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第六十七話 いざ行かん!! いわくつきの島へ!! その一

お疲れ様です。


日曜日の夕方にそっと投稿を添えさせて頂きます。


それでは御覧下さい。




 強烈な日差しになるであろうと予想出来る朝日が青く澄み渡った空から人で溢れかえる通りに降り注いでいる。


 ある人はそれを良好と捉えて優しい笑みを浮かべて空を見上げ、またある人は恨めしくも感じるのか。


 飼い主に大好きな玩具を取り上げられて、何処にもぶつけようの無い憤りを現した飼い犬みたいな顔を浮かべていた。




 早朝の為、人通りは少ないと思われたがそんな事は無かったな。


 恐らく、漁で獲れた魚を早くから売っているのでそれを目当てにする客であろうさ。


 店の前で腕を組み難しい顔をしている男性、目当ての魚を値切ろうと躍起になっている女性。


 そして、魚を掠め取ろうと鋭い目を光らせている猫が昨日と場所で店主の隙を窺っていた。



 あの猫、今日も居るよ。


 きっとこの街で味をしめたに違いない。野良猫の割に割腹が良いのがその証拠だ。





「いらっしゃい!! 朝一番で獲れた魚だよ!! 新鮮ピチピチ!!」


「どの店にも負けない安さがうちの売り!! さぁさぁ寄っていってくださぁ――い!!」



 左右の通りの店から飛び交う店主達の威勢の良い声がまだ朝の余韻の残る体を活性化させてくれる。


 行き交う人達の顔も何処か朗らかで出発の日に相応しいものであると確信したが、狼さんはこの人通りに否定的な考えの様です。



『人が多いな……』



 リューヴがあからさまに怪訝な表情を浮かべていますのでね。



「俺が先導するから後ろについて来て」



 隣で歩いているリューヴに声をかけて。そして、そのまま人波を掻き分けるように前に立って歩いた。



『すまぬ、主……』



 人の雑踏に消え入りそうな声が届く。


 やはりまだ苦手なんだな。


 昨晩の寛いだ姿勢は何処へ。尖っている眉が更に尖り、硬い西瓜の外皮に突き刺さりそうですよ。



『食料班の人達は大丈夫でしょうかね』


「まぁ――……。アオイが居るし。大丈夫だとは思うんだけど……」



 素晴らしき宿に別れを告げる前。


 東から差し込む素敵な朝日が差し込む居間で無人島へと運ぶ物資を調達する班分けを行ったのだ。



 食料班は、狂暴な龍と快活な笑みが良く似合うミノタウロスの娘。陽気な狼と狡猾な蜘蛛さんとなった。


 俺とカエデとリューヴは生活雑貨班。


 必要な物を粗方買い終え、出発口である港へと向かっている最中なのです。



『此方は普段の物資に少し買い足す位でしたから。そこまでの量にはなりませんでしたね』



「それでも七人分の物資だ。よいしょっと……。三人で運ぶには多いよ」



 パンパンに膨れ上がった背嚢を背負い直し、それ相応の重量を誇る木箱を持つ手に力を添えた。



「カエデ、リューヴ。重かったら持つよ??」



 彼女達も俺と遜色ない姿で夏の陽射しを受けて額に汗を浮かべていますので。


 こういう時こそ男の子の出番なのです。



『これしきの事。苦にならん』


『右に同じです』



 リューヴは兎も角、カエデの場合は彼女の膂力に負けないと張り合っているからなぁ。



『ふぅっ……。暑い……』



 彼女のそれよりも汗の粒が多い事が何よりの証拠です。



 通行人達のお邪魔をしないよう、且。直ぐ後ろに続く両名の道を確保しつつ港へ続く分岐点に到達した。




『おっせぇ!! 早く来いやぁ!!』



 そして、此方を見付けるなり。うら若き女性が放つ言葉だとは思えない言葉を浴びせられてしまいました。



「そっちは随分と早かったんだな??」



 温かぁい感情でフツフツと湧く憤りを優しく包んだ声色で話す。



『ふふんっ。昨日の晩御飯を買う時に粗方の目星は付けておいたのよ』



 鼻高々にフフンっと鳴らし、腕を組んで俺を見上げる。


 たった一日で店の配置、並びに質を見極めるその選別眼は正に天晴。


 しかし、しかしだよ??



