表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/1235

第二十話 品行方正な作戦名を所望します

お待たせしました!! 本日の投稿です!!


ごゆるりとお楽しみ下さい!!




 安全が確保された訳では無いが、此処に潜む住民の方々の安否の確認を最優先させる為薄暗い地下室を後にし。


 各民家にお邪魔させて頂いた。



 隅から隅まで確認した結果……。七十名の安否を確認出来た。



 二百名の内の七十名。

 彼等はベルトさん同様、異常を察知し。地下室に隠れ息を顰めていたのだ。


 表情には疲弊の色が見られ、体調面について些か不安が残るが……。

 現状把握の為に取り敢えずの安否確認を済まし、街中を駆け回っていた。



 民家に地下室がある理由。

 それは食料を保存する為だとか。

 海から吹き込む塩気を含んだ湿気から少しでも食料を遠ざけたい。理に適った家の構造に頷いてしまった。



 現状把握を滞りなく終え。

 彼等の胃袋を満たすには程遠いが持ち込んだ食料をベルトさんと共に各家庭へと均等に分配し。




 彼を街に残して、マイ達が待つ家へと息を切らしつつ戻った。




「只今!! 食料の配給を終えたよ!!」



 肩を大きく揺らし、額から零れ落ちる汗を拭いつつ話す。



「お疲れ様でした」


「よっ!! お疲れ!!」


 大きな机の前に立つカエデとユウが此方の労を労ってくれるのは大変有難い。


 それに対してコイツと来たら……。



「ごくろ――」



 カリッカリに乾いた米の煎餅を食み、机の上に食べ滓をポロポロと落としながら。

 特に此方の労を労う様子も無く話す。


 此処出て一時間弱走りっぱなしだったのに。

 せめて、一言二言言う事があるでしょう。



「それ。ベルトさんの保存食だろ?? 勝手に食うな」



 他人様の家で堂々と他人様の飯を食うなよ。

 これは一般常識です。



「ふぇつにいいでしょ。味は今一だけど……。食感はパリっとして中々ね」



 はぁ。

 コイツに道理を説いても無駄ですね。

 余計な疲労をこれ以上体に溜め込む訳にはいかん。


 モムモムと咀嚼を続ける馬鹿者を無視し。

 皆が囲む机の輪に加わった。




「えっと、レイドさん。お疲れ様でした」


「有難うございます、ピナさん」



 背の翼が消失し、薄い水色の髪をぴょこんと動かした彼女にそう話す。



 あの後。

 徐々に意識が明瞭になった彼女からその名を伺った。



 背はユウよりも低く、平均的な女性と同程度の身長。

 傍から見れば人間の女性と何ら変わりない極々普通の女性。



 しかし。

 彼女には特別な力が宿っている。


 誰しもが一度は空を飛んでみたいと思った事があるだろう。

 彼女達ハーピーはそれを容易く可能にするのだ。



 ちょっとだけ羨ましい想いが募りますが……。

 空中散歩の依頼はまたの機会で。




 俺が配給を続けて居た間、カエデが作戦を練る為にピナさんから様々な情報を聞き出しているのだが……。




「――――。うん。これなら……」



 どうやら彼女の顔色を見る限り、頭の中では素晴らしい案が浮かんでいる様ですね。


 喜ばしいやら……。

 恐ろしいやら……。



 そりゃそうだ。

 この数で百五十名ものハーピーの相手をしなきゃいけないんだぞ??



 一人頭……。

 三十、か。 彼我兵力差は、三十対一。



 考えるだけで胃が痛い。



「最終確認です。里に存在するハーピーの数は百五十。間違いありませんね??」



 カエデがピナさんに問う。



 お願いします。

 十五と言って……。



「はい。間違いありません」



 はぁ――……。



 人生ってのは思い通りにならないのが面白いって言うけど……。

 思い通りにならないと、全然面白くありませんよ。




「皆さん、お待たせしました。今から作戦の詳細を発表します」


「待ってましたぁ!!」


 マイが夜に似合わない声量を放つ。


「もう少し静かにして下さい。街の皆さんが顔を顰めてしまいます。コホンッ。作戦を発表する前に今回の作戦の勝利条件を説明します」




 宜しくお願いします。

 そんな意味を籠めて皆が小さく頷く。




「作戦の主目的は、人命の救助です。街から攫われた約百三十名の救出と、ハーピー達の解放が勝利条件です」




『ハーピー達の解放』




 それを聞いたピナさんの顔に僅かな光が戻って来た。



 里に居る仲間が訳の分からん結晶体によって操られているのだ。

 そりゃあ嬉しい筈でしょう。



「それだけの大人数の人間をどうやって運ぶのよ」



 腕を組みつつマイが話す。




「彼等は長期間の拘留によって疲弊し、長距離の移動を短時間で滞りなく行うのは難しいかと考えられます。我々は彼等が逃げ遂せるまでの時間を稼ぐ必要があります。そこで……」




