第十九話 私に良い考えがあります
お疲れ様です。本日の投稿です!!
それでは、御覧下さい!!
白く滑らかな肌を深く食む結晶体。
見ていると胸が痛くなる光景だ。
一体誰が……。こんな惨い行為を行った??
それを考える前に。
今直ぐにでも彼女を苦痛から解放してあげたい。
「ユウ。それ、引き抜けないか??」
恐らく。
彼女はアレの所為で自分を見失っているのだろう。
そう考えて声を出した。
「出来ない事も無いけど……。引っこ抜いて大丈夫なの??」
「人体と一体化している恐れもあります。慎重に引き抜いてみましょう。私が経過観察を続けます」
「頼むよ」
此方の声を受けると、カエデが彼女の体を支え。
ユウが右手で結晶体を摘まむ。
「慎重にお願いします」
「あいよ――。よっと!!」
ユウが結晶体の先端を摘まみ、己の筋力を震わせながら引き抜き始めた。
「結構力を籠めている感じ??」
マイがユウの後ろから問う。
「いんや。一割にも満たないよ。只、カエデが話す通り。慎重に事を進めている所為で腕が震え……。のわぁっ!?」
そこまで話すと、ユウの腕が勢い良く上空へと舞い上がってしまった。
「やっべ!! 抜けちゃった!! 大丈夫か!?」
慌てて彼女の項を見下ろすが……。
「問題ありません。どうやら、抜いても……。いいえ。抜かなければならない代物だった様ですね」
窪んだ肉の合間から一筋の赤い筋が白肌の上を垂れ落ち、彼女の肌と服を穢す。
見ていると……。痛々しいな。
「ユウ、結晶体見せて??」
マイがユウの下に近寄り、件の物体を確かめようとするが……。
「あっれ!? 崩れちまったぞ!?」
ユウが手に持っていた結晶体が砂状に形状崩壊し、跡形も無く崩れ落ちてしまった。
「あんた。力強過ぎ」
「違うわ!! 勝手に崩れたんだよ!!」
「そういう仕組みなのかも知れませんね。ふぅ――……」
カエデが目を瞑り、呼吸を整え。
静かに彼女の傷口の上に手を翳した。
「何をするの??」
「治療を開始します」
はい??
治療??
包帯でも巻くのかと思いきや。
「癒しの水よ。安らかな力で清め賜え……」
右手に水色の光り輝く魔法陣が浮かぶと、彼女の傷口がゆっくりと塞がって行くではありませんか。
「え!? 何、それ!!」
「治癒魔法です」
驚愕の声を放つ此方に対し、カエデが至極冷静に返す。
「すっげ。あんた、そんな事も出来るの??」
マイも俺と同じ想いを抱いているのか。
物珍し気に傷口を注視していた。
「水の魔法ですよ。私自身が魔力を放出し、それを受けた個体の治癒能力を活性化させる原理です」
「えっと。つまり、傷が塞がっているのは彼女自身の力で。それの手伝いをカエデがしているって事??」
恐らくこういう事でしょう。
「ほぼ合っていますよ」
ほぼ、なんだ。
まぁ詳細は時間がある時に聞きましょう。
今は彼女の治療が優先事項ですからね。
聞いたとしても理解出来るかどうかは分からないですけども……。
その様子を暫く伺っていると、妙な気配と共に足音が聞こえて来た。
「――――。あ、あのぉ……」
ん!?
誰だ!?
素早く短剣を抜剣し、声の放たれた方角へと振り返った。
「わっ!! と、と、突然声を掛けて申し訳ありません」
俺の構えに驚いた彼がビクンと肩を上下に揺らす。
長い白髪を後ろに纏め、顎から伸びるこれまた白い髭が柔和な印象を此方に与える。
顔に刻まれた深い皺はそれ相応の人生を歩んでいた事を物言わずとも証明していた。
少々汚れと皺が目立つ服を身に纏う彼に対し、声を出す。
「あなたは誰ですか??」
マイ達の前に立ち、短剣を構えたまま問う。
彼女みたいに、いきなり襲い掛かって来るのか??
