第七十三話 不必要な探求心 その二
お疲れ様です。
日曜日の夜にそっと投稿を添えさせて頂きます。
それでは御覧下さい。
勇猛果敢な隊長殿の後に続き、森を抜けると。
目の前には視界の限りに大海が広がり俺達を雄大な景色で迎えてくれた。そして、西の海岸と同じく此方側も穏やかに大地が上昇していたようだ。
数十歩先には直角の崖があり、海面と崖との高低差は……。そうだな、三階建ての家程の高さか。
今も波が崖に押し寄せ、白い波を泡立たせると塩気を纏った波風が頬に届く。
さぁ、隊長殿どうしますか?? 東の果てに到着しましたが??
「うぅむ。消えた五人は、ここから飛び降りて姿を消したのか??」
口元に手を添え、私は大変素晴らしい推理を構築していますよと誰にでも分かり易い姿勢を取って話す。
「浅はかだな」
おっと、不味い。
口から本音が漏れてしまった。
「次、同じ台詞を吐いたらアンタの首。こうだからね??」
右手を鋭く伸ばし、手刀で何かを叩き折る所作を取る。
「はっ、申し訳ありませんでした」
部下の発言が気に入らなければ即刻処刑する。
随分と辛辣な隊長です事。
「その線は薄いですが無視は出来ませんよ。ここから飛び降りたのなら死体も見つからないですし」
カエデがマイの隣に並び、足元に気を付けながら海面を見下ろしていた。
「それでどうする?? このまま別方向に向かうか??」
これ以上此処に居ても目新しい情報は得られそうに無いので、移動するのが最善の策でしょう。
「そうね。北へぐるりと回りましょうか。丁度、反時計回りの要領で」
「了解だ。カエデ、行くぞ」
北へ向かって進もうとしていたが、カエデは何か深く考える面持ちで海をじぃっと見つめていた。
「分かりました」
俺の言葉を受けると、海面から面を上げて此方に続く。
漁師が消えた五人を迎えに来た時、そして警察関係者は。ある程度は島を捜索したと言っていたよな。
そのある程度の捜索範囲が分かっていない。
砂浜周辺なのか、それともそこから入った森の中なのか……。
南の砂浜から上陸して此処までは結構距離がある。
つまり、消えた五人の情報が見つかるとしたら。砂浜から離れた北東付近か北西付近なのかもしれない。
「なぁ」
「ん?? 何??」
今思いついた考えを忙しなく動く隊長と、右隣りを静かに歩くカエデ隊員に説明してみる。
俺が話している間。
「ほぅ?? ふぅむ……。はぁん??」
マイは大きく頷いていたり、時折深く考え込む様な吐息を吐いていた。
その姿を見ると口から笑い声が飛び出そうと画策するが。これでもかと丹田に力を籠めて耐え抜き、此方の考えを全て伝え終えた。
似合わな過ぎて吹き出してしまいそうでしたよっと。
「良く話してくれた、助手君」
「それはどうも……」
助手ねぇ。
探検家から転職を果たし、今度は名探偵ですか。いや、迷探偵?? そっちの方が随分としっくりきますので。
「迎えに来た漁師がここまで歩いて来るとは考え難いわね。漁師の間では忌み嫌われている訳だし……」
「出来る事なら上陸もしたくないのだろう。だが、迎えに来た手前。見捨てる訳にはいけない」
「いざ上陸したはいいが人っ子一人見つからない」
「あぁ。そして静かすぎる不気味な森」
「頬が汗を伝い、心を覆う不安で呼吸が荒くなり鼓動が激しくなる」
「いつまでも現れない五人。そして、漁師はある程度島を捜索して船へと戻った……。う――ん、こんなもんかな??」
迷探偵さんと普通の人情を考慮して推理したんだけど。少々こじ付け感が強いか??
