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第八十話 鈴生りのモノ その二

大変お待たせしました!!


後半部分の投稿になります!!


それでは御覧下さい。





 足元の泥濘ぬかるみも徐々に解消され歩き易くなった地面の上を進み行く。


 森の中には清涼な空気が満ち溢れ。


 紺碧の海から届く風がさぁっと吹くと汗ばんだ体を心地良く冷ましてくれる。


 こんな時じゃなければ木の幹に体を預け、心行くまで静寂を満喫するんだけども……。生憎、今はそんな場合じゃないのが残念だ。



「カエデ、アオイ達の力を感じるか??」



 前方を歩く藍色の髪の彼女へと問う。



「――――。いいえ、感じませんね」



 カエデが感じ無いって事は敢えて力を抑えているのか??


 だとしたら、少々厄介だな。それは自身の持つ力を操っている証拠なのだから。


 だが、先程の戦闘でいくつか気になった節がある。




「……。ひょっとして体を乗っ取られてもさ、宿主の体を上手く扱う事が出来ないんじゃないのか??」



 俺なりに気付いた事を何とも無しに言葉に出す。



「私もそう思うわ。本当のユウの力ならもっと吹き飛ばされていたし、地面を殴った時もあれくらいじゃ収まらないわよ」



 それはそれで脱帽するけどね。



「二人の考えに私も肯定します。恐らく、体の主導権を渡しても上手く扱えないのでしょう。度を越した力は持て余すのみ。そこを突いて戦うのが正攻法です」



「じゃあ幾らか戦力は落ちる……と??」



 多分こういう事だろうけど……。



「大幅に落ちます。しかしもっとも危惧すべきはこちらの油断です。マイも最初は躊躇いましたよね?? 中途半端な攻撃は相手を悪戯に刺激するのみ。そして戦いの中で体の扱い方を覚えられてはより戦闘は困難になると考えられます。速攻で攻撃を畳みかけ、相手に此方の情報を与える前に叩き潰すのが最善ですね」



 一回の戦闘で、そこまで分析しているとは。


 敵に回して一番厄介なのはカエデだな。知恵比べや駆け引きで勝てる気がしない。



「良く見ているわね」



 俺と同じくマイも舌を巻いて、涼し気な表情のカエデの横顔を眺めていた。



「戦いの定石です。イスハさんも仰っていたでしょう?? 相手の行動を良く見ろと」


「そうだな。しまったなぁ、また怒られそうだ」



『何をしておる!! この戯けが!!』



 尻尾が八本に分裂し、その全ての尻尾が天へと向かってピンっと聳え立ってしまった師匠の御姿が頭の中に浮かんでしまう。



「あはは、あんたが泣きながらイスハに搾られてている情けない姿。容易に想像出来たわよ」



「手厳しい指導を与えてくれるのはそれだけ此方の事を考えてくれている証拠さ」



 これからも幾度と無く失敗を続けますが、どうか温かい目で見守って頂ければ幸いです。


 まぁ、それまで俺の命がもつかどうかが最大の問題だな。




「そろそろ到着します。気を引き締めて下さい」



 さてと!!


 楽しい雑談も此処まで。


 カエデが緊張感を纏わせた声色を放ち、此方に注意を促した。



「了解。さっきと同じように会話の流れで探ればいいのかな??」


「そうですね……。きっかけは誰でもいいです、そこから会話を継続させて矛盾を探していきましょう」



 それが手っ取り早いか。


 致命的な記憶違いを探すのは困難だが、細かい記憶の相違を掘り当てましょう。




「おっ。見えてきたわね」



 温泉の蒸気が竹の残骸越しに揺らぎ、頂点近くに昇った太陽の光を受け美しい白を強調している。


 そして、その残骸の傍らには既に到着を果たした三名が人の姿で待機しており。此方を発見すると同時にいつもの表情を面に浮かべた。



「レ――イド!!」



 ルーの軽快な笑みと声色。


 朝別れた時と変わらぬ姿に安心感を抱きかけてしまうが……。


 これは偽りの姿なのかも知れない。油断は禁物だ。



「お疲れ様。どうだ?? 見つかったか??」



 普段通り、何事もなかったかのように食料の所在を尋ねる。



「見付けたよ!! ほら、竹の残骸の裏側にあるんだ」



 クルっと振り返り、灰の山の麓を指で指す。



 ルーに促され、その位置へと移動すると。



「こりゃ見事に焼かれちまったな」



 食料が入っていたであろう木箱の燃え滓が無残に横たわっていた。


 黒焦げの木屑を退かし、一応中身の確認を取ってみたが。とてもじゃないけど口にできる代物では無かった。



「あ、あぁ――……。私の食料がぁぁ……。お、お、終わった……」



 膝から力無く崩れ落ち、まるでこの世の終わりを体現した格好でマイが話す。



「大袈裟だって、マイちゃん。また魚を釣ればいいでしょ??」


「それもうそうね!!!!」



 切り替えはっや!!


