第六十八話 快適な休暇は環境次第
お疲れ様です。
本日の投稿になります。
それでは御覧下さい。
大陸に広がる森のそれよりも少しだけ背の低い森に足を踏み入れると、想像した以上の涼しさに驚いてしまう。
海に囲まれ、四方八方から入って来る風が島の温度を低下させているのだろう。
この気温は俺の背中で今も嘯く声を放つ者にとって最良な環境であろうさ。
「ウ゛ゥ……。気持ちわりぃ……」
「ユウ、夜営地が設営出来そうな場所が見つかるまでもう少しの我慢だぞ」
上陸後。
船酔いが治らない彼女を砂浜に放っておく訳にはいかず、こうして背負って運搬しているのですが……。
彼女が持つ肉厚がちょいと余計ですね。
背中越しでも十二分に柔らかさを感じてしまっていますので。
「へ、へへ。悪いね……」
「気にするなって」
地面から根が突き出していたり、落ち葉が進行を妨げるかと思いきや。
森の中は薄っすらと小さな草々が生えている程度で快適な進行速度を保てている。
強い日差しから体を守る為、この木々の存在はありがたい。
「ちょっと。温泉はどこにあるのよ??」
珍しく荷物を運搬するマイが俺とユウを交互に見つめながら話す。
「温泉は……。確か南の砂浜から北上した位置にあると思うけど。後で地図を確認しようか」
「ふぅん。じゃあ、適当に荷物を置いて。散歩がてらに探して来るわ」
それは悪くない案だな。
この島の地理を把握しないで散策するのも悪くは無いけども、夜営地周辺の地理程度は把握しておきたいからね。
「散歩がてらじゃなくて。腰を据えて捜索しろ」
「へいへい。美味い飯の為に頑張るとしますかね――」
口ではそう言うものの。
何故、背嚢を背負いながら釣り竿を振るのですか??
設営に掛かる時間はかなり掛かりそうだし。今日中に海に出掛けて釣りは無理そうだよなぁ。
夜営地の完成はざっと見繕って……。
夕方か。
それまでには背中の女性の船酔いも治るでしょう。
「お?? 開けて来たぞ??」
砂浜から暫く、と言っても十分程度だが。
背中に衝撃を伝えない速度で歩いていると森の中に開けた空間が現れた。
丁度十メートル四方程度だろうか。
上空から降り注ぐ日差しも木々の枝から伸びる葉によって遮られ、空間から吹き抜ける風が程よい心地良さを与えてくれる。
うん、此処なら全員が足を伸ばして休めるだろう。
「よし、ここを夜営地としよう。皆、荷物降ろして良いぞ」
「はぁい!! よいしょっと!! ん――、空気が気持ちいい!!」
ルーが荷物を降ろすと早速狼の姿になり、此処は私の縄張りだと主張せんと豪快に地面へと寝転ぶ。
臭い付け、だろうか??
俺達以外に誰もいないし、無意味な行動じゃないのかな。
まぁ、癖みたいなもんか。
天幕の中でも無意味にゴロゴロしているって聞いたし。
「あぁ、空気も澄んで人も居ない。ここでなら寛げそうだ」
リューヴもこの場所を大層気に入ったのか。ルー同様狼の姿になると、両前足をぐぅんと伸ばしていた。
「ユウ、休んでて良いからな?? 夜営の準備は俺達がするから」
「め、面目ない……」
横着なお肉を持つ彼女を草の絨毯に寝かせてあげる。
すると大分気分も落ち着いて来たのか呼吸が深く、ゆっくりに変わる。
目元の青さも健康的な色に戻って来たし、ここの日陰と風が気分を良くしたんだな。
「さて!! 今から夜営の準備をする訳だが……」
最初の指示を与えようと威勢の良い声を上げて振り返ると。
「私は何をすればいいの!?」
逸る気持ちを抑えきれないのか。
大きな狼さんが俺の肩に前足を乗せ、大人の頭を余裕で噛み砕ける口を此方の顔に近付けてしまった。
楽しそうなのは結構なのですが、その……。
獣臭が、ね??