 カエデが机の上に広げてある地図を指差す。




「ピナさんから得た情報によると、里には三つの門が備えられています」




 大きな円の上に重ねて描かれた二本の線。


 それが円状に三か所。南、東、西の位置に印してある。

 恐らく、そこが門の位置で円は壁だな。




「里の中央に集められた人間達は明け方になるといずれかの門へと導かれ、人間達は彼等に従ってそこから出て行きます。恐らく、現在も人間達は里の中央で待機しているかと思われます」




「うろ覚えで申し訳ありません……」



「まぁ仕方が無いって!! そうクヨクヨするなよ!!」



 ユウがピナさんの背中をバシバシと叩く。

 その痛みに目を見開き、ユウの手元を注視してしまった。



 アレ、結構痛いもんね。

 お気持ちは痛い程理解出来ます。



「つまり、日の出を待つのね??」



 マイがいつも通り片眉をクイっと上げて話す。



「いいえ。その前に作戦を開始します」



「「「前??」」」



 ユウとマイと共に声を合わせて問う。



「日の出を待つ必要はありません。一気苛烈、電撃作戦で勝負を掛けます」



「ほっほう?? 涼しい顔に似合わず、意外と大胆なのね??」


「つまり……。日の出前に攻撃を仕掛けるのか」


 マイの言葉に続き、声を出した。



「その通りです。門は残念ながら普段は閉じられていますので、私が強力な魔法で門を破壊します」



 サラリと恐ろしい事を言いますね。



「門を破壊後、異常事態を察知した孟狂ったハーピーが里から出現します。そこで……。ピナさん」



 彼女の方へ顔を向けて話す。



「はい?? どうされました??」



「私を空へと運ぶ事は可能ですか??」


「えぇ。カエデさんの御体なら簡単ですよ」



 うん。

 それは頷ける。



 肩、それに腰も細いもんね。



「結構です。私とピナさんが大多数のハーピーを引き連れ、一旦空へと逃れます」


「え、えぇ!? 私とカエデさんだけで、ですかぁ!?」




 そりゃあお目目を丸くして驚くだろう。

 孟狂った百体以上の獣が追っかけて来るのですから。





「その通りです。その時の作戦は後で説明します。 そして、開かれた門……。そうですね。地形的に南門が侵入経路としては最適ですので。レイドが住民を避難誘導しつつ、敵を迎撃。マイとユウは馬鹿みたいに暴れ回って敵の注目を集め、残存戦力を刈り取って下さい」





「了解」


 誘導と迎撃か。

 簡単に言いますけど……。



 俺はそこまで器用では無いのですよ??



 それに対し、マイ達は簡単な仕事だよな。

 暴れ回っていれば良いだけだし……。


 いや、でも。

 数十もの獣相手に立ち回るよりかは楽なのかな??



「おっしゃあ!! 任せろ!!」


「余裕で退治してやらぁ!!」



 ユウとマイが軽快に手を合わせ。

 パチンッ!! っと乾いた音を響かせた。



「住民の方々の長距離の移動が難しいが為の攻撃作戦です。作戦の主旨はあくまでも救出です。そこを履き違えない様に」



 冷たい声でマイとユウに話す。



「わ――ってるって。んで?? ちゃちゃっと片付けて作戦終了でしょ??」



「「……」」



 マイの言葉に、カエデとピナさんが難しい顔を浮かべてしまう。



「マイさんの思惑通りにはならないかと、思います」


 ピナさんが重々しい口調でそう話す。


「は?? どういう事??」



「人命は、開かれた門から逃します。しかし……。此処からがこの作戦の一番の難所と呼んでも差し支えありませんね」



「残存戦力を刈り取るのが難しいの??」



 カエデに問う。



「いいえ。里には……」


 カエデがピナさんの方へと振り向くと。








「ハーピーの女王。アレクシア様がいらっしゃいます」


 彼女が小さな声でそう漏らした。







「「「女王??」」」



 相も変わらず……。

 息ピッタリですねぇ。



 三人仲良く声を合わせ、ピナさんを見つめた。



「はい。大変強い力を持った御方です。彼女は恐らく……」


「敵の策略に嵌り。操られている可能性が高いですね」



 う、嘘でしょ??



