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第八十八話 開催!! 肉の祭典!! その一

お疲れ様です。


本日の投稿になります。


それでは御覧下さい。




 鳥達の爽やかな歌声が空から降り注ぎ鼓膜を微かに震わせ、そっと風が吹くと緑の香りが体の中に染み渡る。


 良く晴れ渡った空に相応しい好環境に体も喜んでいるのか。首を傾げたくなる量の荷物を背負った状態でも進行速度は落ちる事は無く、若干心配になる程に順調そのものであった。



 もう間も無く到着するミノタウロスの里。



 約四か月ぶりの帰郷に思う事があるのか、将又過ごし慣れた環境下に身を置いて居る所為か。



「ふふんっ。ふ――んっ」



 左隣で俺の数倍の荷物を運搬する深緑の髪の彼女は今朝からずっと機嫌が良いのです。


 勿論、普段の移動中も快活な笑みを……。




『おらぁ!! ユウ!! もう少しゆっくり歩けや!! 昼寝出来ねぇだろう!!』


『うるせぇ!! だったらてめぇも歩け!!』



 おっと。


 これは間違った記憶ですね。



『へへ、あたしは疲れてないなよ?? もっと重たい荷物を運んでも良いくらいさっ』



 そうそう、これこれ。


 太った雀との死闘では無く、ニッ!! っと快活な笑みを浮かべて誰よりも多くの荷物を運んでくれるのです。


 頼みもしないのに率先して損な役割を担う。


 辛いのなら文句の一つや二つ吐き捨てても良いのに口に出さない。


 優しい性格のユウに何度も救われているのは事実だ。



「ねぇ――、マイちゃん。偶には自分で荷物運んだら??」



 人の姿となって己の荷物を背負うルーが分隊の先頭を歩くウマ子の背に乗り、朝寝に興じる愚か者へと提案するが。



「は?? 何で??」



 休日の午後の居間で寛ぐ父親の姿勢を保持したままで彼女の問いに、問いで返した。



「だって皆荷物背負って移動しているんだよ??」


「はっ。私の荷物は部下である野郎と、この逞しい足を持つ馬が運んでくれているから心配無用さっ!!」



 小さな御手手でウマ子の胴体をペチペチと叩く。


 申し訳無い。いつから俺はお前さんの部下になったんだい??



「駄目なんだよ?? 人に迷惑を掛けるのは」


「喧しい!! 私は、私のヤリたいようにやるのよ!!」


「ルー、アイツの性格は知っているだろ?? それに荷物も、体も小さいんだし。大目に見てやれって」



 朗らかな性格に加え、陽気組の纏め役を進んで買うその姿。


 可能であるのならばボーさん達に見せてあげたいよ。御二人の娘さんは本当に良く出来た人であると。



「ねぇ、ユウ。荷物の部分は肯定出来るけども。体の部分はちょいと引っ掛かる言い方よね??」


「はぁ??」



 何を言っているんだ??