「地図はあるけども、島の詳しい地理は判明していない。従って、快適な休暇にする為に班を分けたいと考えている。一班はこの周辺を捜索して地理の把握、もう一班は夜営の設置の準備だ」
ずっしりと圧し掛かる前足を肩から外して話す。
「ふむ。悪くない案ですね」
よし。
賢い海竜さんの御墨付を頂けたぞ。
「私は捜索班に入るわ」
「私も――!!」
「主、私も捜索に出よう」
機動力に長けたこの三人なら任せても大丈夫だろう。
「よし、それなら三人には捜索を任せるよ。そして……。これが地図だ」
荷物の中から地図を取り出し。
えっと……。
「リューヴ、ちょっとこっちに来てくれ」
この三人の内、安心して地図を渡せられるのは彼女ですからね。
「先ずはどっちに向かおうかな??」
「適当に進めば何か見つかる!! 私の直感はそう言っているわよ!?」
「え――。流石にそれはちょっとぉ」
「隊長命令よ!! 下っ端なのあんたは従う義務があるの!!」
もう既に嫌な予感がしない会話を続ける二人を他所に、冷静な彼女へ地図を広げて大雑把な捜索範囲を指定した。
「現在、俺達はこの近辺に居る」
地図上。
南側の砂浜から少し北上した森の位置を指す。
「温泉は此処から向かって北側にあると伺ったから先ずはそこから捜索してくれ。そして……。翌日に備えて西、若しくは東側の岩礁近辺を捜索してくれるかな??」
釣りの事で頭が一杯の人が居ますし。
それに備えて地理を把握しておいても悪くは無いだろうさ。
「了承した。では、地図を預かろう」
「リューヴが頼りだからな?? あの二人が暴走しないように監視の目を光らせてくれよ??」
人の姿に変わった彼女の肩をきゅっと掴み、心の声をそのまま伝えてあげた。
「あ、あぁ。分かっている……」
「リュー!! 行くよ――」
「先ずはぁ……。海へ向かうわよ!?」
「あの二人を御すのは一苦労だな」
頬をぽぅっと桜色に染めて騒ぐ二人を見つめる。
「あはは。面倒事を押し付けてごめんね??」
「構わん。ルー、マイ。先ずは北へ向かうぞ」
肩をグルっと回し、全身の筋力を解しつつ北の方角へと進み出す。
「はいはぁ――い。マイちゃん、北だって――」
「ふぅむ……。アリっちゃ、アリか。だけど!! 私が先頭だからね!?」
「ふんっ。私の足に付いて来れるかな!?」
腰を深く落とし、下腿三頭筋に力を籠めるとそのまま森の奥へと駆けて行ってしまった。
「ぬぅ!? ま、待てい!! 私が先頭なのよ!!」
「あははは!! 皆、いってきま――っす!!」
灰色の髪の女性を追って駆けて行く深紅の髪の女性と、大きな狼さんか。
あの速度ならあっと言う間に捜索を終えそうだ。
その前に。
此方は此方で仕事を片付けますか!!
「頼んだぞ――」
三人が森の中に姿を消すのを見送り、夜営の準備に取り掛かった。
「レイド様、私は何をすれば宜しいでしょうか??」
「先ずは寝床を確保したいから……。荷物から天幕を取り出して寝心地の良い場所に敷いて。支柱を設置する時は手伝うから」
「畏まりましたわ」
「レイド。私は何をすればいい??」
「カエデは……。水の確保かな。この鍋と水筒に水を溜めて欲しいんだ」
「分かりました」
さてと……。俺は夕飯の準備だな。
痛み易い物から処分して行こう。火はここの空間の中央で灯して、夜になるとそれが証明代わりになるだろう。
今日は簡単に野菜のスープと、カエデが冷凍してくれたお肉を解凍して……。
本格的な魚料理は明日以降に持ち越しだ。チンタラ作業と続けていたら日が暮れちまうよ。
既に傾き始めた太陽に急かされる様に。
「うぅ――。まだフワフワするぅ……」
唸り続ける一名を除いて、残る三名で準備を進めた。
◇
土の香りとちょっとだけ磯の香りが含まれた風が頬を駆け抜けて行く。
耳に届くのは風を切る音と、私の直ぐ後ろで駆け続けている二人の足音のみ。
本当に気分が良い!! こんなに静かで、空気が美味しくて……。
自分でも気分が高揚しているってのが理解出来ちゃう程に心がワクワクしてしまい、知らず知らずのうちに足を速めてしまう。
人が多い街も好きだけどやっぱり私はこうやって自然に囲まれている方が好きかも。大地を踏みしめると土の感触が足に伝わり、新鮮な空気を大きく吸えば心の中まで洗われるようだ。
レイドも粋な場所に連れて来てくれたよね――!!
