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第七十二話 復唱せよ。水着は泳ぐ為の服、であると

皆さん、お疲れ様です。週末の深夜にそっと投稿を添えさせて頂きます。


それではごゆるりと御覧下さい。




 木々の合間から湿気を含んだ風がさぁっと吹くと。焚火の炎に力が宿り、勢いを得た彼が頭上の鉄の中の水を温める。


 琥珀色と若干の灰汁が浮かぶ液体の中にこんもりと盛り上がった御米と朝食の残り物である魚の切り身並びに刺身の切れ端を投入。


 醤油と塩で味付け、出汁は魚の骨と頭で取ったから十分ですので。後は落し蓋をして……。はい、終了です!!



 朝ご飯の残り物を利用した素敵な料理が出来るまで残り僅かですね。



 鍋の前で火の番を続けていると、少し後ろからだらけた声が届いた。



「ね――。出来た――??」


「まだだ」


「あっそ。あ、ユウ。もうちょいこっちにお腹向けて」



 本来であれば骨の髄まで食べ尽くすアイツが居るから米粒一つ残る訳が無いのですが。


 朝食に誂えた優しい味わいを提供したいとの考えに至り。



『おらぁっ!! そこに置いてある米と刺身持って来いや!!』


『つ、作りたい料理があるんだ!!』



 狂暴な龍から食材を奪われまいと必死に防衛しつつ、とある料理の提案をさせて頂き。



『ふぅむ……。それなら、まぁっ』



 此方の提案を渋々承諾して頂けたのだ。



 歯応えのある身が心を喜ばせてくれた石鯛の刺身。


 口の中に入れればホロっと崩れる焼き魚。刺身若しくは焼き魚に適さない魚の切り身は骨から丁寧に身を外し、まな板の上で細かく切り刻み。


 木の棒でコロコロと薄く延ばして、糊状になるまで磨り潰し。森の中に転がる木の枝に糊状の身を巻き付け火に当ててこんがりと焼いて竹輪にして頂きました。



 どの料理も彼女達の満足の上を行く物だったのか。



 夜営地内には朝食後の至福の時がふんわりと漂っていた。


 この素晴らしい時間を更に昇華させる為の料理の番を続けていると。



「退けよ。あっちぃんだから」


「いいや!! 退かないね!!」


「はぁ――……。まぁいいや。なぁ、レイド――。これから何するんだ??」



 後方で下らない攻防を繰り広げていたユウが此方の背に向かって本日の予定を問うてきた。



「今から?? ん――。特に決めていないな」



 どこぞの大馬鹿さんの御蔭で早起きしちゃったし。


 膨れたお腹を撫でながら昼寝……。には少々早い時間ですので。二度寝するのも良いかも。



「じゃあさ、皆で海に入ろう!! 実は水着を披露しようかと思っているんだ!!」



 水着?? あぁ、泳ぐ為の服を買うって言ってたっけ。



「態々お披露目する様な姿、形なの??」



 むっ!!


 そろそろ完成だな!!



「いや、そういう訳じゃなんだけど。折角海が近くにあるんだし。皆で楽しもうかな――ってさ」



 成程ねぇ。皆で楽しもうって算段ですか。


 和を重んじるユウらしい考えですな。だけど、着替えてまで泳ぐってのもなぁ……。



「レイド様。私の素晴らしい水着姿を是非とも御覧ください」



 アオイが静かにそう話すと。



「スースーしますけど中々の機能性です」



 カエデが若干眠そうな瞳で本を読みながらそれに続き。



「びっくりするんだからね!! 見ないと損だよ――??」



 元気な狼さんの前足が俺の肩をポンっと叩いて水着なる服の形状を端的に説明してくれた。



 素晴らしくて、びっくりして、スースーする様な形。


 皆目見当つきませんよ。



「そこまでお薦めするのなら海水浴ついでに拝見させて頂きましょうかね」



 よし、出来たぞ!!


 落し蓋をパカっと開くと、朝食後なのにお腹が減ってしまう香りが蒸気に混ざって揺らぎ。


 微風に乗って此方に届く。



 余り物で作った御雑炊の完成です!!


