表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
196/1225

第七十八話 孕む疑心暗鬼 その二

皆様、おはようございます。


日曜日の午前中にそっと投稿を添えさせて頂きます。


朝食、若しくは飲み物片手に御覧頂ければ幸いです。




 予期せぬ土砂降りの雨の中、天幕の中で現場不在証明を各自に行ったのだが……。ぐっすり眠っていた、食料が無くなった事自体を知らなかった等々。


 猛烈に頭を抱えたくなる答えを与えてくれた。


 一朝一夕では重大な問題は解決しないと、その最たる例をまざまざと見せつけられた気分ですよ。



 今朝襲来した狼さんもどうやら寝惚けていたみたいで?? 大方、横着な龍の寝相の悪さから逃れようと移動したのでしょう。


 アイツの寝相は特に悪いからな。




 長時間に渡る親指大の大きさの雨が通り過ぎ。今度は沈んだ心の空模様と真逆の色が頭上一杯に広がる。





 一日の始まりに相応しい陽の光が木々の合間から優しく差すのだが……。皆の表情は強張り、固まっていた。



 無理も無い。


 亡くなった彼等と同じ状況に身を置いて居るのだから。


 消失した荷物の場所を皆が見下ろし、終始無言を続けていると。アオイが徐に声を出した。



「…………。これは一体、どういう事ですの??」



「水は雨水を利用すれば何とかなります。そして食料も明日迄我慢すればいいです。しかし……。重大な問題が発生しました」


 カエデが深刻な面持ちで皆を見渡す。



「それは何だ??」



 リューヴが緊張した面持ちで彼女に尋ねる。



 それは、分かっている。


 分かっているが故、口に出したくなかった。



「この中に……。感染した者がいます」



 そう、彼女の話す通りだ。


 この島に第三者が訪れる可能性は極めて低いのだから。



「で、一体誰が感染しているんだ??」



 ユウが厳しい視線でカエデを見つめながら問う。



「先ずは皆さんの背中、特に腰回りを拝見させてください」


「構わないわよ、先ずは私から」



 マイが皆に見えるように、一歩前に進み腰付近の服をずらす。肌理の細かい女性らしい皮膚がそこから覗くものの。手帳に記載されていた様な筍擬きは生えていなかった。


 そして、各々が背中を見せて行くが。特におかしな点は見られなかった。



「最後に私です」


 カエデが長い白のローブの服をたくし上げ、背中を見せる。


 当然、彼女にも不審な点は見受けられなかった。



「……。全員普通だな」



 あの筍擬きは自由自在に伸縮出来るのだろうか??


 だとしたら、仕事仲間且友人関係であったら彼等が見落とすのも頷けるし……。



「えぇ、外見から見抜く事は困難です。先日話した通り、感染した者はその者に寄生しその人を装います。仲間だからといって決して気を許してはいけません。細心の注意を払って周りの人物を監視して下さい」