「買い過ぎだと思わなかったのか??」



 お馬鹿さんの背後には彼女の腰程度まである高さの木箱が三つも積まれており、その高さは食いしん坊の背を追い越していた。


 その脇に置かれているもうお腹が一杯です!! と膨れ上がっている大きな麻袋には恐らく大量の米が詰められているのだろう。



『安心しなって。あたし達が色々買い揃えていたら店主達が美人割だ――とか。在庫処分だ――とかって割引してくれたからさ』



 ユウの言葉に思わず頷き掛けるのだが……。


 実際の値段を聞くまでは予断を許さない状況にある事には変わりない。




「……」

「……」



 どうだ?? 私が!! 買い揃えたんだぞ?? と。


 あからさまに挑発的な意図と態度の横着者と睨み合っていると、アオイがススッと此方に耳打ちを開始した。




「レイド様ぁ。御安心下さいまし。お値段はあの木箱三つで計一万ゴールドで御座いますわぁ」



 やっっす!!!!


 肝が潰れる程、やっっす!!




「嘘でしょ!? あれだけ買って一万だなんて……」



 あまぁい囁き声から耳を離すと同時に心の声が直に口から出てしまった。



『だから言ったでしょ?? 割引して貰ったって。しかも!! 既に蜘蛛が腐り易い物を凍らせ、準備完了!! 後は出発するだけなのよ!!』



 さぁ、我を喝采せよ!!


 そう言わんばかりに両手をバッ!! と広げた彼女を無視し。




「じゃあ、皆。港へ行こうか。ロブさんが待っているだろうし」


「だな――。ルー、木箱一個持って」


「えぇ――……。さっきも私持ったじゃん」


「お前さんは一つでも、あたしは二つ運ぶんだよ」



 一堂が日常と変わらぬ速度でその場から去って行く。


 そして、この態度が彼女の逆鱗に触れてしまったようです。






『――――。小指、貰ったぁぁああ!!!!』


「いっでぇぇええ!!」



 コ、コイツ!! 荷物で前が見難いのを良い事に、俺の爪先を踵で思いっきり踏んづけやがったな!?



「何すんだよ!!」


『ちぃぃ……。粉砕には至らず、か』



 本気で取りに来た様だな。


 小指から痛みの衝撃が体の中を抜けて行ってしまいましたので……。




『ねぇ――。今から向かう島って、い、いわぁ……。岩尽くし??』



 その島に岩は沢山あるとは思いますけど、言いたい事がちょっと違うよね。



『いわくつきです。岩ばかり提供されるお店では堪ったものではありませんよね』



 あ、そっちの意味もあったか。


 海鮮尽くしの夕食を摂った御蔭か。今日のカエデはいつもより気分が高揚している様だ。


 間違いを訂正する一言に装飾を加えましたので。




『おぉ!! それそれ。人が入っていないからさぁ、静かで綺麗な事はある程度分かっているんだけどぉ――……』



 まぁ、ルーが完璧に乗り気じゃないのも理解出来るよ。


 俺も完全完璧に楽しもうって気分じゃあ無いし。


 勿論?? 高揚感はありますよ??