 素早く立ち上がると、今から釣りに出掛けんばかりに腕をグルグルと回し。未だ見ぬ大漁の釣果に胸を躍らせ、煌びやかに輝く瞳で海の方向へと視線を向けてしまった。



「ユウは此処でこれを燃やしたのですわね」



 アオイも俺と同じ考えのようだ。


 燃え滓の傍に屈み、恨めしそうに嫋やかな指で灰を触っている。



「その様だな。主、怪我は無いか??」


「何とかね。はぁ――……。これで一応事件は解決か」



 リューヴの問いにワザとらしく大きく息を吐き、マイとカエデへとさり気なく視線を送った。


 さてと、どうやって記憶を探ろうかな。



「こうやって協力して事件を解決するのって、レシェットの所を思い出さない??」



 レシェットさん??


 あの屋敷の出来事……。つまり、アオイの記憶をあぶり出す算段か。


 了解、それに続くよ。



「あの屋敷では要らぬ怪我を負ったけども。懐かしいな、ふふふ……」



 アオイが使用人の服を着用した姿は意外と似合っていたけども、何処か可笑しかったよね。


 それを不意に思い出し、笑いが込み上げて来てしまう。



「何よ、急に笑って。きっしょ」



 おい、それは演技なのか??


 それとも素のお前さんですかい??



「いや、あの時さ。マイ達はドレスを着ただろう?? それを思い返していたんだ」


「え――!! いいなぁ!! 私も着たかった!!」



 ルーが悔しそうに一つピョンと跳ねる。



「仕方無くよ!! あれは似合わなかった!!」



 そうか??


 赤いドレス、似合っていたと思うけど……。



「私のはスースーして動きにくかった。アオイのドレス姿も綺麗でしたよ??」



 カエデがアオイへと先制攻撃を開始。


 さぁて、どう出る??



「カエデ、あの使用人の服を見て。どうやったらドレスに見えますの??」



 ふぅ。


 取り敢えずこの質問は大丈夫っと。



「食料が無いと力も出ないよな……」



 地面に座りわざとらしく溜息を吐いて天を仰ぐ。



「魚を釣って、飢えを凌ぐか……。あぁ、王都の屋台が恋しい」


「あそこの御飯美味しいもんね!! 帰ったらまた食べようよ!!」



 ルーが此方の隣に座り、満面の笑みでそう答える。



「そうだな。ルー達も王都に来て、初めて食べた甘栗に目を細めていたっけ」



 さぁ、狼さん??


 どう答えますか??



「うん!! あれは美味しかったね!! 甘くてホクホクしてた!!」






「……。リューヴも懐かしいとは思いませんか??」



 カエデが暫しの沈黙の後にリューヴへと問う。



「いいや?? 私はどちらかと言えば此処のような静かな場所が好みだ」


「それでは港町も苦手だと??」


「そうだな……。あそこも苦手だ」



 まるで此処が人混みの中だと言わんばかりに大きな溜息を吐いてそう話す。



「それでも食事は美味しかったですよね?? 落葉亭の鯵の炊き込みご飯。是非もう一度食べてみたいものです」


「あぁ!! あそこは美味かった。魚と米が美しく混ざり合って……」



 思い返すように目を瞑り、その味を思い出しているのか。


 ペロリと舌なめずりをした。




「さっきから食べ物の話ばかりじゃないか。でも、この世界には色んな食べ物が溢れているなぁって思うよ。 ほら、アオイの里で食べた精分の実!! あれは、見た目は悪かったけど味は良かった……。本当に驚いたもんさ」


「レイド様さえ宜しければ幾らでも食べて構いませんわよ?? 私と一緒になれば食べ放題ですわ」




 ………………。



 あぁ、ちくしょう!!!!