「「「「…………」」」」



 嫌な視線だ。


 人を疑い、そして猜疑心を含めた視線を各自に向けている。


 もしかしたらコイツが……。そんな気持ちが心の中で生まれているのだろう。



「でも何で食べ物を取ったんだろうね」



 ルーが誰とも無しに声を上げる。



「大方、私達を貶める為だろう。食料が無くなるのは困るからな」


 ユウが大きな溜息混じりに言葉を話し、顔を顰めつつガシガシと後頭部を掻く。



「どこぞの誰かが独占でも企んだのでは??」


「――――。はぁ?? あんたそれ、私に言ってんの??」


 マイがユウから視線を戻し、アオイへと憎しみの力を含ませた瞳で睨みつけた。




「それ以外に考えられませんからねぇ。普段の生活を鑑みれば自ずと答えは出ますわ」


「取り消せ。流石の私も今の言葉は許せないわ」



 マイが怒りを滲ませた歩みでアオイの方へと向かう。



「そうやって直ぐ暴力で解決しようとして。一番怪しいのは貴女ですわよ?? どうせどこかで卑しい豚の様に筍でも食べたのでしょう」


「あぁっ!? いい加減にしなさいよね!!」



 こりゃいかん。


 力の限り拳を握り締め怒りで肩が震え、今にも龍と蜘蛛の頂上決戦が始まりそうだな。



「マイ、止めろ。争っても解決はしない」



 彼女の後方から女性らしいか細い腕を掴み、その進行を阻止。



「そうだって。アオイも謝れよ、今のは言い過ぎだ」



 俺の腕力では引き下がらないと考えたのか。


 ユウがマイの進行方向に立ち塞がり、彼女の猪突猛進を妨げてくれる。



 こういう時、本当に頼りになるよ。



「離しなさい!!」



 それでも彼女の怒りは収まらないのか。



「…………」



 前方に立ち塞がるユウの肩越しから覗くアオイの涼し気な表情を捉えると、なおも前へと進もうと画策してしまった。



「マイちゃん……。喧嘩は止めようよぉ……」


「ルーの言う通りだ。今は皆で協力して……」



 彼女の剣幕に怯えるルーの声色を受け、ちょいと力強く腕を握ったのだが。この力が癪に障った様ですね。



「離せって……。言ってんでしょ!!」


「つっ……!!」



 勢い良く振り払った肘が此方の鼻頭に衝突し、激しい衝撃が後頭部へと抜けて行った。


 か、軽くでこの威力ですか……。


 相も変わらず恐ろしい力だよ……。



 予想だにしない反撃に思わず腰を折ってしまいましたよっと。



「あっ……」


 申し訳無いと感じたのか。此方に振り向くと、何とも言えない表情で俺を見つめていた。



 鼻腔の奥から湧く深紅の液体が喉の奥底へと向かって零れ落ち、あの独特の味が口内に広がっていく。


 鼻から出血したか。


 まぁ、怪我は日常茶飯事だし。気にしちゃいないよ。



 俺が気にしているのは……。



「いいか?? 相手はこっちを混乱させ、お互いを疑うように仕向けている」



 そう、この一点に尽きるんだ。


 荷物が消失しただけでも、腹の奥を気持ち悪くする何とも言えない空気が渦巻いている。


 真犯人が画策した作戦は見事に嵌ったって訳さ。



「今は何人かの感染していない人がいる、だから相手はむやみやたらに襲っては来ないんだ。反撃される恐れがあるからね。俺達の役目は……。この島の中で相手を確実に倒す事」



 鼻の穴から零れ落ちて来た深紅の液体を手の甲で拭い、一つ大きく呼吸を整えてから言った。



「ふぅ……。大陸に移動させたら駄目だ。被害を拡大させない為にも、俺達がやるしかない。そこを分かってくれ。俺からの願いだ」



 アオイとマイの瞳を交互に見つめながら心からの願いを放つ。



「レイド様の願いであるのなら……。分かりましたわ」



 まだマイに疑いの目を向けていたが、此方の願いを受けると渋々了承してくれた。



「ふんっ。分かったわよ……」



 そして、どうやら恐ろしい龍さんも了承してくれたようですね。



 はぁ……。全く手の掛かる二人だよ。喧嘩を止めるだけで出血しちゃうんだからさ。



「カエデ、何か妙案はあるか??」



 鼻を抑えつつ話すものだから変な声色になっちゃいましたよ。



「考えを述べる前に、私なりに考察した相手の特徴を話します」



 皆の注目を集めやすい様に前に出て、一つ大きく息を吸ってから話し始めた。




「感染から数時間から数日経つと、腰から筍が生えて来るようです。しかし、先程御覧になられたかと思いますが。外見から判断出来なくなる様に、伸縮自在なのかも知れません。私達は明日、大陸へ戻る予定です。全員を感染させ何食わぬ顔で大陸へと移動し、数を増やす。そうさせない為にも水際で阻止します。」



「そいつはたまったもんじゃないな」



 ユウが険しい目付きになり、顔を顰めて話す。




「見抜く方法や相手の特徴はいくつか存在します。 一つ、記憶の欠如。体を乗っ取る事には成功していますが細かい記憶の一部までは支配出来ないようです。会話を続ける事によって発生する矛盾を突いて下さい。 二つ、時間経過と共に現れる腰付近の筍を目視する事。違和感を覚えたら直ぐにでも確認を取って下さい。 三つ、感情の変化。突如狂暴になったり、自暴自棄、又は感情の欠如が見られたら注意して下さい。 四つ、粘膜接触又は体液の摂取。これが最も危険です。感染者の体液を摂取すると感染してしまいます。雌同士でも感染しますので注意して下さい」