後で顔をペロっと舐めて御礼をしてあげようかな??
『ありがと――!!』 ってね!!
あぁ、でも。
狼の姿だとレイドちょっと嫌そうな顔しているからぁ……。いっその事、人の姿でペロって舐めちゃう!?
ふふふぅ。
今年の夏はちょっと大胆になってもいいのだっ!!
大胆な夏の姿が悪戯に頬を温めてしまっていると、後ろからマイちゃんの声が届いた。
「ちょっと。先行し過ぎよ」
「あ、ごめん。でもマイちゃん凄いよね。狼の私と並走出来るなんて」
私はマイちゃんの足の速さに素直に驚いてしまった。
だって人間の姿で私の後に付いてくるんだよ?? 体が小さい分、小回りがきいて足が速いのかな。
後!! お胸も小さいから風の抵抗を受けないんだ!!
これは勿論言いませんっ。
言ったら絶対ぶたれちゃうもん。
「これくらい楽勝よ。ま、一応付与魔法は使っているけどさ」
「へぇ。リューヴとどっちが速い??」
私は気になっていた事を聞いてみた。
前の戦い、レイドの相手をしていてあまり見られなかったからなぁ。
あの時のレイド……。優しかったな。まだ彼の優しい手の温もりを覚えているよ。
「当然、私よ」
「愚問だ。私に決まっている」
二人が同時に声を上げて主張を始め、そして視線がぶつかると火花が宙に飛び散ってしまった。
「ちょっと、リューヴ。どこに目をつけているのよ??」
「マイ、誇張は良くないぞ。事実をありのまま話すべきだ」
あちゃ――。
この二人に、この話題は駄目だったなぁ。
鎮火させよ――っと。
「喧嘩はお終い!! 二人共同じくらい速いって事で!!」
場を和ます為に二人の間に割って入る。
このままだと捜索をする前に戦いが始まりそうだよ。
「ふんっ。んん?? この匂い……」
マイちゃんがクンクンと鼻を嗅ぎ周囲を見渡す。
「ちょっと違う匂いがするねぇ」
私も嗅覚に意識を集中させると森の香りとは別の物を感じ取った。
「こっちだな……」
それはリューヴも同様で?? 匂いの元を辿ろうと歩み始める。
「何、この匂い。卵が腐ったような……」
「そうだねぇ。ちょっと刺激が強いかも」
それは北へ歩みを進めると徐々に強くなってきた。
これ以上集中して嗅いでいたら鼻が取れちゃう。
私は意識を薄め、漂う匂いを少しだけ受け取るようにした。
踏み心地の良い土の上をお散歩気分で進んでいると……。
「おぉ!!!! 見つけた!!」
マイちゃんが前に広がった茂みをかき分けると、目の前に大きな温泉が現れる。
それは円状に広がり透明な湯は今も蒸気を上げ、見付けた私達を祝福しているようであった。
随分と汚れて黒ずんだ石が敷き詰められ、奥側の温泉からはブクブクと泡が出ている。
きっと向こうの方が源泉だから、浸かるとしたらこっち側だよね。
緑の森と白濁の湯。
珍しい配色に思わず魅入ってしまった。
「綺麗だね!! ちょっと足を入れようかな……」
温泉の淵に座り前の足をゆぅぅっくりとお湯に向かって伸ばす。
火傷したら困るもん。
「ルー。どうだ??」
背後からリューの声が届く。
「うん!! 丁度いいよ!! 熱くも無いし、冷たくも無い!!」
足でちょいちょいっと掻き回すと、私のあんよは合格点を叩き出してくれた。
サラサラしていて、丁度良い温かさ。お湯から足に伝わる感触が心地良い……。
「へぇ……」
「そうか……」
何?? 二人の声が何やら怪しい雰囲気を醸し出している気がする。
足をお湯から抜いてその真意を確かめようとしたのだが……。
次の瞬間、私の視界は水の中を覗いたように歪んでしまった!!!!