 百五十名もの敵を相手にした後。


 更に強力な敵と会敵しなきゃいけないのか!?



「そのアレクシアって奴はどんな力を持った奴なのよ??」


 マイがワクワク全開の顔でピナさんに問う。





「一度空へ舞えば雲が霧散し、背に生える白き翼が舞うと視界から消失。風の力を身に纏えば森が、そして大地が震え上がります。 風の魔法を得意とし。主な魔法は鋭い風の刃を繰り出し、環境を破壊し尽くす竜巻を起こす。 そして……、付与魔法で得た力を利用して。常軌を逸した速度で襲い掛かって来ます」





 同じ種族から見た常軌を逸した速さってどれ程のものだろうか。

 考えるのも億劫になるぞ。



 そして、そんな化け物……。基、傑物をあてがわれる此方の身も考えて欲しいものさ。



「ほっほう!! 滅茶苦茶強そうじゃん!!」


「強そうでは無く、正真正銘。傑物の類と呼んでも差し支えありません」



「対処方法は??」



 お願いしますよぉ……。

 頼むから一つや二つ、あってくれ……。


 祈る想いでピナさんに尋ねた。



「私達の主戦場は空です。空へと向かわせなければ勝機はあるかと」




 あったぁ!!

 幸運の女神様は俺達を見捨ててはいなかった!!




「ですが……。それは難しいかも知れません。翼が出現すると同時に空へと舞う事が可能ですので……」




 残念。

 幸運の女神様はそっぽを向いてしまいましたとさ。



「そのアレクシアは何処に居るんだ??」


 ユウが地図上に視線を落としつつ話す。



「恐らく……。此処ですね」


 ピナさんが指したのは、南門から一直線に進んだ先。


 北の端。唯一門が設置されていない場所だ。



「女王が住まわれている屋敷です。そこで待機している可能性が高いですね」



「じゃあ、あたし達は敵を蹴散らしつつ一気にそこへ突入して……」


「空へ舞う前に取り押えればいいのか」


 言うのは簡単だけど。


 人命救助も優先しなきゃいけない。そして、ハーピー達に対しても強力な攻撃は控えなければならない。



 想像以上に難しいぞ。この作戦。



「私達が戻る迄、残存戦力と戦闘を継続し続ける手もありますよ??」


「カエデ達を待ってアレクシアさんと対峙するのか。マイ、ユウどうする??」



 地図に視線を落とす二人に問う。


 でも、まぁ。多分……。



「冗談!! 強いって聞いたからには一度手合わせ願いたいもんね!!」

「だな!! あたしの力は風なんかじゃあ止められないって!!」



 ほらね??


 二人仲良く肩を組み。戦いが待ちきれない、そんな感情を含めた笑みを浮かべた。



「じゃあ、俺達三人の強行突入班は里に入ってから独自の作戦で行動するよ」



 そっちの方が効率が良さそうだし。



「その方が宜しいかも知れませんね」



 カエデがコクンと小さく頷く。



 この後、三人で作戦会議か。


 上手く纏まるのかな?? それだけが不安だ。




「それで……。黒のフードを被った奴はどこに居るのよ?? どうせだったらそいつを取っ捕まえて、拷問すれば意図が理解出来るだろうし」



 マイがピナさんの方へと向いて話す。



「それは……。居るのか居ないのか分かりません。ですが、記憶の断片では。その様な人物は捉えていません」


「まぁた曖昧な記憶、か。まぁいいわ。居るんだったら全員ブチのめせば出て来るでしょう」



 思慮が途轍もなく浅いですね。



「そんな簡単に出て来る訳ないだろ。正体を隠して里を襲ったんだぞ??」


 浅はかな考えのマイへと話す。



「その通りです。正体を隠す必要がある。恐らく……、その人物はもう里には居ませんね」




 顔を隠す理由……。


 いや、正体かも知れないけど。

 ハーピー達の知り合い、若しくは知られたら不味い人物なのだろうか??