 出来る事なら鶏卵があれば良かったけども……。この際、目を瞑りましょう。



 先ずは味見をして……。



 火から鍋を外し、木の匙で御雑炊を口に含もうとしたのですが。



「出来たぁぁ!!!! これ、全部私のだからね!?」



 食欲の権化に鍋ごと強奪されてしまい、それは叶わなかった。



「わ、わぁぁぁぁ……。コトコト煮込んだ御米さんっ。こっちにいらっしゃい??」


「ちょっとマイちゃん!! 私達の分もあるんだよ!?」


「喧しい!! あんたに食わせる飯はぬわぁい!!」



 鍋の周りで燥ぐ二人を他所に。



「……」



 膝丈までの短いズボンと適当なシャツを荷物の中から取り出し、終始無言で砂浜の方角へと歩み出した。



「主。先に行くのか??」



 翡翠の瞳の狼さんが話す。



「皆着替えるんでしょ?? それなら先に行っていた方が良いだろ」


「直ぐに向かう。それまで待っていてくれ」


「了解――」



 彼女に軽く右手を上げ、木々の合間から朝と昼の間の陽射しが射し込む森の中へと進んで行った。



「んみゃ――――いっ!! ちょっと何よこれ!! 魚の味が米に染み込んでメチャうまっ!!」


「もいひ――!!」



 ふふ、俺の料理の腕も強ち捨てたものじゃないな。


 残り物だけで作った料理であれ程の雄叫びを上げさせる事が出来たのだから。


 只、お嬢さん達。


 森の中は今もシンっと静まり返っているのでもう少しお静かにして頂けると幸いで御座いますよっと。



 歓喜の声に背を押され。


 燦々と輝く太陽が待ち構えている砂浜へと向かい、踏み心地の良い土の上を進んで行った。



















 ◇




 レイドが見えなくなると同時。


 楽しい雰囲気が一転して、なぁぁんかピリっとした雰囲気になってしまった。



「ふっひゅ――!! 御馳走様でしたっ!!」



 お鍋の中の柔らかい御米さんを食べ終えたマイちゃんを除いて、だけども……。



 こ、これはきっと負けられない女の戦いが今から始まる知らせなんだよね!?



 可愛い水着を着て褒めてもらう為!!


 わ、私も負けられないもん!!



「さ――って。着替えるとするかぁ……」



 ユウちゃんが戦いの始まりを告げる口火を切ると。



「「「「…………」」」」



 皆が無言で自分の荷物へと向かって行く。



「ケプッ。っとぉ。えへへ、可愛い吐息が漏れちった」


「ねぇ、マイちゃん。そろそろ着替えたら??」



 幸せそうにお腹をポンポンと叩いているマイちゃんにそう言ってやる。



「あぁ?? あ――。食後の運動かぁ。良いわね!!」



 ぴょんと跳ねる様に立ち上がると、私の隣の荷物から真っ赤な水着を取り出した。


 マイちゃんに誂えた様な鮮やかな赤。


 レイドが見たらきっとマイちゃんの赤い髪みたいに頬を染めちゃうんだろう。



「この水着気に入ってくれるかなぁ??」



 自分の荷物の中から綺麗な向日葵色の水着を取り出し、己が体に宛がう。



 この日の為に買っておいたんだ。ちょっと頑張っても良いんだよね??


 ユウちゃんみたいにおっきくなくて、マイちゃんみたいに足も美しくないけど……。



 な、何だか。そう考えると不安になってくるよぉ。


 私なんかが水着を着てもいいのかな??


 この体、みすぼらしくないかな??



「ん――?? どうした??」



 隣で着替えているマイちゃんが私の様子を気に掛けて話し掛けて来る。



「ん――……。ちょっと自信無いからさ」


「何よ、急に。大丈夫だって、あのボケナスは私達の体型なんて気にしないって!!」



 元気よく背中を叩いてきたので少しばかり目を白黒させちゃった。


 私が凹んでいるのはその綺麗な足の所為もあるんだけどなぁ。



「安心なさい。レイド様の視線は私が独り占めですわ。ですからあなたは路傍に咲く雑草と思えばいいのです」



 それはちょっと言い過ぎじゃないかな??