 カエデの杞憂はどうやら恐ろしい現実のものとなってしまった。

 

 マイとカエデに視線を送り、ゆるりと立ち上がり三人と距離を取った。




「どうかしました?? レイド様??」



 こちらを心配するようにいつもの優しいアオイの瞳が見つめる。


 だが、今はそれが煩わしい。



「もういいわよ。あんた達」



 マイが呆れるように溜息を付き、アオイ達を睨みつけた。




「あなたには言っていませんわ。私はレイド様を案じているのですよ」


「マイちゃんもレイドもどうしたの?? 怖い顔しちゃって」


「そうだぞ。もう感染者はいなくなったんだろう?? 何も心配する必要なんか無いじゃないか」



 三人の見た目は本物とまるで遜色がない。



 こうも上手く体を操る事が出来るのか。


 感心すると同時に、これが大陸に渡ってしまった暗い未来を想像して寒気がした。



 ある日、突然親しい人が豹変して友人へと襲い掛かる。背に生える筍に操られて命を落とし、それが大陸全土へと伝播してしまう。


 人類が築き上げた文明の残骸に群生する竹林、そしてその中に生える夥しい数の筍……。


 

 そんな恐ろしい結末を迎えぬ為にも、俺達が此処でその未来断つ!!!!




「三人共、よく聞け。それ以上近付くな」



 此方に向かって来る三名へと警告を放つ。



「レイド……。どうしたの?? 怖いよ??」


「おら、そこのなんちゃって狼。私達が最初に屋台で食べたのはタイヤキだ、このボケ」



「私を信用しないのか??」


「リューヴ。港町で立ち寄ったのは松葉亭で秋刀魚の炊き込みご飯です。分かり易いと思いませんか??」



「レイド様、私は信用してくれますよね??」


「悪い。精分の実じゃなくて滋養の実だ。自分の出身地だろ?? それくらい覚えていないのは幾ら何でもおかしい」




 三者三様。大きく目を見開き、己の回答の矛盾に戸惑っているようだ。


 しかし、その様子は直ぐに豹変してしまった。



「「「…………」」」



 ユウと同様ガクリと大きく項垂れ、その面を上げると……。



「っ!!」



 歴戦の勇士をも慄かせてしまう憎悪と殺意に満ちた六つの瞳が俺達を捉えた。




『あ――あ。な――んだ。引っ掛かると思ったんだけどなぁ』


『この体にまだ馴染んでいないのか?? 正確な記憶が引き出せない』


『それも今となってはどうでもいいですわ。あそこにいる人らを感染させればこちらの勝ちです』



 口調は宿主の癖を引き継いでいるのか??


 それとも記憶を引き出す際にそうなってしまうのか……。ええい!! 余計な事は考えるな!!


 今は彼女達を解放する事に注力を尽くせ!!



「マイ、レイド。気を付けて下さい」


「分かっているわよ」


「あぁ、もう手加減はしない。全力を出す」



 両者の間に張られた緊張の糸が次第に弛みを消失させ、目に見える程に張り詰めて行く。


 俺の真正面に立つリューヴに向け、腰から短剣を引き抜き相対した。



『私にその武器を向けるのか??』


「安心しろ、今直ぐ筍を剥いでやる。待ってろよ、リューヴ。絶対助けてやるからな」



 短剣を握る右手に汗が滲む。


 果たして俺の力で対抗出来るのか?? それとも龍の力を解放して対抗すべきなのだろうか……。


 まかり間違って彼女の命を奪う訳にはいかない。


 このままの力で抗ってやる!!



『それは……。無理だなぁ?? こいつの体。物凄く強いぞ??』



 首を左右に傾け、口を歪め薄ら笑いをしている。


 そこにあの凛々しいリューヴの面影は無かった。



「やってみないと分からないだろ??」



『へぇ?? 随分と強気なんだな?? んん?? お前、いい匂いがするな』



 リューヴの中の何かは鼻をひくつかせ、こちらの匂いを感じ取っている。


 さっきのユウ擬きといい、こいつらといい。俺の体を利用して何か企んでいるのか??