 そんな感じでちょいと眉を顰め、馬の背で胡坐をかく太った雀に話す。



「ほら、小さいって」


「小さいじゃん。背も、足も、腕も、頭脳も。そして、む……」


「はい!! そこまで!!!!」



 ウマ子の背をブッ叩き、ビシっとユウに向けて指を差す。



「マイ、ウマ子が驚くから急に叩くのは止めて」



 手綱を引いて歩き続けるカエデが苦言を呈し、強面のお兄さんもひゅっと息を飲んでしまう怖い顔で話した。



「それ以上言ったら、あんたの呪物に穴が開くわよ??」



 準備運動なのか。


 あ――んと大きな御口を開け、勢い良く口を閉じてカチッ!! っと恐ろしい音を奏でてしまった。



「お――お――。デカイ口叩きやがって。やれるものならやって御覧?? サボリ常習犯のぐぅたら娘ちゃん??」


「こ、このぉ……。破廉恥で我儘に育ってしまった西瓜娘がぁぁああ!!」



 はぁ――……。


 ユウ自身の性格は満点なんですけども、アイツが絡むとろくな事にならないよね……。


 ユウのアレを噛み砕こうと彼女の周りを旋回し続け、隙を窺う雀。


 対し。



「ビビってないでさっさと掛かって来いよ」



 どんと腰を据えて迎撃態勢を整えるユウ。


 まぁ、正確に言えばユウではなくて。彼女の胸元に聳える山なんですけどね。




「くっ!! バインバイン動いて。す、隙が見当たらねぇ!! だが!! 私は負けん!!」


「口だけは達者ですなぁ――??」


「ち、ちぃ!! 伸るか反るか!! 突貫してやらぁ!!」



 はい、行ってらっしゃい。帰還不能な魔境へ……。


 深紅の筋が上空から一気呵成に雷撃を放とうと愚策な特攻を開始したが。



『弱者め』


「うぉっ!?」



 彼女の装甲を貫く事は叶わず、勇ましい突貫は容易く跳ね返され。



「ちょっと五月蠅いからそこで静かにしてろ」


「い、イヤァァァァアアアア!!!!」



 空中で静止した体をユウが掴み、何の遠慮も無しに底なしの柔肉の谷間へと捻じ込んでしまった。



「た、助けて!! 私が悪かったからぁ!!」



 ユウが歩く度に徐々に沈んで行く体。


 それはまるで己の愚行を悔い改めさせる様にも見えてしまう。



「ユウ、里まで後どの程度だ??」



 大馬鹿野郎の声を無視して最後方を歩くリューヴが彼女に問う。



「十分位かな」


「あっぷ!! はっぷぅ!! し、沈んじゃう!! ヤダ!! 誰か!! 誰かぁぁああ!!」



「そうか、了承した」



「え、えっと。ユウ??」


「ん――?? どした」



 恐ろしい胸を揺らしつつ、素敵な笑みを浮かべて此方に顔を向けてくれる。



「そいつ、解放してあげたら?? もう直ぐ到着するんだし……」



 女性のそれを直視してはいけませんので、敢えて視線を外して言ってやった。



「レイドは甘いって。こいつは何度も叩きのめされなければ理解出来ない空っぽの頭なんだから。身を以て教えていけないといけなんだ」


「だ、誰が空っぽだぁ!! あんたこそ胸に栄養取られて頭スッカスカなんじゃないの!!」



 あ、お疲れ様でした……。



 頭だけ覗かせているお馬鹿さんに最後の機会を与えてあげたのに……。それを理解しないで暴言を吐くとは。


 正に愚の骨頂ですね。



「うっせ。おら、そこで失神してろ」


「ひ、ひぃ!! や、やめ……」



 ユウが太った雀の頭をツンっと押し込むと、久しぶりの静寂が森の中に訪れた。



 ふぅ、今日もいい天気だ。


 ほら、耳を澄ませば小鳥達が楽しそうに歌う声が聞こえ。目を閉じれば緑の香りが心と体を包んでくれる。


 素敵な環境じゃあないか。



「ン゛――!!!! ン゛ム――!!!!」


「動くと余計苦しむぞ――」



 只、上下左右に激しく乱舞する山は余分ですけども……。



 この環境下に似合った慎ましい日常会話を続け、快適な歩行を続けていると見覚えのある道へと躍り出る。



 そして、あの見上げんばかりの巨大な丸太の壁を両の目が捉えた。



 今現在は開かれている堅牢な門の前には二人の守衛が立ち、険しい瞳を浮かべ哨戒任務に就いており。森の茂みの中から俺達が出現すると刹那に武器を構えようとするが……。




「んよぉ!! 只今――!!!!」



 ミノタウロスの族長の娘、ユウが軽快に手を上げると警戒を解除。


 友に向けるべき優しき瞳に変化して、彼女を迎えた。



「ユ、ユウ様!! お帰りなさいませ!!」


「あはは!! レノア!! 久々だなっ!!」



 何事もなく到着出来て御の字ってところかな。


 どこかにオークが潜んでいるのでは無いかと、一応は警戒を続けて進行していたがその心配は杞憂に終わった。


 まぁ、例えその存在が確認出来たとしても。


 カエデやアオイの索敵能力、それにマイとリューヴ達狼の鼻。


 この二つを掻い潜って奇襲をかけられるのは、俺が知っている限りでは師匠かエルザード、フォレインさん。大魔と呼ばれる者くらいであろう。


 久しぶりの帰郷にユウも、そしてレノアさんも嬉しいそうに笑みを交わしていますね。




「この野郎……。元気にしてたか!?」


「勿論です!! ユウ様も相変わらずお元気そうで……。何よりですね!!」



 深緑の髪の女性と小麦色の髪の女性が放つ輝かしい笑みに灼熱の太陽も思わず顔を背けてしまう。


 それを見ているとこっちまで明るい気持ちになってしま……。



「「ふんっっ!!!!」」



 え、えっ??


