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第六十九話 温泉は静かに浸かりましょう

お疲れ様です。


本日の投稿になります。


それでは御覧下さい!!




 夜風が森の木々の合間を縫って通り抜けていくと、食後の余韻で弛緩してしまっている体が更に溶け落ちてしまう。


 目の前で揺らめく炎が火の粉を放ちその行方を追って空を見上げれば、木々の合間から幾万もの星達の煌めきが確認出来た。


 心が溶け落ちてしまいそうな景色の中で特に何をする事も、何を考える事もせずに地面の上で休息を満喫していると。



「ユウ――。もうちょいお腹こっち向けて――」



 トッロトロに溶けたチーズよりもだらしなく地面に溶け落ちているマイが、船酔いから復活を遂げたユウの腰をちょいちょいと突く。



「あのな?? あたしはさっきまで気分が最悪だったんだよ。その人に対して、腹の上に頭を乗せるのはどうかと思うぞ??」


「私は気にしない!! とうっ!!」



 彼女の了承も得ずに堂々とお腹の上に頭を乗せ。



「はぁ――!! 飯も美味かったし、景色は最高!! こりゃ言う事ねぇや」



 傾斜に従ってドロっと流れ落ちて行く溶岩も参りましたと言わんばかりに体を弛緩させ、ドロドロに溶け落ちてしまった。



「もう抵抗するのは諦めたよ。好きにしろ」


「さっすが!! そういう所が大好きよ!!」


「あたしはお前さんのそういう所が嫌いだね」



 あはは、辛辣です事。



 夕食も普通に摂れていたし、ユウが回復して良かった。


 帰りの船でもまた酔うのかな??


 船酔いになり難い方法があれば良いのだが……。カエデに聞いておこう。


 物知りな彼女の事だ。一つや二つ、対処方法を教示してくれるでしょう。

 



 方々で立ち昇る軽快な雑談を何とも無しに聞き流していると、ルーが徐に立ち上がり口を開いた。




「皆温泉行こうよ!!」



 捜索班が発見した温泉は此処から北へ向かって約十分歩いた場所にあると聞いた。


 御飯を食べて体に栄養を送り、後は一日の汚れを落とすだけですからね。




「いいわね!! お腹も膨れた事だし、湯を満喫しますかね!!」


「賛成――。ゆっくり浸かって昼の不快感を洗い流したい」



 それに呼応するようにマイとユウが軽快に立つ。



「ちょっと。夕食の片付けが終わっていませんわよ??」


「そうだ。主の手を煩わせるな」




 素敵な夕食後には当然と呼ぶべきか、後片付けという辛い仕事が待ち構えているのです。


 俺の背後には早くピカピカに磨き上げろと思いの丈を叫び続けている食器類が山積みになっているからね。



「行って来なよ。こっちは俺が片付けておくからさ」



 手伝う姿勢を見せてくれたアオイとリューヴにそう話す。



「いや、しかし……」


「ほら、カエデも本を読んでいないで行って来なさい」



 歯痒い顔を浮かべるリューヴ並びに、本日も読書に勤しむ彼女へと促す。



「分かった」



 小さく息を漏らすと本を傍らに置き、静かに立ち上がった。




「ではレイド様、御先にお風呂頂きますわね」


「主、申し訳ない。行って来る」


「はいよ――。迷子にならないようにね」



 さて、俺は一人で大仕事か。


 忙しくなりそうだな。



 心の中でヤレヤレと愚痴を零すのだが、心の隅っこに居る真面目な自分は此れが俺の仕事だと厳しい顔を浮かべていた。


 それは理解しているけども、偶には誰かが全部片づけてくれても良いんじゃないのかな??