「悪くはないんじゃない?? 得られた証言からだとこれくらいしか考えつかないわよ」
そうだろうか。
まだ考える余地はあるかもしれない。しかし、俺の拙い推理力ではこの領域を出る事は叶いませんよ。
「……。まだありますよ??」
マイと肩を並べ御託を並べていたが、不意に後ろから真の名探偵さんが声を上げた。
「まだ何かあるの?? いいわ、話してみなさい」
迷探偵が歩みを止め。
『是非とも助手君の意見を聞こうじゃあないか』 と。
腰に手を当てて、真の名探偵の発言を待つ。
「…………。その漁師が五人を皆殺しにすればいいんです」
おっとぉ。これはかなりの不意打ちですね。
可愛い顔の小さな御口から出て来た恐ろしい発言に少しばかりドキリとした。
「まさか。相手は五人だぞ??」
たった一人で五人全員を皆殺しに出来るのはそれ相応の力が必要だ。
漁師さん単騎でそれはちょいと難しいんじゃないのかな。
「それに、動機は??」
「いくらでも考えられます。金品、女、衝動的な殺意……。考えてみて下さい、こんな穏やかな所で仲の良い五人が殺し合う姿を想像出来ますか??」
確かに……。
俺達と照らし合わせるとそれは合点がいくな。
殺意を抱くのにはそれなりの理由が必要だ。
「第一発見者を疑うのは定石です。相手はこちらを迎えに来たと油断します、不意を突き先ずは力のある男から。鉈なんかいいですね。首の太い血管を狙い後ろから一刀。そして血飛沫が飛び散り己の顔を鮮血に染める」
『ゴ、ゴッキュン……』
迷探偵さんの固唾を飲み込む音が静かに響く。
「逃げ惑う残りの男女。薄ら笑いを浮かべ彼等を追いかける漁師。 当然、必死の反抗を試みますが……。漁師が生き残っているという事実を考慮すると結果は彼等の惨敗です。死体は海にでも捨てたのでしょう。魚や甲殻類が彼等の肉を食べてくれますから、証拠は消えます。何事も無く社会に戻り、何食わぬ顔で普段の生活に溶け込む。誰が五人の所在を聞いて来ても島の所為にすればいいのですから簡単な話です」
よくもまぁこんな恐ろしい推理をすらすらと思いつくな。
ですが、残念だが矛盾はしていない。
「人がそんな簡単に消える訳はありません。魔法で消し去る事は簡単ですが人の所業ではそれは至極困難です。どんな事をしても必ず足はつきます。しかし、ここは社会から隔絶された孤島。何が起きても、いえ 『何をしても』 そうそう証拠は残りません。人を消すのにこれ程適した場所はありません」
カエデの言葉を聞き周囲をぐるりと見渡す。
静かで穏やかな場所が急に恐ろしい場所に見えて来た。
今も存在しない筈の殺人鬼が木々の間からこちらの様子をじぃぃっと伺っているような気がしませんかね??
「よ、良く話してくれたカエデ助手。も、もう充分よ??」
迷探偵さんの声が笑える程に上擦る。
心なしか俺との距離が近いような……。
「そうですか?? 効率的に人を死に至らしめる殺害方法をまだ話していませんが??」
「「結構です!!」」
俺とマイは計らずとも、同時に声を上げてしまった。
これ以上聞いたら夜もおちおち寝られないって。
「残念です。ここからが面白いのですが」
ちっとも面白くないです。
でもカエデの推理は的を射ているような気がする。
『人が簡単に消える訳が無い』
この言葉が妙に印象に残った。肉は腐り消えるが骨はどうだろう。
土に埋もれていない限り今もどこかに残されているのでは無いだろうか??
しかし、死体は海に捨てればいいだけ。これで証拠は一切残らない。
くそ、やっぱり来るんじゃなかった。そうすれば今ものうのうと平穏な休暇を満喫出来ていたのに!!