「えぇい!! こうなったら自棄だ!! さっさと着替えて遊んでやる!!」



 勢い良く服を脱ぎ捨て、生まれたままの姿になってやった!!


 自信を持たないと駄目だよね!?


 私は私!! 皆は皆!! それぞれの個性があってそれぞれに特徴がある。


 レイドはきっと私を、私自身を見てくれる筈。



「よぉぉし。先陣はあたしが務めるかぁ!!」



 緑色の水着に着替え終えたユウちゃんが拳をぎゅっと握り、こわぁい音を響かせて森の中へと進んで行こうとするのだが。



「ユウ、待って下さい」



 カエデちゃんが牛さんの力強い歩みを止めてしまった。



「何??」


「砂浜に向かう順番を決めましょう」


「順番?? 何でぇ??」



 カエデちゃんの可愛い水色の水着をちょいちょいと突いて話す。


 わっ!! ココ、柔らかっ!!



 お胸ちゃんの横を突いているのに柔らか過ぎて指が驚いちゃった。



「この姿のまま私達が同時に砂浜へ到着したら恐らく、彼が困惑してしまいます。彼の目を慣れさせる為に一人ずつ向かうのですよ」



 私の手をペチっと叩き落としながら言う。



「あ――、はいはい!! そういう事ね!!」



 レイドは女の子に対してちょっと慣れていない節があるからねぇ……。



「では…………。この箱の中に一から六の数字が書かれた紙が入っています。引いた順番通りに砂浜へと向かいましょうか」



 着替え終えた私達に向かって小さな木箱を差し出す。



「じゃあ私から引くね――!!」



 小さな穴の中に指を突っ込み、小さな紙を求めて動かしてやった。


 どれにしようかなぁ――。


 どうせなら一番か、六番を引きますように!!



「あぁ!! 私が先に引く予定だったのに!!」


「マイ。先に引こうが、後で引こうが確率は変わりません」



 私が求める番号は六つの内、二つだからぁ――……。


 えぇっとぉ……。それを当てる確率はぁ……。



 分かんないや!! 後でカエデちゃんに聞いておこう。



「えぇいっ!!」



 勢い良く引いた紙に書かれていた数字は……。



「ん――。二番でした!!」



 カエデちゃんの目の前にズイッ!! と差し出して見せてあげた。



「近過ぎて逆に見えません。さて、お次は誰が引きますか??」



 に、二番か。


 悪く無い数字だよね??



 問題はぁ、誰の後になるかだよ!!


 この中で私と同じ位の体型は……。



「……」



 あそこでむすっとした顔を浮かべているリューかぁ。


 普段のキッチリした服から水着に着替えちゃってるから、その差にレイドがビックリして見惚れちゃいそうだ。


 マイちゃんなら大丈夫そうかも?? あ――、でも足がぁ……。



 こ、この際。


 少しだけ大胆に胸元を開いてやるっ!!


 むふふぅ。レイドぉ、ちょっとだけ背伸びした夏の私を見て驚いてよね!!




















 ◇









 暑い。


 暑過ぎる……。朝の余韻が過ぎ去った砂浜は熱砂で覆い尽くされ。頭上から照り付ける太陽が。



『まだまだ温めてやるぜ!!』 と。夏の青空に相応しい輝きを放っていた。



 影で溢れる森を抜け、一人寂しく熱砂の上で立ち尽くす。



 影という影は一切見当たらず、光に占拠された此処はまるで太陽が住む砂漠だ。


 否、影はある。


 人の大きさ程の頼りない人影ですけどね。この小さな影さえも目障りだと言わんばかりに陽射しが秒を追う毎に強くなっていく気がしますよっと。







 頬を伝う汗が顎の先に到達し、熱砂に滴り落ちて僅かな染みの跡を形成するが。直ぐに蒸発して一切の痕跡を残さず消失してしまった。



 砂浜で待っていろと言われたが……。こうも馬鹿正直に待っている必要は無いよな??