「きゃぁっ!?」
それもその筈、二人が私の背中を押して無理矢理湯の中に入れたのだ!!
口から、鼻から湯が入って来て目を白黒させてしまった。
「ちょっとぉ!! 濡れちゃったじゃん!!」
も――!!!!
怪しい雰囲気はこの為だったのか!!
「あはは!! ごめんごめん。いい湯なんでしょ?? じゃあ入っても別にいいじゃない」
「ふふふ、そうだぞ。私達はその手助けをしてやったのだ」
せめて一言二言伝えてくれても良いじゃん!!
勝手に人の背中を押しちゃ駄目って習わなかったのかな!!!!
「もう……。びちゃびちゃだよ」
湯から上がると体を大袈裟に振ってやる。
毛に着いた水滴をこれでもかとマイちゃんに掛けてやった。
「つめたっ!! もっと遠くでやれや!!」
「知らない!!」
ふんっ、小さな仕返しだよ!!
しっとり艶々になった毛の水滴を舐め取りながら温泉の向こう側へ、何気なぁく視線を送ると。
こっちの木々とは違う形の木が生えていた。
ん?? あっちの茂みはこっちと違って竹藪なんだ。
温泉を境に生えている木が変わっているね??
「ねぇ、あっちの木は竹藪だね??」
マイちゃんの小振りなお尻をちょいちょいと突いて話す。
「ん?? そうみたい。どうしたの?? 何か気になる事ある??」
「ううん。この温泉を境に変わっているなぁって」
「本当だな。少し見てみるか」
リューヴが温泉の淵を沿うように歩き出して、向こう側へと進んで行く。
しめた!!
これは復讐の好機!!
「ちょ、ちょっと気になるよね――」
私はしれっとリューの隣を歩き、今か今かとその機会を伺った。
「ほぅ……。特に変わった様子は見られないが……」
リューが竹藪に到着すると、竹の根本を注意深く観察する為。地面にしゃがみ込んだ。
おぉぉぉ!! 好機到来っ!!
今だ!! 食らえ!!
私はリューの横腹目掛け、猪さんも頷いてくれる速度で突撃を開始した。
「てぇぇいっ!!」
「……。甘い!!」
「へ?? わぁっ!!」
当たると思った刹那。リューの体は目の前から消えていた。
代わりに迎えたのは再び丁度いいお……。
じゃない!! こっちは源泉に近いんだ!! 毛を通り越して滅茶苦茶な熱さが伝わって来た!!
「あっつ――――い!!」
急いで湯から上がり四方八方へ水分を飛ばす。
「あっつぅ!! お惚け狼!! こっちまで熱湯を飛ばすな!!」
「それどころじゃないもん!!」
「忙しい奴め」
はぁ……。
危なかった。もう少しで茹で蛸になる所だったよ……。
「リューヴ。変わった所ある??」
注意深く観察を続けるリューの背後からマイちゃんが話しかける。
「いや。普通の竹藪に、普通の竹だ。しかし、…………。季節外れの筍が生えている」
「筍ぉ??」
マイちゃんが怪訝な顔を浮かべ、リューの隣に並んでしゃがみ込んだ。
「ちょっと!! 私も見たい!!」
「押すな馬鹿!!」
マイちゃんの小さな体を押し退け、黒茶色の地面を覗き込むと……。
「おぉ。筍さんだ」
本当だ。
地面から少しだけ筍が頭を出していた。
変だな?? 筍はもっと早い時期……。そうだ、春に良く見た気がするね。
「筍って春先に出て来るんでしょ??」
「いや、出るのは珍しくないがこの成長はおかしい。まるで新芽だ」
リューの言う通りだ。
夏に見かける筍はもっとおっきかった筈。
「何でだろうねぇ??」
この筍さんは仲間外れなのかな??