「分かったわ!!」
突然隣で迷探偵さんの声が上がったので心臓が飛び出るかと思った。
「びっくりさせるな。何が分かったんだよ」
少しばかり呆れた声で話しかけてやる。
こいつの事だ。どうせ下らない事を思いついたのだろうさ。
「五人はやっぱり殺し合ったのよ!!」
「ふむ。マイの推理をお聞かせ願いますか??」
「…………。財宝よ!!!!」
「「財宝??」」
今度は真の名探偵さんと声を揃える。
「そうよ。五人は偶然宝の山を見つけたの。そして欲に目が眩み独り占めをしようと企んだ一人が残りの四人を殺害。そして漁師をぶっ殺して漁師に成り代わり、何食わぬ顔で帰還したのよ!!」
さもこれが正解だと言わんばかりに腕を組み、大きくウンウンと頷いていた。
例え財宝を見付けて独占する事に成功したとしても、漁師を殺害したのなら港に到着すると同時に怪しまれるだろう??
それに。
送迎の役目を果たした漁師は地元の漁師の方、並びに警察関係の方々に事情聴取を受けているから例え成り代わったとしても。身元が直ぐにバレちまうだろう。
もっと良く考えてから発言しなさい。
「それでさっきの続きですが……」
「それはもういいって」
さぁ、万雷の拍手を!!
俺達の柏手を待ち構えてソワソワしている彼女を残し、北上を開始した。
「ちょっと待ちなさいよ!!」
でもマイの話、宝はどうかと思うが動機としては頷けるかもしれない。
宝以外の何かがここにあってそれが原因で仲間割れ、もしくはそれを誰かが独占しようとして仲間を殺害した。良い線の推理かもしれないが、その何かがあればの話だ。
頼むから何も見付かってくれるなよ??
「助手その二!! 私より前を歩くなっ!!」
「では、マイ探偵。死体捜索の範囲を指定して頂けますか??」
「北側全部!!」
それは広過ぎます。
「範囲を絞って下さい。捜索している間に日が暮れてしまいますよ??」
「私は直感を信じるの!!!! そしてぇ、私の超絶カッコイイ直感はもう既にビンビンと怪しい雰囲気を捉えているわ!! 恐れる事は何もぬわぁい!! 黙ってついて来なさい!!」
「直感に頼って遭難した冒険家の御話をしましょうか??」
「結構よ!!!!」
迷探偵と名探偵さんが何の遠慮も無しに言葉を交わしながら先へと急ぐ。
あれだけ五月蠅かったら殺人鬼さんも近寄らないだろうなぁ。
まっ、そんな人居る訳無いんだけどね。
周囲の木々も顔を顰めてしまう程にうら若き女性二人の議論が熱を帯びてしまい、その様子はさながら。
二頭の子犬が一つの玩具を巡ってちいちゃなモフモフの御手手と、まだ生えて間もない可愛い牙を頑張って使用する戦いですね。
こらこら、喧嘩はおよしなさいと。
親犬の心情を胸に抱き仲裁に入っても良いのだが。子犬の心を悪戯に刺激すると目を疑う化け物に変身してしまいますので。大変温かな目で彼女達の背を見守りつつ移動を続けた。
◇
「はぁ――。いい湯だった」
温泉から上がり、木陰で一息ついていると優しい風があたし達の火照った体を冷ましてくれる。
それに身を委ね、目を瞑る。
するとどうだろう、体が風と一体化したように感じてしまう。
里の森も良いけどさ、ここも本当に良い場所だよ。
レイドには感謝しなきゃなぁ。
態々高いお金を払って、私達に対して素敵な時間と場所を提供してくれたんだから。
感謝……、か。
ふぅむ……??
整体でも施す?? 幼い頃、父さんの背中に跨ってあの大きな体に施してあげた時は。
『ウグブッ!?』 って。嬉しそうな声をあげてくれたし。
まっ、機会があれば一発ヤってみましょう!!