『本当だ。丁度いい、アイツの体を利用して……』


『男はこっちが貰った。お前達はその二人の相手をしろ』



 痺れを切らしたリューヴ擬きが無防備な所作で歩み来る。



『おい、小さいの。この体が相手だ』



 アオイ擬きがマイを見下して挑発するのですが、その中に彼女に対して決して使用してはならない単語が含まれていた。



「上等ぉ!! その面ぁ、一度思いっきりぶん殴ってみたかったのよねぇ」



 拳を強く握り締め。此方まで聞こえて来る程、骨が軋む音が響く。


 酷い怪我を負わすなよ?? 乗っ取られているとしても、アオイの体なんだから。




『……。どこを見ているんだ!!』


「へ?? うぐぁぁああああ!!」



 余所見をした自分が愚かだと痛烈に思い知らされてしまった。


 先程の教訓が全く生かされていない証拠だ。



 リューヴ擬きの強烈な蹴りが腹部に直撃し、森の奥へと此方の意思を無視して猛烈な勢いで吹き飛ばされてしまう。



「レイド!!」



 此方の飛翔を案ずるカエデの顔があっと言う間に消失。


 代わりに森の美しい緑のみを視界は捉え続けたのだった。















 ◇






『はっは――!! 待ってろ。今すぐモノにしてやるよぉ!!』



 あの馬鹿を追いかけ、リューヴ擬きがまぁまぁの速さで森へと駆けて行く。



「カエデ!! ボケナスを追いかけなさい!! この二人は私が引き受けるわ……」



 余裕ぶっこいて私達を睨み続ける偽物二人に相対しながら話す。



「大丈夫ですか??」


「余裕余裕。こいつ等が束になって襲い掛かって来ても良いくらいよ??」



 私の崇高なる言葉が偽物二人の感情を刺激したようだ。



「「っ……」」



 感情があるかどうかは知らんが。あからさまに敵意剥き出しですよ――って表情だものねぇ。



『どうやら痛い目に合わないと分からないようだね――??』


『貴様、楽には感染させませんわよ?? たっぷり痛めつけて……。こちらを嘗めた事を後悔させてやりますわ』


「はぁ?? 後悔?? それはこっちの台詞よ。私の手下に手を出した事を後悔しろ!!」



 腰を落とし、今にも襲い掛かって来そうな偽物二人に対して戦闘態勢を整えた。



「マイ、頼みました!!」


「おう!!!! きっちりシバいて来い!!」



 可愛いあんよでボケナスの下へと勢い良く駆け出したカエデへ、威勢の良い掛け声で見送ってやった。



 頼むわよ??


 あんなんでも私達の纏め……。じゃあないな。主役は私だからそれを映えさせる脇役が居なくなったら寂しいじゃん。


 それに、飯炊きがいなくなったら困る!!



『ぐるぁぁああああ!!』



 ルー擬きが口から低く唸るような声を出して向かって来る。



 うひょ――!! 来た来たぁ!!!!



 隙だらけの構えに、何の工夫も無い攻撃。


 本物のリューヴが見たら顔を顰めてきっとこう言うだろう。



『まるで児戯だな』



 あはは!! 正にぃ、その通りぃぃ!!!!



「遅いんだよぉぉおおお!!」


『ぐはっ!!』



 大きく振りかぶって放たれた右腕を躱し、脇腹にすんばらしい拳を突き立てぇ。


 更に更いぃぃいいい!!



「温泉の中でぇ、沈んでろぉ!! お惚け狼がぁぁああ!!」



 上体を屈め、どうぞ素晴らしい攻撃を与えて下さいと言わんばかりの体に強烈な蹴りを捻じ込んでやった。



『ギィィヤァァァアア!!!!』



 激しい水飛沫が天へと向かって迸り、私の栄えある一勝を祝う美しい虹が水面の上空に広がった。



 う、うぅん……。


 控え目に言っても完璧な勝利だ。




『…………』



 ほら、失神したルー擬きがぷかぁって仰向けの姿勢で浮かんで来たし。



「いや、参った。やっぱり私って最強だわ」



 アイツの処置は後回しだ。


 今からとっておきのぉ、楽しみを満喫しないといけないからねぇ……。




『何をごちゃごちゃ言っている。さっさと……。ぶあっ!!』



 きっしょい蜘蛛の左の面へと拳を捻じ込むと、私の心に至福の時が訪れた。



『う、ぐぐ……』



「うっひょ――!! 超気持ち良い!!!! おらぁ!! 顔の形が変わるまで殴らせろ!!」



 私から踏鞴を踏みながら後退を続ける蜘蛛擬きへと向かい、まるで楽しいお買い物に出掛ける前の女性の足取りで向かって行く。



 にしし!!!!


 私の思ったとぉりぃ!!


 いつものコイツはひょいひょい避けやがって、こっちの攻撃は当たりゃしないが……。


 乗っ取られて動きが鈍いコイツは私の動きにさえ付いて来られないのよ。



 つ、ま、りっ。



 救出の名目でぇ、好きなだけ殴って良い!!!! お目付け役のカエデも取っ払ったし。



 誰にも見られる事も無く、咎められる事も無く!! 常日頃から溜まりに溜まった鬱憤を此処で晴らす!!