 その善意を受け取りつつも結局は手伝っていそうだけどさ。



 食器類を重ね、カエデが満たしてくれた水で一仕事始めるとマイが何かを思い出したかの様に此方へと振り返った。



「あ。そうそう、分かっていると思うけど……。もしも覗いたら死よりも恐ろしい恐怖があんたを待ち構えているから。そこんとこ宜しく――」



「重々承知しております」



 誰が覗くか。


 そんな事してみろ、命が幾つあっても足りやしないって。



 待ち構える湯に期待感を膨らませた彼女達の背中を見送ると早速片付けに取り掛かった。

 


 鍋の焦げ付きは禁物だ。これを放置しておくと直ぐに駄目になってしまう。


 それにお椀も洗って……。本当にやる事が山積みだな。


 でも。こうして体を動かしていると充実感というか、達成感に近いものを感じてしまう。


 いかんなぁ。折角の休暇だってのについつい何かやる事を探してしまう。この癖はそ早々治りそうにありませんね。


 鍋の汚れを擦りながらそんな事を考えていた。




























 ◇




 既にどっぷりと日は落ちて、森の中は暗闇と静寂が何処までも広がっている。



 まぁまぁの腹具合を引っ提げ、シンっと静かな森の中をダラダラと歩いているのだが……。


 淡い月明かりが木々の合間から射すものの、こんなちゃちな光量ではどうしても足元が頼りない。



「わっ!! 危ないわね……」



 そう思った矢先にこれだ。木の根っこに爪先を引っかけてしまった。




「はぁ……。道は此方で合っているのですか?? 不安で仕方がありませんわ」



 蜘蛛が私の失態を見付けてそう話す。



「はぁ?? 私達の事を信用して無いって言うの??」



 こいつはいっっつも一言多い。


 今も私の様子を見て不安に思ったに違いない。


 だったら一人で何処かへと行っちまえ。そう言えればどれだけ楽か。


 いいや、この際言っちゃう??



「安心しろ。合っている」



 私の代わりにリューヴがふつ――に答えてしまった。



 ふんっ。


 少し位嫌味ったらしく言いなさいよ。



「アオイちゃんは暗くても見えるの??」


「蜘蛛は目が良いのですわ」


「私達と一緒だね!!」



 ほぉ、夜目が効くのはルー達もそうなのか。


 足も速けりゃ耳も良くて、その上目も良いときたもんだ。


 狼って生き物が身体能力に特出している事は、リューヴ達との激戦。並びに日常生活から何となぁく理解していたけどね。



 六名の女性が暗い森の中を明るい会話を続けながら進んで行くと、森の奥から漂って来た温泉特有の香りを鼻腔が捉えた。



「そろそろ見えて来るよ!!」



 お惚け狼を先頭に草を掻き分けて進むと、月明りに照らされた白濁の温泉が私達を迎えた。


 昼のそれに比べると、頭上から降り注ぐ淡い青の光に照らされた立ち昇る蒸気が美しく揺らめき。随分と幻想的な光景を演出していた。



「おぉっ!! すっごい綺麗じゃん!!」



 ユウが上半身に装着している拘束具を脱ぎながら話す。


 お、お願い。


 ゆ、ゆっくり脱いでね??


 あんたのソレを見つめるのにはそれ相応の覚悟がいるからさ……。



「レイドから伺いましたが、彼の上官と仲間達が石を運んでこの浴場を構築したみたいですよ??」



 んまっ!!


 綺麗なあんよちゃん!!



 カエデってさ、普段から肌を露出しない所為か。


 地肌がすんごいツルツルなのよねぇ……。私も肌を隠したらあんな風に綺麗になるのかしら??



「へぇ!! そうなんだ。とぅっ!!!!」



 お惚け狼が人の姿に変わらず、狼の姿のままで湯へと突入。



「「おわっ!?」」



 近くに居た私とユウに大量の水飛沫をぶっかけやがった。



「何すんのよ!! 掛かったじゃん!!」


「あはは!! 今から濡れるから別にいいじゃ――ん」



 そういう問題じゃねぇ。


 コイツには一度、湯に浸かる時の礼儀。並びに作法ってのを教えてやらにゃ……。



「ユウさんやい」


「何だい?? マイさんやい」



 おっほ。


 流石ユウ!! 私の一言で此方の意図を汲んでぇ……。


















「ン゛ッ!?!?」


「どした?? 寝起きで直射日光浴びたモグラみたいに両手で目を塞いで」



「あんたの呪物を見たくないからよ!!」



 ど、ど、どうやったらそんなデカさに育つのよ!! 夏の恵みを受け過ぎて巨大に成長しちゃった西瓜じゃん!!