「アオイちゃん、肌触らせて!!」
狼の姿に変わったルーが温泉の効能を得て艶々になってしまったアオイの肌を触ろうと画策。
彼女の開けた胸元へと大きな前足を近付けるのだが。
「離れなさい。昨日も申した通り、この体はレイド様の物です。おいそれと触らせる訳にはいきませんわ」
アオイが右手で横着な前足をピシャリと叩き落とした。
「ふ――ん。じゃあ匂いでいいや!!」
大型犬の三回り程大きな狼さんが何を考えたのか。
ガバッ!! っと後ろ足で立つと。勢いそのまま、嫋やかな白き髪の女性へと襲い掛かった。
「ちょっ!! お止めなさい!! 汚い鼻水がつきますわ!!」
「いいじゃん!! 少しくらい!!」
この喧噪が無ければもっと寛げるんだけどなぁ。
ま、あたし達にそれを求めるのは酷なもんか。
「うぬぬ……。アオイちゃんって見た目よりも力あるよねぇ……」
「こ、この無駄にデカイ犬め!!」
「犬じゃないもん!! らいろ――だもん!!」
「同じ類の生物ではありませんか!!」
襲い掛かる両前足を両手で掴み、巨体を押し返そうとするのだが。意外と粘る狼さんに四苦八苦するアオイを他所に。
「リューヴ、ちょっと良いか??」
あたしから少し離れた位置で狼の姿で寛いでいるリューヴに話しかけた。
「何だ??」
心なしか灰色の毛並が輝いているような気がする。
温泉の効能だろうか。
「さっき話していた筍ってどこにある??」
竹林は見えるんだけども、肝心要の筍の位置が分からないし。
「あそこの竹林の中だ。案内するか??」
んおっ。
案外ノリが良いじゃん。
「おう!! 頼むよ。ここまで来たんだ、どうせなら拝んでから帰りたい」
「了承した。ルー、行くぞ」
「ふぁいふぁーい!!」
何やらくぐもった声が届いたのでお惚け狼の方へと振り返ると。どうやら先程の押し問答は狼の勝利で幕を閉じた様だな。
アオイの着物の胸元が豪快に開け、その谷間へと狼が顔を突っ込んでいるし……。
「ぷはっ!! アオイちゃん!! ごちそ――様でしたっ!!」
湯上りの所為か、それとも狼の舌撃の所為か。真っ赤に染まった顔を浮かべて着物の胸元閉じ。
「ケ、ケダモノめ!!」
「二人共待ってよ――」
フルンっと左右に揺れ動く狼の尻尾を睨みつけていた。
あはは、アオイ。ご愁傷様です。
コイツの涎って妙にネチャネチャしているからもう一度温泉に浸かった方が良いと思うぞ??
陽気な狼と冷静沈着な狼の背に誘導されながらワクワクが待ち構えている竹林へと移動を始めた。
◇
右手に見える海に沿って北上を続けていると、何だか静寂さがより強烈になってきた気がする。
左手の森から届く葉が擦れる乾いた音。
そして、ざざぁっと海から届く波音。
人が生み出す音が一切含まれていない環境音は時と場合によっては恐ろしくも聞こえてしまう。
これに影響されたのか、若しくは。
いわくつき、そして消えた五人の真相を解こうとしたのが間違いだと確信に至ったのか。
「ひゅ、ひゅぉぉ……」
肩で風を切るように先頭を歩いていたなりは潜め、今は俺の隣をたどたどしく、そして時折怯えたような瞳を左右に忙しなく動かしていた。
お前が始めた事だぞ。隊長が怯えてどうするんだよ。
その時。
進行方向の左手側から何かが唐突に動いた様な、草が大胆に揺れ動く音が聞こえて来た。
「ヒュンバル!?!?」
名探偵、並びに分隊長はそんな情けない声は出さないよなぁ。
そして、俺の右腕も掴んだりはしません。外そうか??