 何気なく海に向かって歩き始め。波打ち際に足を置き、火照った足を押し寄せる波に晒す。



「おぉ……。丁度いい冷たさだ」



 波が砂を掬い取り、沖へと運ぶ感覚を足の裏で掴み取る。何だかくすぐったいようなもどかしい感覚だ。



 空を見上げれば雲一つない青空、正面は何処までも続く紺碧の海。


 正に風光明媚とはこの事ですが……。


 仲間達はオークとの戦い若しくは与えられた任務で疲弊しているというのに、馬鹿正直に休んでいてもいいのか。



 いや、まぁこれはレフ准尉に言われた通りの休暇なのだが。真面目な自分が早く体を動かせと命令しているのですよ。


 休む事も仕事だと彼に対して何度も告げているのですがまるで聞きやしない。


 向こうの大陸に帰ろうにも船が来るのは二日後。


 彼を宥め続けながら残りの休暇を楽しむ事に専念しよう。





 紺碧の彼方へぼんやりと視線を送っていると、背後の森の方からユウの快活な声が届いた。




「おぉ――い!! レイド――!! お待たせ――!!!!」


「あぁ、別に構わな……。ぃっ!?!?」



 光り輝く太陽を浴びて、健康的に焼けた肌の女性が此方へ向かい。右手を振りながら小走りでやって来る。


 うん。


 それだけなら何も問題無い。



 だけど、一つ。いいや、彼女は幾つもの問題を引っ提げている。



 問題その一。


 泳ぐ為の服、つまり水着を着用して向かって来る筈なのに何故彼女は下着姿なのだろうか??


 ユウの髪に誂えたような鮮やかな緑が大変良く似合っているのですが、布の面積の少なさに困惑してしまいます。


 

 問題その二。


 此れが最大の問題です!!


 彼女が弾む度にバルンッ!! っと上下に激しく揺れて激しい自己主張を開始。アレの動きを目で追うと、自分でも笑える位にコクコクと頭が揺れ動いてしまうのが理解出来た。



 な、何ぃ。あれ??


 や、山?? いやいや。そんな生温い物じゃない。



 アレはそう、この世の理から外れた存在だ。


 この世に存在する普遍的な女性はあの様な恐ろしい物を装備していませんので……。



「着いた!! お待たせ!!」



 此方に到着するなり、快活な笑みを浮かべてくれるが。



「うん?? どうした??」


 俺の顔を見つめると、小首を傾げてしまった。


「別に??」


 予想外の存在から咄嗟に視線を外し、遠くに見える地平線に視点を置く。


 これは駄目ですね。直視したら心が吹き飛んじまうよ。



「どう?? この水着?? あたしも結構悩んだんだぞ」



 これ見よがしに腰に手を当てて、緑の水着なる物を見せつけて来る。



 御胸の大部分は隠れているが、下側。並びに左右から少々溢れ出ていますよ??


 隠しているのに隠しきれていない。


 この矛盾をどうにかしない限り俺は一生直視出来ません。



「に、似合っているよ」



 お願い。


 ソレ、仕舞おうか??



「本当にぃ?? ほれ、ちゃんと見ろって!!」



 無理矢理此方の視線に入ろうとしないで下さい。


 直視したら理性が吹き飛んじまうよ……。




「レイド――!! お待たせ!!」



 ルーが軽快な声を上げつつ此方へと向かって来た。



 美しい灰色の髪が太陽の下で輝きを放ち、健康的な体にそれは良く栄えている。


 向日葵色の水着は彼女の体にとっては脇役だな。それを栄えさせる為の服でしかない。


 いつもの元気な姿からは想像出来ない女性らしい肉付きに心がちょいと騒いでしまった。



「どうどう!? 似合ってる??」


「これが普通、だよな」


「普通?? あぁ、これ見ちゃった後だもんねぇ……」


「これって何だよ!! これって!!」



 ルーの言いたい事は痛い程分かるよ。


 ユウのあれは見てはいけない部類ですからねぇ。



「レイド様。お待たせしましたわ」


「アオイは……。あれ?? 水着は??」



 黒の着物の下に着用する白の長襦袢を着用し、嫋やかな姿で砂浜の上に立っている。



「うふふ……。今からお見せ致しますわ……」



 長襦袢の帯へと淫靡に指を掛け、なまめかしい所作で服を解いていく。



 え、えっと……。


 着物を脱ぐ時の音って物凄く厭らしく聞こえませんかね??