 その強い光でも消し去る事が出来ない闇の存在が厄介って話だ。



『呪われているかも……。しれませよね??』



 カエデさん、怖い話が大好きな貴女ですが。


 この中にはそういった類の話が苦手な女性が居ますので、おどろおどろしい声色で話さないの。



『カエデちゃん、洒落にならないから止めてよ……』



 ルーがカエデの冗談に分かり易く眉を垂らす。



『ここまで来たんだから覚悟を決めなさいよ。女々しいわねぇ』


『あ――ひっどい。マイちゃんまでそんな事言うの??』


『ははは、心配するなよ。あたしの力で呪いなんてイチコロさ』



 ユウの怪力を披露したらきっと呪いも尻尾を情けなく垂らして逃げ遂せるだろうな。



『すっごっ。どうやったらこんな風になるの??』



 木箱を持つ手の小指を器用に動かし、指先でユウの腕を突っついている。



『ん――?? 飯食って、動いて、程よい睡眠をとったらこうなったぞ??』


『ほほぅ。私ももっと御飯食べないと!! そうすれば、ユウちゃんみたいにおっぱいも大きくなるんでしょ??』



 い、いやぁ。それは流石に無理があるのでは無いでしょうか??


 彼女のアレは規格外ですので……。




『勿論だ!!』


『そんな訳あるか!! ユウの場合は親から譲り受けた物よ。ユウの母ちゃんもびっくりするくらい大きかったし』



 フェリスさんか。


 マイの言う通り、確かに大きかったな……。



『ふぅん、私達のお母さんは普通だからなぁ……。望み薄か。 ねぇ!! リュー最近おっきくなった!?』


『はぁ?? 何故そんな事を聞く??』



 珍しく上擦った声のリューヴの方に視線を向けると、下らない質問をするなと辛辣な顔色を浮かべていた。



『だってさぁ。ほら?? 最近レイドの事ばかり見てるもんねぇ??』


『な!? 何を言う!! 私は只、主に危険が及ばないか確認をしているだけだ!!』


『真っ赤になって反論する事が怪しいなぁ……』


『そこの狼さん?? 私のレイド様に対し、色目を使って見つめるのはお止めになって下さいまし』


『色目等使っておらん!! 第一、私と主は主従関係の身。それ以上でもそれ以下でもない』


『じゃあそれ以上は求めないと……??』


『…………、あぁ。勿論だ』


『何!? 今の間は!! やっぱりリューってムッツ……』




 キャピキャピと騒いでいる所申し訳ありません。


 リューヴの顔が沸騰してしまいそう、それに加え。件の港が見えて来たのでそろそろ気持ちを切り替えて下さい。





「そこまで。皆、着いたぞ」



 先日お邪魔した酒場を通り過ぎると大分人通りも少なくなり、代わりに険しい表情をした漁師達の姿が目立つようになる。


 彼等の仕事の邪魔にならぬ様に道の端を進みつつ、先日ロブさんから受けた言葉を思い出す。



 確か、船着場に来るように言われたよな??



 続々と後方に流れていく船には彼の姿は見当たらず、物珍し気に此方へと視線を送り続ける漁師さん達の中にも見当たらない。


 まさかとは思うけど、渡航費だけを受け取って姿をくらますとか勘弁してくれよ??



 慎重に歩みを進め、注意深く周囲を観察していると。良く晴れた日に似合う褐色の肌が見えて来た。




「お、いたいた」



 大小様々な帆船が並ぶ中、港の一番く奥で彼が出航の準備を行っている姿を確認出来た。



「おはようございます!!」



 この晴れ渡った空に相応しい挨拶を彼の背中に掛けるが。



「あぁ……」



 俺達の姿を一瞥すると再び準備を続けてしまった。



 必要な事以外話したくないのかな??



 船はこの港に停泊する物と変わらぬ木造の帆船。今は畳まれている帆を一杯に広げれば風を受けて、大海原を進む。


 風の動きと、海流を読み後方から舵を取る。


 豊かな経験がモノを言う仕事なのだ。若い者を雇うよりも、彼の様な熟練者を選んだのは正解かも。


 広い甲板には俺達七人が乗っても余裕が出来る空間があるし。


 こりゃ快適な船旅になりそうだな!!




「荷物を載せても大丈夫ですか??」


「船の中央、甲板に乗せろ」


「分かりました。皆、聞いたか?? 荷物を乗せるぞ」



 では、乗船開始!!