鋭い爪が皮膚に食い込んで滅茶苦茶痛むのですよ――っと。
「風です」
「わ、分かっているわよ。ふんっ!!」
強がりなのか、将又見透かされた事に憤りを感じてしまったのか。
俺の腕から手を離すと、再び俺達の前を歩み始めた。
「なぁ。さっきからずっと歩いているけど、何も見つからないし。やっぱり俺達の思い過ごしだったんだよ」
彼女の気を紛らわせようと軽い口調で話してやる。
「そ、そうよね。大体い、い、いわくつきなんて存在しないのよ。そうに決まっているわ!!」
「では、財宝の行方は??」
「こ、此処には存在しないのっ!!」
お前さんが提案した推理を自ら否定してどうするんだい??
「消えた五人の行方は??」
「し、知らんっ!! きっと腹を壊して海に飛び込んだのよ!! そ、そうよ!! それだと説明がつくもん!!」
「その腹を壊した原因の食べ物は何処に存在するのですか??」
あ、あはは。カエデって偶に意地悪するよなぁ……。
その偶に出る意地悪が強烈に恐ろしいのですよ。以前、深い霧の中で話した怖い話の様にね。
グダグダと推理を交わしながら進んで来たけども。
ここはどの辺りだろう?? 丁度温泉の真北くらいだろうか。
森と海岸線の合間をひた歩いているから方向感覚が少し曖昧になってくる。
「んっ?? あれ、何かしら??」
先頭を歩く隊長、いや。駄探偵が何かを見付けた様だ。
それは、一本の何の変哲も無い背の高い竹。
森の中から一本だけ天高く伸びて突出し。その存在感をこちらに知らしめていた。
しかし、他の木に紛れているのは存分に違和感がある。
「あれは竹……、だな」
「えぇ。しかし、おかしいですね。竹は群生しているのが常ですが」
「竹なんて森があればどこにでも生えているでしょ。皆の者!! 我に続けぇ!!」
タタっと軽快に森の中へと駆けて行く我らが名探偵……。いや、駄探偵。
ヤレヤレといった感じでカエデと共に駄探偵の後に続き、竹を目印にして森の中へと足を踏み入れた。
「ふふ――ん。きっとあの竹の根元に財宝があるのよ」
さっき存在しないって言ったの忘れたのか?? この駄探偵さんは。
「金銀財宝、若しくは大昔の超すんばらしい秘宝が眠っているのっ」
「あっそ。ほら、到着するぞ」
うっそうと茂る木々の枝と草々を掻き分けて進んで行くと、真っ直ぐに伸びた竹の幹を捉えた。
凛々しく丸みを帯びた竹。
この竹を利用すればかなりの数の工芸品を作れそうだ。
「やっほ――!! 到着ぅ!! さぁって!! おっ宝は何処か……。にゃぎらぁっ!?」
未だ見ぬ財宝を探し求め、竹の反対側に到達すると同時にマイが言葉を途中で切った。
「何だよ、気持ち悪い声をぉ……。お、おぉふっ……」
それもその筈。
その根本には一体の人骨が横たわっていたのだから。
力なく仰向けに倒れた人骨の頭蓋はこちらをしっかりと向いており、ある筈の無い瞳で俺達の顔をじぃっと見つめている様にも見えてしまう。
衣服がボロボロに廃れ、そこから腕の骨や大腿部の太い骨が覗く。
何かを訴えかけようとパカっと開いた顎間接に、地面から伸びた草が幾つもの骨に絡みつき。この人物は亡くなってから素人目でもかなりの年数が経過したのが容易に窺えた。
「あ、あ、アババババ。み、み、みちゅけちゃっらぁ……」
恐ろしいのは理解出来ますが、噛み過ぎですよ。
「ふむ……。死後数年は経っていますね」
顎をカタカタと揺れ動かし、小刻みに肩を震わせて恐れ慄くマイに対し。
カエデは特別気にする様子も無く白骨死体に近寄り、ちょこんと屈んで人骨を観察していた。
これじゃどっちが探偵か分からないな。
「死因は分かるか??」
カエデの隣で、同じ姿勢でしゃがみ込み白骨を見下ろした。
「……。亡くなって暫く経っているので詳しい事は分かりませんが。左腕が折れています、そして脇腹や鎖骨にも亀裂が見られますよ」
ボロボロに擦り切れた服を捲り、人骨の状態を確認している。
彼女の言う通り、左腕。丁度肩と肘の間に太い亀裂が見られた。
「ちょ、ちょっと。触ったりして呪われないわよね??」
普段のそれよりも数段高く上擦った声を放つマイの言葉を無視し、カエデと考察を続けた。
「怪我をして、何かから逃げる様に命辛々ここに辿り着いたのか??」
「それは分かりません。主観で決めつけるのは良くありませんよ?? 骨の太さ、身長、服装からこの人は男性であると推察できます」
男性か。
男性にここまでの大怪我を負わせるのはそれなりの力が必要だ。
という事は……。この人に怪我を負わせた犯人は男か??