 シュルシュルと服が擦れる音が響き、彼女の胸元が大きく見開かれた。



「さぁ……。舐める様に御覧下さいまし……」



 肩からそっと長襦袢を外すと、中からこれまた直視出来ない代物が現れてしまいましたよ。



 アオイが着用しているのは布では無くて紐だ。


 際どい部分は一応隠れているが。それ以外の肌の露出が激し過ぎる。


 白く、そして流れるような線の体。それに不釣り合いな豊潤に実った果実。そして、世の女性も羨む程の長い脚。ユウとルーの健康的な体付きとは真逆の、妖艶な肉体に思わず息を飲んでしまった。



 だ、大体!! 水着って物は服じゃなかったのか!? どれもこれも服の意味を履き違えているぞ!!




「実は……。後ろも凄いのですよ??」


「「「ブフッ!!!!」」」



 彼女がクルっと振り返ると俺達三人は同時に目を見開き、盛大に吹いてしまう。



 臀部の半分が隠れていない。いや、寧ろ全開??



 一瞬しか視線に留めなかったので判断しかねるが、桃と桃の間に一本の紐が通っていたとしか見えなかった。


 凡そ水の中で着る服では無いだろう。暑さに頭をヤラれてしまった人が着用する紐ですよ。



 い、いかんぞぉ……。


 落ち着け。


 心に澄んだ水面を映すんだ。



 今こそ師匠の教えに従い、荒れに荒れまくっている水面を鎮めつつ。心の中であれは泳ぐ為の服であると復唱を続けた。




「ちょっとアオイちゃん。これどうなってるの??」


「女性らしい体を全面に出した戦闘服とでも申しましょうか。レイド様っ、如何です??」


「そう言われましても……」



 見ろと言われて見れる代物では無い。


 太陽の光さえも侵入させまいと、瞼をしっかりと閉じて荒ぶる心を鎮め続けた。




「真打登場よ!!」


「主、お待たせした……」



 お、マイとリューブが到着したか。


 だけど、少々お待ち下さいね――。今は心を鎮めている最中ですので。



「誰が真打ですか。私のような素晴らしい体をもった女性こそ、真打に相応しいのですよ」


「はぁ?? あんたアレ見てそんな事言えるの??」



 アレ、恐らくユウのあれを指差したのだろう。



「あれは……。この世に存在してはいけない代物ですわ。ですからあれは比較対象外です」


「いいよいいよ。よってたかってあたしの事化け物扱いしてっ」


「仕方ないよ、ユウちゃん。私もそれには驚いているもん」



 よぉし。


 何んとか正常な凪に戻って来たぞ。



 普段の日常会話が荒ぶる凪を鎮め、強制的に湧き起ころうとする男性の性を見事に封印し。


 静かに瞳開けた。




「あはは!! そうよ、早く封印しちゃいなさい!! ん?? どうした??」


「あ、いや。何にも……」



 深紅の髪に赤の水着。自然界で特に目立つ色についつい視線が奪われてしまっていた。


 食欲の権化とは思えぬ整った体型、黄金の槍を振り回しているとは思えぬ細い腕。


 風に流れる髪はまるで燃え盛る炎のように映り青に染まるここでは際立つ。美しい流線を描く脚線美、そして何より……。




 コイツの笑顔が強烈に印象に残った。




 マイってこんな素敵な笑みを浮かべていたっけ?? 俺の心の中のコイツの顔は。



『ウェハハハハ!!!! くたばりやがれぇぇぇええ!!!!』



 悪魔も思わず顔を反らしてしまう恐ろしい顔だったのに……。


 いつの間にやら上書きされちゃった??