 知り合いだったら恐らく気配で気付くだろうし。

 それに態々危険を冒してまで顔見知りの里を襲うか?? 知られてしまう虞が強いのだからその線は薄い。



 そうなると……。


 後者か。


 彼女達に知られたら不味い人物。それは……。




 ――――。

 分かる訳ないよね。



 彼女達がどんな交友関係を築いているか知る由も無いのだから。



「結局の所……。ソイツの正体は分からないって事か」



 ユウが少々長めの息を吐いた後に話す。



「今は黒幕の正体を想像するより、作戦に集中しましょう。私達の結果次第でこの街の住民、そしてハーピー達の命運が決まってしまいますので」



「カエデの話す通りだ。マイ、ユウ。突入後の作戦を練ろう」




「ちょっと待って!!!!」




 マイが突如として声を出す。



「どうしました??」


 カエデが大きな目をパチパチと瞬きしながら見つめる。



「作戦名が……。まだ決まっていないじゃん!!」



 また下らない作戦名を考えているのか?? コイツは。



「ふ、む……。在れば在った方が便利ですね。では……。故郷奪還作戦は如何ですか??」



 おっ。

 しっくりくる作戦名だな。




「全然駄目ね」


「聞きたくないけど、一応聞いてやるよ」


 ユウが溜息混じりにそう話す。





「作戦名は……。 羽を全部毟って!!!! 焼き鳥にしてやる!! 雁首揃えて待っていろ、鳥野郎共ぉ!! うむ。胸に響く名前だ……」





「「却下」」



 満足気にウンウンと頷く愚か者へ。

 ユウと共に言ってやった。




「もう少し品行方正な作戦名にして下さい。『雁』 首と申しましたけど。彼等は魔物ですからね?? …………では、私はピナさんの治療を続けますね」




「カッコイイじゃん!!」



 お馬鹿さんは無視して……。



 まだ完治していないのかな??

 パッと見は完治している様にも見えるけど。



「そんな。私はもう元気ですよ?? カエデさんの魔力を無駄に消費させる訳には……」


「御安心を。私の魔力は疲れ知らずなのです」



 そう話すと、部屋の奥に見える扉の方へとピナさんと連れて歩き出した。



 良し。

 早速、突入班の作戦を練るか。



「――――。レイド」


「ん?? どうした??」



 カエデが此方に振り返ったので、地図から視線を上げて問う。




 何か必要な物があるのかな。




「覗いたら駄目ですからね??」


「ぶっ!!!! こ、こんな非常時にそんな事する訳ないでしょう!?」



 いや、通常時でも駄目だけど!!



「冗談ですよ。――――。皆さん、今から三時間後に此処を出発します。それまでに食事、仮眠、必要だと考える物を揃え、並びに必要な行為を済ませておいて下さい」



 此方が了承の合図を放つと、そのまま扉の向こうへと姿を消した。



「カエデってさ。偶にビックリする冗談放つよね」



 不意打ちというか。

 突然というか……。



 驚き過ぎて心臓が痛いですよ。



「あんたの顔が強張っていたからじゃない??」


「そうか?? 普通、だと思うけど」


 マイの言葉に返す。



 知らない内にそうなっていたのかも知れない。

 そりゃそうだろ。

 俺達だけで、これだけの作戦を成功させなきゃいけない。



 前の作戦の様に。ボーさんやフェリスさん。そしてミノタウロスの皆さんは今、此処に居ないのだから。



「まっ!! それはさておき!! あたし達で作戦を練っちまおう!!」



「大賛成よ!! 先ず!! 私が突撃を開始するでしょ?? んで、この通りを駆け抜けて行って。住民達へ叫ぶのよ。おらぁああ!! さっさと逃げろやぁ!! って」



「お前さんの言葉が通じないんだから意味無いだろ。あたし達が襲い来る敵を対処するから……。レイドが里の中央へと向かってくれ」


「了解だ」


 ギャアギャアと騒ぐ狂暴な龍を無視しつつ、ユウと着実に作戦を構築していく。

 その間にも。



 やれ、作戦名が必要だとか。

 やれ、飯を用意しろだとか。


 作戦実行前だってのにもう頭が痛い……。

 誰かコイツに猿ぐつわを嵌めてくれ。




 はいはい。分かりました。


 等と、適当に相槌を打ちつつ。

 ユウと二人、蝋燭の明かりを頼りに地図を睨み。確実に有効であると考えられる案を練っていった。


お疲れ様でした。

最後まで御覧頂きありがとうございます。明日に続きます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