「おや、これは……」
カエデが何やら発見したようだ。
「失礼しますね」
人骨を退かすと、その下から黒ずんでもうその役目を果たし終えた鞄が出て来た。
「拝見させて頂きます」
彼女が彼に対して優しい口調で語り掛け、土と汚れで開き難くなっている鞄を開くと一冊の手帳を取り出した。
そして、人の言葉を理解出来るように一方通行の魔法を自身に付与して調査を続ける。
「ふ、む……」
手帳を読み始めた彼女から鞄を受け取り所有物の確認を開始。
鞄の中には、錆び付いたナイフ、虫が食って経年劣化したボロボロの紙切れ。そして今も使われている硬貨や紙幣が出て来るが特に目ぼしい物は見当たらなかった。
「他の持ち物に特別気になる事は無かったよ。その手帳には何て書いてある??」
「…………。これは、想像以上の収穫です」
カエデがふんすっ!! っと荒々しい鼻息を放つ。
興味津々といった感じで手帳を見ているので横から覗こうと、かなり近い位置に身を置いた。
「最初から見て行きましょうか」
「助かるよ」
彼女が捲った紙を冒頭の位置に戻してくれる。
「ちょ、ちょっと!! 私も読むっ!!」
怖いのならよせばいいのに。
「では、皆さん。彼が何故あぁなってしまったのか。その真相を解き明かして行きましょうか……」
「「お、おぉ……」」
此方を脅す為か知りませんけどね??
どうしてワザと声質を変えたのですか??
それに当てられたのかは理解出来ないが……。
「「…………」」
カエデの右肩に己の左肩をむぎゅっと押し当て。
反対側のマイも右肩を彼女の左肩へと押し当てていた。
「――――。コホンッ。御二人共、距離感が間違っていますよ??」
「あ、あぁ。ごめん……」
「わ、私は目が悪いから近くじゃないと見えないの!! 後、早く魔法を掛けてよ!!」
「マイはどちらかと言えば、視力は良い方ですよ??」
「い、いいの!! 隊長の命令は絶対なんだからね!?」
横着者に一方通行の魔法を付与し、俺はカエデの指示通りに正常な距離感を保ち。少し後ろから覗き込む形を取る。
しかし、彼女は先程の距離感を維持しながら手帳へと視線を落としていた。
何故彼が亡くなったのか。消えた四名の行方。
果たしてその原因は如何に……。
横たわる人骨が骨よりも硬い生唾を発生させ、それを喉の奥へと懸命に押し込み。三人仲良く手帳の中に眠る真実へと視線を泳がせた。
最後まで御覧頂き有難う御座いました。
次話では手帳の中身を執筆させて頂くのですが。 『』 この中で描く形を取らせて頂きますね。
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