「じゃあさ、相手は狂暴になって支離滅裂な事を言いながらチュ――って。迫ってくるの??」



 ルーがカエデに尋ねる。


 先程の突発的な衝突を見た所為かそれともこの雰囲気に気負ってしまったのか。少しばかり弱気な声色だ。



「そうです。粘膜接触をしたら最後、相手に体を乗っ取られ。最終的には命を落とします」



「手帳が記していたんだけど。男は感染したら意識を失うらしいんだ。俺は見た通り意識を失っていない。もし、おかしな行動をしている人がいたら俺に報告してくれ」



 カエデの言う通り、ここで確実に撃退しなければならない。


 向こうに行かせたらどれ程の人間が命を落とすことになるのか……。


 最悪、人という種が絶滅する恐れだってあるんだ。気を引き締めねばなるまい。



「それで?? 私達は一体何をすればいいのよ??」



 腕を組み、神妙な面持ちでマイが言葉を発した。



「そうですね……。では、先ずは消えた食料の捜索に取り掛かりましょう。班を二つに分け、昨日同様島を東側と西側から捜索を開始します。 レイド、マイ、ユウ、私の班は東側から。 アオイ、リューヴ、ルーは西側から捜索して下さい。ぐるりと島を半周し、温泉付近で落ち合いましょう」



 カエデの案を受け、大きく頷いた。


 人数を分ける事は多少危険かも知れないが、そちらの方が早く食料を発見出来るだろうし。それに、食料を入れた木箱に犯人の痕跡が残っているかもしれない。



 何もしないでいるより、体を動かしていた方が幾らか気分も紛れる。



「ルー、リューヴ。鼻を利かせて捜索は可能ですか??」


「無理だ。今朝の大雨で匂いが流れてしまっている」


「その木箱に近付けば嗅ぎ取る事は可能かもしれないけどねぇ……」



 匂いは雨で流れ、犯人の足跡も土砂降りの雨で消失。


 狭くても人の足で探すとなると、ちょいと広い島だし。その中からの食料及び、犯人の形跡の捜索は難航しそうだな。



 各々が捜索の準備に取り掛かろうとしたのだが、カエデの提案にアオイが難を示した。



「カエデ」


「何でしょう」



 語気を強める彼女に対しいつも通り、カエデが至極冷静に言葉を返す。



「どうして、私がレイド様の班と同じでは無いのですか??」


「客観的に判断しました。他意はありません」



 向けられている視線、圧力を往なし。そつがなく返事を返す。


 しかし、カエデの言葉の端にも僅かながらの憤りを含ませている。彼女も圧力を浴びせられて思う所があるのだろう。


 捜索開始前に、この雰囲気はいただけないな。



「アオイ、今はカエデの指示に従ってくれ」



 腰に短剣を収めた革のベルトを装備し、必要最低限の装備を整えながらアオイに向かって話す。



「しかし……。私はレイド様の身を案じて……。」


「大丈夫だって、直ぐに捜索は終わるからさ。終わったらまた皆で美味い飯でも食べよう、そうすればこの変な空気も変わるって」



 この酷く沈んだ空気を払拭させる為、努めて明るい声を出して話してあげる。


 士気の低下は作戦行動に支障をきたしますからね。



「分かりましたわ。レイド様の指示に従います」


「うん、有難う」



 各自が捜索準備を整えると、カエデが覇気のある声で東と西に別れた分隊へ声を掛けた。




「――――。では皆さん、作戦行動を開始します。何かあれば此方の班に向けて念話を送って下さい。くれぐれも注意して下さい。気の弛みが分隊の全滅を招く恐れがありますからね」


「カ、カエデちゃん。怖い事言わないでよぉ……」



 人の姿のルーが情けなく眉を下げて話す。



「それ程に事態は逼迫しているのです。良いですか?? 分隊で行動しますが、それはあくまでも便宜上です。単独行動は以ての外ですからね。友人だからと言って貴女の隣に居る人物はまるで別人の可能性を孕んでいます。現時点で信じられるのは己のみ。それを心掛けて行動して下さい」



「「「…………」」」



 隊長殿の声を受けると、全員が一つ大きく頷き。一部は強張った顔、一部は緊張した面持ちへと変化。


 当然、俺もその中に含まれている。


 まるで今から戦闘に出掛けるみたいな空気に身も心も引き締まっちゃうよ。



「それでは、行動を開始します。皆さん、行きましょうか……」



 俺達はカエデを先頭に東へ、そしてアオイ達は西へと向かって行動を開始した。


 隊長殿が仰られた様に、気を引き締めて行動しよう。


 俺達の行動、又は選択肢次第で大陸に住む人々へ不幸が襲い掛かる恐れもあるのだから。



 固唾を飲み込み、朝の陽射しが美しく差し込む緑生い茂る森の中へと大変重い足取りで向かって行った。






最後まで御覧頂き有難う御座いました。


さて、次話からは感染者をあぶり出す御話になります。


投稿まで今暫くお待ち下さい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