構えを解かず。
彼の一挙手一投足に注目して問う。
「私はこの街の町長、ベルトと申します。その服装を見る限り……。軍人さんですよね??」
「えぇ。パルチザン独立遊軍補給部隊に所属するレイドと申します。そうですか……。あなたがこの街の……」
構えを解き、短剣を腰に納刀した。
ふぅ。
瞳の色も正常だし。
俺と真面に会話が継続出来ているので、取り敢えず警戒を解いた。
「この街から連絡が途絶え、私が様子を窺いに参りました。そして、此方に居る者共は……」
えっと。
何て説明すればいいのやら……。
「――――。険しい道中を案内してくれた者です。怪しい者ではありませんよ」
無難な選択肢を選択し、ベルトさんへと端的に説明をした。
「成程……。あなたの素性は理解出来ました。もし、宜しければ。彼女を解放して頂けますでしょうか??」
ベルトさんが横たわる彼女へ視線を移して話す。
「暫く様子を見てから、解放出来れば良いと考えています。突然出現し我々に攻撃を加えたので正当防衛で対処しました」
「た、対処!?」
その言葉に大きく目が開く。
「御安心下さい。気を失っているだけですよ」
「はぁ――……。良かった……」
「でも、どうして彼女の身を案じているのですか??」
操られていたとしても、あんな獰猛な生物に対して身を案じるとは一体。
まさか、家族とかかな??
でも、ベルトさんには翼が生えていないし……。
町長と仰っていたから人間の可能性が高い。
何だか……。
人間なのか、魔物なのか。
外見で判断出来なくなって来たぞ。
「ここでの会話は危険です。身を隠す場所がありますので、宜しければそこで詳しい説明をさせて頂いても宜しいでしょうか??」
この場所は危険、か。
彼女が突如として出現したのだ。まだ他にも潜んでいる可能性が残っている。
取り敢えず避難して、彼から事情を伺おう。
「分かりました。皆、聞いてた??」
強張っていた肩の力を抜き、マイ達の方へと振り返った。
「いや、聞くも何も。あの人が何を言っているのか全然理解出来ねぇんだけど??」
はい??
「そうだなぁ。マイの話す通り、ちっとも理解出来なかった」
あれれ??
君達。
ちゃんと人の話を聞こうか??
キョトンとしていると、カエデが良く見ていないと分からない程度に口角を上げて言葉を発した。
「レイド、喜んでも構いませんよ。彼は正真正銘…………。人間なのですから」
その言葉を受け。
心の中で明るい光が一気苛烈に破裂した。
「や、やったぁ――――!! あはは!! やったぞ!!」
「ど、どうされたのですか!?」
申し訳ありません!!
普通の人と会話が出来る事が嬉しいのです!!
慌てふためく彼に対し、拳をぎゅっと握って喜びを噛み締める。
これで……。
また任務に就ける!! 友人達と会話が出来る!!
それを考えると嬉しくて堪らないのです!!
喜びを噛み締めつつも早く移動しろと真面目な自分が顔を覗かせる。
すると……。
背中に途轍もない痛みが発生し、漸く我に返った頭と体が真面な命令を受け付ける様になり。
彼の後に続き傷付いた彼女を連れ。古ぼけた民家の中へと足を踏み入れた。
◇
湿気をたっぷり含んだ薄暗い地下室の中に静かに存在する椅子に座り。
ズキンと痛む背を抑えていた。
「どうした、レイド」
左隣。
寛いだ姿勢のままでユウが話す。
「背中が痛いんだ」
筋線維の筋にしっかりと残る痛みに顔を顰めつつ話す。
「ふぅん。そっか――」
ユウの左隣りから惚けた声が届く。
ここで。
『お前の所為だ!!!!』
と、叫べればどれだけ気分が楽になる事やら。
「……」
眉をムっと顰めていると。
「あ??」
ユウの体の前に恐ろしい顔が出現し、途端に眉を正常の状態に戻した。
まぁ俺が悪いのは理解出来るよ??
危険な場所から中々動かなかったし……。
でもさ。
嬉しいものは仕方が無いとは思いませんか??