 大体同じ物を食べているってのにぃ!!



「しらねっ。ルー!! 風呂ってのは元気良く入って良いけど、人に迷惑を掛けちゃ駄目なんだぞ!!」



 私の言葉をサラっと流して、プリンプリンのお尻を左右に振りながらお湯へと入って行ってしまった。



 うむむ……。


 胸もデカくて、尻も良い形。


 健康的に焼けた肌が白濁の湯と実に良く似合う。



 やっぱユウって良い体してるわよねぇ――……。



「うひょ――!! きもっちいい――!!」


「ねぇ――!! いいお湯だよね!!」



 ニッコニコの笑みを浮かべる狼と肩を組み、心地良さそうに湯を享受しているのだが。



「ちょっと。熱くないでしょうね??」



 そう。


 それだけが不安だ。


 向こう側は源泉だし、流れ次第ではこっちに熱い湯が流れて来る恐れもあるのだ。



「何だよ、マイ。ビビってんの??」


「マイちゃんって意外と臆病なのかなぁ――」



 ちぃっ。


 この二人には龍の恐ろしさを分からせてやらねばなるまいっ!! 



「冗談。でやぁぁっ!!!!」



 生まれたままの姿で空へと高く舞い上がり、驚愕の表情を浮かべる二人の下へと超絶カッコイイ舞い降り方で着地してやった!!




「「わぁぁぁぁっ!!」」



 白濁の波を受け奥側へと流れていく両名を見送り、肩までチャプンと浸かってやった。



「あ、はぁ――。い――い湯じゃない」



 全身隈なく湯に浸かると今日一日の疲れが体の中から溶け出し、湯に吸い込まれるような感覚に陥る。


 こ、こりゃいいや。


 実に心地良きかな……。



「あっっっつうい!!」


「うっさいわねぇ。こちとらゆっくり浸かっているってのに」


「あち!! あちち!! マイちゃんが馬鹿みたいな入り方するから源泉の方に吹き飛んじゃったじゃん!!」



 プンプンと怒りを露わにした狼が慌てふためきながら犬かきで此方に向かって来た。



「馬鹿は余分だっつ――の。ほら、ユウは何ともないじゃん」


「いやぁっ!! こっちもいい湯だな!!」



 快活な笑みを浮かべる深緑の髪の女性を指差してやる。



「あっれぇ?? 私が吹き飛んだ場所だけ熱かったのかな??」



 …………っ!!


 閃いたっ!!



 私の頭の中にピコンッ!! っと悪魔的な悪戯が浮かび上がってしまいましたよ!?



「多分そうでしょ。ほら、試しにユウの所に行ってみなって」



 ミノタウロスの娘は温度の変化に大変お強いのです。


 先日、素手でアツアツの飯盒を掴んだのが良い証拠。


 つまり!! あそこで満面の笑みを浮かべて湯に浸かっているのだけれども、恐らく。それは頑丈な体があってこそなのだ!!



 さぁ――……。


 向かって行けぇ、愚か者よ。



「ふぅん。ユウちゃ――ん。そっち行くね――」


「ん――」



 ぷっ!! クスス……。


 ユウの奴め、お主もワルよのぉ……。



 敢えて熱そうな表情浮かべていねぇし。それに、私の意図を汲み取ったのか。手招きまでしてるし!!