 港の地面と帆船の船尾との間には僅かな空間が存在し、チラリと見下ろすと僅かに揺れる海水が確認出来た。


 帆船と地面。


 その間を繋ぐ木製の橋を渡り、湿った独特の音を醸し出す甲板上を移動し終え己の荷物を置いた。



『おっと、船と港の間。結構空いてるなぁ』



 ルーがおっかなびっくりの様子で船に乗り込む。



『落ちるなよ?? その中にはルー達が大好きなお肉が入っているんだから』


『ユウちゃん分かってるって――!! レイド――!! 此処でいい!?』


「あぁ、構わないよ」



 次々と積まれて行く荷物を何気なく眺めていたのだが。



『ねぇ、ちょっと』



 マイが此方の袖をクイクイっと引っ張るのでそちらへと視線を動かした。



「どうした??」


『向こうで釣りをしたいからさ。釣り竿ないか聞いてよ』



 釣り、ね。


 人が入らない島だからきっと釣り放題だろうな。


 食料を節約する為に良い考えかも。



「――。すいません、釣り竿って借りられますか??」



 係留用の太い縄を外し、忙しく作業をしている彼に話しかけた。



「船に数本置いてある。それを使うといい」


「ありがとうございます」



『船に置いてある奴使っていいって』



『お――。これかぁ。マイちゃんこっちにあったよ!!』


『おぉう!! これで魚は釣り放題ね!!』



 そんな浅はかな、そして強欲を全開にして醸し出す人に魚は釣れない仕組みになっているのですよ。


 良くしなる竹製の釣り竿を海に向かって投擲する構えを彼女達が取り続けていますが、それは無駄な行為になりそうですね。




「荷物は全て載せたか??」


「えぇっと……。はい、大丈夫です」



 周囲を見渡したが見落としは無い。全員無事に乗船し終え、紺碧の彼方を煌びやかな瞳で眺めていた。



「よし。乗れ、出航するぞ」



 彼が巧みな手捌きで帆を張ると。風を受け、大きく膨らみ船出の準備が出来た事を示す。



「出航だ」



 舵を取ると船は沖へと向かいゆるりと湾内を進み始めた。



『いざ行かん!! 未開の土地へ!! 未だ見ぬ世界が私を待っているのよぉぉ!!』


『お――!!』



 釣り竿を抱えたマイとルーが船首に立ち、ずぅぅっと続く青の彼方を指差す。


 分かり易く浮かれているなぁ。



 木箱に腰掛け、何とも無しにその明るい背中を見続けた。



『もう少し静かにしたら如何です??』


『これが黙っていられるかっての!! わくわくが止まらないわ!!』


『そうそう!! カエデちゃん!! 楽園が私達を待っているんだよ!?』



 先程までの不安は何処へ。


 頭上に光り輝く太陽の光を灯して若干呆れ顔のカエデを見つめた。



「到着までどれくらいですか??」


「……」



 ロブさんが目を細め、空を仰ぎ見て風と天候を確認。



「そうだな……。昼過ぎには到着する」



 随分と低い声で大まかな到着時間を告げてくれた。



『昼には到着するようだ。それまで大人しくしているように』


『了承した』



『リュー!! 格好つけていなくて、こっち来てよ!! 海綺麗だからさっ!!』

『五月蠅いぞ。燥ぎ過ぎて船から落ちるなよ』



『ユウ!! 御菓子取って!!』

『自分で取れ』




 ギャアギャアと騒ぐ者達から視線を外して青き海を見つめる。


 照り返す光が眼球を刺激し、頬を撫でる風が心を躍らせた。


 本格的な船旅は初めてだ。


 俺も彼女達と同じく心躍るものを感じている。


 冒険心、とでも呼べばいいのか。


 未知なる物を求めて旅立つのは男心を擽り気分を高揚させてくれるものだと、改めて理解してしまった。



最後まで御覧頂き有難うございます。



並びに!!


ブックマークをして頂き本当に有難う御座いました!!


暑さで執筆速度が落ちる中、嬉しい励みになりました!!



この勢いで後半部分の執筆、並びに編集作業を続けますので。もう暫くお待ち下さい。

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