人間と会話が可能。
普通の人間からしてみれば。何を普遍的な事を言っているのだ?? と首を傾げるであろうが。
自分にとってはこれ程喜ばしい事はないのですから。
「容体は安定していますね」
地下室の隅。
薄暗い橙の明かりに照らされた少々汚いベッドからカエデが此方に戻って来る。
そして、俺の右側の席に着き。
「申し訳ありません。色々と無理を聞いて頂いて……」
その様子を見たベルトさんが申し訳なさそうに頭を下げた。
「いえ。お気になさらず。それよりも……。一体何が起こったのですか??」
回り道よりも、一直線。
先ずは問題の根幹を尋ねる事にした。
「今から遡る事、凡そ一月以上前。此処から北へ向かった先に住むハーピーと呼ばれる魔物がこの街に突如として襲い掛かって来ました。そして、彼等は住民を見つけ次第北へと攫って行ったのです」
「攫って行った理由は分かりますか??」
まさかと思うけど……。
食料にする訳じゃないよね。
「それは……。申し訳ありませんが分かりません。何分、ここに避難していたのですから」
「その間の食料は。あぁ、保存食ですね」
彼の後ろの棚には乾いた米の玉、干した魚等が無造作に置かれていた。
干物ばかりだけど何も無いよりかはマシだろう。
「水は上空を旋回する彼等の目を盗んでは井戸から掬い……。私同様、他の家にも難を逃れた人達が居ますので後で宜しければ……」
彼等の安否の確認後、食料の配給かな。
忙しくなりそうだ。
「勿論です。他にハーピーについて特筆すべき情報はありますか??」
「彼等は明け方と夕方にこの街の見張りの番を交代します。先程倒した彼女は恐らく、夕方から朝にかけての監視役でしょう。街に入り、暫くしたら襲われましたよね」
今も静かに横たわる彼女へと視線を移して話す。
「えぇ。とある民家を出た後に襲撃されました」
じゃあ、少なくとも明日の朝までは平和なのか。
確証は無いけどね。
「この街の制空権を抑えられ伝令鳥も飛ばせない。隣町に避難しようにも距離が離れ過ぎている。そして、この街は陸の孤島と化してしまいました」
「その所為で伝令鳥を使用出来なかったのですか……」
「その通りです。飛ばそうにも上空で捕らえられてしまいますので」
ふぅむ。
レイモンドに連絡が届かなくなった理由について、矛盾はしていないね。
つまり、原因を探る為には此処から北へと向かわなきゃならないって事だな……。
それに連れ去られた人達の安否も気になる。
「そう、ですか。概ねの状況は理解出来ました。では、次の質問なのですが……」
連れ去られた住人の人数を問おうとすると。
『…………。こ、ここは??』
例の彼女が目を覚まし、夢現な声を出した。
「おぉ!! 目が覚めたのですね!!」
ベルトさんが椅子を蹴る様に立ち上がり、彼女の下へと駆け寄る。
『あ、おじいさん……』
「今は何も話さなくてもいいんだよ?? ゆっくり、休みなさい」
『一体、私はどうなって……』
「傷は痛むのかい?? 体も冷えているだろう。さ、横になって」
上体を起こそうとする彼女の体を優しくベッドの上へと押し返すが。
『そ、そうだ!! 帰らなきゃ行けないんだ!!』
「どうしたの?? まだ傷が痛むのかい??」
それを跳ね返して起き上がる彼女を見て目を丸くしていた。
何と言いますか……。
『ねぇ。アレ、案の定。全然会話が成立していないわよね??』
そう、マイが静かに話す通り。
会話が成立していないのに、彼は懸命に彼女へと語り掛けているのだ。
相手を労わろうとする温かい想いが通じない。
その姿がやけに痛々しくも見えてしまった。
彼女と言葉を交わせば、原因を直ぐにでも解明出来る。
だが。
此処でそれを言い淀んでは解決への道が遠ざかってしまう。
時間も惜しいし……。
どうしたものか……。
「ベルトさん。彼女は……」
「どうかされました??」
えぇい!!
こうなったら自棄だ!!
「――――。帰らなきゃと言っています」
くそう!!
もうどうにでもなれ!!
俺が魔物と話が出来る事がバレても構わない!!
暫く悩んだ後。
大きく息を吐き出してから、自分で決断した答えを解き放った。
「え……。えぇ!? まさか、魔物と言葉が交わせるのですか!?」
そりゃあ目を大きく見開きますよね。
「は、はい。どういう訳か分かりませんが……。対話が可能です」
さ、てと。
頭のおかしい奴と断定されちまうのかな。
「す……」
す??