 私達の悪戯を理解出来ていない狼がユウの下へチャプチャプと犬かきで泳いで行くと……。



「ぎゃっちぃぃいいい!! 嘘でしょ!? 熱湯じゃん!! ココ!!」



 湯の中で飛び跳ね、此方へと泣きながら泳ぎ帰って来た!!



「ぎゃははは!! ル、ルー!! あんた馬鹿ねぇ。ユウは馬鹿みたいに体が頑丈だから耐えられるのよ」


「あはは、わりぃわりぃ。ちょっと揶揄っちゃった」



 此方へと戻って来たユウがピスピスと情けなく鼻を鳴らす狼の頭をヨシヨシと撫でた。



「ふ、ふんっ。もうマイちゃん達の言う事はぜっったい聞かないからね!!」


「悪かったって」



 まっ、あんたの場合。


 二、三日すれば忘れてしまうでしょうね。 



 座り心地の良い場所を陣取り。湯を掬って顔に掛けてやる。



「ぷはっ。あったまるわ――」



 心なしか、体がスベスベになってやしませんかね??


 温泉の効能って奴か。



「マイちゃん、その言い方おばあちゃんみたいだよ??」


「五月蠅い。温泉はこうやって入るものなの」


「へぇ?? そうなの」






「ルー。何でも信じるのは良い事ですが。鵜呑みにするのはいけませんよ??」



 蜘蛛が大きな手拭いで胸元を隠し、此方に向かって湯をかき分け入って来やがった。



 きしょくて白い髪が濡れないように後ろに纏め、軟弱で情けない華奢な肩が露出している。


 女性特有の丸みを帯びた体と、ユウ程では無いが形が良くて整った双丘が私の心に苛立ちを募らせる。



 くそっ。


 こいつ……。成長していやがる。


 憎たらしいったらありゃしねぇ!!!!



「アオイちゃん綺麗だね!!」



 ルーが興味津々といった感じできしょい肌に鼻頭を当てる。



「褒めていただき光栄ですわ。ですが余り触らないように。この体はレイド様の所有物ですのよ?? 温泉で美しくなった体を是非とも堪能して頂かないと……」



 まぁぁぁたそれかよ。


 こいつの頭の中を覗いて見てみたいわ!!


 ど――せ!! 卑猥な色一色だろうけどさっ!!




「ルー。余り騒ぐな。皆が迷惑している」




 うんぬぅっ!?


 こ、こりゃぁあ驚いた……。リューヴって意外と大きいのね……。


 それに所々の傷は目立つが肌も綺麗だ。



 移動中の水浴びでは恥ずかしがってあんまり見せてくれなかったけど、こうしてちょいと明るい所で見るのは初めてだからびっくりしちゃったじゃん。



「おぉ?? リューヴ、良い体してんじゃん」



 ユウも私と同じ意見なのか。


 彼女の体を品定めしつつ話した。



「そうなのか?? 余り自分の体には興味は無い。いや、筋力には興味があるな。鍛えられた体は嘘をつかん。日に日に増して行く力に喜びを感じるぞ」



「リュー……。それは男の人が言う台詞だよ??」


「ふんっ。女々しいのは好かん」



 そう言うと肩まで湯に浸かってしまった。


 残念。もうちょい観察してやろうかと思ったのに。




「駄目ですわよ?? ルーもリューヴも女性なのですから。もっと美しさに気を配らないと」



「ん――。私達の里ではそういう事は余り重要じゃなかったからなぁ」


「何が重要なのよ」



 ちょいと興味が湧いたのでユウの隣で、気持ち良さそうに湯に浸かるリューヴに聞いてみた。


 まぁ――、多分。あれだろうけど……。



「純粋な強さだ」



 ほらね?? やっぱりそうじゃん。



「弱者に存在価値など無い」



「あんたねぇ。まだそんな事言ってんの?? この前ボケナスにガツンと言われたばかりじゃない」



 疲れ切って起きた後で聞いたんだけどぉ……。


 何だっけ??


 え――っと……。強き者が弱者をうんたらかんたら、だっけ??