「さぁ?? 温泉も見つけた事だし。次は釣り場を探しに西へと向かうわよ!!!!」
「え――。今から行くの――?? レイド達の所に戻ろうよ――」
ユウちゃんは倒れているし、レイド達はきっと忙しくて大変だから手伝ってあげたいもん。
「喧しい!! 空っぽの頭のアンタは隊長である私の命令を聞いていればいいのよ!!」
「マイちゃんだけには言われたくないなっ」
カエデちゃんやアオイちゃんに比べるとマイちゃんの頭の中は随分と空っぽだからね。
いや?? すっからかん??
「んだとぉ!? 隊長の命令を聞けねぇ奴は……。こうだっ!!」
「わぁっ!!!!」
マイちゃんが私の胴体を掴んで持ち上げると……。
再びお湯の中に入れようとするではありませんか!!
「二度目は嫌っ!!」
「ぬぅっ!?」
人の姿へと変わり、腕から逃れ。
「とぉ――っう!!!!」
フニフニのお尻をパチン!! と叩いてお湯の中へと突き落としてやった!!
「ぎぃぃぃぃやぁぁ!! あっちぃぃいいいい!!!!」
髪の毛も真っ赤だし、顔も真っ赤になって白濁のお湯から出来たね!!!!
「あはは!! ぜぇんぶ真っ赤だよ!!」
「こ、こ、このお惚け狼めぇ!! 許さんっ!!」
マイちゃんが龍の姿に変わると恐ろしい瞳を浮かべ何んと……。私の胸に噛り付くではありませんか!?
「いったぁぁぁぁああい!! 止めて!! 取れちゃう!!!!」
「ふぁなさいふぉ!! なまいふぃにそだちふぁがってぇ!!」
い、痛過ぎるぅ!!
か、か、かくなる上は!!!!
「放さないとぉぉ。こうだ!!」
「ほっ!?」
ずんぐりむっくり太った雀さんを胸に抱き、白濁のお湯へと飛び込んでやった!!
「「あっつぅぅぅぅぃぃいいいい!!!!」」
胸の痛みは取れたけど、またあっつい湯が襲い掛かって来た!!
「あっつ、あっつ!! 肌が焦げちゃう!!」
地面に登ると同時に狼の姿に変わり、プルプルと体を振って熱湯を弾き飛ばす。
「こ、この馬鹿野郎め!! 何考えてんのよ!!」
マイちゃんも龍の姿に変わると空中で私と同じ動きを取って、アツアツの液体をしっちゃかめっちゃかに飛ばしていた。
「馬鹿か?? 貴様等は」
私達の姿を傍観していたリューの一言に、流石の私もカチンっときてしまった。
「マイちゃんの所為だもん!!」
「てめぇがわりぃんだろうが!!」
マイちゃんが人の姿に戻ると、右手で私の頭をバチンと叩く。
「いった!! お母さんに他人の頭を叩いたら駄目って習わなかったの!?」
「あぁ、習っていないね!! 好きな様に暴力を振るえって習ったのさ!!」
「マイちゃんはぼ、ぼう――……」
何だっけ。
好き勝手に振る舞う人って。
「ねぇ、好き勝手に暴れ回る人の事って何て言ったっけ??」
「聖人君子よ」
ぜっっっったい嘘だし!!!!
大体、それはマイちゃん視点から見ればの話しでしょう!?
もうマイちゃんの言う事は金輪際聞かない事にしよう!!
「二人共、西へ向かうぞ。地図上では東の海よりも西の海の方が近いからな」
私達の乱痴気騒ぎに飽きたのか。
リューが静かに森の奥へと進み出してしまった。
「あぁ!! 私が先頭を歩くの!!」
「この際、五月蠅くしなければどうでもいい……」
あはは……。
マイちゃんの五月蠅さに、遂にリューも降参しちゃったよ。
「筍さん、じゃあね――!!」
筍さんに別れを告げ、項垂れるリューの背後に続いた。
まぁここが珍しい場所だからあの筍も珍しいんだよね??
良く分からないけど。早く帰って体を拭かなければ……。風邪なんか引いたら折角の休みが台無しだもん。
あ、でも私風邪引いた事ないから大丈夫か!! 早くレイドに報告しよ――っと。
太陽さんが傾き始めた方向へ向かいつつ、未だ見ぬ海岸へ期待に胸を膨らませて進んで行った。
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