『う、くっ……。ま、待て!!』



 私が突撃の構えを見せると、慌てふためいた姿で蜘蛛擬きが待ったの声を掛けた。



「あ?? 何?? 今からその服ひん剥いて、熟れた林檎よりも真っ赤に染まる位に尻ブッ叩くんだから」


『わ、私達に協力してくれないか!?』



 はぁ?? 協力ぅ??



『向こうへ無事渡らせてくれたら、大陸の半分をやる!! だから頼む!!』



 ふぅむ……。


 半分、ね。



『ど、どうだ?? 良い条件じゃないか??』


「要らねっ」


『はぁ!? 一人であの大きな大陸の半分も征服出来るんだぞ!?』


「いや、だってさ。大陸貰っても飯を作ってくれる奴が居ないじゃん」




 恥ずかしながら、料理のりょの字も出来ない私にとってそれは死活問題なのよね――。




『そ、それなら料理人を与えてやる!!』


「ヤル??」


『さ、差し上げます!! それならいいだろう!?』



 ぷ、クスス。


 さ、最高だわ。口からアワアワと泡を吐いて大慌てするきしょい蜘蛛の姿は。



「ん――……。ど――しよっかなぁ??」


『定期的に季節折々の食料も届ける。最高だとは思わないか??』



 聳え立つ山に鎮座し、私の下へと齷齪御馳走を運ぶ下々の者ね。


 それもまたソソル姿だけども。



「却下」



 周囲にアイツ等が居ないのは超絶寂しいからねぇ。


 それに?? 例え大陸を全部貰ったとしても、蜘蛛を好きなだけ痛めつける効用を越える事は出来ないしっ。




『き、貴様ぁ!! これだけの好条件を蹴り飛ばして、後悔するぞ!!!!』



「後悔?? それはてめぇがすんだよ。気絶しない程度にぶん殴り、意識を現実に残しながら痛め付けてやる。呻き声を上げたら張り倒し、泣き言を言ったら蹴り上げてやる……」



『な、何故そこまで激怒するのだ!? 私は貴様に手を出していないだろう!?』



「まぁ――、そうだな。あんたらもこの自然の世界に生きる生物だし。子孫を繁栄させる権利はあるかも知れん」



『だ、だったら!!』



「だ、け、ど。あんたらは手を出してはイケナイ人に手を出してしまったのよ」



 そう、今も手に残るあの悲しい感覚……。


 これが早々許せるかっての。



『それは誰だ??』



「私の親友ユウの体を乗っ取りやがってぇ……。明確な敵意を持って親友の体を殴る気持ちを理解出来るのか?? 私の所為で傷つく親友の悲しい姿を想像出来るか?? これだけは、何があっても許せねぇ……」



 震える手をぎゅっと握り締め、憤怒の感情を籠めて蜘蛛擬きを睨んで言ってやった。




『それならば謝る!! だから許してくれ!!』



「駄目だねっ!! てめぇは今からこの世に居ながら地獄を見るんだよぉぉおおお!!」



 さぁぁ……。


 狂宴の開幕よ!!!!



『ひ、ひぃ!! あ、悪魔め!!』



 私に情けねぇ背を向け、脱兎も合格点を叩き出す逃走を開始した蜘蛛擬きにこう言ってやった。



「悪魔ぁ?? イッヒヒ……。ククク……。ア――ハッハハァ!!!! 私はぁ、その悪魔をぶち殺す悪魔なんだよぉぉ!!!!」



『い、いやぁぁあああああああ!!!!』



 さぁ、果てしなく逃げろ!! そして、無意味に祈れ!!


 貴様に訪れるのは救いの神では無く、最低最悪の悪魔が今からお迎えに上がりますからねぇ。



 蜘蛛擬きの泣き叫ぶ声が乾いた私の心を潤し、絶望に打ちひしがれた顔が何処までも体を高揚させてくれる。


 コイツはさながら……。悪魔に捧げられた生贄。



「ジュルリッ……。では、ではぁ……。いっただっきま――っすぅ!!」 



 大好物を目の前にしてだらしなく涎を垂れ流す獰猛な犬の口元を浮かべ、逃げ惑う矮小な背へと襲い掛かったのだった。




最後まで御覧頂き有難う御座います。


深夜の投稿になってしまい申し訳ありませんでした。


それでは皆様、おやすみなさいませ。

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