 御二人さん、急にどうしたの?? 子供の頭部位の大きさの力瘤を作っちゃって……。



 ユウとレノアさんの腕の筋力が爆ぜると同時、互いの右腕を直角に曲げ。宙で手を組んでしまう。



「へへ?? 準備は良いか??」


「えぇ……。ユウ様のお好きな頃合いでどうぞ……」



「それじゃあ、遠慮なく。すぅぅ――……。ふんがぁっ!!!!」



 生肉が引き千切れる鈍い音が周囲に響くと、ミノタウロス流の挨拶?? が開始されてしまった。



「ぐぬぬ!!」


「ふぅぅんっ!!!!」



 互いの筋肉が目を疑う程に隆起し、激しい肉と肉のぶつかり合いが彼女達の闘志を滾らす。



 す、凄い……。


 こ、これぞ正に筋肉の祭典じゃあないか!!


 力瘤れ!! 汗を飛び散らせ!! 筋肉の、筋肉による、筋肉の為の祭りが今此処にっ!!


 雄であるのならば、この姿を見て滾らないのは有り得ないだろう!?




「ユウぅ!!!! 頑張れ!!」



 真の雄の証明を図ろうとする彼女に対し、熱血を籠めた声援を送る。



「へへ、おうよっ!!」



 すると、俺の声援に応え更に筋肉が膨張。


 彼女が生み出したのは……。


 山だ。


 そう、あれは登る前から登山家の心を容易にへし折る高さを誇る聳え立つ山脈だ。


 雄の魂を持つ者ならば誰もが彼女の山に魅了されてしまうであろう。



 素晴らしい……。何て御立派な山を君は築き上げてしまったのだ!!



 俺もいつか、その高みに昇ってみせるっ!!



「うわぁ……。すんごい筋肉……」



 ルーが驚くのも納得出来る。


 腕にはド太い血管が浮き上がり力の鼓動を脈々とこちらに知らせ。


 互いの魂が衝突し合うと、迸る筋肉から発生した素敵な水滴が腕全体に浮かび上がり。それが彼女達の熱量を受けて蒸発を開始。


 蒸気を纏った筋力同士が拮抗し、細かく揺れ動いていた。



「どうした?? もっと本気で来いよ??」


「ユウ様こそ、全力を出したら如何です??」



 だが、これは彼女達にとっては挨拶程度。


 互いに笑みを浮かべると足を踏ん張り深く腰を落とし、肉の鼓動が大地を細かく振動させ始めた。




「おぉ。ユウも凄いがあの門番もやるな……」



 どうやらリューヴも此方側の様だ。


 雄の証明足る肉の祭典を喜々として見つめているのが良い証拠。



「本気、出していいのか??」

「お好きにどうぞ……」



 まだ余裕があるユウに対し、レノアさんの額には大粒の汗が浮かんでいた。



 そ、そろそろ決着か!?



「おらぁぁああっ!!」



 一際力を入れると、レノアの右腕が徐々に傾いて行く。



「まだまだぁぁっ!!!!」



 渾身の力を込め、ユウの猛攻に歯を食いしばって耐える。


 レノアさんが必死に耐える様を見ていると、自然と此方の魂も呼応し体の奥からじわぁっと熱波生じてしまう。



 ふ、二人は間違いなく雄だ。


 勝敗?? そんなものは関係無い。本物の雄は、人の魂を燃えさせる何かを持っている。


 それを今、二人は証明しているのだ!!