「素晴らしい!!!!」
「はい??」
おっと。
素直な声が漏れてしまいました。
「何と素晴らしい能力をお持ちなのだ!! はは!! いや、本当に!!」
彼に手を握られ、上下に振られるも。
俺は只瞬きを繰り返すだけ。
「えっと。何故、そう判断されたのですか?? 頭のおかしい奴だと思わないのです??」
取り敢えず。
この場に相応しいと思われる言葉を放ってみた。
「そんな事思いませんよ!! 実は、ですね?? この街は大昔からハーピーと交流があるのですよ。今は月に一回程度なのですが、身振り手振りで物々交換を行っていたのです」
あぁ、だから彼女はおじいさんって言ったのか。
「この街からは魚を。そして、彼等からは深い森で採れた蜂蜜を主に交換していましてね?? 私は正直……。彼等が襲い掛かって来た事に疑問しか湧きませんでした」
そりゃそうだろう。
長い付き合いのあるハーピー達が突然、我を忘れて襲い掛かって来たのだから。
「この街とハーピーの里との密接な関係は理解出来ました。では、彼女に幾つか質問をしても宜しいでしょうか??」
「どうぞどうぞ!!」
急に元気になりましたね??
此処に居る全員を物珍し気に見つめ続ける彼女の下へと移動しつつ、そう話した。
「えっと。初めまして」
少しだけ顔色が良くなった彼女の側に膝を着き、優しい声色で話す。
『あ、初めまして……』
先ずは挨拶。
うむっ!! これが基本だ。
「自分の名前はレイドと申します。君達の里で一体何があったのか、説明出来るかな??」
頼むぞぉ。
記憶が無いってオチは勘弁してくれよ??
『えっと……。あれは……。そうです!! 突然だったのです!!』
いや、突然と申されましても……。
「突然??」
『はい!! 黒のフードを被った男?? 女?? が里に訪れたと思いきや……。訳の分からない結晶体を里の皆へ埋め込み……』
結晶体。
その言葉を受けた俺達は。
『…………』
成程。
そんな意味を含ませた視線を交わす。
『私達は必死になってその者に戦いを挑みました。ですが……。本当に強くて……。気が付いたら此処で……』
『――――。結晶体を埋め込まれた以後の記憶は存在しますか??』
カエデが俺の横に立ち、質問を続ける。
『物凄く曖昧ですが……。里の中に沢山の人が居て……。何処かへと連れて……。つっ!!!!』
呻き声を上げ、こめかみを抑える。
『無理をなさらないで下さい。ゆっくりで宜しいのですよ??』
カエデが彼女の肩に優しく手を置き。
真心を込めた声色で話す。
『え、えぇっと。里の中から森へと人間達を連れて行く光景は覚えています』
『よぉ――、姉ちゃん。その目的は分かるの??』
マイが頭の後ろ側で手を組み、背中側へ椅子を傾けつつ話す。
『それは……。申し訳ありません。分かりません……』
『ですが。人々は存命なのですね??』
「それは、はい。多分……」
多分、ね。
一月もの間、ハーピーに捉えられ続けているのだ。
人間は魔物程体が頑丈に作られている訳じゃないし。ちょっと不味い状況だな。
『続けての質問を宜しいでしょうか??』
カエデが彼女の瞳をしっかりと見つめて声を出す。
『どうぞ……』
曖昧な記憶。
質問に答えられない自分のもどかしさに俯きがちな彼女が小さく言葉を漏らす。
『ハーピーの里までの距離は此処から歩いて何時間程ですか??』
『此処からですか?? ――――。四時間もあれば到着するかと』
細い顎に指を当て、上方を見つつ答える。
『里の周辺、及び内部の詳細は思い出せますか??』
『それは、はい。生まれ故郷ですからね。忘れる筈がありません』
『これが最後の質問です。――――。里には何名のハーピーが存在しますか??』
『今現在は……。北の大森林へと数十名を送っていますので……。百五十名程度ですね』
ひゃ、百五十……。
彼女には悪いけど。
百五十名もの魔物を相手にしなければならないと考えると、思わず息を飲み込んでしまった。
しかも!!
尊い人命の救助という課題も残されているのだ。
『ふ、む……。成程……』
カエデがそう話し。
俺達の方へ振り向き。
「――――」
考えを纏め上げた所で再び口を開いた。
『皆さん。私に良い考えがあります』
お願いします。
どうか。
真面な考えであって下さい……。
煌びやかに輝く藍色の瞳を見つめ返し、心の中で小さく懇願を放ってしまった。
最後まで御覧頂き有難う御座いました。
それでは、また明日!!