 兎に角!!


 偉そうに説教を垂れてリューヴはそれに感銘を、そして掟に従って私達と行動を共にする事になったのだ。




「分かっている。主に言われ私も思う事があった。今は考え方を変え、強者は弱者を救いそして導く為に存在する。そう考えるようになってきた」



 へぇ。あいつの言う事にも意外と説得力があるのね。


 私は何を言われようが食べる事はやめないけど!!!!





「――――。強さだけでは無く、知識も重要ですよ??」



 背後からカエデの声が届く。




「何よ、やっと入って来たぁぁ…………」



 はぁぁぁぁ…………。

 

 世の中はほんっっっっとうに不公平だ!!



 まるで陶磁器の様な滑らかで艶を帯びた肌。


 触ってしまえば傷付けてしまう、そんな頼り無ささえも感じてしまう。


 実りの季節を迎えたふくよかな二つの果実。世の男性はその藍色の瞳に見つめられたら誰でも等しく魅了されてしまうだろう。



 どうして私の周りにはこうも綺麗な奴が多いのよ!!!!



 インチキよ!! インチキ!!



「はぁ……。いいお湯ですね」



 鶯のような透き通った声色。まるで憂いを帯びたように発せられ、聞いている此方を嫌でも惹き付けてしまう。



「皆さんどうかしました??」



 小首を傾げるその様は小動物のように見え、愛おしさを倍増させてしまった



「カエデちゃんってさぁ……」


「何でしょう」



 ルーがカエデの背後へゆぅぅっくりと移動する。



「意外とおっぱいおっきいよね!!」



 そして、両の前足を器用に動かし。彼女の果実をガバッ!! と持ち上げてしまった。



 んぬぅっ!?


 で、でけぇ……。


 カエデめぇ……。私の許可無く育ちおって!!!!



「くすぐったいです」



 しかし、私達にやられ過ぎた所為で耐性が備わってしまったのか。


 持ち上げられる程度では大した効果は得られない様ね。



「あれぇ?? 効いてない??」



 そしてぇ、悪戯において。私達二人に敵う者はいないのさっ。


 ユウがそそ――っとルーの背後へと移動し。



「ルー……。弄るってのはなぁ。こうやるんだっ!!」



 脇腹からにゅっと両手を伸ばし、がっちりと脇を捕獲。



「キャハハハ!! ちょっと!! や、やめ!!」



 時には激しく、そして時に嫋やかに狼の脇腹を撫で回し始めた。



 お、おぉ……。


 ユウの奴め。


 素晴らしい指捌きじゃない……。恐れいったわ。



「は、放して!! あ、あはは!! 取れちゃうよぉ!!!!」


「あたしの力から逃げられると思うなよ!!」




 気の合う仲間とのじゃれ合い、ね。


 生まれ故郷で味わう事の無かった朗らかな雰囲気に思わず笑みが零れてしまった。


 良いわよねぇ。こうして下らない事やって、温泉に浸かって……。



 最近はずっと歩いていたし丁度良い機会かも。夜空を見上げ、若干呆れた顔を浮かべている月をじっと見つめた。




「あ――……。笑った。こんなに楽しくなるのなら、レイドも来れば良かったのにねぇ」


「はぁ?? 何でアイツと一緒に入らなきゃいけないのよ」



 ルーの突拍子もない発言に耳を疑う。



「マイちゃんは嫌なの??」



 ユウの攻撃によって、激しく舌を出してハァハアと息を荒げる狼が話す。



「当り前よ。何でアイツなんかと……」



「あたしは別に構わないけどな?? 一応、タオルで隠すけどさ」



 ユウさんやい!?!?


 それは大胆発言過ぎでは!?