「呆れた力ですわねぇ」



 アオイが呆れた顔で肉の祭りを傍観し。


 海竜さんは彼女達の熱量に当てられたのか。



「私もあれくらいなら出来る」



 ふんすっ!! っと。一つ大きな鼻息を荒げて腕をクルっと可愛く一周させる。



「「いやいや」」



 カエデの無謀なる言葉に一同が突っ込むと、素敵な肉の祭典が終わりを告げてしまった。




「ま、参りました!!」



 熱き魂を籠めた右腕の力をふっと抜き、満面の笑みでユウの手を両手で包む。



「驚いたよ。前より全然強くなっているじゃん」


「鍛錬の賜物です。それより、今日はどうしたんですか??」


「あぁ、レイドの任務でここの近くを通るからついでに父上に挨拶をしておこうかなって」



 ユウがクルっと振り返り、此方を促した。



「レノアさん、お久しぶりですね」


「あぁ、久しぶりだな」



 肩を大きく揺らし荒い呼吸を続け、熱き魂の祭典の余韻である額の汗を拭いつつ此方に笑みを浮かべてくれる。



「元気そうで何よりだ。それと……。後ろの人達は初めてだな」



 俺の背後にいるアオイ達へと興味を含ませた視線を送る。



「紹介します。白い髪の人が蜘蛛族のアオイ、灰色の髪の女性が狼のルーとリューヴ、そしてウマ子の手綱を引いているのが海竜のカエデです」



「宜しくね――!!」



 ルーが軽快に手を振り、それぞれが軽い会釈を放った。



「皆等しく素晴らしい力を備えていますね。ユウ様はこの者達と切磋琢磨を続けていた……。これで強くならない訳が無い、か」


「レイドと旅を続ける内に友人になったんだ。皆、良い奴なんだぞ!?」


「ふふふ、ユウ様の御顔を見れば分かります。良き時間を過ごした御顔には自然と笑みが溢れますからね」



 ユウはいつかこの里を統べる者となるかも知れない。


 見聞を広める為に広大な世界へと飛び出し、短い期間で起きた様々な出会いと経験が彼女を成長させた。


 レノアさんはユウの体の奥から滲み出るそれを掴み取ったのだろう。



 俺達と過ごした時間はユウにとって有意義であった。


 あの時、誘って正解だったな……。そして、良き時間と仰って頂き誠に有難う御座います。


 此れからも慢心する事無く、皆で切磋琢磨を続けさせて頂きますね??




 当たり障りの無い日常会話を続ける二人を温かい瞳で見つめていると、レノアさんがふと何かに気付いた雰囲気へと変わる。



「ユウ様。所で、マイが見当たりませんが」


「――――。あ、そっか。入れっぱなしだったな」



 ユウが胸元に手をにゅっと差し込むと。





「カ、カ、カペペ……」



 魔境の谷に流れる水滴を程よくしっとりと纏い、熟れ過ぎてクッタクタに萎れてしまい。市場で売れ残った赤き林檎が現れた。



「お、おぉ……。これはまた……」


「こっちに来る途中で横着を働いたから罰を与えたんだよ」



 背に生える翼を摘まみ、ぷぅらっぷぅらっと揺らし。



「さ!! 皆!! 父上達に会いに行こう!!」



 白目で細かい痙攣を続けている雀を地面の上へと乱雑に放り捨て、彼女の生まれ故郷へと堂々たる歩みで進んで行ってしまった。



「ボー様達は御屋敷で休まれて居ます」


「了解。レイド――、行こうか」


「お、おぉ……。了解……」



 レノアさんに軽くお辞儀をして門を通過するものの……。



「ファ、ファガギッ……」



 アイツを放って置いてもいいのかな??



「おぉっ!! 広い広い――!!」


「ふむっ。体が大きい分、住まいも比例する様に大きく建造したのですね」



 ま、いっか!!


 直ぐに気が付くでしょう!!


 ユウの後に続いて陽性な感情を籠めて声を放つ仲間達の後を追い。ミノタウロスの里へ二度目の訪問をさせて頂いた。





最後まで御覧頂き有難うございます。


そして、ブックマークをして頂き誠に有難う御座いました!!


これからの執筆活動の嬉しい励みになります!!




さて、まだ先の話なのですが。


彼等はお化け屋敷へ現在向かっていますが……。その屋敷内部でとある事件が起きます。



長らくこの御話しを御覧頂いている方々に少しでも楽しんで頂けたらと考えておりまして。読者様参加型の御話を用意させて頂きます。


詳細はその御話に突入する前話で公表させて頂きますので、今暫くお待ち下さいませ。


それでは、皆様。お休みなさいませ。

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