「主、どうした??」



 おっと。


 こっちも目に毒だった。


 風が灰色の髪を悪戯に動かすと翡翠の瞳に掛かりそれをリューヴが指で優しく払う。


 そんな何でもない仕草でここまで視線を釘付けにするのだろうか。


 白と黒の水着がせめぎ合い体の線をより強調していた。


 少しだけ傷跡が目立つがそれ以上に彼女の健康的な肌に世の男性は視線を奪われてしまうだろう。


 程よく育った果実に、スラリと長い脚。これがマイ達と死闘を演じた者の体型だとは信じられませんよ。




「お待たせしました」



 そして、最後は海竜さんの登場ですね。



 やっと真面な泳ぐ為の服らしいものが現れ、思わず安堵の息を漏らす。



 青い空の下で白い砂浜の上に立ち、爽やかな水色の水着を着用する藍色の髪の女性。



 これは間違いなく絵として描けば芸術作品として馬鹿売れするだろう。


 華奢な肩から伸びる頼りない細い腕。


 少しだけ開いた胸元からは、その体付きには不釣り合いな果実の一端がちょいと垣間見える。


 上半身の水着は敢えて肌を隠すように作られており、その下に何が隠されているのか。飽くなき男性の興味をソソル様に設計されている様ですね。



 現に俺も見ちゃっているし。



 長いスカートの裾から覗く白い肌も良い。


 風に靡く髪を抑える繊細な指、そして俺の視線を感じ取ったのか。



「……っ」



 恥じらうように少しだけ体を動かす仕草はどこか小動物の愛くるしさを連想させた。




「レイド様!! 見過ぎですわ!!」


「あ、あぁ。ごめん」


「堪能しましたか??」



 ここの雰囲気に流されたのだろうか。


 カエデの少しだけ大胆な発言にドキリとする。

 

 夏は人を開放的にすると言いますけども、それは真面目な彼女も例外ではありませんでしたね。




「レイド――!! 海に入ろうよ!!」


「は?? 俺はまだ服着たまま……。ちょっとぉ!!」



 ルーが強引に俺の服を引っ張り。紺碧の海へと強制的に移動を開始させ。



「てや――!!!!」



 そのまま水中へと誘われてしまった。



「ぶはっ!! おい!! ずぶ濡れになっちまったぞ!!」


「いいの!! それ――!!」


「つめてっ!!」



 海水を掬うと無邪気にこちらへ向けて勢い良く掛けて来る。


 その姿は魔物とは思えぬ、どこにでもいる普通の女性にしか見えなかった。




「どっせい!!」


「へ?? きゃ――!!」



 背後ろからユウが参戦し、ルーへ海水を……。いや、あれは波だな。



 怪力娘さんの腕から発生した大波がルーを襲い。彼女はそれに攫われて横転。



「ぷはぁっ!! ちょっとユウちゃん!! 死んじゃうよ!!」



 ビッチャビチャに濡れた灰色の髪を引っ提げて海中から現れ、これでもかと憤りを放った。



「ははは。悪い悪い、ちょっと力入れちゃったよ」



 今のでちょっと……??



「どぉぉりゃぁぁああ!!!!」



 今度は朱の髪の女性の参戦ですね。



「何!? どわっ!!!!」



 ユウの背後から襲い掛かり、見事な飛び蹴りを放ち。彼女を海中へと叩き付けた。



「はっは――ん。ユウ、後ろががら空きだったわよ??」


「ぶはぁ!! こんにゃろう……。かかって来い!!」


「望むところよ!!」



 おっと、これは不味い。予期せぬ所で龍とミノタウロスの頂上決戦が始まってしまった。


 巻き込まれる前に退散しようかしらね。余計な怪我はごめん被りたいので。




「とぅっ!!」


「はっは――!! 予想通りよぉ!!」



 真正面から襲い掛かるマイの蹴りを軽々受け止め。



「いってらっしゃ――――い!!!!」


「へ!! きゃぁぁぁぁああああ!!」



 両腕で小さな体を抱え上げ、常軌を逸した力で天高く放り投げてしまった



 おいおい、あの高さ。大丈夫か??