「はぁ?? あんたまで……。一応アイツも男よ?? 何が起こるか分かったもんじゃないわ」



「私はその間違いを期待しますわ。湯の中で二人……、体を絡ませて……」



 はいはいっと。


 虫は、無視無視。なんつって……。



「主とか……。ある程度の距離を置けば可能だが……」


「却下です」



 リューヴとカエデは少しばかり羞恥心が勝っているようだ。


 あ、いや。


 カエデは完全拒絶か。




「マイちゃんは何で嫌なの?? 皆で入った方が楽しいじゃん」



 ルーがきょとんとした顔で問う。



「この美しい脚線美は男にそうそう見せる訳にはいかないからねっ」



 ど――だい?? ど――さ??


 美しくて声も出ないだろう??



 白濁の湯から御美しいあんよをにゅっと出してやった。





「あ――……。綺麗だけどさぁ、意外と短いよねぇ。マイちゃんの足……」



 はい、死刑執行!!



「誰が短足だごらぁぁ!!!!」



 お惚け狼の胴体を掴み、熱湯の方角へとぶん投げてやった!!



「にゃっちぃぃいいいい!!」



 へっ。


 ざまぁみろってんだ。



「も――嫌!! 何で四回も熱湯を浴びなきゃいけないの!!」


「あんたが悪いっ」



 恐ろしく速い犬かきで戻って来たルーにそう言ってやった。




「まぁ、レイド様は嘆きの壁では満足しないでしょうねぇ」



 この蜘蛛野郎……。一度懲らしめてやろうか??


 ここで暴れるのも気が引けるし、それに余計に疲れるのもアレだし。


 優しいマイ様は敢えて聞こえないフリをしてやった。



「はぁ――。でもさ。レイドは、胸の大きさは気にしないって言っていたぞ??」



 ユウが気持ち良さそうにふぅっと息を吐き、見ようによっては淫靡にも映る可愛い御顔でそう話す。



「本当!? やった!! じゃあ私の艶々でふっくらした肌を見てもらおっと!!」



 ユウの下らねぇ発言を聞くと、お惚け狼が颯爽と湯から出て行く。



「ちょっと!! それは私の役目ですのよ?! 抜け駆けは許しませんわ!!」



 それを追うように蜘蛛も慌てて湯から出て行きやがった。


 へっ、おとといきやがれってんだ。



「マイ――。あの二人追わなくていいのぉ??」


「その目を止めろ。別にいいんじゃない?? 誰の肌を見ようがアイツは気にもかけないでしょ」



 何んというか……。


 私達の外見に対して、そういった目は持っていないような気がする。純粋に人の内面を重視する野郎だし。



「はぁん?? 随分と余裕ですなぁ――??」


「馬鹿な事言って無いで湯を楽しみなさいよ」




 夜空に浮かぶ月を何とも無しに見上げた。


 暗闇に浮かぶ薄い青色の光を見ると心に滲みてくるようだ。


 いつまでも入浴していられる。そんな雰囲気にゆっくりと息を漏らす。



「はいはい。しっかし……。気持ちいいなぁ」


「あぁ。疲れが流れ出る様だ……」


「えぇ。暑さに弱い私ですが……。このままずぅっと浸かって居られそうですよ」





「「「「ふぅぅぅ――――……」」」」





 私達四人は同じ長さの溜息を漏らし、漸く大人しく湯を享受するに至った。


 やっべぇ。


 無限に浸かっていられそうね……。


 自分でも気付かない内にそれだけ疲れが溜まっていたのでしょう。


 体と頭がフニャフニャに溶けるまで浸かろうっと!!



 お湯に体を預けてぷかぁっと浮いて漂っていると、ユウの西瓜に頭が接岸。


 ついでだし。


 枕代わりにしようとしたのだが……。あの隙間に挟まれたら生きては帰れないので慌てて出航。


 お化け西瓜とある程度の距離を置いて気の合う仲間達と心行くまで最高な時間を満喫したのだった。



 


最後まで御覧頂き、有難う御座いました。


本日も寝苦しい夜になりそうですので、水分補給を怠らない様に気を付けて下さいね。

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