に淫靡に装飾してしまっていた。




「なぁにぃ?? これ??」


「分からぬ。何かを求めるように……。体が疼く」


「あ……はぁ。今、レイド様を見たら……。恐らく飛び掛かってしまうでしょう」



 蜘蛛は、己が体をひしと抱き締め。形容し難い気分を誤魔化している。



 そうか、天才的頭脳を持つ名探偵である私は理解してしまった。


 これは……。私の女の部分が異性を求めているんだ。



 しかし、何故私達全員がこの異常事態に苛まれているのだろうか??



「ねぇ。私達全員が異常を感じているのよね??」



 誰とも無しに話す。



「そう……。みたいだな」


 ユウが息も絶え絶えに話した。


「うぅ――。気持ちが溢れて来そう……」


「あぁ。レイド様……」


「主……。くっ……」



 湯に浸かる五名が等しく感じているこの異常事態。


 あぁ、くそう!! 理由が分からん!! 分からんが故にもどかしい!!



 込み上げて来る熱を紛らわせる為には何かを……、食べるべき??


 食べ、る。


 私達が求めているのは、上質な肉か?? 



 ちょいと傷が目立つ腕、逞しくなりつつある膂力。女が男に求める物を全て満たしてくれるアイツの体……。



 つまり、これは。


 私達は雄を求めているんだ……。


 子を成して後世へと己の半身を残す為に体が自然と熱を帯びてしまったのだ。



 私達六名がたった一人の雄を求めて滾っている。


 つまり、これから起こる事は容易く想像出来るわね……。そう!! 女の戦いだ!!



 こりゃ、いかん。


 ア、アイツを守りに行かないと……。



 周囲で咲き乱れる淫靡な花共に気付かれぬ様、さり気なく湯から出ようと腰を上げたのだが。



 私は気が付いてしまった。


 既に、この場から立ち去ってしまった一名の事を。



「ちょっと。カエデはどこに行ったのよ??」



 浴室を見渡すが藍色の存在は確認出来なかった。



「さっきまで体洗ってたよ??」



「でも今はいない。そして、私達は全員異常を感じている……」


「「「……っ」」」



 私が言葉を放つと全員が視線を合わせた。


 恐らく、私と同じ考えに至ったのだろう。



 カエデの奴め。


 虫も殺さない大人しそうな顔して、行動が大胆過ぎるだろうが!!!!



「カエデ!! 抜け駆けはさせませんわよ!!」


「主の危機だ!!」


「ちょっと!! リュー邪魔!!」


「待ってろよ!! レイド!! あたしが行くからな!!」



 湯から上がると我先に脱衣所へと向かって行く。



 し、しまった!! 大いに出遅れた!!


 いやいや!! 違うから!!


 私がアイツを守ってやらないと……。


 そう、理性がほんの僅かでも残っている内に……。



 浴場の扉の前でぎゅうぎゅう詰めになっている柔肉の列の最後方。


 灰色の長髪の下に存在するしっとり艶々の桃を蹴飛ばして脱衣所へと突入。


 濡れた髪のままで颯爽と着替えを済ませ、抜け駆けを果たした横着な海竜の下へ。獰猛な肉食獣も可愛い叫び声を上げて思わず道を安易に譲ってしまう面持ちを浮かべながら駆けて行った。





最後まで御覧頂き有難う御座います。


それでは、素敵な日曜日をお過ごし下さい。

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