「――――ぁぁぁぁああああ!! アブヌグ!?!?」



 マイが海面に到着すると激しい水飛沫が上がり。



「こ、この馬鹿乳娘めぇ。よくも放り投げてくれたわね」



 鼻頭に皺を寄せて怒りを露わにした彼女がゆっくりと海面から現れたのですが……。



 あれ?? 何か足りな……。



「マイちゃん!! 後ろ!! 取れちゃってるよ!!」


「へっ?? おわわぁぁぁぁああああああああ!!!!!!」



 自分の胸元を確認すると真っ赤に燃える夕日にも負けない程の赤さになり。咄嗟に両腕で隠すと海の中に上半身全てを浸からせた。



「ちょっと、そこのボケナス……」


「はい、何でしょう??」



 出来るだけ彼女を怒らせない様に穏便な口調で返事を返す。


 勿論、背中を向けてです。



「――――――。見た??」





 立ち昇る水飛沫で詳細までは見えませんでした、と答えたら首を捻じ切られる。


 青い空に栄えた綺麗な肌でしたね?? と言ったら口から手を捻じ込まれて心臓を引っこ抜かれる。


 慎ましい胸板で御座いました、と話したら上半身と下半身が永遠の別れを告げてしまう。


 水の抵抗を受けないから外れたんだね、と言葉に出したら喉の奥に槍をぶち込まれて一生口が開けなくなる。


 もうちょっと小さめの水着を買ったら?? 何て言った日には俺の指を一本ずつ丁寧に切り落とし、鍋でグツグツ煮てから無理矢理口に入れられ食わされてしまう。




 どの選択肢を選ぼうが、地獄へ繋がってしまう一本道ですねぇ。


 この場合は曖昧、有耶無耶に答えるのが最適な答えだ。 



「………………。いいえ??」



 お願いします!!


 ど――か見逃して下さい!!




「その間はどういう意味だぁぁ!!!! 死ねぇぇええ!!!!」


「や、やめ……。あぐっ!?」



 背後から常軌を逸した痛みが背中を襲い、砂浜付近の海面に叩き付けられてしまう。当然、勢いはそこで終わりを告げる訳は無く。



 何度か海面を撥ね、砂浜に到達してからも景色が目まぐるしく移り変わり。


 口と鼻から大量の砂を摂取した所で漸く停止してくれた。




 俺の背中、曲がっていないよね??



「あはは!! ユウちゃんも外れそうだよ――!!」


「ぬおっ!? これでも店で一番デカイ奴だったんだけどなぁ――……」


「さっさと直せ!! 後、そこのお惚け狼!! 私の水着返せや!!」


「や――!! こっちだよ――!!」



 ルー、そのままソイツをずぅぅっと沖へ誘導して下さい。


 そうすれば恐ろしい攻撃に苛まされる事もありませんので。



「レイド様ぁ。私が癒して差し上げますわぁ……」


「……」



 無言のまま、砂浜の上で転げ回りつつ此方の背に無理矢理乗ろうとする白い髪の女性の攻撃を回避。



「あんっ。逃げないで下さいましっ」



 糸で体を捕らえられるものの。



「風紀の乱れは心の乱れです」



 賢い海竜さんの風の刃が糸を寸断。これを好機と捉え、漸く頭の命令を聞き始めた両足に退却命令を指示し。


 取り敢えず、誰も存在しない砂浜の隅っこへと駆けて行くのであった。




最後まで御覧頂き誠に有難う御座いました。


深夜の投稿になってしまい、大変申し訳ありませんでした。



そして。


ブックマークをして頂き有難う御座いました!! 本当に嬉しいです!!!!



今年の四月から連載を始め、当初の目標であった総合評価ポイント100が現実実を帯びて来ました。


皆さんが喜んで頂ける話を執筆出来るように精進させて頂きますので、これからも末永く御覧頂けたら幸いです!!


それでは、おやすみなさいませ。

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